【インタビュー】チョン・テセが指導者の道へ「もう一度、狂ったような感情の起伏を味わいたい」|Y.S.C.C.で始まった新たな挑戦

現役時代は川崎フロンターレをはじめ、日本、ドイツ、韓国で活躍し、引退後はメディアでも幅広く活動してきた鄭大世氏(以下、チョン・テセ)。40歳を迎えたタイミングで指導者の道を歩み始め、2026年8月、Y.S.C.C.のコーチに就任した。就任から約1カ月、開幕から3試合を終えたタイミングで、指導者を志したきっかけから、コーチとしての日々、ここまでの試合の振り返り、そして自身のキャリアのビジョンについて、じっくりと話を聞いた。

超WORLDサッカー! 【インタビュー】チョン・テセが指導者の道へ「もう一度、狂ったような感情の起伏を味わいたい」|Y.S.C.C.で始まった新たな挑戦

― 選手として華やかなキャリアを築かれ、引退後はメディアでも活躍されていました。そんな中で、指導者の道に進もうと思われた経緯を教えてください。

いずれは指導者の道に、とは思っていたんです。ただ、正直に言うと、引退後の穏やかな生活があまりに幸せすぎて。家族との時間も増えて、朝もゆっくり過ごせて。メディアの仕事も自分にすごく合っていて、カメラの前に立つと性格まで明るくなるくらい好きなんです。ただ、40歳を迎えたタイミングで、いわゆるミッドエイジクライシスのようなものが来たんですよね。幸せなんだけど、自分の足で前に進んでいる感覚がしない。同じところをぐるぐる回っているような感覚があって。

ふとした瞬間に、インスタのショート動画で誰かが頑張っている姿を見ては号泣する、みたいなことが続いていたんです。「俺は今、何をやっているんだろう」って。そんな中、あるライブに足を運んで、そこで涙が止まらなくなった夜があって。次の日の朝、すぐにエージェントに電話して「サッカーの指導者としてキャリアを進めたい」と伝えました。選手時代のような、狂ったような精神状態というか、感情の起伏をもう一度味わいたいと思ったんです。

川崎でプロになったときに最初にお世話になったエージェントの方に連絡をしました。またサッカーの新たなキャリアを進める上で、その方と一緒に模索したいと思いました。僕の人生にとって、これまで縁を大切にしてきたので。また、指導者となるにしても、家族の近くで時間を過ごしたいという優先順位もあって、条件が重なったときに「それならY.S.C.C.が良いのでは?」という提案を受けました。実はY.S.C.C.の経営に携わっている方とも以前から食事に行く仲だったので、これは本当に縁だなと感じましたね。

― 最初にY.S.C.C.というチーム名を聞いたとき、どんなイメージをお持ちでしたか。

僕はパーソナルジムを横浜で運営していて、その店舗が横浜の石川町にあったんです。そこにY.S.C.C.の選手が来ていたことがあって、「あ、Y.S.C.C.ってこの近くで活動しているんだ」というくらいの認識でした。実際にどこで活動しているかまでは正直よくわかっていなかったんですが、実際に来てみたら練習場がすぐ近くで、「そりゃ僕のジムに来るよな」と。そんな縁がありました。

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― 就任から約1カ月、初めて大人のチームのコーチという役割に難しさを感じることはありますか。

正直、毎朝早いのがきついです(笑)。

監督代行の砂川さんがすごくまめな方で、その下でやらせてもらっている分、僕自身にそこまで責任がかかるわけではないので、精神的にはすごく楽です。砂川さんのスタイルが、様々な人の意見を聞いた上で決めるというものなので、僕の意見にも丁寧に耳を傾けてくれています。

比較的フリーな立場で活動していたこの4年間、解説の仕事でたくさんの試合を見てきました。もともとサッカー観戦がそこまで好きなタイプではなかったのですが、解説をしながらサッカーを見るのはすごく好きだと気付きました。戦術やトレンド、面白い動きなんかをたくさん吸収してきたので、Y.S.C.C.に加入してから、「これやってみよう」「こういうのどうですか」と砂川さんに提案すると、「面白いですね!やりましょう」となることが多くて。

ずるい言い方かもしれないですけど、現在はすごく良い立場でコーチをやらせてもらっているなと思います。楽しいですね、めちゃめちゃ!

