【2022年カタールへ期待の選手㊺】プラチナ世代の柴崎岳、遠藤航とともに日本代表ボランチの主軸になれるのか?/小林祐希(ワースラント・ベベレン/MF)

2020.05.17 18:00 Sun
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新型コロナウイルスの感染拡大によって、欧州で最初にリーグ戦打ち切りが決まったのがベルギーだ。日本代表の伊東純也(ゲンク)や植田直通(セルクル・ブルージュ)らは「これからシーズン終盤」というところで試合がなくなり、不完全燃焼感を抱いたことだろう。今季から戦いの場をオランダからベルギーに移した小林祐希(ワースラント・ベベレン)もその1人。2019年夏に3シーズン過ごしたヘーレンフェーンを退団し、欧州でのステップアップを目指していた彼は思うように新天地が決まらないまま、9月に突入。アメリカ・メジャーリーグサッカー(MLS)行きの噂も流れる中、ベベレン入りが決まった。背番号10と落ち着いたプレー環境を与えられたのは朗報だったが、ベベレンというのはベルギー国内で非常に財政基盤が脆弱なクラブ。戦力的にも厳しく、今季は2部降格の危機に瀕していた。休止時点の戦績は1部再開の16位。1月下旬から7連敗と精彩を欠いていた。彼自身は4-2-3-1のトップ下を主に担い、21試合出場2ゴールという結果を残したが、17-18シーズン前半戦に同クラブで10番を背負った森岡亮太(シャルルロア)に比べると物足りない数字と言わざるを得ない。

ただ、本人も「降格を免れたのはラッキー」とコメントしているように、最悪の結果を回避できたことだけは事実。2年契約ということで、来季も残留するのであれば、目覚ましい活躍が求められてくる。最近はセリエAへの移籍話も取り沙汰されているが、どこへ行っても勝負のシーズンになるのは間違いない。2022年カタールワールドカップの大舞台に立つためにも、強烈なインパクトを残すしかないのだ。

92年生まれの小林は東京ヴェルディのアカデミーに在籍した10代の頃から知名度の高い選手だった。2009年U-17ワールドカップ(ナイジェリア)にも参戦。だが、当時はチームの軸になることができず、宇佐美貴史(G大阪)や柴崎岳(ラコルーニャ)に大きく水を空けられたという。

「小学校時代の俺は『日本一うまい』って思いながらプレーしてたんですよね。中学でヴェルディに入った時、結構うまいやつがいると気づかされたけど、代表へ行ったら宇佐美がいた。あいつの感覚は天才にしか分かんないものだった。それを見てプライドをへし折られましたからね。岳にしてもそう。自分には見えないものが見える選手でしたね」

2018年ロシアワールドカップはその2人とともに大舞台に参戦するつもりだったが、メンバー入りは叶わなかった。同い年の昌子源(G大阪)、武藤嘉紀(ニューカッスル)、遠藤航(シュツットガルト)、大島僚太(川崎)が揃って日の丸をつけていたのを見て、本人も複雑な感情を抱いたことだろう。ヘーレンフェーンを退団して異なる環境でチャレンジしたいと思ったのも、「自分も代表の一員としてカタールに行きたい」という気持ちが少なからずあったから。森保ジャパン初招集となった昨年6月のトリニダード・トバゴ(豊田)&エルサルバドル(宮城)2連戦ではイキイキとしたプレーを見せており、十分可能性があると思わせる状態だった。

「自分が2016年に初招集された時から『代表で活躍できる選手って何が違うのか?』をずっと考えていましたけど、サッカーは球扱いがうまければいいってもんじゃないんですよね。岡崎(慎司=ウエスカ)さんなんかは正直、そこまで技術はないかもしれないけど、計算できるし、戦えますよね。大事なのはそこだと思うんです。自分の形があって、その状態でボールを持てたらいいプレーができるけど、そうならなければ何もできないっていうことではダメ。俺らプラチナ世代はそんなタイプが多かったのかな。自分はそこを変えていかなきゃいけないんですよね」

オランダで戦っていた頃、小林祐希はこんな話をしていたが、求められることを確実にこなす多様性と柔軟性を身に着けようという意識は1年前の日本代表戦からもしっかりと見て取れた。そういう方向性を突き詰めつつ、彼らしい左足のキックと思い切ったシュートでゴールを奪うことができるようになれば、森保監督からも認められる日がきっと来るだろう。

