コラム

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【東本貢司のFCUK!】期待感が“値動き”を動かす

▽開幕して各チーム2試合を消化―――この時点でどうこう“占う”根拠もなければ、そんな権利も(誰にも)ない。例えば開幕戦の白眉、アーセナルvsリヴァプールを振り返ってみよう。スコアは「3-4」。派手な点の取り合いに見えるが、実際はアウェイのレッズが終始余裕のリードを保ち、ホームチームが遅まきながら終盤に意地を見せる経緯をたどった。一言で片づけるならリヴァプールの「快勝」。だが、そのリヴァプールは続く第二戦で昇格仕立てのバーンリーに無得点の完敗、一方のアーセナルは王者レスターとスコアレスドロー。そこで、両者ともディフェンスに難あり、一転して決め手に乏しい問題をさらけ出した・・・・とまあ、近視眼的に評価すればそういうことになるのだろうが、そんなものは、たかが2試合の結果をもとに何か書かねばならないマッチリポーターの物言いに過ぎない。両監督の事後コメントも取り立てて「何とかしなけりゃ」なる印象もない・・・・。 ▽と思いきや、その後漏れ出してきたニューズソースからは、ルーカス・ペレス(FW:ラ・コルーニャ)の入団「ほぼ内定」と、シュコドラン・ムスタフィ(DF:ヴァレンシア)獲得への「交渉進展」が―――しかも、両人ともに想定内の予算を超える出費を強いられる見込みである。筆者にはそれが「焦って無理をしている」ようにも受け取れてしまう。ひいては、さしものアーセン・ヴェンゲルの「信念と余裕」も揺らいでいると言えなくもない。ほんの一週間ほど前、クラブ運営責任者(ガジディス)は「(補強に関して)金額の勝負になればウチに勝ち目はない」と“白旗”を上げた。にもかかわらず、エヴァートンと競合になってもルーカス獲得にこだわり、ムスタフィはかねてよりの狙い目だったとはいえ足元を見られた格好で、超過出費に踏み切る構えなのは・・・・「もう(アーセナルのヴェンゲルには)あまり後がない」という、もっと切実な問題につながっていくのだ。それにルーカスとムスタフィで“間に合う”のかという、いささか“気難しい”問題も残る。 ▽その点、マンチェスターの両雄は「かなり早い段階で(優勝への)一騎討ち状態になりそう」との前評判通り、ほぼ順風満帆のスタートダッシュ。ここで確認しておくべきは、ともに一切手をこまねくことなく、補強作戦をほぼ予定通りにすんなりと遂行してしまったことである。要するに、ライバルたちの(補強)状況を秤にかけながらとか、オフのフレンドリーなどで現有戦力をじっくり検分してからとか、などの“勿体つけ”が無い。さっさと申し入れ、さっさと決めてしまう。それに、ルーカスとムスタフィには悪いが、「イブラヒモヴィッチとポグバ」と比べられては相当に分が悪い。ふと思ったのだが、そこには株式市場の値動きに似たものがないだろうか。「期待感」とは、ある意味で「実に安易な印象」によって大きく左右されるものだとすれば、当然、ユナイテッド株(の上昇)にも影響はあったはず。しかも、コミュニティーシールドを含む3試合でズラタンが4ゴール、ポグバも1試合ながら違いを見せつけた、となれば、これはもうお祭り状態になる。 ▽シティーも抜かりがない点では負けていない。ノリートにストーンズ、そして契約の時期こそズレ込んだとはいえ、ブラヴォーと、グアルディオラの“戦略”に澱みなどなくあっさりと使命完了。その一方で“余計な"チャンピオンズ予備戦2試合も楽々と片づけるなど、ここまでほとんど危なげがない。願わくは、ストーンズとともにデルフをツブしてしまうことなど無きように。今、ユナイテッドとシティーにはちょうど似通った“疵”が見えている。シュヴァインシュタイガーとハートだ。あと1週間でどんなドラマが起きるやも(起きないかも)しれないが、ジョゼとペップから事実上の戦力外通告を受けた二人の今後が、ひょっとしたらだが、ユナイテッド/シティーの“足を(少しは)引っ張る”情動的要素になり得るかも・・・・いや、それはさすがに考え過ぎか。どうも、戦力比較や戦術ベースの「将の器」辺りで比べてしまうのがつまらなくてね! 今だけのセンティメンタルな“妙味”エピソードと受け取っていただこう。まともな予想ほど退屈なものはない。 ▽折しも、チャンピオンズ/グループリーグのドロー結果が出てきた。ユナイテッドもチェルシーも(そして相変わらずリヴァプールも)不在の、それ以外は大して代わり映えのしないチャンピオンズだが、総じて特別「死の・・・・」の肩書がつくエリアも見当たらない。アーセナルに初見参のレスターも、スパーズも、大して文句のない顔ぶれに混じって戦うことになる。強いて言えば、シティーとバルサの呉越同舟、そこにブレンダン・ロジャーズのセルティックが絡む絵面に、いつもとは味わいが異なる興趣が湧く。そう言えば、シティーとセルティックはともにプレーオフ(予備戦)を突破した者同士。ならば、セルティックと復活気配のボルシアMGが波乱を演出することで、何かが“動く”。ここ数年、ついつい思い願ってしまうのは、今度こそ、パルサ、レアル、バイエルン、アトレティコの名前が(せめてその内2つが)「ラスト4」から消えてくれないかなぁ、と(笑)。【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2016.08.26 13:20 Fri
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【東本貢司のFCUK!】真っ当なクラブ経営の危機

▽新シーズン開幕戦最大の目玉、アーセナル-リヴァプールの一戦は“大変に”示唆の多い試合だった。手っ取り早く言えば、両軍ともに「攻撃力は有望、守備大いに不安」。状況を振り返ればさにあらんと言うべきだが、それにしてもこれほど「期待と課題」がもろにあぶりだされたゲームも珍しい。まだあと2週間開いている“移籍の窓”がどんな効果をもたらすのか、あるいはもたらさないのか、関係者にとって悩ましいところだろうか。と言うのも、近年のファンは補強について過度に敏感だからだ。つまり、補強が進まない、物足りない、思わしくないと見るや、眉をしかめる、騒がしくブーたれる、果ては指導陣の資質を(悪しざまに)問う。まるで、満足のいく補強が進められない監督は無能だと言わんばかりに。これについては現地識者からも憂慮する声が止まらない。そう、「有望な補強ができれば一安心」なる考え方がいかに空疎かという“現実”をまだわかっていない。 ▽特にアーセナルのファンが今一度胸に手を当てて忖度すべきなのは、今アーセン・ヴェンゲルを仮に追い出したところでいったい何が好転するかという、肝心要の、しかもシンプルこの上ない命題である。誰がヴェンゲルに代わってエミレイツのホットシートに座ろうと、それで「補強が思うように進まない」という問題が即解決するとでも思っているのだろうか。こんなことを言うと、それは他のクラブでだってよくあることだろうと突っ込まれるかもしれない。だが、どうやらそれは違うようなのだ。アーセナルの場合、それはほとんどヤケッパチの雑音、悲鳴にすら聞こえてくる。例えば、アレックス・ファーガソンはあれほど長期政権を維持して数えきれないほどタイトルをもたらしたが、ヴェンゲルのそれは数ではるかに物足りない、じゃあもうそろそろ・・・・とまあ、要するに文字通りの愚痴なのだ。ご存じだろうか。昨シーズン、百年の一度あるかないかの珍事だからこの際レスターに優勝させてやっても、と本気で考えていたガナーズファンがかなりいたことを。 ▽一種の「ルーティン」と言ってもいい。誇りと自虐がない交ぜになった定番のグチっぽさというルーティン。よって、周りが訝るほどには“彼ら(の大半) ”もヴェンゲルに「飽きている」わけでもない。近年でいえば、エジル、カソーラ、サンチェス(の獲得)は成功の部類なのだから「引き続き頼むぞ」というアピールである。ところが、時代がそれを何かと拒み続けているのがネックなのだ。例えば直近では、他と競合の噂もない、狙いすましたラカゼットも、昨今の移籍金異常高騰事情に乗っかろうと欲をかいた(?)リヨンに待ったをかけられる。そんなじれったさ、もどかしさを、ファンは痛いほどわかっている。どんなチームを作るかという以前に、カネですべてが決められてしまうという虚しさとやり場のなさ。CEOのカジディスは早々に宣言したではないか。「カネで張り合える(財)力はない」とは、言葉を変えれば「そんなあざとい意地を張ってまで」というプライドの証なのかもしれない。そしてそれをファンも理解している。だから「辛い」のだ。 ▽チャンピオンシップ(2部)の「この先よほど頑張って戦力強化をしなければ(プレミア昇格は)むずかしい」クラブにすら、海外資本が続々と“たかる”ご時世である。アーセナルがその気になれば、世界有数の資金バックアッパーに事欠くはずがない。だが、それを良しとしないのが「ヴェンゲル流」もしくは、ヴェンゲルに全幅の信頼を置くクラブ運営ポリシーだということだ。つまり、コアなファンの一部は「それでどうにもならないんなら“悪魔"に魂を売っちゃえよ」(つまりは「脱ヴェンゲル・緊急“暴"義」)と“ヤジ”を飛ばしているのだと考えられないか。ホーム開幕戦でリヴァプールに4点も取られたのは、表面的には「期待はずれの若造の新参者に任せるしかなかったせい」だと受け止められている。しかし、コシェルニーは近々戻ってくるし、メルテザッカーもいずれ復帰する。いや、それ以前にチェンバーズとホールディングの急造若手CBコンビは言うほど悪くもなかった。しかも4-1を4-3まで盛り返した攻撃陣も反発力は明るい収穫だった。マイナス面よりもプラス面を見よという教訓がここにある。なにせまだ開幕戦なのだ。 ▽一つ、間違いのない事実を言うなら、少なくともアーセナルではヴェンゲルと運営陣が一心同体であり、目指す道へブレずに邁進していく大きな原動力となっている。では、リヴァプールはどうか。気になるのは、ベンテケの処遇についてだ。クロップは戦力外志向。そこへクリスタル・パレスが思い切った額を提示してきた。普通はそれで話が動く。ところが、移籍金額の一部が「ボーナス査定扱い」だからダメだって? なんだ、それ。監督は放出にゴーサインを出しているのに、クラブは妙な理屈をこねて出し渋る。パレスの戦力強化が嫌だとでも? ベンテケ自身のキャリアなど一切お構いなしなのか? とんだ“カネ主導時代”の茶番ではないか。こんなセコい考え方をするクラブに明日があっていいものなのかと天を仰ぎたくなるのは筆者だけだろうか。真っ当なクラブ経営が報われない時代になっているのだとしたら、真にメスを入れる必要がどこにあるのかわかろうというものだ。今後の2週間、何がどう動くかにもよるが、少なくとも現時点ではアーセナルに肩入れしたくなっている自分がいる。そうだ、頑張れよヴェンゲル、そして、そう、監督肝入りの新戦力たち、ジャカ、ホールディング、あるいはまだ見ぬ新ガナーたちよ! 【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2016.08.17 13:30 Wed
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【東本貢司のFCUK!】“経済操作的”移籍に警鐘を

▽意外に知られていないようだが、マンチェスター・ユナイテッドの“聖地”オールド・トラッフォードの正確な立地は、マンチェスター市に隣接するサルフォード市内である(サルフォードなどのマンチェスター市周辺の衛星都市をひっくるめて「グレイター・マンチェスター」と呼ぶことから)。さて、そのサルフォード大学・スポーツビジネスセンターがこのほど「ある研究成果」を発表した。曰く「ズラタン・イブラヒモヴィッチとポール・ポグバの加入は、ユナイテッドにとって『+勝ち点10』の価値がある」。同センターの統計学者たちが独自に設計製作した「SAM」(“スポーツ分析機”)がはじき出した「統計データ分析」によるもので、二人の加入はユナイテッドのリーグ優勝確率を「4%」アップさせる効果が期待できるのだという。ちなみに一連の研究データは、新シーズンの全フィクスチャー(対戦カード)を元に「SAM」で1万回以上計算した上での結果だとか。 ▽昨シーズン、パリSG所属のイブラヒモヴィッチはフランス・リーグ1で「38ゴール」をマークしたが、SAMの予測によると、これは「8ポイント加算」の計算になるという。一方、ユヴェントスで昨シーズン、ポグバが記録した「13アシスト」は「1.3ポイント」。合計「(約)10ポイント」という訳だ。これを単純に昨シーズンのプレミアに当てはめると、ユナイテッドは5位から2位に上がる計算になる。ここには、二人にかかった「コスト」も加味されているらしく、タダ(フリートランスファー)のイブラヒモヴィッチは、史上最高額(8900万ポンド)についたポグバよりもはるかに「効率が良い」貢献度を果たすという次第。ただし「ポグバの値段が高すぎるという説も多いが、将来性を考えれば十分に元が取れるはず」だそうだ。言うまでもないことだが「SAMの試算はホーム/アウェイ、対戦相手の実力と近年の成績、起こり得る不調や故障などの不測データまで組み込んだ結果」。「すべて純粋な数のデータとアルゴリズムによるもので、それ以外の情緒的要素など一切ない」と同センターのイアン・マクヘイル/スポーツ分析学教授は胸を張る。 ▽なるほど、まさか二人が何等かの事由でほとんど出場が叶わなかった場合まで計算に入っているとは思えないから、基本的には「信じよう」。ただ、この統計学というしろものはどうも胡散臭い。あのリーマン・ショックだって、この手の“統計数学”による複雑な債券操作が引き起こしたんじゃなかったっけ? 要するに問題は、昨今の急速なIT技術と統計学的金融錬金術が結びついた挙句、現代社会経済はその勿体つけた予測データに振り回されているということなんじゃ? 裏を返せば、ポグバの移籍の真の(では言い過ぎなら「大半の」)目論みとは、スポンサーシップ拡張とそれに伴う株価操作なんじゃないだろうか。つまりは「情緒的効果」ということにならないか? 純粋に数字データを“京”だか何だかクラスのスーパーコンピューターにかけた上での「予測」が、結局は人の欲望をくすぐり、始末に負えないどころではないカオスをもたらしてしまう・・・・。結果的に人間は自分たちがコントロールしているつもりの「データ」に操られるだけのような気も。 ▽ひょっとしたら、ポグバの「分不相応な移籍金」に警鐘を鳴らす声(アーセン・ヴェンゲル、ポール・スコールズ他)には、単に「過大評価」云々にとどまらない、いわば、いずれこの手の「経済操作的評価」が、これまでにも増して当たり前のように幅を利かすことへの不安を(無意識にも)代弁しているのではなかろうか。要するに“逆”あゝ、ヴェンゲルの、そしてアーセナルの“金庫番”ガジディスCEOの“現実的”な弱音、嘆きもさにあらん。ヴァーディーに、マーレズに、ラカゼットにそっぽを向かれ、サンチェスはコパアメリカで負傷、コシェルニーはユーロ疲れ、メルテザッカーがしばらくリタイア、ガブリエルまで8週間の負傷で、いざ穴埋めをしようにも「ふっかけられる額」が見合わない、などなど八方ふさがりも同然。チェルシーはカンテを、シティーはストーンズを、そしてユナイテッドは・・・・ときては、法外な「経済操作的」カネ太り補強に愚痴の一つも言いたくなるというものだろう。そのせいかどうかはともかく、ヴェンゲル自身から「自身の将来」に黄信号をほのめかす“つぶやき”まで・・・・。 ▽ところで、プレミア開幕は目前の今週末だが、チャンピオンシップ(2部)やスコティッシュプレミアは一足先にスタートして各1試合を消化している。前者では降格組のノリッチは快勝したが、アストン・ヴィラとニューカッスルは黒星スタート、後者の最大の目玉、復活レインジャーズはリーグ開幕戦こそハミルトンに引き分けたが、リーグカップでは大勝を飾った。新加入、おなじみジョーイ・バートン、ニコ・クラニチャールが殊の外元気いっぱいのようで、4年ぶりの本舞台でけっこう暴れてくれそうだ。ユーロで唯一“蚊帳の外”に置かれたりして、しばらく火が消えた状態のスコットランドに、ガツンと活を入れて大いに盛り上げて欲しいものである。今後も「レインジャーズ中心」に見守りたい。 【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2016.08.11 13:00 Thu
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【東本貢司のFCUK!】絵に描いた餅と“脱”カネ太り

▽「GBチーム」が男女とも出場しないこともあるにはあるが、目前に開幕を控えたブラジル五輪にはどうも血が騒がない。理由の一端は開催地そのものが抱える問題に他ならない。一説にはブラジル国民の半数が、この期に及んでも開催に反対しているというし、2年前のワールドカップでも直前までニューズを騒がせた各種デモが、今回さらに激化しているとも伝えられる。選手宿舎にまつわる不祥事(窃盗事件、設備の不備など)も前代未聞の汚点。そこに輪をかけるような、ロシアの「国家ぐるみのドラッグ摂取事件」。思うにこの一連の暗雲は、昨今の世界政治経済を悩ませ続けている根源的課題と共通するものがないだろうか。行き過ぎたグローバリズム、グローバリゼイション。その昔、大国がくしゃみをすれば小国が風邪をひく、と言われたものだが、今やそんなジョークめいた表現では済まないのが現実。世界がともに手を組んで、という理想など絵に描いた餅も同然だろう。 ▽もう少し視点を絞ってみよう。フットボール界で言えば、グローバリズムの絵に描いた餅とはまさしくホスト国の“開拓志向”そのものだろう。アフリカ(南アフリカ)に続いてロシア、中東(カタール)と、世界地図を埋めていくがごとくの八方美人ぶりは、上辺は崇高に映っても、現実が、時代がさっぱり追いついてくれそうにないのはもはや自明の理。もうとっくにわかってしかるべきなのだ。ワールドカップやオリンピックで潤う(もしくは、潤うだろうと期待できる)のは、開催統括機構と参入スポンサー企業だけなのであり、大げさな言い方をすれば、閉幕後の開催国(都市)に残されるのはそれまで以上に深刻な経済不況でしかない。この悩ましい問題をなんとか工夫をこらして乗り越え、吉(の種)としよう―――にも、おそらく復興などもはや及びもつかない世界経済の荒廃の前には太刀打ちできそうにない。せめて「コンパクトな」をその言葉通りに実行すれば救いもあろうが、どこかの国の“公約違反”とその醜いドタバタ劇を見る限り、まさに絵に描いた餅。 ▽もっと端的に総括しよう。もはや新しいパイは作れない、既存のパイの拡大化、飾りつけすらできない(許されない)時代なのだ。持てる者の利益追求はそのまま持てない者の貧困拡大に反映される。いわゆるトリクルダウンなど到底望むべくもない。その一つの縮図がここにある。イングリッシュ・プレミアシップ、つまりプレミアリーグ。「法外」という言葉自らが呆れるような「超高給」で次々に一部のプレーヤーを釣り上げていく(というより、そうするしかない)ために、資金需要の高騰たるや天井知らず。よって、世界の限られた億万長者グループが引き寄せられ、また“彼ら”自身も「現代最高の堅実に儲かる投資物件」として喜々としていそいそと手を上げ、乗り込んでくる。それでも、ファンサービス中で一番大切な入場料は下がるどころか上がる一方であり、少しでも歳入を増やすべく、世界中の企業に広告主募集のお触れを出す。思いっきり意地の悪い見方をすれば、プレミアおよび一部他国のビッグクラブにカネが集まるシステムが出来上がっているのだ。 ▽いや、そちらの方の“拡大化”は際限なく進んでいる。例えば、アストン・ヴィラの降格によって宿敵バーミンガムとウルヴズが久しぶりにチャンピオンシップ(2部)で同舟することになったが、なんとこの名門3クラブのいずれもが中国資本のバックアップに頼っている。中東の巨大資本(マン・シティー、バルサ、パリSGなど)ほど「湯水のごとく」となるかどうかはわからないが、“プレミアの美味しい水”目当ての予備軍クラブにすら、カネが吸い寄せられていく時代なのである。ちなみに、チャンピオンシップ事情に詳しい某現地識者の予測によると「このミッドランズ3大名門が来季のプレミア復帰を目指すにはまだ力不足。一番手は、数少ない国内資本で支えられているニューカッスル」だとか。多分、現時点での戦力比較によるきわめて真っ当な分析なのだろう。が、それでもなお、筆者にはこの識者の“強い願い”と反・行き過ぎた商業主義に対するメッセージを感じてしまうのだ。それはまた、ポグバの法外な移籍金に対する“幻滅”ともリンクしている。 ▽最新のニューズによると“彼”はユーヴェ残留を希望しているという。あえて穿ちすぎな感想を言うなら、ポール・スコールズやアーセン・ヴェンゲルが眉をしかめる「それほどの価値はない」に、少々気が引けたのかもしれない。そんな“プレッシャー”を背負ってまで、かつて自分を捨てたクラブでプレーすることもない、と思ったのかもしれない。そこではたと嫌な発想が頭をよぎる。さて、EU脱退に踏み切った背景事情に、われ関せずと際限なく札束が乱れ飛ぶプレミアの“活況”は何らかの影響を及ぼしたのだろうか、と。それを考えると、もはや「ミラクル・レスター(の再現)」が世を騒がせることなどあり得ない? いいや、だからこそ「あって」欲しい。こんな時代だからこそ「カネで成功は買えない」を再び世に示してほしい。さて、そんな快挙を成しえるクラブがあるかと言えば・・・・そうだ、復帰したデイヴィッド・モイーズ率いるサンダランドなどいかがだろうか。 【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2016.08.04 09:30 Thu
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【東本貢司のFCUK!】母国の復権への壮大な計画?!

