【クラッキーの実況席の裏側】倉敷さんの実況のこだわり。視聴者に伝えるための学ぶ姿勢2018.02.28 12:00 Wed

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▽インターネットでのスポーツ中継が広まり、スマートフォンでのサッカー観戦が可能となるなど、いつでもどこでもサッカーに触れられる時代となった。そんなサッカー中継で欠かせないものの1つが実況だ。白熱した試合を言葉巧みに視聴者に伝え、その場にいるような雰囲気にしてくれる。そんな実況者たちはどんな思いを持って、それを伝えているのだろうか。▽20年以上もアナウンサーとして活躍している“クラッキー”こと倉敷保雄さんのインタビュー連載第4回は、倉敷さんが実況者として視聴者に伝える際のこだわりや、解説者とのコミュニケーションについて語ってもらった。

◆プレーは貶しても選手は貶さない
――20年以上も実況を務めてきて、視聴者に伝える際のこだわりはありますか
「明日学校とか会社で話せるような話題にしてあげたいなとはいつも思いますね。あと気をつけていることは選手を貶さないことです。選手のプレーは貶すけど、選手自体を貶すことはしないようにしようとしています。ただ、非紳士的な行いやラフプレーに関しては言います。そこに情状酌量の余地はあるのか、精神的にコントロールできなかっただけなのかということに関しては見極めなくてはいけないですし、そのためには(実況者も)努力をしなければいけないと思うんですよね」

「どんな努力をするかと言うと、その競技の理解度やその選手、チームへの理解度を深めること。そうしておかないと思い切った発言ができないです。こういう選手ではないと言い切れるのか、この選手は今日は良くないと言うぐらいに留めるのか。程度の問題になってくるんですけどね。ただ汚いプレーは誰でも見れば分かると思うんですけど、なぜ彼がそれをしたのか、彼はどのくらいのコンディションでやっているのか、使われてどのくらいなのか、他の選手とのコンビネーションとかチームとしての、組織としての連帯的なものが今日はできていたのか、相棒に責任はないのか、あるいは相手方に責任はないのかということに関しては、そのプレーや試合を真摯に観ていたかとか、予習をしてきたかとかそういうところが問われると思うので、選手に関して何か言う時にそこは注意しようと思っています」

――チームに対しても同じように理解度を深めてから発言されているのですか
「そのチームが今どういう状況に置かれているのか、優勝争いをしているのか、ヨーロッパのコンペティションを争っているのか。Jリーグの中であれば、ライバルとの対戦なのか、中何日なのか、気温が何度なのか、湿度は何%の状況の中でやっているのかとか、相手のコンディションはどうなんだとか。キックオフの時間だって2時間違えば全然違ってきますから、そういうことも加味して近代サッカーと言うもの中で判断しています」

「近代サッカーで言えば栄養であったり、物理理学であったりとかそういうことも含めて色々な形で分析されながら行われているものですから、そこのところも踏まえてどういう状況でできているのか。あと踏みこめるのであれば、予算がどうで、ここはちゃんとフィジコがいるのかとか、食事がちゃんとできている環境なのかとか。そういうこともJ2レベルになれば出てきますよ。この予算じゃな〜っていうのって。『6億で1年は無理でしょ〜』とか。結構それは出てきてしまうので、『バスで帰るのも自腹だよね』とかも出てくるので、そこは割増したり割り引いたりとか、逆に良い環境にいる人のところはこれだけの環境が整えられているのにというのがあったり、勉強していれば言いたくなりますね。それをひけらかすのではなくて、ある程度は選手を守ってあげたいなという気持ちはありますね」

「あとは知らなくても良い情報を知ってしまった時に面倒臭いですね。この監督は四面楚歌なんだとか。あーここはラインがあってこれが親分なのかとかを知ってしまった時に、これはどこまで喋って良いんでしょうかというのはあって(笑)そういうのはかえってJの方が入ってくるので、Jの難しさでもあります。これは言わない方が良いですよねとか(笑)言えないこともいっぱい出てきたりとか、難しいです」

――そういう言えないようなことを思わず言ってしまったことは
「ないです。誰かのせいにしたことはあると思います。『って言ってましたっけ?』って(笑) そこは理論武装というか転び方です。転ぶことはどうしてもあるんですよ生放送だから。転んだ時にどうするかが大事だと。転び方が大事。大ケガをしない転び方をどうするかということはどんな時でも大切なことなので、すぐに立ち上がれる転び方なのか、打撲してしまうのかというのは大事だと思いますけどね。処世術として」

◆解説者から学ぶこと
――実況者にとって、解説者とのコミュニケーションは大事な要素だと思いますが、その中で気を使われていることはありますか
「その人がDF出身なのか、指導者にすでになっている人なのか、FWなのか、どんなチームでやってきたのかということはかなり気にします。例えばセンターバックだった人が解説だとして、スイーパータイプだったのか、ストッパータイプだったのかということを考えますね。だとするとこの動きはどうなんだというのは聞いてみます。ただその中でもその人が現役を退いた後もどれだけサッカーを勉強していたかということはなんとなく分かったりします。なのでこれ以上聞いてはいけないとか、これ以上喋らせてはいけないのではないかというのはちょっとありますね。まあでもつまらない試合だったらいっぱい喋らせてしまった方が、時間が進むのかなとかずるいことも考えたりすることはあるんですけども(笑) この人が喋りたいことは何だということを考えます。今この人は何を喋りたいのかなということを聞いてあげたいなといつも思っていますね」

「解説者に対しての気の使い方ってそういうことです。今この人は喋りたいんだろうか。よく人が喋っているのを遮ってまで喋る実況ってあるんですけど、僕はあまり好きじゃない。だってゴールは観たら分かるし、なぜゴールと言わなくてはいけないのかとか必要を僕は感じないので。後から『綺麗でしたね』って言えばいい。もちろん遮らなくてはいけない時もありますよ。すごく綺麗で美味しいプレーってなれば、すごい綺麗なパスだったからこれはゴールになったら見逃したくないなという時ってあったりして」

「逆にやっちゃいけないのは、解説の人が右サイドバックのことをずっと話していたとしても、それに付き合っていて左から上がってきちゃってどうするのかなって時に、左が上がってきてますと言うとします。でも結局右が起点になってゴールになったら視聴者に対してあっち向いてホイしたことになるんですよ。観るべきところを逸らした。だから左が上がっていますとか、左が手を挙げていますとか言うアナウンサーも結構いるんですけど、それは危険だっていつも僕は思うんです」

「手を挙げている選手のところが必ず起点になる保証はないし、そこにボールが来る保証もないし、嘘かもしれないし。それに簡単に騙されてはダメでしょって思うんですよね。だから解説が観ていることに関しては、常にリスペクトを払いつつ、自分のサッカー感というものを研ぎ澄まさないと、どれがゴールに直結するプレーかということは見逃さないで、そこのベクトルさえ観ていれば外れていても構わない。あっち向いてホイはしないということが大事。左がオープンスペースとかって言ったってオープンスペースに何の意味があるの? 近代サッカーにおいて、そこを使うことによってやり直しになるケースがいっぱいあるじゃないですか。狭い方で密集しているところを抜いていった方がゴールに近いケースもある訳じゃないですか。オープンに出すことによってはい最初からってなっちゃうじゃないですか。だからサッカーも変わってきています」

◆実況も解説も先を読む力と長いスパンでの記憶力が大事
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――実況者の方は先を読む力も大事ですね
「先を読まなくてはいけないんです。本当は。でもそれも色々な経験をさせてもらったからです。色々な解説の方と一緒にいて勉強になりますいつも。この仕事をしていて良いなと思うのは、僕もサッカーが好きなんですね。サッカーが好きで観ていて、自分はこのくらいまで観られて、このくらいまでまだ観られていないんだなって限界も分かっています。そういう時に今こういうふうになっている時の疑問みたいなものは、視聴者の代わりに聞くケースと自分が知りたくて聞くケースがあるんですよ。自分が知りたいケースを聞ける訳ですよ。これ得ですよ。今何でこうなったんですかって自分がすごく知りたいから、視聴者じゃなくて自分が知りたいから聞くことってあって勉強になりますね。知識になっていくと思うからそれって必ずメモります。こういうことか〜とか、でも同じ質問をすると違う答えが返ってくることもあるんですよ。ここもまた違う考え方があるのか、深いものだな〜とか考えながらね。それは実況していて楽しいです。誰よりも先に聞ける。こんな面白い仕事なかなかないですね。サッカー好きであれば」

――そこもまた解説者の力量によりますね
「この人はこれが得意だからとか、これは苦手だからとかあります。でも良い解説の人ってプレーを3つ、4つ戻れる。凄みを感じますね。だからその人が何か違うことを喋っているうちに1つシュートまでいってしまったとする。喋り終わってから僕は戻るんですよ。今シュートにいったのってボランチの人がルーズ奪われましたよねって言うと、そこから戻った解説をしてくれる。そういうレベルの高い人が何人かいます」

――つまり先を読むだけでなく、長いスパンで状況を覚えていないといけないのですね
「現場に行った時って日本の解説者は大抵レベル高いですよ。パッと見て何が起こっているか分かるんです。気づくのはアナウンサーよりも多分5分くらい早いです。以前、チャンピオンズリーグの中継をしに行った時に城福さんとザッケローニさんとやったことがあるんですよ。パッと見て僕はザッケローニさんが指摘したことが何のことかわからなくて。『今中盤でこういうことが起こっている』って言ったんですよ。観ていてもそんな感じしないんですよね。で、2分後に城福さんが気づいてその2分後に俺が気づいたんですよ。あっこのタイムラグがサッカーの観る力の差なんだなって思って。『えっこんなに早くザックさん気づいていたんだ』と思って『はぁ〜敵わないね』って思って。何のことかわからなかったんですよ。城福さんにしても2分差があるんですよ。僕なんてそこから2分遅いんですよ(笑) そっかーこれのことだったのかって。そっかーここが機能していないのかってパッと分かるんですね。この辺の凄さというのはまだまだ勉強になりますね」

「後から分析するのとは違ってリアルタイムでそういうサゼッションをしてあげることによって、視聴者の目線とか考え方を変えられる余地っていうのが解説の方によっていくらでもあるんだなという可能性の話です。良い解説がいなきゃ無理です。競技の面白さを伝えるのは無理ですね。アナウンサーにできることはたかが知れています。聞きやすくとか情報を与えてあげるとか。ボールホルダーをきちっと追ってあげるとか、時間を守るとかそういうことですね」

◆倉敷さんが考える実況の魅力とは
――20年以上続けてこられて、改めて喋る魅力とは
「何を喋ってもいいんだということが楽しいですね。やっぱり。それが電波に乗っているというのが楽しいです僕は。サッカーって何を喋っても良い競技だと思うんですよ。その地域のパンの話、ビールの話、文化の話、今日のプレーの話、選手に対するエピソードの話だって良いし、チームとして何を目標にしているかっていう話でも良いし、サポーター席の話だってしても構わない。その中で今日観たプレーが何かの絵に似ているとか、何かの音楽に似ているとか、何かの料理に似ているとか、こんな香りのするゲームだったとか、こんな味付の料理を思い出させるものだったとか、自分なりに表現して伝えるということがある程度許されている。1つのものに対して、良い物を紹介したり、こういう考え方はどうでしょうとか、こういう感想を持つことも楽しいんじゃないですかということをずっと進めています。デパートの試食販売的な面白さが常にあります。目の前に常に次のゲームがあるというのは、選手にとっても幸せなことだと思うんですけど、中継する側にとっても本当に幸せなことで、今日は楽しいかなって思いながらいつも何時間もかけて準備をするんですよ1試合にかけて。頭に入っていくうちにビジョンができてくるんですね。その多分何倍ものことを監督とかコーチはやっているんですよ、きっと。そこに近づいてやっていくためにはどうしたら良いか考えていますね。また生放送の時と、生放送でもオフチューブの現場で作っていない時は作り方が違ってしまいます。特にJリーグ本当に難しいのは、注意力が妨げられることが多いことです」

