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【座間健司の現地発! スペインの今】カタルーニャの独立を他州はどう見ているのか?

▽バルセロナの中心街は、日曜日だというのに多くの人で賑わっている。普段なら日曜は休業だが、書き入れ時のクリマスに向けて、12月は百貨店、ショップが開いている。プレゼントが入った袋を持った人の頭上には、クリスマスのイルミネーションが輝いている。いつもの師走だが、例年とは異なる風景もある。街を行き交う人の中に、黄色のリボンを胸につけている人が目立つ。黄色のリボンは、マンチェスター・シティのペップ・グアルディオラ監督も10月下旬頃から毎試合、胸につけている。10月16日にスペイン裁判所は、カタルーニャ州の独立を模索する組織「カタルーニャ国民会議」代表のジョルディ・サンチェスと「オムニム・クルトゥラル」の会長ジョルディ・クイシャルトの2人を扇動罪容疑で拘束した。「ジョルディたちに自由を」黄色のリボンは独立運動を扇動した政治犯として投獄された2人のジョルディの保釈と無罪を、そして自由を訴えるキャンペーンの象徴となった。11月2日に裁判所は、独立宣言の翌日にはブリッセルに飛んでいた州政府の元首相ら5人に逮捕状を請求し、副首相ら州政府の元幹部ら8人を拘束した。今では彼らの釈放と自由を訴える意味もある。 ▽12月21日にカタルーニャ州議会選挙が行われる。ブリュッセルに滞在する元首相ら州政府主要役職らも選挙に立候補した。10月1日の強行した住民投票では投票率が約40パーセントで、そのうち90パーセント以上が独立支持と州政府は発表した。独立に反対する人は違憲の上で行われたものと理解しており、投票に行っていない。よって12月の州議会選挙は史上最高の投票率になるだろうと予想する声が多い。なぜなら独立に反対の人が、独立不支持の政党に票を投じると推測されるからだ。独立派が今まで大きな声を出していたが、独立反対派もスペイン国旗を掲げて、大規模なデモを行うなどついに主張を始めた。10月8日にバルセロナで行われたスペイン結束を訴えかける大規模なデモにはスペインプロリーグ機構(LFP)のハビエル・テバス会長も参加した。 ▽独立反対のボリュームは、なぜこれまで小さかったのか。ひとつの要因として挙げられるのが、反対を支持すれば、かつて独裁でカタルーニャ自治州を弾圧したフランシスコ・フランコの思想、つまりファシズムに思想が近いフランキスモを支持と混同されるため言いにくかった。公言できなかった。「独立反対=ファシズム」ではない。主義、主張、思想、言論、信仰に自由はあって当然だ。独立派が言う自由は、あって然るべきだと考えているが、スペインからは独立したくないと考えている。だが、独立を主張する人の中には「独立反対=ファシズム」と短絡的に結びつける人がいる。またバルセロナには仕事を求めて、移住してきたアンダルシア州や他のスペインの地域にルーツがあるカタルーニャ人も多い。カタルーニャ人と言っても、ルーツはそれぞれだ。今まで黙っていた独立反対派の彼らの声が、12月21日に行われるカタルーニャ州議会選挙では今まで以上に反映されるだろうと予想されている。 ▽カタルーニャ州独立問題は、国民を辟易とさせた。住民投票が強行されてから、国内はこの話題一色だ。バレンシア州の友人たちとこのテーマについて話せば「本当にしつこい」「面倒だよ」という意見は多く、独立を声高に求めるカタルーニャ人をまるでクレーマーのように冷めた目で見る人もいる。 ▽どこの国でも同じだが、スペインにも各報道機関には編集方針という名の色がつく。スポーツ紙で言えば、その立場は鮮明だ。レアル・マドリード寄りの「マルカ」「アス」があり、バルセロナ寄りの「ムンド・デポルティーボ」「スポルト」があり、バレンシアは「スーペル・デポルテ」があり、セビージャ、ベティスには「エスタディオ・デポルティーボ」が存在する。