【東本貢司のFCUK!】レフェリーだって人の子です

2016.04.20 13:15 Wed
Getty Images
▽先日のレスター-ウェスト・ハム戦はレフェリーの判定が「ブレまくった」と各方面から疑義が飛び交った。一つひとつの検証はここでは省くが、要するに「ペナルティーが与えられたケース」と「与えられなったケース」に一貫性がなかったというのがその主な要旨。他にも、ジェイミー・ヴァーディーの「一枚目のイエロー」も普通なら口頭の注意で済むはずのレベルだったという意見も多い。そこで、終了間際のボックス内でジェフ・シュルップにショルダーチャージを仕掛けたアンディー・キャロルが咎められた一件(それが劇的な同点PKに直結した)は、レフェリー、ジョナサン・モスがウェスト・ハムに与えたPKの「埋め合わせ」だったのでは、という憶測も飛び出している。いずれにせよ、この試合のモスには明らかに勇み足の判定が目立ち、その結果無用なカードを出し過ぎた感があった。誰もがもやもやするその翌日、スパーズがストークに快勝、優勝争いは微妙に。

▽そういうこともある、レフェリーだって人の子、マズったかなと後ろめたさを引きずっていたモスの心情もわからないではない…などと思いやっていたところ、案の定というべきか、現地某メディアが引き合いに出した興味深い関連記事が目に入った。イングランドにおいてレフェリーを管理する一組織「プロフェッショナル・ゲーム・マッチ・オフィシャルズ・リミテッド(PGMOL)」がいつからか自発的に導入していた「配慮」―――特定のクラブのサポーター、もしくはそのホームタウン出身/在住のレフェリーには、当該クラブが関わる試合をあてがわない、という“基本方針”。PGMOLによると、毎シーズン開幕前、各レフェリーの“バックグラウンド調査”が行われるのだそうだ。「サポートする特定のチームはあるか」「元プレーヤーの場合、どこのチームでプレーしていたか」「どの地域、町に住んでいるか」…。そしてこのデータを基に担当する試合が振り分けられるのだ。はて、他の国でも同様のことが? 少なくとも筆者は聞いたことがない。

▽もちろん、住む町とサポートするクラブが必ずしも一致するわけではないが、とにかくどちらも考慮に入れられてしまう。QPRのファンで元レフェリーのマーク・ハルジーは証言する。「“現役”時代、ボルトンに住んでいたわたしは一度としてボルトンの試合を担当させてもらえなかった」一方で「このガイドラインが施行される以前、QPRの試合を二度担当したときは、内心『もう、やってられない』と思った」という。確かに、思い入れがあると余計なストレスがかかってしまうのもよくわかる。が、ハルジーは断言する。「(QPRが)勝ったときはその場で一緒に万歳したい気持ちになるんだが、ピッチの白線を超えた瞬間から完全にニュートラルな立場を貫くのが(我々レフェリーの)プロ意識というものなんだから、ゆめゆめ誤解しないでもらいたい」。それでもPGMOLは「無用で余計な外的感情を誘発すべきではないからだ」とする。だが問題はその先にある。それに関連してPGMOLは「諸々の事情を鑑みてケース・バイ・ケースで判断」する、と。
▽それの典型的な一例が、昨日月曜日の試合に“適用”された。予定では同日のスパーズ-ストーク戦を仕切ることになっていたケヴィン・フレンドが、急きょ外され、翌日(火曜日)のニューカッスル-マン・シティー戦に回されることになったのだ。理由は、フレンドが熱烈なレスターファンだから。つまり、フレンドがつい“魔がさして”レスターの最大のライバル、スパーズに不利な判定をしてしまわないように、というわけだ。が、待てよ、シティーだってわずかながら逆転優勝の可能性を残しているはずでは? ニューカッスルのゲームをじっくり観戦していない身では何ら確たることも言えないのだが、同試合は降格の危機にあるマグパイズが奮起して強敵シティー相手に予想外のドローで終えた。勘ぐればきりがないとはいえ、フレンドが何らかの“配慮”を施した(施す余地があった)後味は残る。なぜなら、これでシティーの優勝は限りなくゼロになってしまったのだから。

▽ご存じアーセナルのアーセン・ヴェンゲルも“その点”に強く疑問を唱える。それも、かなりあきれ返った風に。「そんな七面倒なことを考えていたら、毎週毎週ああだこうだと(レフェリーの選択に)頭を痛めることになってしまう。レフェリーがどこに住んでいるのかとか、どこのサポーターなとかなんぞをいちいち気にしたってしようがない。最高のレフェリーをあてがえばそれでいいのだから」。スパーズに敗れたストークの将、マーク・ヒューズも遠まわしに皮肉を漏らす。「判定がどちらに有利不利だったかについて、(PGMOLは)レフェリーの出自を取りざたされるのが嫌なんだろう。レフェリーの質向上を図る上での一案なのかもしれないし。ま、気持ちはわからないじゃないが」。ま、極力好意的に受け取るならば、これも“母国の良心”、あるいは、フットボールをこよなく愛する国民ゆえの気遣い、としておこうか。ひょっとして、ここまできたらレスターに何の澱みなき歴史的優勝を遂げてもらいたいという、切なる願望がそうさせているのかも?
【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】
1953年大阪府生まれ
青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。

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