「要するに下手くそなディレクターもいるんですよ。間違った指示をしたりとか、時間が違っていたりとか、余計なお知らせ原稿が入っていたりとか余計なお知らせ原稿の字が間違っていたりとか、日本語が違っていたりとか結構あるんですよ(笑)集中したいのに。さっき言ったように解説と違うところを観ているし、モニターを観てくれよって。モニターばっかり追っていてもしょうがないけど、モニターにもある程度寄り添ってあげないと困るじゃないですか。さっきのプレーの解説でイニエスタがこういうプレーをしていると画面に出ているのに、すでにリスタートしているからしょうがなかったとしても、すでにリスタートしてボールはこうで誰かなと言われたって観ている人は、イニエスタのプレーを観ているわけじゃないですか」

「そこはある程度寄り添ってあげないと、そこはじゃあ逆に現場がリスタートしたから追わなきゃいけないのかって話ですよ。そこは見極めですね。こんなプレー別に言わなくて良いでしょとかいう時は言わなくて良いし。ただ、スイッチャーが下手なケースもあるんです。リスタートからゴールが決まるシーンってすごく最近多くてそこでリプレイを入れるかなっていうのはあるんですよ。あーあやっちゃったって。起点が全然分かりませんって(笑)どこからですかねとか言って。そういうのはありますね」

◆実況での失敗談
――中継の現場でハマった時もあればハマらなかった時もありますよね
「両方あります。ハマった時は面白いですね。現場でハマった時ってカメラとスイッチャーとの一体感というのは、痺れるぐらいの快感がありますね。こうきて、こうなったらこうですよねってなった時は本当にこう握りこぶしを作っちゃうくらいにやったーって感じがあって、オフチューブでやっていても『ここってこの選手を使わなくて良いんですかね』、『監督は何考えているんですかね』って言った途端にそれが映ると、あー気持ち通ってるねって思ったりすることがあるんですよね。逆にハマらない時って『この選手出さなくて良いんですかね』って言っているのに結局出さないで、カメラも抜いてくれなくて、視聴者の人は停滞しているゲームだから温存している選手を使って欲しいのになんで?って。監督は指示しているから抜いて欲しいのに全く抜かない。なんだこいつらって思ったりすることが現場でもオフチューブでもあって、全然気持ち通ってないなって思って。もっと気持ちが通わないっていうのは、ハイライトシーンで結局ここが起点でこれが良かったですと言った部分が全く入ってなくて、『ここゴールに関係ないけどここがポイントだったって言いましたよね』って解説が言っていて、『なんで入れないんですかね? 信用されていないんですかね』って話になることもあって。それはチームとしての限界を感じるというか絶望感を感じる瞬間で、あーこのスタッフともうやりたくないとか、今日誰だ編集とか見たりすることもあるんですけどね。当たり外れというのはありますね。向こうにしてみてもあるのかもしれないですけどね」

「逆に迷惑をかけたりすることもあります。体調が悪かったりとか。これ本当にまずいなと思ったことがあったのは、2回ぐらいあったかな。1回はすごく頭痛がして、目が見えなくなってしまったことがあったんですよ。それってしばらく経つと治るんですけど、その時にこれはまずいなと思って危ない中継をしていたことがあったのは、かなりスリリングなことでした。それ以来薬は持ち運ぶようにしていますけどね」

「もう一つは薬のことです。Jリーグで絶対やめようと思ったことなんですけど、僕は花粉症なんですね。それがかなりひどい時期があって、かなりきつい薬をお医者さんに処方してもらったことがあったんですよ。まさか生中継の現場で眠くなることはないだろうと思っていたら眠くなったんですね。目の前でJリーグの試合をしているのにあー起きてられないと思って、『えーこれ像でも眠りますよ』っていう強い薬でもういくらガーって引っ掻いてもダメなんですよね。寝る寝る寝るみたいな(笑)。これは本当に危ないなと思って本当に歯を食いしばって中継したことがあって、あれ以来花粉で鼻垂らしていても垂らしている方が良いと思って、その薬は止めましたね。その日に捨てました(笑)。これのせいで苦労したと。先生が悪い訳じゃないけどこれ飲んじゃダメなんだって。本当に気をつけた方が良いですよ。寝る薬ってあるんですね。でも実況席にいるって極度な緊張なんですよ。それでも寝ることがあるんだと思って。薬って怖いなって思って。それは失敗談ですね」

「実況してきた数がいっぱいあるから失敗も多いんです。言い過ぎちゃった時とかね。頑張って欲しい故に言い過ぎちゃったというのはあって、それは反省ですね。そういう時の方がかえって帰ってネット見たりしますね。あーやっぱり怒られてるとか。普段は全然気にしないです。良くても悪くても気にしないですけど、自分が悪かったんだろうなって思う時は見てあーやっぱ怒ってる。ごめんなさいって。自分に罰を与えるというか。それはありますね。あーごめんって。どっかで謝りますという感じはありますね。うまくいったなって時は見ない」

――ユーザーからの評判は解説者も気にされているでしょうね
「それは気にしていますよ。解説の方の方がおそらく色々な評判とか気にしているので割とあれですね、盛り上げを必要とする人はいますね。手がかかるというか。子供みたいな人だなって思って。この人は上げていかなきゃダメなんだって。あとは情報を入れておいてあげないといけない人もいます。勉強してこないからこの情報を入れておこうと思ってわざと喋っておくと、放送の中でそれを言うのでうんシメシメって(笑) 誰とは絶対に言えないですけどいますね。入れておいた方が良いなって。背景でこういうことありますよねとかって言っておくと、さも自分が気づいたかのように言うので面白くて」

▽サッカーに対するあくなき探求心をもつ倉敷さん。「自分が知りたいケースを聞ける訳ですよ」と語る倉敷さんの目は少年のように輝いていた。それだけ好きなサッカーだからこそ、もっとちゃんと視聴者に伝えたい。そのために、20年以上続けてきた実況でもまだまだ多くを学び、吸収している。その精神は我々も学ばなければいけないところだと痛感した。最終回となる次回は、倉敷さんが考える今後の活動について語ってもらった。

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【クラッキーの実況席の裏側】倉敷さんが考える放送界、サッカー協会の問題点は?