― そうした役割分担は、コーチ陣それぞれで決まっているのですか。

そうですね。基本的には練習メニューを考える部分を担当するコーチもいれば、セットプレーを中心に見るコーチもいて。僕は基本的に攻撃を任せてもらっています。

― ここまで3試合が終わりました(取材時点)。まず第1節(ティアモ枚方)、ホームで1-0の勝利、前半は良い内容で先制しながら、後半は苦しい時間帯もありましたが、しっかりクリーンシートで勝ち切りました。この試合の評価をお聞かせください。

ホームの雰囲気も良かったですし、選手たちのモチベーションが上がる環境だったと思います。実は僕が加入する前、「大学生相手にも苦戦していた」という話も聞いていたので、どんなチームなんだろうと身構えていたんですけど、実際は質の高い選手が揃っている印象を受けましたし、ボールを扱う技術も悪くない。なので、初戦をベンチで見ている時に、「これは自分たちに優位性があるな」という感覚でいました。

― 第2節(横河武蔵野FC)は先制を許す苦しい展開から逆転、また追いつかれても、もう1点取って勝ち切りました。去年はああいう展開でズルズル失速するケースが多かった印象ですが、今年はしっかり逆転できる力を見せました。あの試合、テセさんもイエローカードをもらい、ベンチも戦っているなと感じました(笑)。

立ち上がりが悪いというのは今のチームの課題で、あの失点もそこが出た形でした。ただ、いつも通りの自分たちの力を出せば問題ないと確信していました。仕掛ければ十分にチャンスを作れるという感覚はありましたし、僕自身もビルドアップの形について指示は出しますけど、最後は選手の判断です。選手たちの判断や技術の高さが、試合をひっくり返す要因になったと思います。

― 第3節(ミネベアミツミFC)の試合ですが、試合を優位に進め、先制するまでは良かったのですが、追いつかれ、最後に決められてしまい、悔しい結果になりました。試合後、選手たちとどういったコミュニケーションを取りましたか。

ああいう展開になりやすい要素は、これまでもあると感じていました。課題として共有していたのが、点を取った後に足が止まって、引いてしまうという習慣。分かっていながら、まだ直しきれていない部分でした。それでも選手の質の優位性を活かして何度もチャンスを作り、ようやく先制点を取ったのですが、そこからまた同じように足が止まって、押し込まれて、失点。結果的に個人のミスからの失点でしたけど、それだけを責めるのは酷だと思っていて、そこに至るまでのサポートも足りていなかった。ただ、失点のタイミングが、ちょっと早すぎたなという感覚はありますね。

― ここまで3試合を終えて、他のJFLのチームの映像もご覧になっていると思います。Jリーグとの違いで大きく感じる部分はありますか。

フィニッシュの精度と、大きなミスの発生頻度。この2つは特に感じますね。ここまでの2連勝も、自分たちの良さが出た部分はもちろんあるのですが、相手が決めきれなかったから勝てている側面もあると思っています。第3節もそうで、あれだけ終盤に相手がチャンスを作れる状況にしていたら、普通は失点するよねというくらいの内容でした。

また、決め切る力というのは、やっぱり選手のサラリーと比例していく部分だと思っています。これはJリーグ、特にJ1でも同じことが言えます。得点力のある選手を獲得するには、それだけお金がかかる。あとは、こちらがミスをしても、相手がまたミスを返してくれる場面が多いリーグという印象をJFLに持っています。そこはちょっと歯がゆいところでもあります。

ただ、練習を見ながらいつも思うのは、選手個々の能力自体にJ1との大きな差は感じないんですよね。今の選手たちは技術もあるし、運動量も豊富だし、崩しの引き出しも持っている。本当にわずかな差、ディテールの部分がカテゴリーの差になっているのだと思います。

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― これまでのキャリアで公式戦190得点近くを挙げられていますが、その「最後の質を上げる」部分について、コツのようなものはありますか。

これは日本だけでなく世界的にも、ずっと難しいとされている部分だと思うんですけど、僕なりに大事にしていたのは「同じ動きを繰り返す」ことでした。良い動きをしていたから常にいいパスが来るわけじゃない。10回動いて1回ボールが来るかどうかの世界。だから、9回同じ動きをして、1回だけ違う動きをする、あるいはサボってしまったときに限っていいボールが来て、それに反応できない、というのが現役時代はすごく嫌だったのです。だから機械的に、いいポジションに入り続けることを徹底していました。それが僕のフォワードとしての哲学でしたね。

