【原ゆみこのマドリッド】バルサだって負ける時はある…

2016.04.05 13:30 Tue
▽「何か嫌みっぽいのよね」そんな風に私が眉をしかめていたのは月曜日、いよいよ翌日に迫ったCL準々決勝1stレグ前の記者会見でバルサのピケの言葉を聞いた時のことでした。いやあ、確かに「Ahora mismo es el Segundo equipo de Espana, como la Liga demuestra/アオラ・ミスモ・エス・エル・セグンド・エキポ・デ・エスパーニャ、コモ・ラ・リーガ・デムエストラ(今現在はスペイン2番目のチーム、リーガでわかるようにね)」というのは正しいんですけどね。その後、「やっぱり決勝はレアル・マドリーとやりたい」って,もしやアトレティコを破って準決勝に進出するのは彼の中ではもう決定事項ってこと?

▽いえ、折しも土曜のクラシコ(伝統の一戦、バルサvsマドリー戦のこと)に負けてしまい、少々気まずい状態になってしまったルイス・エンリケ監督は、「Tiene un nivel top/ティエネ・ウン・ニベル・トップ(彼らはトップレベルにある)」と一応、アトレティコを持ち上げてくれたんですけどね。マドリーのジダン監督もバルサ戦後は「primero hay que pasar al Atleti/プリメーロ・アイ・ケ・パサール・アル・アトレティ(まずはアトレティコを追い越さないと)」と言っていただけに実際、リーガで2位をキープするのも大変そうなんですが、きっと彼らはたとえ、2年前同様、バルサを破って無事に決勝までたどり着いたとしても絶対、お隣さんとは顔を合わせたくないかと。

▽まあ、その辺はまた後でお話しするとして、まずは先週末のリーガを振り返ってしまうことにすると。今回はマドリッドの弟分チーム同士のミニダービーということで、私も金曜からエスタディオ・バジェカスに足を運んだんですが、やはり降格回避が懸かっているとなると、スタンドのファンも気合の入り方が違いますね。その普段の倍になったような激しい応援にラージョの選手たちも発奮、前半11分のハビ・ゲラのゴールはオフサイドで認められなかったものの、14分には再び彼がボールをネットへ。CKを起点に最後にゴールすぐ脇から蹴り込んだゴールがスコアボードに上がり、ホームチームがリードを奪います。
▽こうなると今季、ゴール日照りにあえいでいるヘタフェはもうお手上げ。ほとんどGKファン・カルロスにも近づけませんでしたしね。代表戦期間中に緊急補強したFWゴイトムがデビューしたものの、チャンスは作れず、後半26分にはミクの古巣恩返しゴールまで決まって、最後は2-0で負けてしまいましたっけ。うーん、この勝利で試合後、ファンの呼びかけに応えて、ラージョの選手が出て来てくれたのはなかなか、感動的だったんですけどね。これで順位を1つ上げて16位になった彼らとは対照的に19位に落ちてしまったヘタフェは本当に崖っぷち。クラブはエスクリバ監督を解任する予定はないようですが、浮上のキッカケをつかむには一体、どうしたらいいんでしょうかね。

▽そして翌日はお昼を食べてすぐ、ビセンテ・カルデロンへ向かった私でしたが、アトレティコがベティスを迎えたその試合では極めて珍しい光景を目撃できることに。それはお隣さんの専売特許だと信じていたgoleada(ゴレアダ/ゴールラッシュ)で、いえ、先発予定だったFWビエットが合宿先のホテルで急性胃腸炎にかかって休場。一旦は治っていたサビッチも足の爪が腫れたせいでバランスを崩し、ふくらはぎに筋肉痛を起こしたため、ルーカスに加え、これがトップチームデビュー戦となるモンサルベがスタメンに入り、カンテラーノ(アトレティコB出身の選手)の若手CBコンビでキックオフと、決して幸先は良くなかったんですけどね。
▽おまけに30分頃までチームにはどことなく、ノンビリムードが漂っていて、大丈夫なんだろうかとヤキモキしかけたんすが…やってくれたんですよ、フェルナンド・トーレスが!それは36分、コケが敵DF陣の頭を超す浮き球を送ったところ、彼がvaselina(バセリーナ/ループシュート)で先制点をゲット。加えてその4分後、トーレスがエリア内に送ったクロスはクリアされてしまったものの、ボールを拾ったグリースマンが、うーん、どうやら本人はゴール前に詰めようとしていたコケに送りたかったようなんですけどね。コケが足も上げてないうちにボールが地面に落ち、GKアダンの股間を通ってゴールになってしまったから、ビックリしたの何のって!