▽インターネットでのスポーツ中継が広まり、スマートフォンでのサッカー観戦が可能となるなど、いつでもどこでもサッカーに触れられる時代となった。そんなサッカー中継で欠かせないものの1つが実況だ。白熱した試合を言葉巧みに視聴者に伝え、その場にいるような雰囲気にしてくれる。そんな実況者たちはどんな思いを持って、それを伝えているのだろうか。 ▽20年以上もアナウンサーとして活躍している“クラッキー”こと倉敷保雄さんのインタビュー連載最終回は、倉敷さん自身の今後の目標や、放送界、サッカー協会への問題提起を語ってもらった。 ◆サッカーへの恩返しは色々なスタイルがあって良い!! ――<span style="font-weight:700;">長く実況を続けてこられましたが、今後の目標はあるのでしょうか</span> 「いずれ世界のスタンダードと肩を並べられるレベルになれるように努力を続けることです。力は競技の理解度と比例すると思いますが、それこそキックオフからの数分を見ただけで、その時点での問題点をズバリ指摘できる指導者のレベルにまで到達できたら嬉しいですね。解説者に対しての質問のレベルもグッと変わってきます。実況者の質問のレベルが高ければ中継のレベルも上がるので、もっともっとサッカーを理解したいと思っています」 「サッカー文化を育てる現場にはそれぞれのポジションと役割があり、今はどういうレベルで何が求められているのかを気にしなくてはいけません。僕の周りで考えれば放送局周辺ということになるわけですが、これがどうも落ち着かない。ほんの数年前までは変化もなく住み分けができていたサッカーコンテンツの放映権がここにきて大移動の時期を迎えてしまいました。もちろん僕のような小さな力ではどうすることもできないので、製作サイドのひとりとして、変化していく放送形態の中でどう作り分けをするかということを考えています。」 「例えば、テレビの大画面で観るサッカー中継とスマホで観る中継とは音声に関しては作り分けをしてもいいのでは?と考えます。スマホで見るなら聞いて楽しいラジオ中継的なアプローチをする、大画面ならスパイクのこの面のフェイスを使った技術が光ったね、といった視覚重視のプレー解説、技術解説を中心にするのはどうか?と提案したいですね。」 「後進のためのアンテナショップになるのも良いかな、と思うんです。海外には詩人のように詠うタイプなど様々な実況スタイルがあります。日本ももっとしなやかでいい。中堅どころの実況者はもうスタイルを固めてしまった印象なので、まだ見ぬ未来の実況者への傾いた道標といった程度でしょうけど、サッカーに対する恩返しとして色々なスタイルを見せてあげるのもアリかな、と思っています。ただ、あの人はまた変なことやってるって感想で終わっちゃったら困るんですけどね(笑)。もっと極端にやってみたら?やればいいじゃん、誰が怒るの? って若者を唆したいですね。まあ、トライ&エラーですから失敗は必ずあるでしょうけど。それでも冒険をお勧めしたいです。」 ◆なくならない用語の誤用 ――<span style="font-weight:700;">確かに実況を聞いていても同じような方が多いような気がしますね</span> 「歌手の方や落語家の方は同じ楽曲、同じ噺を披露しても個性的ですよね。でないと商売にならない。実況って恐らく“アナウンサー”という言葉に縛られているんです。それもNHKのアナウンサーという品行方正なイメージですね。今やNHKだって個性を表に出している時代ですけど、ただ試合を追えばいいと考える実況者が多い。特にサッカーでは大多数に思えてしまう。不思議ですね。僕が憧れたスポーツの実況者はずっと昔から個性で勝負してきたのに。」 「個性的な表現もどんどん増えたらいいのにと思います。現在使われているサッカー用語を減らしたくはないのですが、実は違和感を覚える言葉もあって悩ましい。例えばPKは獲得するものなのか?“ペナルティ”は罰則です。だから相手の罰則を獲得するという表現はいかがなものか?P Kを与えられました、が正しいのではないかな、といつも疑問に思います。あとはPKを沈めた、も気になるんです。どこに沈むのか?これはカップにボールを沈めたというゴルフ用語から来た誤用でしょうね。同様の誤用は他の競技にもありますよ。プロレスラーはリングに上がる。フィギュアスケートの選手はリンクには上がりません。正しくはリンクに降り立つです。言葉狩りをするつもりはなく他の表現を増やしたいだけなんですが、難しいですね。」 ――<span style="font-weight:700;">そういった誤用は確かに見受けられますね</span> 「雑誌やWEB媒体も気をつけてください。ゴールマウスというのはあの四角い枠の中ではなく、シュートが打てる守り手にとって危険な区域のことを言います。キーパーが守っているあのゴールの枠は“マウス=口”に見えますが、違いますからね。ただ言葉は時代と共に変化していくので、時代が受け止めれば誤用も誤用ではなくなるでしょう。本当に“口”と考えれば面白い表現も生まれてくるはずなんですけどね。」 「あと多くの解説者が異なるニュアンスを共有しているのではないかと思われる言葉のひとつに“マリーシア”があります。ブラジルでも南部でしか使わない言葉を、そこの出身であるドゥンガが使ったことで広まりました。“マリーシアがない”という本来の意味は“女性の口説き方も知らないウブな奴”というニュアンスで、“騙す”という意味とは遠いんです。相手の気を引いたり、恋の近道をすることを言うわけで、おそらくドゥンガも“まだまだ青いな”という意味で使いたかったのではないでしょうか。もっと駆け引きをしろってね。」 「世界の言葉を上手に集めて、正しいニュンスで翻訳して、まだ日本にはない考え方を理解していけたらいいですね。そのために実況もたくさん勉強しないといけません。特にこれからのサッカー文化を語り継いでいく新しい実況者はかなり戦術的なことに言及できなくてはならないと思います。そういう部分をこれからサッカーを観始める人に上手に伝えてファンを獲得していく。日本のサッカーは個で足りない部分を組織で補うスタイルなのだから、組織としてのサッカーを語れないとだめですね。」 「現在の日本代表を率いるハリルホジッチ監督についても、どんなサッカーをしているのかわからないから教えてくれ、ではなく自分の意見をまとめた上で、高いレベルの質問をして欲しいとメディアには思います。一番影響力の大きいところ、テレビやスポーツ紙などがわかっていないとたくさんの人には伝わらないんです。彼のサッカーは魅力的ではないけれども、今の批評のされ方はおかしいと思います。もちろん監督も相手を説得する努力が欠けていると思いますけど。」 ◆日本サッカー協会に物申す!! <div style="text-align:center;"><img src="http://ultra-soccer.jp/division_image/TOP/get20180331_9_tw1.jpg" style="max-width: 100%;"></div><div style="text-align:right;font-size:x-small;">(C)CWS Brains,LTD.<hr></div>――<span style="font-weight:700;">話にも出ましたが、今の日本代表をどうご覧になられていますか</span> 「ワールドカップイヤーだというのに、残念ながら街の話題になっていません。流行語大賞にサッカーの何かがノミネートされてほしいのに、不満です。ピッチ外の話題で恐縮ですが、今、大切なのはワールドカップのプロモーションです。年頭に大きく発信して欲しかったですね。とにかく今は流通イメージがぼんやりしている。日本サッカー協会と広告代理店も既に手を打っているのかも知れませんが、少なくとも僕の近所の一般庶民にはまだ届いていない。近年の歴代監督って、岡ちゃん、ジーコさん、ザックさんって、親しみやすいイメージが流通してサッカーファン以外にも好意的に受け入れられていました。でもハリルホジッチ監督はそうではない。怒っているイメージ?記者会見でも自分の意見を一方的に述べるだけで、記者とのコミュニケーションがとれていない。心の交流が足りないと好意的な記事もなかなか出てこないですよね。ここをサッカー協会や広報はもっと気にするべきでは?と思います。質実剛健でも硬派でもいい。とにかくなにかキャッチーなイメージが欲しい。このままではこの夏一緒に戦い辛いです」 「端から見ていると、監督と協会との距離が気になります。E-1(EAFF E-1サッカー選手権)で惨敗した韓国戦の内容も、そのあとのコメントも、韓国と日本の強いライバル関係を協会はしっかりと監督に説明していたのかな、と感じてしまいました。ただ、今はまだあまり良いイメージはないですが、ロシア大会で決勝トーナメントにまで進出できたらOKなんです。それは、ジーコさんもザックさんもできなかったこと。ワールドカップで勝つための監督、このコピーで丸く収まるかは結果次第なので、なんとか実績をと思いますが、それが叶いそうもないのなら、せめて流通イメージを上げてほしいです。多くのファンに愛された方が良くないですかって、余計な心配をしています。」 「先ほどのE-1にしても、日本開催だったのですから、早くからもっとタダ券をバラ撒けなかったのでしょうか? 事情があっても満席にすることによって、スポンサーも納得させられるし、アジアに向けての画作りという点でも価値があった。監督やチームのモチベーションだって違ったと思います」 「同じE-1を戦ったなでしこジャパンのあのガラガラぶりは可哀想です。特に初日は雨で3000人しか入らなかった。訪れたファンは本物のサポーターばかりでしょう。しかし、試合に関して協会側から発信されたのは、なでしこの試合は内容が良くなかったとか責任もとらせるとかだった。では協会はどれだけの環境を整えてあげたのか。やっているなら僕らももっと報道すべきだし、そこはやっぱりメディアとして是々非々で批判しませんか? もっと一緒に(笑)」 ――<span style="font-weight:700;">E-1の女子の取材に行きましたが、本当に日本のサポーターは少なく、決勝では逆に北朝鮮はおそらく朝鮮学校の生徒たちが応援に駆けつけて大声援を送っていたのが印象的でしたね</span> 「どちらがホームなんでしょうね。北朝鮮の子供達はどうしても日本の中では嫌な思いをすることがあるはずですが、それでも学校やグラウンドでは礼儀正しい子ばかり。取材に行った誰からも評判がいい。まとまっていますよね」 「メディアは発信の方法や仕方がどんどん変わっている。テレビが地上波放送してくれたら人気が上がるという時代ではもうありません。近しいメディアから個人のファンを取り込んでいく時代なんです。なでしこの戦いを誰かがレビューやプレビューしたものを協会は公式ページでフォローしたらいいのになと思います。選手のコメントだけがオフィシャルのページにあって、悔しいとか、次につなげられるように頑張るとか、負けたら選手は悔しいし、すまないと言う気持ちはみんな持っているものでしょう。そんなコメントばかりでは建設的な未来には繋がらないですよね」 「サッカーを取り巻くメディアのあり方ってこれじゃいけないと思っているんです。色々な話を聞くことが多いので耳年増になったのか、去年は一生懸命に老害よろしく意見させてもらったんですけど、今年はただプレイヤーとして頑張ろうと思ってます。一兵卒として何か違ったことをしようかなと。変わり者で良い。欅坂46もそう言っていますもんね(笑)」 ◆倉敷さんは野球も好き!? ――<span style="font-weight:700;">サッカー以外の実況もやられたと思いますが、その中で改めてやってみたい競技などありますか</span> 「昔、ストックカーレースの中継を担当したんです。面白かった。モーターレースってあらゆるスピードでの優劣なんですよね。3年くらい前にもやはりNHK BSでヨットレースの中継を手伝わせていただいて、こちらはスケールの大きさ、自然と真剣に向き合うことの恐ろしさが印象的でしたね。たくさんの競技を中継して来ましたが、もう一度きちんと一から勉強してみたいのは野球かな。原点回帰ですね。MLBって独特な用語がいっぱいあって面白いんですよ。」 「イチローの守備を”エリア51”と名付けたセンスが好きですね、超常現象が目撃されるラスベガスの上空を”エリア51”と呼びますが、ヒット性のあたりも掴み取ったり、長打を狙えるヒットをアウトにさしてしまうイチローの守備能力と背番号をかけた格好いい言葉です。日本でもかつては”王シフト”とか”高田ファウル”とかありましたよね。言い換えが楽しいんです。サッカーのPK戦でも最初のキッカーをトップバッターという人もいます。野球用語って溶け込んでいるんですよ。ある有名なサッカージャーナリストの方も続投に代わる言葉が見つからないとおっしゃっていました。ちなみにトップバッターはMLBではリードオフマンですね」 ――<span style="font-weight:700;">リードオフマンくらいならば日本でも耳にすることは増えてきましたね</span> 「豊かな表現ができると良いですね。野球なら多くの変化球を見分けられるファンがグンと増えたらリテラシーのレベルがひとつ上がったという証明だと思います。最近は球種が多いから、フォーシーム、ツーシームなど僕はそこから勉強し直さないとダメですね。」 ◆「まず面白い人間でいたい」 ――<span style="font-weight:700;">以前からラジオに戻りたいとおっしゃっていましたが、その気持ちは今も変わらないんですか</span> 「熱に浮かされたように時々思うんです。わあ、もっと勉強しないと!なんて急にどっさり本を買い込んだりしてね。先日もそう思っていたところでした(笑)。自分が満タンでないと自信が持てないんです。語りたいくらいに充実していないとラジオってできない仕事だと思うので、まず勉強してからですね。」 「他人から見て、面白いと言ってもらえる人間でいられたらいいですね。今年はもっとインプットを増やしたい。自分がもし面白い人間でいられたら別な仕事の機会があるかもしれないと思っています。サッカーと一緒ですね。良いプレーをしていれば、他からオファーが来る。引き出しは多い方がいい、でもストロングポイントははっきりさせないといけないでしょうね。」 「93年にJリーグが生まれた頃からサッカーの実況をしています。当時は一番若手だったのに今では自分よりベテランの方にはなかなかお会いしなくなりました。様々なサッカー界の変化も目の当たりにし、まだ大きく変化しています。実況者はやがてスカイプなどのツールで、解説者とは違う場所で中継を行う時代もやってくるでしょうね。まだ引退はしませんけど、新しいステップを踏むであろう後進にエールを送ります。スポーツ実況界にも新しいスターが欲しいですね。前衛か土着か。進化が一番ゆっくりしているのはNHKかな。現在のNHKのサッカー中継スタイルは多分野地(俊二)さんのスタイルですから、もう長く続いてます。起伏の付け方など、どなたもそっくりです。同業者の仕事って気になるものなんですよ」 ――<span style="font-weight:700;">この5回のインタビューで本当に勉強になるようなことをお話しいただきました。倉敷さんのように強く自分を持っていらっしゃるのであれば、実況だけでなくメディアとして発信することは考えていないのですか</span> 「編集担当の方がゆっくり育てて下さっているのに甘えてばかりいたものが、もうすぐ発表できるはずです。書下ろしです。表紙だけは最高の出来だと思いますので、その節はよろしくお願いします(笑) 」 ▽全5回のインタビューを終え、改めて倉敷さんの魅力を大いに感じた。画一的な中継では面白みに欠けるからこそ、オリジナリティを追い求める。そういった中で、中継では視聴者のリテラシー向上を考え、さら少しでも現地の“空気”に近いものを感じてもらおうとその国の言葉をチョイスして視聴者を楽しませてくれる。 ▽そのようなこだわりを持って長年サッカー中継の実況者を務めているのは、サッカーが『好き』だからだろう。サッカーが『好き』だからこそ学び、『好き』だからこそもっと良くしたいと思う。そのような情熱を持ちながら、少しずつ変化を加え、これからも実況席から試合を届けてくれるに違いない。実況者である倉敷さんの思いを感じながら試合を観戦すれば、今まで気づけなかった新たなものが発見できるだろう。 2018.03.31 12:30 Sat
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【クラッキーの実況席の裏側】倉敷さんが大事にする『言葉』。サッカーに関するワードが少ない日本で『言葉』を使い分ける理由とは