▽今シーズンから“ローンチ”される「プレミアリーグ2」。実質的にはこれまでの「U21リーグ」に“オーバーエイジ枠”を加えただけのようにも見え、オーバーエイジの定義も「23歳」でフィールドプレーヤー3名まで+ゴールキーパーといたって“控えめ”。が、どうやらこの“新機軸”に対する期待度といったら並大抵ではないようなのだ。参加するのは全24チームで、プレミアから15、チャンピオンシップ(2部)から9。それぞれ12チーム二部制で行われる。内訳は(アルファベット順に)ディヴィジョン1がアーセナル、チェルシー、ダービー、エヴァートン、レスター、リヴァプール、マン・シティー、マン・ユナイテッド、レディング、サウサンプトン、サンダランド、トテナム、ディヴィジョン2にはアストン・ヴィラ、ブラックバーン、ブライトン、フルアム、ミドゥルズブラ、ニューカッスル、ノリッチ、スウォンジー、ストーク、WBA、ウェスト・ハム、ウルヴズが入る。計算が合わない? お忘れなく。これはあくまで“二軍”がベースの新リーグなのだ。ちなみに、旧U21リーグ“最後”のチャンピオンはマンチェスター・ユナイテッド。 ▽各チーム、ホーム&アウェイで合計22試合を戦い、ディヴィジョン1の下位2チームが自動的に降格。一方、ディヴィジョン2では優勝チームが昇格、2位、3位、4位、5位がもう一つの昇格枠を争うプレーオフに臨む。ディジョン2からの降格はない。現状の見通しでは、過去4シーズンで3度(U21リーグの)優勝をさらったマン・ユナイテッドが本命、対抗は2013-14の覇者チェルシー。チェルシーはFAユースカップを三連覇中、またUEFAユースリーグも連覇している。さて、このユースリーグ“改変”のキモは、冒頭に触れた「オーバーエイジ枠」。ファーストチームでの経験がそこそこ豊富な22、23歳のプレーヤーが加わることで、今や異邦の助っ人全盛の現プレミアとの実質的リンクを強化し、若手国産プレーヤーを引き上げる一助と成すのが最大の狙いだ。無論、ゲーム数の増加に伴う実戦経験を増やす意味もある。要するに、近年、毎度のように優勝候補と言われながら、成績芳しからざるスリーライオンズ(イングランド代表)に喝を入れようという算段。おそらくは、先ごろ新監督にサム・アラダイスを指名したこととも密接に関連していよう。 ▽このユース強化一大プラン、実はこれだけにとどまらない。各クラブのユースチームには新たにリーグカップ(年度恒例のプレミアから4部までのプロ92チームによるトーナメント)に、EFLカップ(同3部と4部の全48チームによるトーナメント)にも、参加の道が開かれることになったのだ。もちろん、だからといってこれらにすべて参加するとなると、さすがにプレーヤーフィットネスは言うまでもなく、各クラブサイドの管理も大変になる。プランの骨子が「ユース強化=プレミアの国産化/世代交代推進」なのだからして、闇雲にゲーム数を増やすことが支障をきたすことは明らか。どのクラブとて、一軍(プレミア)は即戦力外国人中心でやっていけばいいなどとは考えていないはず。現に、早速EFLカップ(イニシャルプランは全64チームで開催)の“招待”辞退が相次いでいる。具体的にはアーセナル、マン・シティー、マン・ユナイテッド、トテナム、ニューカッスル以下、ノリッチ、ブライトン、ダービー、ウルヴズ、ブラックバーン、レディングまで、辞退を表明している。ざっと見て、層の厚い薄いだけの問題ではないと察せられるだろう。 ▽要するに、メニューが一気に盛りだくさんになりすぎ、多くのクラブサイドで対応が追いつけない(つきにくい)というのが実状のようだ。当然それぞれのトーナメントでは勝ち進めば賞金がついてくるわけで、それはそれで美味しい。ピータボロ(のチェアマン辺り)が声を上げているように「どうなるかやってみるだけやってみよう。これは一つの大きなチャンス」と前向きな意見も少なくない。そうなのだ。肝心のプレーヤーたちが若くして疲弊してしまっては元も子もない(辞退したクラブの主な言い分)のは気がかりだが、それはそれで立派なお題目(根拠)もあるのだ。近年のユースレベルの快進撃(U18ユーロ優勝など)と惨敗続きのA代表との、あまりにも対照的なギャップ。お休みが多ければいいなどと、うそぶくユースプレーヤーなどどこにもいない。メッシやロナウドもそんなハードスケジュールに耐えて出てきたはず。辞退が多く出たのは残念だが、この計画はまだ始まったばかり。「強い母国の復権」につながる元年として今後の意識拡大を期待したい。【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2016.07.28 14:45 Thu
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【東本貢司のFCUK!】「ナンバー6」から時代は動く

▽「マッチナンバー制」が事実上の死語となって久しい。その昔(といってもほんの20年ほど前までだが)、ピッチに登場するイレヴンの背番号は「1~11」と決まっていた。それが、主に主力プレーヤーの特定のナンバーに対する愛着(先頃亡くなったヨハン・クライフが終生こだわり続けた「14」など)と、プレーヤー名をナンバーの上に縫い付ける習慣の定着によって、より扱いやすく理に適った「スクォド(チーム)ナンバー制」にほぼ完全移行した。ルール(の統一)によってそうなったのではない。便宜上「20年ほど前まで」とは言ったが、今でも一部の国の下位ディジョンでは“由緒正しい”マッチナンバー制を敷いているクラブチームもあるにはある。とはいえ、主にトップクラブ間でのプレーヤー層の増大、さらには、頻繁に出入りする外国人プレーヤーの増加などもあって、「番号=名前」のアイデンティティー確立は、ファンサービスの意味でも望ましいことなのだろう。 ▽しかし、年々進化とアレンジメントが語られるこのスポーツの戦術論、それに基づくフォーメーション論議の中にあって、“旧”マッチナンバーとそれぞれが示唆するピッチ上での役割は“健在”、かつ有用で奥深い。「役割」である。「ポジション」に限った話ではない。例えば「ナンバー6」と言うとき、それは今でいう「中盤の底」、あるいはどこぞの国辺りで“独り歩き”している感のある「ボランチ」を指す―――と、たぶん多くのファンは“即刻”理解するだろう。では、先日マンチェスター・ユナイテッドの新監督、ジョゼ・モウリーニョが宣った、こんな一節を聞けばどうだろうか。「ウェイン・ルーニーはミッドフォールダーではない」そして続けて「彼はナンバー6ではない。ましてやナンバー8でもない」。無論イメージ上の“位置”は「底」や「ボランチ」と同期するだろう。が、ジョゼ君がそんなフォーメーション図上の“置き場所”を述べているのではないのは言うまでもない。それは、この「ナンバー6」ほど適性が問われる役割だからに違いない。 ▽戦術上「ナンバー6」には他の誰よりも広い視野とそれに基づく機転が求められる。常に状況を把握し、展開を予測した位置取りを心得、スペースを意識して中盤を広く気を配る。必然的に“彼”はいついかなる時でも“そこ”にいる、いわば“軸”のような存在であるのが望ましい。端的に言って、ルーニーは動きすぎるのだ。ユーロでのイングランドを改めて振り返ってみると思い当たる節もあるはずだ。ルーニーの“動く幅”が大きいために、周囲のチームメイトが彼の位置を探す“間”にブレが出来て、流れに乗っていけないシーンが幾度もあった。ショートパス主体のどちらかといえばゆったりした戦法をとる敵ならば、それでもキズは少なくて済むかもしれない。だが、スピードとロングボールを前面に打ち出すチームを相手にしたときは・・・・。ショッキングな対アイスランド敗戦の最大の原因がそこにある。とどのつまり、ホジソンはせっかくのルーニーの能力をふいにしたどころか、適性外の重責を押し付けてしまった・・・・モウリーニョはそれを“非難”したのだ。 ▽ところで、直近でこれはと思う「ナンバー6」といえば、そう、ミラクル・レスターのエンゴロ・カンテ。初めてカンテのプレーを見たとき、筆者が真っ先に思い出したのはクロード・マケレレだったが、これは単に体型の類似だけのことなのだろうか。いずれにせよ、ざっと見渡してみてカンテ以外に、これは絵に描いたようなナンバー6だと納得がいく比較対象がはたと思いつかないのには少々愕然と・・・・(観察範囲が偏っているからかもしれないが)。そして、そのカンテがチェルシーへ移籍が決まったというニューズにはいささか耳を疑ってしまった。請われた先がバルサやレアル、バイエルンやユヴェントスというのならわかるが、チェルシーとは! レスターは勇躍チャンピオンズリーグに参戦するがチェルシーにはヨーロッパリーグ出場権すらないのである。カンテの思惑たるや、いずこに? が、裏を返せば天晴というべきかもしれない。今日日はネコも杓子も(訳知り顔の外野まで)「チャンピオンズに出るか出ないか」をキャリアアップのだしに使う時代である。そして、これは一種の連想ゲームっぽい戯言だが、モウリーニョの“影”がここにも! ▽実はこの数日間、あっと驚く移籍スクープが飛び出してくるような予感がしていたのだが、それはまだ少し先の話になりそうだ。代わりにやってきたのが、先ほど言及したジョー・アレンのストーク移籍と、サム・アラダイスのイングランド代表監督就任(ともに内定)。前者は、昨日公にされたエストニア代表キャプテン、ラグナル・クラヴァンのリヴァプール入りと関係がありそうだが、アラダイスの方は(本コラムでも触れたように)ほぼ規定事項。本決まりにしばらく手間取ったのは、サンダランドが渋っていたらしい。そしてアラダイス就任で俄然、スリーライオンズは“原点”に立ち返った再生の機運が高まりそうだ。やや穿った言い方をするなら、キーワードはまさに「アイスランドに見倣え!」。スペインの衰退ムードや、イタリアが披露したシンプル殺法とも相まって、世の流れは「ネオ・キック&ラッシュ」時代へ? おっと、その前触れはすでにレスターが“証明”してたっけ。さて、グァルディオラとモウリーニョはそこに何をどう関わってくるのだろうか。【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2016.07.21 10:35 Thu
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【東本貢司のFCUK!】ビッグ・サムへのラヴコール

▽さあて誰に一票投じるべきか、まさか“マス”つながりってだけでも縁起でもないし、あのご婦人はどうせ孤立する、するとやはり・・・・じゃなかった、話は“傷だらけ”のスリーライオンズに喝を入れる新監督の人選。実はもう大方の見立ては決まっている。多分、FAの三人委員会の腹も。こんな状態でポンとユルゲン・クリンスマンでもあるまい。グレン・ホドルは論外。仮にもここでヴェンゲル教授を担ぎ出すのは気が引ける。エディー・ハウには諸々荷が重かろう。ハリー・レドナップはFAと没交渉中。だとすればもう“ビッグ・サム”しかおらんのですよ。現サンダランド監督サム・アラダイス。ダーツの腕はプロはだし、ちょいと睨みを利かせりゃ泣く子も黙る、くわえ葉巻がお似合いの貫禄のドンそのもの。いや、そんなことはどうでもいい。アラダイスといえば知る人ぞ知るイングリッシュフットボール界きっての「再生の名人」、少なくとも短期修復はお手の物(?)。 ▽ご存知の方も少なくないと思う。彼は“その昔”、イングランド代表史上初の外国人監督、スヴェン・ゴラン・エリクソンが辞任する際、一時は後継者の最有力候補といわれ、本人もいたく乗り気だった(結局、選ばれたスティーヴ・マクラーレンはまもなく失脚した)。だが、本国のその筋の通や識者を除けば、ビッグ・サムの何たるかを述べよとの問いに、さてどれだけの人が澱みなく答えられるかといえばかなり怪しい。実は実はこのお方、存外細かく、かつ相当ネチっこい策士なのである。かつてボルトンでアラダイスの指揮下にいたケヴィン・デイヴィスの証言:「規律を絵に描いたような人。ボルトン時代、我々は彼のバイブルを熟読する義務があった」。デイヴィスのいう「バイブル」とは約25ページからなる文書でいわば「ビッグ・サム肝入りの倫理書」。あれをしてはいかん、こういうときはこうでなければならん、などの文言がビシバシ書き連ねられていたらしい。言い換えれば、そこに書かれている「掟」は絶対であり、反論など一切許されなかったともいう。 ▽しかし、そのおかげか、ビッグ・サムの下で(短期にしろ)プレミア有数の戦士に再生、もしくは成功して名を残した“そろそろ過去の人=ややトウの立ちかけた”内外のプレーヤーも少なくない。ギャリー・スピード、フェルナンド・イエロ、イヴァン・カンポ、ミチェル・サルガード、ユーリ・ジョルカエフにJ・J・オコチャ・・・・人呼んで「ワイルドカード・プレーヤー好み」の再生請負人! そうは言っても、哀しいかな、その手腕を歴史に刻み付ける勲章はない。惜しかったのは、2004年のリーグカップ決勝、屈した相手はミドゥルズブラ、その指揮官はほかでもないスティーヴ・マクラーレン! なんと、アラダイスは二度までもマクラーレンに煮え湯を飲まされたことになる。仮にもしもこのときの結果が逆の目に出ていたら、その2年後の代表監督後継人事にも反映されていた・・・・かどうかはわからない。マクラーレンがエリクソンの副官だったからには、やはり疑問だろう。それにビッグ・サムがスウェーデン人の下に就く屈辱を良しとしたはずがない。 ▽2015年の『ガーディアン』紙にこんな内容の記事が載っている。「アラダイスのチーム作りの基本は『適材適所』。それも特に、スローイン、フリーキック、コーナーキックにおいて最適の人材を鍛え上げ、もしくはリクルートする。彼は個々の能力を最大限に引き出すノウハウに長けている」―――とどのつまり、マン・マネージングの達人、誰の何たるかを見抜き、飴とムチの使い分けを心得ている、というわけ。ならばこそ、自信を根こそぎぶった切られた今のスリーライオンズに、ビッグ・サム流処方箋の効き目を期待できるという理屈である。そうなると、いくつか見えてくるものがありそうだ。ルーニーをストライカーに戻す(これはジョゼ・モウリーニョと同意見)、ケインのコーナーキッカー役を解除する、陰が薄れかけているバークリーとストーンズのエヴァートンペアに陽を当てて攻守の要役を課す・・・・などなど。いずれも、多くの識者が結果的に首を傾げ続けてきたホジソン采配へのアンチテーゼ。ビッグ・サムなら平然とそれらをやってのけられる。 ▽他にも、まさかと思いたくなる“大抜擢”も(と、アラダイスを知る識者は“勘ぐる”)。例えば、フランク・ランパード、スティーヴン・ジェラード、ジョン・テリーの復帰・・・・というのはさすがに無理筋だとしても、アンディー・キャロルの再リクルートはある、とか、中にはジャーメイン・デフォーの名前を口にする声も。それぞれ、ウェスト・ハム、サンダランドでビッグ・サムの薫陶を受けた面々だからである。ま、いずれにしても、何か面白いことが起きそうな予感が、アラダイスの“周り”に色濃く漂っているのだけは確かだ。それも、長年イングランドの“中堅以下”で采配を振るってきた経験と見識に裏打ちされているからこその説得力付き。この点はさすがにクリンスマン辺りには逆立ちしても敵わない。一度は消えた(消えかけた)才能をもってくるとなると、ヴェンゲルも躊躇するはず。となれば、今こそビッグ・サムの登場が切り札に見えてくるはず。なに、長期政権など本人とて思いの外。修復と再生が急務の今なら、答えはもう出ているはずである。 【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2016.07.15 11:45 Fri
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【東本貢司のFCUK!】持ち味をとことん突き詰めよ

