【日本サッカー見聞録】ACLでG大阪が劇的フィナーレ

▽久々に目撃した劇的フィナーレだった。ACL(アジアチャンピオンズリーグ)準々決勝2ndレグのG大阪vs全北現代である。敵地での1stレグを0-0で引き分けたG大阪は、ベスト4に進出するにはホームでの勝利が絶対条件となる。ところが開始早々の12分、丹羽のハンドからPKを与えて先制点を許してしまった。▽それでも1分後の13分、遠藤のFKからオフサイドトラップを抜け出した阿部のクロスをパトリックが押し込んで同点に追いついたのは大きかった。タイスコアで迎えた後半20分、長谷川監督は次の1点を求めて攻撃的なカードを切る。オ・ジェソクに代え米倉、二川に代えてリンスを投入したのだ。すると31分、この日はトップ下に入った倉田の左足ミドルが相手選手の身体に当たってコースが変わり、ゴール左隅に決まってG大阪が逆転に成功する。▽リードを許した全北のチェ・カンヒ監督もすぐさま動いた。34分に189㎝の長身FWウルコ・ベラを投入してイ・ドングクとの2トップに変更。この采配が43分に的中し、右クロスをウルコ・ベラがヘッドで押し込み試合を振り出しに戻す。GK東口にとってはシュートに飛び込んだ全北の選手がブラインドになった格好の、不運な失点だった。
▽試合はこのまま4分のアディショナルタイムに突入。G大阪の抵抗もここまでかと思ったが、ドラマは48分に待っていた。遠藤のタテパスを受けたのは、2-1とリードして「クローザーとして入れた」(長谷川監督)DFの金正也。彼のスルーパスを受けたのもDFの米倉だった。米倉は相手DFのタックルにバランスを崩しながらも踏ん張って、GKの出際を左足で浮かしたシュートでねじ込む。そして1分も経たないうちにタイムアップのホイッスルだった。

▽米倉のゴールが決まった瞬間、ピッチに駆け込んだ長谷川監督の姿に、ジョホールバルでの岡田監督の姿がオーバーラップしたファンも多かったのではないだろうか。あの時はゴールデンゴールのため問題はなかったが、今回はまだ試合が続いているため長谷川監督には退席処分が下されたものの、その気持ちは十分に理解できる。▽死闘を制したG大阪は準決勝で広州恒大との対戦が待っている。準々決勝で広州恒大と対戦した柏は、アウェイで1-1と健闘したもののホームでの敗戦(1-3)が響き、ベスト8で敗退した。

▽ちょっと残念だったのは、G大阪は宇佐美が累積警告でこの日は出場停止のため二川を起用したが、ほぼベストメンバーで戦ったのに対し、柏はホームの広州恒大戦で若手を起用した点だ。負傷のキャプテン大谷や新外国人のエデルソンに代わり、18歳の中山と20歳の小林を起用。エデルソンはリザーブで温存した格好になった。リーグ戦でも上位に付け、ナビスコ杯でもベスト8に残っていたためターンオーバー制を採用したのだろうが、FKとCKから3失点し苦境に追い込まれた。

▽吉田監督の“闘いながら育てる”スタイルは、グループリーグでは奏功したものの、実力が拮抗する準々決勝、ましてや優勝候補の広州恒大相手では限界があったのかもしれない。柏に比べチームの完成度で上回るG大阪が、どこまで優勝候補の牙城に迫れるか。G大阪もナビスコ杯はベスト4に進出し、リーグ戦でも年間勝点でCS(チャンピオンシップ)の出場権を争っているだけに、長谷川監督の選手起用にも注目したい。

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【六川亨】1957年9月25日生まれ。当時、月刊だった「サッカーダイジェスト」の編集者としてこの世界に入り、隔週、週刊サッカーダイジェストの編集長や、「CALCIO2002」、「プレミアシップマガジン」、「サッカーズ」の編集長を歴任。現在はフリーランスとして、Jリーグや日本代表をはじめ、W杯やユーロ、コパ・アメリカなど精力的に取材活動を行っている。日本サッカー暗黒の時代からJリーグ誕生、日本代表のW杯初出場などを見続けた、博識ジャーナリストである。