【東本貢司のFCUK!】息を吹き返したレスターの明日

2016.01.14 21:30 Thu
▽少し前にも触れたように、年末年始はプレミアリーガーたちにとって一年で最も過酷なラッシュアワータイム。今年は天候も芳しくなく、年明け早々の前節などは雨中の消耗戦も少なくなかった。そこに、FAカップが割り込んできて、すわ、今週ミッドウィークの変則開催では“アンチスペクタクル”も致し方ないと思っていたのだが・・・・火曜・水曜の全10試合の8割方が、試合終了のホイッスルまで何が起きるか、まるで予測のつかない大激戦を繰り広げた。実は、事情でゲーム観戦が叶わず(あえてしなかったとも言えるが)片手間に試合経過を現地からのリポートでチェックする方法を取ったのだが、終盤ないしは終了間際の“ハプニング”が相次いだ。それは唯一スコアレスドローに終わったマン・シティー-エヴァートン戦も同様で、つい、これで来たり来るユーロは大丈夫なのかな、と。

▽例えば、残留のためにもはや一つも落とせない(落としたくない)アストン・ヴィラやサンダランド、ニューカッスル辺りなら、明日のことなど考える余裕がないのはわかる。果たして、ヴィラはねじ込んだような(パレスGKヘネシーの不運なハンドリングによる)ゴールで辛勝、レミ・ガルデ新監督麾下の初勝利をものにし、アウェイのサンダランドはセカンドハーフの大逆襲でスウォンジーを下した。ニューカッスルにいたっては、いつもならルーニーの3点目で勝負あったところを、火の出るような中央突破攻撃が実ってアイムアップ寸前に追いつく粘りを見せた。似たような展開と経緯で、チェルシー-WBA、リヴァプール-アーセナルも引き分けに終わっている。ユナイテッド、チェルシー、アーセナルにとっては負けに等しい、心残りな結果だったろう。ちなみにこの三者、今週末にはそれぞれ、リヴァプール、エヴァートン、ストークとの厄介なゲームが予定されている。

▽このミッドウィーク開催で最も注目していたのは“最終ゲーム”、つまり、水曜日現地夕刻(17時半)キックオフのスパーズ-レスター戦。若い才能が続々と台頭、チームバランスも申し分なく、今最も生き生きと輝いているスパーズと、ヴァーディー、マーレズの二大スターがややお疲れ気味で若干停滞ムードのレスター。アウェイのハンディもあって順当に(?)レスター敗戦ということになれば、今後はさらなるスパーズの躍進とレスターの息切れという目も出てくる。ご存知の通り、レスターのアキレス腱は失点過多。取られてもそれ以上取るという、典型的な攻撃偏向式でここまでのし上がってきた。つまり、ヴァーディーとマーレズの牙がなまってしまうのが一番怖い(過去3試合、レスターは無得点)。それがあにはからんや、ボール支配率6割で押しまくるスパーズの猛攻をしのぎ、最終分に決勝点をもぎ取ってみせたのは、センターバックのロベルト・フート。枠に飛んだシュートはこのフートのゴールを含めてわずか2本という、“心機一転”の勝利だった。
▽過去のデータというものは、そのときどきでチーム事情がまったく違う以上、ほとんど比較対象にはならない。ただし、心理的サポート(あるいはその逆)の効果という観点ではそこそこに影響も小さくないはずだ。何よりも、これでレスターは昨シーズンの総勝ち点(41)を上回り(すでに、クラウディオ・ラニエリの最低目標:勝ち点40以上はクリア)、次なる目標(トップ10フィニッシュ~ヨーロッパリーグ出場権?)を明快にハートに刻んで、残り17試合に臨んで行けることだろう。その意味で、このアウェイ・スパーズ戦の勝利は値千金、いやそれ以上だったと言っても過言ではない。次戦の相手は依然として「ほぼ降格当確」のヴィラ、会場も敵地。ここでよもや“折れて”しまうようでは元も子もなくなってしまうが、心理的優位の強みはやはり大きい。ちなみに、スパーズはホームにサンダランドを迎えての“出直し戦”。あくまでも予感だがゴールラッシュの図が見える。

▽一方、ユナイテッドとリヴァプールは厳しくなってきた。挽回の余地はまだ十分あるとはいえ、今シーズンは“ライバル”も増え、ランキング中段前後のチームとも戦いぶりの点で大した差を感じない。特に要注意は乱戦得意のストークと復活気配のサウサンプトン。あと二週間強で閉じられる補強ウィンドウで、どんなドラマが起きるかにも関わってくるだろうが、降格ラインにいるチーム以上に(チャンピオンズ出場権確保には)一戦も落とせない状況。そこで、17日・日曜日のアンフィールドでの決戦は重大な意味をもってくる。もとより、永遠の宿敵と互いを認め合ってきた両者にとって、この試合でどんな戦いぶりを見せ、かつ結果を引き出すかで、タイトル争いはもちろん、来シーズンの“チーム作り”などの動向にも少なからず影響をおよぼす可能性がある。見逃せない大一番だ。

【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】
1953年大阪府生まれ
青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。

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