コラム

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【東本貢司のFCUK!】FCUKの夢、全開 ?!

▽苦境にあってもクラウディオ・ラニエリの頭は澄んでいる。むしろ、こうなることを予期して、あえて泥をかぶる心意気が透けて見える。セヴィージャの地に旅立つ直前、“ティンカーマン”はずっと胸の奥底に秘めてきた本音を告白した。「昨シーズン終了をもって辞任する道もあった」。その、ミラクルな“名声”を人々の記憶に押し付ける身勝手を良しとせず、必ずやってくる茨の道を選んだ“男気”を。だからこそ、チャンピオン転じて降格の危機に直面している最中にあっても、レスターは迷うことなくラニエリ支持を公言し、プレーヤーたちも望外の夢を見させてくれた恩義に報いて愚痴の一つも漏らさなかった。ここには、昨今の“目先の損得勘定”でやっつけの措置に走る(もしくは、それが当然とばかりにうるさく暴言をまき散らすファンやメディアに惑わされる)愚挙など、一切跳ね返す、クラブの意地、いや、本来の姿、ステイタスがある。ヴェンゲルのクビをしどけなく叫ぶファンの皮をかぶった似非ファンには爪の垢を煎じて飲ませてやりたいものだ。 ▽その意気に(「この対セヴィージャ・ファーストレッグが我々のターニングポイントになるかもしれない」と述べたラニエリの決意とメッセージに)、プレーヤーたちは応えてみせた。スコアは2-1、ゲーム単体では敗れたが、貴重な、この上なく値千金のアウェイゴールをもぎとってみせた。それも、今シーズンここまですっかり冴えを失っていたドリンクウォーターのスルーパスから、シンボルエースのヴァーディーが蘇ったようにシャープな身のこなしから決めた。あとは、どこぞの国で“ホワイトデイ”とか称する奇妙な習慣が男たちを戸惑わせる「3月14日」(のホーム、セカンドレッグ)まで、“彼ら”が何をどうして“身を証明する”かにかかっている。それで、レスターの明日も見えてくる。ひとまず、ラニエリの言う「ターニングポイント」は良き方向へと舵を切った。そもそも、はらはらドキドキ胸を騒がせるのが“ミラクル・レスター”の魅力、真骨頂ならば、これはもう筋書通り。大敵セヴィージャを少しなりともがっかりさせた意義は相当にデカい。 ▽その前日、苦闘の末にホーム・ファーストレッグを勝ちで収めたマンチェスター・シティーの方はどうか。反発しての5得点は褒めてしかるべき。だが、3失点のツケは小さくない。グアルディオラの表情も「次にこちらが得点できなければ、多分終わる」と冴えない、心細い。数字以上に、レスターのアウェイゴール1は、モナコのアウェイゴール3は、天と地の差ほどに見える。なかでも、蘇ったファルカオの2ゴール以上に、ムバッペの(その時点での)勝ち越しゴールは鮮烈なメッセージだった。キリアン・ムバッペ、18歳。そう、アーセン・ヴェンゲルが「ティエリー・アンリに似たところがある」と言い切った新星。モナコがヴェンゲルの“縄張り”だったからには、その将来性に注目しないではいられない。すなわち、ムバッペの将来は、アーセナルの今後の巻き返し(プレミアおよびチャンピオンズ)にも大きく左右されるはず。アンリを大成させたヴェンゲルか、それとも、パリSG、シティー、チェルシーの“カネ”か。ムバッペという青年の気質はいかほどなのだろうか。“それでも”ユナイテッドにこだわるマーシァルほどの気骨の持ち主なのか。 ▽そのマン・ユナイテッドはめっきり安定感を増してきた。負けない手応えは現状、おそらくチェルシーをも上回る。サンテティエンヌだろうと何だろうと、隙も抜け目もなく、さも当たり前のように退ける。ひとえに勝利の質と中身にこだわるモウリーニョに、悠々落ち着いたポストマッチコメントをものさせる。おまけに、このサンテティエンヌ撃退では、ファンにとってちょっとした希望をももたらす“瑕疵”をも引き連れてきた。ミヒタリアン(とキャリック)の故障だ。目前に控えたえEFLカップ決勝(対サウサンプトン)に、ルーニー起用の目が現実的になったこと。どこかひねくれたところのあるジョゼ君のことだ、先発で使うかどうかは少々怪しまねばならないが、ちょうど中国のCSL行きが取りざたされていた最中で、ルーニーを“引き留める”(といっても本人にその気はさらさらないが)恰好の口実にはなる。レスター同様、ルーニーにとっても、これは何かが変わるきっかけになりそうだ。チャンスは誰も文句がつけようのない形で生かさねばなるまい。スタンドで観戦していたサー・アレックスもひそかに「その証明」を望んでいるだろう。 ▽ここまでをまとめてみるならば、レスターは俄然昨シーズンの光を再び取り戻して残留を確保し、少なくともセヴィージャを撃退してみせる。ルーニーはウェンブリー(のEFL決勝)で、モウリーニョの信頼を取り戻し、ユナイテッドのキャプテンたる真のステイタス奪回に力強く再生する。“アンリの再来”ムバッペはアーセナル入団の夢を語り、いずれガナーズの一人としてプレミアにお目見えする。そういえば、FAカップ準々決勝でチェルシー-ユナイテッドの大一番があるんだっけ。これは大変な(いずれの優勝云々は関係なく)ゲームになる。願わくば、それまでに(時間はあまりないが)ルーニーが掛け替えのない存在として復活していますように。“何か”をさらに実り多きものにするためにも。いやはや、希望的観測ばかりで恐縮ながら、FCUKはすべてが“叶う”ことを祈らずにはいられない。あともう一つ、アーセナルの怒涛の追い込みとヴェンゲルの契約更新。まさかと苦笑する向きもあろうが、ここからあっと驚く(?)チャンピオンズ決勝へとひた走るガナーズの“快挙”にも夢を馳せたい。いや、できないはずはないと思うのだが?【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2017.02.23 12:54 Thu
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【東本貢司のFCUK!】エンリケとヴェンゲルの差

▽これはちと、ひどい。いくらなんでもリターンマッチで4点差を跳ね返すのは骨が折れるどころではない。チャンピオンズ・ラスト16。バルセロナとアーセナルのことだ。ただし、両者の問題と修復への課題には、天と地の差ほどの、つまり、まるで正反対の要因があることを見逃してはいけない。あえてこのコラムでスペインの雄を引き合いに出す意味もそこにある。バルサの蹉跌、その理由は(たぶん)誰の目にも明らかだろう。十八番の、トレードマークのポゼッションプレスよ、今いずこ。いや、それ自体は必ずしも失敗だとは言えない。方向転換(の必要性)はどんなチームにも、いつかめぐってくる。しかし、それを承知の上だとして、ルイス・エンリケが見誤ってしまった最大の失敗とは・・・・メッシ、スアレス、ネイマールの“ワンダー3”にあまりにも頼りすぎた戦術・・・・いや、それはもう戦術でさえない。いったい「個の能力任せ」のどこに戦術があろうか。筆者はいまだに首を傾げている。就任1年で「ルイス・エンリケの戦術論」本が世に出た“謎”について。 ▽パリSGの前に無残の散った試合後、セルヒオ・ブスケッツは「我々は戦術的に敗れた」と述べたそうだ。それを会見の場で伝え聞いたルイス・エンリケは「何のことか(ブスケットが何を指してそんなことを言ったのか)さっぱりわからず」、当の記者に逆切れして?みついたという。そして、その一件を伝え聞いた某評論家は「これで終わりだな」と思ったとか。ルイス・エンリケ体制の終わり。すでに後任候補の名はいくつか上がっている。最有力はセヴィージャの将、ホルヘ・サンパオーリ。バルサ上層部はスパーズのポチェッティーノやエヴァートンのクーマンも「お気に入りリスト」にアップしているといわれているそうだ。もっとも、リーガとコパ・デル・レイの優勝の目はまだ残っている。タイトルを一つは確保できればお目こぼしはあるのかも・・・・いや、その可能性は低いと、前出の評論家は断言する。ブスケッツの指摘にルイス・エンリケがカチンときたということは、プレーヤーたちに不信の輪が広がり、エンリケ自身にもきっと思い当たる節があるからだ。 ▽では、アーセナルは? エミレイツに戻ってこの、緩急自在の剛腕をまざまざと見せつけたバイエルンをひっくり返すのは至難の業。つまり、チャンピオンズはほぼ絶望、残る現実的なタイトルの目はFAカップだけだ。この数年、定番のようになった(今やイングランドでも哀しいかな価値が薄れゆく一方の)トロフィーを仮に獲ったところで、アーセン・ヴェンゲルの地位は保たれるのか? 確率でいえば「保たれる」方に、筆者なら賭ける。なんとなれば、こちらは戦術で負けたわけではないからだ。明白な力負け。つまり、敗戦の責任は一にも二にもプレーヤーたちの側にある。具体的には、ガナーズの生命線というべきペース(スピード)の点で、バイエルンにほぼ完全に競り負けた。その上、バイエルンが絶妙な間合いで差しはさむ「緩」に翻弄されてはおよそ太刀打ちできるはずがなかった。なにゆえに? 思うに、あのワトフォード戦敗退の屈辱がまだ尾を引いている。精神的に立ち直れていない。だからペースで敵を上回るヴァイタリティーを絞り出せなかった。 ▽最近、何かというと、かつての“レジェンドたち”のコメントが引き合いに出される。本人たちが何を言ったかということより、そこには、あの「インヴィンシブル」シーズンのチーム(2003-04)と比較したがっている(ゲスな)“下心”が透けて見える。無論、そんな“揶揄めいた”ことに何の意味もない。比べる基準などどこにもないからだ。ならば、さすがに無敗とはいかずとも、アーセナルが今も優勝争いの輪に踏みとどまっているのはなぜだ? 当時とまったくわけが違うのは、あの翌シーズンからチェルシーの“爆買い”が始まり、しばらくしてマン・シティーも追随したという、いわば「世界が変わってしまった」ことである。同じ尺度で測れるはずがない。そんなことよりも、今季のアーセナルはここまでを通してほぼベストメンバーを組めないで、何とかやりくりしてきた点を思い出すべきではないか。無論、今後、思い切った補強に向かうのは当然だとして、そこで立ち止まって考えてみなければならない。ヴェンゲルが去ったアーセナルにはたして、誰が、どんな大物即戦力がはせ参じるだろうか。上辺しか見ない輩にはそこがわかっていない。 ▽ルイス・エンリケには悪いが、そこに天と地ほどの差があるのは明白だろう。そう、このバイエルン戦を控えた時点でも「後継者」候補が取りざたされていた。だが、そのどれをとっても(エンリケじゃないが)さっぱり理解に苦しむ話にしか聞こえない。果ては、現在イングランド2部のニューカッスルを率いるベニテスの名前が飛び出す始末。笑ってしまうしかないが、筆者は思ったものである。どうせ“冗談の一環”なら、サー・アレックス・ファーガソンの名前くらい出してみろ、と。さもなくば、ヴェンゲルの前の前のジョージ・グレアムとか。“物理的”に現実味のある名前を出すことに、むしろ真実味が薄れるのに、誰も気づかないとは。かつてのガナーの一人、マーティン・キーオンは「まだアーセナルはヴェンゲル更迭の準備ができていない」と述べ、イェンス・レーマンは「チャンピオンズを獲ってこそ、アーセナルもヴェンゲル自身も“変化”を真剣に考えるだろう」と予言している。そう、まだ早いのだ。それに何よりも、ヴェンゲルが去って誰が来たところで、その節は多分、いやきっと、サンチェスとエジル辺りは新天地を望むだろう。そうなってからでは遅い、いや、それこそ壮大な一からの出直しになってしまうだろうから。【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2017.02.16 13:25 Thu
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【東本貢司のFCUK!】歴史が培ってきたクラブカラー

▽ふ~ん・・・・「ヴェンゲル解任を求めるプラカードにツイート」? アレックス・オクス=チェンバレンが“誤って”「いいね」を押したとかどうしたって? ま、メディアが「事実」を報道するのは致し方ないとしても、こんなこと日常茶飯事なんですよ、皆さん。ファンたるもの、熱ければ熱いほど、何かしなきゃという強迫観念にとらわれて、一時の激情、それも最も“過激でわかりやすい”文言を吐き散らしたくなるのが世の習い。要するに欲求不満のはけ口、その発露なのであって、それ以上でもそれ以下でもない。昨年末辺りじゃ「今シーズンこそ(優勝まで)行けるぞ」と、期待に胸を膨らませていたはずだろうから、悔しさ、やり切れなさのほどはよ~くわかる。しかし、そんな彼ら自身とて、今この現状を確実に好転させる監督交代などあり得ないことも、よ~くわかっている。仮にもしそうなってしまったら、今度は「アーセナル理事会解散」を叫び出すに違いない?! ▽「ミラクル」から一転、残留争いのアリジゴク(の穴)でもがいているレスターの上層部はこのほど、クラウディオ・ラニエリに引き続き全幅の信頼を置く、と明言した。そもそも昨シーズンが出来過ぎだったこともあるだろうが、ならばなおのこと、解任させる根拠がないからだ。初年度で望外の結果を出して次年度に揺り戻しが来たという、まともな神経の持ち主なら当然、「想定内」と受け取ってしかるべきであり、つまり、ラニエリを評価する材料など、まだ何ひとつと言っていいほど見当たらない。もし仮に、プレーヤーサイドからの“要請”なりがあれば、レスターの理事会も「動く動かない」の議論を持つだろうが、それも一切聞こえてこない。さもありなん、非のほとんどはプレーヤーたちの方にこそある。動きが緩慢、パスミス続出、何をやっても思い切りが悪い・・・・二つ三つゲームを眺めていればすぐ、それがわかる。どこぞの訳知り顔(大抵は戦術論を振りかざす輩)が「カンテがいなくなったのがね・・・・」? 失礼にもほどがある。5人6人が抜けたのならいざ知らず、たった一人のせいでプレミアを制したチームがガタつくなんてあるものか。 ▽それでも、彼らはまだチャンピオンズで生き残っている。大したものではないか。何年か前のエヴァートンに比べれば、超のつく快挙と言ってもはばからない。クラブ史上初、本人たちも夢か幻か、てな心境だったに違いないのだから。(グループリーグの)相手に恵まれた? またしても失礼千万。こういう、一握りの“常連強豪”ばかりをもてはやす通気取り(実際、こういう手合いは“それら以外”のチームについてロクに知っている節もなければ、勉強した跡すらない!)が、年々フットボール観戦の面白さを台無しにし、純粋なファンの楽しみを矮小化している・・・・違うと言い切れますか? ごくごく要約して言うなら、やることなすこと上手くいってプレミアの王者になってしまった、実にむずがゆくてどうやってもどんと構えてなどいられない重圧と、ここだけは失うもののない格下チャレンジャーとしてぶつかっていける解放感の対比が、今季のレスターなのである。だからこそ、レスターは今後もラニエリを全力でバックアップする意志をあっさり更新した。 ▽さて、ここで考えていただきたい。では、アーセナルの経営陣、理事会は、ヴェンゲル支持を改めて確認する何らかの言動をものしたか。していない。多分、今後もする“予定”はない。なぜなら、彼らはヴェンゲルの方から辞任の意思を伝えてこない限り、何もするつもりはないからだ。いや、ヴェンゲルが辞めたいと言ったとしても、全力で翻意を促すだろう。この世界には、成績が悪くなると監督のクビをすげ替えるのを当たり前と考える人々がうようよしている。クラブ経営陣のお歴々も、専任ジャーナリストも、元プレーヤーの評論家も、元プレーヤーで評論家経験も持つ監督経験者も、例外ではない。率直に言おう。そういう方々、手合いからは、歴史についてロクに(本心は「これっぽちの」と言いたいところだが)知識も、理解も、リスペクトも感じられない。ざっと10年ほど前、ある高名なコーチ経験者の評論家が、筆者に向かって「ファーガソン、まだ辞めないんですか?」と呆れ顔で問いかけたときは、正直唖然とし、内心ひどくがっかりしたものである。 ▽そして、本来なら「わかっているはずの」オーナーサイドですら、最近はしびれを切らすのが早くなったきらいがある。無論、そのほとんどが異邦の投資家グループだという事実と密接にリンクしている。つまり、クラブの歴史、言い換えれば、当クラブならではの伝統に基づくスピリット、優に百年以上をかけて培ってきた“カラー”に対する敬意など、多分、彼らはもはや何の役にも立たないと見切っている節がある。が、現実は正直だ。ファーガソン勇退後のユナイテッドがどんな行く末をたどってきたかを振り返れば、言葉を尽くす必要もないだろう。そして、アーセナルもアーセン・ヴェンゲルあっての“今そこにある”アーセナルなのである。もし、ヴェンゲルが去った日には、アーセナルもそっくり別物になり果ててしまうだろう。このざっと20年間、見続け、それなりに理解してきたアーセナルではなくなってしまうだろう。それでも「結果オーライ」なら良しとするかどうかは“彼ら”の問題だ。いや、いずれはそんな日も必ず訪れる。そして「ヴェンゲル解任」を叫んだあの熱血ファンが、いざその日が来て失望に暮れ、あのときの“暴言”を後悔するのも目に見えている。ひょっとしたら、それを“予見”してしまったからこそ、その“恐怖”に怯えたからこそ、彼は思わず“逆噴射”してしまったのだろうか・・・・。【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2017.02.08 13:25 Wed
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【東本貢司のFCUK!】迫りくる「最後のチャンス ?!」

▽これは痛い! ホームでのまさかの敗戦。ワトフォードがトップフライト(1部)でアーセナルに勝ったのは1988年以来のことになるが、そんなことはこの際どうでもいい。アーセン・ヴェンゲルは敗因についてこう述べている。「前半、ことごとく一対一で敗れ、動きも総体的に緩慢だった。我々は精神的にゲームへの気構えを欠いていた」。つまり、事実上の完敗。さては3日前のFAカップ戦(対サウサンプトン)大勝のマイナス反動? だとしても、対エヴァートン、マン・シティーの連敗からすっかり立ち直ったに見えて、このセットバックには危機感に苛まれてしかるべし。よくよく振り返れば、その後の(このワトフォード戦直前まで)7戦は、どれをとってもほぼ実力的に“組しやすい"相手ばかりだった。とはいえ、この1月だけで7試合の超強行軍。12月も6試合。これで疲労のせいにはできないなどとはとても言い難い。とはいえ、それはどこも同じなのだが・・・・。 ▽某ガナーズファンは、同日後刻、首位チェルシーがリヴァプールと引き分けて「助かった」と宣った。が、本当にそうか? 確かに、チェルシーは「勝てるゲームを引き分けた」点も指摘されるかもしれない。すなわち、ディエゴ・コスタのPK失敗・・・・。ここで、リヴァプールの将、ユルゲン・クロップは、いかにもといったトーンでコスタを激賞するコメントを出して“混ぜっ返して"いる。クロップ一流の“マインドゲーム"・・・・? とか何とかはさておいて、一つ視点を変えてみれば、「助かった」のではなく「せっかくのチャンスをふいにした」とは考えられないか? 一つは、ライバルが軒並み“複数ポイント"を逸してくれた恩恵を生かせなかったこと。もう一つは、もし勝てる試合を勝てなかったのだとしたら、チェルシーは次なるゲームにまなじりを決して臨んでくるに違いないだろうこと(コンテはいつになくえらく悔しがっていた。なんとなれば、その次戦、今週土曜日の相手こそまさにアーセナルなのだ。これはとんでもない一大決戦になりそうな・・・・。 ▽そのココロとは・・・・このざっと10年前後の経緯を振り返っても、ヴェンゲル・アーセナルの十八番の一つともいえるのが「危機感に苛まれたときほど一丸となって結果を出す」ことであり、おかげで幾度となく「大逆転」あるいは悪くとも「最低限」の成果を収めてきたことだけは思い出しておきたい(是非、過去をひもといていただきたい)。つまり、だからこそ、今週末の直接対決はおそらく、後々語り種になってしかるべき今シーズン最大のイベントになること必至なのである。すなわち、コンテ・チェルシーが(幸便にもホームで)勝てば、さしもの筆者も「優勝は九分通り・・・・」と推定せざるを得なくなる。ああ、もちろん、試合はまだそこそこ残っているのだから、この“業界"の決まり文句通り「何が起きるかわからない」。だが、このめぐり合わせなのだ、ここでアーセナルの反発が実らない事態になれば、以後残りの日程で終始、ガナーズの面々の心理には拭い去りようのない“負い目"が染みついてしまう。反骨の志がどうやっても萎んでしまいかねない・・・・。 ▽とはいえ逆に(週末のチェルシー戦に)勝てば、勝ち点差6がひどく“軽く"見えてくるはずのアーセナルに比べれば、同じホームで同率最下位だったハルと引き分けたマン・ユナイテッドの“絶望感"たるや、ほぼヤケッパチになっても仕方のないレベルだろう。ジョゼ・モウリーニョが、ポストマッチ・インタヴューを途中でうっちゃってさっさと引き上げてしまったほどに。さもありなん、ユナイテッドにとってはそれこぞ「最後のかすかなチャンス」だったのだから。残り15試合で首位チェルシーとの差15は、さすがにほぼ白旗宣言。しかも、お隣のシティーが“ネイマール二世"ガブリエル・ジェススのデビューゴールで圧勝したとあっては、ここでも心理的に凹む。寝覚めが悪い。もっとも、インタヴュアーが「レフェリーの判定云々」を切り出したものだから、それがモウリーニョの癇にさわったために、ぷいっと“ウォークアウト"したのは否めなかったのだが・・・・。どうやら今後のプレミア覇権争い、各指揮官のアタマがどれだけクールダウンして“再起"にもっていけるかにかかっているような気がしなくもない・・・・。 ▽おや、ペップ殿だけは「相変わらず」他人事のような冷静さ。「トップの3人の平均年齢20歳」を自慢げに語って、どこ吹く風の「未来志向」とはまた剛毅な。よくぞ言ったものである。「ウェスト・ハムはマンチェスター・シティーにとってパーフェクトなチーム。なぜなら(いまどき?)4-4-2でやってきてくれたから、中盤で(相手を)ぶっ壊すのは楽だったよ」? ふーん、これはどうも、悪い“憑き物"でも落ちたのかな?【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2017.02.02 13:58 Thu
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【東本貢司のFCUK!】モード、セリフ、ムード

