コラム

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【東本貢司のFCUK!】真のフットボール人、その死

▽1994年はワールドカップ本大会の舞台が史上初めてヨーロッパ・南米から飛び出した、いわば、その後のグルーバリゼイションの先駆けとなった歴史的大会だった。しかし、ワールドカップ通の記憶に最も色濃く刻まれているのは、ひょっとするとヨーロッパ予選が見た予想外のドラマの方だったかもしれない。確かに、カントナ、パパンら時代を席捲する精鋭を揃えて前評判の高かったフランスが、最終戦終盤、ブルガリアの奇襲に逆転負けを喫した事件は鮮烈だった。そしてそれ以上にショッキングだったのが、“母国”イングランドの無残な予選敗退。なんとなれば、世にいうヘイゼルの悲劇の“後遺症”で長らく国際舞台からの撤退を余儀なくされ、それが解けたばかりの前回イタリア大会で堂々のベスト4、PK戦にもつれ込んだ準決勝・西ドイツ戦の死闘は今も語り種、かつ、超新星ポール・ガスコインが流した涙が、停滞模様のイングリッシュフットボール再生の象徴ともなった。そんな復権の希望が、アメリカ大会予選でものの見事に吹き飛んでしまったのだ。 ▽そんな失意のスリーライオンズを率いていたのが、この12日、72歳で急逝したグレアム・テイラーである。おかげで、テイラーには「史上最悪のイングランド代表監督」なるレッテルがつきまとうことになってしまったのだが、その一方で彼ほどブリテン島で愛され、敬意を集めた指導者もそうはいない。そもそも代表監督に抜擢された所以というのが、1977年から指揮を執ったワトフォードにおいて、わずか5年で4部から1部(=現在のプレミアリーグ)準優勝まで駆け上った功績、さらにその後アストン・ヴィラに転身してここでもミッドランズの名門を2部からの復活に導いたことにあった。ワトフォードとヴィラはともに、彼が現役時代を過ごしたクラブであり、この土曜日(14日)、ミドゥルズブラを迎えたホーム、ヴィカレッジ・ロードは「クラブ史上最高の監督」テイラーの追悼一色だった。愛着の深い、てしおにかけて育て上げたクラブチームでの成功が、寄せ集めの精鋭をほんの一時手なずけるだけの代表での仕事には“そぐわない”典型だとも言える。 ▽筆者もよく知らなかったが、テイラーに対する敬愛の念は、単にワトフォードやヴィラのファン層にとどまってはいなかったようだ。その根拠は、彼のフットボールに対する深甚な愛情や博識のみならず、彼の知己を得た誰もがほだされてしまう人間的魅力にあったという。ワトフォード時代、同僚およびコーチとして長年付き添ったジョン・マレイが「できることなら彼に成り代わりたかった」と証言するほどに。「温厚で人懐こく気取りのまったくない」テイラーはまた、話好きで、誰彼分け隔てなく年来の友人同然に交流し、何ら隠し事もせず、裏表の一切ない愛すべき人格の持ち主だった。マレイによると、一面識もなかったテイラーの妻子について、いつの間にか長年家族ぐるみの付き合いをしてきたかのような錯覚に陥ったほどだという。代表監督としての失敗後、大手TV局のコメンテイターとして招かれたテイラーは、その溢れんばかりの愛情と博識、的確な分析でもって、一躍評論家として人気を博した。それもこれも、策士たるイメージの強い監督像とは一線を置く“人間味にあふれた指導者”として皆から敬愛されてきた証ではなかったろうか。 ▽彼が無類のフットボール好きだった一つのエピソードを、前出のマレイが明かしてくれている。「TVの仕事を何度か断ってまで、彼は3部、4部のゲームに自費でアテンドしていたが、その様子は本当に熱心で頭が下がる思いだった。それが、当時のスリーライオンズそれぞれのエゴやプライドを御し切れなかった真の理由だったのかもしれない」。また、ワトフォードでは副チェアマン(後にチェアマン)を任じていたエルトン・ジョンも「あれほどの人物はめったにいない。生涯で一、二の親友を亡くしたことはわが身のように辛い」と漏らしている。思うに、生き馬の目を抜くプロフットボール界が、90年代以降カネ太りの商業化を加速させていったことに、テイラーは内心、喜びながらも忸怩たる思いだったのではなかろうか。それこそ今、中国発のあられもない“爆買い”ブームには、苦い思いに苛まれつつ、「良き時代遠かりし」と黄昏れ、自らの命が消えてゆくのを悟っていたのではないかとの感傷にとらわれたりもする。「人間グレアム・テイラー」の喪失は、真の意味で一時代の終わりを象徴しているのだろうか。心からその死を悼んでやまない。 ▽そう思うと、ワトフォードファンの万感の思いが込められたボロ(ミドゥルズブラの通称)戦がスコアレスドローに終わったのは、あの世のテイラーにとっては納得ずくの「しかるべく」だったかもしれない。とどのつまりは勝ちも負けも時の運、双方力を尽くしての結果に愚痴も言葉も何も要らない―――そんなつぶやきが、あの人懐こい微笑から聞こえてくるような気がすると言えばいがかだろうか。何を甘ったるいことを? いいやそれは、何かと言えば、不振に監督交代を叫ぶファンや、投機狙いで参入してくる外資オーナーシップ、あるいはいかにもこれ見よがしに「わが身優先」でダダをこねるプレーヤーたちこそが、今一度立ち返って噛みしめるべき、一つの指標、その拠り所になり得ないだろうか。テイラーの時代以前に、古き良きフットボールに肌で触れる機会をたまたま得た身にとっては、わずかなりとも昨今の現実にその名残を見出したいという詮無い感傷だとしても、また新たにその思い、願いが湧き上がってくるのである。さあ、目を覚ませ、とばかりに。【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2017.01.15 17:31 Sun
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【東本貢司のFCUK!】初夢は「伝統の一騎打ち」

▽昨年末、本稿から数えて3本前の末尾で、柄にもなく(?)アーセナルへの“希望”に触れた。開幕戦でリヴァプールに敗れて以来、あの「インヴィンシブル(=無敵)2003-2004(無敗優勝)」を彷彿とさせる快進撃で「これは」と思わせ、ところが12月に入ってエヴァートン、マン・シティーに連敗・・・・つまり、柄にもなく(繰り返す)同情してしまったガナーズへのエール。そして2016年最後のゲームを1-0(対ウェスト・ブロム)で締めくくり、元日にはクリスタル・パレスをきれいに片づけたそのとき、筆者はついひとりごちたものだった。試練(対エヴァートン、シティーの連敗)は絶妙のタイミングで訪れたのかもしれない、ここからアーセナルはトップギアを入れて突っ走る、そのためには、ホーム連戦を乗り切った今、中一日で迎えるアウェイのボーンマス戦こそが、いずれ今シーズンの軌跡を振り返るときのハイライトになるはずだ、と。ただし、その前日(2日)、アーセン・ヴェンゲルがつぶやいた“愚痴”に一瞬、不吉なものを感じてしまったのだが。 ▽「過去20年間で最も不公平なクリスマス期間だった。大金を投じている衛星放送テレビに(スケジュールをいじる)特権があるのは仕方がない。が、これほど(チームによってゲームとゲームの間に差にばらつきがあるのは)とはさすがにひどい」・・・・。「中一日」がよほど腹に据えかねたのだろうか。確かに、ホームのボーンマスは上位のライバルたちに匹敵する厄介な相手だ。多分、その辺りをぜ~んぶひっくるめての“アラーム信号”だったのだろう。フォックスとプレミアリーグに対する嫌味に“託して”、ボーンマス戦に臨むプレーヤーたちへの「ぬかるなよ!」という警告と激励ーーー。果たして、三が日の浮ついた気分を振り払いながら、その首尾のほどを見届けようと勇んでいたところが・・・・あれは逆効果だったのかと、呆れ半分で気が沈むばかり。開始から1時間が経ってスコアは3-0、ホームサイド快勝、いや圧勝で、ガナーズの命運も・・・・と、実はそのとき、モニタースクリーンの前を離れ、どうしようか、このまま一寝入りしてしまおうか、“仕事”はそれから気を取り直して筋立てを練り直すのがよかろう、とまで思い悩んだのである。 ▽ひとまず、お湯を沸かしてお茶を淹れている間、ふとぼんやりモニターに目をやる・・・・70分、サンチェスのダイヴィングヘダーが決まって「おやっ?」と、マグカップ片手に座り直す・・・・5分後、60分過ぎに交代でピッチに出たルーカス・ペレスが左足のボレーで1点差ーーー「これはひょっとしたら?」そして・・・・終了間際、タイムにして90+2分、ジルーのヘディングゴールが炸裂して・・・・さすがに大逆転とまではいかなかったが、これはもう勝利に等しい勝ち点1をもぎ取ってみせたのだ。ボーンマスのサイモン・フランシスが一発レッドで退場(63分:キッチンでお茶の用意をしていて見逃した)、一人多いアドバンテージも利いたようだった。3点目献上までのちぐはぐさと生ぬるさは十分に反省の余地はあろうが、逆境を跳ね返したこの底力は今後にも大いに糧として生きてくるだろう。かくて、昨年末の予感(予言?)も息を吹き返した。格別ガナーズファンでもない筆者が覚えた、そんな衝動が“実を結ぶ”保証はまだどこにもないが、チェルシーがこのまま負けないという保証もない。ライバルはざっと5チーム。前途はつとに厳しい。しかし・・・・。 ▽少なくとも、プレミア創設以来、最も激烈なタイトルレースが繰り広げられることは必至。そして、アーセナルが最後まで食いついて希望をつなぐ図も、今なら描けそうだ。プレミアファンにとってはなんと喜ばしい、すばらしい近未来図ではないか。チャンピオンズリーグ、FAおよびリーグカップの「あるなし」はこの際、勘定に入らない、いや、入れたくない。願わくば、このまま6強が僅差のまま最後の、そう、残り5試合前後まで鎬を削っていって欲しい。それでこそ、最後に笑うどこかの価値も輝き渡る。そして、今、視界を過るその勝者は、あくまでもただの直感に過ぎないが、赤と白の染め分けシャツのような気がするのだ。おわかりいただけると思う。あの「インヴィンシブル」に導いた頃から、変わっていたいのは、アーセン・ヴェンゲルただ一人なのだから。贔屓目は一切抜きの、一種の初夢のようなものだと思っていただきたい。それに、なぜか最後に立ちはだかる最大の強敵は「インヴィンシブル」時代以前からの宿敵、6連勝中のユナイテッドになる予感もする。6強のうちどこが優勝したってかまわない。が、こうなったら最後の最後で“オールド・ライバル”同士の歴史的一騎打ちを見てみたい。さて、この初夢、当たるかな?【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2017.01.04 09:45 Wed
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【東本貢司のFCUK!】爆買いの魔の手を振り払え

▽なるほど中国人は爆買いがお好きなようだ。いや、こちらの爆買いが真正か。さて、湯水のごとく湧き出ずるカネまたカネの出所はいずこか。かつて(それとも今でも?)レアル・マドリードはマドリード市の“ヒモつき”だと言われたものだが、ひょっとしてこちらの方にも“同じ事情”が当てはまるのだろうか。さんざ気を持たせ迷いに迷った(ふり?)カルロス・テヴェスも、ついにその軍門に下った。上海申花がクビを縦に振った移籍金総額こそ、オスカー(25歳)の6000万ポンドに遠く及ばない4000万だが、テヴェス自身の懐には「週給で31万ポンド」が入り、一気に(たぶん)世界最高給取りになる見込み。ふ~ん、上海ファンならいざ知らず、欲の張った(失礼)チャイニーズ小市民がはたして屈託もなくテヴェスのプレーにわくわくするものだろうか、などと勝手な心配をしてしまう。いや、そんなことよりこんな途方もない“価格逆破壊”がもたらす害の方が・・・・。 ▽習近平はことのほかフットボールがお好きなんだそうだ。国庫からの援助のあるなしは脇においても、一説には「法外な免税措置」でバックアップしているのは間違いないのだとか。どうやら本気で「世界最高峰のリーグ」を目指しているらしい。なにせ、イングランドきってのレフェリー、マーク・クラッテンバーグの引き抜きまで画策しているというのだから。上海のボスはグル・ポジェ、スコラーリにエリクソンにカンナヴァーロに、と戦力充実のマグネット工作は着々と進んでいる。こういう状況は当然、来月解禁になるヨーロッパの移籍市場にも少なからず影響する。“彼ら”は「いくらでも出す」の看板を掲げて、殴り込み同然に割り込んでくる。公平に見て抗いようがない。当のプレーヤーも売り手側のクラブも潤うレベルが格段に上がる。ゆえに、逡巡する。ライバルチームに獲られるくらいなら、という思惑もちらつく。唯一の防波堤はプレーヤー個々のプライド。MLSならまだしもと都落ちを頑として拒否するプロフェッショナルの自負がある限りは・・・・。 ▽しかし、真の問題点は、本来の地に足の着いたチーム作り、戦力要請が、さらにしにくくなってしまうことである。シーズン半ばの補強というものは、原則、即戦力の確保だが、そこに中国からの魔の手を念頭に、必然的にその新戦力には事実上レギュラーを保証する“脅迫観念”が芽生える。かといって「明日のスター候補」を即起用できる台所事情など、それがリーグ優勝争いをしているチームなら、なおさら考えにくい。結局、せっかく獲得してもローンに出す羽目になり、必然的に当人が低いレベルで実戦を積むうちに“逸材度”もあいまいになって、気が付けばプレミア昇格を目指すチームの主力になっていたりする。どだい、プレーヤーというものはクラブの思惑通りには動いてくれないものだ。例えば、夏に勇んで入団したまではいいが、クリスマスを迎える頃に監督が解任され、新任に冷遇されなどした日には、それこそさっさと割り切って、中国マネーでも何でもなびいてしまうだろう。そんなことにはならないように慎重な補強戦略を立てるはずなのだが・・・・。 ▽そこであえて提案させてもらうならば、現在“ぎりぎり”の6位(ユナイテッド)までの上位陣は、この1月の補強にこだわらない方がいいかもしれない。一応は各チームが抱える“弱点”のほぼ一本釣りに狙いを絞り、獲れなければそれでよし。現有戦力への信頼のメッセージにもなるはずだし、主力の故障を心配したところで何も始まらない。そもそもチームにうまく溶け込めるかどうかわからない新顔を抜擢しても、プラスに働く可能性は五分、いや三分以下。所詮はギャンブルなのだ。折しも、ジョゼ・モウリーニョは狙い定めたリンドロフ(ベンフィカ)の獲得を撤回した。復活したジョーンズとロホのCBコンビが思いの外好調で、わざわざ波風を立てる補強は理も利もないと判断したからだという。英断だと思う。その他、コンテ、クロップ、ペップ、ヴェンゲル、ポチェッティーノにも動く気配は現時点で見えない。ネタが欲しいメディアが周りで騒いでいるだけだ。仮に動いても、ほとんど競合しない筋、手持ちスカウトの目を信じた上でのものになるだろう。 ▽それもこれも、運営上層部が各監督にとことん信頼を置いているかどうかにかかってくる。オーナーサイド、それもイングリッシュフットボールをよく理解していないビジネス志向寄りがしゃしゃり出てくると、それ自体が問題の種になってしまう。このほど、スウォンジーがボブ・ブラッドリーをたったの85日で解任してしまった件も、まさにその悪例。同胞の元アメリカ代表監督を盲目的に信じようとしたアメリカ人オーナーグループに、何らヴィジョンがなかったことをさらけ出してしまった。外資オーナーシップブームがここまで進んでも、教訓が生かされない恐れはこの先も十分にある。是非、この一件を教訓にしてもらいたいものである。というわけで2016年はここまで。明年もどうぞよろしく。【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2016.12.30 10:59 Fri
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【東本貢司のFCUK!】「ヴァーディーマスク」大作戦

▽恒例のボクシング・デイは、リヴァプール-ストーク戦、およびサウサンプトン-スパーズ戦(それぞれ、27日、28日に予定)を除く8試合が行われ、各チームの現況からしてほぼ順当な結果を見た。そう、初お目見えのチャンピオンズでは溌剌として申し分のない戦績を残しながら、プレミアではさっぱりのディフェンディングチャンピオン、レスターは、またホームで星を落とした。要のマーレズ、ドリンクウォーターをベンチに置く(いずれも後半交代出場)ショック療法も、復調気味のエヴァートンには通じず、その先制弾はゴールキーパー、ロブレスからのロングフィードをそのまま持ち込んだミラーラスのファインシュートから。つまり、控えキーパーと控えアタッカーのコンビにしてやられたという、レスターファンにとってはため息の出そうな皮肉・・・・。なんとなれば、その“めったにない”一撃が、事実上フォクシーズ(レスターの通称)に引導を渡す象徴になったからだ。それを素直に認めたクラウディオ・ラニエリは「今季は何をやっても上手くいかないね」。 ▽一つ、救いはあった。主軸クリスチャン・フークスの出場停止でチャンスを得た、期待の新人、ベン・チルウェルだ。このオフ、リヴァプールのユルゲン・クロップが獲得に乗り出したほどの逸材で、しかも、その時点ではまだレスターのファーストチーム未体験だった。的確な守備とオーバーラップでキングパワー・スタジアムの観衆も、チルウェルの成長に納得したか、声援が絶えなかった。さて、そのレスターファンだが、ゲーム開始前、スタンドには異様な光景が見られた。ホームサポーター席に陣取るほぼ全員が、ジェイミー・ヴァーディーの顔をプリントしたお面をつけていたのである。仕掛け人は他ならぬクラブで、3万枚を用意したという。言わば、ストーク戦で“両足タックル”を咎められた末の「疑惑のレッドカード」に対する、クラブ挙げての抗議の一環。すげなくアピールを却下して規定通り3試合出場停止を科したFAへの意趣返しだ。ちなみに、ヴァーディー本人も自分のマスクをつけてスタンドで観戦。だが、それも勝利には結びつかなかった。 ▽それぞれホームにボーンマス、ウェスト・ブロムを迎え撃って、チェルシーはディエゴ・コスタ抜きで破竹の12連勝(クラブレコード)、アーセナルは終了間際のジルーの一発で何とか連敗ストップ。いかにも、現在のチーム状況と勢いをそのまま映し出した格好である。サム・アラダイスの初采配ゲームとなったワトフォード-クリスタル・パレス戦は、あゝ、カバイェ26分のニートなゴールで先制したアウェイのパレスが、71分にPKで追いつかれるという、ため息ものの結末。しかし、内容的には希望の光も見え、特に過去2試合先発を外れていたアンディー・タウンゼントが、カバイェのゴールを演出した事実が挙げられよう。悔いが残るのは、1-0からクリスチャン・ベンテケがPKを決められなかったことと、やはりやや厳しすぎる感の否めないPK判定。ボックス内でセバスチャン・プロディと絡んで倒れたウィルフリード・ザハのそれが、ダイヴィングとみなされたのだ。なお、PKを決めたトロイ・ディーニーは、これがワトフォード在籍通算100ゴール目。 ▽オールド・トラッフォードでは、解任以来初めての“帰還”となったディヴィッド・モイーズ率いるサンダランドが、ファーストハーフこそ、そこそこ互角に渡り合って抵抗を示したのだったが、80分過ぎからの連続失点で力尽きた。ショウを締めくくったのは、すっかり復調したイブラヒモヴィッチと、62分から出場のヘンリク・ムヒタリアン。モウリーニョは特にムヒタリアンのインパクト(体を投げ出してのスーパーヘディングゴール)を「beauty」と褒めたたえ、今後の先発起用を仄めかしたのかと思いきや、「ベンチにムヒタリアンとマーシアルがいるのは心強い」。う~ん、まだ全幅の信頼を置くまでに至らないのか。それに、故障欠場中のルーニーのこともある。マタとエレーラが好調な以上、編成のいじりようがないのはわかるのだが・・・・。一方のブラックキャッツ(サンダランドの通称)、デフォーにボリーニ、アニチェベを加えた3ストライカーで臨むも、終わってみればシュートはわずかに6本(うち1本が、ボリーニによる終了間際のゴール)。ここまでアウェイで5得点のみというゴール欠乏症を打開しないと、残留争いから抜け出せない。 ▽モイーズのオールド・トラッフォード訪問が解任以来(2014年)初と述べたところで、意外なエピソードを一つ。モウリーニョはこのほど、サー・アレックス・ファーガソンを、キャリントンのトレーニングコンプレックスに何度か招いていたことを明らかにしたそうだが、実はこれ、モイーズにバトンを渡して勇退して以来のことだったという。つまり、それだけサー・アレックスは後任たちに気を遣ってきたということなのだろう。かつてのサー・マット・バズビーと同じ轍は踏むまいと。ただし、もちろん采配や練習に口を出すわけでは一切なく、モウリーニョによると「偉大な人間の存在をプレーヤーたちにそれとなく思い起こさせたかった」ということらしい。キャリントンの敷地内をぶらぶらしたり、ランチどきにはモウリーニョやプレーヤーたちと肩の張らないおしゃべりをする。「それは楽しくてね。そもそもここは彼の庭なんだし」と破顔一笑する“スペシャル・ワン”。唯我独尊、稀代のワンマン監督もやはり人の子、真正レジェンドには頭が上がらない?!【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2016.12.27 13:10 Tue
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【東本貢司のFCUK!】カラフル&フェスティヴ

