【東本貢司のFCUK!】ルールに「ひれ伏す」ことなかれ
2015.02.04 09:00 Wed
▽問題の中身、その好悪の具合はあえてさて置くとして、「ルール」なんてものは所詮暫定的措置―――しかも「このぐらいの線引きにしておこうか」という、それはもうアナログで“適当”な判断がその過程で働いた一つの“意見”だとも考えられる。つまりは「後付け」で、常に「改善更新」されてしかるべき性質を持ち、何よりも「どこがルールに反した部分なのか」を(かなりのケースで)その都度(“被疑者”の権利として)審査されなければならないから厄介千万。以上、何を言いたいかというと、「嫌疑」なんてその気になればどうにでもひねり出されてしまうものであり、だからこそ「一応の決着をつけるための判断」が公的に為されるまでは、「推定無罪」が至当なのだろう。だが、「嫌疑」をかけられただけで「ルール破り」に限りなく近いとして後ろ指をさすのみならず、だからこれ以上の「厄介」はごめんと“割り切って”しまう事例もある。え? 何の話かって?
▽ご想像にお任せするが、ここでは最近プレミアリーグ周辺で起きた“お咎め”の案件について述べよう。現在行開催中のアフリカ・ネイションズカップ(ANC)は直に大団円を迎えることになるが、この大会に出場予定だったセネガル代表のディアフラ・サコを、所属のウェスト・ハムは「背中に故障がある」との理由で辞退させた。ところが、その故障中のはずのサコが、先日行われたFAカップ・対ブリストル・シティー戦に出場、それも“まずい”ことに決勝ゴールを決めてしまったのだ。それはないぜ、とばかりに、まずは国際サッカー連盟(FIFA)が「代表戦の義務がある期間中、当該プレーヤーは所属クラブに試合に出てはならない」ルールを盾にいちゃもんをつけ“調査”に乗り出した。ブリストルC戦が行われたちょうど48時間前にANCから敗退したセネガルも怒った。ブリストルCもFIFAが「違反」の裁定を出した時点でウェスト・ハムに対して「賠償金」を請求する云々。事と次第では、試合結果がウェスト・ハムの「違反負け」と変更される可能性も十分にある。
▽ではウェスト・ハムはどう抗弁しているか。「サコの背中の故障は空路の旅に耐えられず、ブリストルC戦(アウェイ)もわざわざ彼のためにリムジンをハイアーした。そのうえ、状態を見て後半にサブで出場させた。ルールに反した事実はないと考える」。そうは言っても、前記FIFAのルールには確かに違反しているわけで、現時点でFIFAはその言い分を却下しているのだが・・・・。皆さん、ここで何かおかしいとは思いませんか? それなら問答無用でウェスト・ハムとサコに罰則を科せばいいはずなのに、FIFAは「調査する」ってどういうことだ? そう、ここが肝心なところで、公平に見たときどんなに「有罪は明らか」であっても、被疑者側には抗弁する権利が与えられ、訴追側もその手順を受け容れなければならない。それがいわば「推定無罪」の原理であり、何事も頭ごなしに決めつけることをしないのが、少なくとも国際社会の常識なのである。念のために述べておくと、純粋に国内の案件ならいざ知らずそこで文化や民族性の違いなどは通用しない。
▽要するに、ルールなんて所詮は人が作ったしろもの。そのルールに反すると思われる事案が発生したとき、もちろん違反のあるなし、是非を問うことは当然としても、同時にそのルールそのものの正当性も問われなければならない、いや、その絶好の機会でもある、ということだ。そんな場合でも、我々は安易にルールにひれ伏すことを戒めなければならない―――そう思うのだが、いかがだろうか。
▽話が少々重くなった。息抜きの意味でこんなエピソードもご紹介しておこう。この1月の移籍月間、クリスタル・パレスはバーミンガムのMF、ジョーダン・マッチを獲得したが、この23歳のマッチ、今を去ること7年ほど前、FA(イングランド協会)の「あまり知られていなかったルール(※「16歳の誕生日を迎えるまでは公式試合出場はできない」。2005年から施行)」のせいで、新記録樹立を逸している。ローティーン時代から「ジェラードの再来」の呼び声高かったマッチは、バーミンガムのリーグカップ戦でベンチ入り。当時彼は15歳と298日で、もaし出場すればトレヴァー・フランシスが持つクラブ最年少記録を更新することになっていた。ところが、試合のまさに直前、プレミアリーグ機構も把握していなかったFAのルールが人伝手に知らされ、マッチの試合登録はあえなく取り消されてしまった。ウェスト・ハムの一件に比べれば大した問題じゃない? いや、それどころか、そんなエピソードを持つマッチの活躍は否が応にもひときわ注目を集めるというものだろうし、ましてや噂通りの「ジェラードの再来」が顕現すればニューヒーローの誕生!・・・是非に期待しましょうぞ、皆さん。