実際、彼が代表で主戦場としているボランチは長年の盟友・柴崎が絶対的で、それ以外は混戦状態にある。遠藤航が一歩リードという印象だが、橋本拳人(FC東京)もロシア組の山口蛍(神戸)も大島も東京五輪世代の板倉滉(フローニンゲン)も圧倒的存在感を示しているとは言い難いものがある。「本田二世」の異名を取る発言力と強靭なメンタルを備えた小林祐希が戦力になってくれれば、非常に心強いはず。そのためにも、コロナ禍で生まれた休止期間を最大限有効活用し、自分自身の進むべき道をより明確にしていく必要がある。

ベベレンで攻撃的MFをやりながら試合を決定づける力を蓄え、さらに守備面でより激しくボールを奪える能力を身に着けること。それが今の小林祐希に求められる重要ポイントではないだろうか。28歳という年齢は決して若くはないが、伸びしろがないわけではない。岡崎や本田圭佑(ボタフォゴ)も20代後半から30歳にかけて一段階飛躍した。そんな先人たちを超えるべく、彼にはここからギアを上げてほしいものである。

【文・元川悦子】
長野県松本市生まれ。千葉大学卒業後、夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターとなる。Jリーグ、日本代表、海外まで幅広くフォローし、日本代表は特に精力的な取材を行い、アウェイでもほぼ毎試合足を運んでいる。積極的な選手とのコミュニケーションを活かして、選手の生の声を伝える。
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【2022年カタールへ期待の選手vol.53】個人昇格でセレッソの救世主に。ロティーナの絶大な信頼を受け、右サイドを徹底的に打開/坂元達裕(セレッソ大阪/MF)

「今季は若くクオリティのあるウイングの選手がどんどん出てきている。それは日本サッカー界にとって素晴らしいこと。そういう選手が出てくるのはそんなに簡単なことではない。そういう中で我々が幸運なのは、タツがこのチームにいるということ。彼は非常に重要な役割を担っています」 今季J1で首位・川崎フロンターレ追走の一番手となっているセレッソ大阪。指揮を執るロティーナ監督がキーマンの1人に指名しているのが、右サイドを担う23歳の快足ドリブラー・坂元達裕だ。 清武弘嗣や柿谷曜一朗でも果たせていない攻撃陣唯一のJ1全試合出場を誇る彼はモンテディオ山形からの移籍組。東洋大学を出て1年で個人昇格を果たした。 開幕直後は「Jはレベルが一段階上がりますし、雰囲気も違うので少し緊張する場面もありました」と遠慮がちに話していたが、新型コロナウイルス感染症による4カ月の中断を経て再開された7月以降は俄然、鋭さを増している。7月26日のサガン鳥栖戦で待望のJ1初ゴールを決めると、8月9日のFC東京戦では2~3人がかりの徹底マークを受けるに至った。 実は坂元はFC東京のジュニアユース出身。だが、ユース昇格見送りとなり、前橋育英に進んだ苦い過去がある。 「FC東京は中学の頃、お世話になったチーム。そこでユースに上がれなくて、悔しい思いを持って高校、大学とやってきた。そういう意味でFC東京戦は大きな試合。賭ける気持ちは強い。自分が成長したところをいい意味で見せつけられるようにしたいです」と本人も語気を強めていたが、右サイドを積極的に打開し続け、数多くのチャンスを演出した。決定機を逃し、得点こそなかったが、古巣から人数をかけて守られるほどになったのは成長の証。この一戦で彼はさらなる飛躍のきっかけをつかんだ。 その後、8月23日のベガルタ仙台戦で今季2点目をゲット。