▽インターネットでのスポーツ中継が広まり、スマートフォンでのサッカー観戦が可能となるなど、いつでもどこでもサッカーに触れられる時代となった。そんなサッカー中継で欠かせないものの1つが実況だ。白熱した試合を言葉巧みに視聴者に伝え、その場にいるような雰囲気にしてくれる。そんな実況者たちはどんな思いを持って、それを伝えているのだろうか。 ▽20年以上もアナウンサーとして活躍している“クラッキー”こと倉敷保雄さんのインタビュー連載第3回は、倉敷さんが大事にされている言葉のニュアンスやチョイス、『言葉』に対するこだわりについて語ってもらった。 ◆サッカーを語るための言葉が絶望的に少ない ――<span style="font-weight:700;">倉敷さんはリーガエスパニョーラならスペイン、プレミアリーグならイングランドと中継に合わせて言葉をチョイスされていると思います。実況における『言葉』に対するこだわりが出てきたきっかけはどこにあるのでしょうか</span> 「欧州と南米サッカーをレギュラーで伝えられる機会を得られたので、その雰囲気をどう醸し出そうかと考えていました。そもそも日本と海外の大きな違いは、語るための言葉の量です。それはもう絶望的に違うんです。Jリーグが1993年に誕生した時には“ファーストハーフ”という言葉すら使う人がほとんどいませんでした。“前半”、“後半”だけでしたね。これは“プリメイロ ティエンポ”とか“エアステ ハルプツァイト”とか、南米やドイツでも似たような言い回しがあります」 「日本にはサッカーを伝えるための“言葉”が足りません。一方、サッカー文化の先輩である野球界には、日本人に語るための言葉が本当にたくさんあります。“ベースボール”を“野球”として日本に溶け込ませようとした先人たちの知恵と財産ですが、アメリカでは通じない和製英語の多い愉快な文化です。正岡子規さんや中馬庚さんからの歴史です」 「野球界の言葉には大きく分けて『英語を日本語に翻訳したもの』、『英語を別の英語にして作り出したもの』、そして『日本から輸出したもの』の3つがあります。例えば翻訳ものなら“盗塁”。これは“スチール”で“盗む塁"ですね。“敬遠”は“遠くに敬う”と書きますが、この言葉を選んだ方のセンスに脱帽です。うわべでは敬っているように見せつつ、関わりを持たないために遠ざける。儒家の経典や『論語』に語源があると言われています」 「英語を和製英語にした大胆な翻訳の典型は“ゲッツー”でしょう。“ゲット・ツー”から来ていますが、アメリカでは“ダブル プレイ”。でも“ゲッツー”の方が語呂も良く、音感も良いです。『三遊間の打球、ゲッツーコース』と実況すれば、みんなすぐに映像が浮かぶ。“トンネル”というのも素晴らしいセンスです。アメリカでは“ゴー スルー フィルダーズレッグ”。日本語の柔軟さですね。“三振”も“ストライクアウト”よりいい。日本は昔から海外の良さを自国に取り入れて、いずれは自分たちの文化にしてしまう柔軟さがあります」 「“サヨナラホームラン”は日本からアメリカに輸出した言葉の文化です。アメリカでは“グッバイ ホームラン"ではなく、“ゲーム エンディング ホームラン”でした。人はものに名前をつけたがる。それは愛情の表現といえます。言葉を作る面白さがもっとサッカーにも広がっていけば、人気も親密さも、もっと出てくるという思いがそもそもの始まりです」 ――<span style="font-weight:700;">サッカーの実況を始められた当時、言葉のチョイスに関してのこだわりはありましたか</span> 「ポルトガル語であっても、スペイン語であっても、短い音のものをなるべく選んで、わざとチャンポンにして使っていました。どの言葉にファンが反応するのかを知りたかったからです。違和感のある中継は、特にちゃんと喋れる方たちにとっては、発音が気になる、混ざっているぞ、と指摘したくなる。しばらくすれば批評が始まることはわかっていました。一部のコアなファンが反応し始めた時点で、今度はあっさりと日本語に戻してみる。そんな揺れ動かしをしながら、日本で生きていける生命力の強い言葉を探して、普及させられたら良いなと考えていました」 「愉快な表現も多いラテン系だけでなく、時々はイングランドからも言葉を探しています。フットボール発祥の地なのに意外とスルーされているんですよ。コーナーキック時によく使われる“インスイング"、アウトスイング“という球質を表す言葉にしても、日本ではここ5、6年の間に普及した言葉です。イングランドでは現在も当たり前に使われている言葉ですが、日本では昭和に発行されたサッカー専門誌にその表現が紹介されて、そのまま放置されていました。そこでそれを復刻させようと使い出したら、サッカーを語る言葉への乾きはみんな一様に感じているわけですから、誰もがその表現を使うようになりました。遅れて日本で市民権を得た言葉ですね。"フリックオン“もそうです。それまではよく"すらす“と表現されていましたが、"スライドする“と"逸らす“で"すらす“。これは不思議な日本語です。残念ながら絶滅しそうですが、最も大きな放送局であるNHKは今でも使っていますからどうなりますか(笑)」 ◆日本語は七五調がベストなリズム ――<span style="font-weight:700;">海外の言葉を実況に用いる上での注意点はありますか</span> 「アクセントの問題があります。日本語は高低アクセント。海外の言葉の強弱アクセントと比較すると、残念ですが日本語のアクセントはスポーツ中継にメリハリをつけるのに向いていません。特に短い言葉、選手名などですね。例えばシュートを撃った選手がファン・ニステルローイだったとします。海外アクセントなら、蹴った瞬間を“ファン・“ニ"ステルローイ!“とボールの強さや球種のニュアンスをシンクロさせて表現しやすい(「ニ」にアクセント)」。でも、日本語の高低アクセントにこだわると語尾の上げ下げで工夫するくらいしかできない。中継では細かいニュアンスを一瞬で伝えられるテクニックの種類を限定したくないので、アクセントの違いは今でも悩ましいです」 「では、強弱のつけにくい日本語の中継でどうやって音感を作るか? という課題ですが、アクセント自体をあやふやにしてしまうテクニックがあります。例えば“右サイドバック"という単語は日本語と英語がくっついた造語です。野球でも「“アベックホームラン"という言葉がありますね。この場合、“アベック"はフランス語で“ホームラン"は英語、日本はそのあたりが柔軟です。造語を受け入れるなんて造作もないという歴史がある。高低アクセントと強弱アクセントの単語を組み合わせることでリズムが作れます」 「造語を作らずとも、現地の単語を日本語の中継に入れ込んでしまうだけでもリズムは作れます。例えば、サイドバックという単語はポルトガル語なら「ラテラウ」。右サイドバックなら“ラテラウ ヂレイト”、左なら“ラテラウ エスケルド”。それらを中継の中に適宜、混ぜ込むことで音感が作れます。日本語にはない"音“も増やせて、豊かな表現ができる可能性が出て来る。言葉のバリエーションだけでなく音の種類も増やすために、強弱アクセントを高低アクセントに混ぜ込むんです」 「中継に於いて“メロディをつけて歌う”ことは難しいけれど、“詠う”とか、“謡う”やり方はあるんです。フーテンの寅さんの口上のような“七五調"がリズムとしては面白い。やはり日本語に合うんですね。『見上げたもんだよ、屋根屋のフンドシ』、『粋な姐ちゃん、立ち小便』。本当はそうやりたいんです。他にも『母を訪ねて三千里』『Dr.スランプ、アラレちゃん』『タネも仕掛けもありません』なんて言葉も七五調なんですよ」 「一方で、まだ日本では使えない言葉もあります。サッカーを語る上で海外には存在しているのに日本では使い辛い言葉、それは内容の乏しい試合を表現する言葉です。海外のコメンタリーのように「しょぼくれた試合でした」「しみったれた90分でしたね」と言っていいのかどうか。“批評"と“批判"を混同して客観的な指摘に関しても怒る人がいるでしょうね。だからオブラートに包む必要があります。「赤ん坊がすやすやと寝息をたてているような試合」=「つまらなかった試合」といった具合です。エモーショナルな試合を讃えるステレオタイプの常套句は溢れるほどあるのに、逆の試合を伝える言葉はまだ不自由ですね」 ◆現地で触れて言葉を学ぶ ――<span style="font-weight:700;">そういった日本にないサッカーの言葉はどこで学ばれていますか</span> 「以前にもお話ししましたが、僕の海外サッカー中継はオランダとブラジルのリーグ戦から始まりました。欧州サッカーの仕組みはオランダサッカーから色々と学べましたが、現地の放送は比較的オーソドックスなもので、オランダでの用語もそれほど取り入れることはできませんでした。大きく影響を受けたのは南米のサッカーでしたね」 「当時、解説を担当された向笠直さんとアデマー・ペレイラ・マリーニョさんにはたくさんのことを教えて頂きました。サッカーに関する言葉もそうです。たどたどしくても使ってみたいと頼んで発音も教えてもらいました。それとは別にアルゼンチンサッカーを担当する機会もありました。依頼してきた制作会社に資料が欲しいとリクエストしたら、どう解釈してくれたのか、現地の中継音声を翻訳して全て書き起こしてくれました。目から鱗が落ちましたね。こんなに踏み込んでいいんだと」 「もう20年以上も前のことです。それはたくさんの切り口を視聴者に与えるコメントの嵐、コメンタリーはプレーの是々非々を自分だけの表現で繰り返していました。発見は末端にまで及んで試合後の選手インタビューまで続きました。日本におけるヒーローインタビューの多くは差し障りのない当たり前のことしか聞きませんが、アルゼンチンでは試合直後の両チームの選手に視聴者が一番聞きたいことをズバリと尋ねます。