▽かくしてユーロ2016準決勝2試合は、おおよそ似通ったゲーム進行とまったく同じスコアラインで完結した。双方を分かつ違いといえば、試合を決定づけたという観点においての、先に終了した方の1点目と2点目の“時間差”と、後の方が理想的な得点推移(前半終了間際と後半半ば)と言っていいだろう。が、FCUKの管理人たる筆者には、よりセンティメンタルでロマンティックな要素の方が、ことさらぶ尾を引いてしまっている。ポルトガル-ウェールズは、その“絵面”の大半が、クリスティアーノ・ロナウドとギャレス・ベイルの、多分にメロドラマっぽいライバル同士の(ある意味では“友情”といってもいい)相克だった。この僚友2名を軸に、すべての場面が始まり、紡がれ、一つの答えに行き着いた。それは、かつてのルーニーとロナウドよりも、はるかに感傷的で感動的で記憶に焼き付いた。だからこそ思う。もうしばらくの間は、苦しみながらヨーロッパ最強の座に就いたばかりのクラブで、わくわくドキドキのドラマを演じ続けてほしい、と。 ▽フランス-ドイツの方は・・・・あえて“告白”しよう。フランスがウェールズに敵を取ってくれた―――が言い過ぎなら、このFCUKの面目を決勝まで持ちこたえてくれた、と。なんとなれば、現フランス代表こそ、いわばとことん「エキゾティックなFCUK」そのものなのだから。ドイツ戦のスタメンを振り返っていただこう。この中でユムティティをマンガラに替え、ポグバとマテュイデイをカンテとカバイェ、あるいはシュネイデランに替えるだけで、グリーズマンを除けばほ~ら、あのベルギーすらも凌駕する立派なプレミア選抜軍ができあがる。エヴラは違うだろ、という無粋ないちゃもんは“あえて”無視させていただく。それに、グリーズマンについては大会前にマン・ユナイテッドが獲得の意向を示していた。合意に至っていれば文句(ほぼ)無しだったが、アトレティコに残るということは、それはそれでロナウド=ベイルと改めて切磋琢磨するということであり、FCUKの“別枠”ドラマはまだ続くのである。そういえばポグバも一応は元プレミアだ! ▽というわけで、フランス-ドイツをおさらいする。一言で片づけるのはむずかしい。何かのタイミング一つ違っていたら(ポルトガル-ウェールズ戦もそうだが)、結果は別になっていたろう。そうは言いつつも、違いを明確に印象付けたのはやはりグリーズマンということになる。なぜなら、ドイツには“グリーズマンらしき存在”が欠けていたから。ゴメスの欠場でワントップになったミュラーだが、そもそもが不調と言うしかない以上に、ただ単に(ゴメスという)型どおりの点取り屋がいなくなっただけで、何かで違いを出したことにはならなかった。そこで首をかしげるのは、あくまでざっくりとした印象だけではあるが、グリーズマン風のゲッツェを、なぜ頭から使わないのか、という心残り。フィットネスに問題があったのかもしれない。だとしても、2年前のブラジルで証明したように、不思議な運をもっている男である。これはひょっとして、ゲッツェはレーヴの描くゲームプランにフィットしないのだろうか。ブラジルでもスーパーサブだったことを思えば。 ▽他にも、フメルスの不在は思った以上に大きかったようだ。復調したシュヴァイシュタイガー(ユナイテッドに残るのかな?)や常に頼れるクロースとエジルらで、中盤は十分に対応でき、優位を築くことも多かったが、自陣ヴァイタリエリアに侵入されたが最後、ディフェンスラインの右往左往ぶりは結局致命傷になった。これは、ベン・ディヴィスの累積欠場が重くのしかかったウェールズにも通じる。最近は所属のウェスト・ハムでもめっきり出番の減った老練コリンズには、やはり荷が重かったというべきだろうか。DFの控えの確保は何よりもむずかしい。とっかえひっかえでは守備の統率がぎくしゃくするゆえ、可能な限り固定しておくのが最善。やはり、ここの、特にセンターバック陣の層の厚い薄いが、勝率アップの最大のカギなのだろう。つまり、ウェールズとドイツはこの二点、絶対的な“シャドウポイントゲッター”の不在とディフェンスの質的“降下”に泣いて、フランスを去ることになったのだと思う・・・・あゝ、でもこんな分析ってやはりつまらない! ▽技術的、戦術的云々のあれこれは(筆者にしてみれば)どこまでも空疎に聞こえてくるのだ。ハリルホジッチは「ベルギーはドリブルしかないのか」と切って捨てたそうだが、それならそれでいいじゃないですか。ドリブルの巧みなプレーヤーたちがドリブルを駆使して華々しく勝つ、あるいは敵に上手くしてやられて負ける。どちらに転ぶかは所詮、時の運。勝つだけがフットボールじゃない。そういう、特色見目麗しく、また吹っ切れたチームが存在してこそ、このスポーツはさらに“進化”していくんじゃありませんか? どこもかしこもショートパスとアーリーチェックばっかのポゼッションフットボールをやって、何が面白い? そういう“勝ち目時流”の(筆者には退屈な)戦術居士の鼻を明かすのが何よりの醍醐味でしょうが。ベルギーの“ドリブル主体高速散開”だとか、アイスランドの正統派キック&ラッシュだとか、北アイルランドの全員ボックス・トゥ・ボックス作戦だとか。それを思えば、ホジソン・イングランドはどっちつかずの中途半端な無策で無残に敗れ去ったのです。柄にもないことを真似たっていいことなんてロクにないんだから!【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2016.07.08 11:51 Fri
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【東本貢司のFCUK!】歴史的事件、また歴史的事件

▽ユーロ2016本大会・グループリーグでどこかまどろっこしい印象を残した優勝候補トップ3が、この日曜日に揃って貫禄の快勝。特にフランスとベルギーは、それぞれ要の小兵スーパーエース、グリーズマンとアザールが目の覚めるような本領発揮で、地元ファンの枠を超えて大いにその存在を示した。締めくくりのマルセイユでは、敗れたハンガリーのサポーターまでアザールに盛大な喝采を送っていたほどだ。FCUKの管理人としても、プレミア所属のスターが大半を占めるベルギーの覚醒は小躍りするほど嬉しい。あゝ、でも次はウェールズと当たるのか。なんたる皮肉なめぐり合わせ。そしてイングランドは明日のアイスランド戦に勝てば、雨降って(アイルランドに早々の失点を許した)地固まったフランスと。詮無いことだが、この4チームのラスト4が見たかったところだが・・・・。 ▽アイルランドも健闘した。もうダメかと肩を落としかけたグループリーグ最終戦で起死回生のイタリア撃破(1994年W杯グループリーグの興奮をつい思い出す)。そして今、タレント有り余るホスト国をも立派に苦しめた。Hail to the Irish spirit! そう、北アイルランドだってウェールズとほぼ互角に渡り合った。コールマン(ウェールズ監督)が「内容ではうちが負けていた」とお世辞抜きに認めたほどに。さて、お気づきだったろうか。ウェールズ-北アイルランド戦を仕切った審判団が「イングランドのセット」だったことを。たまたまだったのか? いや、あえて粋な計らいだったと決めつけさせてもらおう。なぜなら、もしグループBの一位が入れ替わっていたら、北アイルランドの相手はイングランドになっていたはずなのだから。かくてあの日、パルク・デ・プランスがほぼ何から何までが「UKカラー」で染められていたという、歴史的事件が紡がれたのである。 ▽それはもう、いとおしくも、身を切られるような2時間余だった。文句なしに今大会有数のハイライトマッチ。明日のイタリア-スペイン戦なんて目じゃないぜ! しかも、あゝなんという劇的でほろ苦い幕切れの余韻。だからこそ、「北」の大黒柱、ギャレス・マコーリーを責める人などどこにもいない。なんとなれば、彼は敵方の大黒柱、もうひとりのギャレスの、渾身のクロスに真っ向から立ち向かった結果だったのだ。カスカートでもジョニー・エヴァンズでもなく、そこにいたのがマコーリーだったことをむしろ誇りに思うべきなのだ。負けては何もならない、などと今更言うなかれ。そう、多分人生最高のスーパーバイシクルゴールを決めながら、よりにもよって“理不尽”極まりないPK戦に屈してフランスを後にするシャチリの胸の内を思うべし。シャチリもプレミアなら、唯一PKを外す不運に身を焦がしたのも、アーセナル入りが決まっているジャカだったのだから。 ▽FCUK流の想いはさらに天を駆ける。ウェールズ-北アイルランド戦と相前後して、あの歴史的国民投票の一部始終がニュースソースを席捲していた。思い出していただきたい。「残留か離脱か」を問う国民投票の帰趨を示したブリテン島/アイルランド島の、あまりにもシンボリックな地図を。あくまでも“大勢”としての色分けだとしても、そこにはくっきりと、今回のユーロにつながる不思議な縁故が映し出されていたではないか。すなわち、英国圏勢で唯一ユーロ本大会出場を逃したスコットランドと、敢然とEU離脱にほぼ心を一つにしたスコットランド。実際の関連など何もない。ただの偶然。それでも、筆者の埒もない夢想は直ちに明快な形をとってしまっていた。さて、果たして「どちらが勝ち」なのか。いや「何が勝ち」なのか。どうです、皆さん。いずれ、このEU脱退はUK、特にイングランドのフットボール界にも余波が及んでくるはず。だとすれば、もしもスコットランド独立(=単独EU加盟)が成った日には、外国人流入の潮目が変わるのかも? ▽すると、例えば、「今の内に」の機運が一気に燃え上がるかもしれない。「2年」が過ぎるまでに、プレミアのクラブ、プレミア昇格を目指すクラブは、先を争って、即戦力か否かを問わず、これまで以上に異邦の助っ人獲得の拍車をかけるかもしれない。一方で、高騰必至の“資金”調達を旨に、海外からのミリオネア・オーナーシップが、これから激増するかもしれない。いや、それとも・・・・イングランドはこの“孤立”を時代の運命と見切り、国産の才能発掘・開発に向かっていくかもしれない。ならば、ひょっとしたら、今大会のイングランド代表の成果、成績が、その追い風になる、はたまた「しばらくの様子見」に腰を落とす・・・・いずれかの道を占う歴史的な「事実」として刻まれていく可能性なきにしもあらず。さあて、大会終了後に一体何が起きて何が起きないのか。個人的“妄想”の中に浮かび上がる名前は・・・・ミリク、ペリシッチ、ゾマー、コノプリャンカ、ナジ、コマン、バチュアイ、それにもちろんグリーズマン・・・・。この中に「当たり」はあるだろうか。 【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2016.06.27 22:00 Mon
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【東本貢司のFCUK!】FCUK“最良の日”の感動

▽FCUKの管理人ならばこそ、この“良きお日柄”には正直「スピーチレス」、つまり言葉もない。まず、我らがイングランドの「すんばらしくカッコいい」勝ち方(相手がウェールズでなければもっと良かったが)。第一戦、勝利目前でロシアに追いつかれてしまった“負けに等しい”ショックを払しょくして余りあるものがあった。そして、ロシア戦では見ている方がいじいじさせられたロイ・ホジソンの“消極起用法”すらも、このウェールズ戦では逆転の大ヒットでほぼ帳消しに。すなわち、ハーフタイム明けに大胆にも揃って投入されたヴァーディーとスタリッジが、同点、逆転決勝弾を決めるという、およそ出来過ぎた筋書き。第一戦に続いてパットとしないケイン、早くもお疲れ様子のスターリング――という、おあつらえ向きの伏線があったとはいえ、それがまんまと大当たりするのだから喜びも倍加するというものだ。さて、スロヴァキア戦の先発はどうするのかな? ▽これでイングランドはスロヴァキア戦を引き分けで収めれば良くなったことになるが、だとするとウェールズは最終戦を勝ち切らねばならなくなる。ロシアも一縷の望みをかけてぶつかってくるだろうから、相当な死闘になるのは必定。このグループはまだ紛れがありそうで、突っ込んで語るのは20日以降にしよう。それよりも、なんたって北アイルランドだ。難敵ウクライナをこんな形でやっつけてしまうとは、果たして誰が予想しただろうか。一時は雹までが地を叩く悪天候が、タフネス頼みのスピリットが勝る北アイルランドに味方したと察せなくもないが、ウクライナもウクライナでミドルシュートに頼り過ぎたきらいもあったと思う。だが、やはりここでも、ひたむきさと無類の運動量では人後に落ちない新鋭、コナー・ワシントンを、あえて先発ワントップに送り出した監督マイクル・オニールの策が当たったと評価したい。トップレベルでの実績ほぼゼロのワシントンに引っ張られるように全軍が飽くことなくボールを追い続けたことが、感動の結末に昇華したのだ。 ▽もう少し、オニール監督の“工夫”に踏み込んで振り返ってみよう。マコーリー、J・エヴァンズ、カスカートにマクネア、そして守備的MFのように見えるが実は本来右SBが本職のベアードまで揃えた「ディフェンス志向」は、結局、バランス抜群の試合巧者で体格で優るポーランドに通じなかった。いや、通じなかった訳ではないが、守勢一方に押しまくられた。そこで試合後、オニールは真っ先に「わが軍はもっとポジティヴにならなければならない」と述べ、その通りにこのウクライナ戦では攻守の要、スティーヴン・デイヴィスが意欲的に前線に侵入、マクネアに替わってスタートしたリーズの元気者ダラスが盛んにシュート性のボールを放って機先を制する役目を果たした。実は、前半の半ば過ぎ、ダラスの覇気と積極性を見てついつい「ダラスの熱い日」という見出し候補が頭に浮かんだほどだ。そして、どうしてもワントップのタワー役として前線に孤立しがちなラファティーではなく、タフですばしっこく小回りの利くワシントンがさらにかき回すという趣向。 ▽やはり、北アイルランドの良さは、自ら動いて前へ前へのリズムを作ることで全軍が躍動してこそなのだと、この試合で思い知らされた次第。思えば、ハンガリーらテクニックで優るチームをねじ伏せて、予選グループをトップ通過したのも、常に一歩も引かない攻守の積極性あってだった。すなわち、ユーロ初出場の晴れの舞台、その緒戦を、彼らは大事にし過ぎたのだろう。それに気づいて吹っ切れ(もちろん、2連敗は是が非でも避けんがため)、しゃにむに走ってボールを追う最大の武器をぶつけた果実が、目の覚めるような感動的・対ウクライナ快勝に結び付いたのだ。しかも、一時間後にスタートしたドイツ-ポーランドが無得点ドローに終わった結果、グループリーグ突破の希望はさらに膨らんだ。あえて「北ア贔屓」の立場で考えれば、ウクライナにもけっこう手こずり、ポーランド戦がどこか“なまくら”に見えた今のドイツなら、けっこう対等に戦えるのではないか――なんていう期待も膨らむ。向こうも「北ア」を「厄介な相手だなぁ」と思ってるかも? ▽さて、ここで一つ、筆者ならでは(?)のメッセージを。結果的に惨敗を喫し、2連敗となってグループリーグ敗退がほぼ決まったウクライナ・イレヴンが、うなだれてサポーター席に三々五々歩み寄ったときのこと。そのとき、スタンドを黄色で染めたウクライナのファンはどう応えたか。清々しいほどの笑顔と心からのねぎらいの拍手・・・・間違っても期待を裏切った悔しさ、うっ憤をぶつける罵声などはみじんもなかった。いや、これはウクライナに限った話ではない(多分、優勝できなければ出場しない方がよかった、などと変に凝り固まる傾向にあるブラジル辺りは別にして?)。以前のJリーグで毎度のように見られた、まるで裏切者の敗者を鞭打つような弾劾裁判もどきのシーン・・・・かねてより筆者は「なんと思い上がった、似非サポーター的悪弊か」と批判してきた、あの醜態。ある人はそれを「日本的」だからと言い訳めかして擁護したものだが、是非この機会に喚起させて欲しい。そんな「日本的」なら要らない。負け方がどうあろうと、たとえ不本意で不甲斐ないパフォーマンス健闘を讃えるハートを持たずに何がサポーターだろうか。いかが?【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2016.06.17 09:32 Fri
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【東本貢司のFCUK!】クーマン“ギャンブル”の誘い

▽各クラブ運営陣、監督・コーチらにとっては気の揉める夏である。コパ・アメリカに続いて直にユーロが始まり、それが終わるとオリンピックが待っている。母国の代表としてプレーヤーたちの健闘と勝利を願いながらも、新シーズンに向けてのチームコンディション調整にただならぬ不安をかこつ。心身疲労は言うに及ばず、ケガでもされたらと思うと、つい眉間にしわが寄る。そこで賢い指導陣は、この夏をそっくり休養・充電に充てられる準レギュラーや若手有望株のレベルアップ度に期待し、手助けをする。また、補強についても「これからの逸材」発掘に、普段以上に目を配り、可能な限り実行に移そうとする。総じて、来る新シーズンは、出来合いの大物を呼び寄せるよりも“自前のファーム・クラス”引き上げに実績と手腕に定評がある指導者が率いるクラブチームの台頭が目玉となる。 ▽ロベルト・マルティネスを切ったエヴァートンが、ロナルト・クーマンに白羽の矢を立てた理由もきっとその辺りにある。報道によると、クーマンのヘッドハンティングを強く望んだのは新オーナーのファラド・モシリだとされているが、もしそうならモシリ氏はただのフットボール好きな金持ちではない。むろん、それなりのアドバイザーの存在があってもおかしくはない。それに、彼ほどの財力(少なくとも、エヴァートンの仇敵リヴァプールを支えるジョン・ヘンリーよりも資産はかなり上だという)をもってすれば、グアルディオラ・クラスの“高くつく”お大尽を引っ張ってくるのは造作もないはず。だが、彼はこだわった。同じ土俵で(つまり、プレミアで)近年目覚ましい実績を残している誰か。それも、万年中堅以下の、一つ間違えれば残留争いも視野に入るクラブを2季連続で上位に導いた“巧将”。ならばクーマンしかいない。お忘れなきよう。サウサンプトンは過ぐる2年前、主力をごっそり“二大・赤の名門”にもっていかれた廃墟に等しかったことを。 ▽このクーマンの“変節”に真っ向から異論を唱えているのは、現時点でマット・ル・ティシエただひとり。「失望している。ありえない。ヨーロッパリーグに出るセインツを捨ててまで落ち目のエヴァートンに行くとは。それとも、特級クラスの億万長者がついてくれることで、もっとやりやすくなるとでも思ったのか」―――気持ちはわかる。サウサンプトン一筋の“聖者の町の英雄”ル・ティシエにしてみれば、いかにもカネと超古豪の名前にほだされたかに見えるクーマンが恨めしい。が、それも要するに手前みその郷愁、もしくは、どこまでも個人的な感傷にすぎない。モイーズ退団から右肩下がりの(今や)中堅以下のクラブを引き上げるチャレンジの魅力は、この2年で同様の功績を遺したクーマンだからこそどでかい。何よりも自身の力量をはっきりと認めてくれた証であり、それに報いたいと思うのはごく自然な心情ではないか。「ギャンブル」だからこそ遣り甲斐もある。 ▽ちなみに「(セインツを後にしてエヴァートンへの)ギャンブル」とは、某現地メディアがつけた見出しのキーワードだ。クーマンも、ル・ティシエも、仮に内心ではそうだと思っているとしても、この言葉は一切口にしていない。メディア一流の、状況を凝縮・圧縮した上での“引用もどき”の造語。もし、それがさも「引用」そのものとして独り歩きしてくれれば、してやったりの社内表彰ものになる。そのせいで、当人や当事者たちが多少なりとも迷惑しようがかまわない(と割り切っている)。話は下世話な方向に逸れるが、石田純一の「不倫は文化」、能年玲奈騒動の「報道リンチ」と同工異曲である。あくまでもキーワード、“誤解”と紙一重の“詠み人知らず”と肝に銘じておきたい。百歩譲って、それを良くも悪くもこの“キーワード”蒸し返す、もとい、振り返るならば、クーマン率いる新生エヴァートンがいかなる道筋をたどり、果実を育み、結果を残した後にしようではないか。メディアはいざ知らず、我々ファンはひたすらゲームの熱気を追うのみである。 ▽さて、今週末からのユーロ本番。参加チームが増えたからとはいえ、初出場組の動向が嫌でも気になる画期的な大会となった。願わくば、その中の一チームでも決勝トーナメントに勝ち上がって大いに盛り上げ、テロの脅威という鬱陶しいほど余計な不安をドカンと吹き飛ばしてほしいものだ。2年弱をかけた長丁場の予選リーグとは違って、計算できない正真正銘の一発勝負(の連続)では何が起こっても不思議ではない。例えば、よりによって強豪揃いのグループに入ったアイルランドが、台風の目の筆頭候補。ふと思い出すのは94年W杯での対イタリア、粘りの快勝。おそらくはロビー・キーンの最後の舞台、グループ最終戦ならばその再現も決して夢じゃない? また、伏兵中の伏兵、負けないチーム、北アイルランドがドイツ、ポーランドのいずれかに土をつけるような番狂わせも期待してみたくなる。目玉は異色の成り上がりストライカー、コナー・ワシントン。事件の予感がする。優勝予想? 意味がない。強いてと言われれば本コラムの管理人としては当然・・・・! 【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2016.06.08 16:00 Wed
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【東本貢司のFCUK!】ドリンクウォーターを何故外す

