【決定力の正体、発売記念インタビュー】J通算220ゴールの佐藤寿人から見える、広島・名古屋・C大阪の得点力

2025.09.17 20:00 Wed
写真=難波拓未
ストライカーの全てが詰まっている。プロ通算278ゴールの佐藤寿人氏が『決定力の正体〜ゴールを奪う技術と思考〜』(ナツメ社)を上梓した。21年間の現役生活で追及・探求してきた思考と技術が凝縮。一つひとつのプレーを実際にグランドで表現しただけでなく、イラストや図解も使ってわかりやすく記されている。指導者や様々な世代のプレーヤー必読の一冊だ。

書籍の発売を記念し、佐藤氏にインタビューを実施。第2回では、現役時代に所属したチームを中心に、現在のJリーグについて聞いた。
(第2回/全3回)

取材・文=難波拓未
【精神面がストライカーに与える影響】

──現在のJリーグについて、過去に所属したチームを中心に伺わせてください。サンフレッチェ広島は昨季19ゴールのFWジャーメイン良が4得点に留まっています。代表初招集のE-1では2試合出場で5得点と量産しましたが、クラブチームでは難しい時間を過ごしています。
これは最も本人が苦しんでいる部分だと思います。もちろん代表とクラブでは役割が違うと思いますが、実際ジャーメイン自身にフィニッシュシーンがないかというと、決してそうではありません。やっぱり最後のプレーを決断するところが、昨季の得点の取れている時と今季では違う印象です。周囲からの期待を選手として非常に感じている中で、どうプレッシャーに向き合って乗り越えていけるかじゃないですか。細かいところのズレは間違いなくあると思うし、それがなければ倍以上の得点を奪っていてもおかしくない。今季ここまでは数字としては少し苦しいですが、来年も苦しいとは限りません。今季の苦悩が飛躍に繋がると考えることもできますし、最後のプレーの決断の迷いがなくなれば結果も付いてくるのかなと。

──得点を量産した翌年ならではの難しさに直面している印象ですか?

いや、そんなことはないと思いますよ。移籍によって環境を変えたことが大きいのかなと。得点が取れている時は、精神的な部分の重荷はなくて、期待されていることが前向きなエネルギーになります。ですが、期待されて試合を戦っていく中で結果を出せないと、次も取れないかもしれないっていう精神的な不安が無意識に生まれて、プレーの決断に影響するものなんです。取れている時はシュートまで決断までが早いですが、取れていない時は時間が掛かる。その一瞬の躊躇のようなものが特にフィニッシュシーンで多いのかなと。でも、全くフィニッシュシーンを迎えられていないわけではないので、僕はあまり開幕から心配はしていないです。フィニッシュシーンを迎えた時に、良い判断をして持っている技術を発揮できればネットを揺らせると思います。もちろん相手GKがジャーメインのフィニッシュを上回る反応をしている場面もあるので。惜しいシーンを迎えられているのも彼の実力ですから。

また、それをチームとしても作れているところは良いですね。昨季は序盤に得点を量産していた大橋祐紀が途中で海外に移籍して、そこからチームとしてなかなかフィニッシュワークを作れていなかった。おそらく(ミヒャエル)スキッベ監督もそれを期待してジャーメインを獲得したと思います。現状は数字として残ってないですが、そういう場面を迎えられていることは、チームとして悪くない。最終的には個人の力にはなるので、やり続けるしかないと思いますね。

──寿人さんは現役時代に12シーズン連続で二桁得点を達成しました。得点を奪い続ける中で、メンタル的な難しさはなくなっていったのでしょうか?

いやいや、もうこれは常に向き合っていかなきゃいけないですよ。終わりなんかないし、正解もありません。20得点を取っても次の年の開幕までは不安だったし、辞めるまで向き合っていかなきゃいけないですよ。それはストライカーというポジションがサッカーの中で最も数字と向き合いやすいからじゃないですかね。数字=自分の活躍や価値といった考え方は、ストライカー特有なので。だからこそプレッシャーはとてつもなく大きいですが、得点を取った時の喜びはそれ以上です。取れないことを不安に思うのが嫌だったら、このポジションはできないと思う。プロになったら重圧がより大きな形だったり目に見えるものになったり、いろいろな方面に向けられるので大変ではありますが、ストライカーをやる以上は一生、避けて通れないですね。

【チーム&個人で得点の型が作れるか】

──名古屋グランパスにはJリーグでの実績十分なストライカーが多く在籍していますが、チームとしての得点数は伸びていない印象です。どのようにご覧になっていますか?