▽「20年も同じクラブを率いる? あり得んね」(ペップ・グアルディオラ)、「ファンへのクリスマスプレゼント替わりに、シャツをスタンドに投げ入れるよう指示した」(ジョゼ・モウリーニョ)、「あのオフサイドの判定は受け入れがたい」(アーセン・ヴェンゲル)、「ギャルー・ネヴィルなんかが解説者やってるなんて信じられない」(ユルゲン・クロップ)、「わたしならあの一発レッドは誤審だと言い、マーク・ヒューズ(ストーク監督)なら妥当だと言うだろう」(クラウディオ・ラニエリ)―――。各人各様、実にキャラクタリスティック(それぞれのキャラが如実に投射されている)なコメントアラカルト。改めて、今更ながら、プレミアリーグのなんとカラフルでフェスティヴ(=お祭りっぽくにぎやか)なことか。確かに、一年で最もざわざわと忙しく、ただし、国内にじっくり集中できるまたとない時期ではある。ただ、それにつけても“主役”たちが揃いもそろって“ガイジン”ばかりとは(ヒューズはウェールズ人)、ため息を吐くのは筆者のみか。 ▽気が付けばチェルシーが走っている。元プレーヤーで評論家のダニー・マーフィーに言わせると「穴がない」。ラミーレスに続いてオスカーまでチャイナマネーになびかざるを得ない状況にあっても、戦力に充実感と余裕がにじみ出るようにあふれている。抜け落ちていたアントニオ・コンテのコメントは「中国が何とやら」だったか…いや、確か「まだうち(チェルシー)はこんなものじゃない」。もし仮にどこかで腰砕けに落っこちるとすれば、キープレーヤーの故障や“おいた”のアクシデント絡み。だが、その気配はありそうにない。しかし、そんなチェルシーにも引けを取らない堅実さとブレのなさを維持しているのがリヴァプールだ。ざっと眺め渡してみても、ロジャーズ時代からさほど“絵面とタイプのヴァラエティー"の点で代わり映えしないようなのだが…。だとすればやはりこれは、熱血クロップのカリスマが違いを源泉なのか。あゝ、またガイジン監督さまさま。 ▽などと(しつこく)嘆息しているところへ、間が悪くも(?)絶不調クリスタル・パレスからアラン・パーデュー解任の知らせが。そして、まるで予定事項のごとく、後任候補として躍り出たのが、他でもない“ビッグ”サム・アラダイスとは…。いや、もとい、これ以上のノンイングリッシュ化はごめんだからこそ、あえて歓迎しようではないか。それにお忘れなく。ビッグ・サムは何も法を犯したわけじゃない。法律などよりもはるかに威厳の薄い、あるスポーツ統括組織が独自に制定したルールの「抜け穴を知っている」とか何とかうそぶいただけだ。倫理的によろしくない、イメージが悪い、外からとやかく言われるのがウザイ、と、当の組織が自粛(末のイングランド代表監督解任)したにすぎない。ああ、そういえば、FIFAは「ポピー問題」に当たって、イングランド代表以下に罰金を科すことにしたんだっけか。それで済むなら痛くもかゆくも…。しめしをつけた側と国民的思いに準じた側の、静かなるにらみ合い。どこの世界にもよくあることである。 ▽それにしても、ジェイミー・ヴァーディーの一発レッドは「?」の二乗ものだった。つまり、クラブワールドカップ決勝の逆パターン。しかも、状況が滑稽なほどコントラストを成していた。横浜の主審は、一旦は(イエローを)出そうと思いかけたが、何かを思い出したように胸に持って行った手を諦めた。ブリタニア(スタジアム)の方のレフェリーは、一瞬たりとも迷わず、アシスタントを一顧だにせず、断固たる態度・表情でさっと赤い札を取り出した。しかし、セルヒオ・ラモスの足はボールにかすりもせず、ヴァーディーの投げ出した両足(正確には、1.5足?)の片方はぎりぎり「先に」届いていた。そしてそれぞれ、結果は“逆目”に出た。後日談はそれぞれ、「横浜の主審」が次のワールドカップで笛を吹くことはないだろう…レスターの(ヴァーディーのレッド撤回)訴えは却下されて…といった程度。できるだけそっと、速やかに、それなりに、収めるべきところは波風立てずに収めるべし。これってやはり、イエス・キリストの思し召しでしょうか。 ▽さて、わが国は天皇陛下誕生日のおかげで三連休だが、EU脱退を決めたかの国ではお馴染みボクシングデイ絡みの三連休。つまり、プロフットボーラーの“繁忙期”。当然心配されるのは故障であり、その点で不安がどこよりも覆いかぶさるのがアーセナルであり、すでに現地メディアでもそれを指摘する声がしきりである。対エヴァートン、マン・シティーの連敗劇は、およそ降って湧いた事件中の事件。今シーズンは行けるとわくわくどきどきしていたガナーズファンも、天を仰いで青ざめているに違いない。エース、サンチェスの契約更新が“カネ”で滞っているらしいのも嫌味だ。だからこそ、幸いというべきか、年内はボクシングデイ(26日)のホーム/ウェスト・ブロム戦のみ、明けて元日は(監督不在のままかもしれない)クリスタル・パレスを迎え、3日にアウェイのボーンマス戦。決して楽に乗り切れる保証などないとはいえ、あくまでも比較上計算がしやすい年末年始ではあろう。ここでマキシマムの9ポイントを稼げば胸も晴れる、先も見えてくる。昨季が“ミラクル”なら、そろそろこの辺りでヴェンゲルの会心の笑みを見たいところである。【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2016.12.23 13:30 Fri
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【東本貢司のFCUK!】熱血コンテがプレミアを撃つ

▽12月3日のマンチェスター・シティーvsチェルシーは、事件満載、スペクタクルだった以上に、両軍のキャラと現状を如実に見て取れた感が強く、実に興味深かった。勝負のアヤは、ファーストハーフ終了間際のギャリー・ケイヒルによるオウンゴール。これが格好の“ビンタ”となって、アウェイのチェルシーイレヴンのスピリットに火が付いたという印象だったが、逆に後半のシティー・ディフェンスに時間が経つほど目に見える生ぬるさと小さな判断ミスの連鎖をもたらしたような気がする。得点経過を見ればそれがよくわかるだろう。60分、70分、そしてオフィシャルタイム末の90分。そこに、絵に描いたようなアグエロ(ダヴィド・シルヴァ)、フェルナンジーニョ(ファブレガス)のレッドカード退場劇が続いた。コンスタントでおよそブレの見えないチェルシー、とらえどころがもう一つで、ときにストレスが負の方向に働いて自滅したような、ちぐはぐそのもののシティー。 ▽そんな印象を振り返りながら、ふと、思い当ったことがある。他でもない、両指揮官のいつになく顕著だったお馴染みの風情だ。子供じみたという形容詞すら思い起こさせる、アントニオ・コンテの派手で感情むき出しのオーバーアクションと、舞台俳優も顔負けの露骨な表情。一方のペップ・グアルディオラは思索家然として洗練された物腰こそ変わらないが、画面に抜かれるたびに物憂い表情をにじませ、振る舞いも消極的だ。泡立つような熱血を全身で表すイタリアンと、何事にも動じないフリを肝に銘じようと自制する哲学者スパニッシュ。ふと「ローマは一日にしてならず」の諺を生み出したセルバンテスの古典的大ベストセラーを思い出す。ドン・キホーテは何やら屈託を抱えながらもひたすら我が道を突き進むが、内に秘めた狂熱の理想はいつ噴出して手も付けられない事態を呼び起こすがわからない。変な理屈だが、ペップとコンテはそれぞれ、ドン・キホーテの二面性を明確に分離したキャラに見えてくる。あるいは(舞台設定から)ジキルとハイドのように。 ▽そんな“妄想”を頭の隅に残したままでゲームの振り返りに戻ろう。つまり、ピッチの上ではベンチの指揮官とは真逆のキャラが、それぞれのプレーヤーたちによって演じられていた。末尾のアグエロとフェルナンジーニョによる激した粗相が象徴するシティーイレヴンの、的を外した大立ち回りと、終始クールで敵の心の隙をあざ笑うように落ち着き払ったビジタープレーヤーたち。あの“問題児”ディエゴ・コスタが人が変わったように“大人っぽく”見え、実際に大人びたプレーで脇役を務めてみせたほどに。コンテに周到な演技プランがあるとは思えない。あのホッドブラッド・アクションは彼の紛れもない“素”だ。それがむしろ、ピッチ上の戦士たちをクールに躍らせる。そんな気がしてきたのだ。多分、それで当たらずとも遠からず。ジョゼ・モウリーニョ時代の9試合に迫る、8試合連続勝利という事実もそれを裏付けする。なにしろこの間、コンテはほとんどチームをいじっていない。無論、ヨーロッパの試合がないというプラスハンディの恩恵もあるが。 ▽このコンテ流・チーム再生術の開花には、イメージ作戦(?)のみならず、実際的根拠も散見する。一に、最近のプレミアではとんと珍しい3バックで固定し、そのあおりで(不振模様の)イヴァノヴィッチはベンチが指定席になった。卵が先か鶏が先かの論議になるが、そこで注目すべきは実力者ファブレガスも控えに回されている事実だ。そして、8月の移籍締め切りぎりぎりに獲得にこぎ着けたダヴィド・ルイスとマルコス・アロンソ。ルイスは3バックの中央にどんと居座り、アロンソは左サイドで絶妙なバランスメーキングを披露して、ヴィクター・モーゼズの左サイドコンヴァートをここまで見事に支えている。コスタの“変貌”やアザールの復調、あるいは新加入カンテとマティッチのダブルアンカーシステムがどうしても目立つのは致し方ないが、チェルシーの“クール・レヴェレーション”に欠かせない肝のキーマンは、ルイスとアロンソだと見てほぼ間違いない。ということは、コンテはオフに「3バックの補強の目玉」のプランを温めていったはずである。 ▽対リヴァプール、アーセナルの連敗は、確かにちょっとした危機感を周囲に与えたかもしれない。が、今となってはむしろ願ってもない教訓、もしくは良き反動の種になったと考えられる。そして、この迅速な立ち直りにも、コンテの本能的なオーバーアクションが必ずや寄与しているはず。勝手も負けても、勝ちゲームを引き分けに持ち込まれても、慌てず騒がずのペップ・キャラではこうはいかない・・・・のかどうかは何とも言えないが、少なくともプレーヤーに苦笑いをさせ、ファンを楽しませ、全体として微笑ましい印象すらもたらす効果は、個人的に認めたくなる。もっとも、ペップやモウリーニョが同じキャラに転じても滑稽なだけだろう。コンテならではである。うん、そういえば、リヴァプールのクロップにも通じるものがある。あの、不敵そのもののニヤニヤ笑いは、実に人なつっこく、かつ頼もしく見える。アクションも結構派手だ。これはどうやら、コンテとクロップのアクションバトルがタイトルレースを占う、番外的目安(?)になりそうな気配で。【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2016.12.07 11:15 Wed
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【東本貢司のFCUK!】継続とその“理解”は力なり

▽EFLカップ準々決勝4試合の結果が出た。勝ち上がったのはハル・シティー、リヴァプール、サウサンプトン、マンチェスター・ユナイテッド。3チームはホームで勝利をものにしたが、サウサンプトンの“快勝劇”はエミレイツで演じられた。つまり、アーセナルだけがホームサポーターの失意を呼んだことになる。このセインツ戦、アーセン・ヴェンゲルはほぼ控えメンバーで固めたイレヴンを送り出して「負けるべくして」負けた。ちなみに、ユナイテッドはほぼベストの布陣で、チャルシーを下したウェスト・ハムを一蹴している。さて、ヴェンゲルはどこかでこのEFLカップを重荷に感じ、軽視していたのだろうか。ざっと調べてみても、これについての彼からのコメントは見当たらない。リヴァプールのユルゲン・クロップが「このカップ戦は非常に重要」と言い切っているのは、彼にとってのイングランド・初タイトルがかかっているからだろう。が、それにしても・・・・。 ▽かつてのイングランド代表、クリス・ワドルは、この準々決勝が始まる前から、今シーズンから「EFL」を冠することになったリーグカップの“惨状”について「ファンにとっての詐欺に等しい」と断じていた。一例をあげると、リヴァプール-スパーズ戦ではそれぞれ(直前のリーグ戦からのメンバー変更が)11名と10名に及んだ。ある集計によると、プレミア10チームの“変更総計”は71名だったという(準々決勝以前)。ある程度のアレンジ程度なら無論、今に始まったことではない。特に初期のラウンドでは下位ディヴィジョンを相手にすることも多く、トップフライト(1部=プレミア)の監督が控えないしは若手の実戦経験の場とするのはほぼ常識だ。しかし、プレミア上位同士のリヴァプール-スパーズ戦や、準決勝進出がかかった試合でのアーセナルの「ほぼ総入れ替え布陣」は、さすがに行き過ぎではなかろうか。「ファンに対する詐欺」の“真意”について、ワドルは少なくとも事前にスターティングイレヴンの発表をしておくべきだと提言している。 ▽つまり「もし、贔屓のチームが“二軍以下”のプレーイングスタッフで臨むことがわかっていれば、チケットを買うべきか否かを選択できる。特に、遠路はるばるはせ参じることになるビジターサポーターには、その選択肢を与えてしかるべきではないのか」というわけだ。しかし・・・・。以前、Jリーグがナビスコカップでメンバーを落とすことに規制をかけた事例について、筆者はひどく違和感をもったと述べたことがある。誰と誰を試合に出すかの権限はあくまでも監督にある。例えば、そのナビスコカップ戦直後のリーグ戦を絶対落としたくない場合、ある程度は主力を温存するのは理に適っている。成績が芳しくなければ、真っ先に“被害”を受けるのは監督だ。どこに力を入れ、どこで抜くかをコントロールするのも、監督の手腕の一つだと考えられる。マネージするからマネージャーというのであって、その時点での(特にファンが見なす)ベストメンバーをただ送り出すだけなら誰でもできる。監督は形だけの存在になってしまい、ましてやライセンスなど何の意味もなくなってしまう。何かボタンの掛け違えのような違和感を感じるのは筆者だけか? ▽つまり、ワドルはそのことを百も承知の上で「スタメンの事前発表」を提言しているのだろう。物見遊山やデートイベントで紛れ込んだ観客ならいざ知らず、クラブのサポーターたるもの、当の試合にかける監督の計算に気が付かないはずがない。なるほど、ホームのファンに期待の新人たちをお目見えさせる意図なんだな、チャンピオンズもFAカップもあることだし、何よりも今シーズンはプレミアのタイトル奪取も有望、となれば、アーセナルのコアなサポーターは納得する。それで負けてしまったら? もちろん悔しい、ベンチにさえ主力をほとんど置かなかった起用采配はやはりどうだったのか、とがっくり肩を落とし、多分しばらくはヴェンゲルに対して恨めしい思いを引きずってしまうだろう。そのとき、呼応するコメントが、このほど正式にイングランド代表監督に指名されたばかりのギャレス・サウスゲイトからもたらされている。「長い目でチームの成長と充実を促したい。目先の一試合で判断するのは無しに願いたい」。一過性の性格を持つ代表チームですらそうだとしたら、クラブチームはもっともっと「長い目」で判断されるべきだろう。 ▽そう、予想通り、いや、予定調和のごとく、スリーライオンズの新しい指揮官は、サウスゲイトの(アンダーエイジ代表からの)昇格就任で決着した。不協和音は今のところ一切聞こえてこない。メディア周辺で噂に上っていたユルゲン・クリンスマンは、奇しくもほんの少し前、アメリカ代表監督の座を追われていたが、その前から「ク」の字すらささやかれることはなくなっていた。当然だ。名のある大物外国人監督を招聘するブームは依然として、特に“第三世界”では健在だが、母国たるもの、もはや付け焼き刃のカンフル剤効果に期待しても仕方ないだろう。なぜなら、不祥事で身を引かざるをえなくなったとはいえ、サム・アラダイスへの期待は、外部から察するよりもはるかに大きかったからである。ならば、そこでまた“逆戻り”ではそれこそボタンの掛け違えになる。サウスゲイトの契約期間は4年。2020年のユーロまで彼に預けるということだ。成績次第だが、筆者はそれでも短いと思う。使い古された言葉だが継続は力なり。そのことは、サー・アレックスはもちろん、今や世界有数の長期政権を敷くヴェンゲルがはっきりと証明している。【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2016.12.02 10:00 Fri
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【東本貢司のFCUK!】ラニエリとポチェッティーノ

▽初体験のチャンピオンズリーグ、その予選リーグを4勝1分の堂々たる戦績で乗り切り、1試合を残して首位通過を果たした「イングランドチャンピオン」レスター。紛れもなく「快挙」である。相手に恵まれたグループに入ったという但し書きなど、ほとんどやっかみに等しい。なにせ、レギュラーメンバーの一人として、この舞台を経験したことがないのだ。仮に以前の所属クラブが云々の話にもっていったところで、チームスポーツの世界では何の意味もない。もしかしたら、プレミアで運が向かずにもがいているストレスが、失うもののない立場で発散できていると考えることはできる。賭けてもいいが、おそらくは始まる前から格上のプライドを持つアーセナルやマン・シティーなら、こうもスイスイとは行かなかったに違いない。スポーツの真剣勝負において、そのマッチアップを最も左右する、言い換えれば最後に「差がつく、違いがわかる」要素は「メンタル」なのだから。 ▽そこで、逆に敗退が決まってしまったトテナムの将、マウリシオ・ポチェッティーノがつぶやいた「敗軍コメント」がクロースアップされてこないか。「今シーズンが始まった頃からわたしは、我々のチャレンジはフィジカルではない、タクティカルだと言い続けてきた。土曜日に続いて火曜、水曜に試合があることへの気構えをコントロールすることだと」注目すべきなのは、「タクティカル」つまり「戦術」とは、週末の国内リーグ戦+ミッドウィークのチャンピオンズ戦への臨戦マインドを“整える"(とまあ、筆者なりに翻訳してみた)ことだと表現している点だ。これをさらに平たく解釈しようとするとくどくなってしまいそうだが、要するに、どんなに優れた理論であっても、それを生かし切るにはメンタルフィットネスが欠かせない、ということだろう。レスターの面々ほどではないとしても、スパーズのメンバーとてチャンピオンズ参戦のスケジュール調整には、いざとなると戸惑いもあるはずだからだ。だからこそ、レスターの無敗通過決定は「快挙」なのだ。 ▽なるほど、理屈は通っている。が、かく宣うポチェッティーノ自身にも“迷走”もしくは“調整失敗”のきらいも否めない。そのことは、敗退が決まったモナコ戦の先発メンバーを見れば明らかだろう。ディフェンスラインの名前を見て思わず目を疑ったのは筆者だけだったろうか。CBがケヴィン・ヴィマーとエリック・ダイアー? トビー・アルダーヴァイレルトの故障不在は致し方ないとしても、なにゆえ最も頼れるはずのジャン・ヴェルトンゲンがベンチスタートだったのか。それに、右SBがカイル・ウォーカーではなくキーラン・トリピアーとは! ここで負ければ絶望必至のあとがない状況では、少々無理をしても可能な限りベストの布陣を組んでしかるべきだった。案の定、スパーズはモナコの猛攻に為すすべもなく、敗れるべくして敗れた。そう、スカイスポーツが選んだマン・オヴ・ザ・マッチがGKロリスときては、思わず笑ってしまったほどに。つまり、もっと酷いスコアで惨敗していただろうに、という皮肉、ブラックジョークの含みがあったのでは? ▽そんなスパーズの体たらくを、解説者として観戦していたフィル・ネヴィルは「今シーズンのここまで目にした中で最悪のパフォーマンス」と酷評した。そしてこうも述べている。「プレミアでは(若手主体の変則起用などが)通用することはあっても、チャンピオンズではそうはいかない。彼ら(とポチェッティーノ)はかくて罰を受けた。良い教訓になっただろう」―――辛辣に聞こえるかもしれないが、ネヴィルはむしろ温かい目でスパーズを“思いやった"のだ。それが「経験」というものなのだ、と。現役時代、ユナイテッドで必ずしもレギュラーではなかった身でありながら、豊富な“ヨーロッパ体験”を積んだ彼ならではの言葉だと思う。無論そこには、言葉にはせずとも、サー・アレックスが幾度となく身をもって甘んじ、そしてそれを糧に栄光を築いてきた「蹉跌と成功」へのオマージュもにじみ出ているようだ。キレるだけの頭脳では壁は超えられない。負けるが勝ちの反骨のエナジーこそ、何よりも尊いのだ。挫折を知らないことほど後が怖いものはない。 ▽その点、クラウディオ・ラニエリの感想は、ごくごく素直であっけらかんとして、かつ、いかにも含蓄がある。「(あっさり通過を決めたことが)信じられない。夢のようだ。決勝トーナメントの相手がどこになろうと関係ない。いや、楽しみなくらいだ。それより、この素晴らしきパフォーマンスをプレミアでもやってもらわないとね。そっちの方が心配で頭が痛い、気が気じゃないよ」彼は開幕前から言い続けていた。チャンピオンズはあくまでもオマケ、肝心なのはプレミア―――だから歯がゆい、悔しい。チャンピオンズ5戦で4勝、ところがプレミアでは10試合以上経過してまだ3勝。敗戦の数はすでに昨シーズンのダブルスコア。確かに「目も当てられない」。ちなみに、スパーズはここまで唯一プレミアで無敗を堅持している。次なる相手は、レスターが昇格ミドゥルズブラ、スパーズは復調して絶好調のチェルシー。38試合のうちの一つではあっても、この、それぞれの結果とその内容は、今後に大きな意味を持つ。少なくともラニエリにはそれがわかっている。【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2016.11.24 09:45 Thu
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【東本貢司のFCUK!】ルーニー泥酔事件は良い兆し?

