【六川亨の日本サッカー見聞録】選手層が充実してきた手倉森ジャパン

2015.03.12 15:22 Thu
▽U-22ミャンマーを迎えてのテストマッチは、日本が鈴木(新潟)と中島(FC東京)がそれぞれ4ゴールをマークするなど9-0で圧勝した。試合直前にキャプテンの大島(川崎F)がふくらはぎに異変を感じて出場を回避するアクシデントがあったものの、代わりに入ったボランチの原川(京都)と遠藤(湘南)、そしてトップ下の中島の3人が試合をコントロール。左DF山中(柏)の攻撃参加からチャンスを作り、前半で大量7点のリードを奪った。

▽2014年1月の手倉森ジャパンの発足からちょうど1年。U-21で臨んだ昨年のAFC U-22選手権や秋のアジア大会では年上のイラクや韓国(いずれもU-23代表)に敗れたものの、その後の五輪1次予選を想定した東南アジア遠征では快勝を続けてきた。実力差を考えれば当然の結果であり、今月27日から始まるアジア1次予選でも(マカオ、ベトナム、マレーシアと対戦)問題なく1位通過するだろう。

▽攻撃の中心は先に述べた中盤の3人に加え、両サイドバック山中と松原(新潟)のオーバーラップ、そして1トップを務める鈴木(新潟)のスピーディーな突破がベースになる。ただ、これまでは鈴木に依存する部分が強く、FW陣の層が薄いことが不安材料だった。そこで手倉森監督は昨年末の東南アジア遠征で、初めて南野(ザルツブルグ)と久保(ヤングボーイズ)を招集。2人はミャンマー戦を欠場したが、1次予選直前の3月24日にはチームに合流する予定となっている。
▽荒野(札幌)、浅野、野津田(いずれも広島)らを含めた攻撃陣に彼ら2人をどうミックスしていくのか。選手層の充実は手倉森監督にとっても心強い限りだろう。懸念材料を挙げるとすれば、植田(鹿島)、岩波(神戸)のセンターバック(CB)のバックアッパーになる。西野(G大阪)、奈良(FC東京)ら長身CBはいるものの、西野は所属クラブでの出番が限られている。奈良は札幌で実績を残したものの、今シーズンからFC東京にレンタル移籍したため、どこまで実戦感覚を維持できるのか不明だからだ。

▽最後に、ミャンマーについても触れておこう。日本と同様にリオ五輪アジア1次予選突破を目指すチームであるが、日本と違い彼らは今年5月にニュージーランドで行われるU-20ワールドカップの出場権を獲得している。このため今回のメンバーでも、19歳の選手が3人、18歳の選手一人がスタメンで出場していた。ボランチで気の利いたプレーを見せていた背番号6のライン・ボー・ボーはまだ18歳だし、90分間フル出場した左センターバックと左サイドバックはいずれも19歳の選手だった。
▽恐らく彼らはニュージーランドでのU-20W杯でも主力を務めることになるだろう。日本が櫛引(清水)ら22歳の選手3人がスタメンに入り、平均年齢21歳だったのに対し、ミャンマーは22歳の選手は一人で平均年齢も20歳と若いチームだったことも大差のついた一因と言える。それでもリトリートして守りを固めてカウンターを狙うのではなく、互角の勝負を挑んできたのは、「これから東南アジアの国々と対戦するので、守備的に戦うだけでなく攻撃的に戦いたかった。日本から多くのことを学ぶことができた」(チー・ルウィン監督)からだった。
▽昨年、日本サッカー協会(JFA)の技術委員に就任した木村浩吉氏は、ラオス代表の監督を務めるなど東南アジアのサッカーに詳しいが、3月8日に久しぶりに味スタで会ったらこんなことを言っていた。

「東南アジアのチームは、日本と10回戦ったら8回は負けるけど、2回くらいは勝つサッカーを、アンダーカテゴリーからやっている。日本のポゼッションは武器だけど、それをどう勝利につなげるかが今後の課題」

▽9-0と大勝したとはいえ、公式の国際大会でも同じように勝てるとミャンマーを甘く見ない方がいい。

【六川亨】
1957年9月25日生まれ。当時、月刊だった「サッカーダイジェスト」の編集者としてこの世界に入り、隔週、週刊サッカーダイジェストの編集長や、「CALCIO2002」、「プレミアシップマガジン」、「サッカーズ」の編集長を歴任。現在はフリーランスとして、Jリーグや日本代表をはじめ、W杯やユーロ、コパ・アメリカなど精力的に取材活動を行っている。日本サッカー暗黒の時代からJリーグ誕生、日本代表のW杯初出場などを見続けた、博識ジャーナリストである。

NEWS RANKING
Daily
Weekly
Monthly