【東本貢司のFCUK!】「77分事件」が突きつける「転機」
2016.02.10 13:46 Wed
▽おや、この一連の経緯、どこかの国の茶番政治劇に似ていないか? 2月6日土曜日、アンフィールド―――ゲーム終盤の77分、およそ数千の観客が次々に席を立ち、スタジアムを後にした。その時点でホーム・リヴァプールは2-0でリードしていた。相手は降格ゾーンでもがくサンダランド。もはや勝利を確信したレッズファンが我先にパブにしけこんで…ではなかった。彼らは示し合わせていたのだ。スコアがどうあろうと「77分」にスタジアムを去る。「77」こそはキーナンバー。ゲームに先立ち、リヴァプールFCが来季の最高値チケットプライスを「77」ポンドに値上げするプランを発表したことに対する抗議の行動。果たして、これがピッチ上の双方のプレーヤーたちを、その心を陰に陽にかき乱したのか、突如ブラックキャッツの逆襲が始まり、終わってみれば2-2のドロー…。
▽フットボール・サポーターズ連盟(FSF)のチェアマン、マルコム・クラークは語る。「ファンの誰もが、更新によって来季以降のTV放映権収入が増えることを知っている。その恩恵がファンに向けられないでは済まされない」。また『Anfield Wrap』の編著者、ギャレス・ロバーツは「優に1万以上のホームファンが背を向けるなんぞ前代未聞だ。毎週のように通っては、ピッチにいるプレーヤーたちと心を一つにして戦おうとしているファンから、今以上にカネを搾り取るなんてあってはならないこと。クラブはファンの忠誠心にまで税金をかけようとするのか? もはやフットボールは“二の次”になってしまった」と嘆く。二の次、つまり、何よりもまずカネ、カネ、カネ―――そんな時代になってしまったのか、と。さて、直接矢面に立たされているのはクラブ運営陣だが、ファンが直接、その熱い思いを託すプレーヤーたちは、この問題、事態をどう考えているのだろうか。
▽「セッション」中止発表とほぼ同じ頃、アーセナルのアーセン・ヴェンゲルがいみじくも口にした(少々“不穏”な)言葉がある。「(放映権アップの)余剰金は高騰一途の補強費やプレーヤー俸給に充てられなければならない」。もし、この、エヴァンズやクラーク、ロバーツらが切に痛める心の傷に、あえて塩をなすりつけるようなヴェンゲル発言が、大方の監督連の心情を代表するものだとしたら…? アンフィールドの「77分事件」を愁う、ココロあるプレーヤーの中に、何等かの行動を起こし、かつ、呼びかける者は出てこないのだろうか。この図式が、庶民(ファン)が増税を強いられる一方で、失政(凡プレー、故障他)もものかわ歳費や給与アップを享受する公務員(プレーヤー)や、減税の恩恵を賃上げに還元しようとしない大企業(クラブ)の“身勝手”に、つい重ね合わせてしまうのは筆者だけだろうか。ファンあってのクラブ、国民あっての国家は一体どこに?
▽今この瞬間、リヴァプールは敵地でウェストハムとFAカップ4回戦のリプレーを戦っている。先行され、追いついて、現在、延長のタイムアップ間近で依然として1-1(編集部注釈:延長戦終了間際に勝ち越しを許し、リバプールが1-2で敗戦)。結果がどうあろうと、PK戦にもつれ込もうと、おそらく多くのリヴァプールファンは、半ば白けた複雑な思いで見守っていることだろう。なぜなら、対サンダランドの「意外な引き分け」によって来季チャンピオンズ出場権は風前の灯火となり、今またFAカップで早期敗退となれば、クロップ体制での大ナタ―――つまり、大々的な補強作戦が敢行される成り行きは必至。カネ、カネ、カネ。いまだ果たされない悲願のプレミア初制覇のために、飽くなき money, money, money。だが、それ何の保証、保障にもなり得ない、うんざりするようなジレンマ。高い出来合いの大物はもういい、レスターを見倣え、かつてのように自前のアカデミー強化に舵を切り替えよ。リヴァプールこそ、その範を示すべし。「77分事件」はその決断を暗に要請する真摯なフットボールファンの叫びなのではないだろうか。
【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】
1953年大阪府生まれ
青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。
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▽「Liverpool must stop taking fans for granted」と、試合後の翌火曜日に声を上げたのは元マネージャーのロイ・エヴァンズだった。「リヴァプールはもうファンに甘えていちゃぁダメだ」―――言い換えれば「ファンを舐めんなよ」。その前日、クラブCEO、イアン・エアが、土曜日のプロテスト騒動に対する反動からか、予定されていた「チケット代値上げに関するファンとの質疑応答セッション」を突如中止にしてしまったからだ。会場が大荒れになること必至と見てのことだろう。善後策を講じるタイムクッションを計ってのことだろうか。いずれにしても(一時的にせよ)逃げた。「説明をする」という約束を破った。勝手に決めておいてそれが何故必要なことなのか「説明をし、意見を聞く」機会を反故にしたのだ。いや、そもそもサポーターサイドからは「土曜日の“77分事件”がなかったとしても、幻となったセッションは大荒れになっていた」とする見解があった。▽「セッション」中止発表とほぼ同じ頃、アーセナルのアーセン・ヴェンゲルがいみじくも口にした(少々“不穏”な)言葉がある。「(放映権アップの)余剰金は高騰一途の補強費やプレーヤー俸給に充てられなければならない」。もし、この、エヴァンズやクラーク、ロバーツらが切に痛める心の傷に、あえて塩をなすりつけるようなヴェンゲル発言が、大方の監督連の心情を代表するものだとしたら…? アンフィールドの「77分事件」を愁う、ココロあるプレーヤーの中に、何等かの行動を起こし、かつ、呼びかける者は出てこないのだろうか。この図式が、庶民(ファン)が増税を強いられる一方で、失政(凡プレー、故障他)もものかわ歳費や給与アップを享受する公務員(プレーヤー)や、減税の恩恵を賃上げに還元しようとしない大企業(クラブ)の“身勝手”に、つい重ね合わせてしまうのは筆者だけだろうか。ファンあってのクラブ、国民あっての国家は一体どこに?
▽今この瞬間、リヴァプールは敵地でウェストハムとFAカップ4回戦のリプレーを戦っている。先行され、追いついて、現在、延長のタイムアップ間近で依然として1-1(編集部注釈:延長戦終了間際に勝ち越しを許し、リバプールが1-2で敗戦)。結果がどうあろうと、PK戦にもつれ込もうと、おそらく多くのリヴァプールファンは、半ば白けた複雑な思いで見守っていることだろう。なぜなら、対サンダランドの「意外な引き分け」によって来季チャンピオンズ出場権は風前の灯火となり、今またFAカップで早期敗退となれば、クロップ体制での大ナタ―――つまり、大々的な補強作戦が敢行される成り行きは必至。カネ、カネ、カネ。いまだ果たされない悲願のプレミア初制覇のために、飽くなき money, money, money。だが、それ何の保証、保障にもなり得ない、うんざりするようなジレンマ。高い出来合いの大物はもういい、レスターを見倣え、かつてのように自前のアカデミー強化に舵を切り替えよ。リヴァプールこそ、その範を示すべし。「77分事件」はその決断を暗に要請する真摯なフットボールファンの叫びなのではないだろうか。
【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】
1953年大阪府生まれ
青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。
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