例えば、マイナスのポジションで待っていれば楽なんですけど、それだと一番良いボールを逃してしまうことがある。僕は絶対に、一番点が取れるポイント、いわゆるバックポスト(ファーポスト側)に走り込み続けることを徹底していました。ゴールエリアの中にどれだけスプリントできるかが、ゴールできるかどうかを決めると思っています。

今、Y.S.C.C.の選手たちにもこの考え方をフィードバックしていて、実際に効果が出始めているので、すごく楽しさを感じています!例えば、ウィングが上げたボールをファーサイドのウィングが合わせる形を作るとき、逆サイドのウィングの立ち位置が大外すぎると、折り返しの選択肢しか作れない。そうではなく、大外にいるディフェンダーの背中を取る動きをすれば、ダイレクトでシュートが打てるポジションに入れる、という話を練習の中でしていたら、先日の試合でまさにそのシーンが出てきて。ゴールポストに当たって惜しくも入らなかったんですが、チャンスが作れたのはすごく嬉しかったですね。他にも、ペナルティエリア付近でボールを持ったときに、スリーバックの一角の背後、ファーポスト前に落とすボールを狙う、といった話をしていたら、実際にそれを狙っている選手が出てきて、ビッグチャンスになっていました。ピッチの外からではありますが、自身の選手とのコミュニケーションによって、チャンスにつながるというシーンを見ると、本当にコーチという職業のやりがいを感じます。

― 少し話が戻りますが、開幕戦、ホームのニッパツ三ツ沢球技場にクラブ最多の8,105人が集まり、雰囲気もとても良かったと思います。テセさんはこれまで、それ以上の観客の前でもプレーされてきたと思いますが、あの日のような雰囲気が選手に与える影響について、どう感じていますか。

正直、JFLの試合をちゃんと見たのはあれが初めてだったのですが、「JFLってこんなに盛り上がるんだ」というのが最初の感想でした。ホームであれだけお客さんが入れば、足が動かないわけがないんです。僕自身、現役時代にアウェイでも浦和のようなすごく雰囲気のいいスタジアムでプレーしたときは、身体がめちゃくちゃ軽くなる感覚がありました。サッカー専用スタジアムで、観客席がピッチに近いと、それだけアドレナリンの量も増えて、自然と足が動くようになるんですよね。柏レイソルのスタジアムなんかも同じタイプだと思うんですけど、ああいう近さが選手を動かす原動力になると思います。

現に私たちのホーム開幕戦でも終盤になっても選手の動きは止まらなかった。それはホームの観客の熱気を選手が感じ取ったことも大きな要因となっています。

― 指導者という立場になった今、現役時代に影響を受けた指導者はどのくらいいらっしゃいますか。

戦術的な部分で一番大きいのは、ポポビッチ監督(町田ゼルビア)やクラモフスキー監督(清水エスパルス)ですね。特にクラモフスキー監督は攻撃的なスタイルで、4-2-3-1でサイドバックが高い位置を取り、ワントップは常に裏を狙い、クロスが入ったらキーパーとディフェンダーの間、ニアで合わせる。ああいう形が僕はすごく好きで、昔の優勝した横浜F・マリノス(クラモフスキー氏はコーチとしてポステコグルー監督を補佐)にも近い感覚があります。

今は解説の仕事をしながら見ていても、好きなスタイルはいろいろあります。レバークーゼンがブンデスリーガを優勝したとき(2023-24シーズン)の3-4-2-1、両ウィングバックが攻撃参加する形はすごく魅力的でした。ニューカッスルの4-2-3-1で、サイドバックがリスクを取ってどんどんオーバーラップ・インナーラップしていくスタイルも好きです。あれだけ果敢にサイドの選手がポジションを空けると、本来は大きなリスクにつながるのですが、相手がついていかなければいけない分、結果的に優位を取ることができます。そういう細かい駆け引きの部分が好きですね。あとはブライトンも。デ・ゼルビが指揮していた時には、2枚のセンターバックとゴールキーパーを使ってビルドアップを回していくスタイルも、解説で見ることが多かったので、大いに参考になりました。