“何故負けたと思う? あなたはまったく機能していませんでしたね?"そんな感じです。日本ではお馴染みの「サポーターに一言」などありません。もし訴えたいことがあれば選手が自発的にサポーターに呼びかけます」 「アルゼンチンには背番号へのこだわりも残っていて、ポジションを表す言葉やプレーを表す単語が面白かったですね。慣用句も勉強になりましたし、実際に使ってみました。オンエアが終わった数日後にアルゼンチンの中継が面白かった、と師匠筋であるお二人に話すと倍返しでブラジルサッカー文化を聞かされたのも愉快な経験でした」 「振り返れば、2002年のワールドカップを前にした頃のスカパー!は色々な国のサッカーを放送していました。南米のリベルタドーレスカップや各大陸の予選はもとより、欧州リーグのドイツ、スペイン、トルコ、ポルトガル、オランダ、フランスなどの放送があり、僕の書棚には各国の辞書がどんどん増えていきました。90年代の初めからインターネットを活用していましたが、当時はまだかなりアナログな時代です。情報は今よりはるかに少なかった。でも、今は多すぎてむしろ苦しい。情報が存在する以上、調べないことは怠慢になるからです」 「ここ数年で海外サッカーを実況する若い方も増えました。競争は良いことだと思います。ただ、この世界に遅く来たから損しちゃったね、と言うか、制作にそれなりの予算を組むということが減ってしまった今の時代は、現地中継や海外取材など本場のサッカーに触れられる機会が激減しました。現場取材はリアリズムを産む貴重な経験です。本物に触れるためには海を渡るしかない。たくさん経験した方がいい。僕も当時から自分のお金で行くだけでは足りなくて、どうやって他人の財布で行こうか必死に考えていました(笑)」 ――<span style="font-weight:700;">これまで、どれくらいの国を訪れているのでしょうか</span> 「うーん、ブラジル、アルゼンチン、ロシア、フィンランド、チェコ、ドイツ、デンマーク、ポルトガル、ベルギー、オーストリア、フランス、あとどこだったかな。ああ、そうだ、J SPORTSの『Foot!』という番組でスタジアム巡りの企画をやったんです。だからイタリア、オランダ、スペイン、イングランドに関しては訪れたその年に1部リーグにいたクラブのスタジアムは全て見ています」 「それはすべてのスタジアムで試合を観戦した、という意味ではないんです。もちろん可能な限り試合は観ますが、試合のあるウィークエンドだけでは全てを回れないからです。大きな移動は飛行機で、あとは現地でバスや車を借り切って、まずは北から4つ、明日は真ん中5つという具合に朝から晩までスタジアムを訪ねて、写真を撮って、オフィシャルショップに寄って、サポーターと話して、パブやレストランでご飯を食べる、ワインを飲む。それだけで勉強になるんです。大気を少しだけ感じられる。スタジアムの側のパブには綺麗な花が飾ってあったな、と思い出せるだけでいいんです。出かけたその年に1部でなかったチームのスタジアムには行き損なっていますから、またコンプリートを目指したいですね。フランスやドイツもまだ回りきっていませんので、そろそろまた他人の財布をあてにしたいなあ(笑)」 ――<span style="font-weight:700;">そうやってインプットしてきた現地の言葉などを実況で使用するときに気を付けていることはありますか</span> 「まず、日本に馴染むかな? ということを気にします。あと解説者によって量は使い分けていますね。何を解説するのが得意な方か? ということを考えます。ジャーナリスト系の方なら情報や文化を語るから言葉は重要なキーワードになる。でも技術を伝えられる方とご一緒するときには意識して海外の用語を使わないこともあります。でも、少しは入れる。現地の香りがすっかりなくなるのは残念な気がしますからね」 「視聴者の方にもできれば慣れてもらう。言葉は世界を知るキーワードです。市民権を得られないなら潔くやめる勇気も大事ですが、バリエーションもありますからね。いろいろ試してみる。例えばブンデスリーガにも言い換えの表現はたくさんあって、フォワードなら“アングリッフ"“シュテルマー"“トーアイェガー"とか、ほかにもあります。ドイツに詳しい方が解説者ならばそんな話も膨らむはずなんです」 ◆海外とは違ったJリーグの難しさ<div style="text-align:center;"><img src="http://image.ultra-soccer.jp/800/image/get20180125_1_tw2.jpg" style="max-width: 100%;"></div><div style="text-align:right;font-size:x-small;">(C)CWS Brains,LTD.<hr></div>――<span style="font-weight:700;">言葉の面で言えばJリーグの難しさもあるのではないでしょうか</span> 「どんな言葉を使えば“只今発展中"の僕らの文化を伝えられるのか? 現在のレベルをどう伝えるかが難しいですね。少し前のデータですけど、スカパー!の契約者でみる限り海外サッカーファンとJリーグファンってあまり被らない。どちらも好きという人はそんなに多くはないんですね。海外リーグも担当している実況者としては現在のJリーグの実力を海外と比較して伝えたいんですが、言葉選びがとても難しい。クロスの精度と角度、タイミングなどがチャンピオンズリーグのファイナリスト並だと感心しても、それをストレートに言っても伝わらない。ジレンマです。それならあっさりと比較を諦めて『さぁどうだ!? これはどうだ?!』と盛り上げ中継をしたほうがましかも知れませんが、それでは視聴者のリテラシーはいつまでも上がらない」 ――<span style="font-weight:700;">そういう意味では言葉のチョイスに関しても海外の中継とは変えられているのではないですか</span> 「Jのサポーターはクラブと選手を溺愛する傾向があるので、かなり悪いプレーでも真綿に包んだ言い方をすることはよくあります。でも、そろそろ“批評”と“批判”がわかるようになってもらいたいですね。わかっている人も多いんですが、このままではやがて誰も何も言わなくなります。それはつまりマイノリティに落ちたということなんです。怖いですよ。DAZNに加入していてもJリーグの全ての試合を見る人は殆どいない、僕の周りは、ですけどね。ここが海外サッカーファンとの違いのひとつです。熱心なサポーターほど贔屓のクラブだけをディープにみる傾向にあるからJリーグのファンは共有する認識に薄いという弱点があるんです。他のクラブがどんなサッカーをしているかにはあまり興味がないみたいなんです」 「Jリーグは、組織として、多くの新しいファンを増やすために、プロモーションのやり方を変えなければいけないんじゃないでしょうか。簡単です。しっかりした骨太のプレビュー番組、レビュー番組を作って、最初に熱心なJリーグファンの共通認識や各クラブの立ち位置を明確にすることです。それだけで道は拓けます。開かれた環境で『この選手のここが良かった』、『良くなかった』と討論する、SNSも上手に活用して、WEBのこの超ワールドサッカーのようなメディアも巻き込んでいくことが大事なんじゃないかな、と思っています」 ◆日本語の豊かさと不真面目さが面白い ――<span style="font-weight:700;">これほどまでに“言葉"を大事にされる理由はどこにあるのでしょうか</span> 「一言で言えば面白いからです。言語が好きだからです。子供の頃から、ボールを蹴る時間よりも遥かに長い時間、本を読んでいた実況者です。子供の頃からずっと、物語の世界観を作り出す“言葉"のパワーに魅せられているんです」 「せっかく日本に生まれたのですから、あやふやで柔軟で臨機応変な日本語の豊かさと不真面目さを満喫したいです。実況者の楽しみは“言葉"を自在に操れることです。実況ってラジオのディスクジョッキーのような感じなんです。試合という旋律は決まっているので、かけるレコードやCDは変えられませんが、旋律に装飾音符を入れたり、ハミングしたりすることはできる。選択肢のない常套句の中にも、そっと自分が選んだ言葉を紛れ込ませる快感。そういういたずらっぽさができる仕事だから好きなのです」 「ただ、“言葉”には恐さもあります。言霊って、プラスだけではないんですよ。一旦口にしてしまえば消すことができません。放送業界には『アナウンサーに消しゴムはない』という言葉があります。たとえ日本時間では深夜未明のゲームでも、1日3本目の実況でクタクタでも、引き受けた以上言い訳はできません。言い訳したくとも口にした言葉には責任があるんです。ボールが動くたびに次から次へと口に出さなければならないのが実況。だけど、心に響く言葉、強いパワーを持つ言葉、やがて死んでいく言葉、どれもみんな愛おしいと思って喋っています」 ▽目の前で展開され、目まぐるしく変化する状況を視聴者に伝える役割である実況者。倉敷さんは、その中でも『言葉』へのこだわりを持ち、その試合の熱量や香り、空気を視聴者に伝えられている。試合内容だけでなく、倉敷さんが使う『言葉』を意識して中継を見れば、より一層面白さが伝わるのではないだろうか。次回は、長年勤めてきたサッカー実況に対するこだわりやその魅力について語ってもらう。 2018.01.31 12:00 Wed
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【クラッキーの実況席の裏側】サッカーのリテラシー向上のために中継と視聴者に必要なものとは?