▽ユルゲン・クロップの顔から笑顔が消えた。気が付けばセットバックモードに入っている。その序曲は、マン・シティーを葬った直後、中二日のサンダランド戦ドローだった。つまり「2017年」というキーワード。以後5試合、勝ったのはFAカップ3回戦(対プリマス)のみ。その、弱小相手ですら、ホームで無得点ドロー、敵地でやっと1-0の辛勝だ。とどめが、悪夢のようなスウォンジー戦の競り負け。苦悩の訳は歴然としている。サンダランド、プリマス、スウォンジー…一体、どこの誰が、この“3弱”に、チェルシー追撃の一番手を走っていたレッド・マージーサイダーズが手こずるなどと思ったろうか。そんな最中のレジェンド帰還。スティーヴン・ジェラードのお出まし、コーチ就任発表。大歓迎? それはそうだろう…いや、そうなのか? ジェラードは早速チクっと(クロップの戦術に)やったではないか。おまけに補強の目論見も思うように運んでいない。だめだクロップ、ここで弱音を吐いていては。少なくとも余裕の笑顔はキープしなきゃ。 ▽残り16試合。ディエゴ・コスタ問題がクリアになった(らしい)チェルシーのこれからをざっと俯瞰してみよう。今月末、そのリヴァプール戦がある。アウェイだ。ここで弱り目のクロップにさらに塩をなすりつけようものなら、ライバルを一つ(形而上)蹴落とせる。続いて、中三日でガナーズとの天王山。ここでも、今度はホームの地の利で乗り切れば、優勝マジック(そんなものはないが、いわば心理的な意味で)が見えてくる。3月末のストーク戦(アウェイ)は注意を要するとしても、残る目立った障壁は、4月初旬のシティー戦(ホーム)と、同中旬のユナイテッド戦(アウェイ)くらいだ。ただし、たぶんFAカップも絡んでくるだろうから、一番の敵は過密日程。ただでさえ、4月はリーグ戦だけで6試合も詰め込まれている。その締めにやってくるのが、やはりただでは済まないアウェイのエヴァートン戦。その時点でいくつかポイントを落としていた日には、プレッシャーが心身に“圧って”くる。グディソンのエヴァートンは、チェルシー最大の鬼門なのだ。 ▽そこでふと、奇妙なひらめきが頭をよぎる。もしも、コンテ・チェルシーに引導を渡す主役の座に躍り出るかもしれない、最大の敵となり得るのは、一応曲がりなりにも、いや、ぎりぎりタイトルレースにひっかかっていて、「6強」のうち最も遠いところにいるユナイテッドではなかろうか、と。一種の“魔法的”インスピレーションが、突然降って湧いたからだ。今シーズンに入ってまったくと言っていいほど沈黙を守り続けてきたサー・アレックスが、ジョゼ・モウリーニョの古巣チェルシーにはまったく縁起でもないセリフを公にしたのである。「モウリーニョはやっと“解答”を見つけたようだ」。おそらくは、ウェイン・ルーニーのクラブレコード更新について、メディアから意見を求められたついで辺りだったのだろうが、仮にお世辞めいたニュアンスが少しは含まれていたとしても、ジェラードよりどんと“格上”のレジェンドが、軽くない口調で言い切った事実は、モウリーニョの因縁渦巻くスタンフォード・ブリッジに、鬱陶しくもこだましたはずである。 ▽賢明なる読者諸兄なら、きっとひらめいたのではあるまいか。そう、これはまさに、サー・アレックス・ファーガソンの十八番の一つ、あの「マインドゲーム」(の引退後版)に違いない? いや、さしもの彼も、まさか奇跡的逆転優勝があるとは思ってもいまい。ここまでユナイテッドが何度も“喫してきた”1-1のドローゲームを「悔やんで」、「それらさえ勝ち切っていたら」などと、当たり前の算盤勘定を開陳しているくらいだから。しかし、蜂の一刺しくらいならあるぞ、と“冷やかして”いるのだ。ユナイテッドを勝ち運に乗せた最大の要因は、センターバックコンビの固定・安定。復活したフィル・ジョーンズとサイドから中に入ったロホが、思わぬ相性の良さで堅守を象徴している。ファーギーはそのことをあえて口にしてはいないが、“現役”時代の彼を振り返れば、きっとこの点に「モウリーニョが見つけた解答のキモ」を見出しているはずである。唯一の不安、ポグバのセレブ気取りさえ抑制が利いていけば、現在のユナイテッドには穴らしいものがない。心機一転のルーニーを思い切って先発から使える“本チャン・モード”もプラス要素だし。 ▽とか何とかの一方で、一番“カヤの外”ムードに落ち込みつつあるのが、開幕10連勝だったシティーとは、皮肉なものである。先日の「白旗宣言」もそうだが、ペップ・グアルディオラがめっきり(クロップよりもはるかに)弱気モードで、ほとんど目も当てられない。「自分は(シティーに、プレミアに)合っていないのかもしれない」?「自分は言うほど(監督として)良くないのかも」? この期に及んでそれを言っちゃぁおしまいだろう。それを「合わせる」のが「名将」の矜持、仕事じゃないんですか? 百歩譲って、絶対に口にしてはいけない、指揮官にあるまじきセリフ。はっきり言って、これでプレーヤーたちがシラけモードに入らないと考えるほうが不思議だ。あえて意地の悪い表現を取るならば、独りよがりの言い訳、自分ファーストの身勝手さ暴露、ではないか。案の定、ホーム・スパーズ戦の快勝ムードを台無しにする、負けに等しいドロー。これは、その前の対エヴァートン惨敗よりもタチが悪い。さあどうするペップ、このまま負け犬で去るわけじゃ?【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2017.01.25 10:30 Wed
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【東本貢司のFCUK!】土壌の差、性格の差

▽果たして「名将」とは何か、その条件とは? 俗に「名プレーヤー、名将ならず」という言葉がある。例えば、フィールドの“鬼将軍”ドゥンガとロイ・キーンは名将たり得なかった。現役時代、ピッチ上であれほどチームメイトが委縮してしまわないかと心配になるほど吼え、怒鳴りつけては叱咤激励し、傍目にはそれが勝利のメンタリティーを増幅したように見えたとしても、おそらくそれは、怒鳴りつけられた相手に才と力があってこそだった。我々は、ヨハン・クライフがバルセロナで何を成したのかは知っていても、勝てないチームを勝てるようにしたのか、そのために彼が何を“変えた”のかと振り返ると、はたと答えに窮してしまうだろう。ごく普通の(知識先行の)ファン(および一部評論家すら)、「名将」といわれてすぐに指を数える名前を冷静に分析してみれば、ほぼ100%、そのチームには、優勝して何ら不思議ではないスターが揃っていたことに気が付くはずだ。 ▽だとしても、あえて「考え得る名将の条件」を思いつくままランダムに数え上げてみようか。まず「実績」は不可欠だ。それも「ありそうにない“土壌”から引き出して見せた実績」が。アレックス・ファーガソンは、辺境の弱小アバディーンを率いてグラスゴウ二大巨象の天下を打ち破って名を上げた。ジョゼ・モウリーニョの場合、多分誰でも「ポルトにトレブル制覇をもたらして・・・・」と話し出すだろうが、彼の「ありそうにない土壌」は、プレーヤーとしても指導者としてもほぼ無に等しいバックグラウンドを有していたことに尽きる。「どこの誰なんだ、この聞いたこともないポルトガル人の若僧は?」。そう、アーセン・ヴェンゲルだってそうだった。彼がアーセナルに舞い降りたそのとき、プロもアマチュアも、老いも若きも、コアなファンも一般人すらも、こぞって鼻で笑いながら首を傾げた。「アーセン・・・・誰?」。少なくとも当時の(いや多分、今も)極東の小さな、プロ化なって間もない国の「天皇杯」とかの価値どころか、名称すら覚束なかった時代なら。 ▽その辺りから引き出してみるとすると、第二の条件は「器」ということになろうか。ファーガソン、モウリーニョ、ヴェンゲル、そして多分クライフには、「名将足り得る器」があった。そこには、その器を“事前に”見抜いて登用、抜擢する誰かがいなければならなかった。ファーガソンにはボビー・チャールトン、ヴェンゲルには当時アーセナルの服チェアマン、ディヴィッド・ディーンがいた。チャールトンには、アフリカを中心に比較的後進のフットボール世界での豊富な見聞の蓄積があり、ディーンにはマニアックで近未来的フットボール観を発散する無名のフランス人に感銘するすばらしき直感が、あった。モウリーニョの場合はいささか逆説的だが、通訳身分でボビー・ロブソンのそばを片時も離れず、その、悪童ガスコインでさえ首を垂れるほどの計り知れない包容力とカリズマに打たれ、学び取ったものを自己流に法則化した。以上の分析はあくまでも筆者の“穿った要旨”だが、当たらずとも遠からずと少しは胸を張りたい。ストーリーは必ず存在するのだ。 ▽つい先日、もはやプレミア降格争いが定着したサンダランドのデイヴィッド・モイーズは「この(1月の)移籍ウィンドウでどれだけ補強できたところで、事態が劇的に好転するとはとても思えない。そもそも、それだけの資金もない」と厭世的弱音を吐いた。その通りだろう。ただし、一年前もほぼ同じ苦境に立っていたサンダランドが、2月以降、怒涛の反攻で残留を果たしたとき、助っ人マネージャーとして到来したサム・アラダイスが何をしたのかも忘れるわけにはいかない。アラダイスは悠々と、その反攻の直接の原資となった、しかも無名に等しい異邦の助っ人(ヤン・キルチョフ、ラミーン・コネ、ワハビ・ハズリ)を発掘補強し、最低限の仕事を成功させた。そう、何も名の知れた出来合いの大物を連れてくるだけが能ではない。おそらくは「見聞」と「直感」、そしてビッグ・サムならではの「思い切り」も作用したのではなかったか。せっかくのイングランド代表監督職を棒に振るほどの「おおらかな脇の甘さ」の所以・・・・それもまた、一つの「器」である。 ▽アラダイスもモイーズも、少なくともトップフライトでの優勝経験はない。だとすれば両名の差は、やはり性格の差。あえて言うならば、後者のユナイテッドとスペインで失敗を続けた負い目からくる生真面目な重さと、前者の「ま、しゃあないわな」と笑い飛ばしてしまえるほどの腰の軽さ。お忘れなきよう。ビッグ・サムはああ見えても戦術志向にけっこう辛く、グアルディオラ並とはいかずともプレーヤー管理の手綱さばきも辛いことで、知る人ぞ知る存在なのだ。どこか中途半端な印象を与えるモイーズの“正統志向”では、どこまで行っても付け焼き刃的梃入れしか望めそうにない。多分、彼自身、それに気づいている。だから、哀しきかな「少々補強できたとしても大きな違いは生まれそうにない」のだろう。もっとも、今回、アラダイスがクリスタル・パレスで同等の魔法を行使できるかどうかは神のみぞ知る。それは、モイーズほどくよくよ考え込まないタチで、アラダイスほどは呑気を気取れるとは思えない、クラウディオ・ラニエリにも同じ事が言えそうだ。 ▽ただ、レスターにはチャンピオンズ参入のおかげで少しは(少しどころじゃない?)カネがあるし、わずかながらサンダランドやパレスよりは立場に余裕がある。おそらくラニエリはすでに来シーズンを見越しているはず。それに、少なくともリーガで今、のし始めているセヴィージャと2試合できる余禄もある。ひょっとしたら“次”もあるかもしれない。失いそうなものよりも得るもの、いや、楽しめるものの方がはるかに多い。痩せても枯れてもプレミアのディフェンディングチャンピオン、腐っても鯛のオーラはさすがに捨てたものじゃない、というべきか。ところで、チャンピオンシップ(イングランド2部)では早、ニューカッスルとブライトンの一騎打ち模様。よほどのアクシデントでもない限り、いいや、3位以下の一進一退状況とを見れば、この2チームが来季のプレミアに上がってくる確率はかなり高いだろう。おや、その3位にリーズがいる。こちらこそまだまだ予断は許さないとはいえ、プレーオフ経由でやっとこさヨークシャーきっての名門の復活があるかもしれない。プレミア優勝争いよりもこちらの方が、より手に汗握ってしまいそう?【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2017.01.21 13:49 Sat
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【東本貢司のFCUK!】真のフットボール人、その死

▽1994年はワールドカップ本大会の舞台が史上初めてヨーロッパ・南米から飛び出した、いわば、その後のグルーバリゼイションの先駆けとなった歴史的大会だった。しかし、ワールドカップ通の記憶に最も色濃く刻まれているのは、ひょっとするとヨーロッパ予選が見た予想外のドラマの方だったかもしれない。確かに、カントナ、パパンら時代を席捲する精鋭を揃えて前評判の高かったフランスが、最終戦終盤、ブルガリアの奇襲に逆転負けを喫した事件は鮮烈だった。そしてそれ以上にショッキングだったのが、“母国”イングランドの無残な予選敗退。なんとなれば、世にいうヘイゼルの悲劇の“後遺症”で長らく国際舞台からの撤退を余儀なくされ、それが解けたばかりの前回イタリア大会で堂々のベスト4、PK戦にもつれ込んだ準決勝・西ドイツ戦の死闘は今も語り種、かつ、超新星ポール・ガスコインが流した涙が、停滞模様のイングリッシュフットボール再生の象徴ともなった。そんな復権の希望が、アメリカ大会予選でものの見事に吹き飛んでしまったのだ。 ▽そんな失意のスリーライオンズを率いていたのが、この12日、72歳で急逝したグレアム・テイラーである。おかげで、テイラーには「史上最悪のイングランド代表監督」なるレッテルがつきまとうことになってしまったのだが、その一方で彼ほどブリテン島で愛され、敬意を集めた指導者もそうはいない。そもそも代表監督に抜擢された所以というのが、1977年から指揮を執ったワトフォードにおいて、わずか5年で4部から1部(=現在のプレミアリーグ)準優勝まで駆け上った功績、さらにその後アストン・ヴィラに転身してここでもミッドランズの名門を2部からの復活に導いたことにあった。ワトフォードとヴィラはともに、彼が現役時代を過ごしたクラブであり、この土曜日(14日)、ミドゥルズブラを迎えたホーム、ヴィカレッジ・ロードは「クラブ史上最高の監督」テイラーの追悼一色だった。愛着の深い、てしおにかけて育て上げたクラブチームでの成功が、寄せ集めの精鋭をほんの一時手なずけるだけの代表での仕事には“そぐわない”典型だとも言える。 ▽筆者もよく知らなかったが、テイラーに対する敬愛の念は、単にワトフォードやヴィラのファン層にとどまってはいなかったようだ。その根拠は、彼のフットボールに対する深甚な愛情や博識のみならず、彼の知己を得た誰もがほだされてしまう人間的魅力にあったという。ワトフォード時代、同僚およびコーチとして長年付き添ったジョン・マレイが「できることなら彼に成り代わりたかった」と証言するほどに。「温厚で人懐こく気取りのまったくない」テイラーはまた、話好きで、誰彼分け隔てなく年来の友人同然に交流し、何ら隠し事もせず、裏表の一切ない愛すべき人格の持ち主だった。マレイによると、一面識もなかったテイラーの妻子について、いつの間にか長年家族ぐるみの付き合いをしてきたかのような錯覚に陥ったほどだという。代表監督としての失敗後、大手TV局のコメンテイターとして招かれたテイラーは、その溢れんばかりの愛情と博識、的確な分析でもって、一躍評論家として人気を博した。それもこれも、策士たるイメージの強い監督像とは一線を置く“人間味にあふれた指導者”として皆から敬愛されてきた証ではなかったろうか。 ▽彼が無類のフットボール好きだった一つのエピソードを、前出のマレイが明かしてくれている。「TVの仕事を何度か断ってまで、彼は3部、4部のゲームに自費でアテンドしていたが、その様子は本当に熱心で頭が下がる思いだった。それが、当時のスリーライオンズそれぞれのエゴやプライドを御し切れなかった真の理由だったのかもしれない」。また、ワトフォードでは副チェアマン(後にチェアマン)を任じていたエルトン・ジョンも「あれほどの人物はめったにいない。生涯で一、二の親友を亡くしたことはわが身のように辛い」と漏らしている。思うに、生き馬の目を抜くプロフットボール界が、90年代以降カネ太りの商業化を加速させていったことに、テイラーは内心、喜びながらも忸怩たる思いだったのではなかろうか。それこそ今、中国発のあられもない“爆買い”ブームには、苦い思いに苛まれつつ、「良き時代遠かりし」と黄昏れ、自らの命が消えてゆくのを悟っていたのではないかとの感傷にとらわれたりもする。「人間グレアム・テイラー」の喪失は、真の意味で一時代の終わりを象徴しているのだろうか。心からその死を悼んでやまない。 ▽そう思うと、ワトフォードファンの万感の思いが込められたボロ(ミドゥルズブラの通称)戦がスコアレスドローに終わったのは、あの世のテイラーにとっては納得ずくの「しかるべく」だったかもしれない。とどのつまりは勝ちも負けも時の運、双方力を尽くしての結果に愚痴も言葉も何も要らない―――そんなつぶやきが、あの人懐こい微笑から聞こえてくるような気がすると言えばいがかだろうか。何を甘ったるいことを? いいやそれは、何かと言えば、不振に監督交代を叫ぶファンや、投機狙いで参入してくる外資オーナーシップ、あるいはいかにもこれ見よがしに「わが身優先」でダダをこねるプレーヤーたちこそが、今一度立ち返って噛みしめるべき、一つの指標、その拠り所になり得ないだろうか。テイラーの時代以前に、古き良きフットボールに肌で触れる機会をたまたま得た身にとっては、わずかなりとも昨今の現実にその名残を見出したいという詮無い感傷だとしても、また新たにその思い、願いが湧き上がってくるのである。さあ、目を覚ませ、とばかりに。【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2017.01.15 17:31 Sun
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【東本貢司のFCUK!】初夢は「伝統の一騎打ち」