▽It's the same old story(よくある話)。飲酒問題である。「アスリートが酒を飲むなんて」と目くじらを立てるようになったのは、ほんのつい最近定着したも同然の通念だ。運動生理学的な道理もあろう。アーセン・ヴェンゲル当たりなら「もってのほか」と断言するだろう。一方で、古くから「酒は百薬の長」ともいう。つまり、少量のアルコールならいい? いいや、何等かの憂さを晴らすなりなんなり、たまには度を超してみるのも、精神衛生学上は益もなくはない。ウェイン・ルーニーが泥酔して羽目を外す様子を“パパラッツィ”された。イングランドが宿敵スコットランドに快勝したその夜のことだ。腐ってもスリーライオンズのキャプテン、社会的影響度を考えれば確かによろしくない。とはいえ、さすがに騒ぎすぎではあるまいか――。さて、皆さんはどう思う? もしも、サウジを下したその夜、長谷部がスポーツバーで真っ赤な顔をしてはしゃいでいたとしたら? ▽うーん、実は“母国”周辺では意外なほど同情的、もとい、寛容らしいのだ。ヴェンゲルや、ヴェンゲル以上にうるさいグアルディオラ辺りのコメントは今のところ伝わってきてはいないが、リヴァプールの将ユルゲン・クロップときた日には「それのどこが悪い?」と言わんばかりに苦笑している。「プレーヤーたちの身にもなってやれよ。当たり前のことだが、連中だって人間なのさ。そもそも、今のフットボール界はかつてなくプロフェッショナル化しているってことなんだろうよ」――クロップが言う「プロフェッショナル化」とは、つまり「ガチガチの管理社会」に相当するようだ。「昔のレジェンドたちは浴びるほど酒を飲み、気が遠くなるようにタバコを吸って、それでもなお優れたプレーヤーでいられた。今じゃそんなこと誰もしなくなったが、ウェインがどの程度羽目を外したにせよ、大した問題じゃない」。いかが? これでクロップファンが激増したに違いない? ▽「時代が変わって(ルーニーには)気の毒な点も多い」と気を遣うのは、元チームメイトで、スコットランド代表キャプテンのダレン・フレッチャー。「ウェインだってちゃんと反省してるじゃないか。何も親友だから、あるいは、彼に限らずほとんどのフットボーラーがたまには羽を伸ばしたいものだからって、弁護してるわけじゃない。SNSとそれをもてあそぶ風潮が事を大げさにしてしまってるんじゃないか? ぼくの知る限り、あいつ(ルーニー)ほどはクソ真面目なヤツはいないというのに。ごく普通に接してみたらあいつほど気のいい、付き合いやすい男はいないんだ。つまり、良い意味で隙も多いってことかもね」。続いて、現ラグビー・イングランド代表監督のエディー・ジョーンズ。「騒ぎすぎだ。彼らはみんな大人の男。酒を飲んだってベッドに行く時間は心得てる。次の朝にはしっかりといつものように練習をやる。それがプロってもんだ」・・・・。そう、ルールにしてしまった方が問題を起きやすくする。自己責任の意識がなければプロは務まらない。 ▽ルーニーの所属クラブのボス、ジョゼ・モウリーニョですら同情的だ。それも“ジョゼ流”に。「その場にFAのスタッフが何人かいたというじゃないか。なぜ彼らはウェインを制御しなかったんだ?そっちの方がはるかに問題だろう」ひょっとしたら、ユナイテッドでルーニーを“冷遇”している後ろめたさもあった(?)かもしれないが、いずれにせよ、モウリーニョの“巧妙な”いちゃもんが利いたのか、FAはこのほど代表試合期間中の飲酒を禁止する御触れを出した。個人的に、どこか筋違いな気がしなくもない。クロップやジョーンズの言う通り、彼らが大人なら余計なお世話だからだが、世間体を考慮した、つまり、野次馬的なメディアや軽々に騒ぐファンに向けた、体裁づくりとして受け取っておこう。ちょうど、ギャレス・サウスゲイトの「つなぎ監督期間」が終了した区切りでもあることだし。そう、無用な火の粉は払っておくに限る。サウスゲイトにかかる火の粉は。 ▽大勢は「サウスゲイトの正式就任」だ。これといった有力な対抗馬なりがいないこともあるが、何より、プレーヤーたちはもちろん、元プレーヤー組の識者もこぞって「続投」を支持している。悠々完勝ムードだった対スペイン・フレンドリーが終了間際に追いつかれた後味の悪さは残るも、取り立てて指揮官の不手際があったわけではない。それをあえて「見送り」、どこぞの異邦の大物指導者を連れてくる方がFAへの風当たりが強くなるはず。また、キャプテンの酒乱(?)事件の根っこにサウスゲイトへの不満があったわけでもない(ルーニーは陽気に羽目を外しただけで誰かに迷惑をかけたわけでもない)。そう考えれば、ルーニーは図らずも“格好のお騒がせネタ”を提供したと言えなくもない。そもそも、フレッチャーが言うように、昨今のプレースタイルからいっても、ルーニーほど責任感の強い男もいないのだ。むしろ、それが彼の長所を自らぼかしてしまっていると思えるほどに。ならばこの一件で彼が本来の自己に目覚めれば好都合。頼むぞ、ウェイン。【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2016.11.18 13:15 Fri
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【東本貢司のFCUK!】ナショナルアイデンティティー

▽アメリカ合衆国「次期大統領ドナルド・トランプ」の“衝撃”が、早くもスポーツ界に波紋を投げかけている。例えば、2024年オリンピック/パラリンピックのホストに立候補しているのはパリ、ブダペスト、そしてロサンジェルズだが、トランプ氏が標榜する外交アジェンダに則った場合、LAの辞退は濃厚になったという。また、アメリカが誇る“三大”プロスポーツリーグ、NFL、NBA、MLBが計画中の定期的海外進出(会場使用)にも“物言い”がかかりそうだとか、果ては「外国人プレーヤー制限の可能性」まで。そして何よりも、アメリカが最有力候補(一説には「事実上、ほとんど決まり」)と目されている2026年W杯開催への影響。まず、昨今のFIFA新アジェンダに照らし合わせて検討課題とされている「カナダ、メキシコとの共催案」は「消えた」も同然だと、一部メディアが先走りして喧しく「注意を呼び掛ける」始末。だが、果たしてそうなのか? ▽そういうご時世なのだから仕方がないのかもしれないが、トランプ氏当選が濃厚になり始めた頃から株価の一斉落下現象が起きたのには、正直、呆れてため息がもれたほどだ。要するに「踊らされすぎ」、別の言い方をするなら状況判断が「軽すぎ」やしないか。証券取引の類には一切縁のない“素人”の筆者だが、こんなせわしない、せせこましいトレーディング(が許されていること)が、実はグローバル経済の立ち直りを阻害しているのでは、と勘繰りたくなってしまう。そもそも、何も明日明後日から即、トランプ氏が遊説中にぶち上げたアジェンダが実施されるわけでもない。はっきり言って、慌てすぎ、先読みをしすぎだと思うのだが・・・・。などと愚痴りたい気になってきて、ふとひらめいた(気がした)。これこそが、トランプが仕掛けた大ばくちなのではあるまいか。無論、選挙に敗れてしまえばそれまでだったが、“めでたく逆転勝利”を収めた今、そう、勝利宣言演説で彼は何と言ったか。「党派も何もかも乗り越えてみんな一つになって」やっていこう! ▽勝手な希望的観測である。しかし、世紀の“バクチ打ち(でウソ三百代言の)”ドナルド・トランプならやりかねない。すなわち、これまで傍若無人流にまき散らしてきた刺激的で過激で相応に反社会的かつ時代に逆行するような政治方針らしきものを、それなりに(良い意味でも悪い意味でも)実践しつつも、幸便にすり替えの言い訳やお題目をくっつけながら、まるで当初のイメージとは異なる世界図を作り上げようとする・・・・目論みをもっているのではないか、と。それが具体的にどんな(良くも悪くも)混乱と果実をもたらすのかはわからない。が、類似したナショナル・アイデンティティー優先、原点回帰志向」の(EUを脱退した)UKに対して、例えば、NBAとプレミアリーグの「会場交換開催」を申し出る、あるいは、もっと踏み込んでUEFAチャンピオンズリーグの、手始めに、準決勝と決勝のアメリカ開催を提案する・・・・なんてことを誰かがトランプの耳元で囁くかもしれない。なんとなれば、彼の盟友で元ニューヨーク市長ルディー・ジュリアーニ氏が、現在訴追中のFIFA汚職事件に、メインで携わる役職に就任するという噂もあるのだ。 ▽とまあ、少々大げさで、大枠閑話休題的な話をしてきてしまったが、少なくともトランプ御大は「ナショナル・アイデンティティー」に基づくテーマなら、二言返事で協力・推進する可能性は大。ならば、今週金曜日の「イングランド-スコットランド戦」で両軍プレーヤーが「腕に巻く(予定の)ポピーの紋章」にも、彼なら諸手を挙げて賛同してくれるはずだ。杓子定規なFIFAの規則など、鼻で笑って(暴言交じりに)体を張ってくれることだろう。もちろん、そんな提言をする権利は現段階も今後もあり得ないだろうが、彼なら許される(かもしれない)。シンプルに言い換えよう。トランプの“真意(と世界に訴えかける提案)”とは、身勝手な「アメリカ・ファースト」ではなく、ひとえに「ナショナルアンデンティティー・ファースト」なのではないか。無論、それはあくまでも「旗印」もしくは「表向き」。そこから始まる「何か」だという気がする。ヒラリー・クリントンなら絶対に思いつかない発想。なにゆえ、ロシアや中国がトランプ・シンパなのか。それを考えれば、きっと「何か」は見えてくる。無論、諸刃の剣の恐れは十分にあるが。【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2016.11.10 10:15 Thu
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【東本貢司のFCUK!】ただ事ではない「ポピー論争」

▽もし、フレンドリーであれ何であれ「8月15日」に行われることになった日本代表の国際試合において、サムライジャパンの面々が「喪章」を腕に巻いてピッチに出たとしたら、それは何等かの「政治的」なメッセージとして受け取られるのだろうか。筆者の知る限り、過去にそんな議論が俎上に上げられたこともなければ、そもそもそのような発想すら(特にJFAに)芽吹いたこともないはずだが、この際、是非「同案を考慮することになった」として考えてみてほしい。繰り返す。そこに「政治的」な意味合いが込められていることになるのかどうか。対戦する相手が韓国や中国なら、やはり抗議の波風が立つ可能性がないとはいえない。それを煩わしいとして、わざわざ“彼ら”の神経を逆なでする種を蒔くことはない、という考え方もあるだろう。いや、多分日本のファン、というより日本人全員が「?」をつけるに違いない。「そうすることに果たして何の意味があるのか」と。 ▽さて、プレミアファンの皆さんは気が付かれていただろうか。毎年11月の上旬、正確には「11日」前後の公式戦の際、主に各クラブの監督連がこぞって、何やら赤いバッジにようなものを胸につけていることを。日本人の感覚からすれば「赤い羽根」の英国版、つまり何等かのチャリティー活動に由来するもの・・・・ではない。11月11日のアーミスティス・デイ(リメンバランス・デイともいう)にちなんだシンボルで、ポピーの花びらを象ったものだ。では「アーミスティス・デイ」とは何か。察しの良い方はもうおわかりかもしれないが、すなわち、第一次(第二次ではない)世界大戦が事実上終結した日―――。特に英国(イングランド、スコットランド、ウェールズ)では、「お国のために戦争で犠牲になった人々を思い出す」日として、いわば、我々日本人が「お盆」としてごく自然に「(先祖の)墓参り」をするように、いや、それ以上の重みを感じながら「忘れない」ことを確かめ合う日、というべきものなのである。政府閣僚の靖国参拝とはまるで意味合いが違う。 ▽折しも、来る11月11日、ウェンブリーにてイングランド-スコットランド戦が行われるが、これがFIFA主催の2018W杯予選であることから、両国FAは事前にFIFAに断りを入れた。両軍プレーヤー全員が腕に「ポピーに造花をあしらった黒い喪章」を巻いて戦いに臨む、と。ところが、世界統括機構の返答は「まかりならん」。その理由は、FIFA理事会(Ifab)が法規に定めた通り、「政治的、宗教的、もしくは個人的スローガン、声明、メッセージ、イメージに由来するいかなるものも身に着けてはならない」からであり、このケースでは「政治的」に該当するからである、と。しかし、すでに触れたように、これは英国民の“ソウルイベント”に当たるもので、イングランドとスコットランドの協会側は「政治的な意味合いは毛頭ない」とし、さらに全英国民および該当代表プレーヤー全員がこれを望んでいるとして、強硬に撤回を求め、一歩も引かない構えなのである。英国の新聞もこぞってこの問題を大々的に取り上げ、私事ながら、筆者の旧友(ごく普通の主婦も含む)、FIFAの“わからずやぶり”に困り果てて怒りの声を上げているほどに。 ▽おそらくは、「例外」を認めてしまうとキリがない、というFIFAの思惑があるのだろうが、実はすでに彼らは「例外」を認めてしまった前科がある。今年3月、スイス代表を迎えたフレンドリーにおいて、アイルランド代表プレーヤーは「イースター・ライジング」100周年を記念した“政治的シンボル”を身に着けてプレーし、FIFAはこれを黙認しているのだ。「イースター・ラインジング」とは1916年4月下旬、英国軍がアイルランドに侵攻して同反乱軍を制圧、わずか5日間で5百人近くの犠牲者を出した、まさに「政治的」騒乱事件のこと。これが容認されてアーミスティス・デイがいけないとすれば、明らかなダブルスタンダードと言われても仕方がない。それでもFIFAは、もし強行すれば「ポイント剥奪」の罰則も辞さないと“脅し”をかけているといわれるが、イングランドおよびスコットランドの協会側も「たとえ罰則がどうのと言われようが、我々は役員からプレーヤーまでもれなく全員、ウェンブリーでポピーをつける」と、まさに全面対決。 ▽公平に見て、このせめぎあいはFIFAに分が悪い。イースター・ライジングの一件もそうだが、例えばイスラム教徒のプレーヤーが「安息日」にプレーを拒否することだって、「宗教的」に違反することになるからだ。この木曜日、ifabは改めて審議の場を設け、そこにはイングランド、スコットランド各協会の代表者(チェアマン)も出席して撤回要求を正式にする手はずになっている。まさかとは思うが、そこでよもや決裂という事態になれば、2006年と2016年の二度にわたって“裏切られた”遺恨を引きずるイングランドが、盟友(スコットランド、ウェールズ)と組んで思い切った行動に出る可能性なきにしもあらず。そんなバカな、と鼻で笑う方がもし居るとしたら、それは英国民にとってのアーミスティス・デイがどれほどの重みをもつかに思い至らないからだろう。とりわけ、一向に国家財政の健全化が立ち行かず、重大な復興問題を抱えているにもかかわらず、莫大な費用がかかるイベントを無理やり推し進めようとしている、どこかの国の権力者たちには。 【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2016.11.03 12:30 Thu
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【東本貢司のFCUK!】居心地の悪さにめげるべからず

