【東本貢司のFCUK!】2015年のサインと希望の糧
2015.12.30 13:30 Wed
▽レスターvsマンチェスター・シティーは、予想以上に緊迫感横溢のスコアレスドローに終わった。結果、レスターは前日ボーンマスに快勝したアーセナルに勝ち点で並びながら、得失点差でわずかに及ばず2位。が、今シーズンのフィクスチャーが発表された時点では、いや、そのメニュー配順を決めた機構担当者陣(もしくは、コンピューター?)も、まさかフォクスィーズ(Foxes:レスターの通称)がここまでやるとは夢想だにもしなかったろう。その意味で、このゲームは奇妙なほど暗示的だ。もし、不遜にも、あるいは大胆に、いや“フィクショナル”に予言するなら、優勝の行方、その目はここに明確に映し出されてはいないか。レスターとマン・シティー。あえて“対抗馬"にアーセナルとスパーズ。単なる順位でこんなことを言うわけではない。勢い、充実度、そして何よりも「復元力」で、ここまでこの「トップ4」は明らかに他を凌駕している。
▽ご存じかどうか、競馬ではよく“サイン”なるものが取り沙汰される。勝ち馬をあたかも予言するような、一種のごろ合わせ。だが、もしそんな見方を今季プレミアリーグにも移植してみると、実はあまりにも暗示的な“サイン”があったとしたら? それは奇しくもシーズンテーマソングを歌う「カサビアン(より正確な発音は「カセイビーアン」)というバンドが、他でもないレスターで結成されたという事実。2010年のブリット・アウォードでブリティッシュ・ベストグループ賞に輝き、2014年のグラストンベリー・フェスでオープニングアクトを務めた、今最も勢いのあるロックバンドの一つだからして、別に仕組まれた云々ではありえない(このバンドを贔屓する誰かの“ひらめき”が働いたという線も・・・・いや、ないか)。思い出していただきたい。今を時めくプレミアのトップスコアラー、ジェイミー・ヴァーディーの昨季の記録はわずか4得点にすぎなかったのだ。
▽先日、現地の友人から届いたクリスマス・メッセージの冒頭にこんな一文が書かれていた。「やあ、しばらく。レスター(の大躍進)、そちらでも楽しんでるかい?」。ちなみに、彼は(このシティー戦では最後までベンチウォーマーだった)オカザキの名前にはまったく触れていなかった。察するに、2000年だったか、昇格したばかりのイプスウィッチが怒涛の大健闘で最終的に5位に食い込み、UEFAカップ(現・ヨーロッパリーグ)出場を果たしたときのセンセーションと熱気が、現地のファンの間でも湧き上がっているのではないかと思われる。冷静に過ぎる見解をあえてもってくると、前試合でリヴァプールに敗れ、今回のホームゲームでシティーを蹴散らせなかった結果だけを見た場合、息切れのわずかな予感はしないでもない。しかしご存じか? 今でもレスターの新参監督で久しぶりにブリテン島に舞い降りたクラウディオ・ラニエリは「目標40ポイント、プレミア残留」を旗印に悠然と睨みを利かせているのだ。その限りでは急な後退など浮かんでこない。
▽翻って、古豪中の古豪、アストン・ヴィラ、サンダランド、ニューカッスルに、もちろんチェルシーの大不振もあるとはいえ、今季の昇格を含む“弱小”チームの充実ぶりは、誰しも否定できないだろう。特にワトフォードは文字通りのサプライズ・パッケージ。試合ぶりが実にタイトでバランスが良く、各所にほとんど隙が無い。それに、オディオン・イガーロという、レスターのヴァーディーに匹敵する頼もしい得点源を持っている。イタリア・ウディネーゼからあちこちローンに出されながら腕を磨き、昨年ワトフォードに雇われてからは、ローン期間も含めて54試合33得点(12月30日現在)。つまり、ほんの4、5年前まではノンリーグ(セミプロ)在籍だったヴァーディーと双璧をなすシンデレラボーイである。知名度も実績もほぼ申し分のないワールドクラスの助っ人で固めた上位常連チームと比較して、なんと魅力的なことか。そこにポイントがある。おわかりだと思う。判官びいき。無名に等しいプレーヤーがプレミアの大舞台で主役を演じる、えも言えぬ快感。