【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】
1953年大阪府生まれ
青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。
▽ご想像にお任せするが、ここでは最近プレミアリーグ周辺で起きた“お咎め”の案件について述べよう。現在行開催中のアフリカ・ネイションズカップ(ANC)は直に大団円を迎えることになるが、この大会に出場予定だったセネガル代表のディアフラ・サコを、所属のウェスト・ハムは「背中に故障がある」との理由で辞退させた。ところが、その故障中のはずのサコが、先日行われたFAカップ・対ブリストル・シティー戦に出場、それも“まずい”ことに決勝ゴールを決めてしまったのだ。それはないぜ、とばかりに、まずは国際サッカー連盟(FIFA)が「代表戦の義務がある期間中、当該プレーヤーは所属クラブに試合に出てはならない」ルールを盾にいちゃもんをつけ“調査”に乗り出した。ブリストルC戦が行われたちょうど48時間前にANCから敗退したセネガルも怒った。ブリストルCもFIFAが「違反」の裁定を出した時点でウェスト・ハムに対して「賠償金」を請求する云々。事と次第では、試合結果がウェスト・ハムの「違反負け」と変更される可能性も十分にある。
▽ではウェスト・ハムはどう抗弁しているか。「サコの背中の故障は空路の旅に耐えられず、ブリストルC戦(アウェイ)もわざわざ彼のためにリムジンをハイアーした。そのうえ、状態を見て後半にサブで出場させた。ルールに反した事実はないと考える」。そうは言っても、前記FIFAのルールには確かに違反しているわけで、現時点でFIFAはその言い分を却下しているのだが・・・・。皆さん、ここで何かおかしいとは思いませんか? それなら問答無用でウェスト・ハムとサコに罰則を科せばいいはずなのに、FIFAは「調査する」ってどういうことだ? そう、ここが肝心なところで、公平に見たときどんなに「有罪は明らか」であっても、被疑者側には抗弁する権利が与えられ、訴追側もその手順を受け容れなければならない。それがいわば「推定無罪」の原理であり、何事も頭ごなしに決めつけることをしないのが、少なくとも国際社会の常識なのである。念のために述べておくと、純粋に国内の案件ならいざ知らずそこで文化や民族性の違いなどは通用しない。
▽話が少々重くなった。息抜きの意味でこんなエピソードもご紹介しておこう。この1月の移籍月間、クリスタル・パレスはバーミンガムのMF、ジョーダン・マッチを獲得したが、この23歳のマッチ、今を去ること7年ほど前、FA(イングランド協会)の「あまり知られていなかったルール(※「16歳の誕生日を迎えるまでは公式試合出場はできない」。2005年から施行)」のせいで、新記録樹立を逸している。ローティーン時代から「ジェラードの再来」の呼び声高かったマッチは、バーミンガムのリーグカップ戦でベンチ入り。当時彼は15歳と298日で、もaし出場すればトレヴァー・フランシスが持つクラブ最年少記録を更新することになっていた。ところが、試合のまさに直前、プレミアリーグ機構も把握していなかったFAのルールが人伝手に知らされ、マッチの試合登録はあえなく取り消されてしまった。ウェスト・ハムの一件に比べれば大した問題じゃない? いや、それどころか、そんなエピソードを持つマッチの活躍は否が応にもひときわ注目を集めるというものだろうし、ましてや噂通りの「ジェラードの再来」が顕現すればニューヒーローの誕生!・・・是非に期待しましょうぞ、皆さん。
【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】
1953年大阪府生まれ
青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。
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