▽虫の知らせを感じていた。負ければそれまでのカップ戦にはありがちとはいえ、水曜日のEFLカップ4回戦・3試合のカードを見れば、不穏な予感は否めなかった。はたしてそれは、2012年ロンドン五輪のメインスタジアムで現実のものとなった。終盤、ウェスト・ハムの勝利濃厚となった頃、ビジターサポーター席との境で騒動が発生。きっかけは定かでない。現地の目撃者談によると、ペットボトルらしきものが飛んだのはハマーズサポーター側だったという。直前に激しい口論なりがあったのだろう。そのうち、引きはがされた白いシートが4つ、5つ宙を舞い、スタンド内の係員数名が慌ただしく現場に殺到、もみ合いはさらにエスカレートした。無論、ゲームはまだ続いている。アザールのシュートがポストを叩き、交代出場のディエゴ・コスタも惜しいチャンスを逃す。状況を見ていない身では細かな時系列の流れを把握できないが、おそらくスタンド内の騒ぎが収まってまもないインジュリータイム、ケイヒルが遅まきながらのゴールを押し込んだようだ。 ▽2-1。見どころの多かったロンドン・ダービーは、ウェスト・ハムの快勝で幕を閉じた。もし、チェルシーの敗因を後付けするなら、先日マンチェスター・ユナイテッドをこてんぱんに葬ったメンバーから7名を外した“準一軍”で臨んだことになってしまうだろう。そして、その一番の矢面に立たされるのは、故障から戻ってきたジョン・テリーということになる。実際、ハマーズ、クヤーテの先制ゴールはテリーの緩慢な対応から生まれている。後半開始まもないフェルナンデスの追加点も、テリーの両足の間を測ったようにすり抜けていった。アントニオ・コンテは50分過ぎから順ぐりに、ディエゴ・コスタ、アザール、ペドロを投入、流れは一気にビジターサイドに傾くも、ゴールには届かない。ある意味ではプラン通りだったのだろう。そして、ユナイテッドに完勝して乗っている今のブルーズなら、残り30分あれば悪くともイーヴンに持ち込み、延長にもつれ込んでもそのときこそ消耗の少ない3人のエース、その存在がものをいう。だが、目論見は外れた。ビリッチには、自身もプレミアでプレーした経験から荒れ模様の展開を読む一日の長があったか。 ▽ロンドンは異邦人にとってやはり最も過ごしやすい街のようだ。ビリッチはその恩恵を生かし、やってきて間もない初陣コンテにはまだこれからということなのかもしれない。なぜなら、二度の機会にロンドンを根城にし、現在も家族が居を構えるモウリーニョにとって、マンチェスターはまだ馴染めないようだからだ。単身赴任のホテル住まい、記者やパパラッツィがうるさくつきまとうため、ふらり外食もままならない。「居心地がいいとは決して言えない」とジョゼ君。そして迎えた“番外(=リーグカップ)”マンチェスター・ダービー、宿敵グァルディオラはまるでこれみよがしのメンバー落ちで、モウリーニョの苛立ちを逆撫でするかのよう。仮にも舞台はオールド・トラッフォード。ここで敗れてタイトルの目当てを一つ失えば、ますます「居心地」は悪くなる。果たして、運はなんとかモウリーニョに味方した。イブラヒモヴィッチに依然冴えが戻らず、ポグバもほんの時折ハッと思わせるだけ・・・・“渦中”のルーニーとムヒタリアンはベンチにすらいなかった。マタの切れ味に救われたとはいえ、ミスターMの居心地の悪さはまだしばらく続きそうだ。 ▽あゝ、それよりももっと心配なのはサンダランド。その“孤軍奮闘”の将、デイヴィッド・モイーズだ。遠路はるばる乗り込んだ南岸のサウサンプトンにて、主(あるじ)クロード・ピュエルは、3日前にマンチェスター・シティーと引き分けたチームから7人をすげ替え、それどころかアカデミー卒業生を6名も抜擢して、悩めるモイーズを挑発?! それでもまったく突破口を開けないブラックキャッツのもどかしさに、元ユナイテッド監督もさすがに業を煮やしたか、ゲーム終盤、アニチェベがボックス内で倒された一件に激高、レフェリーから退場宣告を受けてしまった。居心地の悪さどころの話ではない。ふと、考えてしまう。エヴァートンをチャンピオンズ参戦にまで引き上げた頃のモイーズには、時のチェルシーから触手が伸び、あるいはヴェンゲルのクビが叫ばれていた中のアーセナルも関心を持っていたと言われたものだ。エヴァトニアンにしてみれば言語道断だったが、もし仮に「モイーズ・チェルシー監督」が実現していたら、その後どうなっていただろうか、と。 ▽短絡的に想像してみると、多分、モウリーニョのユナイテッド監督就任はずっと早く決まっていただろう。つまり、ジョゼ君の第二次チェルシー政権はなかったことになり、ファン・ハールの名前が挙がることもなかった算段になる。モイーズがスタンフォード・ブリッジで成功をものにしていたかどうかは、無論、わからないが、少なくともサー・アレックスの後ほどのプレッシャーはなかったはずだから、さすがに一年足らずで追われるというような事態には及ばなかったろう。例の女性トレーナー事件もきっとなかった。「たられば」を並べればキリがないとはいえ、つくずく人間の運命とはわからないものだ。だからこそ思う。もしもこの先、サンダランドがモイーズを見限ってしまう(もしくは、彼自身が身を引く)ようなことがあるようなら、と。ここはじっと我慢の子、せめて来たる1月の補強に希望をつないで「名将モイーズ」の旗を今一度たなびかせる夢を描いてほしいと切に願う。そもそも一年程度で「万年残留争い」のチームが劇的に変わるものではないのだから。それは、オールド・トラッフォードの誰かさんについてもまったく同じである。【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2016.10.27 12:07 Thu
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【東本貢司のFCUK!】レスターとフォレストの相似形

▽プレミア王者レスター・シティーのここまでの戦績を見ていると、なにやらかつてブライアン・クラフが率いたノッティンガム・フォレストの姿がちらついてきた。1977-78シーズン、2部から昇格したばかりのフォレストは、怒涛の快進撃で2位リヴァプールに7ポイント差をつけて1部初優勝を果たした。ちなみに3~5位は、エヴァートン、マンチェスター・シティー、アーセナルで、6位に入ったウェスト・ブロムウィッチ・アルビオンとともにUEFAカップ出場権を獲得している。同シーズンは何かと波乱含みの結果が目立ち、例えばマンチェスター・ユナイテッドは新監督デイヴ・セクストン麾下、10位に低迷。また、FAカップを制覇したのは、やっとのことで降格を免れたイプスウィッチ(こちらも同カップ初優勝。監督はボビー・ロブソン)だった。一方、ニューカッスル(13年ぶり)とウェスト・ハム(20年ぶり)、そして他ならぬレスターが降格に甘んじている。 ▽ついでにもう少し同シーズンのトリヴィアを続けると、得点王は30ゴールを積み上げたエヴァートンのボブ・ラッチフォード。このとき27歳のラッチフォードは、戦後初めて一シーズン30得点に到達したご褒美に、新聞社から1万ポンドを贈呈されている。183センチの“平凡”な身長ながらヘディングに滅法強く、また当代随一といわれたショートダッシュの速さを武器に得点を量産した。イメージはちょうど、現代のティム・ケイヒルのようなプレーヤーだったかもしれない。1974年から7シーズン在籍したエヴァートンでの記録は236試合106得点。その間、6シーズン連続でチーム得点王に輝いているほどに、同世代きっての完成されたセンターフォワードだった。この77-78シーズンにエヴァートンが披露した決定力には凄まじいものがあり、ホームで2度、6-0の圧勝劇を演じた他(対・コヴェントリー、チェルシー)、アウェイでもレスターとQPRを相手にともに5-1の大勝をものにしている。それでも3位に終わったのは総得点76の一方で「総失点45」が響いたゆえか。ちなみに、優勝したフォレストの記録は総失点わずか「24」(42試合)。 ▽そこで、昨シーズンのレスターと比較してみると―――総得点68(フォレストは69)、総失点36(同24)、そして何よりも両者のシーズン通しての敗戦が揃ってたったの3試合。確か、昨シーズン半ば頃(2015年歳末)、ミラクル・レスターの快進撃がいっこうに途切れそうにない状況に鑑みて、本コラムで「フォレストの快挙」を取り上げた記憶があるが、なんと者の見事に“シンクロ”した結果を迎えたわけだ。ところで、フォレストは翌シーズンもディフェンディング・チャンピオンとしてチャンピオンズカップに出場、連覇を成し遂げているが、国内リーグでも準優勝した。その記録は前年同様「アウェイのみの敗戦3」と「総得点61・総失点26」。それでも2位に甘んじたのは、雪辱優勝したリヴァプールが、なんと「総得点85・総失点16」という驚異的な記録を残したため。なお、3位に入ったのはウェスト・ブロム、エヴァートンが4位。アーセナル、ユナイテッドはそれぞれ7位、9位で、マンチェスター・シティーは実に15位まで転落している。そして「総得点44・総失点92、および敗戦27試合」の最下位で降格したのは、他ならぬチェルシーだった。 ▽気が付けば“昔話”に熱が入りすぎてしまったようだが、本稿のテーマはもちろん「レスターのこれから」。もしも、かつてのフォレストとの「ミラクル・シンクロ」を“夢見てしかるべき”ならば、現在負けが込んでしまっているプレミアで今後モウレツな反攻が始まると同時に、昨日無敗の3連勝を決めてグループリーグ突破へ王手をかけたチャンピオンズでのさらなる進撃を期待していいことになるのだが・・・・。カンテの抜けた穴は何とかアマーティとキングでカバーしつつ、新戦力のスリマーニも(やや下降線気味ながら)そこそこやってくれている。ヴァーディーの不発が気になるものの、それはマークがきつくなったゆえ。おそらくここまでの最大の“誤算”は、ディフェンスの二枚腰が利かなくなっているからか。それにまた、要のキーマン、マーレズにも二人、三人がかりの接近包囲網が目立つ。総じて言えば、敵方の工夫が現状では奏功、つまり、レスター得意の高速カウンターを封じる作戦に、今のところはまだ上手く対処しきれていないと言うべきだろう。 ▽監督ラニエリは「理解に苦しんで」いるらしい。グループの面子は比較的「楽」だとはいえ、チャンピオンズで見せてきているスキのあまりない戦いぶりが、なにゆえプレミアで出来ていないのか。つまり、ラニエリの眼には問題の核心が「メンタリティー」にあると映っている。ある現地識者は、キング・パワー・スタジアムのコンパクトさが、ヨーロッパのチームを居心地悪くさせている一方、国内組はそれに慣れてきたという一面もあると分析しているが・・・・。おそらくは、プレーヤーもファンも、初参戦のチャンピオンズに対するフレッシュな期待感と、今までになく目の敵にしてかかってくるプレミア各チームのプレッシャーとのギャップに戸惑っているようにも思える。GKシュマイケルはこのコペンハーゲン戦前、もどかしい足踏み打開の緊急ミーティングを持つと述べていた。ひょっとしたら、この勝利が分水嶺になるかもしれない。あのミラクル・レスターがこのまま尻すぼみでは面白くない。願わくば、フォレストの「再現」を旗印に今ひとたびのミラクルとプライドの証を。ラニエリも言っている。「プライオリティーはあくまでプレミアだ」【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2016.10.19 13:20 Wed
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【東本貢司のFCUK!】結果は必ずしもすべてじゃない

▽正直、鼻白む思いだ。ハリル・ジャパンが表面的にはもどかしいドローに終わった直後から、降って湧いたように「解任論」が噴出し始めた。それも、これまで「勝って嬉しい、負けて悲しい」程度だったはずの“素朴なファン(および、普段はさして関心を示さなかった人々)”たちからである。物事を判断する際には「わかってきた気がするとき」ほどむずかしい。慎重、熟考がないと底の浅い“結論めいたもの”に走ってしまうもの。ブラジルW杯前後辺りから、サムライブルーには異変が目立ち始めていた。主戦級が軒並み海外へと飛び出し、彼らのポテンシャルが国際的に認められ始めたことも、一種の逆作用を及ぼしているのかもしれない。「いつでも(代表に)合流すればそれなりのサッカーができる」ということは、裏を返せば「いつでも同じサッカーしかしない」ことになりかねない。おそらくハリルもそれを案じていた。果たして蓋を開けたW杯最終予選、苦戦の連続だ。そこで前半戦の天王山・対オーストラリアに「新路線」をぶつけてみた。そして・・・・。 ▽皆まで言うまい。素人目にも「変えたな」と気づく節が見え、それが結果を伴ったとは見えにくい、わかりにくいとなると、すわ、批判の矢を浴びせかける。本当は、何がどう変わり、その意図が奈辺にあるのか説明もできない向きほど、その傾向が強くなる。要するに、増幅されたやり場のない苛立ちだ。何の話かって? もちろん「ハリルの更迭近し」の静かなる大合唱にも重大な関わりがある。が、ここではスリーライオンズ、そのイングランドのキャプテンをめぐる「不要か否か論」に触れていかなければならない。代表最多ゴール、フィールドプレーヤーとして代表最多キャップという蓄積の節目を越え、名実ともに「偉大」の領域に入ったはずのウェイン・ルーニーが、今、その立ち位置の危なっかしさに直面している。年齢的な衰えはほぼない。31歳でそれは酷というもの。その理由、こちらはハリル(の戦術的変更)とは違って、素人目にもわかりやすい。一言で言えば、適性と与えられたポジションとの齟齬―――あからさまに言うなら、現在のルーニーはナンバー10、アンカー、トップ下、それらのいずれにも適合しない存在になっているのだ。 ▽しかも、何よりの問題は、ルーニー自身が「覚悟を示す方向性」を定めきれずに彷徨っている状態にあることだと思う。ジョゼ・モウリーニョの評価(ナンバー10、ストライカーの適性)や、今年のユーロでのもどかしいプレーには、彼にも忸怩たるものがあるはずだが、では何をどうすべきかの答えが(少なくとも今はまだ)見つけられていない。ポジションでの貢献度に疑問符をつけられ、ユナイテッド、代表でスタメンから落とされてもなお、彼は「上から与えられたポジションはどこでも厭わない」と、精神論でしか応えられていない。おそらくは、献身的に攻守に駆け回り続ける昨今のプレースタイルを今更変えることはできない、という強い思い、覚悟なのではあろう。そして、そのことがチームの戦術上、必ずしも有意義、良好に機能していないことも自覚しているからだろう。少々穿った言い方をすれば、彼は今、そんな「矛盾」を突き抜けて自らの存在を示すしかないと腹をくくっているようにも見える。ただ、その“兆し”はまだプラスに表面化していない。 ▽口を開けば「結果(がすべて)」と人は簡単に言うが、多くの場合、それも自らの生業や糧に直結するわけでも何でもない物事(余暇)に関しては、その「原因」をよく吟味などしないものだ。ハリルが「変えようとした、もしくは試みている」としたら、ルーニーの場合は「変えられない(から何にでも従う)」ことになるが、いずれも「原因」はほぼ明白だろう。そして、もうお気づきだと思うが、ここには「戦術ありきか、プレーヤー(の能力)ありきか」という、素朴で根源的ともいえる命題が行きつ戻りつ彷徨っている。さあ、どなたかこの命題について、自信をもって答えられますか? 「時と場合による」では話にならない。なぜなら、ここには歴然たる前提:「ほとんどの該当するプレーヤーたちは能力的にも戦術眼的にもできあがっている」があるからだ。つまり「どちらか」が歩み寄らねば問題解決に至らないことになるが・・・・。と、ここまで言い及んでおきながら恐縮だが答えは見えない。苦し紛れだが「相性と時の運次第」でしばしご勘弁いただきたい。 ▽ただ、突破口、ないしはそれにつながるヒントなら、よく目と耳を凝らして見つけることはできる。イングランドはFIFAランキング60位代のスロヴェニア相手に、シュートたったの3本でスコアレスドローに甘んじた。暫定の将、ギャレス・サウスゲイトが腹をくくった、ルーニーをスタメンから落とすというショック療法は逆効果に終わり、都落ちしたジョー・ハートのスーパーセーヴでやっと最低限の体面を繕えた格好。残り20分で登場したルーニーが何をどう思ったかは神のみぞ知る。豪州戦後、本田がつぶやいた「自分は下手になっているのかも」は、今後ハリル流に身を預けるという意思表示なのか、それとも・・・・。ただ、本稿の締めくくりにこれだけは言っておきたい。監督交代はリセット、ゼロからの出発と同義である。ここで断行してどんな結果が出ても、そこに評価する土台は薄い。成功も失敗も「たまたま」でしかない。たとえ仮にロシアを逸したとしても、次につながる明確な評価基準を築くことこそ何より肝要。W杯出場だけがすべてじゃない ?! 付記:現地最新報道は「サウスゲイト正式就任論」とそのサウスゲイトの「ルーニーは今後もキャプテン」声明を伝えています。 【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2016.10.13 11:15 Thu
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【東本貢司のFCUK!】「明日」は「未来」ではない?

▽ミランの本田が苛立っている。求められもしないのに、ゲーム終了直後、自らカルチョのメディアをつまかえて発した苦言。「イタリアのファンには愛がないのか?」この「愛」とは多分「気遣い」の意味により近いのだろうが、正直驚いた。ファンの即時的な感情の起伏の激しさなど、今に始まったことではない。ファンとはそういうものなのだ。むしろ、本田こそよほど気が立っていたのではなかったか。賭けてもいいが、その「優しくないヤジ」を飛ばした当人たちは、きっと当惑していることだろう。「優しく(無様なプレーや敗戦を)ねぎらう」ことのどこが「愛」なのだ、と―――。すわ、日本のメディアはこのエピソードをまるで事件めかして取り上げた。さて、フットボールそのものより「海外のトップリーグでプレーしている同胞への関心」が勝る日本の(同記事の)読者はどう思っただろうか。本田の「日本人らしい(?)義侠心」にいたく感じ入ったか、それとも……。 ▽同僚の不本意な退場に対する「心無い」ヤジにプレーヤー側から物申した例など、少なくとも近年では記憶にない。どこの国のどこのリーグでさえ。はたして、本田の発言は現地各方面に、あゝこれも一つの民族性の違いなのかもな、という以外のなんらかの“影響”をもたらしただろうか……疑問だ。そして、本田の真意も多分「違う」(と信じたい。そして、その「真意」のほどは是非ご推察願いたい)、なぜなら……。かつて、初出場の98年W杯から帰国した日本代表チームの某プレーヤーが、空港で待ち構えていた一部のファンから“怒り”の水を浴びせられた事件があった。その報を聞いて筆者は思わず天を仰いだものだった。見苦しいサル真似ではないか、と。すぐに思い出したのは、今からちょうど50年前の66年W杯、こともあろうに北朝鮮に敗れて失意のままに故国の空港に降り立った“優勝候補”のイタリア代表チームを、怒れるファンが腐った生卵の洗礼で出迎えたことだった。ファンとはそうするものだとでも思ったのだろうか、と。心底、情けなかった。 ▽論理の筋が少々とっちらかってしまったかもしれない。改めて整理しよう。昨日おとといセリエAにやってきたばかりはあるまいし、まさか本田とてファンの日ごろからの「節操のなさ」に今更驚いてカチンときたはずなどなかろう。ここからは筆者の勝手な解釈でしかないが、本田はヨーロッパ参戦以来、ずっと燻り続けていた疑問と違和感を、この前代未聞の苦言という形で、矢も楯もたまらず何らかの行動で示したいという思いにかられたのではないかということだ。無論、あの性格ならではという特例ではあろう。が、現実にこのざっと10年来、特にヨーロッパのトップリーグ界隈では、短絡的な「自浄、自爆」の現象に拍車がかかっている。少し負けが込むと監督交代を叫ぶ声が、あらゆる方面から囁かれ、叫ばれる。その多くに「ファンがうるさい」「ファンが黙っちゃいない」という言い訳がついて回る。だが、ファンが一つの無様な敗戦にお決まりの不平をぶつけるのは日常茶飯事。要は「ファンの批判」など単なる口実に利用されているだけではないのか? ▽今年のノーベル賞に晴れて輝いた大隅良典・理学博士は、受賞後の会見でこんなことを述べられた。筆者なりに意訳すると「目先の利用途、利益を先走って期待するマーケティング主導的な成果主義は、かけがえのない文化発展の芽をあたら摘んでしまう、長いスパンで受け止めて欲しい、将来への投資こそを」。強引、牽強付会と思われるかもしれないが、筆者はこの大隅博士のメッセージと本田の苦言が、いやに共鳴して聞こえて仕方がないのである。今季、失意の2部落ちからのUターン昇格を賭けて再出発を期したアストン・ヴィラは、開幕わずか1か月半足らずで新監督ディ・マッテオのクビを切った。よくあることだろうと知ったかぶりで苦笑する向きには是非申し上げたい。仮に、ここで監督のクビをすげ替え、まかり間違って来季のプレミア復帰を果たしたとしよう。その暁には大幅な補強でほぼ別のチームに生まれ変わる可能性大。だがそれでチームが本当の意味で地に足をつけたことになるのだろうか。断じてない。それはただの取り繕いでしかない。チームが成長、充実に向かっているとはいえない。たとえ運よく残留を決めたとしても、である。 ▽なぜ「明日に期待し、“ともに手を携えて”明日を創ろうとしないのか」―――これこそが、大隅博士と本田に共通する、魂の熱い叫びなのではないかと思えてならない。本田の場合、「ともに手を携えて」の「ともに」は特にファンを指していると考えていいだろう。とはいえ、哀しいことにこのご時世、そんな崇高な提言に耳を貸してなどいられないという御仁が、肝心の投資家筋には多すぎるようだ。そう、すぐ近い将来に医療などに利用できる見込みが立たなければ、あるいは、外国人金持ちオーナーの持ち株査定アップにつながらなければ、「明日」は「未来」でもなんでもなく、本当の意味の「明日」でなければならない……。もちろん、メディアにも問題は多々。例えば「日本人ノーベル賞受賞者続出の秘密」なる記事を探し出して、当の記事には目も通さないまま同筆者から「意見」を引き出そうとするどこぞの三流記者など。何もかもが一過性のキリトリで済まされる嘆かわしい文化の劣化、いや喪失。ミランのシーズンはまだ始まったばかりだ。ディ・マッテオも「さあ、これから」だった。そこを明確に認識してこそ、ファンを名乗れるはずなのでは? 穿った見方と言われようが、本田の苦言の真意はその辺りにあると思うのである。【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2016.10.06 14:55 Thu
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【東本貢司のFCUK!】アラダイス・ショックの“深層”