▽昨年末、本稿から数えて3本前の末尾で、柄にもなく(?)アーセナルへの“希望”に触れた。開幕戦でリヴァプールに敗れて以来、あの「インヴィンシブル(=無敵)2003-2004(無敗優勝)」を彷彿とさせる快進撃で「これは」と思わせ、ところが12月に入ってエヴァートン、マン・シティーに連敗・・・・つまり、柄にもなく(繰り返す)同情してしまったガナーズへのエール。そして2016年最後のゲームを1-0(対ウェスト・ブロム)で締めくくり、元日にはクリスタル・パレスをきれいに片づけたそのとき、筆者はついひとりごちたものだった。試練(対エヴァートン、シティーの連敗)は絶妙のタイミングで訪れたのかもしれない、ここからアーセナルはトップギアを入れて突っ走る、そのためには、ホーム連戦を乗り切った今、中一日で迎えるアウェイのボーンマス戦こそが、いずれ今シーズンの軌跡を振り返るときのハイライトになるはずだ、と。ただし、その前日(2日)、アーセン・ヴェンゲルがつぶやいた“愚痴”に一瞬、不吉なものを感じてしまったのだが。 ▽「過去20年間で最も不公平なクリスマス期間だった。大金を投じている衛星放送テレビに(スケジュールをいじる)特権があるのは仕方がない。が、これほど(チームによってゲームとゲームの間に差にばらつきがあるのは)とはさすがにひどい」・・・・。「中一日」がよほど腹に据えかねたのだろうか。確かに、ホームのボーンマスは上位のライバルたちに匹敵する厄介な相手だ。多分、その辺りをぜ~んぶひっくるめての“アラーム信号”だったのだろう。フォックスとプレミアリーグに対する嫌味に“託して”、ボーンマス戦に臨むプレーヤーたちへの「ぬかるなよ!」という警告と激励ーーー。果たして、三が日の浮ついた気分を振り払いながら、その首尾のほどを見届けようと勇んでいたところが・・・・あれは逆効果だったのかと、呆れ半分で気が沈むばかり。開始から1時間が経ってスコアは3-0、ホームサイド快勝、いや圧勝で、ガナーズの命運も・・・・と、実はそのとき、モニタースクリーンの前を離れ、どうしようか、このまま一寝入りしてしまおうか、“仕事”はそれから気を取り直して筋立てを練り直すのがよかろう、とまで思い悩んだのである。 ▽ひとまず、お湯を沸かしてお茶を淹れている間、ふとぼんやりモニターに目をやる・・・・70分、サンチェスのダイヴィングヘダーが決まって「おやっ?」と、マグカップ片手に座り直す・・・・5分後、60分過ぎに交代でピッチに出たルーカス・ペレスが左足のボレーで1点差ーーー「これはひょっとしたら?」そして・・・・終了間際、タイムにして90+2分、ジルーのヘディングゴールが炸裂して・・・・さすがに大逆転とまではいかなかったが、これはもう勝利に等しい勝ち点1をもぎ取ってみせたのだ。ボーンマスのサイモン・フランシスが一発レッドで退場(63分:キッチンでお茶の用意をしていて見逃した)、一人多いアドバンテージも利いたようだった。3点目献上までのちぐはぐさと生ぬるさは十分に反省の余地はあろうが、逆境を跳ね返したこの底力は今後にも大いに糧として生きてくるだろう。かくて、昨年末の予感(予言?)も息を吹き返した。格別ガナーズファンでもない筆者が覚えた、そんな衝動が“実を結ぶ”保証はまだどこにもないが、チェルシーがこのまま負けないという保証もない。ライバルはざっと5チーム。前途はつとに厳しい。しかし・・・・。 ▽少なくとも、プレミア創設以来、最も激烈なタイトルレースが繰り広げられることは必至。そして、アーセナルが最後まで食いついて希望をつなぐ図も、今なら描けそうだ。プレミアファンにとってはなんと喜ばしい、すばらしい近未来図ではないか。チャンピオンズリーグ、FAおよびリーグカップの「あるなし」はこの際、勘定に入らない、いや、入れたくない。願わくば、このまま6強が僅差のまま最後の、そう、残り5試合前後まで鎬を削っていって欲しい。それでこそ、最後に笑うどこかの価値も輝き渡る。そして、今、視界を過るその勝者は、あくまでもただの直感に過ぎないが、赤と白の染め分けシャツのような気がするのだ。おわかりいただけると思う。あの「インヴィンシブル」に導いた頃から、変わっていたいのは、アーセン・ヴェンゲルただ一人なのだから。贔屓目は一切抜きの、一種の初夢のようなものだと思っていただきたい。それに、なぜか最後に立ちはだかる最大の強敵は「インヴィンシブル」時代以前からの宿敵、6連勝中のユナイテッドになる予感もする。6強のうちどこが優勝したってかまわない。が、こうなったら最後の最後で“オールド・ライバル”同士の歴史的一騎打ちを見てみたい。さて、この初夢、当たるかな?【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2017.01.04 09:45 Wed
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【東本貢司のFCUK!】爆買いの魔の手を振り払え

▽なるほど中国人は爆買いがお好きなようだ。いや、こちらの爆買いが真正か。さて、湯水のごとく湧き出ずるカネまたカネの出所はいずこか。かつて(それとも今でも?)レアル・マドリードはマドリード市の“ヒモつき”だと言われたものだが、ひょっとしてこちらの方にも“同じ事情”が当てはまるのだろうか。さんざ気を持たせ迷いに迷った(ふり?)カルロス・テヴェスも、ついにその軍門に下った。上海申花がクビを縦に振った移籍金総額こそ、オスカー(25歳)の6000万ポンドに遠く及ばない4000万だが、テヴェス自身の懐には「週給で31万ポンド」が入り、一気に(たぶん)世界最高給取りになる見込み。ふ~ん、上海ファンならいざ知らず、欲の張った(失礼)チャイニーズ小市民がはたして屈託もなくテヴェスのプレーにわくわくするものだろうか、などと勝手な心配をしてしまう。いや、そんなことよりこんな途方もない“価格逆破壊”がもたらす害の方が・・・・。 ▽習近平はことのほかフットボールがお好きなんだそうだ。国庫からの援助のあるなしは脇においても、一説には「法外な免税措置」でバックアップしているのは間違いないのだとか。どうやら本気で「世界最高峰のリーグ」を目指しているらしい。なにせ、イングランドきってのレフェリー、マーク・クラッテンバーグの引き抜きまで画策しているというのだから。上海のボスはグル・ポジェ、スコラーリにエリクソンにカンナヴァーロに、と戦力充実のマグネット工作は着々と進んでいる。こういう状況は当然、来月解禁になるヨーロッパの移籍市場にも少なからず影響する。“彼ら”は「いくらでも出す」の看板を掲げて、殴り込み同然に割り込んでくる。公平に見て抗いようがない。当のプレーヤーも売り手側のクラブも潤うレベルが格段に上がる。ゆえに、逡巡する。ライバルチームに獲られるくらいなら、という思惑もちらつく。唯一の防波堤はプレーヤー個々のプライド。MLSならまだしもと都落ちを頑として拒否するプロフェッショナルの自負がある限りは・・・・。 ▽しかし、真の問題点は、本来の地に足の着いたチーム作り、戦力要請が、さらにしにくくなってしまうことである。シーズン半ばの補強というものは、原則、即戦力の確保だが、そこに中国からの魔の手を念頭に、必然的にその新戦力には事実上レギュラーを保証する“脅迫観念”が芽生える。かといって「明日のスター候補」を即起用できる台所事情など、それがリーグ優勝争いをしているチームなら、なおさら考えにくい。結局、せっかく獲得してもローンに出す羽目になり、必然的に当人が低いレベルで実戦を積むうちに“逸材度”もあいまいになって、気が付けばプレミア昇格を目指すチームの主力になっていたりする。どだい、プレーヤーというものはクラブの思惑通りには動いてくれないものだ。例えば、夏に勇んで入団したまではいいが、クリスマスを迎える頃に監督が解任され、新任に冷遇されなどした日には、それこそさっさと割り切って、中国マネーでも何でもなびいてしまうだろう。そんなことにはならないように慎重な補強戦略を立てるはずなのだが・・・・。 ▽そこであえて提案させてもらうならば、現在“ぎりぎり”の6位(ユナイテッド)までの上位陣は、この1月の補強にこだわらない方がいいかもしれない。一応は各チームが抱える“弱点”のほぼ一本釣りに狙いを絞り、獲れなければそれでよし。現有戦力への信頼のメッセージにもなるはずだし、主力の故障を心配したところで何も始まらない。そもそもチームにうまく溶け込めるかどうかわからない新顔を抜擢しても、プラスに働く可能性は五分、いや三分以下。所詮はギャンブルなのだ。折しも、ジョゼ・モウリーニョは狙い定めたリンドロフ(ベンフィカ)の獲得を撤回した。復活したジョーンズとロホのCBコンビが思いの外好調で、わざわざ波風を立てる補強は理も利もないと判断したからだという。英断だと思う。その他、コンテ、クロップ、ペップ、ヴェンゲル、ポチェッティーノにも動く気配は現時点で見えない。ネタが欲しいメディアが周りで騒いでいるだけだ。仮に動いても、ほとんど競合しない筋、手持ちスカウトの目を信じた上でのものになるだろう。 ▽それもこれも、運営上層部が各監督にとことん信頼を置いているかどうかにかかってくる。オーナーサイド、それもイングリッシュフットボールをよく理解していないビジネス志向寄りがしゃしゃり出てくると、それ自体が問題の種になってしまう。このほど、スウォンジーがボブ・ブラッドリーをたったの85日で解任してしまった件も、まさにその悪例。同胞の元アメリカ代表監督を盲目的に信じようとしたアメリカ人オーナーグループに、何らヴィジョンがなかったことをさらけ出してしまった。外資オーナーシップブームがここまで進んでも、教訓が生かされない恐れはこの先も十分にある。是非、この一件を教訓にしてもらいたいものである。というわけで2016年はここまで。明年もどうぞよろしく。【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2016.12.30 10:59 Fri
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【東本貢司のFCUK!】「ヴァーディーマスク」大作戦

▽恒例のボクシング・デイは、リヴァプール-ストーク戦、およびサウサンプトン-スパーズ戦(それぞれ、27日、28日に予定)を除く8試合が行われ、各チームの現況からしてほぼ順当な結果を見た。そう、初お目見えのチャンピオンズでは溌剌として申し分のない戦績を残しながら、プレミアではさっぱりのディフェンディングチャンピオン、レスターは、またホームで星を落とした。要のマーレズ、ドリンクウォーターをベンチに置く(いずれも後半交代出場)ショック療法も、復調気味のエヴァートンには通じず、その先制弾はゴールキーパー、ロブレスからのロングフィードをそのまま持ち込んだミラーラスのファインシュートから。つまり、控えキーパーと控えアタッカーのコンビにしてやられたという、レスターファンにとってはため息の出そうな皮肉・・・・。なんとなれば、その“めったにない”一撃が、事実上フォクシーズ(レスターの通称)に引導を渡す象徴になったからだ。それを素直に認めたクラウディオ・ラニエリは「今季は何をやっても上手くいかないね」。 ▽一つ、救いはあった。主軸クリスチャン・フークスの出場停止でチャンスを得た、期待の新人、ベン・チルウェルだ。このオフ、リヴァプールのユルゲン・クロップが獲得に乗り出したほどの逸材で、しかも、その時点ではまだレスターのファーストチーム未体験だった。的確な守備とオーバーラップでキングパワー・スタジアムの観衆も、チルウェルの成長に納得したか、声援が絶えなかった。さて、そのレスターファンだが、ゲーム開始前、スタンドには異様な光景が見られた。ホームサポーター席に陣取るほぼ全員が、ジェイミー・ヴァーディーの顔をプリントしたお面をつけていたのである。仕掛け人は他ならぬクラブで、3万枚を用意したという。言わば、ストーク戦で“両足タックル”を咎められた末の「疑惑のレッドカード」に対する、クラブ挙げての抗議の一環。すげなくアピールを却下して規定通り3試合出場停止を科したFAへの意趣返しだ。ちなみに、ヴァーディー本人も自分のマスクをつけてスタンドで観戦。だが、それも勝利には結びつかなかった。 ▽それぞれホームにボーンマス、ウェスト・ブロムを迎え撃って、チェルシーはディエゴ・コスタ抜きで破竹の12連勝(クラブレコード)、アーセナルは終了間際のジルーの一発で何とか連敗ストップ。いかにも、現在のチーム状況と勢いをそのまま映し出した格好である。サム・アラダイスの初采配ゲームとなったワトフォード-クリスタル・パレス戦は、あゝ、カバイェ26分のニートなゴールで先制したアウェイのパレスが、71分にPKで追いつかれるという、ため息ものの結末。しかし、内容的には希望の光も見え、特に過去2試合先発を外れていたアンディー・タウンゼントが、カバイェのゴールを演出した事実が挙げられよう。悔いが残るのは、1-0からクリスチャン・ベンテケがPKを決められなかったことと、やはりやや厳しすぎる感の否めないPK判定。ボックス内でセバスチャン・プロディと絡んで倒れたウィルフリード・ザハのそれが、ダイヴィングとみなされたのだ。なお、PKを決めたトロイ・ディーニーは、これがワトフォード在籍通算100ゴール目。 ▽オールド・トラッフォードでは、解任以来初めての“帰還”となったディヴィッド・モイーズ率いるサンダランドが、ファーストハーフこそ、そこそこ互角に渡り合って抵抗を示したのだったが、80分過ぎからの連続失点で力尽きた。ショウを締めくくったのは、すっかり復調したイブラヒモヴィッチと、62分から出場のヘンリク・ムヒタリアン。モウリーニョは特にムヒタリアンのインパクト(体を投げ出してのスーパーヘディングゴール)を「beauty」と褒めたたえ、今後の先発起用を仄めかしたのかと思いきや、「ベンチにムヒタリアンとマーシアルがいるのは心強い」。う~ん、まだ全幅の信頼を置くまでに至らないのか。それに、故障欠場中のルーニーのこともある。マタとエレーラが好調な以上、編成のいじりようがないのはわかるのだが・・・・。一方のブラックキャッツ(サンダランドの通称)、デフォーにボリーニ、アニチェベを加えた3ストライカーで臨むも、終わってみればシュートはわずかに6本(うち1本が、ボリーニによる終了間際のゴール)。ここまでアウェイで5得点のみというゴール欠乏症を打開しないと、残留争いから抜け出せない。 ▽モイーズのオールド・トラッフォード訪問が解任以来(2014年)初と述べたところで、意外なエピソードを一つ。モウリーニョはこのほど、サー・アレックス・ファーガソンを、キャリントンのトレーニングコンプレックスに何度か招いていたことを明らかにしたそうだが、実はこれ、モイーズにバトンを渡して勇退して以来のことだったという。つまり、それだけサー・アレックスは後任たちに気を遣ってきたということなのだろう。かつてのサー・マット・バズビーと同じ轍は踏むまいと。ただし、もちろん采配や練習に口を出すわけでは一切なく、モウリーニョによると「偉大な人間の存在をプレーヤーたちにそれとなく思い起こさせたかった」ということらしい。キャリントンの敷地内をぶらぶらしたり、ランチどきにはモウリーニョやプレーヤーたちと肩の張らないおしゃべりをする。「それは楽しくてね。そもそもここは彼の庭なんだし」と破顔一笑する“スペシャル・ワン”。唯我独尊、稀代のワンマン監督もやはり人の子、真正レジェンドには頭が上がらない?!【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2016.12.27 13:10 Tue
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【東本貢司のFCUK!】カラフル&フェスティヴ

▽「20年も同じクラブを率いる? あり得んね」(ペップ・グアルディオラ)、「ファンへのクリスマスプレゼント替わりに、シャツをスタンドに投げ入れるよう指示した」(ジョゼ・モウリーニョ)、「あのオフサイドの判定は受け入れがたい」(アーセン・ヴェンゲル)、「ギャルー・ネヴィルなんかが解説者やってるなんて信じられない」(ユルゲン・クロップ)、「わたしならあの一発レッドは誤審だと言い、マーク・ヒューズ(ストーク監督)なら妥当だと言うだろう」(クラウディオ・ラニエリ)―――。各人各様、実にキャラクタリスティック(それぞれのキャラが如実に投射されている)なコメントアラカルト。改めて、今更ながら、プレミアリーグのなんとカラフルでフェスティヴ(=お祭りっぽくにぎやか)なことか。確かに、一年で最もざわざわと忙しく、ただし、国内にじっくり集中できるまたとない時期ではある。ただ、それにつけても“主役”たちが揃いもそろって“ガイジン”ばかりとは(ヒューズはウェールズ人)、ため息を吐くのは筆者のみか。 ▽気が付けばチェルシーが走っている。元プレーヤーで評論家のダニー・マーフィーに言わせると「穴がない」。ラミーレスに続いてオスカーまでチャイナマネーになびかざるを得ない状況にあっても、戦力に充実感と余裕がにじみ出るようにあふれている。抜け落ちていたアントニオ・コンテのコメントは「中国が何とやら」だったか…いや、確か「まだうち(チェルシー)はこんなものじゃない」。もし仮にどこかで腰砕けに落っこちるとすれば、キープレーヤーの故障や“おいた”のアクシデント絡み。だが、その気配はありそうにない。しかし、そんなチェルシーにも引けを取らない堅実さとブレのなさを維持しているのがリヴァプールだ。ざっと眺め渡してみても、ロジャーズ時代からさほど“絵面とタイプのヴァラエティー"の点で代わり映えしないようなのだが…。だとすればやはりこれは、熱血クロップのカリスマが違いを源泉なのか。あゝ、またガイジン監督さまさま。 ▽などと(しつこく)嘆息しているところへ、間が悪くも(?)絶不調クリスタル・パレスからアラン・パーデュー解任の知らせが。そして、まるで予定事項のごとく、後任候補として躍り出たのが、他でもない“ビッグ”サム・アラダイスとは…。いや、もとい、これ以上のノンイングリッシュ化はごめんだからこそ、あえて歓迎しようではないか。それにお忘れなく。ビッグ・サムは何も法を犯したわけじゃない。法律などよりもはるかに威厳の薄い、あるスポーツ統括組織が独自に制定したルールの「抜け穴を知っている」とか何とかうそぶいただけだ。倫理的によろしくない、イメージが悪い、外からとやかく言われるのがウザイ、と、当の組織が自粛(末のイングランド代表監督解任)したにすぎない。ああ、そういえば、FIFAは「ポピー問題」に当たって、イングランド代表以下に罰金を科すことにしたんだっけか。それで済むなら痛くもかゆくも…。しめしをつけた側と国民的思いに準じた側の、静かなるにらみ合い。どこの世界にもよくあることである。 ▽それにしても、ジェイミー・ヴァーディーの一発レッドは「?」の二乗ものだった。つまり、クラブワールドカップ決勝の逆パターン。しかも、状況が滑稽なほどコントラストを成していた。横浜の主審は、一旦は(イエローを)出そうと思いかけたが、何かを思い出したように胸に持って行った手を諦めた。ブリタニア(スタジアム)の方のレフェリーは、一瞬たりとも迷わず、アシスタントを一顧だにせず、断固たる態度・表情でさっと赤い札を取り出した。しかし、セルヒオ・ラモスの足はボールにかすりもせず、ヴァーディーの投げ出した両足(正確には、1.5足?)の片方はぎりぎり「先に」届いていた。そしてそれぞれ、結果は“逆目”に出た。後日談はそれぞれ、「横浜の主審」が次のワールドカップで笛を吹くことはないだろう…レスターの(ヴァーディーのレッド撤回)訴えは却下されて…といった程度。できるだけそっと、速やかに、それなりに、収めるべきところは波風立てずに収めるべし。これってやはり、イエス・キリストの思し召しでしょうか。 ▽さて、わが国は天皇陛下誕生日のおかげで三連休だが、EU脱退を決めたかの国ではお馴染みボクシングデイ絡みの三連休。つまり、プロフットボーラーの“繁忙期”。当然心配されるのは故障であり、その点で不安がどこよりも覆いかぶさるのがアーセナルであり、すでに現地メディアでもそれを指摘する声がしきりである。対エヴァートン、マン・シティーの連敗劇は、およそ降って湧いた事件中の事件。今シーズンは行けるとわくわくどきどきしていたガナーズファンも、天を仰いで青ざめているに違いない。エース、サンチェスの契約更新が“カネ”で滞っているらしいのも嫌味だ。だからこそ、幸いというべきか、年内はボクシングデイ(26日)のホーム/ウェスト・ブロム戦のみ、明けて元日は(監督不在のままかもしれない)クリスタル・パレスを迎え、3日にアウェイのボーンマス戦。決して楽に乗り切れる保証などないとはいえ、あくまでも比較上計算がしやすい年末年始ではあろう。ここでマキシマムの9ポイントを稼げば胸も晴れる、先も見えてくる。昨季が“ミラクル”なら、そろそろこの辺りでヴェンゲルの会心の笑みを見たいところである。【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2016.12.23 13:30 Fri
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【東本貢司のFCUK!】熱血コンテがプレミアを撃つ

