【河治良幸のターニングポイント】ACLファイナルで効果を発揮した堀采配と選手の実行力。4つの変更とは?
2017.11.30 20:15 Thu
▽AFCチャンピオンズリーグ決勝はアウェーの1stレグを1-1で引き分けた浦和レッズがホームでアル・ヒラルに1-0で勝利。合計スコア2-1で10年ぶり、Jリーグ勢としては9年ぶりのアジア制覇を成し遂げ、12月にUAEで行われるクラブW杯への出場を決めた。
▽勝因はいくつか考えられるが、2ndレグで効果的だったと考えられるのが堀孝史監督の1つは状況に応じた選手起用だ。1stレグでは[4-1-4-1]を採用し、主に守備ブロックを固める戦い方で戦い抜いた。ホームの2ndレグでは「積極的にボールを奪いに行く様にして、自分たちでボールを保持する時間も作りたい」と[4-4-2](興梠と長澤の関係から[4-4-1-1]とも取れる)で臨んだ。
▽そのまま0-0でもアウェーゴールの差でタイトルを勝ち取れた浦和だが、そのアドバンテージを保持しながらホームでの勝ち越し点を狙うために堀監督は終盤に4つの変更をした。そのうちの2つは選手交代にともなうものだが、同じ[4-4-2]の中で配置を変えることで、戦術的な効果あるいはフィジカル的な効果を出す狙いが見られ、それらがうまく勝利につながった。
①宇賀神友弥(左サイドバック)⇒マウリシオ(センターバック)
槙野智章がCBから左サイドバックへ移動
▽ACLにおける守備のキーマンだったマウリシオはベンチスタートとなったが、74分に左サイドバックの宇賀神と交代で左のセンターバックに入り、槙野がセンターバックから左サイドバックに回った。理由の1つには宇賀神の疲労もあった様だが、サウジアラビア代表の主力でもある右サイドバックのモハンメド・アルブライク、打開力に優れるウルグアイ人MFニコラス・ミレシが縦に並ぶ相手の右サイドに対し、守備を強化したい意図が見られた。
▽加えてアル・ヒラルがMFのアル・ファライを下げベテランFWのヤセル・アル・カフタニを入れて1トップから2トップに変えてきたことで、ロングボールから深い位置の空中戦が発生しやすくなり、中央でマウリシオの必要性が高まった。セットプレーで相手のターゲットマンが増えたことも理由の1つだろう。また宇賀神も槙野も前半にイエローをもらっており、フレッシュなマウリシオを投入し、二人のうち守備面で頼りになる槙野を残すことも利にかなっており、複数の意味で効果的な変更だった。
▽この日のスタートポジションは興梠がセンターFW、ラファエル・シルバが左サイドハーフだったが、終盤から両者はポジションを変更。興梠は相手の危険な左サイドバックであるアルブライクをチェックし、槙野とともに左サイドのディフェンスをこなした。ラファエル・シルバは典型的なストライカーでありながら、この試合では左サイドで守備にも奮闘していたが、右足首の痛みで欠場も危ぶまれていた状況もあってか、そこから攻撃面で持ち味のスピードや打開力を発揮できないでいた。
▽さらに後半途中から体力の消耗も見られたところで堀監督が後半途中から興梠とラファエル・シルバのポジションをチェンジ。興梠は「(ラファが)守備にいけなくなっていたので自分が頑張ろうと思った」と振り返る。ここで純粋にラファエル・シルバをベンチに下げるのではなく、「個人で行ける強い力を持っている」(堀監督)。前線で残したところに指揮官の勝負師としての顔が見えるかもしれない。
▽その決断は88分に実った。競り合いのこぼれ球を武藤雄樹が拾い、そこから素早く前線に送ると、ボールを受けたラファエル・シルバはチャージに来たセンターバックのオサマ・ハウサウィを反転で破り、右足で振り抜いたシュートはクロスバーの内側に当たってゴールネットを揺らした。アウェーの1stレグでもゴールを奪っていたラファエル・シルバの値千金のゴールとなった。
③長澤和輝をボランチに、柏木陽介を前線に
▽[4-4-2]の前線で高い位置からプレスをかけ、攻撃では興梠と縦の関係を作りながら相手陣内をかき回していたのが日本代表の欧州遠征でも活躍した長澤だ。ハードワークと体格に勝る相手にも怯まない“デュエル(1対1の強さ)”で奮闘する長澤はアル・ヒラルの行動を限定する役割で効いていた。一方の柏木は中盤でアル・ファライやアブドゥラー・ウタイフの起点をチェックしながら、攻撃ではボールをワイドに散らすプレーメーカーの役割をこなしていた。