政治報道も同じだ。中央政府寄り、カタルーニャ州政府寄りのメディアが存在し、互いが互いに自分たちに有益になるようなニュースを報じる。同じ物事でもアングルを変えて伝える。世論調査では自分たちの不利な数字は発表しない。デモの参加者の数もメディアによって違うのはもはや当たり前だ。自己批判をしない中央政府や州政府の政治家と同様のことを報道機関もやっている。ただ自分たちの主張を貫き通すだけで、何の解決策も見出そうとしない。問題はそんな情報を受け取る投票権を持つ人にまでその姿勢が伝播していることだ。独立反対派の人は自分たちの耳触りのいい中央政府寄りの報道だけを聞き、独立派の人は気持ちよく、かつ独立に奮い立たせるカタルーニャ州政府寄りのニュースだけを読んでいる。「ほら、こんなことを書いてあるよ」とニュースページを見せると決まって「どこの記事だ」とメディア名を訊かれる。情報過多の21世紀において、全ての情報を取り込んで、自分なりに見極めるリテラシーが必要なのだが、ほとんどの人は情報の取捨選択に疲れてしまったのか、自分の好きなメディアしか読まない。そんな他人の意見を尊重しない構図を憂い、心を痛めている友人もいた。 ▽カタルーニャ独立と同時にバルセロナのリーガ離脱の可能性も併せて報じられている。では、彼らの最大のライバルであるレアル・マドリードは、このニュースをどう見ているのか。フロレンティーノ・ペレス会長のコメントがスペインデジタル新聞「エル・エスパニョール」の引用として、10月18日のスペイン紙「スポルト」に載っていた。 「カタルーニャなしのスペイン、バルサがいないリーガも考慮していない。ただ考えたことがないことを答える力を私は持っていない」 ▽スペイン代表でプレーするピケについてはこう持論を述べている。 「自分が答えるのはふさわしくないと思うが、代表にはそのチームを誇りに思っている選手が行くべき場所で、彼らは結束し、いい雰囲気をつくらなければいけない。最近のスペイン代表の試合では、私にはそういうチームに見えた。ワールドカップ予選を勝ち抜いた。今あるチームをさらに強くしていかなければいけない」 ▽さすが敏腕経営者であり、クラブの歴史に名を残す会長だ。波風が立ち、メディアが喜ぶようなコメントを避けている。10月29日にレアル・マドリードはジローナとアウェーゲームを戦った。ジローナは住民投票を強行した前州政府首相の出身地であり、かつては市長も務めた。カタルーニャの中で随一の独立意識が高い地域だ。ゆえにスタジアムは異様な雰囲気になるだろうとメディアは懸念したが、レアル・マドリードに対して、特に危険な事態は起こらなかった。スペイン紙「マルカ」の電子版が試合前にレアル・マドリードのバスが無事に会場に到着したと報じるとそのニュースのコメント欄には「そうやって事態を深刻化させようとあおるのがこういうニュースを報じるメディアだ」と書かれていた。中には気づいている人はいる。試合はクラブ史上初めて今シーズン1部を戦うジローナが、昨季王者に勝利した。するとブリッセルに滞在する前首相はすかさず「世界のビッククラブのひとつに対するジローナの勝利は、多くの状況に対するひとつの模範だ」とツイートした。フットボールはこうやって政治に利用される。カタルーニャ州政府だけではない。中央政府も含めて、こういう政治家の姿勢が未曾有の混乱を生み出す一因となった。座間健司(ざま・けんじ) 1980年7月25日生まれ、東京都出身。2002年、東海大学文学部在学中から「フットサルマガジンピヴォ!」の編集を務め、卒業後もそのまま「フットサルマガジンピヴォ!」編集部に入社。2004年夏に渡西し、2012年よりフットサルを中心にフリーライター&フォトグラファーとして活動を始める。 2017.12.04 16:30 Mon
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【座間健司の現地発! スペインの今】カタルーニャ独立、サッカーに及ぼす影響

