【東本貢司のFCUK!】モイーズとモウリーニョ
2016.05.21 17:22 Sat
▽今シーズンも残すところ、イングランドおよびUK絡みではFAカップ・ファイナルと各昇格プレーオフのみとなった。個人的に故あってこの10日間前後、フットボール関連の動向・情報に断片的にしか触れられずに来てしまったものの、もちろんその間、重要な案件がいくつか発生し、あるいは“収拾の行方”を待つ状況にある。その一つがエヴァートンの新監督人事だが、ついこの数時間前、ブレンダン・ロジャーズのスコットランド・セルティック監督就任が発表されて、“予感”の範囲が絞られた感がある。つまり、セルティック新監督候補の一人に挙げられていたデイヴィッド・モイーズの「復帰の目」。もっとも現地メディアはまだその噂話すら話題にしていない。新オーナーに中国人実業家を迎えて2部から再出発するアストン・ヴィラが、モイーズの有力な再就職先として取りざたされているからだが、“おいしい話”をロジャーズにもっていかれたことがモイーズの負けん気に火をつけ、ならば「プレミアで(の復帰)」となる可能性は決して小さくないはず。
▽確かにモイーズの指導手腕はわずか10か月で追われたマン・ユナイテッドでの苦い記憶でケチがついた。が、少なくとも通のファンや専門ジャーナリズムの間で彼の評価が落ちているようには見えない。スペインでの“失敗”も、あくまで他流試合の有意義な体験として受け止められているようだ(ちなみに、このことは元々監督経験ゼロのギャリー・ネヴィルについてもそう変わらない)。つまり、成果や結果はどうあれ、他国リーグ経由(という経験)はめったに得られない有利性、エキゾティックなオーラとなる。穿った見方をすれば、外国人監督の招聘に通じるリフレッシュ効果が期待できるのかもしれない。あくまでも現在のエヴァートンとモイーズ双方の意向次第ではあるが、マルティネスが解任された今こそ“ぴったりのタイミング”なのではあるまいか。それに、もしもヴィラを率いて即プレミア復帰を果たせない場合、そこでこそモイーズの評価に傷がつく。あえて(ロジャーズと同じ)1年契約で古巣に喝入れを、というストーリーはけっこうイケるはずだ。
▽監督には「ハク」が要る。いや、できればそれが「ついてくる方がいい」と言い直そう。何よりも補強の際にその“違い”は想定以上にデカい。特に、異邦の助っ人獲得に当たって別格の効力を発揮する。だから、マン・シティーはグアルディオラを、チェルシーはコンテを招いた。シティーやチェルシーほど多国籍軍団化していないエヴァートンなら、モイーズの素性・経歴・足跡はおあつらえ向きではないか。いや、もしここでエヴァートンが異邦のそこそこ有名な監督を連れてきた日には、今やほぼドメスティックカラーの最後の砦の一角というべき「マージーサイドのブルーサイド」までもが、シティー/チェルシー/アーセナル化していきかねない。FCUKの管理人としてそれは何としても避けてもらいたい。思い出してほしい、マルティネスはただのスペイン人ではない。プレーヤー時代(ウィガンなど)からUKに根を下ろした“準・英国人”なのだ。誇るべき伝統は守られねばならない。どこもかしこも外国人オーナーの外国人監督では“母国”の名がすたる!
▽未定の、予断を許さない、それも重大な“場所”がもう一つある。マンチェスターの「レッドサイド」。一説には、というよりもほぼ共有認識として、たとえユナイテッドがFAカップを獲ったとしても(その可能性はかなりデカい)、ルイス・ファン・ハールの続投が安堵されることはない、というのが現在の空気。サー・アレックス勇退後初のタイトルは無論、プライドを取り戻すための収穫には違いないが、チャンピオンズ参戦が潰えてはファン・ハール失敗の烙印は免れないという。それについて現地メディアはこんな物言いをしている。「ファン・ハール続投を信じているのはこの世にただ一人、ファン・ハール自身だけだ」。それもやむなしと感慨にふける筆者は、ならばこの際、監督人事にもトラディショナル志向を願う、いや、夢見てしまう・・・・すると、どう考えてもギグスしかいないのでは? 折しもラシュフォードという生え抜きの新星が登場し、一抹の疑問符はついても同じくアカデミー出身のヤヌザイも戻った。今がその“チャンス”だと思うのだが?