▽ユーロのウォームアップマッチ最終戦・対ポルトガルでロイ・ホジソンが送り出した布陣は、ほぼ仮想ベストメンバーだと考えられる。GKハート、DFに右からウォーカー、ケイヒル、スモーリング、ローズ、MFアンカーのダイアーに両サイドのミルナーとアリ、そしてダイアモンドの頂点にキャプテンのルーニー。ケインとヴァーディーが2トップを組む。代わるとすれば、ウォーカー→クライン、ミルナー→スターリング、アリ→ララーナといった辺りだろう。ゲームそのものは、前半、ケインに対する危険プレーでブルーノ・アウヴェスが退場して数的優位に立ちながら、ようやく86分のスモーリングのヘディングゴールで勝つという、お世辞にも快勝とはいえない体たらく。敵方が大エース(クリスティアーノ・ロナウド)を欠いていたからなおさらと言うべきだろう。もっとも双方に無理をしない心理的ブレーキがかかっていた試合ならではの、無難な最終調整だともいえる。 ▽ホジソンは「10人相手では往々にしてやり辛いこともある。チーム全体が流れをつかんで機能するためにも、11人対11人が望ましい」と“前置き”して、FIFAランキング上位のチームに失点無しで勝ったのだから良しとすべきだろう。何が良くて何が悪かったとかについて今この時点で語るつもりはない」と、メディアをかわした。スリーライオンズ史上最年少(平均年齢25)チームを率いることにした手前、手の内を明かすこともないということだろう。ひょっとしたら、終了間際の決勝ゴールとそれまでの文字通りの“ウォームアップ”状態(つまり、各プレーヤーの連携が“温まる”まで時間がかかったこと)は、本番で必ず生きてくる、なりのプラス思考によるものかもしれない。しかし、今更詮無いこととはいえ、大方の識者やメディアが首を傾げた「最終23名」に至る取捨選択に関して、言ってみれば遠まわしの煙幕を張ったという印象もぬぐえない。なぜ、ラシュフォードに加えてスタリッジを入れたのか。そしてなぜ、ドリンクウォーターを外してしまったのか。 ▽アラン・シアラーはホジソンが「名を取って実を捨てた」と断じた。ヨーロッパリーグ決勝で復調を印象付け、また、大舞台での実績が捨てがたいスタリッジにこだわったことはまあいい。が、今シーズン最も目覚ましくかつ安定したパフォーマンスを示したドリンクウォーターを袖にしてまで、ウィルシャーとヘンダソンを残したことは「何よりも危険なギャンブル」ではないのか、と。正論だ。故障でシーズンの半分以上を棒に振った後者の二人が、たとえ“未知数の新参者”だとしても、レスター快進撃の陰の立役者よりもあてにできるとでも? ホジソンはそれについて「より攻撃的なシフトを施した」と言い訳したが、むろん説得力は薄い。ラシュフォードの抜擢を「勢いと運」によるものだとすれば、なおさら筋が通らないはず。チーム編成は監督の特権であり、知恵者ホジソンならではのさらに深い思惑が働いているのだろうとは考えたいものの、せっかくの「50年ぶりの栄冠奪取」の熱い期待に水を差した印象は免れない。言っちゃあ悪いが、W杯南アフリカ大会の例にならって大会開幕直前の“急遽故障交代”でも起こらないだろうかと思いたくなる。 ▽話しはがらりと変わるが、サウサンプトンのロナルド・クーマン獲得にエヴァートンが全力を挙げつつあるという。故国オランダではメディアが「その可能性あり」と報じている。これは、前回触れたペジェグリーニ招聘の噂以上に現実性を帯びてささやかれていた事実。おそらくは、出来合いのスター軍団を率いたペジェグリーニよりも、2シーズン前に主力をごっそり失いながら、若手主体にセインツをものの見事に立て直したクーマンの手腕の方がずっと魅力的に映ったからだろう。ぐずぐずしていると、バークリーやストーンズというエヴァートン自慢の若い看板スターが背を向けかねない。現に、ストーンズのバルセロナ移籍問題は話題を集めていることもある。サウサンプトンにしてみれば迷惑この上ない話だが、さてどうなるだろうか。筆者の直感では「筋書き通り」に運んでしまう線が濃厚。異邦の将にとって「ひと仕事終えて新たな挑戦」にそそられる筋書きは過去の例が実証しているからだ。落ち目の名門を復活させた日にはクーマンの名前に一層の箔がつく。 ▽他にも、ヨーロッパリーグ3連覇を果たしたセヴィージャのウナイ・エメリや、アヤックスのフランク・デブールの名も挙がっているというが、本命の座は揺るがない、というのが、オランダメディアの“結論”らしい。また、新たにエヴァートンの筆頭株主(事実上のオーナー)となったイラン人億万長者、ファラド・モシリが、補強資金に糸目をつけない意向を示しているのも、クーマン招聘の追い風となりそう。ちなみに、ファシリ氏はロンドン大学卒後、UKやロシアで数多くの企業経営を展開、フォーブズ誌によるとその資産総額はリヴァプールのオーナー、ジョン・ヘンリーよりも上だという。そしてエヴァートンに肩入れする直前まで、あのアライシャー・ユスマノフを補佐してアーセナル株を多数保持していた。つまり、エヴァートンはマン・シティー、チェルシーに迫る資金源を手にしたことになる。ああ、それにしてもプレミアのオーナーシップ多国籍化にはますます拍車がかかる一方で・・・・。畢竟、プレーイングスタッフの方もとめどなく多国籍化への道へ。ちなみに、今回のユーロ出場メンバーではプレミア在籍勢が断トツで圧倒している。 【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2016.06.03 14:00 Fri
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【東本貢司のFCUK!】AFCの奇跡とラシュフォード

▽AFCウィンブルドンがプリマス・アーガイルとのプレーオフに勝利してリーグ1(3部)昇格を果たした。2002年5月に結成、イングランドの9部に当たるコンバインド・カウンティーズ・リーグから出発して“苦節”13シーズン、ついに名実ともにプロのチームとして名乗りを上げたことになる。無論、ここでいう「苦節」とは「特筆すべきスピードで」という意味だ。つまり、このこと自体が新記録に等しい軌跡なのだが、ウィンブルドンがその間、いくつかの目覚ましい(というか、めったにない)記録を打ち立てている事実はあまり知られていない。一つ、21世紀に誕生したチームで史上初めてフットボールリーグ(4部以上)に参入したこと(4部昇格は2011年)。二つ、2003年2月から翌年12月にかけて達成した最長連続無敗記録:78試合! そう、レベルがどうあろうと、やはり並みのチームじゃない。それも、4部以上では唯一無二の「市民が経営する」クラブなのだ。 ▽その本拠地はキングストン・アポン・テムズ市。ロンドンの中心からやや南西よりの主要ターミナル、チャリング・クロス駅からざっと16キロに位置する“古都”の一つだ(都市としての成立は1835年)。それは、かつて「クレイジー・ギャング」の異名をとってプレミアで暴れまくっていた母体のクラブ「ウィンブルドンFC」の縄張り圏内でもある。そのウィンブルドンFCが当時間借りしていたクリスタル・パレスのホーム「セルハースト・パーク」を後にし、2004年にロンドン北方56キロの実験都市ミルトン=キーンズに新天地を求めて「ミルトン=キーンズ・ドンズ」として再出発したのはご存知の通り。その移転を良しとしない大多数の“地元”ウィンブルドンサポーターが結成したのが、このAFCなのである。いわば、ファンの願いから生まれたゼロからの手作りのチーム。それがようやく努力の甲斐あって3部に上がってきた。しかも、そのリーグ1には仇敵MKドンズがいる。来シーズンのリーグ1は「ドンズ-ウィンブルドン」で大いに盛り上がるだろう。 ▽対プリマスのプレーオフ決勝では名物男のアデバヨ・アキンフェンワ(34歳)が勝利を決定づける2点目のPKを決めた。パッと見にボブ・サップを思わせるような巨漢でニックネームは「ザ・ビースト(野獣)」。ゲームの世界では「世界最強のプレーヤー」とも称される。ロンドン出身、両手に余る数のクラブを渡り歩いて2014年にAFC入団以来、今日までの2シーズン出場83試合で19得点は、エースストライカーとしてはやはり物足りない。それでも、その独特の体形からファンの人気には絶大なものがあった。しかし、一部で予想はされていたとはいえ、このプレーオフを最後にザ・ビーストはAFCを去ることが、試合直後に本人の口からもたらされた。幾分心残りなトーンながら、本人はさばさばと「これがふさわしい区切り。寂しい別れだが、ある意味でこれ以上ないタイミング。AFCはこれからもっと強くなる。すばらしい。夢のようだ」と語っている。一部ではエヴァートンに入ってルカクとの巨漢2トップを築けば面白い、との声もあるが、年齢だけを考えても現実味は薄い。多分ノンリーグのどこかで余生を楽しむことになるのではないか。 ▽そのエヴァートンだが、現時点ではまだ噂にすぎないが、マン・シティーを去るマヌエル・ペジェグリーニの監督就任がささやかれている。筆者は少し前にデイヴィッド・モイーズの復帰を示唆したが、思い切った改造とテコ入れを図るのであればペジェグリーニは悪くない選択肢かもしれない。実はあれから密かにナイジェル・ピアソン(“奇跡のチーム”レスターの土台を築いた将)の名前もひらめいていたのだが、そのピアソンは2部ダービー・カウンティーの新監督におさまってしまった。こうなってみると、マルティネスの後を継ぐには、出戻りのモイーズよりもペジェグリーニがふさわしいような気もしてくる。この連載で何度も触れてきたように、新監督にはできるだけホットな“ハク”が欠かせない。何よりも補強の点で有利だからだ。ユーロの喧騒を挟んで予測はなかなかつけにくいが、直感だけで言えば「ペジェグリーニ・エヴァートン」実現の目はかなりありそうだ。 ▽さて、目前に控えたユーロに関して、イングランド最大の話題は、マーカス・ラシュフォードが晴れて代表の一員に呼ばれるのかどうか。現実的にその答えはほぼ「イエス」、というのが大方の一致するところ。何よりも、この18歳が大舞台に強い、動じないオーラを発散させているからだ。初デビューのヨーロッパリーグ戦でいきなり2得点、続くリーグのアーセナル戦でも2発、シーズン終盤のマンチェスター・ダービーでは決勝ゴールを決め、さらに先日の対オーストラリア・フレンドリーでも代表デビューゴール。故障がちのダニエル・スタリッジとの二択だとすれば、もはや迷うことはないと思われる。それよりも問題なのは、ケインとヴァーディーがいてラシュフォードをどう使うのか。さすがに3者揃踏みとはいかない。だとしても、彼の足跡を振り返ればいきなり初戦にぶつけてもらいたい気もする。当然ホジソンにとっては大きな賭け。だがその賭けこそが何かを・・・・?【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2016.05.31 12:38 Tue
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【東本貢司のFCUK!】悩ましきは「ジョゼとライアン」

▽26日午後、UKのメディアは一斉に「ジョゼ・モウリーニョ、マン・ユナイテッド監督就任確定」を報じた。正式な契約調印と記者会見発表は本日(27日)に行われる模様。ファン・ハール解任で「規定事項」とされながら、イメージライト(肖像権)云々の“些末”な確認交渉などもあって若干気を持たせた「モウリーニョ=ユナイテッド・サーガ」は結局「3日間」で決着した。もっとも、事情通の間ではチャンピオンズ・グループリーグ敗退の時点で(ファン・ハール解任/モウリーニョ招聘は)決まっていたも同然とされ、ちょうどその頃、モウリーニョがマンチェスター近郊に不動産を物色しているとの報道もあった。一説には、ライバルのシティーが早々と表明したグアルディオラ獲得が事実上の引き金だったともいう。いずれにせよ“波乱”は起きなかった。では「もう一つ」の方は? ▽言うまでもなく、それはズラタン問題。こちらの方の“引き金”は、イブラヒモヴィッチがパリSGとの契約更新を拒否し、エッフェル塔を揶揄するジョークをかました時点にまで遡る(とされている)が、モウリーニョの不動産探しがそれとほぼ同時期にキャッチされたことで、この二人のユナイテッド入り交渉はほぼ同時進行していたと勘ぐる向きもある。ただし、現時点でイブラヒモヴィッチは明らかに“焦らし戦略”を取るがごとく「さあ、どうなるかね」と涼しい顔だ。が、一方では「とっくの昔に腹は決めてある。あとは自分でボタンを押すだけ」ともうぞぶく。つまりは「あんたらの予想通りかも」という謎かけらしい。アヤックス、ユヴェントス、インテル、バルセロナ、ミラン、PSGと渡り歩いてきた現代きっての悪童も今や34歳、年貢の収めどころはプレミア、そして「一番やりやすかった」モウリーニョの下、というストーリーはごく自然な成り行きと言えそうだ。 ▽イブラヒモヴィッチが入ってラシュフォードやマーシアルの使われ方はいかに、ルーニーは本当にアンカーポジションに下がるのか、マタやシュヴァインシュタイガーはどうなる・・・・など不確定要素への興味は尽きないが(そういえば、チェルシー時代のマタはモウリーニョの信用を失った結果ユナイテッドに来たんだっけ)、最大の関心事と言えばやはり「モウリーニョ流」と「ユナイテッド・スタイル」の相性。個人的な“希望”については前回に触れた通りだが、シュマイケル、スコールズらのレジェンドクラスから聞こえてくる声のほとんどは「モウリーニョこそ、ユナイテッドの復興に最適な男」である。明確に“反旗”を翻しているのはエリック・カントナのみ(「モウリーニョはむしろシティー向きじゃないのか?」)。テイエリー・アンリは「向き不向きじゃない。要は栄光(タイトル)をもたらしてくれるかどうか。それにグアルディオラとのライバル意識も正に働く」。 ▽そう、誰一人として「ギグスでよかったのでは?」と言わない。あるいは「口にするのを恐れて」いるようだ。それどころか、ギグスが今度こそ居場所を失って(例えば、カーディフ辺りに)出奔するのではないかと(幾分ため息交じりのいたわり気味に)囁きを交わす。おそらく、ギグスにはモウリーニョほどの「主張」やアクの強さが感じられないからだろう。名プレーヤー必ずしも名将ならず、の“ことわざ”もチラついたりするのかもしれない。ただ、元キャプテンのスティーヴ・ブルースら少数派はこう述べている。「今はモウリーニョで最善だが、多分3年がいいところ。もっても5年。その後を引き継ぐのはライアンしかいるまい。つまり、ちょうどいい充電期間ってことじゃないか? しばらくはユナイテッド・スタイルが新機軸を打ち出すのも、この際プラスだろう」と。ウェールズ代表監督も「しばらくユナイテッドを離れるのは必ずや将来の大きな糧になるはずだ」。 ▽ユナイテッド側はもちろん、ギグスの残留を望んでいる。モウリーニョが第一次チェルシー時代に片腕と頼んだスティーヴ・クラークの役割をギグスが果たすと見ているからだ。つまり、モウリーニョ自身も異存はないはずだ、と(無論、契約交渉時にどんなやり取りがあったかは不明だが)。さもなくば、アンダー21クラスの監督“兼任”という線も有力視される可能性がある。2008年から同職に就いているウォレン・ジョイスが、空席のブラックバーン監督になる見込みが浮上しているからだ。アカデミーを預かっているバットとの連携の意味でも好ましい。そしてこれは、現レアル監督のジネディーン・ジダンがたどった道でもある。だが、気がかりなのはギグス本人が「失望」していると伝えられている点。プロライセンスも取得済みで、すでに自分が“その役目”に値する経験を積んだと一部で漏らしているとも。一方、クラブはPR効果の意味でもギグスを手放したくない。さあ、どうするギグス。ユナイテッドファンが今何よりも気をもんでいるのがそこなのだ。 【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2016.05.27 11:00 Fri
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【東本貢司のFCUK!】モイーズとモウリーニョ