▽12月3日のマンチェスター・シティーvsチェルシーは、事件満載、スペクタクルだった以上に、両軍のキャラと現状を如実に見て取れた感が強く、実に興味深かった。勝負のアヤは、ファーストハーフ終了間際のギャリー・ケイヒルによるオウンゴール。これが格好の“ビンタ”となって、アウェイのチェルシーイレヴンのスピリットに火が付いたという印象だったが、逆に後半のシティー・ディフェンスに時間が経つほど目に見える生ぬるさと小さな判断ミスの連鎖をもたらしたような気がする。得点経過を見ればそれがよくわかるだろう。60分、70分、そしてオフィシャルタイム末の90分。そこに、絵に描いたようなアグエロ(ダヴィド・シルヴァ)、フェルナンジーニョ(ファブレガス)のレッドカード退場劇が続いた。コンスタントでおよそブレの見えないチェルシー、とらえどころがもう一つで、ときにストレスが負の方向に働いて自滅したような、ちぐはぐそのもののシティー。 ▽そんな印象を振り返りながら、ふと、思い当ったことがある。他でもない、両指揮官のいつになく顕著だったお馴染みの風情だ。子供じみたという形容詞すら思い起こさせる、アントニオ・コンテの派手で感情むき出しのオーバーアクションと、舞台俳優も顔負けの露骨な表情。一方のペップ・グアルディオラは思索家然として洗練された物腰こそ変わらないが、画面に抜かれるたびに物憂い表情をにじませ、振る舞いも消極的だ。泡立つような熱血を全身で表すイタリアンと、何事にも動じないフリを肝に銘じようと自制する哲学者スパニッシュ。ふと「ローマは一日にしてならず」の諺を生み出したセルバンテスの古典的大ベストセラーを思い出す。ドン・キホーテは何やら屈託を抱えながらもひたすら我が道を突き進むが、内に秘めた狂熱の理想はいつ噴出して手も付けられない事態を呼び起こすがわからない。変な理屈だが、ペップとコンテはそれぞれ、ドン・キホーテの二面性を明確に分離したキャラに見えてくる。あるいは(舞台設定から)ジキルとハイドのように。 ▽そんな“妄想”を頭の隅に残したままでゲームの振り返りに戻ろう。つまり、ピッチの上ではベンチの指揮官とは真逆のキャラが、それぞれのプレーヤーたちによって演じられていた。末尾のアグエロとフェルナンジーニョによる激した粗相が象徴するシティーイレヴンの、的を外した大立ち回りと、終始クールで敵の心の隙をあざ笑うように落ち着き払ったビジタープレーヤーたち。あの“問題児”ディエゴ・コスタが人が変わったように“大人っぽく”見え、実際に大人びたプレーで脇役を務めてみせたほどに。コンテに周到な演技プランがあるとは思えない。あのホッドブラッド・アクションは彼の紛れもない“素”だ。それがむしろ、ピッチ上の戦士たちをクールに躍らせる。そんな気がしてきたのだ。多分、それで当たらずとも遠からず。ジョゼ・モウリーニョ時代の9試合に迫る、8試合連続勝利という事実もそれを裏付けする。なにしろこの間、コンテはほとんどチームをいじっていない。無論、ヨーロッパの試合がないというプラスハンディの恩恵もあるが。 ▽このコンテ流・チーム再生術の開花には、イメージ作戦(?)のみならず、実際的根拠も散見する。一に、最近のプレミアではとんと珍しい3バックで固定し、そのあおりで(不振模様の)イヴァノヴィッチはベンチが指定席になった。卵が先か鶏が先かの論議になるが、そこで注目すべきは実力者ファブレガスも控えに回されている事実だ。そして、8月の移籍締め切りぎりぎりに獲得にこぎ着けたダヴィド・ルイスとマルコス・アロンソ。ルイスは3バックの中央にどんと居座り、アロンソは左サイドで絶妙なバランスメーキングを披露して、ヴィクター・モーゼズの左サイドコンヴァートをここまで見事に支えている。コスタの“変貌”やアザールの復調、あるいは新加入カンテとマティッチのダブルアンカーシステムがどうしても目立つのは致し方ないが、チェルシーの“クール・レヴェレーション”に欠かせない肝のキーマンは、ルイスとアロンソだと見てほぼ間違いない。ということは、コンテはオフに「3バックの補強の目玉」のプランを温めていったはずである。 ▽対リヴァプール、アーセナルの連敗は、確かにちょっとした危機感を周囲に与えたかもしれない。が、今となってはむしろ願ってもない教訓、もしくは良き反動の種になったと考えられる。そして、この迅速な立ち直りにも、コンテの本能的なオーバーアクションが必ずや寄与しているはず。勝手も負けても、勝ちゲームを引き分けに持ち込まれても、慌てず騒がずのペップ・キャラではこうはいかない・・・・のかどうかは何とも言えないが、少なくともプレーヤーに苦笑いをさせ、ファンを楽しませ、全体として微笑ましい印象すらもたらす効果は、個人的に認めたくなる。もっとも、ペップやモウリーニョが同じキャラに転じても滑稽なだけだろう。コンテならではである。うん、そういえば、リヴァプールのクロップにも通じるものがある。あの、不敵そのもののニヤニヤ笑いは、実に人なつっこく、かつ頼もしく見える。アクションも結構派手だ。これはどうやら、コンテとクロップのアクションバトルがタイトルレースを占う、番外的目安(?)になりそうな気配で。【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2016.12.07 11:15 Wed
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【東本貢司のFCUK!】継続とその“理解”は力なり

▽EFLカップ準々決勝4試合の結果が出た。勝ち上がったのはハル・シティー、リヴァプール、サウサンプトン、マンチェスター・ユナイテッド。3チームはホームで勝利をものにしたが、サウサンプトンの“快勝劇”はエミレイツで演じられた。つまり、アーセナルだけがホームサポーターの失意を呼んだことになる。このセインツ戦、アーセン・ヴェンゲルはほぼ控えメンバーで固めたイレヴンを送り出して「負けるべくして」負けた。ちなみに、ユナイテッドはほぼベストの布陣で、チャルシーを下したウェスト・ハムを一蹴している。さて、ヴェンゲルはどこかでこのEFLカップを重荷に感じ、軽視していたのだろうか。ざっと調べてみても、これについての彼からのコメントは見当たらない。リヴァプールのユルゲン・クロップが「このカップ戦は非常に重要」と言い切っているのは、彼にとってのイングランド・初タイトルがかかっているからだろう。が、それにしても・・・・。 ▽かつてのイングランド代表、クリス・ワドルは、この準々決勝が始まる前から、今シーズンから「EFL」を冠することになったリーグカップの“惨状”について「ファンにとっての詐欺に等しい」と断じていた。一例をあげると、リヴァプール-スパーズ戦ではそれぞれ(直前のリーグ戦からのメンバー変更が)11名と10名に及んだ。ある集計によると、プレミア10チームの“変更総計”は71名だったという(準々決勝以前)。ある程度のアレンジ程度なら無論、今に始まったことではない。特に初期のラウンドでは下位ディヴィジョンを相手にすることも多く、トップフライト(1部=プレミア)の監督が控えないしは若手の実戦経験の場とするのはほぼ常識だ。しかし、プレミア上位同士のリヴァプール-スパーズ戦や、準決勝進出がかかった試合でのアーセナルの「ほぼ総入れ替え布陣」は、さすがに行き過ぎではなかろうか。「ファンに対する詐欺」の“真意”について、ワドルは少なくとも事前にスターティングイレヴンの発表をしておくべきだと提言している。 ▽つまり「もし、贔屓のチームが“二軍以下”のプレーイングスタッフで臨むことがわかっていれば、チケットを買うべきか否かを選択できる。特に、遠路はるばるはせ参じることになるビジターサポーターには、その選択肢を与えてしかるべきではないのか」というわけだ。しかし・・・・。以前、Jリーグがナビスコカップでメンバーを落とすことに規制をかけた事例について、筆者はひどく違和感をもったと述べたことがある。誰と誰を試合に出すかの権限はあくまでも監督にある。例えば、そのナビスコカップ戦直後のリーグ戦を絶対落としたくない場合、ある程度は主力を温存するのは理に適っている。成績が芳しくなければ、真っ先に“被害”を受けるのは監督だ。どこに力を入れ、どこで抜くかをコントロールするのも、監督の手腕の一つだと考えられる。マネージするからマネージャーというのであって、その時点での(特にファンが見なす)ベストメンバーをただ送り出すだけなら誰でもできる。監督は形だけの存在になってしまい、ましてやライセンスなど何の意味もなくなってしまう。何かボタンの掛け違えのような違和感を感じるのは筆者だけか? ▽つまり、ワドルはそのことを百も承知の上で「スタメンの事前発表」を提言しているのだろう。物見遊山やデートイベントで紛れ込んだ観客ならいざ知らず、クラブのサポーターたるもの、当の試合にかける監督の計算に気が付かないはずがない。なるほど、ホームのファンに期待の新人たちをお目見えさせる意図なんだな、チャンピオンズもFAカップもあることだし、何よりも今シーズンはプレミアのタイトル奪取も有望、となれば、アーセナルのコアなサポーターは納得する。それで負けてしまったら? もちろん悔しい、ベンチにさえ主力をほとんど置かなかった起用采配はやはりどうだったのか、とがっくり肩を落とし、多分しばらくはヴェンゲルに対して恨めしい思いを引きずってしまうだろう。そのとき、呼応するコメントが、このほど正式にイングランド代表監督に指名されたばかりのギャレス・サウスゲイトからもたらされている。「長い目でチームの成長と充実を促したい。目先の一試合で判断するのは無しに願いたい」。一過性の性格を持つ代表チームですらそうだとしたら、クラブチームはもっともっと「長い目」で判断されるべきだろう。 ▽そう、予想通り、いや、予定調和のごとく、スリーライオンズの新しい指揮官は、サウスゲイトの(アンダーエイジ代表からの)昇格就任で決着した。不協和音は今のところ一切聞こえてこない。メディア周辺で噂に上っていたユルゲン・クリンスマンは、奇しくもほんの少し前、アメリカ代表監督の座を追われていたが、その前から「ク」の字すらささやかれることはなくなっていた。当然だ。名のある大物外国人監督を招聘するブームは依然として、特に“第三世界”では健在だが、母国たるもの、もはや付け焼き刃のカンフル剤効果に期待しても仕方ないだろう。なぜなら、不祥事で身を引かざるをえなくなったとはいえ、サム・アラダイスへの期待は、外部から察するよりもはるかに大きかったからである。ならば、そこでまた“逆戻り”ではそれこそボタンの掛け違えになる。サウスゲイトの契約期間は4年。2020年のユーロまで彼に預けるということだ。成績次第だが、筆者はそれでも短いと思う。使い古された言葉だが継続は力なり。そのことは、サー・アレックスはもちろん、今や世界有数の長期政権を敷くヴェンゲルがはっきりと証明している。【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2016.12.02 10:00 Fri
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【東本貢司のFCUK!】ラニエリとポチェッティーノ

▽初体験のチャンピオンズリーグ、その予選リーグを4勝1分の堂々たる戦績で乗り切り、1試合を残して首位通過を果たした「イングランドチャンピオン」レスター。紛れもなく「快挙」である。相手に恵まれたグループに入ったという但し書きなど、ほとんどやっかみに等しい。なにせ、レギュラーメンバーの一人として、この舞台を経験したことがないのだ。仮に以前の所属クラブが云々の話にもっていったところで、チームスポーツの世界では何の意味もない。もしかしたら、プレミアで運が向かずにもがいているストレスが、失うもののない立場で発散できていると考えることはできる。賭けてもいいが、おそらくは始まる前から格上のプライドを持つアーセナルやマン・シティーなら、こうもスイスイとは行かなかったに違いない。スポーツの真剣勝負において、そのマッチアップを最も左右する、言い換えれば最後に「差がつく、違いがわかる」要素は「メンタル」なのだから。 ▽そこで、逆に敗退が決まってしまったトテナムの将、マウリシオ・ポチェッティーノがつぶやいた「敗軍コメント」がクロースアップされてこないか。「今シーズンが始まった頃からわたしは、我々のチャレンジはフィジカルではない、タクティカルだと言い続けてきた。土曜日に続いて火曜、水曜に試合があることへの気構えをコントロールすることだと」注目すべきなのは、「タクティカル」つまり「戦術」とは、週末の国内リーグ戦+ミッドウィークのチャンピオンズ戦への臨戦マインドを“整える"(とまあ、筆者なりに翻訳してみた)ことだと表現している点だ。これをさらに平たく解釈しようとするとくどくなってしまいそうだが、要するに、どんなに優れた理論であっても、それを生かし切るにはメンタルフィットネスが欠かせない、ということだろう。レスターの面々ほどではないとしても、スパーズのメンバーとてチャンピオンズ参戦のスケジュール調整には、いざとなると戸惑いもあるはずだからだ。だからこそ、レスターの無敗通過決定は「快挙」なのだ。 ▽なるほど、理屈は通っている。が、かく宣うポチェッティーノ自身にも“迷走”もしくは“調整失敗”のきらいも否めない。そのことは、敗退が決まったモナコ戦の先発メンバーを見れば明らかだろう。ディフェンスラインの名前を見て思わず目を疑ったのは筆者だけだったろうか。CBがケヴィン・ヴィマーとエリック・ダイアー? トビー・アルダーヴァイレルトの故障不在は致し方ないとしても、なにゆえ最も頼れるはずのジャン・ヴェルトンゲンがベンチスタートだったのか。それに、右SBがカイル・ウォーカーではなくキーラン・トリピアーとは! ここで負ければ絶望必至のあとがない状況では、少々無理をしても可能な限りベストの布陣を組んでしかるべきだった。案の定、スパーズはモナコの猛攻に為すすべもなく、敗れるべくして敗れた。そう、スカイスポーツが選んだマン・オヴ・ザ・マッチがGKロリスときては、思わず笑ってしまったほどに。つまり、もっと酷いスコアで惨敗していただろうに、という皮肉、ブラックジョークの含みがあったのでは? ▽そんなスパーズの体たらくを、解説者として観戦していたフィル・ネヴィルは「今シーズンのここまで目にした中で最悪のパフォーマンス」と酷評した。そしてこうも述べている。「プレミアでは(若手主体の変則起用などが)通用することはあっても、チャンピオンズではそうはいかない。彼ら(とポチェッティーノ)はかくて罰を受けた。良い教訓になっただろう」―――辛辣に聞こえるかもしれないが、ネヴィルはむしろ温かい目でスパーズを“思いやった"のだ。それが「経験」というものなのだ、と。現役時代、ユナイテッドで必ずしもレギュラーではなかった身でありながら、豊富な“ヨーロッパ体験”を積んだ彼ならではの言葉だと思う。無論そこには、言葉にはせずとも、サー・アレックスが幾度となく身をもって甘んじ、そしてそれを糧に栄光を築いてきた「蹉跌と成功」へのオマージュもにじみ出ているようだ。キレるだけの頭脳では壁は超えられない。負けるが勝ちの反骨のエナジーこそ、何よりも尊いのだ。挫折を知らないことほど後が怖いものはない。 ▽その点、クラウディオ・ラニエリの感想は、ごくごく素直であっけらかんとして、かつ、いかにも含蓄がある。「(あっさり通過を決めたことが)信じられない。夢のようだ。決勝トーナメントの相手がどこになろうと関係ない。いや、楽しみなくらいだ。それより、この素晴らしきパフォーマンスをプレミアでもやってもらわないとね。そっちの方が心配で頭が痛い、気が気じゃないよ」彼は開幕前から言い続けていた。チャンピオンズはあくまでもオマケ、肝心なのはプレミア―――だから歯がゆい、悔しい。チャンピオンズ5戦で4勝、ところがプレミアでは10試合以上経過してまだ3勝。敗戦の数はすでに昨シーズンのダブルスコア。確かに「目も当てられない」。ちなみに、スパーズはここまで唯一プレミアで無敗を堅持している。次なる相手は、レスターが昇格ミドゥルズブラ、スパーズは復調して絶好調のチェルシー。38試合のうちの一つではあっても、この、それぞれの結果とその内容は、今後に大きな意味を持つ。少なくともラニエリにはそれがわかっている。【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2016.11.24 09:45 Thu
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【東本貢司のFCUK!】ルーニー泥酔事件は良い兆し?

▽It's the same old story(よくある話)。飲酒問題である。「アスリートが酒を飲むなんて」と目くじらを立てるようになったのは、ほんのつい最近定着したも同然の通念だ。運動生理学的な道理もあろう。アーセン・ヴェンゲル当たりなら「もってのほか」と断言するだろう。一方で、古くから「酒は百薬の長」ともいう。つまり、少量のアルコールならいい? いいや、何等かの憂さを晴らすなりなんなり、たまには度を超してみるのも、精神衛生学上は益もなくはない。ウェイン・ルーニーが泥酔して羽目を外す様子を“パパラッツィ”された。イングランドが宿敵スコットランドに快勝したその夜のことだ。腐ってもスリーライオンズのキャプテン、社会的影響度を考えれば確かによろしくない。とはいえ、さすがに騒ぎすぎではあるまいか――。さて、皆さんはどう思う? もしも、サウジを下したその夜、長谷部がスポーツバーで真っ赤な顔をしてはしゃいでいたとしたら? ▽うーん、実は“母国”周辺では意外なほど同情的、もとい、寛容らしいのだ。ヴェンゲルや、ヴェンゲル以上にうるさいグアルディオラ辺りのコメントは今のところ伝わってきてはいないが、リヴァプールの将ユルゲン・クロップときた日には「それのどこが悪い?」と言わんばかりに苦笑している。「プレーヤーたちの身にもなってやれよ。当たり前のことだが、連中だって人間なのさ。そもそも、今のフットボール界はかつてなくプロフェッショナル化しているってことなんだろうよ」――クロップが言う「プロフェッショナル化」とは、つまり「ガチガチの管理社会」に相当するようだ。「昔のレジェンドたちは浴びるほど酒を飲み、気が遠くなるようにタバコを吸って、それでもなお優れたプレーヤーでいられた。今じゃそんなこと誰もしなくなったが、ウェインがどの程度羽目を外したにせよ、大した問題じゃない」。いかが? これでクロップファンが激増したに違いない? ▽「時代が変わって(ルーニーには)気の毒な点も多い」と気を遣うのは、元チームメイトで、スコットランド代表キャプテンのダレン・フレッチャー。「ウェインだってちゃんと反省してるじゃないか。何も親友だから、あるいは、彼に限らずほとんどのフットボーラーがたまには羽を伸ばしたいものだからって、弁護してるわけじゃない。SNSとそれをもてあそぶ風潮が事を大げさにしてしまってるんじゃないか? ぼくの知る限り、あいつ(ルーニー)ほどはクソ真面目なヤツはいないというのに。ごく普通に接してみたらあいつほど気のいい、付き合いやすい男はいないんだ。つまり、良い意味で隙も多いってことかもね」。続いて、現ラグビー・イングランド代表監督のエディー・ジョーンズ。「騒ぎすぎだ。彼らはみんな大人の男。酒を飲んだってベッドに行く時間は心得てる。次の朝にはしっかりといつものように練習をやる。それがプロってもんだ」・・・・。そう、ルールにしてしまった方が問題を起きやすくする。自己責任の意識がなければプロは務まらない。 ▽ルーニーの所属クラブのボス、ジョゼ・モウリーニョですら同情的だ。それも“ジョゼ流”に。「その場にFAのスタッフが何人かいたというじゃないか。なぜ彼らはウェインを制御しなかったんだ?そっちの方がはるかに問題だろう」ひょっとしたら、ユナイテッドでルーニーを“冷遇”している後ろめたさもあった(?)かもしれないが、いずれにせよ、モウリーニョの“巧妙な”いちゃもんが利いたのか、FAはこのほど代表試合期間中の飲酒を禁止する御触れを出した。個人的に、どこか筋違いな気がしなくもない。クロップやジョーンズの言う通り、彼らが大人なら余計なお世話だからだが、世間体を考慮した、つまり、野次馬的なメディアや軽々に騒ぐファンに向けた、体裁づくりとして受け取っておこう。ちょうど、ギャレス・サウスゲイトの「つなぎ監督期間」が終了した区切りでもあることだし。そう、無用な火の粉は払っておくに限る。サウスゲイトにかかる火の粉は。 ▽大勢は「サウスゲイトの正式就任」だ。これといった有力な対抗馬なりがいないこともあるが、何より、プレーヤーたちはもちろん、元プレーヤー組の識者もこぞって「続投」を支持している。悠々完勝ムードだった対スペイン・フレンドリーが終了間際に追いつかれた後味の悪さは残るも、取り立てて指揮官の不手際があったわけではない。それをあえて「見送り」、どこぞの異邦の大物指導者を連れてくる方がFAへの風当たりが強くなるはず。また、キャプテンの酒乱(?)事件の根っこにサウスゲイトへの不満があったわけでもない(ルーニーは陽気に羽目を外しただけで誰かに迷惑をかけたわけでもない)。そう考えれば、ルーニーは図らずも“格好のお騒がせネタ”を提供したと言えなくもない。そもそも、フレッチャーが言うように、昨今のプレースタイルからいっても、ルーニーほど責任感の強い男もいないのだ。むしろ、それが彼の長所を自らぼかしてしまっていると思えるほどに。ならばこの一件で彼が本来の自己に目覚めれば好都合。頼むぞ、ウェイン。【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2016.11.18 13:15 Fri
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【東本貢司のFCUK!】ナショナルアイデンティティー