▽終盤にさしかかり、相手の推進力が強まってきたところで長澤と柏木がポジションをチェンジ。「(柏木)陽介君とポジションを交代した時間は、それまで自分は前で少し休んでいたので体力が残っていた。あそこでハードに守備をして、前の選手につなげられればと思っていた」と長澤。見る限り前線で“休んでいた”ことはほとんど無かったが、より体力的と守備の強さに自信を持つ長澤が中盤に下がり、柏木が前に出て攻撃センスを発揮するという転換も失点のリスクを減らしながら得点チャンスを狙う意図がより明確になる変更だった。
④ズラタンを右サイドに投入。武藤を左サイドへ
▽先にラファエル・シルバを前線に上げ、興梠を左サイドに回していたが、84分に興梠に代えてズラタンを投入。そこでズラタンを右サイド、武藤を基本ポジションに近い左サイドに変更した。もちろん興梠の体力的な消耗を考え、よりフレッシュでセットプレーの守備にも強いズラタンを入れたことに意味がある。
▽さらに武藤とズラタンを従来の1トップ・2シャドーでの並びに近い左右のポジションにして、ゴール前の迫力を出していく形が見られた。結果的に高い位置で武藤がボールを拾ったところからラファエル・シルバのゴールが生まれることにもつながった。
▽こうした選手交代に伴う、あるいはフィールド内の選手間でのポジションチェンジは堀監督の戦い方の1つ。槙野は前監督が作り上げたベースが無ければ今回のアジア制覇もなし得なかったことを前置きしながら「堀さんは相手の良さを消しながら、自分たちの良さを出すスタイル。勝利に徹する意味ではこの戦い方の方が、自分たちらしく戦える」と説明する。
▽今回のアジア制覇で参加資格を得たクラブW杯はまず開催国枠のアル・ジャジーラとオセアニア王者オークランド・シティの勝者と対戦する。そこを勝ち上がれば前回王者でもある欧州王者のレアル・マドリーに挑むことができる。初戦の相手をしっかりと叩き、欧州王者にどう立ち向かっていくのか。
▽しかしながら、指揮官や選手たちはその前に29日のJ1川崎フロンターレ戦、さらに12月2日の横浜F・マリノス戦を残していることを自覚しており、そこをしっかり戦ってUAEに飛び立つことを誓っていたのが印象的だ。
▽勝因はいくつか考えられるが、2ndレグで効果的だったと考えられるのが堀孝史監督の1つは状況に応じた選手起用だ。1stレグでは[4-1-4-1]を採用し、主に守備ブロックを固める戦い方で戦い抜いた。ホームの2ndレグでは「積極的にボールを奪いに行く様にして、自分たちでボールを保持する時間も作りたい」と[4-4-2](興梠と長澤の関係から[4-4-1-1]とも取れる)で臨んだ。
▽そのまま0-0でもアウェーゴールの差でタイトルを勝ち取れた浦和だが、そのアドバンテージを保持しながらホームでの勝ち越し点を狙うために堀監督は終盤に4つの変更をした。そのうちの2つは選手交代にともなうものだが、同じ[4-4-2]の中で配置を変えることで、戦術的な効果あるいはフィジカル的な効果を出す狙いが見られ、それらがうまく勝利につながった。
槙野智章がCBから左サイドバックへ移動
▽ACLにおける守備のキーマンだったマウリシオはベンチスタートとなったが、74分に左サイドバックの宇賀神と交代で左のセンターバックに入り、槙野がセンターバックから左サイドバックに回った。理由の1つには宇賀神の疲労もあった様だが、サウジアラビア代表の主力でもある右サイドバックのモハンメド・アルブライク、打開力に優れるウルグアイ人MFニコラス・ミレシが縦に並ぶ相手の右サイドに対し、守備を強化したい意図が見られた。
▽加えてアル・ヒラルがMFのアル・ファライを下げベテランFWのヤセル・アル・カフタニを入れて1トップから2トップに変えてきたことで、ロングボールから深い位置の空中戦が発生しやすくなり、中央でマウリシオの必要性が高まった。セットプレーで相手のターゲットマンが増えたことも理由の1つだろう。また宇賀神も槙野も前半にイエローをもらっており、フレッシュなマウリシオを投入し、二人のうち守備面で頼りになる槙野を残すことも利にかなっており、複数の意味で効果的な変更だった。
②ラファエル・シルバをセンターFW、興梠慎三を左サイドへ
