長谷川健太監督の意外な采配/六川亨の日本サッカーの歩み
2021.04.27 20:50 Tue
2018年に長谷川健太氏を監督に迎えたFC東京は、翌19年に悲願のリーグ初優勝にまい進していた。残念ながら終盤の失速で横浜FMに優勝を譲ってしまったが、昨シーズンも優勝が期待された。
「ファスト・ブレイク」――前線からの守備によるショートカウンターを武器に、永井とディエゴ・オリベイラの2トップは多少アバウトなロングパスでもマイボールにしてくれる機動力があった。
それまで天敵だったアウェーの浦和戦では、20年9月30日の試合で1-0の勝利を収めた。実に17年ぶりに“鬼門”だった埼玉スタジアムで勝利したのだ。さらに、どのチームにとっても勝つのが難しいカシマスタジアムでも18年に勝利するなど、3シーズンで3勝1分け2敗と勝ち越している。
その一方で、苦手としているのが鳥栖戦だ。とくに昨シーズンはホームで2-3と競り負けると、アウェーでは0-3と完敗。「今日はすべての面で鳥栖が上回った。完敗です」と潔く敗北を認めた。シーズン途中には室屋に続き橋本も海外へ移籍するなどの戦力ダウンに加え、東京五輪の影響から夏場にアウェーの連戦が続くなど、6位と不本意な順位で終えた。
そして迎えた今シーズンの鳥栖戦も、前半に左サイドの攻撃から2失点し、1-2と4連敗を喫した。
そこで長谷川監督が取った采配は、ハーフタイムに岡崎に代え内田、渡辺剛に代えて青木という選択だった。本来、内田はドリブル突破を得意とする攻撃的な選手である。中村帆高が負傷により長期離脱中とはいえ、彼を右SBに起用したことは、守備よりも攻撃を優先するという指揮官からのメッセージだろう。
そしてケガをしたようにも見えない渡辺剛を下げてボランチの青木を起用し、アンカーの森重を右CBに戻した。このコンバートについて森重は「ビルドアップするため、センターバックからのフィードで1枚剥がしたりするとか。前半はスムーズにやれていなかった。落ち着いて回せれば攻撃の時間は増えるかなと意識した」と理由を語った。
反撃するために攻撃的な選手を増やすのは素人目にもわかりやすい。しかし長谷川監督はまず自陣からのビルドアップを優先する一手を打った(その後は三田やレアンドロ、田川ら攻撃的な選手を投入)。確かに渡辺剛はプレスを受けると近くにいる岡崎にボールを預けることが多かった。時折ロングパスを試みるが、その精度は森重とは比べようがない。そこで森重をCBに戻すことでDF陣からのビルドアップを優先した。
この起用を見て思い出したのが、長谷川監督が就任した18年の試合だった。サイドMFでのプレーが多く、「シュートよりもクロスの意識が強かった」(長谷川監督)という永井を2トップで起用し、「シュートで終われ」とアドバイスすることでFW永井を再生した。
そして劣勢になると長身FW前田遼一を起用してパワープレーに出た。その際に、左SB太田に代えて21歳の小川をピッチに送ることが多かった。その理由を聞くと、「太田のクロスはニアの壁を越えていない」というものだった。
確かに試合開始から上下動を繰り返し、セットプレーキッカーも務めれば、蓄積された疲労もかなりのものになるだろう。試合終盤は曲がって落ちるクロスの精度が落ちるのも当然だ。そこで長谷川監督はサイドからのキッカーも交代させたのだ。
似たような話はヨハン・クライフ監督がバルセロナ時代にフリオ・サリーナスを交代で起用するときは、クロスの精度の高いサイドアタッカーも同時に投入すると聞いたことがある。サリーナスに質の高いクロスを供給できなければ、彼を投入した意味がないからだ。
森重をCBに戻したことで後半はFC東京もゲームを支配する。8分にその森重が左CKからヘッドで1点を返すと、その後も永井や小川、さらにアディショナルタイムにはレアンドロが決定的なシュートを放つ。いずれもGK朴一圭のスーパーセーブに阻まれて同点に追いつけなかったが、選手交代の効果はあった長谷川監督の采配だった。
【文・六川亨】
「ファスト・ブレイク」――前線からの守備によるショートカウンターを武器に、永井とディエゴ・オリベイラの2トップは多少アバウトなロングパスでもマイボールにしてくれる機動力があった。