さらに存在感を高めていく。セレッソはそこから3連勝中。坂元が先発しなかったJリーグルヴァンカップ・柏レイソル戦を0-3で落としたことを考えても、ロティーナ監督が絶大な信頼を寄せる通り、この男抜きには攻撃の組み立ては考えられないのだ。 「坂元は1対1になれば瞬間的にはがせる力があるし、個人戦術で相手をはがすのが大きな役割。ドリブラーの仕事は(相手に)取られる取られないに直結するけど、チームにとっては大きな武器。『取られてもいいからどんどん仕掛けろ』とつねに言ってます。それに相手が警戒して2対1で来れば、他の味方が空く。2人に囲まれてもはがしているシーンも多いですし、どんどん行ってほしいと思います」と年長者の都倉賢が太鼓判を押していたが、それは2列目でコンビを組む清武や柿谷も同意見。シーズン開幕直後はFCバルセロナから関心を示されたスーパールーキー・西川潤の注目度が高かったが、ロティーナ戦術の中では坂元の存在価値は絶対的と言っていい。最終的に川崎から首位の座を奪うためにも、彼のゴールに直結するプレーがより一層求められるところだ。 スペインの名将に一目置かれる選手だから、海外クラブからオファーが届かないとも限らない。10月に24歳になることを考えても、欧州へチャレンジするなら今年末か来年には踏み出さなければならないだろう。それと同時に日本代表入りも見えてくるかもしれない。 ご存じの通り、現代表の右サイドは堂安律(ビーレフェルト)と伊東純也(ゲンク)がファーストチョイス。それに加えて、ビジャレアルへ移籍した久保建英、2018年ロシアワールドカップ組の原口元気(ハノーファー)も右アタッカーで十分プレーできるし、東京五輪世代・菅原由勢(AZ)も欧州の舞台で右MFと右サイドバックの両方を難なくこなしている。それだけ狭き門なのは確かだ。が、森保一監督は旬な選手を思い切って抜擢するタイプ。2019年には橋本拳人(ロストフ)や鈴木武蔵(ベールスホット)らの才能を大きく開花させている。坂元も目に留まれば、ブレイクする可能性はゼロではないのだ。 「つねにインパクトを残すプレーをしてかないとこういうレベルの高い舞台では生き残れないと思ってるんで、1試合1試合もっともっと賭ける思いっていうか、『失敗したら終わりだ』っていうくらいの思いでのぞんでいきたいと思ってます」 今季開幕時点で悲壮な覚悟を口にした坂元。そういった気持ちが全ての試合で色濃く感じられる。中学時代の挫折を糧に類まれな雑草魂でここまで這い上がってきた技巧派ドリブラーにはまだまだ伸びしろがあるはず。そういう意味でもここから先の動向が非常に楽しみだ。 「ロティーナサッカーの申し子」は今日も明日も切れ味鋭い局面打開で見る者を魅了していくに違いない。 <div id="cws_ad"><hr>【文・元川悦子】<br />長野県松本市生まれ。千葉大学卒業後、夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターとなる。Jリーグ、日本代表、海外まで幅広くフォローし、日本代表は特に精力的な取材を行い、アウェイでもほぼ毎試合足を運んでいる。積極的な選手とのコミュニケーションを活かして、選手の生の声を伝える。</div> 2020.09.09 17:45 Wed
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【2022年カタールへ期待の選手vol.52】爆発的進化を遂げる「左の伊東純也」。ゴール量産で東京五輪・A代表入りも!/松尾佑介(横浜FC/MF)