▽アメリカ合衆国「次期大統領ドナルド・トランプ」の“衝撃”が、早くもスポーツ界に波紋を投げかけている。例えば、2024年オリンピック/パラリンピックのホストに立候補しているのはパリ、ブダペスト、そしてロサンジェルズだが、トランプ氏が標榜する外交アジェンダに則った場合、LAの辞退は濃厚になったという。また、アメリカが誇る“三大”プロスポーツリーグ、NFL、NBA、MLBが計画中の定期的海外進出(会場使用)にも“物言い”がかかりそうだとか、果ては「外国人プレーヤー制限の可能性」まで。そして何よりも、アメリカが最有力候補(一説には「事実上、ほとんど決まり」)と目されている2026年W杯開催への影響。まず、昨今のFIFA新アジェンダに照らし合わせて検討課題とされている「カナダ、メキシコとの共催案」は「消えた」も同然だと、一部メディアが先走りして喧しく「注意を呼び掛ける」始末。だが、果たしてそうなのか? ▽そういうご時世なのだから仕方がないのかもしれないが、トランプ氏当選が濃厚になり始めた頃から株価の一斉落下現象が起きたのには、正直、呆れてため息がもれたほどだ。要するに「踊らされすぎ」、別の言い方をするなら状況判断が「軽すぎ」やしないか。証券取引の類には一切縁のない“素人”の筆者だが、こんなせわしない、せせこましいトレーディング(が許されていること)が、実はグローバル経済の立ち直りを阻害しているのでは、と勘繰りたくなってしまう。そもそも、何も明日明後日から即、トランプ氏が遊説中にぶち上げたアジェンダが実施されるわけでもない。はっきり言って、慌てすぎ、先読みをしすぎだと思うのだが・・・・。などと愚痴りたい気になってきて、ふとひらめいた(気がした)。これこそが、トランプが仕掛けた大ばくちなのではあるまいか。無論、選挙に敗れてしまえばそれまでだったが、“めでたく逆転勝利”を収めた今、そう、勝利宣言演説で彼は何と言ったか。「党派も何もかも乗り越えてみんな一つになって」やっていこう! ▽勝手な希望的観測である。しかし、世紀の“バクチ打ち(でウソ三百代言の)”ドナルド・トランプならやりかねない。すなわち、これまで傍若無人流にまき散らしてきた刺激的で過激で相応に反社会的かつ時代に逆行するような政治方針らしきものを、それなりに(良い意味でも悪い意味でも)実践しつつも、幸便にすり替えの言い訳やお題目をくっつけながら、まるで当初のイメージとは異なる世界図を作り上げようとする・・・・目論みをもっているのではないか、と。それが具体的にどんな(良くも悪くも)混乱と果実をもたらすのかはわからない。が、類似したナショナル・アイデンティティー優先、原点回帰志向」の(EUを脱退した)UKに対して、例えば、NBAとプレミアリーグの「会場交換開催」を申し出る、あるいは、もっと踏み込んでUEFAチャンピオンズリーグの、手始めに、準決勝と決勝のアメリカ開催を提案する・・・・なんてことを誰かがトランプの耳元で囁くかもしれない。なんとなれば、彼の盟友で元ニューヨーク市長ルディー・ジュリアーニ氏が、現在訴追中のFIFA汚職事件に、メインで携わる役職に就任するという噂もあるのだ。 ▽とまあ、少々大げさで、大枠閑話休題的な話をしてきてしまったが、少なくともトランプ御大は「ナショナル・アイデンティティー」に基づくテーマなら、二言返事で協力・推進する可能性は大。ならば、今週金曜日の「イングランド-スコットランド戦」で両軍プレーヤーが「腕に巻く(予定の)ポピーの紋章」にも、彼なら諸手を挙げて賛同してくれるはずだ。杓子定規なFIFAの規則など、鼻で笑って(暴言交じりに)体を張ってくれることだろう。もちろん、そんな提言をする権利は現段階も今後もあり得ないだろうが、彼なら許される(かもしれない)。シンプルに言い換えよう。トランプの“真意(と世界に訴えかける提案)”とは、身勝手な「アメリカ・ファースト」ではなく、ひとえに「ナショナルアンデンティティー・ファースト」なのではないか。無論、それはあくまでも「旗印」もしくは「表向き」。そこから始まる「何か」だという気がする。ヒラリー・クリントンなら絶対に思いつかない発想。なにゆえ、ロシアや中国がトランプ・シンパなのか。それを考えれば、きっと「何か」は見えてくる。無論、諸刃の剣の恐れは十分にあるが。【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2016.11.10 10:15 Thu
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【東本貢司のFCUK!】ただ事ではない「ポピー論争」

▽もし、フレンドリーであれ何であれ「8月15日」に行われることになった日本代表の国際試合において、サムライジャパンの面々が「喪章」を腕に巻いてピッチに出たとしたら、それは何等かの「政治的」なメッセージとして受け取られるのだろうか。筆者の知る限り、過去にそんな議論が俎上に上げられたこともなければ、そもそもそのような発想すら(特にJFAに)芽吹いたこともないはずだが、この際、是非「同案を考慮することになった」として考えてみてほしい。繰り返す。そこに「政治的」な意味合いが込められていることになるのかどうか。対戦する相手が韓国や中国なら、やはり抗議の波風が立つ可能性がないとはいえない。それを煩わしいとして、わざわざ“彼ら”の神経を逆なでする種を蒔くことはない、という考え方もあるだろう。いや、多分日本のファン、というより日本人全員が「?」をつけるに違いない。「そうすることに果たして何の意味があるのか」と。 ▽さて、プレミアファンの皆さんは気が付かれていただろうか。毎年11月の上旬、正確には「11日」前後の公式戦の際、主に各クラブの監督連がこぞって、何やら赤いバッジにようなものを胸につけていることを。日本人の感覚からすれば「赤い羽根」の英国版、つまり何等かのチャリティー活動に由来するもの・・・・ではない。11月11日のアーミスティス・デイ(リメンバランス・デイともいう)にちなんだシンボルで、ポピーの花びらを象ったものだ。では「アーミスティス・デイ」とは何か。察しの良い方はもうおわかりかもしれないが、すなわち、第一次(第二次ではない)世界大戦が事実上終結した日―――。特に英国(イングランド、スコットランド、ウェールズ)では、「お国のために戦争で犠牲になった人々を思い出す」日として、いわば、我々日本人が「お盆」としてごく自然に「(先祖の)墓参り」をするように、いや、それ以上の重みを感じながら「忘れない」ことを確かめ合う日、というべきものなのである。政府閣僚の靖国参拝とはまるで意味合いが違う。 ▽折しも、来る11月11日、ウェンブリーにてイングランド-スコットランド戦が行われるが、これがFIFA主催の2018W杯予選であることから、両国FAは事前にFIFAに断りを入れた。両軍プレーヤー全員が腕に「ポピーに造花をあしらった黒い喪章」を巻いて戦いに臨む、と。ところが、世界統括機構の返答は「まかりならん」。その理由は、FIFA理事会(Ifab)が法規に定めた通り、「政治的、宗教的、もしくは個人的スローガン、声明、メッセージ、イメージに由来するいかなるものも身に着けてはならない」からであり、このケースでは「政治的」に該当するからである、と。しかし、すでに触れたように、これは英国民の“ソウルイベント”に当たるもので、イングランドとスコットランドの協会側は「政治的な意味合いは毛頭ない」とし、さらに全英国民および該当代表プレーヤー全員がこれを望んでいるとして、強硬に撤回を求め、一歩も引かない構えなのである。英国の新聞もこぞってこの問題を大々的に取り上げ、私事ながら、筆者の旧友(ごく普通の主婦も含む)、FIFAの“わからずやぶり”に困り果てて怒りの声を上げているほどに。 ▽おそらくは、「例外」を認めてしまうとキリがない、というFIFAの思惑があるのだろうが、実はすでに彼らは「例外」を認めてしまった前科がある。今年3月、スイス代表を迎えたフレンドリーにおいて、アイルランド代表プレーヤーは「イースター・ライジング」100周年を記念した“政治的シンボル”を身に着けてプレーし、FIFAはこれを黙認しているのだ。「イースター・ラインジング」とは1916年4月下旬、英国軍がアイルランドに侵攻して同反乱軍を制圧、わずか5日間で5百人近くの犠牲者を出した、まさに「政治的」騒乱事件のこと。これが容認されてアーミスティス・デイがいけないとすれば、明らかなダブルスタンダードと言われても仕方がない。それでもFIFAは、もし強行すれば「ポイント剥奪」の罰則も辞さないと“脅し”をかけているといわれるが、イングランドおよびスコットランドの協会側も「たとえ罰則がどうのと言われようが、我々は役員からプレーヤーまでもれなく全員、ウェンブリーでポピーをつける」と、まさに全面対決。 ▽公平に見て、このせめぎあいはFIFAに分が悪い。イースター・ライジングの一件もそうだが、例えばイスラム教徒のプレーヤーが「安息日」にプレーを拒否することだって、「宗教的」に違反することになるからだ。この木曜日、ifabは改めて審議の場を設け、そこにはイングランド、スコットランド各協会の代表者(チェアマン)も出席して撤回要求を正式にする手はずになっている。まさかとは思うが、そこでよもや決裂という事態になれば、2006年と2016年の二度にわたって“裏切られた”遺恨を引きずるイングランドが、盟友(スコットランド、ウェールズ)と組んで思い切った行動に出る可能性なきにしもあらず。そんなバカな、と鼻で笑う方がもし居るとしたら、それは英国民にとってのアーミスティス・デイがどれほどの重みをもつかに思い至らないからだろう。とりわけ、一向に国家財政の健全化が立ち行かず、重大な復興問題を抱えているにもかかわらず、莫大な費用がかかるイベントを無理やり推し進めようとしている、どこかの国の権力者たちには。 【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2016.11.03 12:30 Thu
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【東本貢司のFCUK!】居心地の悪さにめげるべからず

▽虫の知らせを感じていた。負ければそれまでのカップ戦にはありがちとはいえ、水曜日のEFLカップ4回戦・3試合のカードを見れば、不穏な予感は否めなかった。はたしてそれは、2012年ロンドン五輪のメインスタジアムで現実のものとなった。終盤、ウェスト・ハムの勝利濃厚となった頃、ビジターサポーター席との境で騒動が発生。きっかけは定かでない。現地の目撃者談によると、ペットボトルらしきものが飛んだのはハマーズサポーター側だったという。直前に激しい口論なりがあったのだろう。そのうち、引きはがされた白いシートが4つ、5つ宙を舞い、スタンド内の係員数名が慌ただしく現場に殺到、もみ合いはさらにエスカレートした。無論、ゲームはまだ続いている。アザールのシュートがポストを叩き、交代出場のディエゴ・コスタも惜しいチャンスを逃す。状況を見ていない身では細かな時系列の流れを把握できないが、おそらくスタンド内の騒ぎが収まってまもないインジュリータイム、ケイヒルが遅まきながらのゴールを押し込んだようだ。 ▽2-1。見どころの多かったロンドン・ダービーは、ウェスト・ハムの快勝で幕を閉じた。もし、チェルシーの敗因を後付けするなら、先日マンチェスター・ユナイテッドをこてんぱんに葬ったメンバーから7名を外した“準一軍”で臨んだことになってしまうだろう。そして、その一番の矢面に立たされるのは、故障から戻ってきたジョン・テリーということになる。実際、ハマーズ、クヤーテの先制ゴールはテリーの緩慢な対応から生まれている。後半開始まもないフェルナンデスの追加点も、テリーの両足の間を測ったようにすり抜けていった。アントニオ・コンテは50分過ぎから順ぐりに、ディエゴ・コスタ、アザール、ペドロを投入、流れは一気にビジターサイドに傾くも、ゴールには届かない。ある意味ではプラン通りだったのだろう。そして、ユナイテッドに完勝して乗っている今のブルーズなら、残り30分あれば悪くともイーヴンに持ち込み、延長にもつれ込んでもそのときこそ消耗の少ない3人のエース、その存在がものをいう。だが、目論見は外れた。ビリッチには、自身もプレミアでプレーした経験から荒れ模様の展開を読む一日の長があったか。 ▽ロンドンは異邦人にとってやはり最も過ごしやすい街のようだ。ビリッチはその恩恵を生かし、やってきて間もない初陣コンテにはまだこれからということなのかもしれない。なぜなら、二度の機会にロンドンを根城にし、現在も家族が居を構えるモウリーニョにとって、マンチェスターはまだ馴染めないようだからだ。単身赴任のホテル住まい、記者やパパラッツィがうるさくつきまとうため、ふらり外食もままならない。「居心地がいいとは決して言えない」とジョゼ君。そして迎えた“番外(=リーグカップ)”マンチェスター・ダービー、宿敵グァルディオラはまるでこれみよがしのメンバー落ちで、モウリーニョの苛立ちを逆撫でするかのよう。仮にも舞台はオールド・トラッフォード。ここで敗れてタイトルの目当てを一つ失えば、ますます「居心地」は悪くなる。果たして、運はなんとかモウリーニョに味方した。イブラヒモヴィッチに依然冴えが戻らず、ポグバもほんの時折ハッと思わせるだけ・・・・“渦中”のルーニーとムヒタリアンはベンチにすらいなかった。マタの切れ味に救われたとはいえ、ミスターMの居心地の悪さはまだしばらく続きそうだ。 ▽あゝ、それよりももっと心配なのはサンダランド。その“孤軍奮闘”の将、デイヴィッド・モイーズだ。遠路はるばる乗り込んだ南岸のサウサンプトンにて、主(あるじ)クロード・ピュエルは、3日前にマンチェスター・シティーと引き分けたチームから7人をすげ替え、それどころかアカデミー卒業生を6名も抜擢して、悩めるモイーズを挑発?! それでもまったく突破口を開けないブラックキャッツのもどかしさに、元ユナイテッド監督もさすがに業を煮やしたか、ゲーム終盤、アニチェベがボックス内で倒された一件に激高、レフェリーから退場宣告を受けてしまった。居心地の悪さどころの話ではない。ふと、考えてしまう。エヴァートンをチャンピオンズ参戦にまで引き上げた頃のモイーズには、時のチェルシーから触手が伸び、あるいはヴェンゲルのクビが叫ばれていた中のアーセナルも関心を持っていたと言われたものだ。エヴァトニアンにしてみれば言語道断だったが、もし仮に「モイーズ・チェルシー監督」が実現していたら、その後どうなっていただろうか、と。 ▽短絡的に想像してみると、多分、モウリーニョのユナイテッド監督就任はずっと早く決まっていただろう。つまり、ジョゼ君の第二次チェルシー政権はなかったことになり、ファン・ハールの名前が挙がることもなかった算段になる。モイーズがスタンフォード・ブリッジで成功をものにしていたかどうかは、無論、わからないが、少なくともサー・アレックスの後ほどのプレッシャーはなかったはずだから、さすがに一年足らずで追われるというような事態には及ばなかったろう。例の女性トレーナー事件もきっとなかった。「たられば」を並べればキリがないとはいえ、つくずく人間の運命とはわからないものだ。だからこそ思う。もしもこの先、サンダランドがモイーズを見限ってしまう(もしくは、彼自身が身を引く)ようなことがあるようなら、と。ここはじっと我慢の子、せめて来たる1月の補強に希望をつないで「名将モイーズ」の旗を今一度たなびかせる夢を描いてほしいと切に願う。そもそも一年程度で「万年残留争い」のチームが劇的に変わるものではないのだから。それは、オールド・トラッフォードの誰かさんについてもまったく同じである。【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2016.10.27 12:07 Thu
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【東本貢司のFCUK!】レスターとフォレストの相似形

▽プレミア王者レスター・シティーのここまでの戦績を見ていると、なにやらかつてブライアン・クラフが率いたノッティンガム・フォレストの姿がちらついてきた。1977-78シーズン、2部から昇格したばかりのフォレストは、怒涛の快進撃で2位リヴァプールに7ポイント差をつけて1部初優勝を果たした。ちなみに3~5位は、エヴァートン、マンチェスター・シティー、アーセナルで、6位に入ったウェスト・ブロムウィッチ・アルビオンとともにUEFAカップ出場権を獲得している。同シーズンは何かと波乱含みの結果が目立ち、例えばマンチェスター・ユナイテッドは新監督デイヴ・セクストン麾下、10位に低迷。また、FAカップを制覇したのは、やっとのことで降格を免れたイプスウィッチ(こちらも同カップ初優勝。監督はボビー・ロブソン)だった。一方、ニューカッスル(13年ぶり)とウェスト・ハム(20年ぶり)、そして他ならぬレスターが降格に甘んじている。 ▽ついでにもう少し同シーズンのトリヴィアを続けると、得点王は30ゴールを積み上げたエヴァートンのボブ・ラッチフォード。このとき27歳のラッチフォードは、戦後初めて一シーズン30得点に到達したご褒美に、新聞社から1万ポンドを贈呈されている。183センチの“平凡”な身長ながらヘディングに滅法強く、また当代随一といわれたショートダッシュの速さを武器に得点を量産した。イメージはちょうど、現代のティム・ケイヒルのようなプレーヤーだったかもしれない。1974年から7シーズン在籍したエヴァートンでの記録は236試合106得点。その間、6シーズン連続でチーム得点王に輝いているほどに、同世代きっての完成されたセンターフォワードだった。この77-78シーズンにエヴァートンが披露した決定力には凄まじいものがあり、ホームで2度、6-0の圧勝劇を演じた他(対・コヴェントリー、チェルシー)、アウェイでもレスターとQPRを相手にともに5-1の大勝をものにしている。それでも3位に終わったのは総得点76の一方で「総失点45」が響いたゆえか。ちなみに、優勝したフォレストの記録は総失点わずか「24」(42試合)。 ▽そこで、昨シーズンのレスターと比較してみると―――総得点68(フォレストは69)、総失点36(同24)、そして何よりも両者のシーズン通しての敗戦が揃ってたったの3試合。確か、昨シーズン半ば頃(2015年歳末)、ミラクル・レスターの快進撃がいっこうに途切れそうにない状況に鑑みて、本コラムで「フォレストの快挙」を取り上げた記憶があるが、なんと者の見事に“シンクロ”した結果を迎えたわけだ。ところで、フォレストは翌シーズンもディフェンディング・チャンピオンとしてチャンピオンズカップに出場、連覇を成し遂げているが、国内リーグでも準優勝した。その記録は前年同様「アウェイのみの敗戦3」と「総得点61・総失点26」。それでも2位に甘んじたのは、雪辱優勝したリヴァプールが、なんと「総得点85・総失点16」という驚異的な記録を残したため。なお、3位に入ったのはウェスト・ブロム、エヴァートンが4位。アーセナル、ユナイテッドはそれぞれ7位、9位で、マンチェスター・シティーは実に15位まで転落している。そして「総得点44・総失点92、および敗戦27試合」の最下位で降格したのは、他ならぬチェルシーだった。 ▽気が付けば“昔話”に熱が入りすぎてしまったようだが、本稿のテーマはもちろん「レスターのこれから」。もしも、かつてのフォレストとの「ミラクル・シンクロ」を“夢見てしかるべき”ならば、現在負けが込んでしまっているプレミアで今後モウレツな反攻が始まると同時に、昨日無敗の3連勝を決めてグループリーグ突破へ王手をかけたチャンピオンズでのさらなる進撃を期待していいことになるのだが・・・・。カンテの抜けた穴は何とかアマーティとキングでカバーしつつ、新戦力のスリマーニも(やや下降線気味ながら)そこそこやってくれている。ヴァーディーの不発が気になるものの、それはマークがきつくなったゆえ。おそらくここまでの最大の“誤算”は、ディフェンスの二枚腰が利かなくなっているからか。それにまた、要のキーマン、マーレズにも二人、三人がかりの接近包囲網が目立つ。総じて言えば、敵方の工夫が現状では奏功、つまり、レスター得意の高速カウンターを封じる作戦に、今のところはまだ上手く対処しきれていないと言うべきだろう。 ▽監督ラニエリは「理解に苦しんで」いるらしい。グループの面子は比較的「楽」だとはいえ、チャンピオンズで見せてきているスキのあまりない戦いぶりが、なにゆえプレミアで出来ていないのか。つまり、ラニエリの眼には問題の核心が「メンタリティー」にあると映っている。ある現地識者は、キング・パワー・スタジアムのコンパクトさが、ヨーロッパのチームを居心地悪くさせている一方、国内組はそれに慣れてきたという一面もあると分析しているが・・・・。おそらくは、プレーヤーもファンも、初参戦のチャンピオンズに対するフレッシュな期待感と、今までになく目の敵にしてかかってくるプレミア各チームのプレッシャーとのギャップに戸惑っているようにも思える。GKシュマイケルはこのコペンハーゲン戦前、もどかしい足踏み打開の緊急ミーティングを持つと述べていた。ひょっとしたら、この勝利が分水嶺になるかもしれない。あのミラクル・レスターがこのまま尻すぼみでは面白くない。願わくば、フォレストの「再現」を旗印に今ひとたびのミラクルとプライドの証を。ラニエリも言っている。「プライオリティーはあくまでプレミアだ」【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2016.10.19 13:20 Wed
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【東本貢司のFCUK!】結果は必ずしもすべてじゃない