▽インターネットでのスポーツ中継が広まり、スマートフォンでのサッカー観戦が可能となるなど、いつでもどこでもサッカーに触れられる時代となった。そんなサッカー中継で欠かせないものの1つが実況だ。白熱した試合を言葉巧みに視聴者に伝え、その場にいるような雰囲気にしてくれる。そんな実況者たちはどんな思いを持って、それを伝えているのだろうか。 ▽今回、20年以上もアナウンサーとして活躍している“クラッキー”こと倉敷保雄さんにインタビュー。第2回は、視聴者がサッカーにおけるリテラシーを向上させ、“スペシャルな視聴者”になるために必要なことを語ってもらった。 ◆中継に携わる方たちもサッカーのリテラシー向上が必要 ――<span style="font-weight:700;">20年以上もサッカー実況を務めていると、実況を始めた当時とサッカーに対する見方が変わってきたのではないでしょうか</span> 「全然違いますね。少しは進歩していなかったら恥ずかしい。僕の中にはサッカーを観戦する自分としての変遷とサッカー番組の作り手側としての変遷がそれぞれあります。まず、観戦する側として言えば、サッカー眼というか、サッカーそのものを観る目が変わりました。一般的にサッカー眼を鍛えるのはまず数です。たくさんの試合を多く観た方が気付くことは多い。これは絶対的なことだと思っていて、1試合観るよりも2試合観た方が上。2試合よりも5試合、5試合よりも10試合、100試合、そして1000試合。実際に現地で観たのか、オフチューブで観たのかの違いもありますが、基本は量です。グロスで勝負というか、試合を観れば観るほど観る目は変わりリテラシーも上がるのが一般的で、そういう点に於いて、自身に関してのリテラシーは以前より上がっているはずなんですけどね」 「放送を作る側、喋る側としては中継のスタイルの変化も感じています。機材も変わりました、そして手に入る資料の質も変わってきて、マイクの前で試合を観る視点も変わりました。この仕事を始めたわずか20年ほどの間で見ても、自宅でサッカー観戦する環境、得られる情報の豊かさは大きく変化しました。超ワールドサッカーもそうですが、20年前にはこんなに便利なサイトは一つもありませんでした。インターネットの普及は大きな変化をもたらしましたね。ただ現在は劣勢な紙媒体にも、当時はしなやかな文化がありました。手元に残せる楽しさが紙にはあります。アナログの良さは今でもあるので、いずれまた寄り添う時代が来ると確信しています。それにしても今は情報の刷新が早すぎますね。止まっている瞬間がないくらいに更新されてしまうので、ちゃんと誰かの目に触れているのかな?と勝手な心配をしています。情報洪水の時代になって久しいですが、何が大事なのか、取捨選択する難しさはいよいよ難しくなっているな、と感じます」 ──<span style="font-weight:700;">ありふれた情報から取捨選択をするのは難しい時代になりましたが、倉敷さんは視聴者にどのようなことを伝えたいと考えていらっしゃいますか</span> 「僕のやっている仕事は例えるなら豆腐屋さんのようなものです。未明や早朝の仕事も多いですしね。ただ、豆腐屋さんも少なくなったのでご存知ない方も多く、皆さんにうまく伝わるかわかりませんが、豆腐屋さんは毎日、前日の夜中に材料を仕込んで、朝、売りに行くんです。でも、どんなに最高の豆とにがりを選んで美味しい豆腐を作っても、夕方には鮮度が落ちてしまうから、新鮮なうちに、つまり当日に売り切らないといけない。実況の仕事も同じ、鮮度が大切、情報は日持ちがしないんです」 「前日にどういう仕込みをするかというと、最近、重要視しているのは試合の背景です。だからそこから調べます。同じ時間を視聴者と楽しむために、まず背景を伝えたい。ざっくりと全体を調べ、その中で最終的にサッカーファンの心に残るものはなんだろう?という思考をしています」 「ベーシックなところでは順位表からです。ポイントディファレンス(勝ち点差)がどれくらいあるチームの対戦なのか。戦績を調べ、複数得点の試合がいくつあり、無失点の試合がいくつあるのか。得点を取っているのは誰で、誰が警告を多く受けているのか。次にシステムを調べ、そのシステムを実践するためにどういう選手がいるのか、故障者はいるのか、などをを考えながら資料を増やすんです」 「さらに、監督は在籍何年目か、これまでのキャリアは?予算規模を考えてどれほどの戦力差があるかをはかり、そのスタジアムでの勝敗や日程面での有利不利、どのコンペティションを戦い、この試合はシーズン何試合目なのかといった試合背景を埋めていきます」 「そういったデータ的な観測からエネルギーの面と今持っているポテンシャルの面、フィジカルの強さなどの強度を、たとえばウェブ上のサッカーゲームのような見方で、測ります。それから、監督や選手のコメントを現地メディアや公式サイトのニュースで見ます。そうすると大体が見えてきますね。そして直前の試合の映像をチェックして、どういった選手がいるどんなチームなのかを自分なりに把握するわけです。」 「集めた情報はスタジオに持ち込みますが、片っ端から読んでいくことはしません。プライオリティは試合ごとに、時間ごとに、変わってくるからです。調べて、覚えて、なおかつ忘れなければいけないのが、この仕事の難しいところです」 ――<span style="font-weight:700;">それだけの仕込みをされている中で、多くの試合を担当されるということはリセットする必要があるということですね</span> 「初期化ですね。観終わった途端に忘れることも重要なんです。そうでないと次が入らないので、1日3試合を担当することはできません。特殊能力というか、もしかしたら病気のようなものかもしれませんが、僕は1試合の仕事が終わった途端にスコアも選手のこともほとんどを忘れています。覚えておこうと思わなければ観たばかりのことも忘れられる。2時間前にしゃべっていたことも1,2のポカーンで忘れてしまえます。ただ、プレー内容だけは断片的にいつまでも覚えているので、きっかけがあれば思い出せます。だから都合のいい記憶の住み分けというか、ショートタームメモリーとロングタームメモリーの使い分けができているのだと思います」 「1日何試合担当するか、何時にキックオフする試合なのかにもよりますが、特に事前に調べたデータは試合が終わるとほとんど忘れてしまいます。忘れていく能力が重要なのは実況の仕事は番組構成や時間配分など番組進行も兼ねているし、スタッフの指示などにも気を使わなければならないからです。とても気を遣うので、実際に一人で試合を観ているときの集中力に比べると、中継時は7割くらいじゃないでしょうか。つまり三割は、ただ試合を観ている時よりも(試合への集中力が)落ちているわけです。この数字はなかなかあげられない、だからそこをどう補うかの調整も大事になってきます」 ──<span style="font-weight:700;">試合を観ながら、解説者の方やスタッフからの指示までを上手く汲み取っていかなくてはいけないんですね</span> 「Jリーグは会場(スタジアム)でのライブ中継なので、現場ならではの面白さと難しさが同時進行します。オフチューブはモニター画面の中だけの話ですが、現場のスタジアムでは視野がぐーんと広くなり、隣の解説者がどこを観ているかもわからない状況になるわけです。すべての解説者が映し出されている映像に合わせてコメントして下さるわけではないですからね。だから実況は視聴者を置き去りにしないためにこれまたアレコレと気を遣うわけです、ものすごく疲れます。『この隣の人は今、どこを観ているんだろう』と (笑)」 「中継にはある程度のエンターテインメント性もないといけません。煽りすぎはよくありませんけど解説者にもそれが求められる時代です。S級ライセンスを持つ元代表の方もいれば、指導者の経験がない方もいます。いろいろなタイプの方がいます。ジャーナリストの方もいる。実況と解説に求められるものも少しずつ変わってきています」 「昔はそれほどカメラの台数は多くなかったのですが、Jリーグ中継のカメラもだいぶ増えました。良いことですね。ただ、近年の画作りに関しては海外のリーグ中継のフォーマットをベースにするようになったものの、杓子定規に縛られすぎで応用ができていません。コメンテーターと寄り添わずに『この画で撮ってください』というライセンスホルダーの本部からのリクエストが優先されています。もちろん今は成熟していく過程であり、スタッフ、キャスト全員のリテラシーを上げていく道の途中にあるものです。中継も数をこなしてなんぼなのです。だからアナウンサーも寄り添う形で進歩しなければいけませんし、コメンテーターもよりレベルの高い解説をしていかないと淘汰されるかもしれませんね。プレイ解説がより求められる時代を前に、どの情報を活かすかも変わってきます」 「本当はスタジアムに出かけて、たくさんのカメラで撮って、それを持ち帰ってから戦術を分析し、色々な角度のカメラ映像を使って、何度もリプレイ映像をインサートするオフチューブ映像を作ってみたい。もし、そんなお手本となるディレクターズカット盤を作れたら中継班のリテラシーも急激に上がるんじゃないかな(笑)。そんな贅沢な中継は一度も見た事がないと思いますが、Jリーグやサッカー協会はそういう物を作ってみる必要がある。そういう時期に来ているのでは、と僕は本気で思っているんです」 <div id="cws_ad" style="text-align:center;"><hr><a href="https://goo.gl/SbD1N5" target="_blank">倉敷さんの実況が聞ける<br />スポナビライブはこちら</a> <hr> </div> ――<span style="font-weight:700;">観戦の仕方も含めてそういうお手本が欲しいですね</span> 「そうでしょう?カメラにしてもコメンタリーにしても、望ましいと思える雛形を一度作ってみるべきなんです。チャンピオンズリーグやワールドカップはカメラの台数が半端じゃないです。スペインのクラシコは近年ですと40台の固定カメラ、監督用の追跡カメラ、ハイスピードカメラや4Kカメラ、360度のインスタントリプレイを実現する5台のカメラも設置しています。スタッフは400人を超えるそうです。凄いでしょう?ただカメラが多くてもスイッチャーの切り替えが下手なら台無しです。競技の理解度が高い国はスタッフのレベルが試聴者のレベルを押し上げているんです。世界の高級食材を揃えていたって味付けの仕方がわからないともったいないですものね。どんな料理ができあがるかはその国のシェフ次第です。ただ、基本的にはカメラが多いことは間違い無く面白みのひとつなんですよね」 ◆日本には本当のプレビュー、レビュー番組は一つもない!! ――<span style="font-weight:700;">「リテラシー」という言葉が何度か出てきていますが、日本のサッカー文化の向上につながると思われる“視聴者のリテラシー”を上げる中で、テレビ中継が抱える課題はなんでしょうか</span> 「それははっきりしています。プレビューとレビュー番組の充実です。ちゃんとしたサッカーのプレビュー番組とレビュー番組は、日本にはただの一つもありません。僕は今年、相当色々な方々に、お説教のような口調で作るべきだと繰り返したので、もはや老害のように思われていると思いますが(笑)。それでも権利を持っている方々や、放送の現場で『なんでやらないの?』、『なんで作らないのですか?』とまだ言い続けています」 「組織としてみても、個人としてみてもこのプレーが美しい。この時間に、この局面でできるこのプレーが素晴らしい。リプレイを使ったり、CGを使って、切り取った一連のプレーをきちんと解説したり、色々な角度からのカメラを使って何故?の疑問をひとつづつ解消すべく視聴者に見せてあげれば、サッカーをまだ見始めたばかりの方だってJリーグも海外のサッカーも見る目が養われてきて、もっとこの競技が面白くなります」 「日本人は知識が増えることがとても好きな国民です。NHKのエデュケーショナルテレビジョン(教育番組)的な対応が最も必要だと思います。誰かに話したくなるようなことを知ることはいつも楽しいことです。ただ、趣味の多様化や趣味に使う時間帯の違いもあって、近年は昨日観たスポーツの話をみんなですることが激減しています。テレビ全体に人気番組が減っていることもありますけどね」 「好きなものはかなり多様化した時代になりました。つまり尖ったブームやムーブメントが1つもない時代です。でも、だからこそ競技の理解度を上げることで、まだ見ぬサッカー好きは、サイレントマジョリティも含めて相当に増える余地があるはずなんです」 「だから、まず競技の理解度を上げる。隣の人につい話したくなるようなことを提供する番組があったほうが、人気は上がるでしょう? 今のままじゃ難しい。例えば、ワールドカップの抽選会で日本が対戦する3カ国が決まりました。でも、みんな対戦国のことをどれだけ知っているでしょうか。コロンビアのハメス・ロドリゲスは滝川クリステルさんと車の宣伝に出ていたので多少は知っている方がいるかもしれません。じゃあ、ポーランドのレヴァンドフスキーはどうでしょう。サッカー好きにはよく知られていますが、新橋のおじさんサラリーマンに聞いたら、答えられる人は少ないでしょう。セネガルのマネも同じ。誰だいそれ?ってリアクションが返ってきそうです」 「でも、齢を重ねても知るは楽しい。むしろ時間に余裕がある方の方が新しいファンになってくれそうです。昔リーガエスパニョーラの中継をJ SPORTSでやっていて楽しかったエピソードがあるんです。80歳を超えた女性から『今季のペップ良かったですよね』と言うメッセージをいただきました。嬉しかったな。ペップという呼び方はメジャーではなくカタルーニャ独自の読み方なんです。これまでリーガに触れる機会のなかった方が気軽にペップと呼ぶ日本のリーガ文化もいいもんだ、なんてね。楽しい仕事ができたなと実感できた瞬間でしたね。いくつになられても知識が増えるのは楽しい。素敵な時間の過ごし方はいくらもあります」 ◆観戦ノートが日本サッカーを強くする<div style="text-align:center;"><img src="http://image.ultra-soccer.jp/800/image/cws20171213_1_tw20.jpg" style="max-width: 100%;"></div><div style="text-align:right;font-size:x-small;">(C)CWS Brains,LTD.<hr></div>――<span style="font-weight:700;">最後に、視聴者がスペシャルな観戦者になるためには今後何が必要だとお考えですか</span> 「自分の好きなコメンタリー、例えば気に入った解説者を探すのもひとつの方法かなと思います。解説者の方にもそれぞれのストロングポイントがありますし、同じように実況にもストロングポイントがありますから情報が欲しい方なら情報系に強い実況者を探すのもいいんじゃないでしょうか」 「1つのリーグに特化して観る方法もあります。その国のリーグの仕組みを知り、その土地で高く評価されるサッカーにはどんな美しさがあるかを観る。隣の人がまだ知らない何かを見つけることで1つの見方が育ってくると思います。その国の文化を好きになれたらもっと楽しいですよ」 「可能なら数を観ること。1つのリーグを追いかけながら、合わせて異なるコンペティションの試合をたくさん観ることで、異なるサッカーが見えてきます。どういう違いがあるのかは、解説者の話を聞いてみましょう。解説者にも個性があります。それは何を説明することが得意かという違いです。同じ歌でも歌手が違えば印象も違うでしょう?これは絶対だ、という見方はサッカーにはありません。敷居を高く考える必要はないんです。本来はあやふやさを楽しむ競技なのです。緩く考えられれば観戦の仕方が決められると思います」 「また、映像作りをつぶさに見るのも新しい楽しみになると思います。なぜこの映像をカメラは映しているのか。それに関しての見解がいくつか見つかればそれだけで理解は深まるのです。今度は逆に『なぜこの映像を映さないのか』というリクエストも出てくると思います。いま、自分のサッカー感で見たいものはどこだろう?知りたいことはなんだろうと考えていく作業は案外面白いものです。」 「アプローチとしてはノートを作ることをお勧めします。一冊ノートを買って、書きためることでサッカー観戦の楽しさは確実に変わってくると思います。小柳ルミ子さんは本当にしっかりとノートをとられていてびっくりしました。お会いした時に見せて下さったのですが『これ、倉敷さんが言ったコメントですよ』と言われて嬉しい一方で、責任の重さも感じました。」 「自分だけの勉強ノートですから、自由に。名言に限らず、最初は監督の言葉を書き留めておくだけのコメント集のようなものでも良いですね。また、サッカー中継に出てくる頻度の高い言葉や表現の仕方などを書きためていけば、バラバラだった単語がいずれ突然つながることがあると思います。アナログなノートだからこそパラパラと読み返すのが楽しい時間になるはずです。」 「また、新しい言葉も是非覚えて欲しいです。例えばプレミアリーグを観るとしたら、可能であればイングリッシュのコメンタリーも聞いてみてはいかがでしょうか。BBCやSKYsportsのコメンタリーなどが良いと思います。海外の中継の音声にも現地で中継しているものとオフチューブがあるのですが、プレミアリーグは現地でつけているものがほとんどのはずです。どのリーグも現地で中継されているコメンタリーは達者な方が多いので、僕もスペイン語の中継は機会があればインターネットラジオで聞くようにしています。基本はリズムよく選手を追うスタイルですが、パッションが印象的です。彼らが使う単語にも興味があるので、刺激的で面白いです。」 「1つ勉強すると、次の知りたいことが見えてくる。そうしてリテラシーは上がってくるものです。楽なところから初めて、数を観る。もし、そのシーズンがつまらなかったらやめてしまってもいい、旬のものを見ることです」 「つまらないものからでも発見はありますが、料理にしても美味しくないものを食べ続けても楽しくないでしょう?。初めのうちは好きなものだけを食べていれば良いと思います。子供が好きなハンバーグとかウインナーだけで良いのです。イケメンが出る試合を観る、結果を調べてたくさん点が入る試合を観る、ご贔屓が勝った試合だけを観るなど。何か面白くなる要素を見つけて、大いに楽しんで貰いたいですね。」 ▽日本のサッカー中継に携わる方たちも試行錯誤が続く段階の中、全員で中継のお手本を作る必要性を訴えた倉敷さん。その中で、視聴者側も好きなリーグ、好きなチームを見つけてその国の文化まで含めた情報を得るために学ばなければいけない。 ◆倉敷保雄さん『スポナビライブ』出演情報 ▽12月23日(土) 20:00~ [LIVE]レアル・マドリー vs. バルセロナ 解説:中山淳 実況:倉敷保雄 現地リポート:小澤一郎 ゲスト:金子達仁 スペシャルゲスト:長澤和輝(浦和レッズ) <div id="cws_ad" style="text-align:center;"><hr><a href="https://goo.gl/SbD1N5" target="_blank">倉敷さんの実況が聞ける<br />スポナビライブはこちら</a> <hr> </div> 2017.12.23 16:00 Sat
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【クラッキーの実況席の裏側】“他とは違うオリジナリティ”人気アナウンサー・倉敷さんの人物像に迫る:後編

