【原ゆみこのマドリッド】勝つためには仕方ない…

2016.05.03 22:35 Tue
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▽「もしや先週の写真を流用?」そんな風に私がキョトンとしていたのはスポーツ紙のサイトを開けた途端、ガビとフェルナンド・トーレスの顔が目に入ってきた時のことでした。いやあ、ミュンヘンでのCL準決勝2ndレグ前の記者会見記事がそろそろ出るんじゃないかと思って、探していていたんですけどね。確かにアリアンツ・アレナのプレスカンファレンスルームはちょっとした劇場のように広大で、ステージもやたら高い場所にあるため、小柄な選手では見栄えがしないのもわかるんですが、1stレグで出た2人がリピートするなんて、普通ありえなくない?

▽うーん、要は絶対ボコボコにされてしまうだろうと恐れていた先週水曜の試合を運良く1-0で乗り切った故の、ゲン担ぎだったのかもしれませんけどね。それに対してバイエルンの方は新顔のGKノイアーとハビ・マルティネスが登壇。前者など、「アトレティコはアリアンツ・アレナを知らない。それはウチにとってポジティブだ」と脅していましたが、大丈夫ですよ。ビセンテ・カルデロンで前日練習をする権利を放棄して、弟分チーム、ラージョのエスタディオ・バジェカスでアップをさせたグアルディオラ監督と違って、シメオネ監督は選手たちから、生涯、次の機会があるかもわからない、憧れの名スタジアムのピッチを体験するチャンスを決して奪ったりはしませんからね。

▽試合当日とは雰囲気が違っても、とりわけ日曜のマハダオンダ(マドリッド近郊)の練習場で、エル・パイス(スペインの一般紙)によると、シメオネ監督はMFがヘルプに着く前に、ファンフランやフィリペ・ルイスと1対1になれるように敵が自陣エリア近くでのサイドチェンジをするのを警戒。ボールのある方向に行きすぎて直された後、逆に中央に寄りすぎて、コマンやドグラス・コスタをマークしに行くのに遅れるぞと注意されていたというコケなど、しっかり練習をして、「tendremos circulaciones más rápidas porque el campo estará más rápido/テンドレモス・シルクラシオネス・マス・ラピダス・ポルケ・エル・カンポ・エスタリア・マス・ラピド(ピッチ状態がもっと速い状態だから、より速いボール回しができる)」(ハビ・マルティネス)という、1stレグより水分多めの芝で滑って転ばないように足場を確認してくれるといいのですが…。
▽まあ、CLのことはまた後でお話しするとして、先に先週末のリーガの結果をお伝えしておかないと。前節に引き続いて、優勝争いをしている3強が続けざまに試合をした土曜は再び、レアル・マドリー戦からスタート。いえ、今回はサン・セバスティアン(スペイン北部のビーチリゾート都市)でレアル・ソシエダと対戦したため、私は近所のバル(スペインの喫茶店兼バー)で見ていたんですけどね。クリスチアーノ・ロナウドとベンゼマが負傷でいなかった上、クロースやマルセロ、カルバハルをローテーションしたせいもあったんでしょうか、元々、あまり得意でないアウェイというのもあって、前半のスコアは動かず。

▽いえ、その彼らが水曜のCLマンチェスター・シティ戦2ndレグまでに回復しないケースを恐れたか、ジダン監督にスタメンCFとして抜擢されたカンテラーノ(RMカスティージャの選手)のマジョラルから先輩のヘセが引き継いだ後半20分ぐらいまでは、私もTVの前にいられたんですけどね。残念なことにスコアレスのまま、ビセンテ・カルデロンへ移動する時間が来てしまいます。
▽え、もしかして私はベイルと縁が薄いんじゃないかって? そうですね、前節のラージョ戦と同じで、メトロ(地下鉄)のピラミデス駅で降りてラジオをつけたところ、後半35分にルーカス・バスケスの左からのクロスを彼が見事なヘッドで決めて、決勝点(最終結果0-1)を挙げていたことが判明したとなると、あながち否定できないかも。うーん、実際、ここ2試合は彼のおかげで勝って、優勝戦線から脱落せずに済んでいるマドリーですからね。ジダン監督も「El puede hacer como Cristiano/エル・プエデ・アセール・コモ・クリスティアーノ(彼はロナウドのようにできる)」と褒めていましたが、今季のCLではまだ1ゴールも挙げていないため、やっぱりここまで16得点しているロナウドにはシティ戦にいてほしいかと。

