【東本貢司のFCUK!】デ・ヘアをめぐるプロの策略
2015.09.02 13:30 Wed
▽大物の移籍には往々にして当該クラブ間の駆け引きのドラマが付いて回る。ただし、通常このドラマの推移が公然と詳らかにされることはまずあり得ない。ところが、このオフ最大の関心事だった「ダヴィド・デ・ヘアのレアル・マドリード移籍」が流れた経緯に関しては、どうやらその“常識"が当てはまらなかったようだ。まず、8月31日の締切日を迎える以前、「デ・ヘア→レアル、ケイラー・ナヴァス→ユナイテッド」の“プラン”はほぼ双方合意の上で確定していたと思われる。「交換トレード」ではなく、あくまでも別個に金銭が伴う事案として処理されるらしいことも。少なくとも両現地メディアはそう理解していた。ただ、それが「いつ」のことだったのかは明かされていない。おそらく「ドラマの起点」はそこに潜んでいる。すなわち「ユナイテッドが仕組んだドラマ」の出発点が。
▽結論から言えば、合意の正式な確認が行われたのは「前日」か「当日の午前中」だったのではあるまいか。なぜなら、契約書類の取り交わしが始まったのがやっと「当日午後一番」だったからだ。以下、BBCの速報記事にあるその「時系列」推移をかいつまんで振り返ってみよう。①31日(月曜日)12時39分、レアルがユナイテッドに契約書類を送付。②ユナイテッドからの「返答」が返ってきたのは、それから「8時間後」の20時43分。若干の内容変更要請が添えられており、レアルはそれを検討の上で了承、手直しした書類を再送付する。これが22時32分。③ユナイテッドがこの「合意文書」をレアルに送り返したのは「約半時間後」の22時58分。しかし、それがレアルの下に届くまでには「数分」を要した。ほぼ間髪を入れずTMS(FIFAの移籍受付システム)にアクセスするも、扉はすでにタッチの差で閉ざされた後だった。登録ならず、移籍も不成立。さて、おわかりだろうか。
▽以上が、ユナイテッド「してやったり」の作戦完了の顛末―――いや、下手をして名誉棄損に問われては困る? 多分、その心配はご無用。なぜなら、事後、ユナイテッドからこんな声明が出されているからだ。「我らがクラブにとって喜ばしいことに、二度までもファンが選ぶ最優秀プレーヤーに輝いたダヴィド・デ・ヘアは、晴れてマンチェスター・ユナイテッドの一員としてとどまることになった」・・・・。ある意味でかなり危ない橋を渡った「タイムトリック作戦」の狙いは二つある。一つは、心境的にレアル入りにかなり傾いていたデ・ヘアの気持ちを改めてオールド・トラッフォードに引き戻すこと。移籍は決まる予定だった、しかし「時間のいたずら」がそれを阻止した、仕方がない、悪く思うな、改めて来年1月には・・・・。もう一つは、これから向こう4か月間に、セルヒオ・ラモスもしくはギャレス・ベイルの「心変わり」ないしは「事情変わり」を期待する時間稼ぎ・・・・。ま、この程度の策略にうしろめたさを感じるほど、プロの世界はヤワじゃあるまい。デ・ヘアもこれでツムジを曲げるようじゃプロとは言えない。“パクリ”じゃないんだし?!
▽メディアも、苦笑まじりか若干の揶揄を込めた風でいたって冷静に見える。彼らにとってずっと関心が高く、かつ首をひねりたくなるのは、そのユナイテッドがまだ海のものとも山のものとも判断がつかない19歳の若者、アントニー・マーシャル(モナコ)に投げ出した“法外”な3千6百万ポンドなのだ。ちなみに、これまで十代のプレーヤーに支払われた移籍金の最高額は、ユナイテッドのルーク・ショー、および2013年にパリ・サンジェルマンがローマから買い取ったマルキーニョスの2千7百万。ルーニーですら2千万(プラス“出来高”によって7百万)だったのだ。おい、このマーシャルってそんなにすごい大物なのか? たった2年前リヨンからモナコに来た時の額は4百万そこそこだったのに?