▽2017年10月1日、スペイン北東部のカタルーニャ州は異様な雰囲気だった。この日、カタルーニャ州政府は、独立の是非を問う住民投票を強行した。1978年制定のスペイン憲法155条には「自治州が憲法を違反をした場合、もしくはスペインの統治をいちじるしく脅かした場合に、政府の直接統治が可能になる」という趣旨が記されており、独立を問う住民投票は、違法だと憲法裁判所は判決を下していた。カタルーニャ州政府はその判決を無視し、2014年に続き、住民投票を強行した。対して中央政府は国家警察を送り込み、投票所にある投票箱や投票用紙の回収、身元確認のインターネットシステムの遮断など投票阻止を行った。そして投票箱を回収しようとする国家警察と住民の衝突が起こり、警察が市民に暴力を振るう映像がSNSを中心に世界中に拡散された。カタルーニャ州政府は衝突により844人が負傷し、また約534万人の有権者の内、226万人が投票し、独立賛成が90パーセントに達したと発表した。とはいえ、同じ人間が多くの投票を行ったり、投票用紙がばらまかれたりと信頼できる数字ではない。 ▽今も続く混沌とした毎日が始まったのが、この日だった。 ▽それから約1カ月、カタルーニャ州政府は住民投票の結果を手に交渉しようとしたが、中央政府は違憲だと突っぱね続けた。すると10月27日にカタルーニャ州政府は、独立宣言を州議会の投票で賛成可決した。その結果を受け、すぐさま中央政府は議会で155条を実施を賛成多数で可決させた。カタルーニャ州議会は解散され、12月21日に議会選挙を行うことを発表した。 ▽そもそもカタルーニャの人たちは、なぜ独立を訴えるのか。 ▽カタルーニャはスペイン継承戦争の末、1714年9月11日にスペイン軍に制圧された。バルセロナの本拠地カンプ・ノウでは、17分14秒にスタンドから独立を求めるコールが起こるが、制圧された年号に由来する。1939年から1975年の独裁者フランコの体制下では、厳しい弾圧が行われた。自治権は剥奪など政治経済だけではなく、言語、音楽などの地域特有の文化も禁じられた。そんな時代にあってカンプ・ノウはカタルーニャ語を自由に話せる場所であり、クラブはカタルーニャ民族主義を示す存在でもあるので「クラブ以上の存在」というスローガンがバルセロナにつけられた。 ▽このような歴史的背景があり、カタルーニャ州は独立意識の高い地域となった。「生まれた時から自分がスペイン人とは感じられない」とアイデンティティの違いを訴える人も多い。だが1990年代、2000年代はバルセロナ自治州大学の統計によると独立に賛成の人は、30パーセント代がほとんどで、50パーセントと言われる今ほど多くなかった。独立運動の激化の引き金となったのは、リーマン・ショックだ。 ▽もともとカタルーニャは、中央政府から還元される金額に不満を持っていた。スペイン第2の都市であるバルセロナは、スペイン紙『エル・ベリオディコ』に掲載された2015年のデータによれば、3番目に多くの税金を納めている自治州だ。対して、還元されている額は上から10番目の州だった。この分配にカタルーニャ州の独立派の人は、かねてから不満を持っている。ちなみに1番税金を収めているマドリード州へ還元される額は、11番目とカタルーニャよりも少ないが、こういった事実は彼らの目には止まらない。そんな不満を抱いていたところに、リーマン・ショックが起こり、当時建築バブルだったスペインは一気に傾き、不動産が暴落した。経済危機に陥り、失業率は30パーセント近くになり、20代、30代の失業率に至っては、50パーセントを超えた。常日頃から不満があった中央政府の税金の分配に加えて、経済危機が重なった。そして、カタルーニャ州政府やカタルーニャを拠点にするメディアは、この機会に乗じて、独立を喧伝した。 ▽盛り上がる独立運動に対して中央政府は、カタルーニャ州政府との対話に応じず、不満のガス抜きを怠ってきた。