2021年夏、インターハイ決勝のピッチでうずくまり、涙を流した2人の10番がいた。青森山田の松木玖生と米子北の佐野航大。あれから5年、2人は日本代表のユニフォームを身にまとい、A代表のピッチで再び同じ景色を見ている。かつてのライバルが歩んできた軌跡と、ここから始まる物語とは――。
「あの日の2人」がA代表で再び同じピッチに

キリンチャレンジカップ・日本vsウルグアイの一戦。筆者はキューアンドエースタジアムみやぎの記者席で、少しだけ感慨深い気持ちを抱えながらピッチを見ていた。
ピッチ上にはA代表初招集で初スタメンを飾った松木玖生が右のウイングバックの位置に立ち、ボランチにはA代表3試合目となる佐野航大が兄・海舟とコンビを組んでいる。
松木と佐野は同い年で、筆者がこの2人が同じピッチに立っている光景を現場で目の当たりにしたのは、2021年の福井インターハイ決勝・青森山田vs米子北の一戦以来のことだった。
プロになってからも、2023年のU-20アジアカップ、U-20W杯でチームメイトとして共闘してきたが、ついにA代表でもこの光景を見られることが非常に感慨深かった。
ウルグアイ戦、松木はデビュー戦とは思えないほど、右サイドで積極的にボールを呼び込み、果敢な仕掛けを見せながら、高校時代から得意としていた激しいプレスも披露し、堂々たるプレーを見せていた。佐野も所属するPSVアイントホーフェンでアンカーをこなすように、全体のバランスを見ながら兄・海舟を前に出し、攻撃のサポートを行うなど落ち着いたプレーを見せた。
そして、0-0で迎えた11分には左サイドでのポゼッションから佐野が左ワイドの中村敬斗にパスをつけた後、そのまま中村の前のスペースに流れたことで相手DFが釣り出され、中村の中央へのドリブルコースが空いた。
「流動的に中盤の3枚で動いてボールを止めずにテンポよく回していく中で、敬斗くんが斜めや横のドリブルで中に入って行くのは相手にとって非常に守りづらいと思った」
狙い通りに佐野が空けたスペースにドリブルをした中村は、逆サイドでフリーの松木に向かって大きなサイドチェンジ。
右ワイドで胸トラップからカットインを仕掛けると、「玖生があそこのコース物凄く得意なのは高校時代から知っていたので、持った瞬間に『あ、これは決めるな』と思いましたね」と佐野が思った通りの形で、松木は右斜め45度の位置から左足を一閃。ボールは強烈な弾道を描いて、ゴール左隅に突き刺さった。
大観衆に包まれたスタジアム。左コーナーに向かって膝スライディングをして雄叫びを上げた松木に真っ先に抱きついたのは佐野だった。この光景を見ただけで、思わず込み上げるものがあった。
2021年インターハイ決勝、うずくまった2人の10番

ハーフタイム。作業用のパソコンのデータから『インターハイ2021』という写真フォルダを開いた。そこには青森山田の10番・松木と米子北の10番・佐野の姿が写っていた。それを見たとき、あの日の激闘が鮮明に蘇った。
2021年8月22日、テクノポート福井総合公園スタジアム。青森山田は2005年度以来となる16年ぶりの優勝、米子北は初優勝がかかる一戦で、2人は激しくぶつかり合った。
松木はインサイドハーフに入ったが、アンカーを務める宇野禅斗(ボルシアMG)と息の合ったコンビネーションを見せ、迫力満点のドリブルと左足のキック、そして確実に相手を仕留めるプレスバックを披露し、攻守両面で存在感を発揮。ボランチに入った佐野も守備面では正確なプレスバックとカバーリングを見せ、カウンターでは正確なパスと前線まで上がっていくスプリントで攻撃に厚みをもたらした。特に10番同士の球際の競り合いはハイレベルで、お互いが闘志むき出しで一歩も引くことなく、何度も激しくぶつかり合った。
「松木だけにはやらせたくなかった」と佐野が語れば、「米子北のキーマンは間違いなく佐野。絶対に自由を与えてはいけないと思った」と松木も、攻撃だけでなく守備にも高い意識を見せた理由を口にした。
前半10分に佐野のPKで米子北が先制すると、そこからは両者一歩も譲らない激しい攻防戦が繰り広げられた。そして米子北の初優勝が目前に迫った後半34分(インターハイは35分ハーフ)、青森山田はロングスローから最後はCB丸山大和(FC今治)がヘッドで押し込み、土壇場で同点に追いつく。
延長戦までもつれ込んだ激闘は、再び一進一退となり、迎えた延長後半アディショナルタイムに青森山田が左CKを得ると、佐野と松木もゴール前で交錯する中、再び丸山がヘディングシュートを叩き込み、次の瞬間にタイムアップのホイッスルが鳴り響いた。
まさにラストプレーで松木は優勝キャプテンとなり、佐野は初優勝の夢が潰えた。ニアポストに入っていた佐野はその場でうずくまって号泣した。その様子をカメラに収めていると、すぐ近くに同じようにうずくまって泣いている青森山田の選手がいることに気づいた。カメラを向けると、松木だった。
勝った松木にとって、これが初の全国優勝だった。1年生の頃から絶対的なエースだった彼には、抱えきれないほどの重圧があった。一方で佐野にも、兄をはじめとした先輩たちが果たせなかった全国制覇を、後半、延長後半と『あと1つ』が守り切れずに逃した悔しさが刻まれていた。
あの2人の10番が、うずくまった状態で感情を露わにする姿がずっと脳裏に焼き付いていた。あれから5年の歳月を経て、A代表でチームメイトとしてピッチに立ち、2人で喜びを爆発させる。また2人の物語が動き出したようで嬉しかった。
「昨日の敵は今日の友」刺激を与え合い、ともに世界へ

