【日本サッカー見聞録】急成長で脅威となる中国、アセアンのライバルたち

2015.04.09 20:00 Thu
▽Jリーグの中西常務は4月9日に「世界のサッカーの潮流について」と題したメディア勉強会を開いた。これは昨夏のブラジル・ワールドカップ(W杯)で日本のグループリーグ敗退を受け、村井チェアマンが「W杯に勝てないのはJリーグにも責任がある。何が足りないのか、世界の中でJリーグを見直したい」という反省から、Jリーグの国際部などが世界のサッカーの潮流について調査。その結果、「世界のサッカーはヨーロッパの一極集中から多様化している。日本は20年をかけて築きあげてきたが、ヨーロッパ以外の進歩が脅威となっている。各国を回って話を聞き、打ち手を出したい。メディアからも話を聞き、イノベーションを起こしたい」(中西常務)ということでブリーフィングが行われた。

▽まずはお隣の中国。ACLでの躍進でも分かるように、近年急速に力をつけてきている。その背景には中国国務院が全人代でサッカーを国策として強化する方針を発表。クラブは地域密着を採り入れ、小中学校ではサッカー強化校を指定し、校庭開放で市民にもサッカーの場を提供したり、八百長の撲滅を目的にサッカーくじを導入したりと、Jリーグをモデルに整備を急いでいる。

▽「官」の旗振りだけでなく、「民」では中国企業が積極的に欧州サッカーに投資を始めた。大連万達のオーナーがアトレティコ・マドリー(スペイン)の20%を62億円で購入し、北京合力はデン・ハーグ(オランダ)の買収で合意が近いことなど、政府の後押しを受けスポーツ産業への投資に積極的だ。好調な経済力を背景に、ダリオ・コンカ(アルゼンチン)やリカルド・グラル(ブラジル)といった南米強豪国の代表クラスを獲得しているのは周知の事実。その結果、2014~2015年の冬のウインドーで、中国は約140億円を使い、イングランドに次ぐ世界第2位の買い手となった。
▽質の高い外国人選手が国内リーグに来ることでレベルが上がり、自国の選手が成長して代表チームの強化に結びついているあたりはJリーグ開幕当初の日本とまったく同じだ。脅威となるのは中国だけではない。経済的な発展の見込まれるタイやマレーシア、ベトナムといったアセアン諸国も国内リーグが盛況で、マレーシア・カップの決勝には9万人もの観客が詰めかけ、数多くの発煙筒を炊いて会場を盛り上げた。その映像は、まるでヨーロッパや南米のサッカー場と見間違うばかりだ。

▽中西常務によると、「経済成長の状況から10年後はアセアン諸国のギャラがJ1を上回る可能性が高い。今でもJ2よりタイのクラブチームの方がギャラはいい」という現状だ。2022年にW杯開催を控えるカタールは、2004年に設立した「アスパイア・アカデミー」を活用し、サッカーを始め卓球、体操などのエリート教育を始めた。13歳でスカウトすると15歳からは寮生活で競技に打ち込み、費用は全額アカデミーが持つ。その成果は昨年のAFC U-19アジア選手権優勝に表れている。「中国は12億の人口、カタールは少数精鋭でクオリティを上げていく方針」(中西常務)と各国が国内事情に即して強化に取り組んでいる。
▽Jリーグはこうしてアジアだけでなく、ナンバー1スポーツではなかったものの急成長を遂げているアメリカやオーストラリア、さらに若年層の強化に定評のあるメキシコ、そして育成に“格付け”を導入して若手選手を発掘したドイツやベルギーの例を紹介。Jリーグとしては今回の分析をもとに、日本サッカー協会(JFA)と連係して若年層の普及・強化に取り組む予定でいる。

▽少子高齢化が指摘され、経済発展も鈍化しているだけに、進境著しいアジアのライバルにどう対抗していくのか。現在アドバンテージがあるとすれば、韓国や中国、中東勢が手つかずの“地域密着”の浸透だろう。それをいかに活用していくかが今後の課題でもある。代表選手の強化はサッカー協会だけに任せていては限界があるというJリーグの姿勢、危機感も歓迎したい。

▽ちなみに今回のブリーフィングに関連した“アジアの脅威”については、5月9日発売の「サッカー批評」で、村井チェアマンと木之本興三JFA元常務理事との対談でも触れているので、興味のある方はご覧ください。


【六川亨】 1957年9月25日生まれ。当時、月刊だった「サッカーダイジェスト」の編集者としてこの世界に入り、隔週、週刊サッカーダイジェストの編集長や、「CALCIO2002」、「プレミアシップマガジン」、「サッカーズ」の編集長を歴任。現在はフリーランスとして、Jリーグや日本代表をはじめ、W杯やユーロ、コパ・アメリカなど精力的に取材活動を行っている。日本サッカー暗黒の時代からJリーグ誕生、日本代表のW杯初出場などを見続けた、博識ジャーナリストである。

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