▽これでハーフタイムとなったため、後半は地味な展開を予想していたものの、「A partir del 2-0 hemos renunciado al partido/ア・パルティル・デル・ドス・セロ・エモス・レヌンシアードー・アル・パルティードー(2-0となって以来、ウチは試合を諦めてしまった)」(メリノ監督)というベティスの消極姿勢が災いしたんでしょうか。リーガで今季、相手が1試合0.5失点もしていないことを考えれば妥当な判断ですが、珍しいことにその日のアトレティコは容赦というものを知らず。

▽「Torres será titular en el Camp Nou/トーレス・セラ・ティトゥラル・エン・エル・カンプ・ノウ(トーレスはカンプ・ノウで先発する)。試合前に話合っていた」(シメオネ監督)という理由で彼が後半17分で引っ込んだ後も、代わって入ったコレアが大活躍。ええ、19分には大きなクロスをファンフランに送って3点目をアシストしたかと思いきや、その2分後にはモンサルベは関係なく、滅多に見られないGKオブラクのイージーミスでルーベン・カストロに1点を返されてしまいましたけどね。35分にもコレアがエリア内でDF2人を切り返してグリースマンに自身この試合2点目をプレゼント。これリーガ7試合連続得点を達成したグリースマンも誰かに喜びをプレゼントしてあげたくなったのか、終了間際にはトーマスにアシストして、とうとう5-1という、カルデロンではまったく馴染みのないスコアで試合は終了することに。

▽え、この試合の後もサポーターが大勢、スタンドに残って、選手たちを呼んでいたけど、こちらはどういう意味があったのかって?もちろん景気づけで、何せ彼らの次の試合はカンプ・ノウでのCLバルサ戦。無事に帰って来いということでしょうが、ロッカールームからまた姿を現した選手たちもその応援で勇気が沸いてくれているといいのですが、さて。ちなみに私などは、試合後のシメオネ監督の「para llegar a las últimas jornadas
con alguna posibilidad para pelear con el Barcelona/パラ・ジェガール・ア・ラス・ウルティマス・ホルナーダス・コン・アルグーナ・ポシビリダッド・パラ・ペレアル・コン・エル・バルセロナ(バルサと争う可能性を持って最後の数節にたどり着けるように)戦い続けている」という言葉に勇気をもらったんですが、慣れないゴールラッシュのツケが後になって出ないといいのですが。

▽そして一旦、家に戻ってから、近所のバル(スペインの喫茶店兼バー)にクラシコを見に行った私だったんですが、やられました。いえ、今回は優勝争いも懸かってないし、そんなに興味のある人はいないだろうとタカを括った自分も悪いんですが、キックオフ20分前にはすでに空いている椅子が皆無。何とか、すぐ近くのお店に場所を見つけましたが、立ち見を選ばなかったのは正解でした。というのも、前半で大勢が決まってしまうと普通、後半は帰る人がいて座れたりするんですが、スタンド中がヨハン・クライフ追悼のモザイクで彩られて始まったその日はハーフタイムまで0-0のまま。おかげで後半はバルに入って来る客がますます増え、最後の頃には大変な混雑ぶりになっていたから。

▽ただねえ、前半のマドリーは何か変だったんですよ。妙に自陣に引き気味で、バルサに勝手にボールを回させているし、ポゼッションが30%そこそこしかないなんて、どこかでよく見たことある風景だと思っていたんですが、右サイドのトップとしてスタートしたベイルが右側に続いて、左側にも来て、エリア内にロングスローインをしていた姿にハタと思いつきました。ええ、ヘスス・ガメスじゃありませんが、これってアトレティコがバルサ戦でよくやっている戦法じゃありませんか?

▽実際、そのことは後でその日は守備のヘルプにも積極的だったベイルも「ウチのプランは相手を待つこと。ボクらは高速カウンターが得意だから、その練習をして上手くいった」と告白していたため、予定通りだったんでしょうけど、ダメですよ。せめて第2キャプテンのマルセロのように、「Hemos intentado tener el balon, pero contra el Barca es dificil/エモス・インテンタードー・テネール・エル・バロン、ペロ・コントラ・エル・バルサ・エス・ディフィシル(ボールを持とうとしたんだけど、バルサ相手には難しかった)」ぐらいは言って、カウンター嫌いのファンの心の機微をわかってあげなくちゃ。

▽でも大事なのは結果です。後半開始10分には、ペペのマークを外したピケがラキティッチのCKに頭を合わせ、とうとう先制されてしまったマドリーでしたが、ここから頑張りました。そう、17分にはマルセロがカウンターから持ち上がって、クロースにパス。彼がエリア内右から出したクロスはジョルディ・アルバに当たって軌道が変わったものの、ゴール前にいたベンゼマがこれを見事なsemichilena(セミチレナ/ハーフオーバーヘッドキック)で同点ゴールにしてくれたのですから、バランがケガして帰って来たことを鑑みても、フランス代表に呼ばれないのにはメリットがあった?