▽大方の思惑、予感、期待は、それでも「ジョゼ某」だろう。しかし、モウリーニョがこれまでの自己流を貫くのであれば、それはどう転んでもユナイテッド流にそぐうとは思えない。そう、ネオ・チェルシーが生まれるだけだ。ただ、かすかな、針を通すような希望はなくはない。ヒントは目の前にある。レスターだ、ラニエリ。ラニエリは以前のラニエリではなくなった結果、望外の成果をもたらした。ならばモウリーニョも「心を入れ替えて」くれたら面白いストーリーが描けるのではないか。まったく異なる世界が拓けるのではあるまいか。あくまでも極端な例えだが、モウリーニョ率いる「純国産(ホームグロウン制度に則った意味での)中心のユナイテッド」なんてのはどうだ? なんと魅力的なチームに変身、もとい、復活する気がしないか? それなら、ごく当たり前にギグスが引き継ぐよりも、いやいつか来るその日を見据えたお膳立てとして、願ってもない再出発が期待できるのでは・・・・などと思ってみたりもする。さてさて、時代はどう動いていくだろうか。
【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】
1953年大阪府生まれ
青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。
▽確かにモイーズの指導手腕はわずか10か月で追われたマン・ユナイテッドでの苦い記憶でケチがついた。が、少なくとも通のファンや専門ジャーナリズムの間で彼の評価が落ちているようには見えない。スペインでの“失敗”も、あくまで他流試合の有意義な体験として受け止められているようだ(ちなみに、このことは元々監督経験ゼロのギャリー・ネヴィルについてもそう変わらない)。つまり、成果や結果はどうあれ、他国リーグ経由(という経験)はめったに得られない有利性、エキゾティックなオーラとなる。穿った見方をすれば、外国人監督の招聘に通じるリフレッシュ効果が期待できるのかもしれない。あくまでも現在のエヴァートンとモイーズ双方の意向次第ではあるが、マルティネスが解任された今こそ“ぴったりのタイミング”なのではあるまいか。それに、もしもヴィラを率いて即プレミア復帰を果たせない場合、そこでこそモイーズの評価に傷がつく。あえて(ロジャーズと同じ)1年契約で古巣に喝入れを、というストーリーはけっこうイケるはずだ。
▽監督には「ハク」が要る。いや、できればそれが「ついてくる方がいい」と言い直そう。何よりも補強の際にその“違い”は想定以上にデカい。特に、異邦の助っ人獲得に当たって別格の効力を発揮する。だから、マン・シティーはグアルディオラを、チェルシーはコンテを招いた。シティーやチェルシーほど多国籍軍団化していないエヴァートンなら、モイーズの素性・経歴・足跡はおあつらえ向きではないか。いや、もしここでエヴァートンが異邦のそこそこ有名な監督を連れてきた日には、今やほぼドメスティックカラーの最後の砦の一角というべき「マージーサイドのブルーサイド」までもが、シティー/チェルシー/アーセナル化していきかねない。FCUKの管理人としてそれは何としても避けてもらいたい。思い出してほしい、マルティネスはただのスペイン人ではない。プレーヤー時代(ウィガンなど)からUKに根を下ろした“準・英国人”なのだ。誇るべき伝統は守られねばならない。どこもかしこも外国人オーナーの外国人監督では“母国”の名がすたる!
▽大方の思惑、予感、期待は、それでも「ジョゼ某」だろう。しかし、モウリーニョがこれまでの自己流を貫くのであれば、それはどう転んでもユナイテッド流にそぐうとは思えない。そう、ネオ・チェルシーが生まれるだけだ。ただ、かすかな、針を通すような希望はなくはない。ヒントは目の前にある。レスターだ、ラニエリ。ラニエリは以前のラニエリではなくなった結果、望外の成果をもたらした。ならばモウリーニョも「心を入れ替えて」くれたら面白いストーリーが描けるのではないか。まったく異なる世界が拓けるのではあるまいか。あくまでも極端な例えだが、モウリーニョ率いる「純国産(ホームグロウン制度に則った意味での)中心のユナイテッド」なんてのはどうだ? なんと魅力的なチームに変身、もとい、復活する気がしないか? それなら、ごく当たり前にギグスが引き継ぐよりも、いやいつか来るその日を見据えたお膳立てとして、願ってもない再出発が期待できるのでは・・・・などと思ってみたりもする。さてさて、時代はどう動いていくだろうか。
【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】
1953年大阪府生まれ
青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。
|