【東本貢司のFCUK!】「結果と過程」・ファンか否か
2016.03.11 12:00 Fri
▽たまたまにしろ、重い日の投稿となってしまった。5年前に起きたことは悪夢でも何でもない、紛れもなく事実だ。つい先日のマリア・シャラポワ衝撃の会見内容も、新たに4人目が発覚したプロ野球界の“有毒”行為も、メッシとC・ロナウド双方のファンの間で発生した刺殺事件も、なでしこジャパンのリオ五輪出場権喪失も事実であり、言い換えれば、厳然たる「結果」だ。世の人々は、世論は、概して「結果」でものを語る、もしくは、語る傾向にある。それら“好ましからざる”「結果」を受け止め、例えば二度とないようにと反省することも確かに大切だが、そんな「結果」に至った背景、因果、動機などを可能な限り正確に把握しなければ、類似した出来事、事件、悪弊、犯罪などは今後も後を絶たないだろう。それぞれを教訓とし、反面教師とし、失敗は成功の基としなければ救いがない。つまり「過程」も、いや「過程」こそを重点的に語ることを忘れてはいけないはずだ。
▽「課程」の中身と性格はそれぞれ異なる。シャラポワの一件とそれ以前から問題として浮上していた「国家ぐるみのドラッグ強化作戦(疑惑)」は、結果を、勝利をことさらに求めるがゆえの“アンフェアプレー”。メッシ/ロナウド事件の背景には多かれ少なかれ世界経済不況が影を落としていると考えるのはうがち過ぎか。なでしこ(一時的)失墜の要因は言ってみれば世の流れ。かつてソ連・東欧が独占し、そこに日本がいち早く追いつき、そのうち西欧・南北アメリカ・アフリカまでが肩を並べ、あるいは肉迫していったバレーボール変遷史を思い出さないか。野球賭博には古い歴史があり、単に「規律の強化と精神面の再教育」のみで歯止めがかかるかどうかは怪しいところで、行為の「反社会性」を改めて強調し、重い罰則による対症療法しかないのかもしれない。先ごろ、プレミア・サンダランドのアダム・ジョンソンがつい道を外してしまった“淫行”事件もその範疇に入る。曰く「ロールモデル」、お手本、特に明日を担う少年ファンの「夢を壊さないように」。
▽少々回りくどい、半ば入り組んだ筋立てになってしまったが、本稿の真の趣旨はこの「ファン」についてだ。大昔、あるメディアから「ファンとサポーターの違い」を説明するパラグラフを依頼されたことがあるが、今となってはもはや「明確な違い」が仮にあろうと大した意味はないと思っている。少なくともここでは「ファン」に統一した上で、改めて問いかけよう―――「ファンとは何か」。つまり、前2章で触れた事件とその因果を考えているうちに、はたと膝を打ったのだ。もちろん、あくまでも筆者の個人的独断によるものとお断りした上で、実に明快で腑に落ちる“解答”を提示しよう。ファンと言えるかどうかは、スポーツの場合「その結果で語るか、過程により踏み込んで語るかで決まる」。例えば…このままなしくずしに“なでしこブーム”が文字通りのブームとして流行語に終わる運命かどうかは、「真のファンの実数」にかかっていると言えるのではあるまいか。あるいは、もし、五郎丸歩がオージーでさして活躍できずに帰国したり、2019年W杯でホスト国が惨敗してしまったら…錦織圭がさっぱり勝てなくなったら、プロ野球が…
▽「ファン」は贔屓のアスリートやチームが負けると落胆し、ときには(メッシ/ロナウドのファンのように)度の過ぎた怒りをぶつける行為に及んでしまうこともある。しかし、「ファン」ならそこからまた立ち直り、立ち上がる。ファンでなければ、そのうちケロリとして“対象”を別に求める。昔、リーズ・ユナイテッドがチャンピオンズ4強にのし上がった頃、喜々として「マイチーム」と豪語した人が、リーズ凋落後は何か嫌な思い出さながらに見向きもしなくなった…。断トツの優勝回数を誇っていたマン・ユナイテッドが、急にプレミアで勝てなくなり、チャンピオンズ出場もままならなくなると、とたんにユナイテッドの勝ち負けすら省略したりする某国メディア…。筆者は最近憂鬱だ。キュレーター・アプリとかいってニュースの“要点(=断片)”を単に走り読みするためのディバイスがまかり通り、なんでもその場で“ググって”しまえるために、背景や因果を長い文節でしっかり読み取る習慣が薄れた、昨今の“IT害・禍”の影響もあるが…?