▽今シーズンも残すところ、イングランドおよびUK絡みではFAカップ・ファイナルと各昇格プレーオフのみとなった。個人的に故あってこの10日間前後、フットボール関連の動向・情報に断片的にしか触れられずに来てしまったものの、もちろんその間、重要な案件がいくつか発生し、あるいは“収拾の行方”を待つ状況にある。その一つがエヴァートンの新監督人事だが、ついこの数時間前、ブレンダン・ロジャーズのスコットランド・セルティック監督就任が発表されて、“予感”の範囲が絞られた感がある。つまり、セルティック新監督候補の一人に挙げられていたデイヴィッド・モイーズの「復帰の目」。もっとも現地メディアはまだその噂話すら話題にしていない。新オーナーに中国人実業家を迎えて2部から再出発するアストン・ヴィラが、モイーズの有力な再就職先として取りざたされているからだが、“おいしい話”をロジャーズにもっていかれたことがモイーズの負けん気に火をつけ、ならば「プレミアで(の復帰)」となる可能性は決して小さくないはず。 ▽確かにモイーズの指導手腕はわずか10か月で追われたマン・ユナイテッドでの苦い記憶でケチがついた。が、少なくとも通のファンや専門ジャーナリズムの間で彼の評価が落ちているようには見えない。スペインでの“失敗”も、あくまで他流試合の有意義な体験として受け止められているようだ(ちなみに、このことは元々監督経験ゼロのギャリー・ネヴィルについてもそう変わらない)。つまり、成果や結果はどうあれ、他国リーグ経由(という経験)はめったに得られない有利性、エキゾティックなオーラとなる。穿った見方をすれば、外国人監督の招聘に通じるリフレッシュ効果が期待できるのかもしれない。あくまでも現在のエヴァートンとモイーズ双方の意向次第ではあるが、マルティネスが解任された今こそ“ぴったりのタイミング”なのではあるまいか。それに、もしもヴィラを率いて即プレミア復帰を果たせない場合、そこでこそモイーズの評価に傷がつく。あえて(ロジャーズと同じ)1年契約で古巣に喝入れを、というストーリーはけっこうイケるはずだ。 ▽監督には「ハク」が要る。いや、できればそれが「ついてくる方がいい」と言い直そう。何よりも補強の際にその“違い”は想定以上にデカい。特に、異邦の助っ人獲得に当たって別格の効力を発揮する。だから、マン・シティーはグアルディオラを、チェルシーはコンテを招いた。シティーやチェルシーほど多国籍軍団化していないエヴァートンなら、モイーズの素性・経歴・足跡はおあつらえ向きではないか。いや、もしここでエヴァートンが異邦のそこそこ有名な監督を連れてきた日には、今やほぼドメスティックカラーの最後の砦の一角というべき「マージーサイドのブルーサイド」までもが、シティー/チェルシー/アーセナル化していきかねない。FCUKの管理人としてそれは何としても避けてもらいたい。思い出してほしい、マルティネスはただのスペイン人ではない。プレーヤー時代(ウィガンなど)からUKに根を下ろした“準・英国人”なのだ。誇るべき伝統は守られねばならない。どこもかしこも外国人オーナーの外国人監督では“母国”の名がすたる! ▽未定の、予断を許さない、それも重大な“場所”がもう一つある。マンチェスターの「レッドサイド」。一説には、というよりもほぼ共有認識として、たとえユナイテッドがFAカップを獲ったとしても(その可能性はかなりデカい)、ルイス・ファン・ハールの続投が安堵されることはない、というのが現在の空気。サー・アレックス勇退後初のタイトルは無論、プライドを取り戻すための収穫には違いないが、チャンピオンズ参戦が潰えてはファン・ハール失敗の烙印は免れないという。それについて現地メディアはこんな物言いをしている。「ファン・ハール続投を信じているのはこの世にただ一人、ファン・ハール自身だけだ」。それもやむなしと感慨にふける筆者は、ならばこの際、監督人事にもトラディショナル志向を願う、いや、夢見てしまう・・・・すると、どう考えてもギグスしかいないのでは? 折しもラシュフォードという生え抜きの新星が登場し、一抹の疑問符はついても同じくアカデミー出身のヤヌザイも戻った。今がその“チャンス”だと思うのだが? ▽大方の思惑、予感、期待は、それでも「ジョゼ某」だろう。しかし、モウリーニョがこれまでの自己流を貫くのであれば、それはどう転んでもユナイテッド流にそぐうとは思えない。そう、ネオ・チェルシーが生まれるだけだ。ただ、かすかな、針を通すような希望はなくはない。ヒントは目の前にある。レスターだ、ラニエリ。ラニエリは以前のラニエリではなくなった結果、望外の成果をもたらした。ならばモウリーニョも「心を入れ替えて」くれたら面白いストーリーが描けるのではないか。まったく異なる世界が拓けるのではあるまいか。あくまでも極端な例えだが、モウリーニョ率いる「純国産(ホームグロウン制度に則った意味での)中心のユナイテッド」なんてのはどうだ? なんと魅力的なチームに変身、もとい、復活する気がしないか? それなら、ごく当たり前にギグスが引き継ぐよりも、いやいつか来るその日を見据えたお膳立てとして、願ってもない再出発が期待できるのでは・・・・などと思ってみたりもする。さてさて、時代はどう動いていくだろうか。【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2016.05.21 17:22 Sat
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【東本貢司のFCUK!】ラニエリ流“放任主義”の正体

▽さすがに「創立133年目にして1部初優勝」の威光とでもいうべきなのか、日本のメディアは我先ことばかりにレスター・シティーの快挙を報じた。もし岡崎慎司という存在がなかったら、こうまで賑々しく取り上げただろうかという疑問も残るが、昨今のプロフットボール界事情を鑑みれば、すこぶる付の一大事件であることには一点の曇りもない。なんとなれば、その大事件を締めくくった出来事自体が事件だったこともある。今一度、噛みしめていただきたい。レスターの優勝を決めたチェルシー-スパーズ戦で何があったかを。本来ならごく単純に「ホームゲームの勝利」を願うだけのブルーズファンが「レスターのために」を叫び、不本意なシーズンを送ったエース(アザール)が「レスターに優勝させてやりたい」と事前に公言することなど、ありえないことである。お忘れなきよう。チェルシーは腐っても鯛、もとい、れっきとしたディフェンディングチャンピオンなのだ。たとえ早々に、防衛どころかチャンピオンズ出場権の可能性すら見失っていたとはいえ。 ▽ゲームの展開そのものも劇的だった。ハーフタイムで0-2のビハインド、スパーズのわずかな可能性に賭ける怒涛のモチベーションからして、もはや堕ちた王者のジリ貧敗戦は濃厚・・・・見守る誰もがそう観念したに違いない。それを彼らは覆してみせた。アザールのセカンドハーフ登場が流れを変えた? いいや、そんな、凡人解説者が言いそうな後付け論に何の根拠も、価値もない。試合をご覧になった方なら感極まったはずだ。ブルーズイレヴンの火の出るような誇り高い意地を。「レスターのために」を倍付の動機に、それとも、ある意味では照れ隠しの口実に替えてまでも、無様に残り45分間を送るまじとむき出しにした闘志を。テリーとケイヒルのぎらぎらした眼差しを、ウィリアンの怒りを。スパーズの“敗因”はまさにそこにある。相手が悪かった? NO! 仮に迎え撃つのがユナイテッドだったとしても(マタがアザールと同じような発言をしていたように)結果は似たり寄ったりだったろう。これがスタンフォード・ブリッジではなくエミレイツだったとしたらそれこそ何をかいわんや・・・・。「レスターのために」はほぼ合言葉と化していた? ▽情動論はここまで。改めて、レスターはなぜこの快挙を成し得たか。おや、出てくる出てくる、金太郎飴的“通り一遍”分析。スター不在のチームならではの「超シンプルに特化したカウンターアタック」に、もっともらしい「先を読むきめ細かなハードプレスディフェンス」? 一応はごもっとも。だが、肝心な点が抜け落ちている。では、なぜその単純戦法を強大なライバルたちが悠然と受け止め受け流し、返討を果たせなかったのか。あえて口の悪い言い方をさせてもらうなら、ご都合主義もここに極まれり。「ロングボール式カウンター攻撃」、またの名を「オールド・イングリッシュ・スタイル」が、やれ古臭い、やれカビの生えた、やれもう現代には通用しない、などと鼻で笑われ、高速ショートパスを駆使するポゼッションフットボールを最先端ともてはやして、はて、どれだけ時間が経ったか。いやこれ以上は控えよう。というよりも、こんな戦術比較的分析そのものが所詮は不毛なのだ(とは筆者の変わらぬ持論)。ほとんど一言で済む話なのだ。つまり、プレーヤーたち自身が自らに最もフィットしたサッカーを自ら考え、それを貫いたからだ、と。 ▽それこそが、クラウディオ・ラニエリの“戦術”だった。嘘じゃない。ラニエリ自身がはっきりとそう述べている。モーガンやドリンクウォーターも証言している。「あのオヤジさんから戦術指導的な文言を聞いたためしがない」。お前たちが一番良いと思いように、やりやすいようにやればそれでいい! さて、これをどう“分析”しろと? 例えば、現在のユナイテッドやアーセナル、シティー辺りで同じ“指導”をやってみたらどうなるか。たぶん、混乱して少なくともしばらくは収拾がつかなくなるだろう。それでも、いつか彼らが自ら“突破口”を見つけ、形になって応用も利くようになっていけば、きっと今までにない底力が身に着いていく・・・・。なら、監督は誰も彼もが“放任主義”でいいのか、というとさすがにそれは無理筋。では、今回のレスターの快挙は、かつてチェルシー時代に「ティンカーマン(起用・戦術ともあれこれいじくりまわす男)」と揶揄されたラニエリだからこその教訓が生かされたからか? そう、そこに大きなカギの在りかが見えてくる。 ▽昨季終盤、レスターは降格必至の危機を、残り10数試合をほぼ無敗で乗り切るという大逆転で乗り越えた。当時監督は、なぜかシーズン後に解任されたナイジェル・ピアソン。解任の理由についてはまたの機会に譲るが、筆者の見るところ、新任のラニエリは明らかにピアソン(の遺産)に敬意を払おうとした節がある。ちなみに、ラニエリ自らが先導した補強はほんのわずか。つまり、彼はとことん現有戦力を生かすことに決めた。だからこそ、彼はシーズンが終盤に差し掛かった頃ですら殊勝にも「目標は残留」と言い募ったのかもしれない。ある意味で「自分はピアソンの代理」だと割り切っていたのかも。それがピアソ解任に合点がいかないプレーヤーたちを勇気づけ、発奮させ、かつ落ち着かせた。要するに「失うもののない強み」を自らに印象付ける一方で、それがプレーヤーたちから一切の疑念や迷いを拭い去る絶大な効果を果たしたのでは、と。ラニエリは来季も「同じ路線で行く」とうそぶくが、それを鵜呑みにしてはバカを見る。過去の経験則から彼はわかっているはずだ。二匹目のドジョウはいない。さて何をやらかすのか。楽しみがまた増えた。 【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2016.05.04 12:46 Wed
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【東本貢司のFCUK!】歴史的決着と名優の“予言”

▽おそらくクラブ史上最悪の成績で2部(チャンピオンシップ)陥落と相成ったアストン・ヴィラ。今更グチったところで詮無いことだが、若き司令塔(ファビアン・デルフ)と巨漢ゴールゲッター(クリスチャン・ベンテケ)の、虎の子の二枚看板を失ったツケはやはり大きすぎた。より正確には、彼らの穴を埋める補強に結局は至らなかった。つまり、事実上シーズンを通して「飛車角抜き」のままの風まかせ、で戦わなければならなかったということだ。この背景には、アメリカ人オーナー、ランディー・ラーナーが、他の外資オーナーシップとは異にして、資金投入を渋り続けてきた事実がある。仮に、実は懐具合が思わしくなく、一方でクラブ経営の本来の姿、すなわち、アカデミー上がりの優等生(グリーリッシュなど)に期待したのだとしても、やはり打つ手が貧弱すぎたと言わざるを得ない。“ヴィラ命”だったはずのデルフに突然背を向けられた計算違いがあったとしても。 ▽プレミアから落ちると財政は極端に苦しくなる。が、不幸中の幸いと言うべきか、戦力の大幅ダウンはそれほどでもなさそうだし、今度こそ“二軍”以下の優秀な若手を登用する思い切りもできるだろう。というよりも、その“本線”を貫いて、そう、2シーズン後辺りのプレミア復帰を目指す。まだ、推測憶測の域を出ないが、あのデイヴィッド・モイーズが監督就任に色気を見せていることもある。モイーズにとっても出直しにはもってこいの環境となり、要するに失うもののないプレーイングスタッフ構築と采配に存分に腕を振るえるはずだ。それに、これは言わば心理的な意味での朗報と受け取るべきだろうが、白血病で一端はキャリアの道を絶たれた元キャプテン、スティリアン・ペトロフが、最後のひと花とばかりにヴィラ復帰を待望している。戦力として期待できるかどうかはともかく、悲劇のヒーロー、ペトロフが精神的支柱となって再建となれば、少なくともファンの希望は前向きに動く。モイーズとペトロフの“両輪”がヴィラ復権の重大なカギを握っている。 ▽残り3(4)試合となったリーグの情勢と落ち着き先はほぼ見えてきた。“奇跡のクラブ”レスターの初優勝はほぼ確実、1試合消化が少なく久しぶりのFAカップ制覇も有望なユナイテッドが、シティー、アーセナルのいずれかを出し抜いてトップ4の座に食い込むかどうか。反対側では、残る降格枠の2をサンダランド、ノリッチ、ニューカッスルが凌ぎを削る(そこから免れるべく、という意味で)。この辺りは現時点での各チーム状況や対戦相手を俯瞰する限り、どう転ぶかまったく予測がつかない。レスター優勝以外は、それぞれ、決着は最終戦まで持ち越されるだろう。例えばもしシティーがチャンピオンズ決勝に進めば、ユナイテッドがウェンブリー(FAカップ決勝)で美酒に酔えば、それらから“アヤ”が生じる可能性もある。また、ユーロ本大会の存在が各チームの主力プレーヤーたちにおよぼす「来シーズンの居場所」への思惑も。むろん、個人的にはすべてのプレーヤーにローマ一筋でキャリアを終えそうなトッティを見倣って欲しいと思うばかりだが。 ▽折も折、あの「ヒルズボロの悲劇」に関する歴史的裁決がこのタイミングに舞い降りた。当時訴追され、もしくはその疑いをかけられたファンの咎は事実無根、不適切で不当な警備担当官憲の処置にすべての責任があったとする判決は、多くの事件関係者およびリヴァプール周辺の人々の鬱屈と悲しみを、実に約30年越しに癒したことになる。もはやリヴァプールのトップ4入りの目は消えたが、ここにきてヨーロッパリーグ優勝が最有望視されている“偶然”は、レッズとその熱血ファンにとっても勇気百倍。ならば、ジョーダン・ヘンダソンの故障離脱という“疵”もものかわ、最後まで突き抜けて欲しいと思う。その先にあるのは、今回から導入される「チャンピオンズ参戦」でもあるのだから。これはどこのファンかを問わず、おそらく多くのフットボールファンの時空を超えた“夢”でもあるはずだ。ヒルズボロの悪夢が晴らされたリヴァプールの「来季」はどこよりも明るい。 ▽最後に、名優トム・ハンクスにちなんだちょっとした余談を。ハンクスは今シーズン開幕前。なぜか「レスター優勝」に100ドルを賭けていたという。理由は定かでなく、ひょっとしたら同様の地位にあるクラブのいくつかに大穴狙いで賭けていた可能性もある。ちなみに、ハンクス自身はアストン・ヴィラのファンだとか。運命とはかくも奇異にして皮肉でドラマティックなものであることか。 【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2016.04.28 13:45 Thu
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【東本貢司のFCUK!】レフェリーだって人の子です

▽先日のレスター-ウェスト・ハム戦はレフェリーの判定が「ブレまくった」と各方面から疑義が飛び交った。一つひとつの検証はここでは省くが、要するに「ペナルティーが与えられたケース」と「与えられなったケース」に一貫性がなかったというのがその主な要旨。他にも、ジェイミー・ヴァーディーの「一枚目のイエロー」も普通なら口頭の注意で済むはずのレベルだったという意見も多い。そこで、終了間際のボックス内でジェフ・シュルップにショルダーチャージを仕掛けたアンディー・キャロルが咎められた一件(それが劇的な同点PKに直結した)は、レフェリー、ジョナサン・モスがウェスト・ハムに与えたPKの「埋め合わせ」だったのでは、という憶測も飛び出している。いずれにせよ、この試合のモスには明らかに勇み足の判定が目立ち、その結果無用なカードを出し過ぎた感があった。誰もがもやもやするその翌日、スパーズがストークに快勝、優勝争いは微妙に。 ▽そういうこともある、レフェリーだって人の子、マズったかなと後ろめたさを引きずっていたモスの心情もわからないではない…などと思いやっていたところ、案の定というべきか、現地某メディアが引き合いに出した興味深い関連記事が目に入った。イングランドにおいてレフェリーを管理する一組織「プロフェッショナル・ゲーム・マッチ・オフィシャルズ・リミテッド(PGMOL)」がいつからか自発的に導入していた「配慮」―――特定のクラブのサポーター、もしくはそのホームタウン出身/在住のレフェリーには、当該クラブが関わる試合をあてがわない、という“基本方針”。PGMOLによると、毎シーズン開幕前、各レフェリーの“バックグラウンド調査”が行われるのだそうだ。「サポートする特定のチームはあるか」「元プレーヤーの場合、どこのチームでプレーしていたか」「どの地域、町に住んでいるか」…。そしてこのデータを基に担当する試合が振り分けられるのだ。はて、他の国でも同様のことが? 少なくとも筆者は聞いたことがない。 ▽もちろん、住む町とサポートするクラブが必ずしも一致するわけではないが、とにかくどちらも考慮に入れられてしまう。QPRのファンで元レフェリーのマーク・ハルジーは証言する。「“現役”時代、ボルトンに住んでいたわたしは一度としてボルトンの試合を担当させてもらえなかった」一方で「このガイドラインが施行される以前、QPRの試合を二度担当したときは、内心『もう、やってられない』と思った」という。確かに、思い入れがあると余計なストレスがかかってしまうのもよくわかる。が、ハルジーは断言する。「(QPRが)勝ったときはその場で一緒に万歳したい気持ちになるんだが、ピッチの白線を超えた瞬間から完全にニュートラルな立場を貫くのが(我々レフェリーの)プロ意識というものなんだから、ゆめゆめ誤解しないでもらいたい」。それでもPGMOLは「無用で余計な外的感情を誘発すべきではないからだ」とする。だが問題はその先にある。それに関連してPGMOLは「諸々の事情を鑑みてケース・バイ・ケースで判断」する、と。 ▽それの典型的な一例が、昨日月曜日の試合に“適用”された。予定では同日のスパーズ-ストーク戦を仕切ることになっていたケヴィン・フレンドが、急きょ外され、翌日(火曜日)のニューカッスル-マン・シティー戦に回されることになったのだ。理由は、フレンドが熱烈なレスターファンだから。つまり、フレンドがつい“魔がさして”レスターの最大のライバル、スパーズに不利な判定をしてしまわないように、というわけだ。が、待てよ、シティーだってわずかながら逆転優勝の可能性を残しているはずでは? ニューカッスルのゲームをじっくり観戦していない身では何ら確たることも言えないのだが、同試合は降格の危機にあるマグパイズが奮起して強敵シティー相手に予想外のドローで終えた。勘ぐればきりがないとはいえ、フレンドが何らかの“配慮”を施した(施す余地があった)後味は残る。なぜなら、これでシティーの優勝は限りなくゼロになってしまったのだから。 ▽ご存じアーセナルのアーセン・ヴェンゲルも“その点”に強く疑問を唱える。それも、かなりあきれ返った風に。「そんな七面倒なことを考えていたら、毎週毎週ああだこうだと(レフェリーの選択に)頭を痛めることになってしまう。レフェリーがどこに住んでいるのかとか、どこのサポーターなとかなんぞをいちいち気にしたってしようがない。最高のレフェリーをあてがえばそれでいいのだから」。スパーズに敗れたストークの将、マーク・ヒューズも遠まわしに皮肉を漏らす。「判定がどちらに有利不利だったかについて、(PGMOLは)レフェリーの出自を取りざたされるのが嫌なんだろう。レフェリーの質向上を図る上での一案なのかもしれないし。ま、気持ちはわからないじゃないが」。ま、極力好意的に受け取るならば、これも“母国の良心”、あるいは、フットボールをこよなく愛する国民ゆえの気遣い、としておこうか。ひょっとして、ここまできたらレスターに何の澱みなき歴史的優勝を遂げてもらいたいという、切なる願望がそうさせているのかも?【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2016.04.20 13:15 Wed
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【東本貢司のFCUK!】アーセナル改造への序説