得点を決める位置にFWがいることを考えたら、どうFWにフィニッシュワークさせるか。チームとしての全体的な作り込みに苦労している印象ですね。ボックス内で仕事をするのが、(キャスパー)ユンカーなのか、(永井)謙佑なのか、山岸(祐也)なのか、木村(勇大)なのか。

結局は最前線の選手の特徴によって攻撃の形が変わっていく。スピードがある選手なのか、後ろ向きの形でプレーが得意なのか、クロスを合わせるのがうまいのか。大きく言えば、得点の型を持っているかどうか。その型によってチームの攻撃の型も作り方が変わっていくんです。例えば、最前線にクロスに合わせるのがあまりうまくない人がいても、両サイドから突破してクロスを上げる攻撃をしていたら、チームとしての攻撃の構築と最後の個人の能力の部分でミスマッチが起きてしまう。11人の組織を作る中で、ストライカーがスペシャルワンじゃなくてもいいと思いますが、特徴をより活かすことは大事だと思います。

優秀なストライカーがたくさんいることは必ずしも幸せではないので。たくさんいるということは、すぐに人を代えられるので、軸として誰かを置きにくくなるなどネガティブな側面が出てくることもあります。逆に選択肢が限られるのであれば、その限られた中で1人の選手が出続ける。たとえ2試合、3試合取れていなくても同じ選手が出続けることで、攻撃の型が定まるなどポジティブに働く部分もあると思います。

──現在、期待している日本人ストライカーを教えてください。

純粋なストライカーではありませんが、広島の中村草太は日本には留まらない才能の持ち主なんだろうなと。スピードと加速力は想像以上でしたし、プレーの決断が早い。関東大学リーグで2年連続得点王&アシスト王になれるくらい、周りをしっかりと見ることができている。今季に彼がルーキーとして広島に入っていなければ、この順位はあり得ないと思うくらいの活躍です。

今季の開幕と今では全く違いますよね。プレーの判断がより洗練されている。最初はルーキーっぽいというか、勢いよくプレーできることが良さで、チームに活力を与えていた印象でした。でも、今はプレーの正確性や勝負強さなど主力の1人として替えの利かない選手になっています。メンタリティも含めて素晴らしいなと思いますね。

【ミキッチのクロスはわかりにくかった】

──セレッソ大阪は中位ですが、得点力に優れているチームです。

面白い攻撃をしますよね。ちゃんと後ろからボールを運びながら、ウイングのルーカス・フェルナンデスが推進力を持って仕掛けていく。サイドバックとウイングの関わり方で、相手のズレを作るのが非常にうまい。今だと迫力ある助っ人ブラジリアントリオが躍動していますよね。

──ルーカス・フェルナンデスのように突破してクロスを上げてくれる選手がいると、ストライカーはフィニッシュに専念しやすい?

そうですね。本当に質が高いですよね。最終的にはどう外から中にボールを供給するか。ボールの質と入れる場所が大事です。左サイドのチアゴ・アンドラーデはリズムが独特なので、タイミングを合わせるのは簡単ではないと思いますが、センターフォワードとしてはボックス内で相手DFの背中を取る作業に集中できる面はありますね。

──現役時代に広島で一緒だったミキッチさんもクロスの名手というイメージがありますが、そういう感覚でプレーしていたのでしょうか?

ミカはわかりにくかったですよ、めちゃくちゃ独特なので。

──そうなんですか!クロス回数が多かったと記憶していますが。

クロスは上げますけど、タイミングがわかりにくかったんですよね。ボールを置く位置が他の人と全く違いました。トップスピードに乗りながらクロスを上げる場合、少し自分の前にボールを置くことが多いですが、ミカはそれをしなくてもクロスを蹴ることができました。中で待っている時は、ボールホルダーの足とボールの距離でポジショニングを微調整します。なので、練習ではボールの持ち方の癖を観察してクロスのタイミングを把握する作業をしていました。守備側はいつクロスが入ってくるのか予測するのが難しかったと思いますよ。やはりボックス内で仕事をするには、周りの味方の特徴を的確に知ることが大事だと思います。

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