▽正直言って、モウリーニョ解任に続くファン・ハールの“危機”や、来季シティーの監督はグアルディオラで決まりだ何だという話も、今やちょっとしたサブテーマでしかない。さらに踏み込んで言うなら、優勝がどこになるかすら大した興味の的でもない。レスターがどこまであってくれるか、ワトフォードがどこまで暴れてくれるかの方が、よほど楽しみのフォーカスになっている。それと、少し視点をずらせば、じわじわと上がってきたスパーズにもファンの関心が収れんしつつある。すぐ先のスリーライオンズを担ってくれそうな、ケイン、メイソン、トム・キャロル、そしてデル・アリ(一名「ジェラードの再来」)。その熱気たるや、ユナイテッドの「クラス・オヴ・92」を髣髴とさせるものがある。ゆえに、日の出の伏兵レスターとスター軍団シティー、故障者続出にも腰を割らないアーセナルとイングランドファンの希望の宝庫スパーズなのだ。あくまでニュートラルな立場で言わせてもらえば、是非この4チームには今から4か月後もトップ4でいて欲しい、という本年の締め。いつもご愛読、感謝。2016年も改めてどうぞよろしく。
【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】
1953年大阪府生まれ
青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。
▽ご存じかどうか、競馬ではよく“サイン”なるものが取り沙汰される。勝ち馬をあたかも予言するような、一種のごろ合わせ。だが、もしそんな見方を今季プレミアリーグにも移植してみると、実はあまりにも暗示的な“サイン”があったとしたら? それは奇しくもシーズンテーマソングを歌う「カサビアン(より正確な発音は「カセイビーアン」)というバンドが、他でもないレスターで結成されたという事実。2010年のブリット・アウォードでブリティッシュ・ベストグループ賞に輝き、2014年のグラストンベリー・フェスでオープニングアクトを務めた、今最も勢いのあるロックバンドの一つだからして、別に仕組まれた云々ではありえない(このバンドを贔屓する誰かの“ひらめき”が働いたという線も・・・・いや、ないか)。思い出していただきたい。今を時めくプレミアのトップスコアラー、ジェイミー・ヴァーディーの昨季の記録はわずか4得点にすぎなかったのだ。
▽先日、現地の友人から届いたクリスマス・メッセージの冒頭にこんな一文が書かれていた。「やあ、しばらく。レスター(の大躍進)、そちらでも楽しんでるかい?」。ちなみに、彼は(このシティー戦では最後までベンチウォーマーだった)オカザキの名前にはまったく触れていなかった。察するに、2000年だったか、昇格したばかりのイプスウィッチが怒涛の大健闘で最終的に5位に食い込み、UEFAカップ(現・ヨーロッパリーグ)出場を果たしたときのセンセーションと熱気が、現地のファンの間でも湧き上がっているのではないかと思われる。冷静に過ぎる見解をあえてもってくると、前試合でリヴァプールに敗れ、今回のホームゲームでシティーを蹴散らせなかった結果だけを見た場合、息切れのわずかな予感はしないでもない。しかしご存じか? 今でもレスターの新参監督で久しぶりにブリテン島に舞い降りたクラウディオ・ラニエリは「目標40ポイント、プレミア残留」を旗印に悠然と睨みを利かせているのだ。その限りでは急な後退など浮かんでこない。
▽正直言って、モウリーニョ解任に続くファン・ハールの“危機”や、来季シティーの監督はグアルディオラで決まりだ何だという話も、今やちょっとしたサブテーマでしかない。さらに踏み込んで言うなら、優勝がどこになるかすら大した興味の的でもない。レスターがどこまであってくれるか、ワトフォードがどこまで暴れてくれるかの方が、よほど楽しみのフォーカスになっている。それと、少し視点をずらせば、じわじわと上がってきたスパーズにもファンの関心が収れんしつつある。すぐ先のスリーライオンズを担ってくれそうな、ケイン、メイソン、トム・キャロル、そしてデル・アリ(一名「ジェラードの再来」)。その熱気たるや、ユナイテッドの「クラス・オヴ・92」を髣髴とさせるものがある。ゆえに、日の出の伏兵レスターとスター軍団シティー、故障者続出にも腰を割らないアーセナルとイングランドファンの希望の宝庫スパーズなのだ。あくまでニュートラルな立場で言わせてもらえば、是非この4チームには今から4か月後もトップ4でいて欲しい、という本年の締め。いつもご愛読、感謝。2016年も改めてどうぞよろしく。
【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】
1953年大阪府生まれ
青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。
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