▽この日のスタートポジションは興梠がセンターFW、ラファエル・シルバが左サイドハーフだったが、終盤から両者はポジションを変更。興梠は相手の危険な左サイドバックであるアルブライクをチェックし、槙野とともに左サイドのディフェンスをこなした。ラファエル・シルバは典型的なストライカーでありながら、この試合では左サイドで守備にも奮闘していたが、右足首の痛みで欠場も危ぶまれていた状況もあってか、そこから攻撃面で持ち味のスピードや打開力を発揮できないでいた。
▽さらに後半途中から体力の消耗も見られたところで堀監督が後半途中から興梠とラファエル・シルバのポジションをチェンジ。興梠は「(ラファが)守備にいけなくなっていたので自分が頑張ろうと思った」と振り返る。ここで純粋にラファエル・シルバをベンチに下げるのではなく、「個人で行ける強い力を持っている」(堀監督)。前線で残したところに指揮官の勝負師としての顔が見えるかもしれない。
▽その決断は88分に実った。競り合いのこぼれ球を武藤雄樹が拾い、そこから素早く前線に送ると、ボールを受けたラファエル・シルバはチャージに来たセンターバックのオサマ・ハウサウィを反転で破り、右足で振り抜いたシュートはクロスバーの内側に当たってゴールネットを揺らした。アウェーの1stレグでもゴールを奪っていたラファエル・シルバの値千金のゴールとなった。
③長澤和輝をボランチに、柏木陽介を前線に
▽[4-4-2]の前線で高い位置からプレスをかけ、攻撃では興梠と縦の関係を作りながら相手陣内をかき回していたのが日本代表の欧州遠征でも活躍した長澤だ。ハードワークと体格に勝る相手にも怯まない“デュエル(1対1の強さ)”で奮闘する長澤はアル・ヒラルの行動を限定する役割で効いていた。一方の柏木は中盤でアル・ファライやアブドゥラー・ウタイフの起点をチェックしながら、攻撃ではボールをワイドに散らすプレーメーカーの役割をこなしていた。
▽終盤にさしかかり、相手の推進力が強まってきたところで長澤と柏木がポジションをチェンジ。「(柏木)陽介君とポジションを交代した時間は、それまで自分は前で少し休んでいたので体力が残っていた。あそこでハードに守備をして、前の選手につなげられればと思っていた」と長澤。見る限り前線で“休んでいた”ことはほとんど無かったが、より体力的と守備の強さに自信を持つ長澤が中盤に下がり、柏木が前に出て攻撃センスを発揮するという転換も失点のリスクを減らしながら得点チャンスを狙う意図がより明確になる変更だった。
④ズラタンを右サイドに投入。武藤を左サイドへ
▽先にラファエル・シルバを前線に上げ、興梠を左サイドに回していたが、84分に興梠に代えてズラタンを投入。そこでズラタンを右サイド、武藤を基本ポジションに近い左サイドに変更した。もちろん興梠の体力的な消耗を考え、よりフレッシュでセットプレーの守備にも強いズラタンを入れたことに意味がある。
▽さらに武藤とズラタンを従来の1トップ・2シャドーでの並びに近い左右のポジションにして、ゴール前の迫力を出していく形が見られた。結果的に高い位置で武藤がボールを拾ったところからラファエル・シルバのゴールが生まれることにもつながった。
▽こうした選手交代に伴う、あるいはフィールド内の選手間でのポジションチェンジは堀監督の戦い方の1つ。槙野は前監督が作り上げたベースが無ければ今回のアジア制覇もなし得なかったことを前置きしながら「堀さんは相手の良さを消しながら、自分たちの良さを出すスタイル。勝利に徹する意味ではこの戦い方の方が、自分たちらしく戦える」と説明する。
▽今回のアジア制覇で参加資格を得たクラブW杯はまず開催国枠のアル・ジャジーラとオセアニア王者オークランド・シティの勝者と対戦する。そこを勝ち上がれば前回王者でもある欧州王者のレアル・マドリーに挑むことができる。初戦の相手をしっかりと叩き、欧州王者にどう立ち向かっていくのか。
▽しかしながら、指揮官や選手たちはその前に29日のJ1川崎フロンターレ戦、さらに12月2日の横浜F・マリノス戦を残していることを自覚しており、そこをしっかり戦ってUAEに飛び立つことを誓っていたのが印象的だ。
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