▽そして、ビッグゲーム続きで疲れたのか、わりとスタンドの応援も控え目で始まったアトレティコのラージョとのミニダービーはどうだったかというと。いやあ、まず誰もが度胆を抜かれたのはシメオネ監督の大胆すぎる先発ローテーションで、何と水曜のバイエルン戦から7人の選手をチェンジ。おかげで、「Los jugadores que estaban de inicio les ha faltado un poco de ritmo/ロス・フガドーレス・ケ・エスタバン・デ・イニシオ・レス・ア・ファルタードー・ウン・ポコ・デ・リトモ(先発した選手たちはちょっとリズムが欠けていたね)。でも、あまりプレーしてないんだから、それが普通だよ」(グリースマン)という状態だったのか、よく起爆剤として使われるコレアなどは活発に動いていたんですが、こちらも前半を無得点で終わることに。

▽実際、勝たないと、アトレティコも優勝戦線から脱落してしまうことに違いはありませんから、スタンドは後半開始からのレギューラー投入に期待していたんですが、いえ、入ったことは入ったんですけどね。ガビがコケに代わるって、何かちょっと違う…ていうか、これって要は2人を温存ローテーションしているだけじゃないですか! でも長く心配する必要はありませんでした。先日のマラガ戦で余分なボールがピッチに投げ入れられた件で3試合のベンチ入り禁止処分を受けたシメオネ監督が、パルコ(貴賓席)で並んで座ったGKコーチ経由で早めに指示。イヤホンをつけたガビがベンチでそれを受け、8分にはビエットとオリベルに代わってグリースマンとトーレスが登場します。

▽いやあ、この戦術がドンピシャで当たったんですよ! 何と、交代から1分もしないうちにコケからエリア内に向けて放たれたボールをクレスポがクリア、それがちょうど、グリースマンの正面に落ち、そのシュートで虎の子の1点が入ってくれたから、もう安心。うーん、別にラージョを見下している訳ではないんですが、今季のアトレティコは守備に関しては、CBに誰が入っても鉄壁ですからね。その日はヒメネスとルーカスのコンビでしたが、バイエルンの猛攻を60分も跳ね返し続けた彼らにとっては、いくら敵に自陣エリア周辺に押し込まれっぱなしになろうと、暖簾に腕押しだったかと。

▽結局、途中交代したピティのケガが再発し、もう今季はプレー不可能になってしまうという悪運にも見舞われたラージョは1点を返すことができず、そのまま試合は1-0で終了。その時は一足先にソシエダ戦を終えたセルヒオ・ラモスのように、「Ojala los otros pinchen/オハラ・ロス・オトロス・ピンチェン(他のチームが躓きますように)」と願っていたアトレティコの選手もいたかと思いますが、やっぱり叶いませんでしたね。次の時間帯でベティスとアウェイで戦ったバルサは前半こそ、パッとしなかったものの、ハーフタイムにルイス・エンリケ監督が雷を落としたせいでしょうか。後半10分にはGKアダンのミスからラキティッチが先制点をゲット。ルイス・スアレスも36分には続いて、0-2で首位の座を守っています。

▽え、リーガの三すくみ状態にまったく変化がなかったのはともかく、何だか最近、そんなアトレティコの勝ち方について世間がうるさくなってきていないかって? いやあ、バイエルンに1stレグで勝った後など、ガセッタ・デッロ・スポルト(イタリアのスポーツ紙)で、シメオネ監督がチェ・ゲバラ(アルゼンチン生まれの政治革命家)に例えられ、cholismo(チョリスモ/シメオネ監督のサッカー理論)はティキタカ(スペイン代表やバルサのトレードマークのパスサッカー)に対する反乱といった扱い方で絶賛されたりもしたんですが、その反面、イタリアのスカイ(スポーツ専門放送局)のディレクターに「あれはカテナチオ。見ていて吐き気がする」と罵倒されるなんてことも。

▽もちろん、ティキタカの体現者であるチャビ(現在はカタールのアル・サッドでプレー)も、「マドリーやバルサのようなun equipo grande no debe jugar como el Atleti/ウン・エキポ・グランデ・ノー・デベ・フガール・コモ・アル・アトレティ(ビッグチームはアトレティコのようにプレーすべきではない)」と口を挟む隙を逃しませんし、イタリアやアイルランド代表、ミランやバイエルンも指揮した大御所、トラパットーニ監督からは「半時間もパスしてばかりでシュートしないチームがある。自分は眠ってしまうよ。真っすぐ本題に入って、激しさというスペクタクルもあるシメオネのサッカーの方が1000倍も好きだ」と褒められているって、一体、世の中、どうなってしまったんでしょう。