▽現プレミアリーグ最古の名門、アストン・ヴィラの降格と、“奇跡のチーム”レスターの初優勝を疑う者はもうどこにもいまい。次節のオールド・トラッフォードでヴィラが勝つ図などどうやっても浮かばないし、残り5試合をフォクスィーズ(レスターの通称)が負け越すことも考えられない。斯界きってのスーパーリッチ、パリSGを沈めたマン・シティーには、バルセロナ敗退の報もあり俄然(チャンピオンズ制覇の)ひょっとしたらの希望が芽生えてきた。つい一時間前、強敵ウェスト・ハムとのプレーオフを勝ち切ったユナイテッドは、このまましばらくぶりのFAカップ奪還に全力を尽くすだろう。クロップ流のしぶとさとキレが板についてきたリヴァプールには、ヨーロッパリーグで最後まで突っ走っていってしまいそうなオーラを感じる。チェルシーのことは今更言うまい・・・・ではアーセナルは? トップ4は何とか確保するとしても、なんだこの、ダルいもどかしさは。 ▽昨年の暮れも押し迫った頃、人を介して伝え聞いた某熱狂的ガナーズファン(イングランド人)の言葉に、こんな件があった。レスターは言うまでもないが宿敵スパーズとて「たぶん今シーズンが千載一遇のチャンス。心情的にはどちらかに優勝させてやってもいいかな。結構マジで」。当然、当時アーセナルが待望の首位に躍り出たことからの「余裕の軽口」でしかなかったはずだが、残り6試合(レスター、スパーズより一つ消化が少ない)で13ポイント差となった今、彼の「心情」はいかばかりか。日本人なら「言霊」の恐ろしさに色を失い、慙愧の念に耐えがたき・・・・いや、これは大きなお世話。しかし、そんな余計な筋違いが脳裏を過るほど、アーセナルの“埋没”―――文字通りに、日の出の勢いの伏兵トップ2とそれぞれカップタイトルに挑戦中のライバル三名門の“狭間”に埋没してしまっている現状は、件の彼を含めたガナーズファンにとって、とてつもなく冴えない、鬱陶しいことだろう。では、何が悪かったのか。こうなってしまった罪は何だったのか。 ▽その“謎解き”をあえてミクロの視点から探り出してみる。ちょうど、直近に格好の“臨床例”がある。2-0からひっくり返され、せめてもの意地でドローにはこぎ着けた4月9日のウェスト・ハム戦だ。ファーストハーフ半ば過ぎで2点のリードは、アーセナルほどのチームなら、相手に関わらず、アウェイであろうと、ほぼ必勝態勢。ところが絵に描いたようにハーフタイム直前に1点を返され、それどころかその直後に同点を許してしまい、さらにセカンドハーフ10分足らずに逆転。スコアタイムだけを見ればわずか8分間の悪夢。しかも、そのすべてが、この数年“眠っていた”はずのアンディー・キャロルからもたらされた。おわかりだろう。明らかにガナーズDFの失態、いや、ほとんど力不足による結果である。イメージ的にはリハビリ明け同然のストライカーに、こうまで好き放題にやられてしまっては何ら言い訳も利くまい。ガブリエルとコシェルニー。超A級戦犯。 ▽個人的にコシェルシーはリーグ有数のセンターバックだと思っている。読みもスピードも不足なく身長の割にハイボールにも強い。現に70分の同点弾は彼のヘディングから生まれている。本業の守りがこのゲームでどうだったかはあえて問わない。問題は相方。少なくとも今のままならガブリエルは使いづらい。ひと頃のメルテザッカーはコシェルニーとの相性良好だったが、どうだろう、そろそろ歳か。期待したチェインバーズはどうもセンター向きじゃない? つまり、ここに最大の弱点がある。チェフを獲って喜んでいる場合ではなかったということだ(そのくせ、開幕前は多くの識者が「大収穫」と宣っていたが)。必然的に、さしものヴェンゲルの目も曇ってきたのかと疑いたくなってくるし、移籍金をしぶるクラブの体質も問題点として再浮上してこよう。実は、断片的な情報からそれなりにオファーは出したのだが、相手に足元を見られるとすぐ引っ込めた事実もあったらしい。エジル、サンチェスに思い切ってはたいた反動で、節約グセがブリ返したという噂も高い。 ▽才能不足はピッチの逆サイドでも顕著だ。今シーズン、これを決められないでどうするという場面で外したジルーの姿を何度見ただろう。好もしいタイプではあるのだが、突き抜けられない。スアレスやレヴァンドフスキ、マンジュキッチのような確実性、機転の利く柔軟性がもう一つ。だからヴェンゲルも先発に固定できない。故障明けのウェルベックの方に期待が向く。つまり、ここにもテコ入れが必要ではないかということだ。スアレスへのアプローチが形だけに終わり、ユナイテッドが獲ったマーシアルを「高すぎる」と愚痴ったことを責めるつもりはないが、結局それで代案の収穫なしでは現有戦力が安穏としてしまい、あるいは過度のプレッシャーに委縮する弊害を見通しておくべきではなかったか。監督としての力量はいまだ世界有数なのは認めるが、戦力整備の点で近年の趨勢に乗り遅れ気味のような気もする。2003年以来の優勝が欲しければ、だ。個人的には好ましいヴェンゲル・システムもいかんせん頭打ち・・・・。はてさて、レスターから引き抜いたヴァーディー、マーレズを発掘した“名スカウト”の目、手腕が何かを変えるのか。それとも・・・・。 【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2016.04.14 10:00 Thu
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【東本貢司のFCUK!】落ち目の王者が選んだ“劇薬”

▽昨日、降って湧いたように全世界を駆け巡った「パナマ文書・流出」の波紋。現時点で明らかにされている事件の要約は次のようになる。「租税回避地への法人設立を代行するパナマの法律事務所『モサク・フォンセカ』の、過去40年分の金融取引に関する内部文書が流出。各国政府は4日、各国指導者や著名人による脱税など不正取引がなかったか調査を開始した」。流出した文書にはロシア/プーチン大統領の“友人”のほか、英国、パキスタンなどの首相の“親類”、ウクライナ大統領やアイスランド首相“本人”に関する記載があるという。『モサク・フォンセカ』によると、流出は海外サーヴァーのハッキングによるもので、公表したのは「国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)」・・・・いや、この、いかにも“キナ臭い”一件に踏み込むのは本コラムの趣旨にあらず。が、気になるのは、そこに新FIFA会長ジャンニ・インファンティーノに関する記載があることだ。 ▽その詳細もあえてここでは省く。何がキナ臭いかと言えば、それがせっかく徹底浄化を旗印にインファンティーノ体制で再出発を切ったばかりのFIFAの足元を揺るがしかねないからだ。早速、スイスの検察当局が調査開始を発表したとの報道もある。例えば、このリークが、FBIの起訴で取り調べ中の「FIFA汚職理事」(の中の誰かの意を受けた)報復ではないかという憶測も出ている。あるいは、世界最大のスポーツイベント・ワールドカップに照準を合わせたダーイシュ(イスラム国)が仕掛けるサイバーテロ“序章”説も。可能性を当たればきりがないが、もしも、昨今の世界各地ではびこる社会政治経済不安に付け込んだ悪意がウラで蠢いているとすれば、何があってもおかしくはない。ITネットは友愛と共感のグローバルな共有を可能にしたが、同時に悪意も共有・増幅させる。名もない一庶民の焼身自殺が事実上の国家転覆にまで行き着いたことを考えると、各国政府筋がこの流出文書に慌てふためく今の姿は穏やかではない・・・・などと、いいや、門外漢がとやかく論じると火傷しそうだ。近く、続報などを待って必要ならば再考察してみたい。 ▽さて、『奇跡のチーム』レスターの“劇場型”優勝がさらに秒読み段階に入ったプレミアで、最も物議を醸しつつある最新のビッグニューズといえば「チェルシー来季新監督に、現イタリア代表監督アントニオ・コンテ就任内定」の報。字面だけ眺めれば「ほう、それはなかなか」。だがどっこい、そうは問屋が卸さないようなのだ。コンテにはユヴェントスのイタリア王者復興を指揮する以前、当時セリエBのシエナ監督時代に八百長関与疑惑で“推定有罪”となった前科がある(10か月の拘禁から4か月のベンチ入り禁止に免除)。しかも、実はこの一件はまだ決着がついていないらしい。現にチェルシーが就任契約内定を発表した翌日、イタリアの検察当局が6か月の拘禁要求を提出しているほどなのだ。チェルシー側はこの件について口を閉ざしているが、最終弁論と判決の予定はこの5月中旬になる見込み・・・・。それにしても、どうしてチェルシーはこんな“危険人物”に白羽の矢を立てたのか。彼の名前が候補に出始めた頃から筆者はずっと首を傾げていたのだが・・・・。 ▽一つ、おそらく確実な線は、第一候補のディエゴ・シメオネ(アトレティコ・マドリード)にフラれたから。その裏には、シメオネ譲渡が主力のチェルシー移籍に“感染”してはたまらないと見たアトレティコの、強硬な慰留作戦もあったろう。シメオネ自身も落ち目模様のブルーズに興味を削がれた可能性はある。では、何故にコンテが代案として浮上したのか。かつてコンテの下でプレーしたアンドレア・ピルロの“証言”がわかりやすい。「勝利確実な試合中でも平気で怒鳴りつけてくる激情肌。あの人といると気の休まる暇がない」。さて、これをざっくり解釈してみると・・・・思い当たる“先人”たちがいる。一名「瞬間湯沸かし器」サー・アレックス、些細に思える事柄にも意固地なほど妥協を許さないジョゼ君、そして破天荒に喜怒哀楽をぶつけ回すクロップ将軍。タイプは微妙に違う。が、コンテが“その流れ”に組しているのはほぼ間違いない。つまり、何が何でも覇権奪回を目指すチェルシーはあえて“劇薬”を選択した・・・・個人的には「なるほど」だが、火に油というリスクも? いや、それはそれで面白いか。何だか来季が楽しみになってきた。【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2016.04.07 12:40 Thu
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【東本貢司のFCUK!】オプション豊富なイングランド

▽先日の代表フレンドリー「ドイツ対イングランド」は実に示唆に富んだ一戦だった。まずは、母国が敵地で2-0から華麗にひっくり返してみせたという事実。無論、これで勝った方が「↑」でもう一方が「↓」などと早合点するわけではない。一つ間違いないのは、ともに世代交代を視野に入れた布陣をぶつけてきた事情の上で、現時点ではイングランドが一歩先んじている、ということだろう。ジョー・ハートのマイナーな故障で繰り上げ出場となったジャック・バトランドの「ユーロ絶望」は大誤算だったが、バック4と中盤の思い切った若返り策、もしくはその“テスト”に関しては、後半の大攻勢~逆転勝利が示すように、高いスピリットと二枚腰が期待できる仕上がりと見た。まだ“石橋をたたく”可能性はもちろんある(例えば、ジャギエルカ、ミルナーらの起用)が、アリやダイアーに使える目途が立った上に、バークリーやドリンクウォーターを控えに回せる“余裕”も。 ▽裏を返せば、まだベストメンバーを固定しづらい状況ということにもなるのだが、ここはあえて、ユーロそのものを一種の試運転の機会ととらえて見切り発車し、照準を2年後のロシアに据えるという青写真も見えてこないではない。ロイ・ホジソンのポストマッチコメントには、この勝利(敵地でW杯チャンピオンに逆転で勝った)で今回のイレヴンを構成した若手がノッていけるという、手ごたえのようなものを感じる。つまり、仮にユーロで思ったほどでもない結果が出なかったとしても、その先の二の矢、三の矢がホジソンの頭の中で組みあがりつつあるということではないか。その「最大のポイント」が、キャプテン、ウェイン・ルーニーに関するホジソンのメッセージだ。「ウェインは今でもわたしのプランの欠かせないピース」と、一気に噴出した「ルーニー不要論」を悠然と一笑に付した件が、何よりも印象的。となると“新生”スリーライオンズは幾通りものオプションを繰り出せる寸法になる。識者の中にはヴァーディーをスタメンから外す案も出るほどだ。 ▽一例をあげると、ワントップにケイン、中盤をトップ下にアリ、両サイドはララーナとスターリング(もしくはウェルベック)、ダブルアンカーにダイアーとヘンダソンを据える変則ダイアモンド型中盤。実際、筆者もこれには驚いた。今シーズン前半を休養に充てた格好のヘンダソンやウェルベック、スターリングがどうして優先されるのか。しかも、バークリーが軽視されていることもさることながら、ルーニーもヴァーディーも控え要員とは! 言うまでもないことだが、ホジソンの起用ポリシーには「調子のいい者を優先」する節もない。ならば、これは一種の敵をかく乱する意味でのブラフか?(お断りしておくが、この予想布陣はホジソンの“意思”を反映するものでも何でもなく、一部メディアの独断的視点にすぎない)。そこで一応、筆者の現時点でのベスト想定プラン(中盤~前線)を挙げておく。ワントップのケインを手前に見て、上がり目の右にヴァーディー、左にはバークリー。トップ下がルーニーで、ダブルアンカーがアリとヘンダソン(ダイアー)。 ▽あくまでも(少々個人的好みも混じった)構成ではあるが、たぶん、一番のカンどころはその後ろ、バック4との兼ね合いだ。今回のドイツ戦はスモーリングとケイヒルだったが、ここにジャギエルカとストーンズを入れるか、あるいは組み合わせるかどうか。おそらく、ホジソンはその辺りの相性やカヴァーセンスの良し悪しを考慮中だと思われるのだが、いかがだろうか。両SBがクライン、ローズの若手抜擢のままで行くのかどうかも、そこに絡んでくるはずだが、ここに限って識者の見解になぜかブレがない。クライン、ローズで問題なし、というのである。その成否はまだ判断のつけようもないと思うのだが、ふと筆者にはひょんな方向からひらめきが飛びこんできた。さて皆さん、シリア戦の日本のバック4をどう見たか。GKの好セーヴをやたらと持ち上げる論調が多かったが、実際はシリアのシュートがほぼ正面に来たというのが真実ではなかったか。いや、そんなことよりも、あれほどあわやと思わせるシュートを打たせた日本のDFにこそ問題があったのでは? ▽ジャギエルカもケイヒルも今では相当に場数を踏んできて、安定感はともかくややマンネリ気味にすら映る。またそれ以上に、二人はそれぞれの理由で今季ここまでクラブでの出場機会が極端なくらい限られてきている。それならば、進境著しいスモーリングとセンスは一級品のストーンズにあずけ、両サイドも併せてガラリの若返りをぶつけた方が、この先(2年後~)のためにも得るものが大きいのでは、とまあ、ホジソンがそんなことをつらつら考えているような気もしてくるのだが・・・・。いずれにせよ、楽しみは想像をはるかに超えて増えてきたようだ。「スイス(代表)、イタリア(インテル)時代を振り返ってみても、今のスリーライオンズほど楽しみなチームはかつてない」とうそぶくホジソンのお手並み拝見といったところだが、一つだけ、筆者の勝手なリクエストを。ヴァーディーには是非ドリンクウォーターをセットにして欲しい。これは、例えばクロースとミュラーに匹敵する(?)意外性を兼ね備えた「いざというときの」呼び物になると思うのだが。 【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2016.03.30 14:00 Wed
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【東本貢司のFCUK!】北アイルランド発・未知の大物

▽ベルギーのブリュッセルで発生したテロは改めて来るユーロ・フランス本大会に影を落とすものだ。無論、フランスの当局と組織委員会は最大限の警備体制を敷くだろう。が、そのあおりで取材陣や来訪ファンは少なからず居心地の悪い思いをするはず。それに、必然的に各スタジアム周辺に警備が集中することになれば、手薄になる地域がテロリストのターゲットにされる恐れもある。そもそも、攻撃目標がフランスやベルギー国内に限られている保証などどこにもない。次週に予定されているベルギー対ポルトガル・フレンドリーの会場は、当初のブリュッセルから(ポルトガル側からの申し出もあって同国中西部の)レイリアに変更されたが、当然そこでも厳重な警備は欠かせないだろう。今週金曜日にアムステルダムで行われるオランダ対フランスも同様。昨年11月のパリ大規模テロの場合、直後にブリュッセルで予定されていた対スペイン・フレンドリーは中止されたのだが・・・・。 ▽ふと思い出すことがある。70年代前半、ロンドンの鉄道ターミナル駅を次々に襲ったIRA過激派(とされる)の爆破テロ。その一連の事件が勃発するほぼ直前、筆者は約4年間の英国滞在にきりをつけて帰国の途に就いた。騒乱の一部を故郷で耳に挟んだときは、まるでぴんとこなかった。帰国直前の数日間、名残を惜しむようにロンドンの繁華街をそぞろ歩きながら満喫した長閑で優雅な日々の真新しい記憶に、その頃もまだうつつを抜かしていたからだが、しばらくしてじわりと恐怖がこみ上げてきたものだった。ただ、今だから言えるのかもしれないが、もしもあの頃、ひと月も経たずに来英する機会がめぐってきたとしたら、躊躇わず舞い戻ったと思う。現代のISの方は、昔日のIRAとは比べ物にならないほど、行動が向こう見ずでやり口も手が込んでいて危険極まりない。仮に取材要請が来た場合は腹をくくるしかないが、観光気分の観戦となると二の足を踏んでしまいそうだ。せっかく伏兵中の伏兵ウェールズと北アイルランドの「初」お目見えだというのに。 ▽そんな憂鬱はひとまず措いて、今回はその北アイルランド代表に初招集された興味尽きないプレーヤーの話を。コナー・ワシントン、23歳。おそらくは、相当の通のファンでも耳慣れない名前のはず。現所属はチャンピオンシップ(2部)のQPRだが、ほんの4年前はノンリーグ、ケンブリッジ州セント・アイヴズという小さな町のチームにいた。そこで披露した50試合53得点の離れ業が、階層にして5段階ジャンプアップのリーグ2(4部)、ニューポート・カウンティーの目に留まり、わずか5千ポンドで出世移籍。だが、ニューポートではまったく結果を出せず終い(39試合5得点)で・・・・と、そこで一つの奇跡が起きる。ダレン・ファーガソン(サー・アレックスの次男)率いるピータボロが、20歳の未知数ワシントンに20万ポンドの値をつけたのだ。2季後、QPRがさらにこの若者を大抜擢したのだが、その際の移籍金(未発表)の20%が契約上ニューポートに入る約束となっていたおかげで、ニューポートはクラブレコードの移籍金を手にした。かくて「“英雄”ワシントンの遺産」は同クラブのホーム、ロドニー・パレードの“誇り”となっている。 ▽思えば、奇妙で耳を疑うようなシンデレラストーリーではないか。プレミアから数えて8つ、9つも下のアマチュアに毛が生えた程度のレベルで(それもたったの2シーズン)しか実績のない若者が、それからわずか4年でプレミア昇格を争うチームの主軸にのし上がろうと・・・・もとい、そのQPRでコナー・ワシントンはまだエースの座をつかむにはほど遠い地位にいる。にもかかわらず、ユーロ初出場で気勢の上がる代表チームからお声がかかったのだ。多分、訳知りの方なら、今や「奇跡のチーム」としてプレミア初制覇に邁進しているレスター・シティーの大シンボル、ジェイミー・ヴァーディーをふと思い出すかもしれない。が、繰り返す。コナー・ワシントン/23歳は、本年2月28日時点で、QPR公式戦出場わずかに8試合、ゴールは0。今を時めくヴァーディーの日の出のステイタスには足元にすら及ばない。筆者はまだそのプレーを拝めてさえいないが、それほど将来性を高く評価されているのだろうか。だとすれば、とんでもない大物ということになるが。 ▽最後に、ワシントンをめぐるちょっぴり興味深い素性のエピソードを少々。生まれ育ったのはイングランドだが、両親のどちらかの縁でスコットランド代表権もあるらしい。そして、北アイルランドには住んだどころか、訪れたことすらないという。それでも、鬼才マーティン・オニールが初参戦するユーロの代表メンバー候補に彼を指名した根拠はというと・・・・祖母が北アイルランド出身だから。本人は当然ながら「まだ“仮(代表)の身”。どうなるかわからないよ」と謙遜しながらも「フランスに行ければ、まさにドリーム・カム・トゥルーだね」。とはいえ、オニールたっての招集が舞い込んだからには、ウォームアップ出場は間違いないところだろう。その“夢の始まり”の舞台は、どうやらこの木曜日、ウェールズのカーディフ・シティー・スタジアムになりそうだ。「もう、頭の中はウェールズ、ウェールズ、ウェールズでいっぱいさ」。楽しみに見守ることとしよう。 【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2016.03.24 13:00 Thu
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【東本貢司のFCUK!】ドリンクウォーターの勲章