8月22日の清水エスパルス戦。斉藤光毅と皆川佑介のゴールで前半を2-1でリードしていた横浜FCの勝利を決定づけたのが、後半5分に松尾佑介が挙げた3点目だった。背番号37は皆川からハーフウェイライン手前でボールを受けると、左タッチラインをドリブルで独走。体を寄せてきた岡崎慎を一気にかわして右足を振り抜いた。 「僕は7、8割(の力)でドリブルしてたら、(相手の岡崎が)ちょっと食いついてきたので『これは入れ替われるな』と。あとはホントにいい形でゴールの方にタッチできたのでもう流し込むだけだった。得意な形に持っていけたのがよかったと思います」 自身のリーグ3点目を冷静に分析した松尾の爆発的スピードと突破力は今季J1で異彩を放っている。仙台大学から特別指定選手として横浜FCに加わった昨季は、J2・21試合出場6ゴールという結果を残しているが、最高峰リーグでどこまでやれるかは未知数だった。むしろU-19日本代表で久保建英(ビジャレアル)の同期である斉藤の方が期待値が高かったと言っていい。 しかしながら、7月4日のJ1再開後は松尾の切れ味鋭いドリブルが横浜FC攻撃陣を力強くけん引。8月15日の湘南ベルマーレ戦では1試合2ゴールと見る者を釘付けにし、そこからクラブ史上初となる3連勝の原動力となった。順位も暫定11位と昇格組にしては大健闘。その横浜FCにはカズ(三浦知良)や中村俊輔、松井大輔といった超有名選手がズラリと並んでいるが、目下、彼ら以上に注目度を高めているのがこの松尾。下平隆宏監督も目覚ましい成長と存在価値の大きさを改めて認めていた。 「J1になって慣れてきたのもありますけど、彼はもともとチャンスメークはゲームの中で何回かできていた。ただ、もう1個上のランクの選手になるには、アシストや得点という結果にもっとこだわってやらないといけないという話はしたことがありました」 「それは彼も十分に分かっていたけど、アシストや得点がどうしても雑だった。本人もその課題にトライしてくれていることが今、うまくいってるのかなと思います」 松尾本人も「湘南戦で初ゴールしたことで、ゴール前で落ち着けているというのがある。ゴールを決めることで自信も余裕もどんどん出てくる。得点の大切さを自分自身、改めて感じている」としみじみ語っていたが、今はゴールの枠が普通より大きく感じられる状態なのではないだろうか。 加えて言うと、フィジカル面での成長も目を引くものがある。 「昨季は終盤まで持たない時間もありましたけど、今季はだいぶ強くなったし、スピードも落ちずに90分間戦えている。そこは非常に成長していると感じます」と下平監督は大きな手ごたえを感じている。 浦和レッズユース時代に指導した大槻毅監督も「もともといい選手でしたし、身体の強さとかベースができてきて、いいプレーができるようになったのかな」と変貌ぶりに驚いていたが、これだけ急激な成長曲線を描いていれば、より高いレベルを目指そうという野心を本人が抱いてもおかしくないだろう。 松尾は97年生まれの23歳。26歳の鈴木武蔵(ベールスホット)や室屋成(ハノーファー)がこの夏の移籍市場で欧州に引っ張られた例を考えると、まだまだチャンスはあるはずだ。彼の場合、伊東純也(ゲンク)にタイプが似ている点も大きな強みだ。 伊東純也はプロ3年目だった2017年に日本代表デビューを果たし、翌2018年1月にゲンクへ移籍。そこで一気にブレイクし、昨季はUEFAチャンピオンズリーグにも参戦。持ち前のスピードと局面打開に加え、ゴールへの鋭さにも磨きをかけた。「純也の市場価値はかなり高い」とシントト=ロイデンの立石敬之CEOも太鼓判を押していたが、「左の伊東」とも言うべき松尾も同じような軌跡を描ける可能性が大いにありそうだ。 「今年は大卒ルーキーの活躍が目立つので意識しますね。ホントに負けられない」と、今は同い年の三笘薫や旗手怜央(ともに川崎)や安部柊斗(FC東京)らに目が行っている様子だが、1つ1つ階段を駆け上がっていくことで、中島翔哉(ポルト)や原口元気(ハノーファー)ら日本代表クラスを本格的に意識するようになるかもしれない。その高い領域に到達すべく、今季J1で着実に結果を残し、横浜FCを上位へと導き、欧州への道を切り開くこと。それが今の彼に課せられた重要命題と言っていい。 今年は新型コロナウイルス感染拡大で日本代表戦がなく、五輪代表の活動も行われないため、アピールの場はJしかない。今季残り4カ月の超過密日程を乗り切った時、松尾佑介はもう一回り二回り大きく成長した存在になれるはず。2021年以降の華々しい未来を描くためにも、クラブでのプレーに専念できるこの機を逃す手はない。 左のタッチライン際を疾走する横浜FCの背番号37。彼のこの先の一挙手一投足から目が離せない。 <div id="cws_ad"><hr>【文・元川悦子】<br />長野県松本市生まれ。千葉大学卒業後、夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターとなる。Jリーグ、日本代表、海外まで幅広くフォローし、日本代表は特に精力的な取材を行い、アウェイでもほぼ毎試合足を運んでいる。積極的な選手とのコミュニケーションを活かして、選手の生の声を伝える。</div> 2020.08.30 14:10 Sun
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【2022年カタールへ期待の選手vol.51】抜群のスピードを誇る遅咲きの点取屋。新天地・ベルギーで代表エースに飛躍できるか?/鈴木武蔵(ベールスホット/FW)

