【日本サッカー見聞録】ゼロックス杯に見る誤審の意義

2016.02.25 14:05 Thu
▽先週末に行われたゼロックス・スーパーカップは広島が3-1でG大阪を下し、チームの仕上がり状態の早さをうかがわせた。(佐藤)寿人らしいワンタッチシュートで先制すると、エースナンバー10番を背負った浅野がPKから追加点。そして新加入のウタカがスーパーボレーを決めて存在感をアピールした。
PR
▽毎年ゼロックス杯は、そのシーズンのレフェリング基準を選手や監督に示す“お手本”の場でもある。しかしながら、毎年微妙な判定があり、今年は広島の2点目につながった丹羽のハンドが、VTRで確認すると顔面直撃だったことが判明した。▽そして24日には報道陣に向けたレフェリング・カンファレンスが開催され、丹羽のプレーとジャッジについても、上川審判委員長は「レフェリー(飯田主審)は左腕に当たったと判断してPKを与えたが、映像では手ではなく顔に当たったと判断できる」と誤審であることを認め、「ミスの原因はレフェリーのポジショニング」と指摘した。
▽問題のシーンは広島がカウンターを仕掛け、左サイドから柏の上げたクロスが、スライディングタックルに入った丹羽の左腕に当たったと判断されたプレーだ。丹羽は主審に詰め寄り、ボールが当たって赤く腫れた左頬を示しながらハンドではなかったことをアピール。そして判定が覆らないと見ると、フォースオフィシャル(第4の審判)に確認しようと走り出した。

▽その際、丹羽がレフェリーと接触。この場面を見た西村審判は「これはまずい」と思ったそうだ。副審は逆サイドのため丹羽のプレーは死角になっているので見えない。第4の審判に確認するのはいいとして、興奮状態のままだと丹羽のプレーはレフェリーに対する威嚇と受け取られかねないからだ。「丹羽は審判を欺くようなプレーをしない選手」という認識が西村主審にはあるため、レフェリーは丹羽が走り出したらコースを空けるか、あるいは逆に手で制して興奮を冷まさせた方が良かったのではと話していた。
▽そしてレフェリーが見間違えた理由については、丹羽が「手を上げてブロックに行ったため」と話し、上川審判委員長も手を上げてのブロックに「スライディングタックルの際の(ハンドを取られる)リスクを考えてプレーして欲しい」と訴えていた。

▽それというのも、ディフェンダーはタックルの際に、往々にして両手両足を伸ばして飛び込むことが多い。それは本能であると同時に、「意図的なハンドではないと主審が見逃してくれるケースも過去にはあった」(上川審判委員長)からだ。

▽10年前なら意図的に手でブロックしたり、叩き落としたりしなければハンドを取らない時代もあった。しかしハンドの解釈についてFIFAは年々厳しくなり、ディフェンダーは両手を後ろに回すか、胸の前で組むなど工夫しているものの、咄嗟のプレーでは丹羽のように両手を広げてしまうケースも多々ある。

▽それでは、どうすれば誤審を防げたのか。ハンドのプレーがあった時のレフェリーのポジションはペナルティエリア外の左後方で、このポジションはクロスが入った際にペナルティエリア内の攻防を確認するには間違っていないそうだ。しかし問題のプレーを判断するとなると、タックルの際に上げた左腕と顔とが重なり、どちらに当たったのか判別は難しいと上川審判委員長は言う。

▽最適なポジションはペナルティエリア左横のもう少し深い位置、柏の後方当たりだが、「(レフェリーも)カウンターの際のスプリント(動き出し)が遅く、そのポジションまで行けていなかった」と上川審判委員長は分析していた。

▽Jリーグはナビスコカップの準決勝から追加副審の試験的な導入を2月24日に決定した。UEFAはEUROやCLなどで採用していて、両ゴールラインのゴール付近に1名ずつ副審を加え、ペナルティエリア内のプレーや得点の見極めを高める狙いがある。しかし上川審判委員長は例え追加副審がいても「丹羽のプレーは難しい判断になる」と語っていた。

▽ゴールか否かを判定するゴールライン・テクノロジーというシステムもある。しかし個人的には、「審判も人間だからミスをする」という意見に賛成だ。審判だけでなく、選手も監督もミスを犯す。それを含めてのサッカーだと思っている。

▽審判団には失礼な言い方かもしれないが、誤審があったからこそ喧々諤々(けんけんがくがく)のコミュニケーションが生まれ、「ああ、あの時のジャッジね」と記憶に残る試合、語り継がれる試合もある。誤審は大いに結構なことではないだろうか。

PR

NEWS RANKING
Daily
Weekly
Monthly