▽2年ほど前になるだろうか、時間つぶしにふらりと入った地元のカフェでカウンター越しに声をかけられたことがある。20歳そこそこの青年で、プレミアのマッチコメンテイターとしてお茶を濁していた頃の筆者を覚えてくれていたらしい。以後、訪れるたびに二言三言、言葉を交わすようになった。去年の暮近い頃「レスター、すごいですね」ときたから、手短に返答:「ヴァーディー、マーレズ、オルブライトン…でも、本当のキーマンは地味だけどドリンクウォーターだと思う」。一瞬ハッとした表情を見せた後「でも、すごい名前ですよね」。そんな他愛のないエピソードからほんの数か月、レスター・シティー、クラブ史上初のトップフライト優勝がさらに現実味が増す中で、ドリンクウォーターにはヴァーディーに続いてロイ・ホジソンのイングランド代表招集の朗報が飛び込んできた。 ▽ダニエル・ノエル・ドリンクウォーター。一見してもっさりした風貌とおつむが涼しそうだが、当年26歳。マンチェスター生まれのマンチェスター・ユナイテッド・ユース出身。決して見過ごされていたわけではないが、さすがにサー・アレックス率いるトップチームには割り込めず、いくつかローンを経て2012年1月、レスターへ移籍。翌年12月には月間最優秀プレーヤー(2部)に輝くと同時に、チャンピオンシップ年間最優秀賞にノミネートされている。レスターが実に9年ぶりのプレミア昇格を果たしたとき、GKキャスパー・シュマイケル、CBウェズ・モーガンとともに、最大の功労者となったのがドリンクウォーターだった。今やレスター不動の中盤の要であり、そのタフネスと正確なロングフィードは、ヴァーディー、マーレズ、そして岡崎やウジョアにとっても頼もしいパートナーシップを成している。すでにU18/U19の代表歴があり、今回の招集も驚きには当たらない。 ▽ホジソンの狙いは、今季絶好調のみならず、ユナイテッド・ユース時代からスランプ一つなく場数を踏んできたドリンクウォーターの安定感を、今月末からのフレンドリー連戦、対ドイツ、オランダでテストし、ゆくゆくはポスト・キャリックを視野に、若き有望株のデレ・アリ(スパーズ)との相性も測りつつ、といったところだろうか。振り返れば、久しぶりに表舞台に登場してきた“汗っかき”タイプの万能ミッドフィールダー。レスターのゲームを見るたびに感じる「あゝ、この男がいると妙に落ち着くな」を、昨今のスリーライオンズが欠いていた何かにはまるイメージ、それがドリンクウォーターなのかもしれない。この抜擢が吉と出れば、それを潮目にイングランドの再生/世代交代にも加速がつきそうだ。そう、アリとスパーズの同僚メイソン、それに、彗星のように現れたユナイテッドのマーカス・ラシュフォード。即優勝はともかく、楽しみな未来図が広がってきた。 ▽そこで、もう一人、これはひょっとしたらと思わせる逸材候補に触れておこう。ウェスト・ハムのミハイル・アントニオだ。25歳と、ぴちぴちの若手というわけではない。が、それがまた即戦力候補の所以。トゥーティング・ミッチャムというロンドン西南部に本拠を置く、いわば底辺から這い上がってきた苦労人。レディング、シェフィールド・ウェンズデイ、ノッティンガム・フォレストと着々階段を上って、昨年ウェスト・ハムへ。このときの移籍金700万ポンドは、彼の経歴と年齢からすれば異例の高額と言っていい。以来、ウィングポジションからここぞという貴重なゴールをたたき出して、その期待に十分応えている。さて、そのアントニオ、このほど両親の故国ジャマイカから代表招集の要望があったが、スリーライオンズ入りの夢にかけてこれを断った。決して珍しい話ではないとしても、年齢とキャリアを秤にかければかなりのギャンブル。だが、それだけの実力もある。 ▽もしも、以上の面々がルーニー以下、ケイン、ダイアー(スパーズ)とともにレギュラーに名乗りを上げれば、イングランドは一気に若返り、経験は乏しくとも楽しみが増す。さて、そのラインアップをざっと眺めたとき、スパーズ色がぐっと濃くなるのがわかるが、そのスパーズ、ヨーロッパリーグ・ラスト16でドルトムントに本日あえなく敗退した。ケインが故障でベンチスタートというハンディもあったが、レスターをうっちゃって55年ぶりのリーグ優勝に向けて弾みをつける意味でも、また、若き代表中心でドイツの強豪を慌てさせるという意味でも、残念と言えば残念な結果。これを踏み台にして反発を期待したい。他方、来季チャンピオンズ参戦の“最後”の可能性に賭けていたユナイテッドは、宿敵リヴァプールにその道を断たれてしまった。つくづく、ここという場面で決められない、乗っていけないクセがまた…あとはかすかに残ったトップ4割り込みに望みを託すのみ。【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2016.03.18 12:30 Fri
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【東本貢司のFCUK!】「結果と過程」・ファンか否か

▽たまたまにしろ、重い日の投稿となってしまった。5年前に起きたことは悪夢でも何でもない、紛れもなく事実だ。つい先日のマリア・シャラポワ衝撃の会見内容も、新たに4人目が発覚したプロ野球界の“有毒”行為も、メッシとC・ロナウド双方のファンの間で発生した刺殺事件も、なでしこジャパンのリオ五輪出場権喪失も事実であり、言い換えれば、厳然たる「結果」だ。世の人々は、世論は、概して「結果」でものを語る、もしくは、語る傾向にある。それら“好ましからざる”「結果」を受け止め、例えば二度とないようにと反省することも確かに大切だが、そんな「結果」に至った背景、因果、動機などを可能な限り正確に把握しなければ、類似した出来事、事件、悪弊、犯罪などは今後も後を絶たないだろう。それぞれを教訓とし、反面教師とし、失敗は成功の基としなければ救いがない。つまり「過程」も、いや「過程」こそを重点的に語ることを忘れてはいけないはずだ。 ▽「課程」の中身と性格はそれぞれ異なる。シャラポワの一件とそれ以前から問題として浮上していた「国家ぐるみのドラッグ強化作戦(疑惑)」は、結果を、勝利をことさらに求めるがゆえの“アンフェアプレー”。メッシ/ロナウド事件の背景には多かれ少なかれ世界経済不況が影を落としていると考えるのはうがち過ぎか。なでしこ(一時的)失墜の要因は言ってみれば世の流れ。かつてソ連・東欧が独占し、そこに日本がいち早く追いつき、そのうち西欧・南北アメリカ・アフリカまでが肩を並べ、あるいは肉迫していったバレーボール変遷史を思い出さないか。野球賭博には古い歴史があり、単に「規律の強化と精神面の再教育」のみで歯止めがかかるかどうかは怪しいところで、行為の「反社会性」を改めて強調し、重い罰則による対症療法しかないのかもしれない。先ごろ、プレミア・サンダランドのアダム・ジョンソンがつい道を外してしまった“淫行”事件もその範疇に入る。曰く「ロールモデル」、お手本、特に明日を担う少年ファンの「夢を壊さないように」。 ▽少々回りくどい、半ば入り組んだ筋立てになってしまったが、本稿の真の趣旨はこの「ファン」についてだ。大昔、あるメディアから「ファンとサポーターの違い」を説明するパラグラフを依頼されたことがあるが、今となってはもはや「明確な違い」が仮にあろうと大した意味はないと思っている。少なくともここでは「ファン」に統一した上で、改めて問いかけよう―――「ファンとは何か」。つまり、前2章で触れた事件とその因果を考えているうちに、はたと膝を打ったのだ。もちろん、あくまでも筆者の個人的独断によるものとお断りした上で、実に明快で腑に落ちる“解答”を提示しよう。ファンと言えるかどうかは、スポーツの場合「その結果で語るか、過程により踏み込んで語るかで決まる」。例えば…このままなしくずしに“なでしこブーム”が文字通りのブームとして流行語に終わる運命かどうかは、「真のファンの実数」にかかっていると言えるのではあるまいか。あるいは、もし、五郎丸歩がオージーでさして活躍できずに帰国したり、2019年W杯でホスト国が惨敗してしまったら…錦織圭がさっぱり勝てなくなったら、プロ野球が… ▽「ファン」は贔屓のアスリートやチームが負けると落胆し、ときには(メッシ/ロナウドのファンのように)度の過ぎた怒りをぶつける行為に及んでしまうこともある。しかし、「ファン」ならそこからまた立ち直り、立ち上がる。ファンでなければ、そのうちケロリとして“対象”を別に求める。昔、リーズ・ユナイテッドがチャンピオンズ4強にのし上がった頃、喜々として「マイチーム」と豪語した人が、リーズ凋落後は何か嫌な思い出さながらに見向きもしなくなった…。断トツの優勝回数を誇っていたマン・ユナイテッドが、急にプレミアで勝てなくなり、チャンピオンズ出場もままならなくなると、とたんにユナイテッドの勝ち負けすら省略したりする某国メディア…。筆者は最近憂鬱だ。キュレーター・アプリとかいってニュースの“要点(=断片)”を単に走り読みするためのディバイスがまかり通り、なんでもその場で“ググって”しまえるために、背景や因果を長い文節でしっかり読み取る習慣が薄れた、昨今の“IT害・禍”の影響もあるが…? ▽ヨーロッパリーグ―――スパーズがドルトムントに完敗、ユナイテッドも宿敵リヴァプールに苦もなく敗れた。まだ“裏”(敗者側のホームでセカンドレッグ)があるから、悲観しすぎることはない。が、それも接戦にすら持ち込めず敗退してしまったら? 本コラムの読者諸氏ならめったなことはあるまいが、携帯アプリでスコアの速報を見るくせがついている“ソフト野次馬”たちは、チェルシーがチャンピオンズでパリSGに圧倒されたことも併せて、ああ、プレミアはもう落ち目か、と薄笑いを浮かべるかもしれない。ま、いいか、彼らは所詮「ファン」でも何でもないんだから。ただ、もしレスターがこのまま最後まで突っ走ってしまったら、彼らや「オカザキ頼りの」メディアに、さも訳知り顔でレスター賛歌をがなってもらいたくはないものだ。どうせ、来季、再来季頃になるとレスターの「レ」の字どころか、岡崎が退団した日には「そんなクラブあったっけ?」とうそぶきかねないのに。今回は悪態が過ぎた。が、とにかく皆さん、「ファン」でいましょうぞ!【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2016.03.11 12:00 Fri
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【東本貢司のFCUK!】レスターと“千載一遇”サーガ

▽残り11試合―――いよいよ大詰めを迎えたプレミアリーグ、最大の焦点はもちろん、レスターの史上初優勝成るか否か。現時点ではまだ、アーセナル、マン・シティーも十分圏内(可能性は相当に低いがユナイテッドにも?) だが、ここではあえて「レスターかスパーズか」に絞ってみよう。いずれの場合も、公平に見て今回がほぼ“千載一遇”のビッグチャンス・・・・とは言いすぎか? いや、昨今の“常識”からすれば、結果がどうあれ、この2チームの目ぼしい主力を巡って激しい争奪戦が予想され、来シーズン以降の戦力分布図がどうなるかは限りなく不透明だ。すでにヴァーディー、マーレズ、ケイン、アリらにはビッグクラブの強欲な触手が動き始めている。また、仮に“無風”で新シーズンを迎えたとしても(個人的にはそう願いたいが)、彼らが今季並みに活躍できる保証はない。疲労や“スポットライト効果”で「案外」も想定内。ゆえに「ほぼ」千載一遇ということになる。 ▽スパーズなら実に55年ぶり3度目の待望論となるが、レスターの場合は「初」以上に「昇格2シーズン目」と「昨季は降格争い」という、三大キャッチフレーズがついてくる。実は過去のイングランドリーグでたった一度のみ、「2部から昇格したばかりのシーズンに優勝」という、未曽有の離れ業をやってのけたクラブがある。1978年のノッティンガム・フォレストだ。伝説の名将ブライアン・クラフの下、フォレストは同年、リーグカップとFAチャリティー・シールド(現コミュニティー・シールド)の三冠を達成。また、翌シーズンのUEFAチャンピオンズカップ、さらにスーパーカップ(対バルセロナ)まで制覇している。なお、翌1980年のチャンピオンズカップでも優勝して連覇を果たしたフォレストだが、リーグ優勝は後にも先にも1978年の一度のみ。それこそ“千載一遇”のチャンスを生かしてひときわ記憶に残る「黄金時代」を築いたことになる。また、1979年のチャンピオンズカップでは1回戦で前年優勝のリヴァプールを合計2-0で下して波に乗った。 ▽しかし、もしレスターが今季プレミアの覇者となった場合、38年前のフォレストの快挙を上回る価値があると断じても異論はないはず。なぜなら、クラフ・フォレストの“席捲時代”と現代のプレミアとでは、波乱度も含めて何もかもが天地の差ほど違うからだ。その理由はあえて述べるまでもないが、一つ、つい忘れがちになる重大な要因を挙げておくなら、プレミア創設(1992年)以前は今ほどプレーヤーの移動が激しくはなく、何よりも異邦のスター級実力者が参入してくることもなければ、ひいては、法外な移籍金が動くこともめったになかった。たとえ一時的に“世界”を制し、それでクラブ財政がドンと潤ったところで、覇権は長くは続かない。フォレストの盛衰が如実な例だ。今、プレミアが世界一の金満リーグとして我が世の春を謳歌している最大の理由の一つ、すなわち、資産的にワールドクラスのバックアップを持つ一握りのクラブだけが、毎シーズンのように優勝争いを演じる“格差”社会。それが現実だ。レスターにはまだそんな“ゆとり”はない・・・・。 ▽さて、レスターと言えば、過去3度のリーグカップ制覇のみ(1964、1997、2000)―――かと思いきや、一つ、意外で“異質”なタイトルがあった。1971年のチャリティー・シールドだ。待てよ、その年(前シーズン)のレスターがリーグ優勝を果たしたわけでもなく、FAカップを制覇したのでもないのに? 取り急ぎ記録を調べてみると、ここにも未曽有の(千載一遇の?)事実があった。まずは、同シールドのデータから。1971年8月7日、レスター1-0リヴァプール、スコアラーはスティーヴ・ウィットワース、会場は・・・・フィルバート・ストリート(レスターのホーム)? ウェンブリーではなくて? しかも、相手のリヴァプールも前シーズン無冠だった! 種明かしその1:1970-71シーズンはアーセナルの二冠(リーグ、FAカップ)で終わっていた。この場合、通常はアーセナルと同季リーグ2位もしくはFAカップ準優勝チームとでシールドが行われる。ところが・・・・。 ▽種明かしその2:アーセナルはなぜか、シールド開催日前後にプレシーズン・ツアーを組んでいた。ツアーの契約上、欠場は許されない。そこでFA(協会)は異例の決断を下したのである。FAカップ準優勝のリヴァプールと、2部優勝チームのレスターとでシールドを行う! フィルバート・ストリートが会場に選ばれたのも、一種のウィットのなせる業だったのかもしれない。いずれにせよ、レスターはこの「降って湧いた」チャンスを、つまり“千載一遇”のチャンスを見事に生かして、数少ない主要トロフィーの一つをクラブのキャビネットに持ち帰った。リヴァプール側にもう一つも、二つも、モチベーションが欠けていたかどうかはこの際、問うまい。裏を返せば、レスターにはそんな“千載一遇”級の機会をちゃっかりモノにしてしまう何かがあるのかもしれない。ならば・・・・? もっとも、レスター現監督クラウディオ・ラニエリは「本命はスパーズ。さもなくばアーセナルかマン・シティー。うちは良くてその次くらいだろう」と、不敵にうそぶいている。 【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2016.03.02 13:20 Wed
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【東本貢司のFCUK!】変革と改革と伝統と