抜群のスピードとゴール前の迫力を武器に北海道コンサドーレ札幌の絶対的点取屋に君臨していた鈴木武蔵。26歳になった彼に長年の念願だった海外移籍のオファーが舞い込んだ。新天地はベルギー1部・ベールスホットVA。前身・ベールスホットACが2013年に破産し4部降格を強いられた後、新体制で再建され、7年がかりで今季ようやく1部に辿り着いたクラブだ。紆余曲折の軌跡はまさに彼自身のキャリアを投影していると言っていい。 ジャマイカ人の父と日本人の母を持つ鈴木武蔵は1994年に生まれ、幼少期はジャマイカで過ごした。その後、母の故郷である群馬県太田市に移り住み、サッカーを始めたが、少年時代は目立つ選手ではなく、技術的にもあまりで高いとは言い切れなかったという。 運命が大きく変わったのは、2009年に入学した桐生第一高校時代。中町公祐(前横浜F・マリノス)や細貝萌(ブリーラム・ユナイテッド)ら数々のJリーガーを育てた小林勉監督(現桐生大学附属中学校)の指導の下、メキメキと頭角を現したのだ。高2だった2010年にはU-16日本代表に初抜擢。ちょうど10年前の8月に行われた豊田国際ユース大会に出場した鈴木武蔵は異彩を放っていた。「子供の頃からティエリ・アンリ(現モントリオール・インパクト監督)が好きだった」と本人は話したが、まさにアンリがそこにいるような錯覚を覚えた人もいたのではないだろうか。 武蔵を初めて見たのは、2010年春の関東U-16リーグ。「直前のフランス・モンタギュー国際大会でイングランドやクロアチアに完敗し、外国人慣れさせないといけないと実感した直後だったんで、日本人離れした風貌と爆発的スピードを持つ武蔵は僕らにとってインパクトが非常に大きかったんで、豊田に呼びました。植田直通(セルクル・ブルージュ)と一緒で基本技術には難があったけど、ボールのもらい方や止め方を1から100まで教えて育てました。彼も本当に純粋で、貪欲に取り組んでくれました」と当時のU-16日本代表でコーチを務めていた菊原志郎氏(現広州富力ヘッド・オブ・ユースアカデミー・コーチング)も述懐する。非凡なポテンシャルは誰もが認めるところだった。 だが、2012年に高校を卒業してアルビレックス新潟入りしてからは、なかなか結果を出せなかった。新潟での最初の3年半はJ1の合計得点がわずか6。2015年後半戦は水戸ホーリーホック、2017年後半戦も松本山雅FCにレンタルで出されたが、J2の舞台でも活躍は叶わなかった。当時、松本を率いていた反町康治監督も「武蔵はボールが収まらないし、決定的なところで決められない」と嘆き、試合終盤にジョーカー的に送り出すくらいしか起用しなかった。2016年リオ・デ・ジャネイロ五輪こそ、久保裕也(FCシンシナティ)の招集断念によって本大会メンバーに繰り上がる形で出場したが、日本の1次リーグ突破の原動力にはなれずじまい。23〜24歳まはで長い長い足踏み期間を余儀なくされたのだ。 そんな彼の大きな飛躍の場になったのが、2018年に移籍したV・ファーレン長崎。高木琢也監督(現大宮アルディージャ)は武蔵の潜在能力の高さに着目し、前線の大黒柱に据えた。大きな期待と信頼を寄せてくれた指揮官に応えるべく、本人もかつてないほど奮起。