▽インターネットでのスポーツ中継が広まり、サッカー観戦がより身近なものになってきた。そんなサッカー中継で欠かせないものの1つが実況ではないだろうか。 ▽今回超WSでは、20年以上もアナウンサーとして活躍し、ワールドカップ決勝でも実況として活躍されているクラッキーこと倉敷保雄さんにインタビューを実施した。前編ではアナウンサーを志した学生時代、スポーツ中継がなく趣味の音楽にのめり込んだ福島での活動。さらに文化放送の記者として国会、警視庁、裁判所での取材など、サッカーとは大きくかけ離れた世界の話を伺った。 ▽後編では倉敷さんの人生の転機となった1992年について語ってもらい、いよいよサッカー中継と関わっていく。さらに2002年の日韓ワールドカップ決勝から得た充実感やアナウンサーとしての失敗談。さらに休日の過ごし方など多岐にわたって語ってもらった。 ◆人生の転機となった92年 ――<span style="font-weight:700;">文化放送での貴重な体験を受けて、次はどのような仕事に就かれたのですか</span> 「スポーツの勉強をし直そうとまた野球場に通っていました。それが92年。Jリーグが誕生すると聞いて、もしかしたらという漠然たる気持ちもありましたが、ただ、サッカーの勉強はそれほどしていませんでした。局アナ時代にサッカー中継には参加できないと早くから諦めていたからです」 「その理由は当時のサッカー中継は日本テレビ系列の高校サッカーと、NHKの天皇杯くらいしかなかったからです。日テレ系列に入るか、NHKに入るか、どちらも出来なかった時点でサッカー中継は諦めていたんです。ただ92年にはJリーグ開幕に先駆けて衛星放送の黎明期が始まっていました。先駆けがスポーツ・アイです。僕はちょっとしたきっかけでそこと仕事ができるようになるんです」 「大学の同級生で、アナウンス研究会の同期だった女性がいて、彼女は一般商社に勤めていました。その職場に英語の先生が来ていました。その先生の本職はスポーツの番組を作る事で彼女がアナウンス研究会にいたと話すと実況のできる人はいないか?と尋ねてきたそうです。『倉敷くん、やれる?』と聞かれて『紹介して』、と。スポーツ・アイは海外スポーツを中心とした放送を始めようと準備している段階でした。その英語を教えていた先生は芸能界で活動されていたキャロライン洋子さんのお兄さんの倉地 ウィリアム 浩さんという方で、彼もNHKの『レッツゴーヤング』などに出ていた元芸能人でした。倉地さんとお会いして『海外サッカーを中心に番組を作ります。放送を手伝っていただきたいのですが、サンプルはお持ちですか?』と言われ、困ったなと思いました。サッカーの中継をしたサンプルは1つもなかったからです」 「それが93年でした。Jリーグが開幕した年ですが、僕はアルバイトなど他の仕事をしながら憧れとしてJリーグ中継を観ていた頃でした。時を合わせるかのように、『ライオンズナイター』を手伝っていた制作会社の方から電話がかかってきました。Jリーグ中継を制作することになったけど人手が足りない。君、サッカー中継もできるよね?という願ってもいない誘いでした。『できます。もちろんです』と即答しました。嘘だったんですけど(笑)。チャンスを逃したくないのでにわかにサッカーの勉強を始めます。依頼された試合はいきなり生放送でした(笑)。しかも当時のJリーグは放送したものをセルビデオにして売っていました。自分が初めて実況したものが売られている。いいのかな?大丈夫かな?なんて思いながらも、振り返ることはせず、ダビングを分けてもらい、それを倉地さんに持っていったのですが、見もしないで『ではお願いします』と言われて拍子抜けしました(笑)」 ◆初めての海外取材、オランダで掴んたオリジナリティの創出 ――<span style="font-weight:700;">いよいよサッカーのアナウンサーとしての倉敷さんが登場するわけですね</span> 「そこからが僕のサッカー実況のキャリアです。当時はJリーグ中継を担当することは殆どなく、メインは海外サッカーでした。最初に担当したのがブラジルリーグとオランダリーグでこの2つが僕の基本です。南米と欧州ですね。ブラジルサッカーは向笠直さんというブラジルサッカーが大好きな大家がいて、その方にポルトガル語のサッカー用語も教えてもらい、こういう表現をしない?と唆すようにリクエストも頂きました。もう一人の師匠筋にあたるのが日産などで活躍された元サッカー選手のマリーニョさん。お二人に何を教わったかというと、まず『これくらいのレベルのシュートやゴールで絶叫するな』でした。そしたら僕は非絶叫系になっていってしまったのですが(笑)。つまり感心すべきレベルで初めて心からの声を出せ、大したことのないプレーでガタガタ騒ぐな。本物はこんなものじゃないよと教わりました」 「ラテンのサッカーは技術も文化もツッコミどころ満載で、どんどん南米サッカーに惹かれていきました。もう1つのオランダサッカーは、当時の欧州を代表するベーシックな文化でした。海外に初めて取材に行ったのもオランダでした。自分が担当するオランダサッカーを観てみたい、取材したい。現地を見ないと説得力もないと思い、取材申請をしてオランダ代表戦をアムステルダムで観ました。印象的だったのは試合より記者会見です。記者は大した質問をしません。つまらない質問だけです。どこで他社との差別化をするのかな、と思っていたらぶら下がり取材でした。自分だけのネタが欲しいから個別に捕まえて話を聞く。今では当たり前のことだと思っていますが、日本のスポーツ新聞は未だに同じ様な一面になりますね。僕は日本の取材現場も知っていますが個別の取材をせずに口裏を合わせて誰かが聞いてきたことだけを書く記者もいる。無難も良いけど、取材する権利を与えられているメディアは競争すべきだと思っています」 「そう考えるから、僕は外れていくんですかね(笑)。コンプレックスと経験、人との出会いからいろいろなものをつまみ食いしてきたことが僕のこれまでです」 <div id="cws_ad" style="text-align:center;"><hr><a href="https://goo.gl/YjjnGU" target="_blank">倉敷さんの実況が聞ける<br />スポナビライブはこちら</a> <hr> </div> ◆「日韓国W杯の決勝戦で喋れたことが自分の中でのステータス」<div style="text-align:center;"><img src="http://image.ultra-soccer.jp/800/image/cws20171115_4_tw.jpg" style="max-width: 100%;"></div><div style="text-align:right;font-size:x-small;">(C)CWS Brains,LTD.<hr></div>――<span style="font-weight:700;">前途多難な道のりでしたが、晴れてスポーツアナウンサーの職業に就かれて20年以上が経ちました。これまでに達成感や充実感はありますか</span> 「達成感とは違うのですが、Jリーグの会場に行くたびに、現場でサッカーの実況ができる喜びはありますね。遠回りをしましたが、この放送席には自分のための場所がある。実況って他のスタッフよりちょっとだけ大事にしてもらえるんです。一応、出演者ってことで。その分僕はスタッフの方々に感謝の気持ちを忘れないようにしています。音声さんやカメラさん。みんなで作り上げるのは一人でラジオを作っていた頃とは違った充実感があります。そういう自分の居場所があるのは楽しくて。コメントの内容には賛否両論あるでしょうけど、意見を言い切らないなら話題にさえのぼらない。それはパーソナリティの覚悟だと思うんです。テレビのサッカー中継はテレビなんだけどラジオ的な、モニターの向こうにいる人を意識しながらやっています」 「僕は相当な方向音痴なので、現場に出かけるまでは嫌で、かなりの出不精ですが、着いて準備さえできてしまえば、こんなに楽しい時間はないと思っています。毎回の放送が楽しみで仕方ないです。遠足もそうでした。子供の頃は行きたくないと駄々をこねていても、行くと一番はしゃぐタイプでした(笑)」 「もし、スポーツアナウンサーにとっての達成感という話であればステータスを感じられるラインがあると思います。例えば大会の決勝戦をしゃべった、五輪でしゃべったとかですね。僕の場合は2002年ワールドカップの決勝戦をスカパー!のライブ中継で原博実さんとご一緒しましたが、この時は一つの達成感を感じました。スポーツの実況者にはなれないと思っていた自分が、日本と韓国で開催されたワールドカップの決勝戦をスタジアムで喋っている。ワールドカップに於ける日本代表の初勝ち点、初勝利も自分の口で伝えられました。この仕事を引き受けてよかった、誘っていただいてありがたかったと、後からしみじみ感じましたね」 「達成感や充実感と引き換えにその時は虚脱感も凄かったですね。日本各地の会場を回って、家に着替えを取りに帰って、またすぐに出かける。その繰り返し。しかも現在のように資料映像を手軽に持ち運べる時代ではないですから大変でした。まだビデオテープの時代です。担当するチームの直前の試合を行く先々のホテルでどうやって見るか?ビデオデッキを持ち歩いて、テープは届けてもらって、ホテルに着くたびに『端子はありますか』とフロントに聞く。端子がないとなるとスカパー!の方にテレビまで届けてもらったりして。それが2002年です。そこからの15年間ってすごい進化ですね(笑)。今なら全く問題ない。タブレットやスマホで見られる時代ですもん。そこは楽になりましたね」 ◆失敗体験の中で見つけたアナウンサーとしての幅 ――<span style="font-weight:700;">逆に失敗体験はありますか</span> 「資料を忘れたことがありました。全部。生中継なのに。カバンを開けると何も入っていない。どうしようかと青ざめました。気付いたのが放送30分前。本当にパニックでしたね。今のようにメールでもらうわけにもいかない時代でした。あの時はどうやって乗り切ったのかな?(笑)。とりあえず解説を最大限に活かしました」 「ただ、普段自分が5段階あるうちの「4」でやっているとしたら、「4」から下に落とすことは簡単です。どうあがいても「3」にしかならない状態になったわけですから「3」の中継をしようと切り替えるテクニックがあります。ギリギリセーフの「可」を目指すずるいテクニックを実況者は誰も持っているはずです。困った時に使えるテクニックの一つが『これはどうですか』と解説者に振るというNHKの山本浩アナから教わったメソッドです。もっともトラさん(山本浩アナのあだ名)ほど効果的には使えません。トラさんのことも勝手に師匠筋と慕っていますが、遥か雲の上の存在ですからね。」 ◆休日に見る倉敷さんの“良いものを作る”思い ――<span style="font-weight:700;">ここまではアナウンサーとしての倉敷さんのお話をお伺いしましたが、普段の倉敷さんを知らない方が多いと思います。実際に休日などは何をなされていますか</span> 「できるだけ文化的欲求不満を解消しようとしています。中継に臨むに当たってはサッカーにかけるのと同じだけの時間を別のことにかけた方が良いものを作れると考えるからです。アルバム一枚分だけ音楽を聴いたり、本を一冊読んだり、ドラマを一本見たり、どこかに出かけたり、誰かと話したり。そんな程度のアプローチですけどね」 「スタジアムに着くまでに一曲聴いておく。すると中継に使えるかもしれないフレーズが心に残ることがあります。音楽とサッカーをつなぐアプローチですけど、前挨拶でワンフレーズを差し込んで使うことも多いんです」 「サッカーはインターナショナルスポーツです。どこの国にも競技者がいて、身近な話題になっている。その国の文化と密接に結びついています。『人類の文明は川ができると人が集まる。するとまず教会ができて、次に人々はボールを蹴り始める』。海外のサッカー好きがよく話すたとえ話ですが、確かにサッカーほど地域に根差していて、歴史のある娯楽はそうはありません」 「そう考えると歴史、音楽、食文化、建築などいろいろな切り口からサッカーが語れます。『ダヴィンチ・コード』という映画を観ることで舞台となったイタリアの街とクラブチームの話題をシンクロさせられる。ローマやフィレンツェに出かけたくなったサッカーファンがいるかもしれない。サッカーには興味のなかった旅行好きがサッカーを見てみようと思うことだってあるでしょう」 「サッカーの制作現場にはサッカーだけが好きというスタッフも少なくないんです。だから僕は若いスタッフに『サッカーだけ見ているとサッカーの面白い番組はできない。サッカーと同じだけ違うことで遊んでこそサッカーの面白さが伝えられるよ』と口癖のように繰り返しています。もはや老害です(笑)」 ◆現場とテレビではそれぞれの良さがある ――<span style="font-weight:700;">最後に実況者として、一人の人として倉敷さんが考えるそれぞれのサッカーの良さはどこにありますか</span> 「サッカーの良さはいくつかの異なる見方で楽しむことで広がることを伝えたいですね。例えばオフチューブで見るサッカーとスタジアムで観戦するサッカーはまるで違います。オフチューブ、つまり映像を現場からスタジオに送ってもらってコメンタリーをつける中継ではスローVTRが入って細かいテクニックを楽しめます。ボールコントロールのテクニックなどですね。メッシは、ダブルタッチを行う時にスパイクのどこにボールを当て、どう筋肉の緊張を強めたり、緩めたりしているのか?高画質の番組ならきれいな画面で繰り返し見られる、大きな画面なら尚更です。視聴者の方は知識が増えるのが好きなんです。技術解説や戦術解説、それが、オフチューブが進むべきひとつの方向性です。サッカーのリテラシーをあげるのに海外サッカーなどのオフチューブ放送を楽しんで欲しいと思います」 「一方で、テレビでは伝えられない致命的なものがスピード感です。一流チームのパス回しのスピードはテレビでは伝えられません。例えばカンプノウでバルセロナのサッカーを観戦すればパスレンジの長さとスピードに感嘆すると思います。足元から足元へ、30m級のパスが、パスを送る味方の利き足に正確に渡っていく。ため息が出ますよ。あれをスタジアムで見てしまうとテレビでは物足りない。その凄さをスタジアムで確認してからまたテレビで見て欲しいんです。贅沢ですけどサッカー観が変わりますよ、きっと」 「スタジアムで見て、ピッチで起こっている多くの意図や戦術に気付ける監督並みのスペシャルな観戦者が海外にはたくさんいる。僕ら日本のファンもいずれそうなるために、まずはテレビ観戦でリテラシーを上げるお手伝いがしたい。でも、自分も含めて、僕らスタッフはディレクターもカメラマンも海外と比較すれば競技の理解度がまだまだ足りないと思います。全員が揃ってその競技の理解度をあげれば、もっと違った映像、違った角度、違ったスイッチング、違ったコメント、違った解説ができるはずです。まだまだスポーツ中継は進歩できる余地が大いにあると思っています。テレビで見る面白さと、現場で見る面白さの両方を楽しんでもらえるために頑張りたいです」 ▽数々の苦難を乗り越えながらも、その先々で人との出会いやあらゆる経験からオリジナリティである“人と違うこと”を行ってきた倉敷さん。最後にはテレビで観るサッカーと現場で観るサッカーの違いに関する今後の課題を口にしてくれた。次回は、百戦錬磨の倉敷さんに、実況者として観る“サッカーの視点”について語ってもらいます。 ◆倉敷保雄さん『スポナビライブ』出演情報 ▽11月29日(水) 25:54〜 [LIVE]ストーク・シティ vs. リバプール 解説:ベン・メイブリー 実況:倉敷保雄 <div id="cws_ad" style="text-align:center;"><hr><a href="https://goo.gl/YjjnGU" target="_blank">倉敷さんの実況が聞ける<br />スポナビライブはこちら</a> <hr> </div> 2017.11.26 12:00 Sun
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【クラッキーの実況席の裏側】“他とは違うオリジナリティ”人気アナウンサー・倉敷さんの人物像に迫る:前編