▽ユナイテッドOBで現ヴァレンシア・コーチのフィル・ネヴィル曰く「2、3試合見ただけで空恐ろしいほどの潜在能力を感じた。ただし(移籍金の額は)さすがに払い過ぎだとは思うけどね」。また、フランスのジャーナリスト、フィリップ・オークレアは「ちょうど、ティエリー・アンリを髣髴とさせるけっこうな器。将来性はけた違い」と手放しで激賞しながら「あの金額にはフランス中が口をあんぐりってところだね」とやんわり皮肉も忘れない。果たして、モナコの会長はホクホク顔で「こんな額を提示されたら断り切れるもんじゃない」。楽しみと言えば楽しみな逸材。ジョン・ストーンズのチェルシー入りも消えたことだし、どうやらこの夏の移籍シーズン、話題はユナイテッドがそっくり独占してしまったようだ。無論、それはそれで“逆風”の荒れ方も激しくなる運命でもあるのだが・・・・。
【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】
1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。
▽結論から言えば、合意の正式な確認が行われたのは「前日」か「当日の午前中」だったのではあるまいか。なぜなら、契約書類の取り交わしが始まったのがやっと「当日午後一番」だったからだ。以下、BBCの速報記事にあるその「時系列」推移をかいつまんで振り返ってみよう。①31日(月曜日)12時39分、レアルがユナイテッドに契約書類を送付。②ユナイテッドからの「返答」が返ってきたのは、それから「8時間後」の20時43分。若干の内容変更要請が添えられており、レアルはそれを検討の上で了承、手直しした書類を再送付する。これが22時32分。③ユナイテッドがこの「合意文書」をレアルに送り返したのは「約半時間後」の22時58分。しかし、それがレアルの下に届くまでには「数分」を要した。ほぼ間髪を入れずTMS(FIFAの移籍受付システム)にアクセスするも、扉はすでにタッチの差で閉ざされた後だった。登録ならず、移籍も不成立。さて、おわかりだろうか。
▽以上が、ユナイテッド「してやったり」の作戦完了の顛末―――いや、下手をして名誉棄損に問われては困る? 多分、その心配はご無用。なぜなら、事後、ユナイテッドからこんな声明が出されているからだ。「我らがクラブにとって喜ばしいことに、二度までもファンが選ぶ最優秀プレーヤーに輝いたダヴィド・デ・ヘアは、晴れてマンチェスター・ユナイテッドの一員としてとどまることになった」・・・・。ある意味でかなり危ない橋を渡った「タイムトリック作戦」の狙いは二つある。一つは、心境的にレアル入りにかなり傾いていたデ・ヘアの気持ちを改めてオールド・トラッフォードに引き戻すこと。移籍は決まる予定だった、しかし「時間のいたずら」がそれを阻止した、仕方がない、悪く思うな、改めて来年1月には・・・・。もう一つは、これから向こう4か月間に、セルヒオ・ラモスもしくはギャレス・ベイルの「心変わり」ないしは「事情変わり」を期待する時間稼ぎ・・・・。ま、この程度の策略にうしろめたさを感じるほど、プロの世界はヤワじゃあるまい。デ・ヘアもこれでツムジを曲げるようじゃプロとは言えない。“パクリ”じゃないんだし?!
▽ユナイテッドOBで現ヴァレンシア・コーチのフィル・ネヴィル曰く「2、3試合見ただけで空恐ろしいほどの潜在能力を感じた。ただし(移籍金の額は)さすがに払い過ぎだとは思うけどね」。また、フランスのジャーナリスト、フィリップ・オークレアは「ちょうど、ティエリー・アンリを髣髴とさせるけっこうな器。将来性はけた違い」と手放しで激賞しながら「あの金額にはフランス中が口をあんぐりってところだね」とやんわり皮肉も忘れない。果たして、モナコの会長はホクホク顔で「こんな額を提示されたら断り切れるもんじゃない」。楽しみと言えば楽しみな逸材。ジョン・ストーンズのチェルシー入りも消えたことだし、どうやらこの夏の移籍シーズン、話題はユナイテッドがそっくり独占してしまったようだ。無論、それはそれで“逆風”の荒れ方も激しくなる運命でもあるのだが・・・・。
【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】
1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。
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