▽「この夏、イングランドは大恥をかいた。それが今は世界の笑いものになった」(ギャリー・リネカー)。「腹立たしい。嘆かわしい。夢にまでみた仕事をついに手に入れた男がまさかこんな“判断ミス”をしたのかと思うと眩暈がする」(アラン・シアラー)。「少しは同情しないでもないが・・・・FAに選択の余地はなかった」(ロビー・サヴェイジ)。「わたしはサムが好きだ。残念でならない。長年の夢が叶ったはずだったのに。わたしは今でも彼が好きだし尊敬している」(ジョゼ・モウリーニョ)。「とてつもない失望。サムに起きたことは本当に悲しむべきであり、そして誰にだって怒り得ることだ。サムは知らぬ間にその代償を払うことになった。プライバシーはもはや自宅の中にいなければ守られないものになった」(スティーヴ・マクラーレン)――。以上は、今夏悲劇的なユーロ敗退後、満を持して新たなスリーライオンズ監督に指名されたばかりのサム・アラダイスが、なんとわずか67日で辞任に追い込まれることになったことに対する感想の一部である。 ▽現地報道によると、その「罪状」は次の通り。「サードパーティー(第三者:クラブ以外の投資ファンドグループなど)によるプレーヤー保有」は、2008年以降FAによって禁止されている(後にFIFAもこれに追随。なお、ミシェル・プラティニはUEFA会長時代に、この“慣例”を「奴隷制度」になぞらえて強く非難していた)が、某極東企業の代理人の依頼に応じて、アラダイスはこのご法度を“免れる迂回作戦”を指南する「アドバイザー」役としての契約(謝礼は40万ポンド)を結んだというのである。だが、この「代理人」と称する人物こそが実は『デイリー・テレグラフ』紙の記者であり、ロンドンとマンチェスターで二度にわたって行われた「会合の一部始終」は、テレグラフによってすべてカメラに収められていた! 要するに、英国一部メディアが得意とする、囮、いや「なりすまし」取材。思い出すのは、2006年W杯を控えた春先だったか、当時代表監督のスヴェン・エリクソンを襲った同種の罠(某中東ファンドの代理人と称する記者が、クラブ監督に鞍替えする意思を探ろうとした)。怒ったエリクソンは大会後の辞任を宣言した。 ▽エリクソン事件については、さすがに(エリクソン失脚を誘導したい?)メディアの“勇み足”として顰蹙(ひんしゅく)を買ったものだったが、今回の場合は少し“趣き”が違う。テレグラフによると、過去1年近く前から追い続けてきた「フットボール界の腐敗と金権体質」取材活動の過程で、たまたまアラダイスの「不正疑惑」が網に引っ掛かったのだという。そして、そのタイミングが、FAによるアラダイス(代表監督)指名直後だったと仄めかせている。要するに、テレグラフの“言い分”はこんな風に読み取れるのだ。そもそも許しがたい不正だが、それが代表のボスともなれば大スキャンダルになってでっかいキズがつく。一方で、告発してから徒に時間がかかってしまうようだと必ずや、代表のW杯予選に差しさわりが出よう。一刻も早く「決着」をつける必要があり、それにはウムを言わせぬ「証拠」が欠かせない。そこで手っ取り早く囮取材で・・・・。テレグラフ自身がそんな“きれいごとの非常手段”を示唆しているわけではない。が、アラダイス本人が抗弁一つもなくあっさりと謝罪して解任に応じたことから、誰もが納得ずくの顛末ではないかと考えられる。 ▽しかし、そうはいっても想像を絶するセットバックである。それこそアラダイス自ら「優柔不断」と批判したロイ・ホジソンの失敗から立ち直るべく、ほぼ全国民の希望の一身に集めていたはずの“切り札”が、思わぬ脇の甘さから自滅した格好で泣く泣く舞台から降りることになってしまったのだ。「思わぬ」といったが、これには一つ筆者に思うところがある。戦術論の筋立てはむしろ細心かつ執拗なくらいのアラダイスだが、その風貌からも察せられるように、豪放磊落、面倒見がよく人情に篤いと定評がある。すると、今回の「わざとらしい」とさえ思える「(指南なら)任せておけ、どこでもやってることだし」なる、甘い見立ては、実は親友で本件当事者の一人でもあったスコット・マッガーヴィーを「救済」したい一心からではなかったか、ということだ。もちろん憶測にすぎない。マッガーヴィーが困窮していたかどうかも不明。しかし、代表監督として3百万ポンドの年俸を取る男が、たかだか40万ポンドのために危ない橋を渡ったとはとても思えないのだ。 ▽そう、「(アラダイスの行為が)指揮官として不適切」(FAチェアマン、グレグ・クラーク)であっても、指揮官としては「現状最適任なら、どうにかならなかったのか?」という、やるせなさが、すでに挙げたVIPたちの“感想文”からも、ましてや、FAのチーフエグゼクティヴ、マーティン・グレンの悲痛な言葉からもにじみ出てはいないだろうか。我々異国の部外者は言うに及ばず、おそらくテレグラフの摘発チームよりも、はるかにアラダイスの人となりを知っている人々だからこそ、彼らの胸の痛みは普通ではないはずなのだ。かくて、すべてはリセットされる。ひとまずはアンダーエイジ代表を率いるギャレス・サウスゲイトが兼任の形を取ることになった。その“期限”は10月のマルタ戦とスロヴェニア戦、11月に行われるスコットランド戦(以上、W杯予選)、対スペイン・フレンドリーの計4試合まで。その間に後継監督を探し出す使命を果たさねばならない。かのマイクル・オーウェンは、マルタ/スロヴェニア/スコットランドに連勝した暁にはサウスゲイトの“自動昇格"を凌ぐ最善策があるとは思えないと、力説しているが・・・・さて。 【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2016.09.29 12:30 Thu
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【東本貢司のFCUK!】逆襲のキーマン、それは「MC」

▽今シーズンから「EFLカップ」と銘打って行われているリーグカップ。その3回戦・16試合がこの2日間で行われた。波乱らしい波乱は、エヴァートンがホームでノリッチに敗れたのみ。ただし、過去1年間の“序列”に照らし合わせる限り、レスターがホーム、キング・パワー・スタジアムでチェルシーに喫した逆転負けも数えておくべきかもしれない。このゲームについて、日本では「いずれもネットを揺るがすことなく決まった」岡崎の珍妙な、もとい、オカザキらしい2ゴールにスポットを当てる一方で、現プレミア王者がトーナメントから姿を消した“番狂わせ”などそっちのけ。まあそんなものだろうと悟ってしまえばそれまでだが、相変わらずの手前味噌な“切り取り報道”には、う~ん、どうにも割り切れない。個人的には、ノリッチ勝利の立役者が前エヴァートンの好漢スティーヴン・ネイスミスだったドラマが「ニューズの価値」で上。いや、言っても仕方ないか。多分、レアル・マドリードが17連勝の新記録を逸したことの方がインパクト大だろうから。 ▽さて、密かに気がかりだったのは突如“絶不調”の負のスパイラルに入った感のあるマンチェスター・ユナイテッドが「よもやの悪夢」に見舞われるのでは、というそこはかとない不安。鬼が棲むカップ戦、相手が3部のノーザンプトン(この時点でリーグ戦8試合消化の11位:首位と勝ち点差7)だからこそ、「まさか」の事態もなくはないと(きっと一部のユナイテッドファンの間には)嫌~なデジャヴもちらついたりしていたのではないか。実際、ハーフタイム直前のデイリー・ブリントの“粗相”からPK失点でイーヴンにされたときは、彼らも思わず眉をしかめたに違いない。結局は3-1の(まずまずの)快勝で杞憂に終わったが、この試合の成り行きを振り返ってみたとき、悩めるジョゼ・モウリーニョが一つの路線変更に舵を切るか否かに、現地識者の間で注目が集まっている。それはずばり、このノーザンプトン戦で先制点を叩き込み、トレードマークの懐の深いボールさばきと広い視野でチームを文字通りに仕切ったベテラン、マイクル・キャリックの、今後の取り扱い。と、その前に改めてノーザンプトンが“難敵”に見えた理由に触れておこう。 ▽実はこのノーザンプトン・タウン、昨シーズンの舞台は4部のリーグ2。だが、ほぼ余裕をもって同ディヴィジョンで優勝を果たし、3部・リーグ1に昇格後7試合消化の時点まで、31戦無敗の快進撃を続けていたのである。記録は先週土曜日の対チェスタフィールド敗戦で途絶えたものの、ホーム、シックスフィールズ・スタジアム(収容7800弱)に詰めかけた地元ファンの中には、「互角に戦えないこともない」という期待に胸ときめかせていた者も多かったという。ところが、皮肉にもそんなコブラーズ(ノーザンプトンの通称)いちの期待の星、23歳の守護神アダム・スミス(かの世界的経済学者と同名だ)のボーンヘッドが、ユナイテッドの先制ゴールを生む結果となったのだ。結果論かもしれないが、今季昇格決定後からプレミアのクラブからも熱い視線が集まっていた「スミスのミスがミソをつけた」ことが、大波乱を起こす芽を摘んでしまった。裏を返せば、ユナイテッドはその隙に救われ、たまたま今季初先発のキャリックがその“運”をものにした・・・・。 ▽これはちょっとした新しいドラマの始まりの兆しとは言えまいか。無論、まだ何もわからない。モウリーニョがこの“運”に目をつけて、次戦(プレミア)・対レスターにキャリックをスタメンに“抜擢”するという保証は何もない。が、ノーザンプトン戦の経過を総括すれば、明らかにキャリックの存在を表す形容詞は「絶大」だった。そこで、一つ前のワトフォード戦を振り返ってみると・・・・最大の課題、それは新・世界最高額男のポール・ポグバが見るからに窮屈なプレーに終始していたこと。では、キャリックと組ませてみたらどうなるか。言うまでもない。ポグバははるかに自由に、気楽にポジションを取りながら、本来の能力、影響力を存分に行使する図が目に浮かぶではないか。そもそも、ポグバも、ここまでモウリーニョに優遇されているフェライニも、司令塔タイプというには大きに物足りない。加えて、肝心のルーニーに何か迷いでもあるのか、どうもピリっとしない。ならば、答えは「今、そこにある」のでは? キャリックをベンチでは「もったいない」! ▽モウリーニョは就任に当たって、ルーニーの役割を「よりストライカー寄り」と示唆していた。だとしたら、今こそプラン修正の絶好のヒントが、キャリックという、いまだ健在の「軸」からひもといていっても罰は当たるまい。例えばこうなる。イブラのワントップに、中盤上がり目にルーニーとポグバ、両ワイドは機動力のあるマタ、エレーラ、ムヒタリアン、リンガード、ヤング、デパイらからピックアップする。場合によってはマーシアル、ラシュフォードもそのリストに入れればいい(順当なら、ラシュフォードはここぞというときのスーパーサブでよさそうだが)。フェライニこそ、アクセントをつける、あるいは変える切り札として使える。なお、個人的には先のワイドマン候補の筆頭にヴァレンシアを挙げたいところである。サイドバックなんてそれこそ「もったいない」。以上はあくまでも“外野”からの一案。モウリーニョともあろう者なら、ずっと効果的な修正案をひねり出すだろう。ともあれ、今このとき、軸にすべきはキャリックしかありえない?! 【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2016.09.22 13:00 Thu
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【東本貢司のFCUK!】お楽しみはこれからだ

▽ざっと8、9か月前のこと―――年の変わり目にほんの“一瞬”首位に立ったアーセナルがその地位をレスターに奪還され、あろうことか宿敵スパーズにまで追い抜かれた頃、ある知人がこう宣った。「このチャンスを逸したら向こう100年経ってもめぐってこないだろうから、レスターかスパーズにタイトルを獲ってもらってもいい気分になっている」さてこの知人、他でもない超のつくガナーズサポーターが、である。そこには一抹の負け惜しみにも似た“寛容”の匂いを感じ取ったものだった。そして結末は、多分「アーセナル命」の狂おしい心情に最も“寛容”な形に収斂した。レスターの歴史的優勝と、最後の最後で足並みを乱したスパーズを逆転しての2位。だが、彼とその故国のプレミアファンとの温度差にさほどのものはなかったに違いないとしても、“母国”の識者や通の者たちですら、レスターの快挙を「歴史的=一時の奇跡」として扱う素振りしか見せなかった。 ▽つまり“奇跡のチーム”レスターの連覇、その可能性は限りなくゼロである、と。その目に見える根拠はと言えば、カンテを失ったことと・・・・いや、それだけにもかかわらず! 彼らの目は、「現代最高」の誉を引っ提げて乗り込んできたグアルディオラと帰ってきたモウリーニョの「一騎打ち」に奪われ、世紀の「口の減らない」尊大なストライカーと新・世界最高額の出戻りプレーヤーのコラボに奪われ続けた。アーセナルも、スパーズも、もちろんレスターも、所詮は露払い役、もしくはそのまた下である、と。ある程度はやむをえまい。かのブライアン・クラフが率いたノッティンガム・フォレストの時代とは、何もかもが隔世そのものの今、奇跡が持続する余地はほとんど考えられない。その予兆よろしく、コミュニティーシールドでユナイテッドに敗れたのはともかく、シーズン緒戦で昇格ハルに屈し、対アーセナル・ドロー、ようやくスウォンジーを一蹴した初勝利を挟んで、リヴァプールに大敗・・・・。それ見たことか、奇跡は奇跡、それ以上の何ものでもない・・・・。 ▽さて、知る人ぞ知る「クラフのボトル」―――常にほろ酔い気分の怖いもの知らずのクソ度胸で知られたブライアン・クラフの“裏呼称”) ―――が、何があろうと微動だにしないクラウディオ・ラニエリに(若干姿を変えて)乗り移ってはいないか、と夢見る愚か者は筆者だけなのだろうか。ヴァーディーが「心の声」に感じ、ドリンクウォーター、マーレズがふとした誘惑から踏みとどまった事実が、レスターのアンダードッグ魂に再び火をつけたと考えるのはそれほど浅はかだろうか。キーワードは「クラフ」、そして夢の舞台は―――チャンピオンズリーグだ。奇跡の新たな再現の芽はすぐそこにある! かくして、レスター・シティーの記念すべきチャンピオンズ初挑戦は快勝で火ぶたを切った。相手がどうのという話はきっぱり却下する。というより、これはプレミア王者としての特権、勲章である。それをきっちり勝ち切ったことがすべて。つまり、ここ(チャンピオンズ第一戦)でたたらを踏むようなことがあればとの危惧を吹き飛ばしてくれたことが大事なのだ。 ▽まだ始まったばかりじゃないか、という声はあえて聞き流す。要するに、レスターが新たな奇跡の風を吹かせ、単なる“寛容”では片づけられない何かを有無を言わせず打ち立てること―――それが、プレミアはもちろん、ヨーロッパ全体をひっくるめたプロフットボールの正しい隆盛に貢献すると思うからだ。さて皆さん、チャンピオンズをどう評価するか。とんでもない高給取りの世界的スーパースターたちで目のくらむようなクラブが、いつまでたっても上位/優勝争いを独占し続ける昨今の現状が、はたして真に健全と言えるのだろうか。つまり、これは格差是正とは対極にある寡占の世界。チャンピオンズ上位常連だけが莫大な見返りを享受し、それによってさらに高給でスーパースター(ないしはその候補)を独占的に駆り集めることができる、いびつなカルテル、無国籍超大企業のやりたい放題。ならばどうだ、今季第一節の結果を眺め渡したとき、これは何か大暴れしてくれそうな予感をもたらしたチームは、どう見てもレスターしか目に映らないではないか? ▽そもそも、いっとき何かの間違い(?)で頂点に立ったからこそ「アンダードッグ」なのである。しばらく、あと一歩なり二歩なりそれ以下なりに冴えない結果だろうと、常に優勝候補に数えられるレアル、バルサ、ユヴェントスのような“永遠の格”を築いていないチームだからこそ、反響も影響力も大きい。こう考えればいい。一時は世界のトップに君臨し続けながら今やすっかり地に堕ちた感のあるアヤックス。そんなアヤックスですら、いずれチャンピオンズに返り咲いた日には“昔の名前”の威力で必ずや注目の的になるだろう。ときの戦力次第だとしても優勝候補に数えられても不思議ではない。しかし、レスターはその立ち位置がまるで違う。今後、例えば10年や20年、プレミアで他を圧してタイトルを積み上げていって初めて、末席仲間入りの資格を与えられるかもしれない程度なのだ。つまりは、長いシーズン中、一試合の勝ち負けに(ファンか否かを超越して!)一喜一憂する“究極の楽しみ”をもたらしてくれる、そんなレスターが、新たな歴史の一ページを開いた今こそ贈る言葉、それは「お楽しみはこれからだ、You ain't impressed yet!」 【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2016.09.16 13:15 Fri
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【東本貢司のFCUK!】改革の柱は「ルーニーの意識」?

▽2018年ワールドカップに向けたヨーロッパ予選が幕を開け、英国圏5か国代表は揃ってまずまずのスタートを切った。アイルランド勢2か国のみ勝ち点1に終わったが、それぞれ相手が過去の実績からして同等以上、しかもアウェイだったことを考えると、文句のない上々の成果だと言える。残る3か国の方はいずれも格下に順当勝ち。ただし・・・・。ふと思い出すのが、先のユーロ本大会。不参加のスコットランドを除く全4チームが史上初めて決勝トーナメントに勝ち上がった時点での“最大の不安”、すなわち、どこか覚束なげではっきりとしない、肝心のスリーライオンズの戦いぶりが、デジャヴのように甦るのである。しかも、その“病根”たるや、ほぼ瓜二つ。エース、ハリー・ケインに冴えも覇気も見えず、そして何よりも、このスロヴァキア戦でデイヴィッド・ベッカムを抜いてフィールドプレーヤーでは最多キャップ数に到達したウェイン・ルーニーの“迷走”・・・・。 ▽ユーロでの教訓、あるいは本質的な適性を踏まえて、新監督サム・アラダイスは、キャプテンのポジションを「一歩」前に上げた。何といってもイングランド代表歴代最多ゴール“更新中”のストライカーであり、自信喪失気味のケインの孤立解消を実現する意味でも、ルーニーの「トップ下」復帰は、ごく自然な路線変更だったはず。ところが、ふたを開けてみると、ルーニーの「ドロップバック癖」は相変わらずで、まさに絵に描いた餅の「ユーロの二番煎じ」に終始する始末。試合後、その点について見解を求められたアラダイスの一言は、驚くべきものだった。「ルーニーのポジションを決めるのはわたしではない」! 受け取りようのよっては「匙を投げた」とでも言わんばかりの、指揮官らしからぬ突き放しよう、もとい「信頼の置きよう」?! しかし、それですべてが上手く運んでいるのならまだしも、現実にスロヴァキアに大苦戦を強いられ、アダム・ララーナの終了間際の一撃に救われた格好ではどんな誹りを受けても致し方ない。果たせるかな「炎上」である。 ▽元プレーヤーたちの指摘は必ずしも説得力をもって聞こえてこない。悪く言えば、素人でも言えそうな、ありきたりな問題点のおさらい以上の、核心を突いた例えば改善策の類をめったに聞くことがない。だが、ことルーニーの唯我独尊風チーム貢献マインドに関しては、さすがにわかりやすく、かつ指摘に具体性が伴っていたように思う。かつて、ただ一度プレミアを制したブラックバーンで黄金の2トップを組んだアラン・シアラーとクリス・サトンは、ほぼ明確に「ルーニーをどうにかすべし」と口を揃えるのだ。そこには二通りの“示唆”がにじみ出ている。「ケインとルーニーの2トップを確立」すること。さもなくば・・・・ルーニーの「立ち位置を考え直す」こと。後者は、そう、場合によっては思い切って「外してみる」勇気を、新監督に打診している(少なくとも、そう受け取れる)。なんと目下、スリーライオンズは「ルーニーの処遇」が最大の難問になっているようなのだ。 ▽アラダイスは「ホジソン式の修正点」として(?)、アリをベンチに下げてヘンダソンをダイアーの相棒に据えたが、これはスロヴァキア戦に関する限り、ミスキャスティングに終わったと言っていい。むろん、そこにはルーニーが盛んに下がってプレーすることによって中盤の底周辺が“渋滞”状態になり、連携がぎくしゃくした言い訳もできそうではある。だが、それならばせめて、ケイン=アリ=ダイアーのスパーズラインで割り切った方がましだと考えたくなるというものだ。同じ意味合いで、ヴァーディーを使う場合はドリンクウォーターをセットにする。部分的な“クラブのよしみ”手当で、チーム全体がどうなるものではないだろうが、ケインの不発(もしくはチャンスのつかみ損ね)による決定率向上には、そこそこ効果がありはしまいか。あるいはもっと踏み込んで「3トップ」を試してみる。中央ケイン、右にララーナ、左がルーニーだ。ルーニーをワイド気味のポジションに置くことで、彼の“動きすぎ”を縦ではなく横に生かせないかという案。無論、左からならルーニーは中央に流れてパスの渦の中心に身を置き、シュートもしやすいはず。 ▽とまあ、あれこれ机上の空論を披露はしてみたものの、ルーニー自身が現状の問題を把握して自覚しない限りは意味がない。それに、ルーニーばかりに論点が集まっているが、ケインにも危機感をもってもらう必要はないか? ヴァーディーは深く引いて「バスを置く」チームには使い辛いイメージがあるようだが、ならばDFの裏をつくロングボールを多用する“振り”を足してみればどうなのか。それともいっそのこと・・・・マーカス・ラシュフォードの魅力に賭けてみる手もありますぞ。なんとなれば、彼はつい先日、U21ユーロ予選のデビュー戦でハットトリックを決めてみせたばかり。監督ギャレス・サウスゲイトはいみじくも“進言”したものである。ラシュフォードの再抜擢は「food for thought(十分考慮に値する栄養素)for Allardyce」! 確かに迷うところだ。「すぐの抜本的改革はできない相談」と慎重なアラダイスだが、かといってこのままでは・・・・。FAからも諦めに似た警告:「2020年の優勝を目標とするのは控えたい」が届いていることだし? 【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2016.09.08 16:00 Thu
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【東本貢司のFCUK!】さらば真の英雄ロビー・キーン

