【日本サッカー見聞録】ハリルの次の課題

▽カンボジア対日本戦が行われる前日、17日の公式練習は冒頭15分の公開だった。ところが練習前に広報から、「今日は公開練習に変わりました」とのアナウンスがあった。もう非公開にする必要がなくなったのか、それとも指揮官はファン・サービスを考えたのか、真相は分からない。

▽その練習で目を引いたのが、ストレッチやラダー(梯子)を使ったステップワークのあとの、10メートル四方の正方形で2組に分かれてのパス回しとハーフコートを使った11対11のゲームだった。

▽正方形の四隅から選手は強いグラウンダーのパスを右回りと左回りで繰り返す。もとも不慣れな人工芝に加え、ピッチにはクッション材として大量のゴムチップが“不規則”に蒔かれている。これがパススピードを減速させるので、“速くて強いグラウンダー”を意識させたのだろう。
▽そして10分ハーフのゲーム形式の練習では、両サイドのタッチラインから5メートル内側にマーカーを置き、4-3-3のウイングやサイドバックはこのエリアに攻め上がってアーリークロスをGKとDFの間に入れる練習を繰り返していた。守備側はマーカーの外に出てプレスをかけることは許されない。そしてボール保持者は守備側が5メートルまで寄せて来たら早目にクロスを入れるという、サイド攻撃の基本練習でもある。

▽この練習を見て、「明日は引いて守る相手に徹底したサイド攻撃で揺さぶるのだろう」と予想したものだ。▽スタメンは、正直意外だった。これまで長谷部と山口の守備的ダブルボランチを採用してきたハリルホジッチ監督が、山口のパートナーに遠藤を起用。左サイドバックには代表経験の浅い藤春を起用し、長友を右サイドに回したからだ。経験の浅い2人の守備的ボランチでも彼らは難しいことをせず、簡単にサイドに展開し、あとは香川のゲームメイクから原口、宇佐美のサイドアタッカーと両サイドバックの攻撃参加を引き出せば、カンボジアDF陣は崩せると思ったのかもしれない。

▽しかし前半の日本は、ほとんどサイドからの攻撃が機能しなかった。宇佐美と原口の両ドリブラーは、アーリークロスを入れずにドリブルで仕掛けるもののペナルティエリア手前で戻しのパスの繰り返し。本来なら“相手を見下した”ドリブル突破を仕掛けるのが彼らの良さなのに、どこか遠慮がちで自身を失っているようにも見えた。

▽蒸し暑い気候での連戦と、多量のゴムチップによる柔らかいピッチコンディションに、プレーをセーブしていたのかもしれない。ここらあたりは、現地で取材していないと分からない部分で、テレビ観戦で解説している評論家の批評は“いつもの”コンディションがベースになっているだけに理想論であり、リアリティに欠けると言わざるをえない。

▽試合は後半に入り柏木が投入されたことで劇的に変わった。同じパスでも、遠藤や山口のように“出しますよ”というパスではなく、出すと見せてワンフェイク入れてから出すのでは、待ち受ける相手も戸惑う。まだまだ山口や遠藤にはそうした余裕がないのだろうが、それも仕方ないかもしれない。

▽サイド攻撃に関して言えば、長友は右サイドでも輝きを放っていた。特に本田が入ってからは、彼のキープ力から長友の良さが引き出されていた。そして藤春も、前半は宇佐美のフォロー役がメインだったものの、2度の攻撃参加で決定的なシーンを作った。まだまだ太田や米倉のレベルに達していると思えないが、これまで日本の課題だった両サイドバックのバックアッパーに名乗りを挙げたのではないだろうか。

▽両サイドバックはケガさえ治れば長友と内田の経験者、その控えが酒井高と太田、ここに米倉と遠藤に加え藤春も入って充実してきたと言える。そこで問題になるのが、カンボジアの1トップであるラポラビーに単独突破から危ないシーンを作られた吉田と槙野のセンターバックだ。2016年、ハリルホジッチ監督にとって次の仕事はセンターバックの継者探しになるのではないだろうか。

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【六川亨】1957年9月25日生まれ。当時、月刊だった「サッカーダイジェスト」の編集者としてこの世界に入り、隔週、週刊サッカーダイジェストの編集長や、「CALCIO2002」、「プレミアシップマガジン」、「サッカーズ」の編集長を歴任。現在はフリーランスとして、Jリーグや日本代表をはじめ、W杯やユーロ、コパ・アメリカなど精力的に取材活動を行っている。日本サッカー暗黒の時代からJリーグ誕生、日本代表のW杯初出場などを見続けた、博識ジャーナリストである。