▽ヨーロッパリーグ―――スパーズがドルトムントに完敗、ユナイテッドも宿敵リヴァプールに苦もなく敗れた。まだ“裏”(敗者側のホームでセカンドレッグ)があるから、悲観しすぎることはない。が、それも接戦にすら持ち込めず敗退してしまったら? 本コラムの読者諸氏ならめったなことはあるまいが、携帯アプリでスコアの速報を見るくせがついている“ソフト野次馬”たちは、チェルシーがチャンピオンズでパリSGに圧倒されたことも併せて、ああ、プレミアはもう落ち目か、と薄笑いを浮かべるかもしれない。ま、いいか、彼らは所詮「ファン」でも何でもないんだから。ただ、もしレスターがこのまま最後まで突っ走ってしまったら、彼らや「オカザキ頼りの」メディアに、さも訳知り顔でレスター賛歌をがなってもらいたくはないものだ。どうせ、来季、再来季頃になるとレスターの「レ」の字どころか、岡崎が退団した日には「そんなクラブあったっけ?」とうそぶきかねないのに。今回は悪態が過ぎた。が、とにかく皆さん、「ファン」でいましょうぞ!
【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】
1953年大阪府生まれ
青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。
▽「課程」の中身と性格はそれぞれ異なる。シャラポワの一件とそれ以前から問題として浮上していた「国家ぐるみのドラッグ強化作戦(疑惑)」は、結果を、勝利をことさらに求めるがゆえの“アンフェアプレー”。メッシ/ロナウド事件の背景には多かれ少なかれ世界経済不況が影を落としていると考えるのはうがち過ぎか。なでしこ(一時的)失墜の要因は言ってみれば世の流れ。かつてソ連・東欧が独占し、そこに日本がいち早く追いつき、そのうち西欧・南北アメリカ・アフリカまでが肩を並べ、あるいは肉迫していったバレーボール変遷史を思い出さないか。野球賭博には古い歴史があり、単に「規律の強化と精神面の再教育」のみで歯止めがかかるかどうかは怪しいところで、行為の「反社会性」を改めて強調し、重い罰則による対症療法しかないのかもしれない。先ごろ、プレミア・サンダランドのアダム・ジョンソンがつい道を外してしまった“淫行”事件もその範疇に入る。曰く「ロールモデル」、お手本、特に明日を担う少年ファンの「夢を壊さないように」。
▽少々回りくどい、半ば入り組んだ筋立てになってしまったが、本稿の真の趣旨はこの「ファン」についてだ。大昔、あるメディアから「ファンとサポーターの違い」を説明するパラグラフを依頼されたことがあるが、今となってはもはや「明確な違い」が仮にあろうと大した意味はないと思っている。少なくともここでは「ファン」に統一した上で、改めて問いかけよう―――「ファンとは何か」。つまり、前2章で触れた事件とその因果を考えているうちに、はたと膝を打ったのだ。もちろん、あくまでも筆者の個人的独断によるものとお断りした上で、実に明快で腑に落ちる“解答”を提示しよう。ファンと言えるかどうかは、スポーツの場合「その結果で語るか、過程により踏み込んで語るかで決まる」。例えば…このままなしくずしに“なでしこブーム”が文字通りのブームとして流行語に終わる運命かどうかは、「真のファンの実数」にかかっていると言えるのではあるまいか。あるいは、もし、五郎丸歩がオージーでさして活躍できずに帰国したり、2019年W杯でホスト国が惨敗してしまったら…錦織圭がさっぱり勝てなくなったら、プロ野球が…
▽ヨーロッパリーグ―――スパーズがドルトムントに完敗、ユナイテッドも宿敵リヴァプールに苦もなく敗れた。まだ“裏”(敗者側のホームでセカンドレッグ)があるから、悲観しすぎることはない。が、それも接戦にすら持ち込めず敗退してしまったら? 本コラムの読者諸氏ならめったなことはあるまいが、携帯アプリでスコアの速報を見るくせがついている“ソフト野次馬”たちは、チェルシーがチャンピオンズでパリSGに圧倒されたことも併せて、ああ、プレミアはもう落ち目か、と薄笑いを浮かべるかもしれない。ま、いいか、彼らは所詮「ファン」でも何でもないんだから。ただ、もしレスターがこのまま最後まで突っ走ってしまったら、彼らや「オカザキ頼りの」メディアに、さも訳知り顔でレスター賛歌をがなってもらいたくはないものだ。どうせ、来季、再来季頃になるとレスターの「レ」の字どころか、岡崎が退団した日には「そんなクラブあったっけ?」とうそぶきかねないのに。今回は悪態が過ぎた。が、とにかく皆さん、「ファン」でいましょうぞ!
【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】
1953年大阪府生まれ
青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。
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