▽正直、鼻白む思いだ。ハリル・ジャパンが表面的にはもどかしいドローに終わった直後から、降って湧いたように「解任論」が噴出し始めた。それも、これまで「勝って嬉しい、負けて悲しい」程度だったはずの“素朴なファン(および、普段はさして関心を示さなかった人々)”たちからである。物事を判断する際には「わかってきた気がするとき」ほどむずかしい。慎重、熟考がないと底の浅い“結論めいたもの”に走ってしまうもの。ブラジルW杯前後辺りから、サムライブルーには異変が目立ち始めていた。主戦級が軒並み海外へと飛び出し、彼らのポテンシャルが国際的に認められ始めたことも、一種の逆作用を及ぼしているのかもしれない。「いつでも(代表に)合流すればそれなりのサッカーができる」ということは、裏を返せば「いつでも同じサッカーしかしない」ことになりかねない。おそらくハリルもそれを案じていた。果たして蓋を開けたW杯最終予選、苦戦の連続だ。そこで前半戦の天王山・対オーストラリアに「新路線」をぶつけてみた。そして・・・・。 ▽皆まで言うまい。素人目にも「変えたな」と気づく節が見え、それが結果を伴ったとは見えにくい、わかりにくいとなると、すわ、批判の矢を浴びせかける。本当は、何がどう変わり、その意図が奈辺にあるのか説明もできない向きほど、その傾向が強くなる。要するに、増幅されたやり場のない苛立ちだ。何の話かって? もちろん「ハリルの更迭近し」の静かなる大合唱にも重大な関わりがある。が、ここではスリーライオンズ、そのイングランドのキャプテンをめぐる「不要か否か論」に触れていかなければならない。代表最多ゴール、フィールドプレーヤーとして代表最多キャップという蓄積の節目を越え、名実ともに「偉大」の領域に入ったはずのウェイン・ルーニーが、今、その立ち位置の危なっかしさに直面している。年齢的な衰えはほぼない。31歳でそれは酷というもの。その理由、こちらはハリル(の戦術的変更)とは違って、素人目にもわかりやすい。一言で言えば、適性と与えられたポジションとの齟齬―――あからさまに言うなら、現在のルーニーはナンバー10、アンカー、トップ下、それらのいずれにも適合しない存在になっているのだ。 ▽しかも、何よりの問題は、ルーニー自身が「覚悟を示す方向性」を定めきれずに彷徨っている状態にあることだと思う。ジョゼ・モウリーニョの評価(ナンバー10、ストライカーの適性)や、今年のユーロでのもどかしいプレーには、彼にも忸怩たるものがあるはずだが、では何をどうすべきかの答えが(少なくとも今はまだ)見つけられていない。ポジションでの貢献度に疑問符をつけられ、ユナイテッド、代表でスタメンから落とされてもなお、彼は「上から与えられたポジションはどこでも厭わない」と、精神論でしか応えられていない。おそらくは、献身的に攻守に駆け回り続ける昨今のプレースタイルを今更変えることはできない、という強い思い、覚悟なのではあろう。そして、そのことがチームの戦術上、必ずしも有意義、良好に機能していないことも自覚しているからだろう。少々穿った言い方をすれば、彼は今、そんな「矛盾」を突き抜けて自らの存在を示すしかないと腹をくくっているようにも見える。ただ、その“兆し”はまだプラスに表面化していない。 ▽口を開けば「結果(がすべて)」と人は簡単に言うが、多くの場合、それも自らの生業や糧に直結するわけでも何でもない物事(余暇)に関しては、その「原因」をよく吟味などしないものだ。ハリルが「変えようとした、もしくは試みている」としたら、ルーニーの場合は「変えられない(から何にでも従う)」ことになるが、いずれも「原因」はほぼ明白だろう。そして、もうお気づきだと思うが、ここには「戦術ありきか、プレーヤー(の能力)ありきか」という、素朴で根源的ともいえる命題が行きつ戻りつ彷徨っている。さあ、どなたかこの命題について、自信をもって答えられますか? 「時と場合による」では話にならない。なぜなら、ここには歴然たる前提:「ほとんどの該当するプレーヤーたちは能力的にも戦術眼的にもできあがっている」があるからだ。つまり「どちらか」が歩み寄らねば問題解決に至らないことになるが・・・・。と、ここまで言い及んでおきながら恐縮だが答えは見えない。苦し紛れだが「相性と時の運次第」でしばしご勘弁いただきたい。 ▽ただ、突破口、ないしはそれにつながるヒントなら、よく目と耳を凝らして見つけることはできる。イングランドはFIFAランキング60位代のスロヴェニア相手に、シュートたったの3本でスコアレスドローに甘んじた。暫定の将、ギャレス・サウスゲイトが腹をくくった、ルーニーをスタメンから落とすというショック療法は逆効果に終わり、都落ちしたジョー・ハートのスーパーセーヴでやっと最低限の体面を繕えた格好。残り20分で登場したルーニーが何をどう思ったかは神のみぞ知る。豪州戦後、本田がつぶやいた「自分は下手になっているのかも」は、今後ハリル流に身を預けるという意思表示なのか、それとも・・・・。ただ、本稿の締めくくりにこれだけは言っておきたい。監督交代はリセット、ゼロからの出発と同義である。ここで断行してどんな結果が出ても、そこに評価する土台は薄い。成功も失敗も「たまたま」でしかない。たとえ仮にロシアを逸したとしても、次につながる明確な評価基準を築くことこそ何より肝要。W杯出場だけがすべてじゃない ?! 付記:現地最新報道は「サウスゲイト正式就任論」とそのサウスゲイトの「ルーニーは今後もキャプテン」声明を伝えています。 【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2016.10.13 11:15 Thu
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【東本貢司のFCUK!】「明日」は「未来」ではない?

▽ミランの本田が苛立っている。求められもしないのに、ゲーム終了直後、自らカルチョのメディアをつまかえて発した苦言。「イタリアのファンには愛がないのか?」この「愛」とは多分「気遣い」の意味により近いのだろうが、正直驚いた。ファンの即時的な感情の起伏の激しさなど、今に始まったことではない。ファンとはそういうものなのだ。むしろ、本田こそよほど気が立っていたのではなかったか。賭けてもいいが、その「優しくないヤジ」を飛ばした当人たちは、きっと当惑していることだろう。「優しく(無様なプレーや敗戦を)ねぎらう」ことのどこが「愛」なのだ、と―――。すわ、日本のメディアはこのエピソードをまるで事件めかして取り上げた。さて、フットボールそのものより「海外のトップリーグでプレーしている同胞への関心」が勝る日本の(同記事の)読者はどう思っただろうか。本田の「日本人らしい(?)義侠心」にいたく感じ入ったか、それとも……。 ▽同僚の不本意な退場に対する「心無い」ヤジにプレーヤー側から物申した例など、少なくとも近年では記憶にない。どこの国のどこのリーグでさえ。はたして、本田の発言は現地各方面に、あゝこれも一つの民族性の違いなのかもな、という以外のなんらかの“影響”をもたらしただろうか……疑問だ。そして、本田の真意も多分「違う」(と信じたい。そして、その「真意」のほどは是非ご推察願いたい)、なぜなら……。かつて、初出場の98年W杯から帰国した日本代表チームの某プレーヤーが、空港で待ち構えていた一部のファンから“怒り”の水を浴びせられた事件があった。その報を聞いて筆者は思わず天を仰いだものだった。見苦しいサル真似ではないか、と。すぐに思い出したのは、今からちょうど50年前の66年W杯、こともあろうに北朝鮮に敗れて失意のままに故国の空港に降り立った“優勝候補”のイタリア代表チームを、怒れるファンが腐った生卵の洗礼で出迎えたことだった。ファンとはそうするものだとでも思ったのだろうか、と。心底、情けなかった。 ▽論理の筋が少々とっちらかってしまったかもしれない。改めて整理しよう。昨日おとといセリエAにやってきたばかりはあるまいし、まさか本田とてファンの日ごろからの「節操のなさ」に今更驚いてカチンときたはずなどなかろう。ここからは筆者の勝手な解釈でしかないが、本田はヨーロッパ参戦以来、ずっと燻り続けていた疑問と違和感を、この前代未聞の苦言という形で、矢も楯もたまらず何らかの行動で示したいという思いにかられたのではないかということだ。無論、あの性格ならではという特例ではあろう。が、現実にこのざっと10年来、特にヨーロッパのトップリーグ界隈では、短絡的な「自浄、自爆」の現象に拍車がかかっている。少し負けが込むと監督交代を叫ぶ声が、あらゆる方面から囁かれ、叫ばれる。その多くに「ファンがうるさい」「ファンが黙っちゃいない」という言い訳がついて回る。だが、ファンが一つの無様な敗戦にお決まりの不平をぶつけるのは日常茶飯事。要は「ファンの批判」など単なる口実に利用されているだけではないのか? ▽今年のノーベル賞に晴れて輝いた大隅良典・理学博士は、受賞後の会見でこんなことを述べられた。筆者なりに意訳すると「目先の利用途、利益を先走って期待するマーケティング主導的な成果主義は、かけがえのない文化発展の芽をあたら摘んでしまう、長いスパンで受け止めて欲しい、将来への投資こそを」。強引、牽強付会と思われるかもしれないが、筆者はこの大隅博士のメッセージと本田の苦言が、いやに共鳴して聞こえて仕方がないのである。今季、失意の2部落ちからのUターン昇格を賭けて再出発を期したアストン・ヴィラは、開幕わずか1か月半足らずで新監督ディ・マッテオのクビを切った。よくあることだろうと知ったかぶりで苦笑する向きには是非申し上げたい。仮に、ここで監督のクビをすげ替え、まかり間違って来季のプレミア復帰を果たしたとしよう。その暁には大幅な補強でほぼ別のチームに生まれ変わる可能性大。だがそれでチームが本当の意味で地に足をつけたことになるのだろうか。断じてない。それはただの取り繕いでしかない。チームが成長、充実に向かっているとはいえない。たとえ運よく残留を決めたとしても、である。 ▽なぜ「明日に期待し、“ともに手を携えて”明日を創ろうとしないのか」―――これこそが、大隅博士と本田に共通する、魂の熱い叫びなのではないかと思えてならない。本田の場合、「ともに手を携えて」の「ともに」は特にファンを指していると考えていいだろう。とはいえ、哀しいことにこのご時世、そんな崇高な提言に耳を貸してなどいられないという御仁が、肝心の投資家筋には多すぎるようだ。そう、すぐ近い将来に医療などに利用できる見込みが立たなければ、あるいは、外国人金持ちオーナーの持ち株査定アップにつながらなければ、「明日」は「未来」でもなんでもなく、本当の意味の「明日」でなければならない……。もちろん、メディアにも問題は多々。例えば「日本人ノーベル賞受賞者続出の秘密」なる記事を探し出して、当の記事には目も通さないまま同筆者から「意見」を引き出そうとするどこぞの三流記者など。何もかもが一過性のキリトリで済まされる嘆かわしい文化の劣化、いや喪失。ミランのシーズンはまだ始まったばかりだ。ディ・マッテオも「さあ、これから」だった。そこを明確に認識してこそ、ファンを名乗れるはずなのでは? 穿った見方と言われようが、本田の苦言の真意はその辺りにあると思うのである。【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2016.10.06 14:55 Thu
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【東本貢司のFCUK!】アラダイス・ショックの“深層”

▽「この夏、イングランドは大恥をかいた。それが今は世界の笑いものになった」(ギャリー・リネカー)。「腹立たしい。嘆かわしい。夢にまでみた仕事をついに手に入れた男がまさかこんな“判断ミス”をしたのかと思うと眩暈がする」(アラン・シアラー)。「少しは同情しないでもないが・・・・FAに選択の余地はなかった」(ロビー・サヴェイジ)。「わたしはサムが好きだ。残念でならない。長年の夢が叶ったはずだったのに。わたしは今でも彼が好きだし尊敬している」(ジョゼ・モウリーニョ)。「とてつもない失望。サムに起きたことは本当に悲しむべきであり、そして誰にだって怒り得ることだ。サムは知らぬ間にその代償を払うことになった。プライバシーはもはや自宅の中にいなければ守られないものになった」(スティーヴ・マクラーレン)――。以上は、今夏悲劇的なユーロ敗退後、満を持して新たなスリーライオンズ監督に指名されたばかりのサム・アラダイスが、なんとわずか67日で辞任に追い込まれることになったことに対する感想の一部である。 ▽現地報道によると、その「罪状」は次の通り。「サードパーティー(第三者:クラブ以外の投資ファンドグループなど)によるプレーヤー保有」は、2008年以降FAによって禁止されている(後にFIFAもこれに追随。なお、ミシェル・プラティニはUEFA会長時代に、この“慣例”を「奴隷制度」になぞらえて強く非難していた)が、某極東企業の代理人の依頼に応じて、アラダイスはこのご法度を“免れる迂回作戦”を指南する「アドバイザー」役としての契約(謝礼は40万ポンド)を結んだというのである。だが、この「代理人」と称する人物こそが実は『デイリー・テレグラフ』紙の記者であり、ロンドンとマンチェスターで二度にわたって行われた「会合の一部始終」は、テレグラフによってすべてカメラに収められていた! 要するに、英国一部メディアが得意とする、囮、いや「なりすまし」取材。思い出すのは、2006年W杯を控えた春先だったか、当時代表監督のスヴェン・エリクソンを襲った同種の罠(某中東ファンドの代理人と称する記者が、クラブ監督に鞍替えする意思を探ろうとした)。怒ったエリクソンは大会後の辞任を宣言した。 ▽エリクソン事件については、さすがに(エリクソン失脚を誘導したい?)メディアの“勇み足”として顰蹙(ひんしゅく)を買ったものだったが、今回の場合は少し“趣き”が違う。テレグラフによると、過去1年近く前から追い続けてきた「フットボール界の腐敗と金権体質」取材活動の過程で、たまたまアラダイスの「不正疑惑」が網に引っ掛かったのだという。そして、そのタイミングが、FAによるアラダイス(代表監督)指名直後だったと仄めかせている。要するに、テレグラフの“言い分”はこんな風に読み取れるのだ。そもそも許しがたい不正だが、それが代表のボスともなれば大スキャンダルになってでっかいキズがつく。一方で、告発してから徒に時間がかかってしまうようだと必ずや、代表のW杯予選に差しさわりが出よう。一刻も早く「決着」をつける必要があり、それにはウムを言わせぬ「証拠」が欠かせない。そこで手っ取り早く囮取材で・・・・。テレグラフ自身がそんな“きれいごとの非常手段”を示唆しているわけではない。が、アラダイス本人が抗弁一つもなくあっさりと謝罪して解任に応じたことから、誰もが納得ずくの顛末ではないかと考えられる。 ▽しかし、そうはいっても想像を絶するセットバックである。それこそアラダイス自ら「優柔不断」と批判したロイ・ホジソンの失敗から立ち直るべく、ほぼ全国民の希望の一身に集めていたはずの“切り札”が、思わぬ脇の甘さから自滅した格好で泣く泣く舞台から降りることになってしまったのだ。「思わぬ」といったが、これには一つ筆者に思うところがある。戦術論の筋立てはむしろ細心かつ執拗なくらいのアラダイスだが、その風貌からも察せられるように、豪放磊落、面倒見がよく人情に篤いと定評がある。すると、今回の「わざとらしい」とさえ思える「(指南なら)任せておけ、どこでもやってることだし」なる、甘い見立ては、実は親友で本件当事者の一人でもあったスコット・マッガーヴィーを「救済」したい一心からではなかったか、ということだ。もちろん憶測にすぎない。マッガーヴィーが困窮していたかどうかも不明。しかし、代表監督として3百万ポンドの年俸を取る男が、たかだか40万ポンドのために危ない橋を渡ったとはとても思えないのだ。 ▽そう、「(アラダイスの行為が)指揮官として不適切」(FAチェアマン、グレグ・クラーク)であっても、指揮官としては「現状最適任なら、どうにかならなかったのか?」という、やるせなさが、すでに挙げたVIPたちの“感想文”からも、ましてや、FAのチーフエグゼクティヴ、マーティン・グレンの悲痛な言葉からもにじみ出てはいないだろうか。我々異国の部外者は言うに及ばず、おそらくテレグラフの摘発チームよりも、はるかにアラダイスの人となりを知っている人々だからこそ、彼らの胸の痛みは普通ではないはずなのだ。かくて、すべてはリセットされる。ひとまずはアンダーエイジ代表を率いるギャレス・サウスゲイトが兼任の形を取ることになった。その“期限”は10月のマルタ戦とスロヴェニア戦、11月に行われるスコットランド戦(以上、W杯予選)、対スペイン・フレンドリーの計4試合まで。その間に後継監督を探し出す使命を果たさねばならない。かのマイクル・オーウェンは、マルタ/スロヴェニア/スコットランドに連勝した暁にはサウスゲイトの“自動昇格"を凌ぐ最善策があるとは思えないと、力説しているが・・・・さて。 【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2016.09.29 12:30 Thu
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【東本貢司のFCUK!】逆襲のキーマン、それは「MC」