その一方で、苦手としているのが鳥栖戦だ。とくに昨シーズンはホームで2-3と競り負けると、アウェーでは0-3と完敗。「今日はすべての面で鳥栖が上回った。完敗です」と潔く敗北を認めた。シーズン途中には室屋に続き橋本も海外へ移籍するなどの戦力ダウンに加え、東京五輪の影響から夏場にアウェーの連戦が続くなど、6位と不本意な順位で終えた。
そして迎えた今シーズンの鳥栖戦も、前半に左サイドの攻撃から2失点し、1-2と4連敗を喫した。
鳥栖は左サイドの仙頭と小屋松の京都橘高コンビがFC東京の右SB岡崎とCB渡辺剛にプレスを掛けてビルドアップを封じると、奪ったボールを素早く右サイドに展開して2点を奪った。FC東京の左SB小川とFWアダイウトンはストロングポイントではあるが、小川の攻撃参加によって生まれたスペースを鳥栖は利用した。
そこで長谷川監督が取った采配は、ハーフタイムに岡崎に代え内田、渡辺剛に代えて青木という選択だった。本来、内田はドリブル突破を得意とする攻撃的な選手である。中村帆高が負傷により長期離脱中とはいえ、彼を右SBに起用したことは、守備よりも攻撃を優先するという指揮官からのメッセージだろう。
そしてケガをしたようにも見えない渡辺剛を下げてボランチの青木を起用し、アンカーの森重を右CBに戻した。このコンバートについて森重は「ビルドアップするため、センターバックからのフィードで1枚剥がしたりするとか。前半はスムーズにやれていなかった。落ち着いて回せれば攻撃の時間は増えるかなと意識した」と理由を語った。
反撃するために攻撃的な選手を増やすのは素人目にもわかりやすい。しかし長谷川監督はまず自陣からのビルドアップを優先する一手を打った(その後は三田やレアンドロ、田川ら攻撃的な選手を投入)。確かに渡辺剛はプレスを受けると近くにいる岡崎にボールを預けることが多かった。時折ロングパスを試みるが、その精度は森重とは比べようがない。そこで森重をCBに戻すことでDF陣からのビルドアップを優先した。
この起用を見て思い出したのが、長谷川監督が就任した18年の試合だった。サイドMFでのプレーが多く、「シュートよりもクロスの意識が強かった」(長谷川監督)という永井を2トップで起用し、「シュートで終われ」とアドバイスすることでFW永井を再生した。
そして劣勢になると長身FW前田遼一を起用してパワープレーに出た。その際に、左SB太田に代えて21歳の小川をピッチに送ることが多かった。その理由を聞くと、「太田のクロスはニアの壁を越えていない」というものだった。
確かに試合開始から上下動を繰り返し、セットプレーキッカーも務めれば、蓄積された疲労もかなりのものになるだろう。試合終盤は曲がって落ちるクロスの精度が落ちるのも当然だ。そこで長谷川監督はサイドからのキッカーも交代させたのだ。
似たような話はヨハン・クライフ監督がバルセロナ時代にフリオ・サリーナスを交代で起用するときは、クロスの精度の高いサイドアタッカーも同時に投入すると聞いたことがある。サリーナスに質の高いクロスを供給できなければ、彼を投入した意味がないからだ。
森重をCBに戻したことで後半はFC東京もゲームを支配する。8分にその森重が左CKからヘッドで1点を返すと、その後も永井や小川、さらにアディショナルタイムにはレアンドロが決定的なシュートを放つ。いずれもGK朴一圭のスーパーセーブに阻まれて同点に追いつけなかったが、選手交代の効果はあった長谷川監督の采配だった。
【文・六川亨】
1957年9月25日生まれ。当時、月刊だった「サッカーダイジェスト」の編集者としてこの世界に入り、隔週、週刊サッカーダイジェストの編集長や、「CALCIO2002」、「プレミアシップマガジン」、「サッカーズ」の編集長を歴任。現在はフリーランスとして、Jリーグや日本代表をはじめ、W杯やユーロ、コパ・アメリカなど精力的に取材活動を行っている。日本サッカー暗黒の時代からJリーグ誕生、日本代表のW杯初出場などを見続けた
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