▽本日(26日)スイスはチューリヒで開かれるFIFA総会にて、新会長選挙が行われる予定だ。あえて「予定」と言ったのは、候補者のひとり、ヨルダンのアリ・ビン・アル=フセイン王子が、投票システムの透明性に疑問があるとして延期を訴えているからだが、むろん、ここに及んでの予定変更はまず考えられない。いずれにせよ、ジョーゼフ・ブラッター“帝国”がやっと正式に終焉の日を迎えることになるわけだが、これで汚濁にまみれたFIFAの悪名が浄化されるわけでもなんでもない。この会長選挙は単なる区切りの儀式でしかなく、あくまでも前途多難な船出の始まりにすぎないのだ。そのことを誰よりも声高に叫ぶのが、一応は現UEFA事務総長でスイス人のジャンニ・インファンティーノを押すFA(イングランド協会)のチェアマン、グレグ・ダイク。「誰が選出されようと、肝心かなめは『改革』の中身。生まれ変わったFIFAのビジネスの仕切り方というか」 ▽そのことについて、ダイクは次のような文言で端的に言い表している。”What matters is tracing the money in and tracing the money out. What matters is making sure decision making is done properly and democratically.「カネーの収支を滞りなく追跡(し精査)すること。意思決定はつつがなく民主的に行われること」ーーー言うは易く行うに難し、という気もするが、要するに“趣旨”はそういうことになる。「誰が選出されようと」この趣旨を元に実行の旗を振るのに変わりはないはずであり、言い換えれば、今回立候補した5名が(たぶん)何等かの形で今後もFIFA運営に関わっていく、一種の合議制が敷かれる、というのが多くの関係者に共通する“願望”に違いないのではないか。ダイクがインファンティーノを支持するのも、彼が「間に合わなかった」ミシェル・プラティニの最良の補佐役だったこと、つまり事務方の仕切り役タイプだからだろう。これは勝手な憶測になってしまうが、仮に落選しても彼はそれなりの地位に就くのではないか。 ▽現時点ですでに「決定(合意)」している事項がある。新しいFIFAの幹部職員の任期に制限を設けることと、給与を公開にすること。さらに、新規にFIFA評議会を設置し、そのうちの最低6名を女性とすること。これらは、5人の誰が新会長になっても変更されないことになっている。具体的な「改革」のプログラム作りはまだまだ先、ということになるが、少なくとも上記3条項を“確保”しておけば・・・・という、少々どんぶり勘定的なにおいもする。FBI主導で刑事告訴中の“悪徳”幹部連はともかく、もしも、依然として不正金銭授受について潔白を主張しているプラティニの“復権”が実現したら、相応のひと悶着や場合によっては揺り戻しもないとは言えない。裏を返せば、そんな危惧も織り込み済みの「プラティニとブラッターの長期締め出し」だともいえるだろう。当たり前だが、真にFIFAが浄化され、生まれ変われるかどうかは、この会長選挙終結以後の、新会長を軸とした決然たる姿勢にかかっている。ダイクの本心は当にそこにあるに違いない。 ▽さて、そのインファンティーノがプラティニに代わって指揮役を務めるUEFAでも、いくつかの“変革”につながる案件が燻っているようだ。とりあえずは、この夏に迫ったユーロを仕切るというクッションがしばらくは火種を緩和してくれそうだが、その閉幕直後から一気に問題噴出という事態も考えられないではない。が、その辺りについては改めて議論していこうと思う。その前に、というよりも、遠からず関連する案件として、我らがFA発で上がった“火の手”について触れておこう。FAカップおよびリーグカップのシステム変更案だ。端的に、「プレーヤーに負担を軽減する目的」で「引き分け再試合を廃止」してはどうかという。ただ、注意すべきは、この「軽減案」が「チャンピオンズリーグ出場ないしは出場権を争っている」チームばかりに向いていることである。再試合はそのまま双方のクラブ(特に下位リーグ所属のクラブ)に少なからぬ収益をもたらすこともあって、「一握りのチームの便宜」を優先するのはいかがなものか、という反対論は多い。 ▽実は、この「軽減案」に誰よりも真っ向から反対しているのは、誰あろう、アーセナルのアーセン・ヴェンゲルなのだ。「(チャンピオンズを戦っているような)上位チームはそれなりに十分な戦力を有しているはずではないか。やりくりはそうむずかしいことではない。そんなことよりも、世界最古の由緒正しいトーナメントの伝統をなしくずしにしていまっていいのか」! 覚えておられる方はいるだろうか。今世紀に入った頃、イングランドが移籍ルールをヨーロッパ基準に合わせて「オフ」と「1月」のみにしてしまったときも、ヴェンゲルは誰よりも強硬に反論を申し述べたのだ。むしろ英国系の監督たちが概ね揃って受け入れる姿勢を示したのを横目に、異邦のフランス人、ヴェンゲルは「イングランドの伝統を堅持する」尊さを叫んだのである。そして、ヴェンゲルにほだされたかのように、他の外国人監督やプレーヤーの中にも疑問を呈する声が上がっている。時代は移る。が、だからこそ守るべきものもある。さて、FAは、ダイクは、今、何を思うだろうか。 【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2016.02.26 13:37 Fri
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【東本貢司のFCUK!】スペイン“先行”の激変模様

▽思いのほか早く、来季を睨んだ布石が進んでいるーーーもしくは、その“虚実”の一部が、ここにきて続々と明らかにされている。今日(2月18日)、スペインのメディアは、アトレティコのディエゴ・シメオネがチェルシーの来季監督就任に合意したと報じた。ちなみに、英メディアの方の口調は(現時点では)「その可能性濃厚か?」。ドタキャン劇(?)が演じられるのかどうかは神のみぞ知る。 ▽一方、マンチェスター・ユナイテッドは、ベンフィカ所属の18歳ミッドフィールダー、レナト・サンチェス獲得に動いているらしいが、それを“指令”したのは誰あろう、かのジョゼ・モウリーニョだという。ということは、ファン・ハール解任とモウリーニョ招聘はもはや事実上の規定路線なのか。ちなみに、こちらの方もスペイン・メディア発の“スクープ”。その背景には、レアル・マドリードもサンチェスにご執心だからして「さて、どうなるか」という“綱引き議論”もあるようだ。 ▽つまりは、グアルディオラのマン・シティー入り「内定報道」以来、どっと噴出した「シメオネ→チェルシー、モウリーニョ→ユナイテッド」の筋読み報道が、早々に具体化しつつあるということになる。スペイン(のメディア)が「先行」し、英側がシーズンの大詰め直前の時期を鑑みて「配慮と慎重」を期している、と解するのが無難といったところだろう。 ▽物事は重層的に絡んでいるのが常であって、この「スペイン先行報道」にはリヴァプールの「大物若手ディフェンダー獲得内定」の事実が影響していそうだ。その「大物」とはシャルケ所属のCBで、ドイツ生まれのカメルーン人、24歳のジョエル・マティップ。当然、クロップつながりと推察できるが、シティーやアーセナル、パリSG辺りも狙っていたらしい。で、先のサンチェスもアーセナル、リヴァプール、ユヴェントス(ポグバがシティーに移籍した場合の穴埋め)など鵜の目鷹の目状態とくれば、ユナイテッド就任を確実に(!)視野に入れているジョゼ君も、ぐずぐずしてる場合じゃないぞという次第?! ▽そこで、サンチェスのユナイテッド入りが「濃厚」になったという話になる。おわかりか。「マティップ⇔ブンデス⇔クロップ」なら「サンチェス⇔ポルトガル⇔モウリーニョ」! こじつけ云々などと言うなかれ。若ければ若いほど“身内感覚”というものは重要な決め手、決断する動機づけになるものなのだ。 ▽おっと、そこに輪をかけるように、もしもモウリーニョ・ユナイテッド就任が実現するのなら、クリスティアーノ復帰だってぐっと有望になるのでは、という尾ひれまで飛び出した。そのロナウドは、チャンピオンズ・対ローマを控えた会見で、某記者の“無粋”な質問にカチンときたのか、捨て台詞のようなコメントを残して早々に退場するという小ネタを提供したばかり。「ペレス会長が貴方よりベイルやベンゼマを大切にしているという噂をどう思う」とヤジられては、面白かろうはずはない。うん? ひょっとしてこの記者、ユナイテッドの回し者じゃあるまいな(笑)。 ▽それはともかく、より信憑性の高そうなユナイテッド情報に頭を切り替えると、切り回しの実質的ボス、エド・ウッドワード(副チェアマン)は、この夏、大掛かりなオーバーホールを画策しているという。つまり、大量放出と粒より補強(と指導陣刷新:いち早く、ユースの責任者に“こわもて”ニッキー・バットを指名したのもその一環か)。どこかの国の年金資産・投資大失敗のごとく、ディ・マリアやファルカオらで被った大損を、もはや二度と犯すまいというわけだ。 ▽ちなみに、ファーガソン勇退後ここまで費やした補強資金はざっと3億2千万ポンドにもなるというが、及第点に値するのはマタとマーシアルくらい(と、これは英メディアの某記者の弁)。そこで、サンチェス確保を起爆剤にして、バークリー(エヴァートン)辺りも分捕って、かなりの若返り作戦に走る推測も。少なくとも、トウの立つのもそう遠くない出来あいの大物とはあえて距離を置くのではないか・・・・とまあ、絵に描いた餅が過ぎるのも考えものだが、期待と不安半ばと言っておこう。 ▽で、チャンピオンズ? 正直言うと、今年はますます血が騒がない。「ますます」というよりも「またか」。昨日今日の結果もそんな具合で、俄然目の色が変わるとすれば、来週火曜日(23日)に、アーセナル(対バルセロナ)とユヴェントス(対バイエルン)がホームのファーストレッグで、これはと思わせる快勝を収めれば、といったところ。 ▽ところで、先週半ば頃、一連の「ビッグクラブ」が、チャピオンズ再編を希望しているというニューズが入っていた。勝ち上がってくるのは大体決まっているから「少しでも負担を軽くする」ための、つまりは試合数削減がそのココロらしい。考え方の半分はよろしかろう。が、これは何度でも口を酸っぱくするが、どうせなら「1リーグ・1チーム=各リーグ優勝チームのみ」に戻すのが、やはり一番理に適っているはず。詳しくはまたの機会に譲るが、特定の一握りのチームに富が集中する仕組みを改めるのが、下位リーグも含めて八方うまく収まる最善の道なのだ。くどいようでもフットボール界全体の「より良き」明日のために。 【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2016.02.18 13:30 Thu
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【東本貢司のFCUK!】「77分事件」が突きつける「転機」

▽おや、この一連の経緯、どこかの国の茶番政治劇に似ていないか? 2月6日土曜日、アンフィールド―――ゲーム終盤の77分、およそ数千の観客が次々に席を立ち、スタジアムを後にした。その時点でホーム・リヴァプールは2-0でリードしていた。相手は降格ゾーンでもがくサンダランド。もはや勝利を確信したレッズファンが我先にパブにしけこんで…ではなかった。彼らは示し合わせていたのだ。スコアがどうあろうと「77分」にスタジアムを去る。「77」こそはキーナンバー。ゲームに先立ち、リヴァプールFCが来季の最高値チケットプライスを「77」ポンドに値上げするプランを発表したことに対する抗議の行動。果たして、これがピッチ上の双方のプレーヤーたちを、その心を陰に陽にかき乱したのか、突如ブラックキャッツの逆襲が始まり、終わってみれば2-2のドロー…。 ▽「Liverpool must stop taking fans for granted」と、試合後の翌火曜日に声を上げたのは元マネージャーのロイ・エヴァンズだった。「リヴァプールはもうファンに甘えていちゃぁダメだ」―――言い換えれば「ファンを舐めんなよ」。その前日、クラブCEO、イアン・エアが、土曜日のプロテスト騒動に対する反動からか、予定されていた「チケット代値上げに関するファンとの質疑応答セッション」を突如中止にしてしまったからだ。会場が大荒れになること必至と見てのことだろう。善後策を講じるタイムクッションを計ってのことだろうか。いずれにしても(一時的にせよ)逃げた。「説明をする」という約束を破った。勝手に決めておいてそれが何故必要なことなのか「説明をし、意見を聞く」機会を反故にしたのだ。いや、そもそもサポーターサイドからは「土曜日の“77分事件”がなかったとしても、幻となったセッションは大荒れになっていた」とする見解があった。 ▽フットボール・サポーターズ連盟(FSF)のチェアマン、マルコム・クラークは語る。「ファンの誰もが、更新によって来季以降のTV放映権収入が増えることを知っている。その恩恵がファンに向けられないでは済まされない」。また『Anfield Wrap』の編著者、ギャレス・ロバーツは「優に1万以上のホームファンが背を向けるなんぞ前代未聞だ。毎週のように通っては、ピッチにいるプレーヤーたちと心を一つにして戦おうとしているファンから、今以上にカネを搾り取るなんてあってはならないこと。クラブはファンの忠誠心にまで税金をかけようとするのか? もはやフットボールは“二の次”になってしまった」と嘆く。二の次、つまり、何よりもまずカネ、カネ、カネ―――そんな時代になってしまったのか、と。さて、直接矢面に立たされているのはクラブ運営陣だが、ファンが直接、その熱い思いを託すプレーヤーたちは、この問題、事態をどう考えているのだろうか。 ▽「セッション」中止発表とほぼ同じ頃、アーセナルのアーセン・ヴェンゲルがいみじくも口にした(少々“不穏”な)言葉がある。「(放映権アップの)余剰金は高騰一途の補強費やプレーヤー俸給に充てられなければならない」。もし、この、エヴァンズやクラーク、ロバーツらが切に痛める心の傷に、あえて塩をなすりつけるようなヴェンゲル発言が、大方の監督連の心情を代表するものだとしたら…? アンフィールドの「77分事件」を愁う、ココロあるプレーヤーの中に、何等かの行動を起こし、かつ、呼びかける者は出てこないのだろうか。この図式が、庶民(ファン)が増税を強いられる一方で、失政(凡プレー、故障他)もものかわ歳費や給与アップを享受する公務員(プレーヤー)や、減税の恩恵を賃上げに還元しようとしない大企業(クラブ)の“身勝手”に、つい重ね合わせてしまうのは筆者だけだろうか。ファンあってのクラブ、国民あっての国家は一体どこに? ▽今この瞬間、リヴァプールは敵地でウェストハムとFAカップ4回戦のリプレーを戦っている。先行され、追いついて、現在、延長のタイムアップ間近で依然として1-1(編集部注釈:延長戦終了間際に勝ち越しを許し、リバプールが1-2で敗戦)。結果がどうあろうと、PK戦にもつれ込もうと、おそらく多くのリヴァプールファンは、半ば白けた複雑な思いで見守っていることだろう。なぜなら、対サンダランドの「意外な引き分け」によって来季チャンピオンズ出場権は風前の灯火となり、今またFAカップで早期敗退となれば、クロップ体制での大ナタ―――つまり、大々的な補強作戦が敢行される成り行きは必至。カネ、カネ、カネ。いまだ果たされない悲願のプレミア初制覇のために、飽くなき money, money, money。だが、それ何の保証、保障にもなり得ない、うんざりするようなジレンマ。高い出来合いの大物はもういい、レスターを見倣え、かつてのように自前のアカデミー強化に舵を切り替えよ。リヴァプールこそ、その範を示すべし。「77分事件」はその決断を暗に要請する真摯なフットボールファンの叫びなのではないだろうか。【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2016.02.10 13:46 Wed
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【東本貢司のFCUK!】監督は何よりも「人望」ありき

▽かねてよりの持論―――というよりもユニヴァーサルな真実と信じてやまないことが一つ。スポーツにおけるマネージャー(監督)に求められる最大、かつ、あえて“唯一”と言ってはばからない資質とは、突き詰めれば「人柄」にある! より具体的には、プレーヤーたちをして「この人について行けば間違いない」と納得、確信せしめる何か。無論「実績」があれば、例えばタイトル獲得の期待がより膨らむのだからしてそれに越したことはないが、必ずしも必要条件でなくてかまわない。物理的トレーニングのメニュー、メソッドなど、監督次第で大して変わるものでもない(実際は、ほとんど監督が指名した“専任”トレーナーが主導する)。プロとしての生活習慣の管理規制も、効果ありと認められれば誰もがどこでも取り入れる。つまりは、監督(の人柄)に人望がなければ、どんなに有効なトレーニングや管理も絵に描いた餅―――下世話な言い方をすれば「白けてしまう」のだ。 ▽その典型的実例こそが、ジョゼ・モウリーニョの蹉跌ではなかったか。過去の実績は古今随一のレベル、同業者たちもこぞって「異論のない名将」と讃え、どこか兜を脱いでいる節さえある。言い換えれば、彼はその華々しい実績ゆえに常に引く手あまたの存在となり、優勝請負人の輝かしいオーラをまとってきた。と、ここまで言えば通の訳知りファンならピンとくるだろう。レアル・マドリードを不本意に去った致命的要因(あるいは、そのきっかけ)は、シンボルの一人で円熟の域にいたカシージャスを干したことだった。チェルシーでは女性フィジオの職を事実上独断的に解いた。いずれも、モウリーニョにしてみれば規律などの観点から当然の処遇だったかもしれない。が、それらの断行は、明らかに肝心のプレーヤーたちの心に闇を投げかけた。例えば、“第一次”時代を知るテリーはぐっと堪えて飲み込もうとしたが、“新参”のファブレガスなどは目を剥いた。渦中のアザールはひどく当惑してそこから調子を落とした(とは、あくまでも筆者の憶測による見解)。 ▽これも「おそらく」だが、ユナイテッドではサー・アレックスの「人望」があまりにも偉大だったがために、モイーズには太刀打ちもできず、今、ファン・ハールもその差に悩み悶えている。あるいは、どんなに失意のシーズンが長引こうと、そのためにメディアが懐疑論を増幅させ、ファンの心も激しく揺れ動こうと、アーセナルがアーセン・ヴェンゲルの解任をたとえ“ひとしずく”でも零したためしはない。誰が後任になろうと、モイーズの二の舞になることは火を見るより明らかだからだ。その意味で、ユナイテッドは“価値ある教訓”を身をもって示したと言えなくもない。「人望」は時間をかけて培われるという、一つの真実がここにある。そこに加えるならば、その「人望」がいずれ計り知れない財産となるに違いないと見透かせる何かが、クラブ経営陣の資質として備わっている(もしくは「備わっていく」)かどうかも重要な決め手、つまりはもう一つの真実なのだろう。 ▽そもそも、当該「監督の人望」というものの本質は、現実に指導を受けるプレーヤーたち自身にしかわかり得ない。とどのつまりは傍観者でしかないファンも、メディアも、平均的評論家も、ひょっとしたらクラブの事務方、チェアマン、オーナーですら、「なんとなくうかがい知る」程度が関の山なのだ。特にメディアや評論家筋は、それが仕事ゆえに往々にして(心ならずも?)批判の声を上げる。それだけならまだしも、ときに「辞任か? 辞任すべきだと考えたことはないか? 辞任が妥当だと思わないか?」と恣意的に攻め立て、返ってくる言葉の断片をメシのタネにしようとする。いわば芸能ゴシップの類とどっこいどっこい。先日など、ユナイテッドのファン・ハールはある会見で「わたしは君たちメディアにここまで3度クビにされてきた」と苦笑交じりに皮肉で返したものだった。その裏には、自らを苛む責任感とともに、プレーヤーたち自身の「ファン・ハールに今後もついていく」というポジティヴな意思の“支え”が匂った気がしたのだが、いかがか。 ▽この1月の移籍解禁月間、十分に予想されたことだが、いわゆるビッグネームのプレミア参入(もしくはクラブ間移籍)はなかった。強いてあげるなら、ストークがポルトからジャンネッリ・イムブーラを獲得するにあたって、クラブ史上最高額の移籍金を払ったことくらいだ。そして、仮に「イムブーラ」という名前と「1830万ポンド」という額が、このタイミングならこその“サプライズ”に値するとしても、「ペップ・グアルディオラ、来期マン・シティー監督就任が確定」のニューズの前には吹き飛んでしまった感がある。なぜ、あえて今なのか、という疑問はさて措こう。ここで注目すべきは、ジョー・ハートやガエル・クリシーが真っ先にコメントしたように、肝心のシティーのメンバーたちにその“同じ疑問”が走ったに違いないことだ。ハートの「我々は(ペジェグリーニ)を支持している。監督としての彼を愛している」、ペップ就任内定にわくわくしているかと問われたクリシーのそっけない「もしわくわくしているとしたら、今日の試合(サンダランド戦)に勝つことだ」を、上層部はどう受け止めたか。ペジェグリーニの宙を彷徨いかけている「人望」はどうなるのか。「水を差した」という文句が頭をよぎったのは筆者だけか? 【東本 貢司(ひがしもと こうじ)】 1953年大阪府生まれ 青春期をイングランド、バースのパブリックスクールで送る。作家、翻訳家、コメンテイター。勝ち負け度外視、ひたすらフットボール(と音楽とミステリー)への熱いハートにこだわる。 2016.02.04 13:30 Thu
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