【2022年カタールへ期待の選手vol.80】冨安負傷のアクシデントに冷静に対処。守備のマルチタスクが東京五輪躍進のカギを握る/板倉滉(フローニンヘン/DF)
2021.07.25 11:15 Sun
「非常に重要な選手。国際舞台で戦うことに長けている」と17日に対峙したU-24スペイン代表のルイス・デ・ラ・フエンテ監督に言わしめた若き守備の要・冨安健洋(ボローニャ)。そのキーマンが22日の東京五輪初戦・U-24南アフリカ戦(東京・味の素)をまさかの負傷欠場。森保一監督率いるU-24日本代表は予期せぬ事態にいきなり見舞われた。
「何らかのアクシデントはあるだろうとは思っていましたけど、まさかしょっぱなで来るとは思っていなかった」とキャプテン・吉田麻也(サンプドリア)も神妙な面持ちで言うほど、チームにとって衝撃は大きかった。
そこで奮起したのが、スタメンに抜擢された板倉滉(フローニンヘン)だ。
「つねにスタメンを奪いに行くつもりで練習からやっていますし、『ベンチでいいや』とか『自分が出た時に頑張ればいい』という気持ちでやっていてはダメだと思いますし、スタメンの選手をどんどん脅かしていく存在にならないといけない。ボランチで出てもセンターバック(CB)で出ても、とにかく自分のよさを出してチームにためにというのは第一に考えています」と事前合宿でも強調していたが、重圧のうかる大舞台初戦でも彼は平常心を失わなかった。
コロナ陽性者が出て準備がままならなかった相手が5-4-1の超守備的布陣を敷いてきたこともあるが、板倉はコンビを組む吉田と意思疎通を図りながら落ち着いてボールポゼッションに参加し、攻撃の起点になろうとしていた。吉田や酒井宏樹(浦和)とは5月28日の2022年カタールワールドカップ(W杯)アジア2次予選・ミャンマー戦(フクアリ)でも最終ラインを構成し、左の中山雄太(ズウォレ)ともU-18日本代表時代から積み上げてきた関係があるだけに、安心してプレーできたことも大きいだろう。前半は相手のシュートが1本とほぼ攻められることもなく、「冨安の穴」を一切、感じさせなかった。
18人しかベンチ入りできない五輪のような大会では、幅広い役割を担ってくれるハイレベルの選手が何人いるかが勝負の分かれ目になる。今回はコロナ禍の特例で選手枠が22人に拡大され、もともとバックアップメンバーだった林大地(鳥栖)や町田浩樹(鹿島)がベンチ入りできたのは朗報だが、この先も何が起きるか分からない。
実際、守備陣に関しても、すでに中山がイエローカード1枚をもらっていて、遠藤航(シュツットガルト)も警告を受けてしまった。25日の次戦・メキシコ戦(埼玉)が勝ち点3同士のグループ突破をかけた大一番となることをを考えると、28日のフランスとの3戦目は2人揃って出場停止という事態も視野に入れなければいけない。
そこで、CBでもボランチでも臨機応変にこなせる板倉がいることは、チームにとって何よりの安心材料になる。特にボランチは田中碧(デュッセルドルフ)しか本職がいない手薄感のあるポジション。板倉がいなければ回らない部分も少なくない。大会前は「サブからのし上がる」と野心をみなぎらせていた彼が東京五輪のキーマンになる可能性は少なからずあるのだ。
「航君と碧とボランチは外から見ていてすごくいい連携でできていると思います。(12日のU-24)ホンジュラス戦(ヨドコウ)では前半お互いがいい距離感で中盤を経由してタテパスをつけれていた。そこはいいなと思います。2人の長所と自分の長所は違うし、同じことをやろうとは思っていないけど、できるだけのことをチームに還元したいです」と彼は自らのやるべきことを整理している。遠藤と田中碧の距離感や連携に近いものをどちらと組んでも出せれば、チームの安定感やバランスは崩れないはずだ。
メキシコやフランス、さらに決勝トーナメントで対峙するであろうブラジルやスペイン相手にクオリティの落ちないパフォーマンスを維持し、悲願の金メダルを手にできれば、板倉自身の今後のキャリアも大きく変わる。レンタル元のマンチェスター・シティ復帰、あるいは他の強豪クラブへの移籍も見えてくるかもしれない。日本代表でも「吉田と冨安の控え」という立場から「ボランチもCBもこなせる主力」へと飛躍を遂げられる可能性もあるのだ。
温厚なキャラクターの彼はそこまで野心を強く押し出すタイプではないが、心の中は燃えたぎるものがあるはず。ここまで同世代の冨安、中山の後塵を拝する傾向が強かったものの、この大舞台で序列を変えられれば、理想的なシナリオだ。南ア戦を自信にして、残り5試合で持てる全てを出し切ってほしいものである。
【文・元川悦子】
「何らかのアクシデントはあるだろうとは思っていましたけど、まさかしょっぱなで来るとは思っていなかった」とキャプテン・吉田麻也(サンプドリア)も神妙な面持ちで言うほど、チームにとって衝撃は大きかった。
