【東本貢司のFCUK!】復活の記憶と「ウーラ」の誓い

2019.02.19 20:00 Tue
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20世紀もそろそろ終わりに近い中秋、筆者は都心某所のショッピングモールにある楽器店店頭にいた。お目当ては一人の異邦の女性シンガー、そのつつましきデモコンサート。名をセリアという、デビューしてまだ数年、国際的にもまだ知る人ぞ知る程度のノルウェイ出身の新星だったが、掘り出し物好きの筆者にはすでに“なじみ”の存在だった。かくして、キーボード一本の素朴な弾き語りが終わってまもなく、強引に申し込んだにわかショートインタヴューが始まって・・・・そのときである。ふと思いついてこう尋ねてみた。ところで実は本業がフットボール関係なんだけど、こんなスペルのあなたの同胞、知ってますか? あら、オーレね、スールシャール。わたし、そっちの世界のことは大して詳しくないんだけど、ええ、もちろん。そうか、そうなんだね、スールシャールって読むんだ!

その日から、いずこからともかく1996年の夏、マンチェスター・ユナイテッドに舞い降りるや、同シーズンチーム最多のリーグ戦18ゴールをあげていきなりチーム得点王に輝いた無名の新人「ソルスキアー」は晴れて「スールシャール」になった。明記しておくべきは、それよりほんの少し前、さすがに衰えが見えてきたエリック・カントナの後釜にと、アレックス・ファーガソンが狙いすましたアラン・シアラー獲得が土壇場で無に帰していたことである。かくて、オールド・トラッフォードに花開いた熱狂のヒットマン、人呼んで「ベイビーフェイス・アサシン」スールシャールの大活躍で、ファーギー・ユナイテッドはプレミアリーグ連覇を成し遂げる。最後の最後までデッドヒートを繰り広げたライバルが、あのシアラーを擁するニューカッスルだったのも因縁めいてドラマに箔をつけたというべきだろうか。

あれからほぼ20年ーーーややもすると劇場型思考に寄りがちなユナイテッドファンの胸には、ふと“救世主伝説”やらのフレーズまで思い浮かびつつあるかもしれない。いや、少なくとも「絵に描いたようなスールシャール就任6連勝」にはその感慨にひたってしかるべき価値はありそうだ。すなわち、あっさりと「理屈抜きで」すべての問題を解決に導いてしまう「オーレのオーラ」!(“セリエの教え”を尊重してより忠実を望むならば「オーレ」ではなく「ウーラ」のオーラとすべきだが)。何はともあれ、おそらくは「モウリーニョ美学」の理解、あるいはその構築に至る理念(とかなんとか)にうんざり・しどろもどろだった(?)ポグバ以下プレーヤーたちにとって、スールシャールはその存在そのものが“軽く丸く”受け止められたに違いない。何しろ、彼は「ふらりとやってきた新米の分際でほぼスーパーサブの身分に徹して勝ち運を引き寄せた」現身(うつしみ)なのだ。
“ナンバー5”のFAカップ・対レディング戦の少し前、ユナイテッドのプレーヤーたちは「スールシャール監督の正式就任」を“それとなく”直訴したという。スールシャール自身も「このまま続投」でもいいな、とほのめかす。スールシャール到来以来、ユナイテッドの練習場には必ず病み上がりの御大サー・アレックスの姿があるともいう。スールシャールのおかげで、ビッグクラブがこぞって注視するノルウェイ新世代14歳の天才児、イサク・ハンセン=アーローン(トロムソ)のユナイテッド入団もまもなく決まる見込みだとも。水面下で何が行われているかは想像するしかないが、筆者は確信している。いや、確信するしかあるまい。そもそも、ではスールシャールをあきらめて何とする? 少なくともプレーヤーたちはがっかりするだろう。あ〜あ、また一からやり直しか、やってらんないよな、この際いっそ・・・・なにしろ“声”はとっくにかかっているらしいのだから。

【追伸】
思わぬ体調難で相当期間の休養を強いられることになり、多方面で多大なご迷惑をおかけしてしまったこと、心よりお詫びします。ならばこそ、時ならぬスールシャールの、ユナイテッドの“復調”にもあやかって改めて精進させていただきます。改めて今後ともどうぞよろしく。
【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。

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