▽その後、だんだん勢いを増したマドリーはラキティッチがアルダ・トゥランに代わったのをキッカケにチャンスを作り、いえ、35分にクリスチアーノ・ロナウドが上げたクロスからベイルがヘッドで決めたゴールは、当人は「自分の方が背が高いんだから触ってない」と主張したものの、ジョルディ・アルバへのファールで認められなかったんですけどね。その1分後にもロナウドがシュートを枠に当てるなど、マドリー優位が目に見えてきた矢先のことでした。セルヒオ・ラモスが2枚目のイエローカードをもらって退場してしまったのは。

▽いやあ、結果的に39分には久々にマドリーが奇跡のremontada(レモンターダ/逆転劇)体質を発動。またしてもカウンターからベイルがクロスを上げ、ロナウドがゴール右脇で胸で落としてシュート、1-2とスコアを引っくり返すことができたから、1月末のバルサ戦で退場になったフィリペ・ルイスと同じく、試合の残りをプレスコンファレンスルームのTVで見守っていたラモスも、「1人少なくても勝てるってわかっていたら、自分は5分に退場しても良かったよ」なんて冗談を言っていられるんですけどね。

▽後で元審判員の書いた記事などを読むと、この日のラモスは抗議で9分に最初のイエローカードをもらってから、23分にはメッシをライン際で引っかけて、後半2分にもルイス・スアレスの肩を引っ張って、5分にもダニエウ・アウベスの顔を叩いて、そして最後はルイス・スアレスへの後ろからのタックルで、1試合で累積警告に達してもおかしくない程の暴れん坊ぶりだったとか。うーん、彼は前々節のラス・パルマス戦でも退場していますし、クラシコだけでももう通算4度目のレッドカードですからね。先日には30歳にもなったことですし、そろそろ自重してもらいたいものですが、こればっかりはねえ。試合中も中盤の防波堤として大活躍した上に、ラモス退場後はCBに入って、バルサの反撃を防いでくれたカセミロによくよくお礼を言っておいた方がいいかもしれませんよ。

▽まあ、そんな感じで戦前は「Dijeron que nos íbamos a llevar 4 o 5/ディヘロン・ケ・ノス・イバモス・ア・ジェバール・クアトロ・オ・シンコ(ウチが4、5点取られると言われていた)」(ペペ)というクラシコも、MSN(メッシ、スアレス、ネイマールの頭文字)がパッとしなかったおかげもあって、「El Madrid ha ganado justamente/エル・マドリッド・ア・ガナードー・フスタメンテ(マドリーは正当な勝者)」(ピケ)という嬉しい結末を迎えてくれたんですが、ホントにビッグゲームが立て続けにあるのは困ったもの。いえ、同じCL準々決勝1stレグを控えているとはいえ、マドリーのボルフスブルク戦は水曜ですし、このラウンド初出場の相手も「ウチが突破できる可能性は2%ぐらい」(ダンテ)と、このところのブンデスリーガでの不調もあって、弱気になっていますからね。

▽よって、水曜午後8時45分(日本時間翌午前3時45分)からフォルクスワーゲン・アレナで行われる一戦はまたしてもマドリーの強さを再確認する試合になるんじゃないかと思いますが、とにかく心配なのは火曜の同時刻に一足早く行われるバルサvsアトレティコ戦。ええ、シメオネ監督もこれが今季最後のCL遠征となるかもと、選手たちに気を使ったんでしょうかね。チアゴやオリベルら、負傷中でプレーできる見込みもないメンバーも連れ、月曜にはチーム全員でバルセロナ入り。しかも前日には普通、同じリーガの相手にはやらないスタジアム練習をカンプ・ノウでやるって、もしやこれは決戦ムードを高める心理作戦?

▽そんな中、心強い知らせは記者会見に出たゴディンが「Estoy muy recuperado, al cien por cien/エストイ・ムイ・レクペラードー、ポル・シエン・ポル・シエン(自分はとても回復した。100%ね)」と保証してくれたことで、サビッチやカラスコもどうやらプレーできるまでになったとか。まあ、どうあがいてもバルサ相手にボールが持てるアトレティコではありませんから、戦法はお隣さんと似たようなものになるはずですが、今度はリベンジで爆発するかもしれないMSNには要注意。あとは、お隣さんの例もありますし、前回2人出した退場者はせいぜい1人に留めることを忘れずに、シメオネ監督が良しとする「ganar(ガナール/勝つ」という結果を持ち帰ることができるといいのですが。

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