「つねにスタメンを奪いに行くつもりで練習からやっていますし、『ベンチでいいや』とか『自分が出た時に頑張ればいい』という気持ちでやっていてはダメだと思いますし、スタメンの選手をどんどん脅かしていく存在にならないといけない。ボランチで出てもセンターバック(CB)で出ても、とにかく自分のよさを出してチームにためにというのは第一に考えています」と事前合宿でも強調していたが、重圧のうかる大舞台初戦でも彼は平常心を失わなかった。
コロナ陽性者が出て準備がままならなかった相手が5-4-1の超守備的布陣を敷いてきたこともあるが、板倉はコンビを組む吉田と意思疎通を図りながら落ち着いてボールポゼッションに参加し、攻撃の起点になろうとしていた。吉田や酒井宏樹(浦和)とは5月28日の2022年カタールワールドカップ(W杯)アジア2次予選・ミャンマー戦(フクアリ)でも最終ラインを構成し、左の中山雄太(ズウォレ)ともU-18日本代表時代から積み上げてきた関係があるだけに、安心してプレーできたことも大きいだろう。前半は相手のシュートが1本とほぼ攻められることもなく、「冨安の穴」を一切、感じさせなかった。
後半も日本ペースが続いたが、前半に比べて相手はやや攻めに圧力をかけてきた。特に久保建英(レアル・マドリー)の後半26分の一撃が決まった後は4バックにシフトして攻め込んできた。それでもオランダ・エールディビジで20-21シーズンリーグ戦全試合フル出場という偉業を達成した男はバタバタしなかった。最後まで失点を許さず、1-0の勝利に貢献。「試合の進め方としてはよかった」と板倉本人も手ごたえをつかんだ様子。国際経験や戦術眼含め、冨安に匹敵するレベルのマルチタスクがいてくれたおかげで、森保監督も心から「助かった」と感じているのではないだろうか。
18人しかベンチ入りできない五輪のような大会では、幅広い役割を担ってくれるハイレベルの選手が何人いるかが勝負の分かれ目になる。今回はコロナ禍の特例で選手枠が22人に拡大され、もともとバックアップメンバーだった林大地(鳥栖)や町田浩樹(鹿島)がベンチ入りできたのは朗報だが、この先も何が起きるか分からない。
実際、守備陣に関しても、すでに中山がイエローカード1枚をもらっていて、遠藤航(シュツットガルト)も警告を受けてしまった。25日の次戦・メキシコ戦(埼玉)が勝ち点3同士のグループ突破をかけた大一番となることをを考えると、28日のフランスとの3戦目は2人揃って出場停止という事態も視野に入れなければいけない。
そこで、CBでもボランチでも臨機応変にこなせる板倉がいることは、チームにとって何よりの安心材料になる。特にボランチは田中碧(デュッセルドルフ)しか本職がいない手薄感のあるポジション。板倉がいなければ回らない部分も少なくない。大会前は「サブからのし上がる」と野心をみなぎらせていた彼が東京五輪のキーマンになる可能性は少なからずあるのだ。
「航君と碧とボランチは外から見ていてすごくいい連携でできていると思います。(12日のU-24)ホンジュラス戦(ヨドコウ)では前半お互いがいい距離感で中盤を経由してタテパスをつけれていた。そこはいいなと思います。2人の長所と自分の長所は違うし、同じことをやろうとは思っていないけど、できるだけのことをチームに還元したいです」と彼は自らのやるべきことを整理している。遠藤と田中碧の距離感や連携に近いものをどちらと組んでも出せれば、チームの安定感やバランスは崩れないはずだ。
メキシコやフランス、さらに決勝トーナメントで対峙するであろうブラジルやスペイン相手にクオリティの落ちないパフォーマンスを維持し、悲願の金メダルを手にできれば、板倉自身の今後のキャリアも大きく変わる。レンタル元のマンチェスター・シティ復帰、あるいは他の強豪クラブへの移籍も見えてくるかもしれない。日本代表でも「吉田と冨安の控え」という立場から「ボランチもCBもこなせる主力」へと飛躍を遂げられる可能性もあるのだ。
温厚なキャラクターの彼はそこまで野心を強く押し出すタイプではないが、心の中は燃えたぎるものがあるはず。ここまで同世代の冨安、中山の後塵を拝する傾向が強かったものの、この大舞台で序列を変えられれば、理想的なシナリオだ。南ア戦を自信にして、残り5試合で持てる全てを出し切ってほしいものである。
【文・元川悦子】
長野県松本市生まれ。千葉大学卒業後、夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターとなる。Jリーグ、日本代表、海外まで幅広くフォローし、日本代表は特に精力的な取材を行い、アウェイでもほぼ毎試合足を運んでいる。積極的な選手とのコミュニケーションを活かして、選手の生の声を伝える。
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