「ムダなパス」の先にあった一本。田中碧の縦パスが示した“強豪国”への道

ワールドカップで強豪国になるために必要なのは、強豪国相手に勝つことだけではない。

引いて守る相手を崩し、主導権を握りながら勝ち切ること。チュニジア戦の4-0というスコアには、日本代表が積み重ねてきた進化が詰まっていた。

その象徴が、69分の3点目だ。

田中碧の縦パス、上田綺世のワンタッチフリック、伊東純也の抜け出し。わずか数秒で完成したゴールは、3人のイメージがぴたりと重なったからこそ生まれたものだ。

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「チュニジアはどうしたいんだろうね」

正直に告白する。僕は、日本の3点目を見逃した。

正確に言うと、伊東がGKとの1対1を制してゴールネットを揺らした瞬間は見ている。ただ、そこに至るまでの一連の流れを見ていない。せっかく日本から何千キロも離れたメキシコ・モンテレイまで来たというのに、なんてこった!記者として、痛恨のミスである。

だが、記者席のモニターでリプレイを見た瞬間、その”見逃した数秒”にこそ、日本代表の進化が詰まっているように思えた。

後半、日本は2-0とリードしていた。チュニジアは、このままではグループステージ敗退が決まる。それなのに、前線からボールを奪いに来ない。日本は最終ラインを中心にゆったりとボールを回し、時計の針だけが進んでいく。いわば、少し退屈な時間だった。

「チュニジアはどうしたいんだろうね」

そんなことを隣の記者に話しかけ、ほんの一瞬だけピッチから目を離した。次の瞬間、スタジアムの歓声が大きくなった。慌てて顔を上げると、すでに伊東がGKと1対1になっていた。ゴールは見た。だが、そこまでの過程を見ていない。

3人が同じ絵を描いたゴール

どんなゴールだったのか? 記者席のモニターでリプレイを見返す。

プレーの出発点はボランチの田中だった。チュニジアは全員が自陣まで引いている。CBの位置まで下りて板倉滉からの横パスを受けると、足裏でボールを止め、右足のアウトサイドで前へ置く。スッと体の向きを変えると、相手と相手の間を通すように縦パスを刺す。

田中がボールを持った瞬間、上田が下がってスペースをつくり、そこに伊東が走り込む。1秒にも満たない時間の中で、3人が同じイメージを共有していたからこそのゴールだった。

狙ったのは、上田の“右足”だった。ただ足元につけたパスではない。「フリックで裏へ出せ」。そんなメッセージまで乗せたような一本だった。上田は迷わずダイレクトで流す。そこへ入れ替わるように伊東が走り込む

「前半は相手も(中を)締めていたので、なかなか刺せなかった。でも後半になれば刺せるかなと思っていました」

日本はボールを“持たされていた”のではなかった。ボールを握りながら相手を動かし、その一瞬の隙を見逃さず、一気にテンポを上げて仕留める。田中、上田、伊東。3人が同じ絵を描いていたからこそ生まれたゴールだった。

この日の田中は、4分の先制点でも高い位置まで顔を出し、ペナルティーエリア手前で中村敬斗への中継地点となった。佐野海舟とダブルボランチを組みながら、必要な場面では迷わず前へ出て“プラスワン”をつくる。攻守のバランスを保ちながら、2ゴールに絡んだ。

「ムダなパス」の先にあった一本

2011年、僕は『なぜボランチはムダなパスを出すのか?』という本を書いた。

ボランチが横パスやバックパスを繰り返すのは、ムダではない。相手を動かし、味方を動かし、チャンスをうかがう。当時の日本代表は、そうやって少しずつ相手を動かしながら、ゴールへの道筋をつくっていた。

あれから15年。ワールドカップという世界最高峰の舞台で、日本が試合を決めたのは、ボランチから放たれた一本の縦パスだった。

これまでのワールドカップでは、引いて守る相手を崩せずに苦しむ試合も少なくなかった。しかし、この日の日本は違った。ボールを持つだけでは終わらない。相手が一瞬だけ見せた隙を逃さず、一気に仕留める。そこに、日本代表の進化を感じた。

「ボランチの3番手」

大会前、田中碧の立ち位置をそう見ていた人は少なくなかったはずだ。だが、オランダ戦で出番がなかった田中は、第2戦で巡ってきたチャンスを確かにつかんだ。4分の先制点では攻撃の中継点となり、69分には一本の縦パスで伊東のゴールを演出した。

4年前のカタール大会・スペイン戦では、“三笘の1ミリ”から決勝ゴールを決めた。そして今大会は、負傷離脱した親友の7番を受け継ぐ“碧”が、再びサムライブルーのキーマンになろうとしている。

取材・文=北健一郎

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超ワールドサッカー編集部
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