▽さすがは「イングランドのメディア」、しかもこの日はトランスファー・デッドラインデイ(移籍締切日)、新聞で言うならスポーツ欄の片隅に数行程度で扱うのも当然といえば当然・・・・が、ならば、このコラムでこそ“トップ”で取り上げるとしよう。「ロビー・キーン、代表引退試合をトレードマークのゴールを締めくくる!」思えば、アイルランド代表のシャツを身に着けた若き日のロビーを初めて観たのは、1998年W杯を目前にした頃の対アルゼンチン・フレンドリーだった。スコアは忘却の彼方。当時はまだ健在だったバティストゥータやオルテガがどうだったか、出場していたのかも記憶にない。しかし、確か当時弱冠18歳(あるいは17歳だったか?)のロビーが、ナンバー10を背負ったキャプテンだったことは鮮明に覚えている。以来、積み上げたゴールはこのオマーン戦でのラストメモリアルを含めて「68」。“西ドイツ”の英雄ゲルト・ミュラーと同じ数字である。 ▽ロビーには個人的に思い入れがある。それなりの“縁”もある。そのアルゼンチン戦終了後のポストマッチ・インタヴューの聞き取り翻訳、一年半後の鮮烈なプレミアデビュー戦(99年夏にウルヴズからコヴェントリーに移籍)の実況解説。同試合、ロビーは独壇場の2ゴールをゲットして新チームに勝利をもたらした。98-99シーズンのFAカップ戦でも彼が率いるウルヴズのゲーム実況解説の“栄誉”に与っている。さらに、鹿島で行われた日韓W杯グループリーグ・対ドイツの劇的な同点ゴールも目の当たりにした。筆者にとって、ロビー・キーンはベッカム、オーウェンに匹敵する“プライムタイム・ヒーロー”なのだ。先のユーロでは、招集されながらもほんのわずかな“顔見せ交代出場”に終わり、密かに心を痛めていた。引退は近い、彼の時代は幕を閉じようとしている・・・・。「誰もがぼくのゴールを待ち望んでくれていた。それに応えられて嬉しい。今後はいちファンとして(アイルランド代表の)ゲームを楽しみに見続けたいと思う」――お疲れさまでした! ▽先輩ロイ・キーンの代表退場がいかにも後味の悪い顛末に終わったことを思えば、ストライカーとしての華も含め、ロビーには「永遠のアイリッシュヒーロー」としてのイメージがこれからも消えることはないだろう。現代表監督マーティン・オニールも「文句なしにアイルランド史上最高のプレーヤーの一人。彼がいなくなった穴を埋めるのは至難というしかない」と最後の挨拶を送っている。ちなみにロビー(とミュラー)の代表ゴール記録は歴代4位に当たる。トップは伝説のマイティーマジャール、フェレンツ・プスカシュ(83)、2位はその同僚、サーンドール・コッシシュ(75)、続いてドイツのミロスロフ・クローゼ(71)。プスカシュの記録は公式代表マッチ84、コッシシュに至ってはなんと68試合で達成されている。決して同レベルでは語れないとしても、想像を絶する決定率だ。いかに当時のハンガリー代表、およびホンヴェドが桁外れのチームだったかが偲ばれる。なお、ホンヴェドでの記録はプスカシュが341試合352得点、コッシシュは145試合153得点! ▽昔話ばかりで恐縮だが、つい思い出したことがある。後にチャンピオンズカップ(同リーグの前身)発足のきっかけを作った有名な事件―――当時問答無用の最強を自他共に許すイングランドの当時のチャンピオン、ウルヴズが、プスカシュらのホンヴェドに歴史的な大敗を喫したゲームだ。そう、ロビー・キーンのまさにそのウルヴズ・アカデミー出身なのであり、プロデビューも同クラブで果たしているが、それが1997年。おわかりだろうか、ロビーはプロになった翌年に代表入りし、しかも間もなく同キャプテンに指名されたのである。かのアルゼンチン戦当時、筆者はそんなことも露知らず、ただ「10代の代表キャプテン」という快挙だけを快哉していた。直感的に「この男は並みのプレーヤーじゃない」と認めながら、同世代で姿格好やプレースタイルが似ていたマイクル・オーウェン、ジョー・コールと“同列”に取りざたしていたのだ。今ならこう言おうか。オーウェンもコールも突出した存在に違いなかったが、ロビーにはさすがに少々引けを取るかな、と。 ▽さて、2016年8月デッドラインデイの最大のサプライズは、ダヴィド・ルイスのチェルシー帰還だった。それもまさに締め切り寸前の31日23時過ぎに移籍契約が認定されたというドラマティックな“結末”。どうやら、アントニオ・コンテはマジで一年目にグアルディオラとモウリーニョにケンカを売るつもりらしい。もう一つ、こちらは現地からの情報がかなり錯綜、混乱したきらいもあったが、降格したニューカッスルのムーサ・シソコがデッドライン時ぎりぎりでスパーズに入団決定。一時は、マグパイズ(ニューカッスル)の要求額3千万ポンドを先に了承したエヴァートンに決まるかと思われたのだが、最後の最後でエヴァートンが断念して決着した。シソコがメディカルを受けるためにリヴァプールへ出発する直前の大逆転劇だったようだ。なお、ルイスの移籍についてはパリSGが強硬に難色を示していたが、ルイスの「チェルシー恋し」に結局は匙を投げた模様。プレミアのタイトル争いはますます混沌とし、かつ激烈な主導権争いが繰り広げられそうだ。【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2016.09.01 10:00 Thu
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【東本貢司のFCUK!】期待感が“値動き”を動かす

▽開幕して各チーム2試合を消化―――この時点でどうこう“占う”根拠もなければ、そんな権利も(誰にも)ない。例えば開幕戦の白眉、アーセナルvsリヴァプールを振り返ってみよう。スコアは「3-4」。派手な点の取り合いに見えるが、実際はアウェイのレッズが終始余裕のリードを保ち、ホームチームが遅まきながら終盤に意地を見せる経緯をたどった。一言で片づけるならリヴァプールの「快勝」。だが、そのリヴァプールは続く第二戦で昇格仕立てのバーンリーに無得点の完敗、一方のアーセナルは王者レスターとスコアレスドロー。そこで、両者ともディフェンスに難あり、一転して決め手に乏しい問題をさらけ出した・・・・とまあ、近視眼的に評価すればそういうことになるのだろうが、そんなものは、たかが2試合の結果をもとに何か書かねばならないマッチリポーターの物言いに過ぎない。両監督の事後コメントも取り立てて「何とかしなけりゃ」なる印象もない・・・・。 ▽と思いきや、その後漏れ出してきたニューズソースからは、ルーカス・ペレス(FW:ラ・コルーニャ)の入団「ほぼ内定」と、シュコドラン・ムスタフィ(DF:ヴァレンシア)獲得への「交渉進展」が―――しかも、両人ともに想定内の予算を超える出費を強いられる見込みである。筆者にはそれが「焦って無理をしている」ようにも受け取れてしまう。ひいては、さしものアーセン・ヴェンゲルの「信念と余裕」も揺らいでいると言えなくもない。ほんの一週間ほど前、クラブ運営責任者(ガジディス)は「(補強に関して)金額の勝負になればウチに勝ち目はない」と“白旗”を上げた。にもかかわらず、エヴァートンと競合になってもルーカス獲得にこだわり、ムスタフィはかねてよりの狙い目だったとはいえ足元を見られた格好で、超過出費に踏み切る構えなのは・・・・「もう(アーセナルのヴェンゲルには)あまり後がない」という、もっと切実な問題につながっていくのだ。それにルーカスとムスタフィで“間に合う”のかという、いささか“気難しい”問題も残る。 ▽その点、マンチェスターの両雄は「かなり早い段階で(優勝への)一騎討ち状態になりそう」との前評判通り、ほぼ順風満帆のスタートダッシュ。ここで確認しておくべきは、ともに一切手をこまねくことなく、補強作戦をほぼ予定通りにすんなりと遂行してしまったことである。要するに、ライバルたちの(補強)状況を秤にかけながらとか、オフのフレンドリーなどで現有戦力をじっくり検分してからとか、などの“勿体つけ”が無い。さっさと申し入れ、さっさと決めてしまう。それに、ルーカスとムスタフィには悪いが、「イブラヒモヴィッチとポグバ」と比べられては相当に分が悪い。ふと思ったのだが、そこには株式市場の値動きに似たものがないだろうか。「期待感」とは、ある意味で「実に安易な印象」によって大きく左右されるものだとすれば、当然、ユナイテッド株(の上昇)にも影響はあったはず。しかも、コミュニティーシールドを含む3試合でズラタンが4ゴール、ポグバも1試合ながら違いを見せつけた、となれば、これはもうお祭り状態になる。 ▽シティーも抜かりがない点では負けていない。ノリートにストーンズ、そして契約の時期こそズレ込んだとはいえ、ブラヴォーと、グアルディオラの“戦略”に澱みなどなくあっさりと使命完了。その一方で“余計な"チャンピオンズ予備戦2試合も楽々と片づけるなど、ここまでほとんど危なげがない。願わくは、ストーンズとともにデルフをツブしてしまうことなど無きように。今、ユナイテッドとシティーにはちょうど似通った“疵”が見えている。シュヴァインシュタイガーとハートだ。あと1週間でどんなドラマが起きるやも(起きないかも)しれないが、ジョゼとペップから事実上の戦力外通告を受けた二人の今後が、ひょっとしたらだが、ユナイテッド/シティーの“足を(少しは)引っ張る”情動的要素になり得るかも・・・・いや、それはさすがに考え過ぎか。どうも、戦力比較や戦術ベースの「将の器」辺りで比べてしまうのがつまらなくてね! 今だけのセンティメンタルな“妙味”エピソードと受け取っていただこう。まともな予想ほど退屈なものはない。 ▽折しも、チャンピオンズ/グループリーグのドロー結果が出てきた。ユナイテッドもチェルシーも(そして相変わらずリヴァプールも)不在の、それ以外は大して代わり映えのしないチャンピオンズだが、総じて特別「死の・・・・」の肩書がつくエリアも見当たらない。アーセナルに初見参のレスターも、スパーズも、大して文句のない顔ぶれに混じって戦うことになる。強いて言えば、シティーとバルサの呉越同舟、そこにブレンダン・ロジャーズのセルティックが絡む絵面に、いつもとは味わいが異なる興趣が湧く。そう言えば、シティーとセルティックはともにプレーオフ(予備戦)を突破した者同士。ならば、セルティックと復活気配のボルシアMGが波乱を演出することで、何かが“動く”。ここ数年、ついつい思い願ってしまうのは、今度こそ、パルサ、レアル、バイエルン、アトレティコの名前が(せめてその内2つが)「ラスト4」から消えてくれないかなぁ、と(笑)。【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2016.08.26 13:20 Fri
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【東本貢司のFCUK!】真っ当なクラブ経営の危機

▽新シーズン開幕戦最大の目玉、アーセナル-リヴァプールの一戦は“大変に”示唆の多い試合だった。手っ取り早く言えば、両軍ともに「攻撃力は有望、守備大いに不安」。状況を振り返ればさにあらんと言うべきだが、それにしてもこれほど「期待と課題」がもろにあぶりだされたゲームも珍しい。まだあと2週間開いている“移籍の窓”がどんな効果をもたらすのか、あるいはもたらさないのか、関係者にとって悩ましいところだろうか。と言うのも、近年のファンは補強について過度に敏感だからだ。つまり、補強が進まない、物足りない、思わしくないと見るや、眉をしかめる、騒がしくブーたれる、果ては指導陣の資質を(悪しざまに)問う。まるで、満足のいく補強が進められない監督は無能だと言わんばかりに。これについては現地識者からも憂慮する声が止まらない。そう、「有望な補強ができれば一安心」なる考え方がいかに空疎かという“現実”をまだわかっていない。 ▽特にアーセナルのファンが今一度胸に手を当てて忖度すべきなのは、今アーセン・ヴェンゲルを仮に追い出したところでいったい何が好転するかという、肝心要の、しかもシンプルこの上ない命題である。誰がヴェンゲルに代わってエミレイツのホットシートに座ろうと、それで「補強が思うように進まない」という問題が即解決するとでも思っているのだろうか。こんなことを言うと、それは他のクラブでだってよくあることだろうと突っ込まれるかもしれない。だが、どうやらそれは違うようなのだ。アーセナルの場合、それはほとんどヤケッパチの雑音、悲鳴にすら聞こえてくる。例えば、アレックス・ファーガソンはあれほど長期政権を維持して数えきれないほどタイトルをもたらしたが、ヴェンゲルのそれは数ではるかに物足りない、じゃあもうそろそろ・・・・とまあ、要するに文字通りの愚痴なのだ。ご存じだろうか。昨シーズン、百年の一度あるかないかの珍事だからこの際レスターに優勝させてやっても、と本気で考えていたガナーズファンがかなりいたことを。 ▽一種の「ルーティン」と言ってもいい。誇りと自虐がない交ぜになった定番のグチっぽさというルーティン。よって、周りが訝るほどには“彼ら(の大半) ”もヴェンゲルに「飽きている」わけでもない。近年でいえば、エジル、カソーラ、サンチェス(の獲得)は成功の部類なのだから「引き続き頼むぞ」というアピールである。ところが、時代がそれを何かと拒み続けているのがネックなのだ。例えば直近では、他と競合の噂もない、狙いすましたラカゼットも、昨今の移籍金異常高騰事情に乗っかろうと欲をかいた(?)リヨンに待ったをかけられる。そんなじれったさ、もどかしさを、ファンは痛いほどわかっている。どんなチームを作るかという以前に、カネですべてが決められてしまうという虚しさとやり場のなさ。CEOのカジディスは早々に宣言したではないか。「カネで張り合える(財)力はない」とは、言葉を変えれば「そんなあざとい意地を張ってまで」というプライドの証なのかもしれない。そしてそれをファンも理解している。だから「辛い」のだ。 ▽チャンピオンシップ(2部)の「この先よほど頑張って戦力強化をしなければ(プレミア昇格は)むずかしい」クラブにすら、海外資本が続々と“たかる”ご時世である。アーセナルがその気になれば、世界有数の資金バックアッパーに事欠くはずがない。だが、それを良しとしないのが「ヴェンゲル流」もしくは、ヴェンゲルに全幅の信頼を置くクラブ運営ポリシーだということだ。つまり、コアなファンの一部は「それでどうにもならないんなら“悪魔"に魂を売っちゃえよ」(つまりは「脱ヴェンゲル・緊急“暴"義」)と“ヤジ”を飛ばしているのだと考えられないか。ホーム開幕戦でリヴァプールに4点も取られたのは、表面的には「期待はずれの若造の新参者に任せるしかなかったせい」だと受け止められている。しかし、コシェルニーは近々戻ってくるし、メルテザッカーもいずれ復帰する。いや、それ以前にチェンバーズとホールディングの急造若手CBコンビは言うほど悪くもなかった。しかも4-1を4-3まで盛り返した攻撃陣も反発力は明るい収穫だった。マイナス面よりもプラス面を見よという教訓がここにある。なにせまだ開幕戦なのだ。 ▽一つ、間違いのない事実を言うなら、少なくともアーセナルではヴェンゲルと運営陣が一心同体であり、目指す道へブレずに邁進していく大きな原動力となっている。では、リヴァプールはどうか。気になるのは、ベンテケの処遇についてだ。クロップは戦力外志向。そこへクリスタル・パレスが思い切った額を提示してきた。普通はそれで話が動く。ところが、移籍金額の一部が「ボーナス査定扱い」だからダメだって? なんだ、それ。監督は放出にゴーサインを出しているのに、クラブは妙な理屈をこねて出し渋る。パレスの戦力強化が嫌だとでも? ベンテケ自身のキャリアなど一切お構いなしなのか? とんだ“カネ主導時代”の茶番ではないか。こんなセコい考え方をするクラブに明日があっていいものなのかと天を仰ぎたくなるのは筆者だけだろうか。真っ当なクラブ経営が報われない時代になっているのだとしたら、真にメスを入れる必要がどこにあるのかわかろうというものだ。今後の2週間、何がどう動くかにもよるが、少なくとも現時点ではアーセナルに肩入れしたくなっている自分がいる。そうだ、頑張れよヴェンゲル、そして、そう、監督肝入りの新戦力たち、ジャカ、ホールディング、あるいはまだ見ぬ新ガナーたちよ! 【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2016.08.17 13:30 Wed
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【東本貢司のFCUK!】“経済操作的”移籍に警鐘を

