【東本貢司のFCUK!】アーセナル改造への序説

2016.04.14 10:00 Thu
Getty Images
▽現プレミアリーグ最古の名門、アストン・ヴィラの降格と、“奇跡のチーム”レスターの初優勝を疑う者はもうどこにもいまい。次節のオールド・トラッフォードでヴィラが勝つ図などどうやっても浮かばないし、残り5試合をフォクスィーズ(レスターの通称)が負け越すことも考えられない。斯界きってのスーパーリッチ、パリSGを沈めたマン・シティーには、バルセロナ敗退の報もあり俄然(チャンピオンズ制覇の)ひょっとしたらの希望が芽生えてきた。つい一時間前、強敵ウェスト・ハムとのプレーオフを勝ち切ったユナイテッドは、このまましばらくぶりのFAカップ奪還に全力を尽くすだろう。クロップ流のしぶとさとキレが板についてきたリヴァプールには、ヨーロッパリーグで最後まで突っ走っていってしまいそうなオーラを感じる。チェルシーのことは今更言うまい・・・・ではアーセナルは? トップ4は何とか確保するとしても、なんだこの、ダルいもどかしさは。
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▽昨年の暮れも押し迫った頃、人を介して伝え聞いた某熱狂的ガナーズファン(イングランド人)の言葉に、こんな件があった。レスターは言うまでもないが宿敵スパーズとて「たぶん今シーズンが千載一遇のチャンス。心情的にはどちらかに優勝させてやってもいいかな。結構マジで」。当然、当時アーセナルが待望の首位に躍り出たことからの「余裕の軽口」でしかなかったはずだが、残り6試合(レスター、スパーズより一つ消化が少ない)で13ポイント差となった今、彼の「心情」はいかばかりか。日本人なら「言霊」の恐ろしさに色を失い、慙愧の念に耐えがたき・・・・いや、これは大きなお世話。しかし、そんな余計な筋違いが脳裏を過るほど、アーセナルの“埋没”―――文字通りに、日の出の勢いの伏兵トップ2とそれぞれカップタイトルに挑戦中のライバル三名門の“狭間”に埋没してしまっている現状は、件の彼を含めたガナーズファンにとって、とてつもなく冴えない、鬱陶しいことだろう。では、何が悪かったのか。こうなってしまった罪は何だったのか。▽その“謎解き”をあえてミクロの視点から探り出してみる。ちょうど、直近に格好の“臨床例”がある。2-0からひっくり返され、せめてもの意地でドローにはこぎ着けた4月9日のウェスト・ハム戦だ。ファーストハーフ半ば過ぎで2点のリードは、アーセナルほどのチームなら、相手に関わらず、アウェイであろうと、ほぼ必勝態勢。ところが絵に描いたようにハーフタイム直前に1点を返され、それどころかその直後に同点を許してしまい、さらにセカンドハーフ10分足らずに逆転。スコアタイムだけを見ればわずか8分間の悪夢。しかも、そのすべてが、この数年“眠っていた”はずのアンディー・キャロルからもたらされた。おわかりだろう。明らかにガナーズDFの失態、いや、ほとんど力不足による結果である。イメージ的にはリハビリ明け同然のストライカーに、こうまで好き放題にやられてしまっては何ら言い訳も利くまい。ガブリエルとコシェルニー。超A級戦犯。
▽個人的にコシェルシーはリーグ有数のセンターバックだと思っている。読みもスピードも不足なく身長の割にハイボールにも強い。現に70分の同点弾は彼のヘディングから生まれている。本業の守りがこのゲームでどうだったかはあえて問わない。問題は相方。少なくとも今のままならガブリエルは使いづらい。ひと頃のメルテザッカーはコシェルニーとの相性良好だったが、どうだろう、そろそろ歳か。期待したチェインバーズはどうもセンター向きじゃない? つまり、ここに最大の弱点がある。チェフを獲って喜んでいる場合ではなかったということだ(そのくせ、開幕前は多くの識者が「大収穫」と宣っていたが)。必然的に、さしものヴェンゲルの目も曇ってきたのかと疑いたくなってくるし、移籍金をしぶるクラブの体質も問題点として再浮上してこよう。実は、断片的な情報からそれなりにオファーは出したのだが、相手に足元を見られるとすぐ引っ込めた事実もあったらしい。エジル、サンチェスに思い切ってはたいた反動で、節約グセがブリ返したという噂も高い。

▽才能不足はピッチの逆サイドでも顕著だ。今シーズン、これを決められないでどうするという場面で外したジルーの姿を何度見ただろう。好もしいタイプではあるのだが、突き抜けられない。スアレスやレヴァンドフスキ、マンジュキッチのような確実性、機転の利く柔軟性がもう一つ。だからヴェンゲルも先発に固定できない。故障明けのウェルベックの方に期待が向く。つまり、ここにもテコ入れが必要ではないかということだ。スアレスへのアプローチが形だけに終わり、ユナイテッドが獲ったマーシアルを「高すぎる」と愚痴ったことを責めるつもりはないが、結局それで代案の収穫なしでは現有戦力が安穏としてしまい、あるいは過度のプレッシャーに委縮する弊害を見通しておくべきではなかったか。監督としての力量はいまだ世界有数なのは認めるが、戦力整備の点で近年の趨勢に乗り遅れ気味のような気もする。2003年以来の優勝が欲しければ、だ。個人的には好ましいヴェンゲル・システムもいかんせん頭打ち・・・・。はてさて、レスターから引き抜いたヴァーディー、マーレズを発掘した“名スカウト”の目、手腕が何かを変えるのか。それとも・・・・。

【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】
1953年大阪府生まれ
青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。


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