J1・29試合出場11得点とプロ入り初のシーズン2ケタゴールをマークすることに成功する。 この活躍ぶりに注目した札幌が熱烈オファーを出し、2019年にはプロ5チーム目の新天地へと赴く。そこで出会ったのがミハイロ・ペトロヴィッチ監督だった。 「ミシャに教わって『動きの部分』をすごく考えるようになりました。興梠(慎三/浦和レッズ)選手や小林悠選手(川崎フロンターレ)みたいに何年も続けて2ケタゴールを取れるFWになるのは簡単じゃないけど、2人は決して背が高いわけじゃないのに、動きのタイミングやクロスへの入り方で点を取っている。見ていてすごく勉強になりますし、それがFWにとって一番大事な部分なんだと痛感させられます」と本人もしみじみ語ったが、プレーの幅が広がったことで数字もついてきた。 2019年はJ1・13ゴール、YBCルヴァンカップ7点とキャリアハイのシーズンを過ごし、25歳にして日本代表デビューも果たした。そして今季も開幕直後の新型コロナウイルス感染拡大による中断を挟みながらも序盤3戦連続ゴールをゲット。8月8日の清水エスパルス戦でも今季5点目をマークし、出場全試合で得点という凄まじいパフォーマンスを見せていた。 それだけ頭抜けた存在感を示していれば、海外から熱視線を送られるのも当然のこと。ペトロヴィッチ監督も「彼ならさらに成長できる」と快く送り出した。これまでベルギーに赴いたFWは、鈴木隆行(解説者)にしても、久保裕也にしても、コンスタントな活躍はできていないが、鈴木武蔵には爆発的なスピードとゴールの嗅覚がある。伊東純也(ゲンク)もそうだが、ハッキリした長所を持つ選手の方が成功しやすい環境なのは確かだ。すでに新シーズンが始まっていて、プレシーズンから参加していない点は多少のハンディキャップだが、明るく社交的でひたむきな彼ならすぐに周囲に溶け込めるはず。期待は高まる一方だ。 コロナの影響で日本代表戦が来年にずれ込んだこともあり、今季はクラブでのプレーに専念できる。ベールスホットで目覚ましい成果を挙げられれば、来春の段階で大迫勇也(ブレーメン)や永井謙佑(FC東京)など他の代表FW陣より高評価を受ける可能性もある。森保一監督に「武蔵をエースにしたい」と思わせるくらいのインパクトを残せれば、2022年カタールワールドカップへの道も開けてくる。遅咲きの怪物FWの行く末が楽しみで仕方がない。 <div id="cws_ad">【文・元川悦子】<br />長野県松本市生まれ。千葉大学卒業後、夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターとなる。Jリーグ、日本代表、海外まで幅広くフォローし、日本代表は特に精力的な取材を行い、アウェイでもほぼ毎試合足を運んでいる。積極的な選手とのコミュニケーションを活かして、選手の生の声を伝える。</div> 2020.08.19 12:25 Wed
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【2022年カタールへ期待の選手㊿】「求められるのはゴールという結果」。今季未勝利の清水の救世主になれるか?/鈴木唯人(清水エスパルス/MF)