▽意外に知られていないようだが、マンチェスター・ユナイテッドの“聖地”オールド・トラッフォードの正確な立地は、マンチェスター市に隣接するサルフォード市内である(サルフォードなどのマンチェスター市周辺の衛星都市をひっくるめて「グレイター・マンチェスター」と呼ぶことから)。さて、そのサルフォード大学・スポーツビジネスセンターがこのほど「ある研究成果」を発表した。曰く「ズラタン・イブラヒモヴィッチとポール・ポグバの加入は、ユナイテッドにとって『+勝ち点10』の価値がある」。同センターの統計学者たちが独自に設計製作した「SAM」(“スポーツ分析機”)がはじき出した「統計データ分析」によるもので、二人の加入はユナイテッドのリーグ優勝確率を「4%」アップさせる効果が期待できるのだという。ちなみに一連の研究データは、新シーズンの全フィクスチャー(対戦カード)を元に「SAM」で1万回以上計算した上での結果だとか。 ▽昨シーズン、パリSG所属のイブラヒモヴィッチはフランス・リーグ1で「38ゴール」をマークしたが、SAMの予測によると、これは「8ポイント加算」の計算になるという。一方、ユヴェントスで昨シーズン、ポグバが記録した「13アシスト」は「1.3ポイント」。合計「(約)10ポイント」という訳だ。これを単純に昨シーズンのプレミアに当てはめると、ユナイテッドは5位から2位に上がる計算になる。ここには、二人にかかった「コスト」も加味されているらしく、タダ(フリートランスファー)のイブラヒモヴィッチは、史上最高額(8900万ポンド)についたポグバよりもはるかに「効率が良い」貢献度を果たすという次第。ただし「ポグバの値段が高すぎるという説も多いが、将来性を考えれば十分に元が取れるはず」だそうだ。言うまでもないことだが「SAMの試算はホーム/アウェイ、対戦相手の実力と近年の成績、起こり得る不調や故障などの不測データまで組み込んだ結果」。「すべて純粋な数のデータとアルゴリズムによるもので、それ以外の情緒的要素など一切ない」と同センターのイアン・マクヘイル/スポーツ分析学教授は胸を張る。 ▽なるほど、まさか二人が何等かの事由でほとんど出場が叶わなかった場合まで計算に入っているとは思えないから、基本的には「信じよう」。ただ、この統計学というしろものはどうも胡散臭い。あのリーマン・ショックだって、この手の“統計数学”による複雑な債券操作が引き起こしたんじゃなかったっけ? 要するに問題は、昨今の急速なIT技術と統計学的金融錬金術が結びついた挙句、現代社会経済はその勿体つけた予測データに振り回されているということなんじゃ? 裏を返せば、ポグバの移籍の真の(では言い過ぎなら「大半の」)目論みとは、スポンサーシップ拡張とそれに伴う株価操作なんじゃないだろうか。つまりは「情緒的効果」ということにならないか? 純粋に数字データを“京”だか何だかクラスのスーパーコンピューターにかけた上での「予測」が、結局は人の欲望をくすぐり、始末に負えないどころではないカオスをもたらしてしまう・・・・。結果的に人間は自分たちがコントロールしているつもりの「データ」に操られるだけのような気も。 ▽ひょっとしたら、ポグバの「分不相応な移籍金」に警鐘を鳴らす声(アーセン・ヴェンゲル、ポール・スコールズ他)には、単に「過大評価」云々にとどまらない、いわば、いずれこの手の「経済操作的評価」が、これまでにも増して当たり前のように幅を利かすことへの不安を(無意識にも)代弁しているのではなかろうか。要するに“逆”あゝ、ヴェンゲルの、そしてアーセナルの“金庫番”ガジディスCEOの“現実的”な弱音、嘆きもさにあらん。ヴァーディーに、マーレズに、ラカゼットにそっぽを向かれ、サンチェスはコパアメリカで負傷、コシェルニーはユーロ疲れ、メルテザッカーがしばらくリタイア、ガブリエルまで8週間の負傷で、いざ穴埋めをしようにも「ふっかけられる額」が見合わない、などなど八方ふさがりも同然。チェルシーはカンテを、シティーはストーンズを、そしてユナイテッドは・・・・ときては、法外な「経済操作的」カネ太り補強に愚痴の一つも言いたくなるというものだろう。そのせいかどうかはともかく、ヴェンゲル自身から「自身の将来」に黄信号をほのめかす“つぶやき”まで・・・・。 ▽ところで、プレミア開幕は目前の今週末だが、チャンピオンシップ(2部)やスコティッシュプレミアは一足先にスタートして各1試合を消化している。前者では降格組のノリッチは快勝したが、アストン・ヴィラとニューカッスルは黒星スタート、後者の最大の目玉、復活レインジャーズはリーグ開幕戦こそハミルトンに引き分けたが、リーグカップでは大勝を飾った。新加入、おなじみジョーイ・バートン、ニコ・クラニチャールが殊の外元気いっぱいのようで、4年ぶりの本舞台でけっこう暴れてくれそうだ。ユーロで唯一“蚊帳の外”に置かれたりして、しばらく火が消えた状態のスコットランドに、ガツンと活を入れて大いに盛り上げて欲しいものである。今後も「レインジャーズ中心」に見守りたい。 【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2016.08.11 13:00 Thu
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【東本貢司のFCUK!】絵に描いた餅と“脱”カネ太り

▽「GBチーム」が男女とも出場しないこともあるにはあるが、目前に開幕を控えたブラジル五輪にはどうも血が騒がない。理由の一端は開催地そのものが抱える問題に他ならない。一説にはブラジル国民の半数が、この期に及んでも開催に反対しているというし、2年前のワールドカップでも直前までニューズを騒がせた各種デモが、今回さらに激化しているとも伝えられる。選手宿舎にまつわる不祥事(窃盗事件、設備の不備など)も前代未聞の汚点。そこに輪をかけるような、ロシアの「国家ぐるみのドラッグ摂取事件」。思うにこの一連の暗雲は、昨今の世界政治経済を悩ませ続けている根源的課題と共通するものがないだろうか。行き過ぎたグローバリズム、グローバリゼイション。その昔、大国がくしゃみをすれば小国が風邪をひく、と言われたものだが、今やそんなジョークめいた表現では済まないのが現実。世界がともに手を組んで、という理想など絵に描いた餅も同然だろう。 ▽もう少し視点を絞ってみよう。フットボール界で言えば、グローバリズムの絵に描いた餅とはまさしくホスト国の“開拓志向”そのものだろう。アフリカ(南アフリカ)に続いてロシア、中東(カタール)と、世界地図を埋めていくがごとくの八方美人ぶりは、上辺は崇高に映っても、現実が、時代がさっぱり追いついてくれそうにないのはもはや自明の理。もうとっくにわかってしかるべきなのだ。ワールドカップやオリンピックで潤う(もしくは、潤うだろうと期待できる)のは、開催統括機構と参入スポンサー企業だけなのであり、大げさな言い方をすれば、閉幕後の開催国(都市)に残されるのはそれまで以上に深刻な経済不況でしかない。この悩ましい問題をなんとか工夫をこらして乗り越え、吉(の種)としよう―――にも、おそらく復興などもはや及びもつかない世界経済の荒廃の前には太刀打ちできそうにない。せめて「コンパクトな」をその言葉通りに実行すれば救いもあろうが、どこかの国の“公約違反”とその醜いドタバタ劇を見る限り、まさに絵に描いた餅。 ▽もっと端的に総括しよう。もはや新しいパイは作れない、既存のパイの拡大化、飾りつけすらできない(許されない)時代なのだ。持てる者の利益追求はそのまま持てない者の貧困拡大に反映される。いわゆるトリクルダウンなど到底望むべくもない。その一つの縮図がここにある。イングリッシュ・プレミアシップ、つまりプレミアリーグ。「法外」という言葉自らが呆れるような「超高給」で次々に一部のプレーヤーを釣り上げていく(というより、そうするしかない)ために、資金需要の高騰たるや天井知らず。よって、世界の限られた億万長者グループが引き寄せられ、また“彼ら”自身も「現代最高の堅実に儲かる投資物件」として喜々としていそいそと手を上げ、乗り込んでくる。それでも、ファンサービス中で一番大切な入場料は下がるどころか上がる一方であり、少しでも歳入を増やすべく、世界中の企業に広告主募集のお触れを出す。思いっきり意地の悪い見方をすれば、プレミアおよび一部他国のビッグクラブにカネが集まるシステムが出来上がっているのだ。 ▽いや、そちらの方の“拡大化”は際限なく進んでいる。例えば、アストン・ヴィラの降格によって宿敵バーミンガムとウルヴズが久しぶりにチャンピオンシップ(2部)で同舟することになったが、なんとこの名門3クラブのいずれもが中国資本のバックアップに頼っている。中東の巨大資本(マン・シティー、バルサ、パリSGなど)ほど「湯水のごとく」となるかどうかはわからないが、“プレミアの美味しい水”目当ての予備軍クラブにすら、カネが吸い寄せられていく時代なのである。ちなみに、チャンピオンシップ事情に詳しい某現地識者の予測によると「このミッドランズ3大名門が来季のプレミア復帰を目指すにはまだ力不足。一番手は、数少ない国内資本で支えられているニューカッスル」だとか。多分、現時点での戦力比較によるきわめて真っ当な分析なのだろう。が、それでもなお、筆者にはこの識者の“強い願い”と反・行き過ぎた商業主義に対するメッセージを感じてしまうのだ。それはまた、ポグバの法外な移籍金に対する“幻滅”ともリンクしている。 ▽最新のニューズによると“彼”はユーヴェ残留を希望しているという。あえて穿ちすぎな感想を言うなら、ポール・スコールズやアーセン・ヴェンゲルが眉をしかめる「それほどの価値はない」に、少々気が引けたのかもしれない。そんな“プレッシャー”を背負ってまで、かつて自分を捨てたクラブでプレーすることもない、と思ったのかもしれない。そこではたと嫌な発想が頭をよぎる。さて、EU脱退に踏み切った背景事情に、われ関せずと際限なく札束が乱れ飛ぶプレミアの“活況”は何らかの影響を及ぼしたのだろうか、と。それを考えると、もはや「ミラクル・レスター(の再現)」が世を騒がせることなどあり得ない? いいや、だからこそ「あって」欲しい。こんな時代だからこそ「カネで成功は買えない」を再び世に示してほしい。さて、そんな快挙を成しえるクラブがあるかと言えば・・・・そうだ、復帰したデイヴィッド・モイーズ率いるサンダランドなどいかがだろうか。 【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2016.08.04 09:30 Thu
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【東本貢司のFCUK!】母国の復権への壮大な計画?!

▽今シーズンから“ローンチ”される「プレミアリーグ2」。実質的にはこれまでの「U21リーグ」に“オーバーエイジ枠”を加えただけのようにも見え、オーバーエイジの定義も「23歳」でフィールドプレーヤー3名まで+ゴールキーパーといたって“控えめ”。が、どうやらこの“新機軸”に対する期待度といったら並大抵ではないようなのだ。参加するのは全24チームで、プレミアから15、チャンピオンシップ(2部)から9。それぞれ12チーム二部制で行われる。内訳は(アルファベット順に)ディヴィジョン1がアーセナル、チェルシー、ダービー、エヴァートン、レスター、リヴァプール、マン・シティー、マン・ユナイテッド、レディング、サウサンプトン、サンダランド、トテナム、ディヴィジョン2にはアストン・ヴィラ、ブラックバーン、ブライトン、フルアム、ミドゥルズブラ、ニューカッスル、ノリッチ、スウォンジー、ストーク、WBA、ウェスト・ハム、ウルヴズが入る。計算が合わない? お忘れなく。これはあくまで“二軍”がベースの新リーグなのだ。ちなみに、旧U21リーグ“最後”のチャンピオンはマンチェスター・ユナイテッド。 ▽各チーム、ホーム&アウェイで合計22試合を戦い、ディヴィジョン1の下位2チームが自動的に降格。一方、ディヴィジョン2では優勝チームが昇格、2位、3位、4位、5位がもう一つの昇格枠を争うプレーオフに臨む。ディジョン2からの降格はない。現状の見通しでは、過去4シーズンで3度(U21リーグの)優勝をさらったマン・ユナイテッドが本命、対抗は2013-14の覇者チェルシー。チェルシーはFAユースカップを三連覇中、またUEFAユースリーグも連覇している。さて、このユースリーグ“改変”のキモは、冒頭に触れた「オーバーエイジ枠」。ファーストチームでの経験がそこそこ豊富な22、23歳のプレーヤーが加わることで、今や異邦の助っ人全盛の現プレミアとの実質的リンクを強化し、若手国産プレーヤーを引き上げる一助と成すのが最大の狙いだ。無論、ゲーム数の増加に伴う実戦経験を増やす意味もある。要するに、近年、毎度のように優勝候補と言われながら、成績芳しからざるスリーライオンズ(イングランド代表)に喝を入れようという算段。おそらくは、先ごろ新監督にサム・アラダイスを指名したこととも密接に関連していよう。 ▽このユース強化一大プラン、実はこれだけにとどまらない。各クラブのユースチームには新たにリーグカップ(年度恒例のプレミアから4部までのプロ92チームによるトーナメント)に、EFLカップ(同3部と4部の全48チームによるトーナメント)にも、参加の道が開かれることになったのだ。もちろん、だからといってこれらにすべて参加するとなると、さすがにプレーヤーフィットネスは言うまでもなく、各クラブサイドの管理も大変になる。プランの骨子が「ユース強化=プレミアの国産化/世代交代推進」なのだからして、闇雲にゲーム数を増やすことが支障をきたすことは明らか。どのクラブとて、一軍(プレミア)は即戦力外国人中心でやっていけばいいなどとは考えていないはず。現に、早速EFLカップ(イニシャルプランは全64チームで開催)の“招待”辞退が相次いでいる。具体的にはアーセナル、マン・シティー、マン・ユナイテッド、トテナム、ニューカッスル以下、ノリッチ、ブライトン、ダービー、ウルヴズ、ブラックバーン、レディングまで、辞退を表明している。ざっと見て、層の厚い薄いだけの問題ではないと察せられるだろう。 ▽要するに、メニューが一気に盛りだくさんになりすぎ、多くのクラブサイドで対応が追いつけない(つきにくい)というのが実状のようだ。当然それぞれのトーナメントでは勝ち進めば賞金がついてくるわけで、それはそれで美味しい。ピータボロ(のチェアマン辺り)が声を上げているように「どうなるかやってみるだけやってみよう。これは一つの大きなチャンス」と前向きな意見も少なくない。そうなのだ。肝心のプレーヤーたちが若くして疲弊してしまっては元も子もない(辞退したクラブの主な言い分)のは気がかりだが、それはそれで立派なお題目(根拠)もあるのだ。近年のユースレベルの快進撃(U18ユーロ優勝など)と惨敗続きのA代表との、あまりにも対照的なギャップ。お休みが多ければいいなどと、うそぶくユースプレーヤーなどどこにもいない。メッシやロナウドもそんなハードスケジュールに耐えて出てきたはず。辞退が多く出たのは残念だが、この計画はまだ始まったばかり。「強い母国の復権」につながる元年として今後の意識拡大を期待したい。【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2016.07.28 14:45 Thu
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【東本貢司のFCUK!】「ナンバー6」から時代は動く

▽「マッチナンバー制」が事実上の死語となって久しい。その昔(といってもほんの20年ほど前までだが)、ピッチに登場するイレヴンの背番号は「1~11」と決まっていた。それが、主に主力プレーヤーの特定のナンバーに対する愛着(先頃亡くなったヨハン・クライフが終生こだわり続けた「14」など)と、プレーヤー名をナンバーの上に縫い付ける習慣の定着によって、より扱いやすく理に適った「スクォド(チーム)ナンバー制」にほぼ完全移行した。ルール(の統一)によってそうなったのではない。便宜上「20年ほど前まで」とは言ったが、今でも一部の国の下位ディジョンでは“由緒正しい”マッチナンバー制を敷いているクラブチームもあるにはある。とはいえ、主にトップクラブ間でのプレーヤー層の増大、さらには、頻繁に出入りする外国人プレーヤーの増加などもあって、「番号=名前」のアイデンティティー確立は、ファンサービスの意味でも望ましいことなのだろう。 ▽しかし、年々進化とアレンジメントが語られるこのスポーツの戦術論、それに基づくフォーメーション論議の中にあって、“旧”マッチナンバーとそれぞれが示唆するピッチ上での役割は“健在”、かつ有用で奥深い。「役割」である。「ポジション」に限った話ではない。例えば「ナンバー6」と言うとき、それは今でいう「中盤の底」、あるいはどこぞの国辺りで“独り歩き”している感のある「ボランチ」を指す―――と、たぶん多くのファンは“即刻”理解するだろう。では、先日マンチェスター・ユナイテッドの新監督、ジョゼ・モウリーニョが宣った、こんな一節を聞けばどうだろうか。「ウェイン・ルーニーはミッドフォールダーではない」そして続けて「彼はナンバー6ではない。ましてやナンバー8でもない」。無論イメージ上の“位置”は「底」や「ボランチ」と同期するだろう。が、ジョゼ君がそんなフォーメーション図上の“置き場所”を述べているのではないのは言うまでもない。それは、この「ナンバー6」ほど適性が問われる役割だからに違いない。 ▽戦術上「ナンバー6」には他の誰よりも広い視野とそれに基づく機転が求められる。常に状況を把握し、展開を予測した位置取りを心得、スペースを意識して中盤を広く気を配る。必然的に“彼”はいついかなる時でも“そこ”にいる、いわば“軸”のような存在であるのが望ましい。端的に言って、ルーニーは動きすぎるのだ。ユーロでのイングランドを改めて振り返ってみると思い当たる節もあるはずだ。ルーニーの“動く幅”が大きいために、周囲のチームメイトが彼の位置を探す“間”にブレが出来て、流れに乗っていけないシーンが幾度もあった。ショートパス主体のどちらかといえばゆったりした戦法をとる敵ならば、それでもキズは少なくて済むかもしれない。だが、スピードとロングボールを前面に打ち出すチームを相手にしたときは・・・・。ショッキングな対アイスランド敗戦の最大の原因がそこにある。とどのつまり、ホジソンはせっかくのルーニーの能力をふいにしたどころか、適性外の重責を押し付けてしまった・・・・モウリーニョはそれを“非難”したのだ。 ▽ところで、直近でこれはと思う「ナンバー6」といえば、そう、ミラクル・レスターのエンゴロ・カンテ。初めてカンテのプレーを見たとき、筆者が真っ先に思い出したのはクロード・マケレレだったが、これは単に体型の類似だけのことなのだろうか。いずれにせよ、ざっと見渡してみてカンテ以外に、これは絵に描いたようなナンバー6だと納得がいく比較対象がはたと思いつかないのには少々愕然と・・・・(観察範囲が偏っているからかもしれないが)。そして、そのカンテがチェルシーへ移籍が決まったというニューズにはいささか耳を疑ってしまった。請われた先がバルサやレアル、バイエルンやユヴェントスというのならわかるが、チェルシーとは! レスターは勇躍チャンピオンズリーグに参戦するがチェルシーにはヨーロッパリーグ出場権すらないのである。カンテの思惑たるや、いずこに? が、裏を返せば天晴というべきかもしれない。今日日はネコも杓子も(訳知り顔の外野まで)「チャンピオンズに出るか出ないか」をキャリアアップのだしに使う時代である。そして、これは一種の連想ゲームっぽい戯言だが、モウリーニョの“影”がここにも! ▽実はこの数日間、あっと驚く移籍スクープが飛び出してくるような予感がしていたのだが、それはまだ少し先の話になりそうだ。代わりにやってきたのが、先ほど言及したジョー・アレンのストーク移籍と、サム・アラダイスのイングランド代表監督就任(ともに内定)。前者は、昨日公にされたエストニア代表キャプテン、ラグナル・クラヴァンのリヴァプール入りと関係がありそうだが、アラダイスの方は(本コラムでも触れたように)ほぼ規定事項。本決まりにしばらく手間取ったのは、サンダランドが渋っていたらしい。そしてアラダイス就任で俄然、スリーライオンズは“原点”に立ち返った再生の機運が高まりそうだ。やや穿った言い方をするなら、キーワードはまさに「アイスランドに見倣え!」。スペインの衰退ムードや、イタリアが披露したシンプル殺法とも相まって、世の流れは「ネオ・キック&ラッシュ」時代へ? おっと、その前触れはすでにレスターが“証明”してたっけ。さて、グァルディオラとモウリーニョはそこに何をどう関わってくるのだろうか。【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2016.07.21 10:35 Thu
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【東本貢司のFCUK!】ビッグ・サムへのラヴコール