▽今シーズンから「EFLカップ」と銘打って行われているリーグカップ。その3回戦・16試合がこの2日間で行われた。波乱らしい波乱は、エヴァートンがホームでノリッチに敗れたのみ。ただし、過去1年間の“序列”に照らし合わせる限り、レスターがホーム、キング・パワー・スタジアムでチェルシーに喫した逆転負けも数えておくべきかもしれない。このゲームについて、日本では「いずれもネットを揺るがすことなく決まった」岡崎の珍妙な、もとい、オカザキらしい2ゴールにスポットを当てる一方で、現プレミア王者がトーナメントから姿を消した“番狂わせ”などそっちのけ。まあそんなものだろうと悟ってしまえばそれまでだが、相変わらずの手前味噌な“切り取り報道”には、う~ん、どうにも割り切れない。個人的には、ノリッチ勝利の立役者が前エヴァートンの好漢スティーヴン・ネイスミスだったドラマが「ニューズの価値」で上。いや、言っても仕方ないか。多分、レアル・マドリードが17連勝の新記録を逸したことの方がインパクト大だろうから。 ▽さて、密かに気がかりだったのは突如“絶不調”の負のスパイラルに入った感のあるマンチェスター・ユナイテッドが「よもやの悪夢」に見舞われるのでは、というそこはかとない不安。鬼が棲むカップ戦、相手が3部のノーザンプトン(この時点でリーグ戦8試合消化の11位:首位と勝ち点差7)だからこそ、「まさか」の事態もなくはないと(きっと一部のユナイテッドファンの間には)嫌~なデジャヴもちらついたりしていたのではないか。実際、ハーフタイム直前のデイリー・ブリントの“粗相”からPK失点でイーヴンにされたときは、彼らも思わず眉をしかめたに違いない。結局は3-1の(まずまずの)快勝で杞憂に終わったが、この試合の成り行きを振り返ってみたとき、悩めるジョゼ・モウリーニョが一つの路線変更に舵を切るか否かに、現地識者の間で注目が集まっている。それはずばり、このノーザンプトン戦で先制点を叩き込み、トレードマークの懐の深いボールさばきと広い視野でチームを文字通りに仕切ったベテラン、マイクル・キャリックの、今後の取り扱い。と、その前に改めてノーザンプトンが“難敵”に見えた理由に触れておこう。 ▽実はこのノーザンプトン・タウン、昨シーズンの舞台は4部のリーグ2。だが、ほぼ余裕をもって同ディヴィジョンで優勝を果たし、3部・リーグ1に昇格後7試合消化の時点まで、31戦無敗の快進撃を続けていたのである。記録は先週土曜日の対チェスタフィールド敗戦で途絶えたものの、ホーム、シックスフィールズ・スタジアム(収容7800弱)に詰めかけた地元ファンの中には、「互角に戦えないこともない」という期待に胸ときめかせていた者も多かったという。ところが、皮肉にもそんなコブラーズ(ノーザンプトンの通称)いちの期待の星、23歳の守護神アダム・スミス(かの世界的経済学者と同名だ)のボーンヘッドが、ユナイテッドの先制ゴールを生む結果となったのだ。結果論かもしれないが、今季昇格決定後からプレミアのクラブからも熱い視線が集まっていた「スミスのミスがミソをつけた」ことが、大波乱を起こす芽を摘んでしまった。裏を返せば、ユナイテッドはその隙に救われ、たまたま今季初先発のキャリックがその“運”をものにした・・・・。 ▽これはちょっとした新しいドラマの始まりの兆しとは言えまいか。無論、まだ何もわからない。モウリーニョがこの“運”に目をつけて、次戦(プレミア)・対レスターにキャリックをスタメンに“抜擢”するという保証は何もない。が、ノーザンプトン戦の経過を総括すれば、明らかにキャリックの存在を表す形容詞は「絶大」だった。そこで、一つ前のワトフォード戦を振り返ってみると・・・・最大の課題、それは新・世界最高額男のポール・ポグバが見るからに窮屈なプレーに終始していたこと。では、キャリックと組ませてみたらどうなるか。言うまでもない。ポグバははるかに自由に、気楽にポジションを取りながら、本来の能力、影響力を存分に行使する図が目に浮かぶではないか。そもそも、ポグバも、ここまでモウリーニョに優遇されているフェライニも、司令塔タイプというには大きに物足りない。加えて、肝心のルーニーに何か迷いでもあるのか、どうもピリっとしない。ならば、答えは「今、そこにある」のでは? キャリックをベンチでは「もったいない」! ▽モウリーニョは就任に当たって、ルーニーの役割を「よりストライカー寄り」と示唆していた。だとしたら、今こそプラン修正の絶好のヒントが、キャリックという、いまだ健在の「軸」からひもといていっても罰は当たるまい。例えばこうなる。イブラのワントップに、中盤上がり目にルーニーとポグバ、両ワイドは機動力のあるマタ、エレーラ、ムヒタリアン、リンガード、ヤング、デパイらからピックアップする。場合によってはマーシアル、ラシュフォードもそのリストに入れればいい(順当なら、ラシュフォードはここぞというときのスーパーサブでよさそうだが)。フェライニこそ、アクセントをつける、あるいは変える切り札として使える。なお、個人的には先のワイドマン候補の筆頭にヴァレンシアを挙げたいところである。サイドバックなんてそれこそ「もったいない」。以上はあくまでも“外野”からの一案。モウリーニョともあろう者なら、ずっと効果的な修正案をひねり出すだろう。ともあれ、今このとき、軸にすべきはキャリックしかありえない?! 【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2016.09.22 13:00 Thu
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【東本貢司のFCUK!】お楽しみはこれからだ

▽ざっと8、9か月前のこと―――年の変わり目にほんの“一瞬”首位に立ったアーセナルがその地位をレスターに奪還され、あろうことか宿敵スパーズにまで追い抜かれた頃、ある知人がこう宣った。「このチャンスを逸したら向こう100年経ってもめぐってこないだろうから、レスターかスパーズにタイトルを獲ってもらってもいい気分になっている」さてこの知人、他でもない超のつくガナーズサポーターが、である。そこには一抹の負け惜しみにも似た“寛容”の匂いを感じ取ったものだった。そして結末は、多分「アーセナル命」の狂おしい心情に最も“寛容”な形に収斂した。レスターの歴史的優勝と、最後の最後で足並みを乱したスパーズを逆転しての2位。だが、彼とその故国のプレミアファンとの温度差にさほどのものはなかったに違いないとしても、“母国”の識者や通の者たちですら、レスターの快挙を「歴史的=一時の奇跡」として扱う素振りしか見せなかった。 ▽つまり“奇跡のチーム”レスターの連覇、その可能性は限りなくゼロである、と。その目に見える根拠はと言えば、カンテを失ったことと・・・・いや、それだけにもかかわらず! 彼らの目は、「現代最高」の誉を引っ提げて乗り込んできたグアルディオラと帰ってきたモウリーニョの「一騎打ち」に奪われ、世紀の「口の減らない」尊大なストライカーと新・世界最高額の出戻りプレーヤーのコラボに奪われ続けた。アーセナルも、スパーズも、もちろんレスターも、所詮は露払い役、もしくはそのまた下である、と。ある程度はやむをえまい。かのブライアン・クラフが率いたノッティンガム・フォレストの時代とは、何もかもが隔世そのものの今、奇跡が持続する余地はほとんど考えられない。その予兆よろしく、コミュニティーシールドでユナイテッドに敗れたのはともかく、シーズン緒戦で昇格ハルに屈し、対アーセナル・ドロー、ようやくスウォンジーを一蹴した初勝利を挟んで、リヴァプールに大敗・・・・。それ見たことか、奇跡は奇跡、それ以上の何ものでもない・・・・。 ▽さて、知る人ぞ知る「クラフのボトル」―――常にほろ酔い気分の怖いもの知らずのクソ度胸で知られたブライアン・クラフの“裏呼称”) ―――が、何があろうと微動だにしないクラウディオ・ラニエリに(若干姿を変えて)乗り移ってはいないか、と夢見る愚か者は筆者だけなのだろうか。ヴァーディーが「心の声」に感じ、ドリンクウォーター、マーレズがふとした誘惑から踏みとどまった事実が、レスターのアンダードッグ魂に再び火をつけたと考えるのはそれほど浅はかだろうか。キーワードは「クラフ」、そして夢の舞台は―――チャンピオンズリーグだ。奇跡の新たな再現の芽はすぐそこにある! かくして、レスター・シティーの記念すべきチャンピオンズ初挑戦は快勝で火ぶたを切った。相手がどうのという話はきっぱり却下する。というより、これはプレミア王者としての特権、勲章である。それをきっちり勝ち切ったことがすべて。つまり、ここ(チャンピオンズ第一戦)でたたらを踏むようなことがあればとの危惧を吹き飛ばしてくれたことが大事なのだ。 ▽まだ始まったばかりじゃないか、という声はあえて聞き流す。要するに、レスターが新たな奇跡の風を吹かせ、単なる“寛容”では片づけられない何かを有無を言わせず打ち立てること―――それが、プレミアはもちろん、ヨーロッパ全体をひっくるめたプロフットボールの正しい隆盛に貢献すると思うからだ。さて皆さん、チャンピオンズをどう評価するか。とんでもない高給取りの世界的スーパースターたちで目のくらむようなクラブが、いつまでたっても上位/優勝争いを独占し続ける昨今の現状が、はたして真に健全と言えるのだろうか。つまり、これは格差是正とは対極にある寡占の世界。チャンピオンズ上位常連だけが莫大な見返りを享受し、それによってさらに高給でスーパースター(ないしはその候補)を独占的に駆り集めることができる、いびつなカルテル、無国籍超大企業のやりたい放題。ならばどうだ、今季第一節の結果を眺め渡したとき、これは何か大暴れしてくれそうな予感をもたらしたチームは、どう見てもレスターしか目に映らないではないか? ▽そもそも、いっとき何かの間違い(?)で頂点に立ったからこそ「アンダードッグ」なのである。しばらく、あと一歩なり二歩なりそれ以下なりに冴えない結果だろうと、常に優勝候補に数えられるレアル、バルサ、ユヴェントスのような“永遠の格”を築いていないチームだからこそ、反響も影響力も大きい。こう考えればいい。一時は世界のトップに君臨し続けながら今やすっかり地に堕ちた感のあるアヤックス。そんなアヤックスですら、いずれチャンピオンズに返り咲いた日には“昔の名前”の威力で必ずや注目の的になるだろう。ときの戦力次第だとしても優勝候補に数えられても不思議ではない。しかし、レスターはその立ち位置がまるで違う。今後、例えば10年や20年、プレミアで他を圧してタイトルを積み上げていって初めて、末席仲間入りの資格を与えられるかもしれない程度なのだ。つまりは、長いシーズン中、一試合の勝ち負けに(ファンか否かを超越して!)一喜一憂する“究極の楽しみ”をもたらしてくれる、そんなレスターが、新たな歴史の一ページを開いた今こそ贈る言葉、それは「お楽しみはこれからだ、You ain't impressed yet!」 【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2016.09.16 13:15 Fri
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【東本貢司のFCUK!】改革の柱は「ルーニーの意識」?

▽2018年ワールドカップに向けたヨーロッパ予選が幕を開け、英国圏5か国代表は揃ってまずまずのスタートを切った。アイルランド勢2か国のみ勝ち点1に終わったが、それぞれ相手が過去の実績からして同等以上、しかもアウェイだったことを考えると、文句のない上々の成果だと言える。残る3か国の方はいずれも格下に順当勝ち。ただし・・・・。ふと思い出すのが、先のユーロ本大会。不参加のスコットランドを除く全4チームが史上初めて決勝トーナメントに勝ち上がった時点での“最大の不安”、すなわち、どこか覚束なげではっきりとしない、肝心のスリーライオンズの戦いぶりが、デジャヴのように甦るのである。しかも、その“病根”たるや、ほぼ瓜二つ。エース、ハリー・ケインに冴えも覇気も見えず、そして何よりも、このスロヴァキア戦でデイヴィッド・ベッカムを抜いてフィールドプレーヤーでは最多キャップ数に到達したウェイン・ルーニーの“迷走”・・・・。 ▽ユーロでの教訓、あるいは本質的な適性を踏まえて、新監督サム・アラダイスは、キャプテンのポジションを「一歩」前に上げた。何といってもイングランド代表歴代最多ゴール“更新中”のストライカーであり、自信喪失気味のケインの孤立解消を実現する意味でも、ルーニーの「トップ下」復帰は、ごく自然な路線変更だったはず。ところが、ふたを開けてみると、ルーニーの「ドロップバック癖」は相変わらずで、まさに絵に描いた餅の「ユーロの二番煎じ」に終始する始末。試合後、その点について見解を求められたアラダイスの一言は、驚くべきものだった。「ルーニーのポジションを決めるのはわたしではない」! 受け取りようのよっては「匙を投げた」とでも言わんばかりの、指揮官らしからぬ突き放しよう、もとい「信頼の置きよう」?! しかし、それですべてが上手く運んでいるのならまだしも、現実にスロヴァキアに大苦戦を強いられ、アダム・ララーナの終了間際の一撃に救われた格好ではどんな誹りを受けても致し方ない。果たせるかな「炎上」である。 ▽元プレーヤーたちの指摘は必ずしも説得力をもって聞こえてこない。悪く言えば、素人でも言えそうな、ありきたりな問題点のおさらい以上の、核心を突いた例えば改善策の類をめったに聞くことがない。だが、ことルーニーの唯我独尊風チーム貢献マインドに関しては、さすがにわかりやすく、かつ指摘に具体性が伴っていたように思う。かつて、ただ一度プレミアを制したブラックバーンで黄金の2トップを組んだアラン・シアラーとクリス・サトンは、ほぼ明確に「ルーニーをどうにかすべし」と口を揃えるのだ。そこには二通りの“示唆”がにじみ出ている。「ケインとルーニーの2トップを確立」すること。さもなくば・・・・ルーニーの「立ち位置を考え直す」こと。後者は、そう、場合によっては思い切って「外してみる」勇気を、新監督に打診している(少なくとも、そう受け取れる)。なんと目下、スリーライオンズは「ルーニーの処遇」が最大の難問になっているようなのだ。 ▽アラダイスは「ホジソン式の修正点」として(?)、アリをベンチに下げてヘンダソンをダイアーの相棒に据えたが、これはスロヴァキア戦に関する限り、ミスキャスティングに終わったと言っていい。むろん、そこにはルーニーが盛んに下がってプレーすることによって中盤の底周辺が“渋滞”状態になり、連携がぎくしゃくした言い訳もできそうではある。だが、それならばせめて、ケイン=アリ=ダイアーのスパーズラインで割り切った方がましだと考えたくなるというものだ。同じ意味合いで、ヴァーディーを使う場合はドリンクウォーターをセットにする。部分的な“クラブのよしみ”手当で、チーム全体がどうなるものではないだろうが、ケインの不発(もしくはチャンスのつかみ損ね)による決定率向上には、そこそこ効果がありはしまいか。あるいはもっと踏み込んで「3トップ」を試してみる。中央ケイン、右にララーナ、左がルーニーだ。ルーニーをワイド気味のポジションに置くことで、彼の“動きすぎ”を縦ではなく横に生かせないかという案。無論、左からならルーニーは中央に流れてパスの渦の中心に身を置き、シュートもしやすいはず。 ▽とまあ、あれこれ机上の空論を披露はしてみたものの、ルーニー自身が現状の問題を把握して自覚しない限りは意味がない。それに、ルーニーばかりに論点が集まっているが、ケインにも危機感をもってもらう必要はないか? ヴァーディーは深く引いて「バスを置く」チームには使い辛いイメージがあるようだが、ならばDFの裏をつくロングボールを多用する“振り”を足してみればどうなのか。それともいっそのこと・・・・マーカス・ラシュフォードの魅力に賭けてみる手もありますぞ。なんとなれば、彼はつい先日、U21ユーロ予選のデビュー戦でハットトリックを決めてみせたばかり。監督ギャレス・サウスゲイトはいみじくも“進言”したものである。ラシュフォードの再抜擢は「food for thought(十分考慮に値する栄養素)for Allardyce」! 確かに迷うところだ。「すぐの抜本的改革はできない相談」と慎重なアラダイスだが、かといってこのままでは・・・・。FAからも諦めに似た警告:「2020年の優勝を目標とするのは控えたい」が届いていることだし? 【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2016.09.08 16:00 Thu
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【東本貢司のFCUK!】さらば真の英雄ロビー・キーン

▽さすがは「イングランドのメディア」、しかもこの日はトランスファー・デッドラインデイ(移籍締切日)、新聞で言うならスポーツ欄の片隅に数行程度で扱うのも当然といえば当然・・・・が、ならば、このコラムでこそ“トップ”で取り上げるとしよう。「ロビー・キーン、代表引退試合をトレードマークのゴールを締めくくる!」思えば、アイルランド代表のシャツを身に着けた若き日のロビーを初めて観たのは、1998年W杯を目前にした頃の対アルゼンチン・フレンドリーだった。スコアは忘却の彼方。当時はまだ健在だったバティストゥータやオルテガがどうだったか、出場していたのかも記憶にない。しかし、確か当時弱冠18歳(あるいは17歳だったか?)のロビーが、ナンバー10を背負ったキャプテンだったことは鮮明に覚えている。以来、積み上げたゴールはこのオマーン戦でのラストメモリアルを含めて「68」。“西ドイツ”の英雄ゲルト・ミュラーと同じ数字である。 ▽ロビーには個人的に思い入れがある。それなりの“縁”もある。そのアルゼンチン戦終了後のポストマッチ・インタヴューの聞き取り翻訳、一年半後の鮮烈なプレミアデビュー戦(99年夏にウルヴズからコヴェントリーに移籍)の実況解説。同試合、ロビーは独壇場の2ゴールをゲットして新チームに勝利をもたらした。98-99シーズンのFAカップ戦でも彼が率いるウルヴズのゲーム実況解説の“栄誉”に与っている。さらに、鹿島で行われた日韓W杯グループリーグ・対ドイツの劇的な同点ゴールも目の当たりにした。筆者にとって、ロビー・キーンはベッカム、オーウェンに匹敵する“プライムタイム・ヒーロー”なのだ。先のユーロでは、招集されながらもほんのわずかな“顔見せ交代出場”に終わり、密かに心を痛めていた。引退は近い、彼の時代は幕を閉じようとしている・・・・。「誰もがぼくのゴールを待ち望んでくれていた。それに応えられて嬉しい。今後はいちファンとして(アイルランド代表の)ゲームを楽しみに見続けたいと思う」――お疲れさまでした! ▽先輩ロイ・キーンの代表退場がいかにも後味の悪い顛末に終わったことを思えば、ストライカーとしての華も含め、ロビーには「永遠のアイリッシュヒーロー」としてのイメージがこれからも消えることはないだろう。現代表監督マーティン・オニールも「文句なしにアイルランド史上最高のプレーヤーの一人。彼がいなくなった穴を埋めるのは至難というしかない」と最後の挨拶を送っている。ちなみにロビー(とミュラー)の代表ゴール記録は歴代4位に当たる。トップは伝説のマイティーマジャール、フェレンツ・プスカシュ(83)、2位はその同僚、サーンドール・コッシシュ(75)、続いてドイツのミロスロフ・クローゼ(71)。プスカシュの記録は公式代表マッチ84、コッシシュに至ってはなんと68試合で達成されている。決して同レベルでは語れないとしても、想像を絶する決定率だ。いかに当時のハンガリー代表、およびホンヴェドが桁外れのチームだったかが偲ばれる。なお、ホンヴェドでの記録はプスカシュが341試合352得点、コッシシュは145試合153得点! ▽昔話ばかりで恐縮だが、つい思い出したことがある。後にチャンピオンズカップ(同リーグの前身)発足のきっかけを作った有名な事件―――当時問答無用の最強を自他共に許すイングランドの当時のチャンピオン、ウルヴズが、プスカシュらのホンヴェドに歴史的な大敗を喫したゲームだ。そう、ロビー・キーンのまさにそのウルヴズ・アカデミー出身なのであり、プロデビューも同クラブで果たしているが、それが1997年。おわかりだろうか、ロビーはプロになった翌年に代表入りし、しかも間もなく同キャプテンに指名されたのである。かのアルゼンチン戦当時、筆者はそんなことも露知らず、ただ「10代の代表キャプテン」という快挙だけを快哉していた。直感的に「この男は並みのプレーヤーじゃない」と認めながら、同世代で姿格好やプレースタイルが似ていたマイクル・オーウェン、ジョー・コールと“同列”に取りざたしていたのだ。今ならこう言おうか。オーウェンもコールも突出した存在に違いなかったが、ロビーにはさすがに少々引けを取るかな、と。 ▽さて、2016年8月デッドラインデイの最大のサプライズは、ダヴィド・ルイスのチェルシー帰還だった。それもまさに締め切り寸前の31日23時過ぎに移籍契約が認定されたというドラマティックな“結末”。どうやら、アントニオ・コンテはマジで一年目にグアルディオラとモウリーニョにケンカを売るつもりらしい。もう一つ、こちらは現地からの情報がかなり錯綜、混乱したきらいもあったが、降格したニューカッスルのムーサ・シソコがデッドライン時ぎりぎりでスパーズに入団決定。一時は、マグパイズ(ニューカッスル)の要求額3千万ポンドを先に了承したエヴァートンに決まるかと思われたのだが、最後の最後でエヴァートンが断念して決着した。シソコがメディカルを受けるためにリヴァプールへ出発する直前の大逆転劇だったようだ。なお、ルイスの移籍についてはパリSGが強硬に難色を示していたが、ルイスの「チェルシー恋し」に結局は匙を投げた模様。プレミアのタイトル争いはますます混沌とし、かつ激烈な主導権争いが繰り広げられそうだ。【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2016.09.01 10:00 Thu
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【東本貢司のFCUK!】期待感が“値動き”を動かす

