【日本サッカー見聞録】U-15日本代表FW久保建英の課題

2015.08.27 01:00 Thu
▽8月24日から、U-15日本代表候補が千葉県内でトレーニングキャンプを実施している。森山佳朗監督に率いられたU-15日本代表は、2年後のU-17ワールドカップ出場を目指すチームで、9月中旬にはU-16アジア選手権の予選(モンゴル・ウランバートル)も控えている。26日には市立船橋高校との練習試合が組まれていたので取材に足を運んだ。

▽お目当ての選手は、今年春に13歳ながら“飛び級”で現チームに加わったバルセロナ帰りの久保建英だ。6月に誕生日を迎えて14歳になったものの、それでも学年は一つ下の中学2年生。どんな顔立ちをしているのか予備知識はなかったが、試合前の練習で一人だけ華奢な身体つきと温和な顔立ちの選手がいるので、すぐに彼が久保だと分かった。

▽市船との練習試合は45分×3本。相手は中学3年生のU-15日本代表候補だけに、市船も高校1年生を主体にしたチーム編成で試合に臨むと思っていた。ところが試合前に長年のユース年代取材における第一人者で“教授”と呼ばれる安藤君に聞いたところ、「市船のモットーは全ての試合に勝利することです。今日もベストメンバーで、インハイ(準優勝)のメンバーが出ます」とのこと。
▽中学3年vs高校3年、それも全国レベルのフィジカルを相手にU-15日本代表候補がどこまで戦えるか。もちろん森山監督の狙いもそこにあるはずだが、興味津々でキックオフを待った。

▽1本目のU-15日本代表候補は現段階でのベストメンバーだと森山監督は試合後に話していた。GKは谷晃生(G大阪)、DFは右から天野悠貴(FC東京むさし)、瀬古歩夢(C大阪)、小林友希(神戸)、岩井龍翔司(横浜FM)、MFはボランチに平川怜(FC東京むさし)と福岡慎平(京都)、右ワイドに久保(FC東京むさし)、左ワイドに菅原由勢(名古屋)、そして2トップは宮代大聖(川崎)と中村敬斗(三菱養和巣鴨)の4-4-2だ(所属はいずれも各クラブのU-15)。
▽試合は1本目が0-1で市船リード。2本目は久保と山田寛人(C大阪U-18)の2トップに変えたU-15日本代表候補が、鈴木冬一(C大阪)のゴールで1点を返したものの1-3でトータル1-4。そしてサブのメンバーで臨んだ3本目も棚橋尭士(横浜FM)のゴールはあったものの1-3で、3本の練習試合の結果は市船が7-2で圧勝した。

▽45分の3連戦では、体力的にも中学3年生はキツイだろう。市船の朝岡監督も「守備は一年前に比べて組織的になったし、パワーの使いどころを覚えて危険なところでは身体を張っていた」と評価していたが、3年間という年齢差はどうしようもない。なにしろ相手は高校選手権で全国制覇を狙っているチームでもある。

▽それでも、初めて久保を見た価値はあった。まずボールを取られない。その自信もあるから余裕もあるのだろうが、トラップが上手い。柿谷が次のプレーに移りやすいところにボールを置くのに比べ、久保は相手がアタックしにくいところにスッと置き身体を入れる。そして華奢なため無理して身体を張ってキープしようとはしない。なぜならスッと次のプレーに移ってマークを無力化していたからだ。

▽そして驚かされたのは、フェイントなしで相手をかわす技術である。言葉で説明するなら「相手を誘いつつ、奪いに出て来るところでスピードアップして抜き去る」ということになるが、ボールを保持してスローダウンした状態からトップスピードに移る最初の一歩はかなり速いという印象を受けた。

▽身のこなしの巧さ、ドリブルの巧みさ、そして捉えどころのないプレー。それらはメッシのプレーにオーバーラップする。ただ、物足りないのは、ペナルティエリアに入ってもラストパスを選択していた点だ。抜くなら抜き切ってシュートを決めるメッシになってほしい。それが久保を見た初めての印象であり、同時に彼への課題でもあり期待でもある。


【六川亨】1957年9月25日生まれ。当時、月刊だった「サッカーダイジェスト」の編集者としてこの世界に入り、隔週、週刊サッカーダイジェストの編集長や、「CALCIO2002」、「プレミアシップマガジン」、「サッカーズ」の編集長を歴任。現在はフリーランスとして、Jリーグや日本代表をはじめ、W杯やユーロ、コパ・アメリカなど精力的に取材活動を行っている。日本サッカー暗黒の時代からJリーグ誕生、日本代表のW杯初出場などを見続けた、博識ジャーナリストである。

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