▽さあて誰に一票投じるべきか、まさか“マス”つながりってだけでも縁起でもないし、あのご婦人はどうせ孤立する、するとやはり・・・・じゃなかった、話は“傷だらけ”のスリーライオンズに喝を入れる新監督の人選。実はもう大方の見立ては決まっている。多分、FAの三人委員会の腹も。こんな状態でポンとユルゲン・クリンスマンでもあるまい。グレン・ホドルは論外。仮にもここでヴェンゲル教授を担ぎ出すのは気が引ける。エディー・ハウには諸々荷が重かろう。ハリー・レドナップはFAと没交渉中。だとすればもう“ビッグ・サム”しかおらんのですよ。現サンダランド監督サム・アラダイス。ダーツの腕はプロはだし、ちょいと睨みを利かせりゃ泣く子も黙る、くわえ葉巻がお似合いの貫禄のドンそのもの。いや、そんなことはどうでもいい。アラダイスといえば知る人ぞ知るイングリッシュフットボール界きっての「再生の名人」、少なくとも短期修復はお手の物(?)。 ▽ご存知の方も少なくないと思う。彼は“その昔”、イングランド代表史上初の外国人監督、スヴェン・ゴラン・エリクソンが辞任する際、一時は後継者の最有力候補といわれ、本人もいたく乗り気だった(結局、選ばれたスティーヴ・マクラーレンはまもなく失脚した)。だが、本国のその筋の通や識者を除けば、ビッグ・サムの何たるかを述べよとの問いに、さてどれだけの人が澱みなく答えられるかといえばかなり怪しい。実は実はこのお方、存外細かく、かつ相当ネチっこい策士なのである。かつてボルトンでアラダイスの指揮下にいたケヴィン・デイヴィスの証言:「規律を絵に描いたような人。ボルトン時代、我々は彼のバイブルを熟読する義務があった」。デイヴィスのいう「バイブル」とは約25ページからなる文書でいわば「ビッグ・サム肝入りの倫理書」。あれをしてはいかん、こういうときはこうでなければならん、などの文言がビシバシ書き連ねられていたらしい。言い換えれば、そこに書かれている「掟」は絶対であり、反論など一切許されなかったともいう。 ▽しかし、そのおかげか、ビッグ・サムの下で(短期にしろ)プレミア有数の戦士に再生、もしくは成功して名を残した“そろそろ過去の人=ややトウの立ちかけた”内外のプレーヤーも少なくない。ギャリー・スピード、フェルナンド・イエロ、イヴァン・カンポ、ミチェル・サルガード、ユーリ・ジョルカエフにJ・J・オコチャ・・・・人呼んで「ワイルドカード・プレーヤー好み」の再生請負人! そうは言っても、哀しいかな、その手腕を歴史に刻み付ける勲章はない。惜しかったのは、2004年のリーグカップ決勝、屈した相手はミドゥルズブラ、その指揮官はほかでもないスティーヴ・マクラーレン! なんと、アラダイスは二度までもマクラーレンに煮え湯を飲まされたことになる。仮にもしもこのときの結果が逆の目に出ていたら、その2年後の代表監督後継人事にも反映されていた・・・・かどうかはわからない。マクラーレンがエリクソンの副官だったからには、やはり疑問だろう。それにビッグ・サムがスウェーデン人の下に就く屈辱を良しとしたはずがない。 ▽2015年の『ガーディアン』紙にこんな内容の記事が載っている。「アラダイスのチーム作りの基本は『適材適所』。それも特に、スローイン、フリーキック、コーナーキックにおいて最適の人材を鍛え上げ、もしくはリクルートする。彼は個々の能力を最大限に引き出すノウハウに長けている」―――とどのつまり、マン・マネージングの達人、誰の何たるかを見抜き、飴とムチの使い分けを心得ている、というわけ。ならばこそ、自信を根こそぎぶった切られた今のスリーライオンズに、ビッグ・サム流処方箋の効き目を期待できるという理屈である。そうなると、いくつか見えてくるものがありそうだ。ルーニーをストライカーに戻す(これはジョゼ・モウリーニョと同意見)、ケインのコーナーキッカー役を解除する、陰が薄れかけているバークリーとストーンズのエヴァートンペアに陽を当てて攻守の要役を課す・・・・などなど。いずれも、多くの識者が結果的に首を傾げ続けてきたホジソン采配へのアンチテーゼ。ビッグ・サムなら平然とそれらをやってのけられる。 ▽他にも、まさかと思いたくなる“大抜擢”も(と、アラダイスを知る識者は“勘ぐる”)。例えば、フランク・ランパード、スティーヴン・ジェラード、ジョン・テリーの復帰・・・・というのはさすがに無理筋だとしても、アンディー・キャロルの再リクルートはある、とか、中にはジャーメイン・デフォーの名前を口にする声も。それぞれ、ウェスト・ハム、サンダランドでビッグ・サムの薫陶を受けた面々だからである。ま、いずれにしても、何か面白いことが起きそうな予感が、アラダイスの“周り”に色濃く漂っているのだけは確かだ。それも、長年イングランドの“中堅以下”で采配を振るってきた経験と見識に裏打ちされているからこその説得力付き。この点はさすがにクリンスマン辺りには逆立ちしても敵わない。一度は消えた(消えかけた)才能をもってくるとなると、ヴェンゲルも躊躇するはず。となれば、今こそビッグ・サムの登場が切り札に見えてくるはず。なに、長期政権など本人とて思いの外。修復と再生が急務の今なら、答えはもう出ているはずである。 【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2016.07.15 11:45 Fri
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【東本貢司のFCUK!】持ち味をとことん突き詰めよ

▽かくしてユーロ2016準決勝2試合は、おおよそ似通ったゲーム進行とまったく同じスコアラインで完結した。双方を分かつ違いといえば、試合を決定づけたという観点においての、先に終了した方の1点目と2点目の“時間差”と、後の方が理想的な得点推移(前半終了間際と後半半ば)と言っていいだろう。が、FCUKの管理人たる筆者には、よりセンティメンタルでロマンティックな要素の方が、ことさらぶ尾を引いてしまっている。ポルトガル-ウェールズは、その“絵面”の大半が、クリスティアーノ・ロナウドとギャレス・ベイルの、多分にメロドラマっぽいライバル同士の(ある意味では“友情”といってもいい)相克だった。この僚友2名を軸に、すべての場面が始まり、紡がれ、一つの答えに行き着いた。それは、かつてのルーニーとロナウドよりも、はるかに感傷的で感動的で記憶に焼き付いた。だからこそ思う。もうしばらくの間は、苦しみながらヨーロッパ最強の座に就いたばかりのクラブで、わくわくドキドキのドラマを演じ続けてほしい、と。 ▽フランス-ドイツの方は・・・・あえて“告白”しよう。フランスがウェールズに敵を取ってくれた―――が言い過ぎなら、このFCUKの面目を決勝まで持ちこたえてくれた、と。なんとなれば、現フランス代表こそ、いわばとことん「エキゾティックなFCUK」そのものなのだから。ドイツ戦のスタメンを振り返っていただこう。この中でユムティティをマンガラに替え、ポグバとマテュイデイをカンテとカバイェ、あるいはシュネイデランに替えるだけで、グリーズマンを除けばほ~ら、あのベルギーすらも凌駕する立派なプレミア選抜軍ができあがる。エヴラは違うだろ、という無粋ないちゃもんは“あえて”無視させていただく。それに、グリーズマンについては大会前にマン・ユナイテッドが獲得の意向を示していた。合意に至っていれば文句(ほぼ)無しだったが、アトレティコに残るということは、それはそれでロナウド=ベイルと改めて切磋琢磨するということであり、FCUKの“別枠”ドラマはまだ続くのである。そういえばポグバも一応は元プレミアだ! ▽というわけで、フランス-ドイツをおさらいする。一言で片づけるのはむずかしい。何かのタイミング一つ違っていたら(ポルトガル-ウェールズ戦もそうだが)、結果は別になっていたろう。そうは言いつつも、違いを明確に印象付けたのはやはりグリーズマンということになる。なぜなら、ドイツには“グリーズマンらしき存在”が欠けていたから。ゴメスの欠場でワントップになったミュラーだが、そもそもが不調と言うしかない以上に、ただ単に(ゴメスという)型どおりの点取り屋がいなくなっただけで、何かで違いを出したことにはならなかった。そこで首をかしげるのは、あくまでざっくりとした印象だけではあるが、グリーズマン風のゲッツェを、なぜ頭から使わないのか、という心残り。フィットネスに問題があったのかもしれない。だとしても、2年前のブラジルで証明したように、不思議な運をもっている男である。これはひょっとして、ゲッツェはレーヴの描くゲームプランにフィットしないのだろうか。ブラジルでもスーパーサブだったことを思えば。 ▽他にも、フメルスの不在は思った以上に大きかったようだ。復調したシュヴァイシュタイガー(ユナイテッドに残るのかな?)や常に頼れるクロースとエジルらで、中盤は十分に対応でき、優位を築くことも多かったが、自陣ヴァイタリエリアに侵入されたが最後、ディフェンスラインの右往左往ぶりは結局致命傷になった。これは、ベン・ディヴィスの累積欠場が重くのしかかったウェールズにも通じる。最近は所属のウェスト・ハムでもめっきり出番の減った老練コリンズには、やはり荷が重かったというべきだろうか。DFの控えの確保は何よりもむずかしい。とっかえひっかえでは守備の統率がぎくしゃくするゆえ、可能な限り固定しておくのが最善。やはり、ここの、特にセンターバック陣の層の厚い薄いが、勝率アップの最大のカギなのだろう。つまり、ウェールズとドイツはこの二点、絶対的な“シャドウポイントゲッター”の不在とディフェンスの質的“降下”に泣いて、フランスを去ることになったのだと思う・・・・あゝ、でもこんな分析ってやはりつまらない! ▽技術的、戦術的云々のあれこれは(筆者にしてみれば)どこまでも空疎に聞こえてくるのだ。ハリルホジッチは「ベルギーはドリブルしかないのか」と切って捨てたそうだが、それならそれでいいじゃないですか。ドリブルの巧みなプレーヤーたちがドリブルを駆使して華々しく勝つ、あるいは敵に上手くしてやられて負ける。どちらに転ぶかは所詮、時の運。勝つだけがフットボールじゃない。そういう、特色見目麗しく、また吹っ切れたチームが存在してこそ、このスポーツはさらに“進化”していくんじゃありませんか? どこもかしこもショートパスとアーリーチェックばっかのポゼッションフットボールをやって、何が面白い? そういう“勝ち目時流”の(筆者には退屈な)戦術居士の鼻を明かすのが何よりの醍醐味でしょうが。ベルギーの“ドリブル主体高速散開”だとか、アイスランドの正統派キック&ラッシュだとか、北アイルランドの全員ボックス・トゥ・ボックス作戦だとか。それを思えば、ホジソン・イングランドはどっちつかずの中途半端な無策で無残に敗れ去ったのです。柄にもないことを真似たっていいことなんてロクにないんだから!【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2016.07.08 11:51 Fri
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【東本貢司のFCUK!】歴史的事件、また歴史的事件

▽ユーロ2016本大会・グループリーグでどこかまどろっこしい印象を残した優勝候補トップ3が、この日曜日に揃って貫禄の快勝。特にフランスとベルギーは、それぞれ要の小兵スーパーエース、グリーズマンとアザールが目の覚めるような本領発揮で、地元ファンの枠を超えて大いにその存在を示した。締めくくりのマルセイユでは、敗れたハンガリーのサポーターまでアザールに盛大な喝采を送っていたほどだ。FCUKの管理人としても、プレミア所属のスターが大半を占めるベルギーの覚醒は小躍りするほど嬉しい。あゝ、でも次はウェールズと当たるのか。なんたる皮肉なめぐり合わせ。そしてイングランドは明日のアイスランド戦に勝てば、雨降って(アイルランドに早々の失点を許した)地固まったフランスと。詮無いことだが、この4チームのラスト4が見たかったところだが・・・・。 ▽アイルランドも健闘した。もうダメかと肩を落としかけたグループリーグ最終戦で起死回生のイタリア撃破(1994年W杯グループリーグの興奮をつい思い出す)。そして今、タレント有り余るホスト国をも立派に苦しめた。Hail to the Irish spirit! そう、北アイルランドだってウェールズとほぼ互角に渡り合った。コールマン(ウェールズ監督)が「内容ではうちが負けていた」とお世辞抜きに認めたほどに。さて、お気づきだったろうか。ウェールズ-北アイルランド戦を仕切った審判団が「イングランドのセット」だったことを。たまたまだったのか? いや、あえて粋な計らいだったと決めつけさせてもらおう。なぜなら、もしグループBの一位が入れ替わっていたら、北アイルランドの相手はイングランドになっていたはずなのだから。かくてあの日、パルク・デ・プランスがほぼ何から何までが「UKカラー」で染められていたという、歴史的事件が紡がれたのである。 ▽それはもう、いとおしくも、身を切られるような2時間余だった。文句なしに今大会有数のハイライトマッチ。明日のイタリア-スペイン戦なんて目じゃないぜ! しかも、あゝなんという劇的でほろ苦い幕切れの余韻。だからこそ、「北」の大黒柱、ギャレス・マコーリーを責める人などどこにもいない。なんとなれば、彼は敵方の大黒柱、もうひとりのギャレスの、渾身のクロスに真っ向から立ち向かった結果だったのだ。カスカートでもジョニー・エヴァンズでもなく、そこにいたのがマコーリーだったことをむしろ誇りに思うべきなのだ。負けては何もならない、などと今更言うなかれ。そう、多分人生最高のスーパーバイシクルゴールを決めながら、よりにもよって“理不尽”極まりないPK戦に屈してフランスを後にするシャチリの胸の内を思うべし。シャチリもプレミアなら、唯一PKを外す不運に身を焦がしたのも、アーセナル入りが決まっているジャカだったのだから。 ▽FCUK流の想いはさらに天を駆ける。ウェールズ-北アイルランド戦と相前後して、あの歴史的国民投票の一部始終がニュースソースを席捲していた。思い出していただきたい。「残留か離脱か」を問う国民投票の帰趨を示したブリテン島/アイルランド島の、あまりにもシンボリックな地図を。あくまでも“大勢”としての色分けだとしても、そこにはくっきりと、今回のユーロにつながる不思議な縁故が映し出されていたではないか。すなわち、英国圏勢で唯一ユーロ本大会出場を逃したスコットランドと、敢然とEU離脱にほぼ心を一つにしたスコットランド。実際の関連など何もない。ただの偶然。それでも、筆者の埒もない夢想は直ちに明快な形をとってしまっていた。さて、果たして「どちらが勝ち」なのか。いや「何が勝ち」なのか。どうです、皆さん。いずれ、このEU脱退はUK、特にイングランドのフットボール界にも余波が及んでくるはず。だとすれば、もしもスコットランド独立(=単独EU加盟)が成った日には、外国人流入の潮目が変わるのかも? ▽すると、例えば、「今の内に」の機運が一気に燃え上がるかもしれない。「2年」が過ぎるまでに、プレミアのクラブ、プレミア昇格を目指すクラブは、先を争って、即戦力か否かを問わず、これまで以上に異邦の助っ人獲得の拍車をかけるかもしれない。一方で、高騰必至の“資金”調達を旨に、海外からのミリオネア・オーナーシップが、これから激増するかもしれない。いや、それとも・・・・イングランドはこの“孤立”を時代の運命と見切り、国産の才能発掘・開発に向かっていくかもしれない。ならば、ひょっとしたら、今大会のイングランド代表の成果、成績が、その追い風になる、はたまた「しばらくの様子見」に腰を落とす・・・・いずれかの道を占う歴史的な「事実」として刻まれていく可能性なきにしもあらず。さあて、大会終了後に一体何が起きて何が起きないのか。個人的“妄想”の中に浮かび上がる名前は・・・・ミリク、ペリシッチ、ゾマー、コノプリャンカ、ナジ、コマン、バチュアイ、それにもちろんグリーズマン・・・・。この中に「当たり」はあるだろうか。 【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2016.06.27 22:00 Mon
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【東本貢司のFCUK!】FCUK“最良の日”の感動

▽FCUKの管理人ならばこそ、この“良きお日柄”には正直「スピーチレス」、つまり言葉もない。まず、我らがイングランドの「すんばらしくカッコいい」勝ち方(相手がウェールズでなければもっと良かったが)。第一戦、勝利目前でロシアに追いつかれてしまった“負けに等しい”ショックを払しょくして余りあるものがあった。そして、ロシア戦では見ている方がいじいじさせられたロイ・ホジソンの“消極起用法”すらも、このウェールズ戦では逆転の大ヒットでほぼ帳消しに。すなわち、ハーフタイム明けに大胆にも揃って投入されたヴァーディーとスタリッジが、同点、逆転決勝弾を決めるという、およそ出来過ぎた筋書き。第一戦に続いてパットとしないケイン、早くもお疲れ様子のスターリング――という、おあつらえ向きの伏線があったとはいえ、それがまんまと大当たりするのだから喜びも倍加するというものだ。さて、スロヴァキア戦の先発はどうするのかな? ▽これでイングランドはスロヴァキア戦を引き分けで収めれば良くなったことになるが、だとするとウェールズは最終戦を勝ち切らねばならなくなる。ロシアも一縷の望みをかけてぶつかってくるだろうから、相当な死闘になるのは必定。このグループはまだ紛れがありそうで、突っ込んで語るのは20日以降にしよう。それよりも、なんたって北アイルランドだ。難敵ウクライナをこんな形でやっつけてしまうとは、果たして誰が予想しただろうか。一時は雹までが地を叩く悪天候が、タフネス頼みのスピリットが勝る北アイルランドに味方したと察せなくもないが、ウクライナもウクライナでミドルシュートに頼り過ぎたきらいもあったと思う。だが、やはりここでも、ひたむきさと無類の運動量では人後に落ちない新鋭、コナー・ワシントンを、あえて先発ワントップに送り出した監督マイクル・オニールの策が当たったと評価したい。トップレベルでの実績ほぼゼロのワシントンに引っ張られるように全軍が飽くことなくボールを追い続けたことが、感動の結末に昇華したのだ。 ▽もう少し、オニール監督の“工夫”に踏み込んで振り返ってみよう。マコーリー、J・エヴァンズ、カスカートにマクネア、そして守備的MFのように見えるが実は本来右SBが本職のベアードまで揃えた「ディフェンス志向」は、結局、バランス抜群の試合巧者で体格で優るポーランドに通じなかった。いや、通じなかった訳ではないが、守勢一方に押しまくられた。そこで試合後、オニールは真っ先に「わが軍はもっとポジティヴにならなければならない」と述べ、その通りにこのウクライナ戦では攻守の要、スティーヴン・デイヴィスが意欲的に前線に侵入、マクネアに替わってスタートしたリーズの元気者ダラスが盛んにシュート性のボールを放って機先を制する役目を果たした。実は、前半の半ば過ぎ、ダラスの覇気と積極性を見てついつい「ダラスの熱い日」という見出し候補が頭に浮かんだほどだ。そして、どうしてもワントップのタワー役として前線に孤立しがちなラファティーではなく、タフですばしっこく小回りの利くワシントンがさらにかき回すという趣向。 ▽やはり、北アイルランドの良さは、自ら動いて前へ前へのリズムを作ることで全軍が躍動してこそなのだと、この試合で思い知らされた次第。思えば、ハンガリーらテクニックで優るチームをねじ伏せて、予選グループをトップ通過したのも、常に一歩も引かない攻守の積極性あってだった。すなわち、ユーロ初出場の晴れの舞台、その緒戦を、彼らは大事にし過ぎたのだろう。それに気づいて吹っ切れ(もちろん、2連敗は是が非でも避けんがため)、しゃにむに走ってボールを追う最大の武器をぶつけた果実が、目の覚めるような感動的・対ウクライナ快勝に結び付いたのだ。しかも、一時間後にスタートしたドイツ-ポーランドが無得点ドローに終わった結果、グループリーグ突破の希望はさらに膨らんだ。あえて「北ア贔屓」の立場で考えれば、ウクライナにもけっこう手こずり、ポーランド戦がどこか“なまくら”に見えた今のドイツなら、けっこう対等に戦えるのではないか――なんていう期待も膨らむ。向こうも「北ア」を「厄介な相手だなぁ」と思ってるかも? ▽さて、ここで一つ、筆者ならでは(?)のメッセージを。結果的に惨敗を喫し、2連敗となってグループリーグ敗退がほぼ決まったウクライナ・イレヴンが、うなだれてサポーター席に三々五々歩み寄ったときのこと。そのとき、スタンドを黄色で染めたウクライナのファンはどう応えたか。清々しいほどの笑顔と心からのねぎらいの拍手・・・・間違っても期待を裏切った悔しさ、うっ憤をぶつける罵声などはみじんもなかった。いや、これはウクライナに限った話ではない(多分、優勝できなければ出場しない方がよかった、などと変に凝り固まる傾向にあるブラジル辺りは別にして?)。以前のJリーグで毎度のように見られた、まるで裏切者の敗者を鞭打つような弾劾裁判もどきのシーン・・・・かねてより筆者は「なんと思い上がった、似非サポーター的悪弊か」と批判してきた、あの醜態。ある人はそれを「日本的」だからと言い訳めかして擁護したものだが、是非この機会に喚起させて欲しい。そんな「日本的」なら要らない。負け方がどうあろうと、たとえ不本意で不甲斐ないパフォーマンス健闘を讃えるハートを持たずに何がサポーターだろうか。いかが?【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2016.06.17 09:32 Fri
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