▽開幕して各チーム2試合を消化―――この時点でどうこう“占う”根拠もなければ、そんな権利も(誰にも)ない。例えば開幕戦の白眉、アーセナルvsリヴァプールを振り返ってみよう。スコアは「3-4」。派手な点の取り合いに見えるが、実際はアウェイのレッズが終始余裕のリードを保ち、ホームチームが遅まきながら終盤に意地を見せる経緯をたどった。一言で片づけるならリヴァプールの「快勝」。だが、そのリヴァプールは続く第二戦で昇格仕立てのバーンリーに無得点の完敗、一方のアーセナルは王者レスターとスコアレスドロー。そこで、両者ともディフェンスに難あり、一転して決め手に乏しい問題をさらけ出した・・・・とまあ、近視眼的に評価すればそういうことになるのだろうが、そんなものは、たかが2試合の結果をもとに何か書かねばならないマッチリポーターの物言いに過ぎない。両監督の事後コメントも取り立てて「何とかしなけりゃ」なる印象もない・・・・。 ▽と思いきや、その後漏れ出してきたニューズソースからは、ルーカス・ペレス(FW:ラ・コルーニャ)の入団「ほぼ内定」と、シュコドラン・ムスタフィ(DF:ヴァレンシア)獲得への「交渉進展」が―――しかも、両人ともに想定内の予算を超える出費を強いられる見込みである。筆者にはそれが「焦って無理をしている」ようにも受け取れてしまう。ひいては、さしものアーセン・ヴェンゲルの「信念と余裕」も揺らいでいると言えなくもない。ほんの一週間ほど前、クラブ運営責任者(ガジディス)は「(補強に関して)金額の勝負になればウチに勝ち目はない」と“白旗”を上げた。にもかかわらず、エヴァートンと競合になってもルーカス獲得にこだわり、ムスタフィはかねてよりの狙い目だったとはいえ足元を見られた格好で、超過出費に踏み切る構えなのは・・・・「もう(アーセナルのヴェンゲルには)あまり後がない」という、もっと切実な問題につながっていくのだ。それにルーカスとムスタフィで“間に合う”のかという、いささか“気難しい”問題も残る。 ▽その点、マンチェスターの両雄は「かなり早い段階で(優勝への)一騎討ち状態になりそう」との前評判通り、ほぼ順風満帆のスタートダッシュ。ここで確認しておくべきは、ともに一切手をこまねくことなく、補強作戦をほぼ予定通りにすんなりと遂行してしまったことである。要するに、ライバルたちの(補強)状況を秤にかけながらとか、オフのフレンドリーなどで現有戦力をじっくり検分してからとか、などの“勿体つけ”が無い。さっさと申し入れ、さっさと決めてしまう。それに、ルーカスとムスタフィには悪いが、「イブラヒモヴィッチとポグバ」と比べられては相当に分が悪い。ふと思ったのだが、そこには株式市場の値動きに似たものがないだろうか。「期待感」とは、ある意味で「実に安易な印象」によって大きく左右されるものだとすれば、当然、ユナイテッド株(の上昇)にも影響はあったはず。しかも、コミュニティーシールドを含む3試合でズラタンが4ゴール、ポグバも1試合ながら違いを見せつけた、となれば、これはもうお祭り状態になる。 ▽シティーも抜かりがない点では負けていない。ノリートにストーンズ、そして契約の時期こそズレ込んだとはいえ、ブラヴォーと、グアルディオラの“戦略”に澱みなどなくあっさりと使命完了。その一方で“余計な"チャンピオンズ予備戦2試合も楽々と片づけるなど、ここまでほとんど危なげがない。願わくは、ストーンズとともにデルフをツブしてしまうことなど無きように。今、ユナイテッドとシティーにはちょうど似通った“疵”が見えている。シュヴァインシュタイガーとハートだ。あと1週間でどんなドラマが起きるやも(起きないかも)しれないが、ジョゼとペップから事実上の戦力外通告を受けた二人の今後が、ひょっとしたらだが、ユナイテッド/シティーの“足を(少しは)引っ張る”情動的要素になり得るかも・・・・いや、それはさすがに考え過ぎか。どうも、戦力比較や戦術ベースの「将の器」辺りで比べてしまうのがつまらなくてね! 今だけのセンティメンタルな“妙味”エピソードと受け取っていただこう。まともな予想ほど退屈なものはない。 ▽折しも、チャンピオンズ/グループリーグのドロー結果が出てきた。ユナイテッドもチェルシーも(そして相変わらずリヴァプールも)不在の、それ以外は大して代わり映えのしないチャンピオンズだが、総じて特別「死の・・・・」の肩書がつくエリアも見当たらない。アーセナルに初見参のレスターも、スパーズも、大して文句のない顔ぶれに混じって戦うことになる。強いて言えば、シティーとバルサの呉越同舟、そこにブレンダン・ロジャーズのセルティックが絡む絵面に、いつもとは味わいが異なる興趣が湧く。そう言えば、シティーとセルティックはともにプレーオフ(予備戦)を突破した者同士。ならば、セルティックと復活気配のボルシアMGが波乱を演出することで、何かが“動く”。ここ数年、ついつい思い願ってしまうのは、今度こそ、パルサ、レアル、バイエルン、アトレティコの名前が(せめてその内2つが)「ラスト4」から消えてくれないかなぁ、と(笑)。【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2016.08.26 13:20 Fri
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【東本貢司のFCUK!】真っ当なクラブ経営の危機

▽新シーズン開幕戦最大の目玉、アーセナル-リヴァプールの一戦は“大変に”示唆の多い試合だった。手っ取り早く言えば、両軍ともに「攻撃力は有望、守備大いに不安」。状況を振り返ればさにあらんと言うべきだが、それにしてもこれほど「期待と課題」がもろにあぶりだされたゲームも珍しい。まだあと2週間開いている“移籍の窓”がどんな効果をもたらすのか、あるいはもたらさないのか、関係者にとって悩ましいところだろうか。と言うのも、近年のファンは補強について過度に敏感だからだ。つまり、補強が進まない、物足りない、思わしくないと見るや、眉をしかめる、騒がしくブーたれる、果ては指導陣の資質を(悪しざまに)問う。まるで、満足のいく補強が進められない監督は無能だと言わんばかりに。これについては現地識者からも憂慮する声が止まらない。そう、「有望な補強ができれば一安心」なる考え方がいかに空疎かという“現実”をまだわかっていない。 ▽特にアーセナルのファンが今一度胸に手を当てて忖度すべきなのは、今アーセン・ヴェンゲルを仮に追い出したところでいったい何が好転するかという、肝心要の、しかもシンプルこの上ない命題である。誰がヴェンゲルに代わってエミレイツのホットシートに座ろうと、それで「補強が思うように進まない」という問題が即解決するとでも思っているのだろうか。こんなことを言うと、それは他のクラブでだってよくあることだろうと突っ込まれるかもしれない。だが、どうやらそれは違うようなのだ。アーセナルの場合、それはほとんどヤケッパチの雑音、悲鳴にすら聞こえてくる。例えば、アレックス・ファーガソンはあれほど長期政権を維持して数えきれないほどタイトルをもたらしたが、ヴェンゲルのそれは数ではるかに物足りない、じゃあもうそろそろ・・・・とまあ、要するに文字通りの愚痴なのだ。ご存じだろうか。昨シーズン、百年の一度あるかないかの珍事だからこの際レスターに優勝させてやっても、と本気で考えていたガナーズファンがかなりいたことを。 ▽一種の「ルーティン」と言ってもいい。誇りと自虐がない交ぜになった定番のグチっぽさというルーティン。よって、周りが訝るほどには“彼ら(の大半) ”もヴェンゲルに「飽きている」わけでもない。近年でいえば、エジル、カソーラ、サンチェス(の獲得)は成功の部類なのだから「引き続き頼むぞ」というアピールである。ところが、時代がそれを何かと拒み続けているのがネックなのだ。例えば直近では、他と競合の噂もない、狙いすましたラカゼットも、昨今の移籍金異常高騰事情に乗っかろうと欲をかいた(?)リヨンに待ったをかけられる。そんなじれったさ、もどかしさを、ファンは痛いほどわかっている。どんなチームを作るかという以前に、カネですべてが決められてしまうという虚しさとやり場のなさ。CEOのカジディスは早々に宣言したではないか。「カネで張り合える(財)力はない」とは、言葉を変えれば「そんなあざとい意地を張ってまで」というプライドの証なのかもしれない。そしてそれをファンも理解している。だから「辛い」のだ。 ▽チャンピオンシップ(2部)の「この先よほど頑張って戦力強化をしなければ(プレミア昇格は)むずかしい」クラブにすら、海外資本が続々と“たかる”ご時世である。アーセナルがその気になれば、世界有数の資金バックアッパーに事欠くはずがない。だが、それを良しとしないのが「ヴェンゲル流」もしくは、ヴェンゲルに全幅の信頼を置くクラブ運営ポリシーだということだ。つまり、コアなファンの一部は「それでどうにもならないんなら“悪魔"に魂を売っちゃえよ」(つまりは「脱ヴェンゲル・緊急“暴"義」)と“ヤジ”を飛ばしているのだと考えられないか。ホーム開幕戦でリヴァプールに4点も取られたのは、表面的には「期待はずれの若造の新参者に任せるしかなかったせい」だと受け止められている。しかし、コシェルニーは近々戻ってくるし、メルテザッカーもいずれ復帰する。いや、それ以前にチェンバーズとホールディングの急造若手CBコンビは言うほど悪くもなかった。しかも4-1を4-3まで盛り返した攻撃陣も反発力は明るい収穫だった。マイナス面よりもプラス面を見よという教訓がここにある。なにせまだ開幕戦なのだ。 ▽一つ、間違いのない事実を言うなら、少なくともアーセナルではヴェンゲルと運営陣が一心同体であり、目指す道へブレずに邁進していく大きな原動力となっている。では、リヴァプールはどうか。気になるのは、ベンテケの処遇についてだ。クロップは戦力外志向。そこへクリスタル・パレスが思い切った額を提示してきた。普通はそれで話が動く。ところが、移籍金額の一部が「ボーナス査定扱い」だからダメだって? なんだ、それ。監督は放出にゴーサインを出しているのに、クラブは妙な理屈をこねて出し渋る。パレスの戦力強化が嫌だとでも? ベンテケ自身のキャリアなど一切お構いなしなのか? とんだ“カネ主導時代”の茶番ではないか。こんなセコい考え方をするクラブに明日があっていいものなのかと天を仰ぎたくなるのは筆者だけだろうか。真っ当なクラブ経営が報われない時代になっているのだとしたら、真にメスを入れる必要がどこにあるのかわかろうというものだ。今後の2週間、何がどう動くかにもよるが、少なくとも現時点ではアーセナルに肩入れしたくなっている自分がいる。そうだ、頑張れよヴェンゲル、そして、そう、監督肝入りの新戦力たち、ジャカ、ホールディング、あるいはまだ見ぬ新ガナーたちよ! 【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2016.08.17 13:30 Wed
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【東本貢司のFCUK!】“経済操作的”移籍に警鐘を

▽意外に知られていないようだが、マンチェスター・ユナイテッドの“聖地”オールド・トラッフォードの正確な立地は、マンチェスター市に隣接するサルフォード市内である(サルフォードなどのマンチェスター市周辺の衛星都市をひっくるめて「グレイター・マンチェスター」と呼ぶことから)。さて、そのサルフォード大学・スポーツビジネスセンターがこのほど「ある研究成果」を発表した。曰く「ズラタン・イブラヒモヴィッチとポール・ポグバの加入は、ユナイテッドにとって『+勝ち点10』の価値がある」。同センターの統計学者たちが独自に設計製作した「SAM」(“スポーツ分析機”)がはじき出した「統計データ分析」によるもので、二人の加入はユナイテッドのリーグ優勝確率を「4%」アップさせる効果が期待できるのだという。ちなみに一連の研究データは、新シーズンの全フィクスチャー(対戦カード)を元に「SAM」で1万回以上計算した上での結果だとか。 ▽昨シーズン、パリSG所属のイブラヒモヴィッチはフランス・リーグ1で「38ゴール」をマークしたが、SAMの予測によると、これは「8ポイント加算」の計算になるという。一方、ユヴェントスで昨シーズン、ポグバが記録した「13アシスト」は「1.3ポイント」。合計「(約)10ポイント」という訳だ。これを単純に昨シーズンのプレミアに当てはめると、ユナイテッドは5位から2位に上がる計算になる。ここには、二人にかかった「コスト」も加味されているらしく、タダ(フリートランスファー)のイブラヒモヴィッチは、史上最高額(8900万ポンド)についたポグバよりもはるかに「効率が良い」貢献度を果たすという次第。ただし「ポグバの値段が高すぎるという説も多いが、将来性を考えれば十分に元が取れるはず」だそうだ。言うまでもないことだが「SAMの試算はホーム/アウェイ、対戦相手の実力と近年の成績、起こり得る不調や故障などの不測データまで組み込んだ結果」。「すべて純粋な数のデータとアルゴリズムによるもので、それ以外の情緒的要素など一切ない」と同センターのイアン・マクヘイル/スポーツ分析学教授は胸を張る。 ▽なるほど、まさか二人が何等かの事由でほとんど出場が叶わなかった場合まで計算に入っているとは思えないから、基本的には「信じよう」。ただ、この統計学というしろものはどうも胡散臭い。あのリーマン・ショックだって、この手の“統計数学”による複雑な債券操作が引き起こしたんじゃなかったっけ? 要するに問題は、昨今の急速なIT技術と統計学的金融錬金術が結びついた挙句、現代社会経済はその勿体つけた予測データに振り回されているということなんじゃ? 裏を返せば、ポグバの移籍の真の(では言い過ぎなら「大半の」)目論みとは、スポンサーシップ拡張とそれに伴う株価操作なんじゃないだろうか。つまりは「情緒的効果」ということにならないか? 純粋に数字データを“京”だか何だかクラスのスーパーコンピューターにかけた上での「予測」が、結局は人の欲望をくすぐり、始末に負えないどころではないカオスをもたらしてしまう・・・・。結果的に人間は自分たちがコントロールしているつもりの「データ」に操られるだけのような気も。 ▽ひょっとしたら、ポグバの「分不相応な移籍金」に警鐘を鳴らす声(アーセン・ヴェンゲル、ポール・スコールズ他)には、単に「過大評価」云々にとどまらない、いわば、いずれこの手の「経済操作的評価」が、これまでにも増して当たり前のように幅を利かすことへの不安を(無意識にも)代弁しているのではなかろうか。要するに“逆”あゝ、ヴェンゲルの、そしてアーセナルの“金庫番”ガジディスCEOの“現実的”な弱音、嘆きもさにあらん。ヴァーディーに、マーレズに、ラカゼットにそっぽを向かれ、サンチェスはコパアメリカで負傷、コシェルニーはユーロ疲れ、メルテザッカーがしばらくリタイア、ガブリエルまで8週間の負傷で、いざ穴埋めをしようにも「ふっかけられる額」が見合わない、などなど八方ふさがりも同然。チェルシーはカンテを、シティーはストーンズを、そしてユナイテッドは・・・・ときては、法外な「経済操作的」カネ太り補強に愚痴の一つも言いたくなるというものだろう。そのせいかどうかはともかく、ヴェンゲル自身から「自身の将来」に黄信号をほのめかす“つぶやき”まで・・・・。 ▽ところで、プレミア開幕は目前の今週末だが、チャンピオンシップ(2部)やスコティッシュプレミアは一足先にスタートして各1試合を消化している。前者では降格組のノリッチは快勝したが、アストン・ヴィラとニューカッスルは黒星スタート、後者の最大の目玉、復活レインジャーズはリーグ開幕戦こそハミルトンに引き分けたが、リーグカップでは大勝を飾った。新加入、おなじみジョーイ・バートン、ニコ・クラニチャールが殊の外元気いっぱいのようで、4年ぶりの本舞台でけっこう暴れてくれそうだ。ユーロで唯一“蚊帳の外”に置かれたりして、しばらく火が消えた状態のスコットランドに、ガツンと活を入れて大いに盛り上げて欲しいものである。今後も「レインジャーズ中心」に見守りたい。 【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2016.08.11 13:00 Thu
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【東本貢司のFCUK!】絵に描いた餅と“脱”カネ太り

▽「GBチーム」が男女とも出場しないこともあるにはあるが、目前に開幕を控えたブラジル五輪にはどうも血が騒がない。理由の一端は開催地そのものが抱える問題に他ならない。一説にはブラジル国民の半数が、この期に及んでも開催に反対しているというし、2年前のワールドカップでも直前までニューズを騒がせた各種デモが、今回さらに激化しているとも伝えられる。選手宿舎にまつわる不祥事(窃盗事件、設備の不備など)も前代未聞の汚点。そこに輪をかけるような、ロシアの「国家ぐるみのドラッグ摂取事件」。思うにこの一連の暗雲は、昨今の世界政治経済を悩ませ続けている根源的課題と共通するものがないだろうか。行き過ぎたグローバリズム、グローバリゼイション。その昔、大国がくしゃみをすれば小国が風邪をひく、と言われたものだが、今やそんなジョークめいた表現では済まないのが現実。世界がともに手を組んで、という理想など絵に描いた餅も同然だろう。 ▽もう少し視点を絞ってみよう。フットボール界で言えば、グローバリズムの絵に描いた餅とはまさしくホスト国の“開拓志向”そのものだろう。アフリカ(南アフリカ)に続いてロシア、中東(カタール)と、世界地図を埋めていくがごとくの八方美人ぶりは、上辺は崇高に映っても、現実が、時代がさっぱり追いついてくれそうにないのはもはや自明の理。もうとっくにわかってしかるべきなのだ。ワールドカップやオリンピックで潤う(もしくは、潤うだろうと期待できる)のは、開催統括機構と参入スポンサー企業だけなのであり、大げさな言い方をすれば、閉幕後の開催国(都市)に残されるのはそれまで以上に深刻な経済不況でしかない。この悩ましい問題をなんとか工夫をこらして乗り越え、吉(の種)としよう―――にも、おそらく復興などもはや及びもつかない世界経済の荒廃の前には太刀打ちできそうにない。せめて「コンパクトな」をその言葉通りに実行すれば救いもあろうが、どこかの国の“公約違反”とその醜いドタバタ劇を見る限り、まさに絵に描いた餅。 ▽もっと端的に総括しよう。もはや新しいパイは作れない、既存のパイの拡大化、飾りつけすらできない(許されない)時代なのだ。持てる者の利益追求はそのまま持てない者の貧困拡大に反映される。いわゆるトリクルダウンなど到底望むべくもない。その一つの縮図がここにある。イングリッシュ・プレミアシップ、つまりプレミアリーグ。「法外」という言葉自らが呆れるような「超高給」で次々に一部のプレーヤーを釣り上げていく(というより、そうするしかない)ために、資金需要の高騰たるや天井知らず。よって、世界の限られた億万長者グループが引き寄せられ、また“彼ら”自身も「現代最高の堅実に儲かる投資物件」として喜々としていそいそと手を上げ、乗り込んでくる。それでも、ファンサービス中で一番大切な入場料は下がるどころか上がる一方であり、少しでも歳入を増やすべく、世界中の企業に広告主募集のお触れを出す。思いっきり意地の悪い見方をすれば、プレミアおよび一部他国のビッグクラブにカネが集まるシステムが出来上がっているのだ。 ▽いや、そちらの方の“拡大化”は際限なく進んでいる。例えば、アストン・ヴィラの降格によって宿敵バーミンガムとウルヴズが久しぶりにチャンピオンシップ(2部)で同舟することになったが、なんとこの名門3クラブのいずれもが中国資本のバックアップに頼っている。中東の巨大資本(マン・シティー、バルサ、パリSGなど)ほど「湯水のごとく」となるかどうかはわからないが、“プレミアの美味しい水”目当ての予備軍クラブにすら、カネが吸い寄せられていく時代なのである。ちなみに、チャンピオンシップ事情に詳しい某現地識者の予測によると「このミッドランズ3大名門が来季のプレミア復帰を目指すにはまだ力不足。一番手は、数少ない国内資本で支えられているニューカッスル」だとか。多分、現時点での戦力比較によるきわめて真っ当な分析なのだろう。が、それでもなお、筆者にはこの識者の“強い願い”と反・行き過ぎた商業主義に対するメッセージを感じてしまうのだ。それはまた、ポグバの法外な移籍金に対する“幻滅”ともリンクしている。 ▽最新のニューズによると“彼”はユーヴェ残留を希望しているという。あえて穿ちすぎな感想を言うなら、ポール・スコールズやアーセン・ヴェンゲルが眉をしかめる「それほどの価値はない」に、少々気が引けたのかもしれない。そんな“プレッシャー”を背負ってまで、かつて自分を捨てたクラブでプレーすることもない、と思ったのかもしれない。そこではたと嫌な発想が頭をよぎる。さて、EU脱退に踏み切った背景事情に、われ関せずと際限なく札束が乱れ飛ぶプレミアの“活況”は何らかの影響を及ぼしたのだろうか、と。それを考えると、もはや「ミラクル・レスター(の再現)」が世を騒がせることなどあり得ない? いいや、だからこそ「あって」欲しい。こんな時代だからこそ「カネで成功は買えない」を再び世に示してほしい。さて、そんな快挙を成しえるクラブがあるかと言えば・・・・そうだ、復帰したデイヴィッド・モイーズ率いるサンダランドなどいかがだろうか。 【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2016.08.04 09:30 Thu
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