試合後、佐野と1対1で話す機会があった。さっそく松木について聞くと、笑顔を見せてこう思いを口にした。
「玖生がボールを持った瞬間に何か入りそうな雰囲気があったし、高校時代から見てきたシュートで決めてくれたのは本当に嬉しかったですね」
そして、あの2人がゴール前でうずくまったシーンも鮮明に覚えていた。
「今もあの決勝戦自体が僕のサッカー人生の中でもトップレベルに悔しい試合だったので、ずっと頭に残っています。僕らにとっても初の全国制覇がかかった試合だったし、玖生も1年、2年生の選手権決勝で負けているから、彼自身も初の全国制覇がかかっていた試合だったんですよね。共に初タイトルがかかっていて、僕はかなり悔しかったのと同時に、あいつはプレッシャーが物凄くある中で悲願の初タイトル。僕が立った時、彼がうずくまっている姿を見て、『本当に必死だったんだな』と思いましたね」
昨日の敵は今日の友。この試合をきっかけに親交を深めていった2人は、共にJリーグで1年目から頭角を現し、世界へと羽ばたいていった。
佐野にとってはJ1のFC東京で華々しくプレーする松木の姿に刺激を受け、松木にとっては先にA代表に入った佐野に大きな刺激を受けた。そして、初ゴールを決めた松木に対し、前半のみで交代となった悔しさも佐野は味わった。
「僕も負けていられません」
最後にこう一言を残してミックスゾーンを去っていった佐野。この時、松木は多くのメディアに囲まれていた。
あの夏の続きを、W杯の舞台で

ライバル、親友と認め合い、共に刺激を与え合ってこの舞台に立った。彼らはまだ23歳になったばかり。これから悲喜交々あれど、より刺激し合って、日本代表の主軸としてW杯のピッチに立つ。そんなシナリオを描いて行ってほしい。
あの夏の思い出がより色濃く、価値あるものになっていくように。その先にあるW杯の舞台で、2人が感情を爆発させる姿を目の当たりにすることを夢見ている。
取材・文=安藤隆人
大学卒業後、地元の第一地方銀行に就職するも、フリーサッカージャーナリストとして週末だけ活動。2005年7月に5年半勤めていた銀行を辞め、単身上京してフリーの道へ。高校、大学、Jリーグ、日本代表、海外サッカーと幅広く取材し、これまで取材で訪問した国は40を超える。本の著作・共同制作は14作。最新作は『ドーハの歓喜 2022 世界への挑戦、その先の景色』と早川史哉の半生を描いた『ともに歩き出す』(徳間書店)。NumberWebで11年連載などの執筆活動以外にも講演・講師活動を小学校、中学校、高校、大学、企業と年10回ほど幅広く行っている。元・名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクター(2022年10月〜2026年4月)、現・國學院大學体育連合会蹴球部コーチも兼務する。W杯も2大会連続取材。
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