カタルーニャ州政府も、正面から中央政府のドアを叩くだけで、他のルートを探すことを怠り、違憲と分かりながらも、住民投票を強行した。両者に有能な政治家がいないこともあり、政局は戻ることができないところまで来てしまった。 ▽スポーツと政治は、切り離せない。過去のオリンピックやワールドカップを見れば分かるように、政治がスポーツを利用し、国民を扇動し、注目が集まる大一番ではスタンドに政治的なメッセージが掲げられた。レアル・マドリードを迎えたカンプ・ノウでは「カタルーニャはスペインではない」という観衆の横断幕は、その典型だ。 ▽さらに政局は、スポーツに影響を与える。 ▽バルセロナは住民と警察の衝突が起きた住民投票の日に、ラス・パルマスとのゲームがカンプ・ノウであったが、試合開始15分前に無観客試合を突然発表した。住民投票による異様な雰囲気もあり、スタンドで騒動が起こる危険性は高い。とはいえ、試合を中止にすれば、プロリーグ機構から勝点を剥奪する可能性があると警告された。そこで苦肉の策として、無観客試合を決めた。この決断に「住民が警察と衝突した日に試合をしている場合ではない」「クラブ以上の存在と唱えるクラブならば、勝点をいくら剥奪されてもいいから試合をすべきではなかった」と地元メディア、大多数のソシオは失望した。 ▽試合後に住民投票の正当性を訴えたピケは、翌日マドリードで始まった代表活動に参加すると罵声を浴びせられ、ワールドカップ予選のアルバニア戦でホームにも関わらず、彼がボールを持つ度にブーイングが起こった。ピケはカタルーニャ州の独立を支持するとは公の場で一度も明言したことはないが、その言動から独立派だと認識されている。 ▽ピケが所属するバルセロナも同じだ。カンプ・ノウでスタンドから独立コールが起こるように主張ははっきりしているように見えるが、独立を支持するとクラブは公言していない。ただ10月18日のチャンピオンズリーグのパナシナイコス戦では「対話、尊敬、スポーツ」という45平方メートルの横断幕を掲げるなど独立派の人たちに寄り添うメッセージを発信した。その一方でバルトメウ会長は以前は独立したら「バルセロナはエスパニョールとジローナと同じところでプレーする」と言葉を濁していたが、最近は「我々はリーガで戦いたいと望んでいる」と表明するようになった。 ▽なぜ変容したのか。 ▽チャンピオンズリーグでも今のように常に優勝候補でいるのならば、バルセロナには大きな予算が必要だ。仮にカタルーニャが独立し、バルセロナがエスパニョール、ジローナくらいしかライバルがいない競争力が低い国内リーグを戦うとなれば、リーガにいるほどの巨額の放映権料は手にできないことは確実だ。約200億円近い放映権料は、カタルーニャ州リーグだけでは、手にできない。ほんの10年前には胸にスポンサー名が入ることが大きな議論となったが、今ではソシオの誰もがそれを受け入れている。なぜなら巨額のスポンサーがなければ、メッシなどスター選手を抱えられないからだ。今ではネーミングライツを売り出そうと計画するなど収入を増やすことに必死なのだ。そんな状況下で、もしリーガを離れ、放映権料など失うことになれば、バルセロナは欧州の強豪ではなくなってしまう。そう算段しているからこそ、バルトメウ会長の言葉も変わってきたのではないか。それはエスパニョール、ジローナにも言えることで、カタルーニャ州の独立が地元クラブにもたらす恩恵はないのかもしれない。【座間健司】1980年7月25日生まれ、東京都出身。2002年、東海大学文学部在学中から「フットサルマガジンピヴォ!」の編集を務め、卒業後もそのまま「フットサルマガジンピヴォ!」編集部に入社。2004年夏に渡西し、2012年によりフットサルを中心にフリーライター&フォトグラファーとして活動を始める。 2017.11.05 12:00 Sun
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