― 今シーズンのY.S.C.C.には元韓国代表のキム・ミヌ選手や馬渡選手のような経験豊富なベテランと、若くていきの良い選手が多いと感じているとのことですが、まだ伸ばしていけると思う部分、特にフォワード陣への期待があれば教えてください。

ここは選手によってタイプが全然違うので、包括的な言い方になってしまうのですが、共通して期待するのは、裏への動きを取り続けることと、戦う姿勢です。僕自身、闘争心を前面に出す選手だったので、デュエルで戦えない選手には物足りなさを感じます。2トップの選手たちにも、ディフェンスとの駆け引きの中で、戦いを避けないプレーを求めています。

― 今の若い選手は物腰が穏やかなタイプも多いですが、その分「戦う」面で物足りなさを感じることはないですか。

いや、根はみんな熱いですよ。僕にどうやって相手のディフェンスに身体を当てにいけばよいか、アドバイスを求めてくる選手も多いです。最近だとFWの庵原選手なんかは、比較的小柄ながらも身体を当てて相手と駆け引きをするプレーが増えてきています。意識して変わろうとしているのは見ていて頼もしさを感じます。

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― 最後に、ご自身の指導者としてのキャリアをどう積み重ねていきたいか、教えてください。

今のうちに、失敗をたくさんしておきたいと思っています。いきなりJ1やJ2のような上のカテゴリーで監督として失敗してしまうと、二度とチャンスをもらえない厳しい世界だというのを、これまでたくさん見てきています。今、Y.S.C.C.のようにみんなが必死で戦っているクラブで、小さな成功と失敗を繰り返しながら経験を積む。まだまだ勉強の時期だと思っています。自分の未熟さを自覚しながらも、日々の小さな成功を楽しんで、それを繰り返しながら、トップカテゴリーに行く前にいろんな経験をしておきたいんです。

もちろん、いつか監督はやりたいと思っています。それは間違いないです。だからこそ、メディアの仕事もいろいろ関わらせてもらっている中で、それも含めてコーチという立場から入ったのは、僕にとってすごく大きな意味があります。

この先には監督を絶対にやりたいと思っていますが、いきなり監督をやるのは正直怖い。だから今は、いろんな情報を取り入れながら準備している段階です。指導者ライセンスについては、A級を去年取得しました。S級についてはタイミングを含めてまだ悩んでいるところです。

藤枝MYFCの槙野監督とはJリーグ入りが同期で、彼のキャリアは自分の中で理想的だなと感じています。アマチュアの品川CCで大人のチームのマネジメントを学ぶところからスタートし、今はJ2の藤枝でチャレンジしている。戦術面だけでなく、監督としての見せ方、演出面も含めて周りを巻き込んでいる姿は、まぶしく見えますね。

僕もしっかりと経験を積んで、監督としてのスタートの地を固めていきたいと思っています。

この日、テセ氏がインタビュー会場に訪れた際には、トレーニングができるような格好であり、現役時代に勝るとも劣らない引き締まった姿があった。何を目指しているのかご本人に伺うと、「過去最高の自分です!」と屈託のない笑顔で返した。フィジカルだけでなく、戦術的なインテリジェンスも含めて日々アップデートしているテセコーチの雄姿を、今後も継続して追いかけていきたいと思うインタビューとなった。

このインタビューの後、Y.S.C.C.は1勝1敗、5試合を終えて、3勝2敗で勝ち点9の6位となっている。得点10はリーグ内で上から2番目で、得点力不足に苦しんだ昨シーズンとは違う表情を見せている。

次戦は10月4日(日)18時キックオフで、三ツ沢陸上競技場にて好調のクリアソン新宿と対戦する。テセコーチの雄姿とともに躍動する選手たちを、ぜひ会場で見てほしい。

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超ワールドサッカー編集部
海外リーグ、Jリーグを中心に日本代表、なでしこなど、幅広いファン層が訪問するサッカー情報サイト「超WORLDサッカー!」。 記事数はサッカーメディアで圧倒的トップで移籍情報は、国内ではJ1からJ3まで、海外では欧州5大リーグにとどまらずフリークが求めるリーグやチームまで網羅。 ピッチ外の出来事も豊富に取り揃え、24時間365日、最新のサッカー情報を配信中。
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