「今はボールを持ったらひたすらゴールに向かおうと考えてますけど、もっと確実な判断をして点を取ることが大事。よりチームが点を取れる各自な判断、チョイスができるように考えていきたいと思っています」 今季いまだリーグ未勝利でJ1最下位に沈んでいる清水エスパルス。コロナ禍の今季はJ2降格なしという特例があるものの、苦しい序盤を強いられているのは間違いない。そんな中、数少ない光明の1つとなっているのが、18歳のルーキー・鈴木唯人の成長だ。 名門・市立船橋高校から加入した新人アタッカーは2月の開幕時点では若手チームの練習に参加している状況だった。ところが、7月4日の再開初戦・名古屋グランパス戦でいきなりスタメンに浮上。河井陽介、中村慶太のケガでチャンスを与えられたのもあるが、そこから3試合連続で先発起用された。直近2戦はジョーカー的な扱いをされているが、昨季まで横浜F・マリノスでポステコグルー監督の片腕として働いていたクラモフスキー監督から「彼は非常によくやってくれている。毎回うまくなろうと考え、自分でプレーを伸ばしている」と高く評価されているのは確かだ。 「中断期間に劇的な変化があったわけではないですけど、『堂々とやろう』という意識が高まりました。高校卒業1年目ですけど、周りと変わらないと思わせる振舞いから入ろうと考えるようになって、プレーが少しずつ変わっていったのかな。先輩からも『遠慮なく自分を出せ』と言われて、どんどんアグレッシブにできるようになった。『自分で積極的にゴリゴリ行って決めるんだぞ』という姿を見せることが今は一番大事だと思ってます」と本人も4~5か月間での大きな心境の変化を口にする。 市船でエースナンバー10を背負っていた頃からファンタジスタで知られた鈴木だが、走力や強さの部分はそこまで頭抜けているわけではなかった。メンタル的にも浮き沈みが激しく、波多秀吾監督からもダメ出しされることがしばしばあった。3年最後の今年1月の高校サッカー選手権も2回戦で日章学園にPK負けと実力を出し切れずに号泣。プロ入り直後に試合に出られるとは本人も周囲も考えていなかった。 けれども、わずか半年間で状況は激変。リーグ再開後の鈴木は前線から激しくボールを追い、鋭い攻守の切り替えからゴールに突き進んでいくガツガツした姿を前面に押し出すようになった。その背景には、先輩・立田悠悟らとのフィジカル強化があったという。 「入団直後は若手チームで練習していましたけど、試合に出ている人が朝早く来てフィジカル強化をしているのを見て、『出てない人間が何もしていないんじゃ何も変わらない』と思って、自分から参加をお願いしたんです。2月くらいから始めて、体幹とか上半身も結構やったんで、清水に入った時よりは当たり負けやブレは少なくなってきたのかなと感じます。ただ、技術面は完璧にできていない。その分、試合の中では誰よりも走って、走り回って貢献しようという考えでやってます」と本人も高い意欲を持って取り組んでいることを明かす。目の色を変えてサッカーに向き合っているからこそ、クラモフスキー監督も大抜擢に踏み切ったのだろう。 ただ、ここまでノーゴールという結果が示す通り、本人も「仕事ができている」という感覚は持ち合わせていない。同世代を見れば、スペイン1部でコンスタントに試合に出続けた久保建英(マジョルカ)を筆頭に、横浜FCで2トップの一角を担っている斉藤光毅、サガン鳥栖のリーダー格に成長した松岡大起など目覚ましい活躍をしている選手が少なくない。今の鈴木唯人はようやく彼らと同じ土俵に立ったところなのだ。 「上のカテゴリーで活躍している同世代がいるのは意識するところですけど、今はエスパルスで1つ1つ自分の課題を修正して次につなげていくことが一番大事。1日1日を大切にして頑張ろうという気持ちが強いです」とまず足元からしっかりと固めていこうと考えている。 地道な思考をするのは、横浜F・マリノスプライマリー追浜から中体連の葉山中学校に進み、市船でブレイクした経験があるからだろう。小学生時代は同い年の西川潤(C大阪)と一緒にプレーしたことがあるが、ジュニアユース昇格後の西川はU-15世代から年代別代表の常連になっていった。エリート街道をひた走ってきた同期とは異なる道を歩んだ鈴木は、18歳になった今、彼と同じJ1のクラブに入り、一足先に公式戦出場機会を得るまでになった。もちろん清水とセレッソのチーム事情は異なるが、地道な努力を続けていれば、バルセロナから注目される同世代の仲間を超えて飛躍できる可能性があることを示したのだ。 「東京五輪が1年延期になったんで、そこを狙っていきたいという思いもあります。そのためには、やっぱりゴールという結果が必要。プレーの面で言えば、もっと怖い選手にならないといけない。シュート、パス、ドリブルの1つ1つの精度を高めていくことが重要なのかなと思います」 鈴木が見据える領域は高い。そのためにも、本人が言うように、目に見える結果が求められる。自らのゴールで苦しむチームの救世主になれれば、確実に自分の価値も上がる。U-19日本代表定着、そして東京五輪参戦の道も開けてくるだろう。それを現実にするためにも、試合に起用されているこのタイミングを大事にしなければならない。清水はこの先、大分トリニータ、浦和レッズ、北海道コンサドーレ札幌という難敵との戦いが続く。そこで目覚ましい成果を残す鈴木唯人の一挙手一投足をぜひ見てみたい。 <div id="cws_ad">【文・元川悦子】<br />長野県松本市生まれ。千葉大学卒業後、夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターとなる。Jリーグ、日本代表、海外まで幅広くフォローし、日本代表は特に精力的な取材を行い、アウェイでもほぼ毎試合足を運んでいる。積極的な選手とのコミュニケーションを活かして、選手の生の声を伝える。</div> 2020.07.26 18:05 Sun
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【2022年カタールへ期待の選手㊾】「ガンバ基準を落としちゃいけない」。再開序盤戦で苦しむ山口の救世主となり、東京五輪へ/高宇洋(レノファ山口FC/MF)