▽だって、これまでのアトレティコは勝ってくれれば、それだけでファンは満足、世間も良しとするチームに過ぎなかったんですよ。それが、いきなりお隣さんのようにプレースタイルをあれこれ言われたって、困ってしまわない? ちなみに批判的な意見に対するシメオネ監督の答えは、「指揮官となってから、私の一番の誇りは配下の選手たちの力を引き出せていること。代表の監督にでもなれば、自分の考えにより合う選手を選べるだろう。Ahora no puedo poner por delante mi idea a mis jugadores/アオラ・ノー・プエド・ポネール・ポル・デランテ・ミ・イデア・ア・ミス・フガドーレス(今は選手たちより自分の考えを優先する訳にはいかない)」というもの。

▽うーん、解釈の仕様によっては、アトレティコには他のビッグクラブ並の才能を持った選手がいないから、努力で補える守備や体力を強化するサッカーしかできないと言っているようにも聞こえますが、それでもリーガでもCLでもマドリーやバルサと優勝を争えるようになったのは、ちょっと前までのダメダメだった彼らを覚えている私からすれば、凄いことですからね。

▽火曜午後8時45分(日本時間翌午前3時45分)からのバイエルン戦2ndレグでは、ゴディンもカラスコもとうとう全快通知が出たことですし、たとえ「Se van a meter todos atrás!/セ・バン・ア・メテール・トードス・アトラス(全員、後方に引っ込んでいるだろうよ)。攻めに出てくるようには見えない。まあ良くて、カウンターのチャンスを待つってところだね」(アルトゥロ・ビダル)という、敵方の予想通りのプレーをするにしても、1stレグの1-0の勝利を無意味なものにしないでくれたらと思います。

▽そして翌水曜には、マドリーがサンティアゴ・ベルナベウにマンチェスター・シティを迎えてのCL準決勝2ndレグが同じ時間からあるんですが、アウェイでの1stレグをスコアレスドローで終えたため、彼らのマストは得点して勝つこと。ええ、ロナウドも先週から始めた日々10時間のリハビリトレの成果を見せ、月曜にはグラウンドでの全体練習に加わっていますしね。もちろんアトレティコとは土台が違いますから、ベスト16のPSV戦のように2試合続けて0-0、延長、PK戦なんて、華のない結末を予想する人はいないと思いますが、この時期のケガ人には要注意。

▽何せ、2年前のアトレティコのように、治って出たと思ったら、すぐケガを再発させて早期交代を繰り返したジエゴ・コスタ(現チェルシー)の例もありますからね。ナチョなどから、「この試合の重要性は皆知っている。Yo por ejemplo arriesgaria/ジョ・ポル・エヘンプロ・アリエスガリア(ボクだったら、危険を犯すよ)」と言われ、ロナウドも気ばかりが焦っていないといいのですが、さて。ちなみにここ2試合、ハーフでの交代を続けていたベンゼマが復帰できるかどうかはまだ微妙で、時間との戦いと言われていますが、それでもベイル、ハメス・ロドリゲス、イスコといった、よそのチームが羨むタレントを擁しているのがマドリー。これで嘆くのはあまりに贅沢ってものでしょう。対するシティは1stレグで肉離れを起こしたシルバが欠場。ペレグリーニ監督はベルナベウでの前日練習をしないそうですが、こちらのスタジアムには芝の問題(モウリーニョ監督時代のバルサ戦を除く)がないのは有難いでしょうね。

▽そうそう、最後にマドリッド勢唯一、日曜に試合したヘタフェについてもお伝えしておかないといけないんですが、彼らはアウェイのデポルティボ戦でペドロ・レオンとビガライがゴールを挙げ、0-2の勝利をゲット。いえ、先週末はスポルティングもエイバルに2-0で勝ち、ラージョは兄貴分を前に勝ち点を増やせなかったため、3チームが勝ち点35で並んでいるんですけどね。月曜には最下位レバンテがマラガに3-1で負けて降格が決定。2部行きの席はあと2つになったんですが、グラナダもラス・パルマスに3-2で勝ったとはいえ、勝ち点1多いだけなので、あとはこの4チームにデポルティボを加えて、残り2試合で生き残りを争うことに。

▽うーん、ラージョは残り試合で目標のないソシエダとレバンテが相手とあって、何とかなる気もしないではないですけどね。ヘタフェはunificacion(ウニシカシオン/統一)のかかったこの土曜午後5時からの一斉試合でスポルティングとガチンコ対決。来季はやはりマドリッド近郊にあるレガネスが2部1位で上がってくるかもしれないとはいえ、しばらく続いたスペインの首都の1部4チーム体制を維持できるのかどうか、どうやらここが運命の分かれ道になりそうです。

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