▽インターネットでのスポーツ中継が広まり、サッカー観戦がより身近なものになってきた。試合を見に行けなくてもスマートフォンで簡単に観戦できる。まさにいつでもどこでもサッカーに触れられる時代となった。 ▽そんなサッカー中継で欠かせないものの1つが実況ではないだろうか。言葉巧みに目の前で繰り広げられている白熱した試合を伝え、視聴者たちをその場にいるような雰囲気にしてくれる。そんな実況者たちはどんな思いを持って、それを伝えているのだろうか。 ▽今回、20年以上もアナウンサーとして活躍し、ワールドカップ決勝でも実況としてその熱量を伝えてきたクラッキーこと倉敷保雄さんにインタビューを実施。第1回はいろいろな人との出会いやあらゆる経験、そして何よりも“他との差別化”を考えて突き進んできた倉敷さんの人物像に迫る。 ◆少年期に抱いたラジオへの憧れ ――アナウンサーとして20年以上活躍されている倉敷さんですが、この仕事に興味を持った理由は何だったのでしょうか 「ラジオ局に対する憧れが子供の頃からとても強かったんです。良く言えば控えめな少年。違う言い方なら内向的な少年でした。そんな少年にとってラジオは身近な友達でラジオの中のパーソナリティに強いシンパシーを感じていました。今でもラジオの仕事に就きたい、いきなり仕事は変えられないでしょうが、原点回帰していつかはラジオに戻りたいと思っています」 「学生時代からラジオ放送が好きだったので、しゃべる仕事というよりは放送を作る仕事、制作チームに入りたいという漠然とした思いから、放送局に対する憧れがありました。ラジオ局の職種の中で一番身近に感じている職種は何かな? と考えた時にアナウンサーかな、と感じていました。薄く、ですけれど。これがそもそものスタートでしょうね」 ◆スポーツ中継を志すもまさかの留年…さらに入社した福島では… ――幼少から興味を持っていたラジオですが、実際に人前で話す仕事に就くまでには苦労されたことも多いのではないでしょうか 「大学生の頃に大きな時代の変化がありました。フジテレビの黄金期でアナウンサーに対しての考え方、ニュアンス、イメージが大きく変わってきた時でした。それ以前の僕は『ニュース読みはアナウンサーの聖域だ』と思っていました。しかし、ニュースはタレントでも読める時代になり、80年代の時点で、もはやアナウンサーの聖域ではなくなっていました。専門職でありたいと思ってアナウンサー職を志望したのにどうしようか?と悩んでスポーツ中継に行き着くんです。これこそ専門職だろうと思いましたね。そこを目指そうとして方向転換したことですごく遠回りをするんです」 「僕は四年間で大学を卒業できませんでした。でも、もし普通に卒業して、専門学校の恩師の推薦で入社が決まりそうだったラジオ局に行っていたら……。そこはあるFM局でした。自分は音楽も好きなので、そこに入社していたら今とは違った道を歩いていたと思います。しかし、遠回り。追試を受けようとした科目の担当教授が海外に旅立ってしまい……そのまま試験は受けられず、留年となりました(笑)。学生課に出かけて事情を話しましたが『留年しかない、いうことでしょうか?』と尋ねたら、あっさり『そうです』と返されてしまい、『就職できるんですけど』と言っても、『お気の毒ですが…』、『あっそうですか』で、終わり(笑)。しかし、そのお陰でもう少し人生経験を積めたというか、多少ボコボコにされてまともな人間になってきたかなと思います」 「まず一年間、遠回りをするわけですが、当時の専門学校には自分よりもうまい人たちばかりがいました。スポーツの専門職になりたい人達と自分とはすでにこれほどまでに差がついているんだなと感じて勉強するようになりました」 「アプローチとしては、東都大学や六大学野球で野球中継の練習をしようと神宮球場に通いました。これはスポーツアナを目指す者にとってはとてもオーソドックスな練習法です。僕はその年の東都大学の試合は全試合を口に出して実況練習しました。一日2試合、火曜日と水曜日です。400円の一番安いチケットを買って、ネット裏の2階席に行き、小型のテープレーコーダーを持って一試合すべてをしゃべる。自分で聞いていて、ダメなところをチェックする。それから恩師に聞いてもらい、『ここがダメだ』とお小言を貰って、次の週にまたそれを繰り返す。“継続は力なり”ではないですが、自分の中で、人より余計に努力してきたと思えることが、試験の時に自分を支えてくれるものになりました。絶対に野球中継をするぞ、と意気込んでいたんです」 「翌年、ようやく(大学)卒業とアナウンサー試験の合格を手にすることができて、福島のラジオ局に行きました。ところが、入社した局には野球中継がなかった(笑)『神様はたくさんの試練を与えるな』と思いましたね」 <div id="cws_ad" style="text-align:center;"><hr><a href="https://goo.gl/cRzTjE" target="_blank">倉敷さんの実況が聞ける<br />スポナビライブはこちら</a> <hr> </div> ◆スポーツから大きく離れるも培われた他と違うことをやる姿勢<div style="text-align:center;"><img src="http://image.ultra-soccer.jp/800/image/cws20171115_2_tw.jpg" style="max-width: 100%;"></div><div style="text-align:right;font-size:x-small;">(C)CWS Brains,LTD.<hr></div>――福島ではスポーツ中継ではなくどのようなことをやられていましたか 「スポーツ中継は競馬だけでした。でも視力が悪かったこともあって、中継を楽しむまでには成長できませんでした。年間に数週間しか開催期間はありませんでしたしね。そして代わりに音楽番組の制作にはまっていったんです。入社して半年もすると、このラジオ局は自主制作番組が多かったので君も番組を作って良いよと。これは楽しかった。どんどんのめり込んで、代わりにスポーツ中継からは大きく離れた時代でした」 「入社時からとても生意気な新人と評価されていまして(笑)。当時は確かに機会があれば一刻も早く東京に戻って仕事をしたいと思っていましたし、それを上司にも知られていました。『あいつはどうせすぐにやめる』という雰囲気の中でとても可愛がられました(笑)。音楽はとても好きだし、得意なジャンルだったので、入社してすぐに番組を担当させてもらえたのはいいんですけど、『いくらでもやりたいよな』という先輩たちの好意でどんどん仕事が増えて……勤務時間を過ぎてもなかなか家に帰れないほどの量の番組をもらっていました。いや、すごく勉強になりました。感謝、感謝です」 「で、生意気な新人はさらに先輩を怒らせます。レコード会社のディレクターに会いに東京へ出掛けたんです。もともと休みの日には東京の演劇や舞台を観に上京していました。常に文化を吸収し続けないと良いアナウンサーになれないと思っていたからです。東京へ出掛けた折には主に洋楽のアーチストを抱えているレコード会社の担当ディレクターに名刺を渡しに、就職活動のように会社を回りました。名刺を手に『音楽番組を担当しています』と話すと、『直接、プロモーションのための宣材やレコードを送りましょうか。担当番組のタイトルも入れたアーチストの肉声メッセージも必要ですか?』という仕事の話になり『ぜひお願いします』と。それを重ねていくうちに、僕の机には東京から直々に届くノベルティなどの宣材やレコードが先輩たちのそれの何倍も届くようになっちゃったんですね」すると『おまえは何をやっているんだ』とまた怒られる。こっちは怒られると思っていないので、『何がですか』と言い返すと『先輩は誰もそんなことやっていないだろう』『え? なんでやらないんですか』とまた火に油を注いで……。でも、福島では楽しい思い出ばっかりです。確かに生意気な新人だったけど、結局、すくすくと育てて頂きました。福島はいい人ばかりだったんです。」 ◆まだまだ多難なスポーツ中継への道 ――福島で音楽番組制作を行われた後はどのように進まれたのですか 「ものを作る楽しさを満喫していましたが、スポーツからは遠く離れた状況です。やがて趣味だった音楽にも番組作りに自身のマンネリを感じて来て……しばらく何か別なことをやりたいなと思っていた時に、母が病気になりました。僕は『死んでしまうならせめて最後は一緒にいよう』といきなり会社を辞める事にしました。ボーナスももらわずに慌ただしく辞めて、仕事もなかったので半年間プー太郎です」 「ただ、母はすぐに回復して、結局なんだよと(笑)。やがて文化放送の報道部が記者を探していると聞き、面接を経て、採用してもらえる事になりました。それから二年間、首都東京の報道記者としてまったく知らない道の世界を経験しました。現在スポーツの実況者で国会、警視庁、裁判所の記者クラブに入って事件現場や法廷での取材経験があるのは僕ぐらいかもしれませんね」 「わずか2年間ですが、とても勉強になりました。日本の報道の中心部の仕組みがどういうものかがよくわかりました。記者クラブの良し悪しもまたよくわかりました(笑)。今の仕事に役立っているのは、記事に関してここまでは取材していて、ここからは取材していないな、と文脈と行間からわかるようになったことです。海外の記事でも同様にこれは取材して書いている、してないというのがわかります。放送で使用するならここまでは割り引かないでコメントして良くて、ここはぼかそうと区別します。ぼかすにしても自分なりのぼかし方をしようと考えます。文化放送時代に覚えたことは今の仕事への汎用性が高くて、地方と東京、日本と海外の違いについて考えるアプローチを学んだ時間でした。みんな優秀で親切で大人が多いのが文化放送報道部だったんです。」 「別の伝手でNHKの仕事もしました。ニュース&スポーツ番組のいわゆる影読み。番組で使うVTR部分で顔出しなしで原稿読みやナレーションを入れるものなのですが、最初に『一回ミスすると二度と呼ばれないからね』なんてプレッシャーをかけられました。で、たまたま間違えなかったので(笑)その仕事は10年以上続けさせてもらえました。日本の報道機関で一番大きなNHKの報道&スポーツの現場を10年にわたって見させてもらえたことも原稿づくりやVTR編集を考える際に、かけがえのない経験になりました。」 「ただ、報道も自分には向いていないと悩み始めるんです(笑)。文化放送では2年間の報道を経て半年間だけスポーツ部に行かせてもらいました。記者ではなくタレントとして『ライオンズナイター』の仕事を手伝ったんです。たが、半年間の契約でその後は延長してもらえないとわかっていました。それでもスポーツの現場に行きたいという思いが再び高まっていたんですね。Jリーグの誕生も近づいていましたからスポーツの制作現場に飛び込むならこのチャンスだと思い、パートタイムでNHKの仕事を手伝いながらも基本はスポーツ中継の勉強に明け暮れるプー太郎になりました」 ▽学生時代の留年、福島での音楽番組の作成、国会、警視庁、裁判所での取材経験など、ここまで全くサッカーと関りがない倉敷さんですが、どのようにしてサッカーの実況者となっていくのだろうか? 後編では倉敷さんの転機となった1992年の話、2002年の日韓ワールドカップでの充実感、そしてアナウンサーから離れた倉敷さんに迫る。 ◆倉敷保雄さん『スポナビライブ』出演情報 ▽11月29日(水) 25:54〜 [LIVE]ストーク・シティ vs. リバプール 解説:ベン・メイブリー 実況:倉敷保雄 <div id="cws_ad" style="text-align:center;"><hr><a href="https://goo.gl/cRzTjE" target="_blank">倉敷さんの実況が聞ける<br />スポナビライブはこちら</a> <hr> </div> 2017.11.25 12:00 Sat
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