「僕だけじゃなくて、見ている人みなさんが気づいていると思いますけど、ヤンの成長っていうのはホントに目に見えるようなスピードで進んでいる。彼の性格、向上心、成長への欲求はもちろんですけど、ちゃんと頭の中で考えてサッカーをやるようになってきた。自分のストロングや課題をしっかり理解したうえで、両面にわたって積極的なトライをしてくれている。勝利のカギを握る選手の1人に成長してくれたなと実感しています」 2016年末まで日本サッカー協会技術委員長を務め、現在はレノファ山口の指揮を執る霜田正浩監督が太鼓判を押した通り、同チームの背番号6をつける男・高宇洋が再開後のJ2で大きな存在感を示している。 6月27日のファジアーノ岡山戦以降、夏場の連戦の中、フィールドプレーヤー唯一の4試合フル出場。「今、バテてたらこの先ヤバいんで」と冗談交じりに笑う余裕をのぞかせる彼だが、際立っているのは自慢の走力やタフさだけではない。守備面では中盤で球際の厳しさと寄せの激しさを押し出し、数々の局面でピンチを未然に防いでいる。攻撃面でも、11日のジュビロ磐田戦でイウリの得点につながったタテパスに象徴されるように「タテへの意識」が格段に上がっているのだ。 「昨年の夏にガンバ(大阪)から山口に来て、今は『中心でやっていく』という自覚を持ってやってます。最近の個人的なパフォーマンスにも手ごたえを感じていて、ビルドアップでもギリギリまで相手が見えているし、タテパスの本数も増えて、プレーエリアが広くなっていることを実感しています。 ガンバの時にはヤットさん(遠藤保仁)、コンさん(今野泰幸=磐田)もいて、学ぶところが非常に多かった。今はJ2ということで少し落ちますけど、自分の中ではガンバ時代のプレーのイメージはつねに残ってますし、絶対にレベルを下げちゃいけないって思ってる。レノファでしっかり試合に出ている分、自分やチームのクオリティを上げることを考えながら取り組んでます」と彼はつねに高い領域を貪欲に追い求めている。 しかしながら、チームの方は足踏み状態が続いている。「今季は上位2位以内に入ってJ1昇格」を掲げる山口だが、再開後は1分2敗。7月5日の愛媛FC、11日の磐田戦ではともにリスタートから前半終了間際に失点し、ビハインドを跳ね返せないまま黒星を喫する形になっている。ボールを支配してサイドの幅を使いながら攻めるというコンセプト通りの試合運びはできているのだが、勝利と言う結果がついてこないのは高としても納得できないところ。「自分がチームを勝たせられる選手にならないといけない」と本人も語気を強める。 「シュートを決め切る部分だったり、アシストってところで、今季はその数字にもこだわっている。そこで結果を出して、チームを勝たせられるかどうかが重要だと思います」と高自身が語る一方、霜田監督も「彼は守備的なMFではなく、攻撃も守備もできるセンターハーフ。ボックスからボックスに走れるようなセンターハーフに育てたいし、彼ならばそれができると思っている」と高い要求を突きつけている。尊敬する遠藤や今野のように中盤からのミドルシュートや意表を突く飛び出しでゴールを奪えるようになれば、山口ももっと楽な戦いができるはず。イウリら前線のアタッカー陣を生かすことも大切だが、高はもっとエゴイストになっていいだろう。 そのうえで、目指すべきところは、J1復帰であり、1年後に延期された東京五輪出場だ。昨年のトゥーロン国際トーナメントに参戦した後、「いつか必ずJ1で活躍できる選手になる」と強い覚悟と決意を持ってガンバから山口に赴いた彼にとって、J1昇格は至上命題と言っていい。目下、大宮アルディージャとVファーレン長崎がトップを走っているが、夏場のハードスケジュールに5人交代など過去にないレギュレーションの今季だけに、この先、何が起きるか全く分からない。いかにしてこの停滞感を払拭し、勝ち点を重ねていくのか……。それを高は率先して考え、ピッチ上で表現していくことが肝要だ。地道に実績を積み重ねることでしか、輝かしい未来は開けてこない。 「五輪のことはあまり考えてないけど、今やれることをやるしかない。J2という舞台で好パフォーマンスを見せて、結果を出すしかない。それはガンバの時からずっと同じです。来年の五輪代表の強化体制が決まって、大会直前以外は横内(昭展)さんが指揮を執ることになりましたけど、僕が去年参加したトゥーロンの時も横さんが監督だった。結果も出たし、やってるサッカーもすごい楽しかったんで、僕らにとってはチャンスがあると思います」 どんな状況下でもポジティブシンキングを忘れないのが、高のいいところ。彼の主戦場であるボランチは欧州組の中山雄太(ズウォレ)やA代表予備軍と言われる田中碧(川崎)、田中駿汰(札幌)らがひしめく激戦区だが、参入の余地がないわけではない。霜田監督の力強い後押しを受け、ハードな2020シーズンにさらなる飛躍を遂げることができれば、大舞台に立てる可能性も十分あるはずだ。タフでアグレッシブな男がレノファをどのように立て直し、上位躍進へと導いていくのか。今後の彼の一挙手一投足から目が離せない。 <hr>【文・元川悦子】<br /><div id="cws_ad">長野県松本市生まれ。千葉大学卒業後、夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターとなる。Jリーグ、日本代表、海外まで幅広くフォローし、日本代表は特に精力的な取材を行い、アウェイでもほぼ毎試合足を運んでいる。積極的な選手とのコミュニケーションを活かして、選手の生の声を伝える。</div> 2020.07.15 16:00 Wed
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