攻撃と守備、その両方に高いレベルの武器を持つ選手がいる。サンフレッチェ広島の中野就斗だ。183cmのサイズとCBで培った守備力を持ちながら、攻撃面でも進化を続けてきた男が、ついに日本代表へ初招集された。待ち望んだ日本代表の舞台で中野が感じた刺激と、さらにその先に見据える“唯一無二”の姿とは――。
「サイズがあって守備ができる」だけではない、攻守に備えた独立した武器
「早くA代表に呼んでほしい」
サンフレッチェ広島の試合でDF中野就斗のプレーを見るたびに、そう思っていた。183cmのサイズがあり、対人守備にめっぽう強く、空中戦のバトルも彼の武器だ。桐生第一高、桐蔭横浜大では安定感抜群のCBとして評価を高め、広島加入後は【3-4-2-1】の右ウイングバックという新境地を切り拓いた。
CBを本職としてきた選手がサイドに立つことで生まれる守備面での安心感。それだけでも希少価値は高い。だが、筆者が中野を日本代表で見てみたいとずっと思っていた理由は、そこではなかった。
彼は『サイズがあって、守備ができるウイングバック』ではなく、『サイズがあって、攻撃と守備のどちらも高いレベルでできるウイングバック』だ。この違いは、とてつもなく大きい。
最近のウイングバックは、攻撃に尖った特徴を持つ選手と、守備に特徴を持つ選手に二極化されることが多い。その中で、中野は当初こそ後者に当てはまっていたが、広島でミヒャエル・スキッベ監督は彼のスピードとキックの精度を見抜き、ウイング的な役割を与えた。縦突破、カットイン、3人目の動き出しからのラインブレイクなど、さまざまな形でアタッキングサードを攻略していく術を叩き込んだ。
これにより彼はウインガーとしても、サイドハーフとしても攻撃的な能力を発揮できるほどの攻撃センスを磨き上げ、ひとたび守備に回れば、CBとして培った対人能力、空中戦、危機察知能力を発揮することで、自らの希少価値をより高めていったのだ。
『攻』と『守』。その両方に、それぞれ独立した武器を持っている。それこそが中野就斗というウイングバックの最大の魅力だと感じていた。そのことを本人にぶつけると、中野は力強く頷いた。
「それは僕も思います。中途半端な武器ではなく、完全な武器になっている自信はあります」
だからこそ、いつ呼ばれるのだろうと思っていた。そして今年9月、10月の4連戦を戦う日本代表メンバーに、中野はついに初招集を受けた。
「もうないのかな」と思っていた。待ち望んだ日本代表への初招集

初戦のウルグアイ戦後のミックスゾーン。この試合でベンチ入りをしたものの、初出場はお預けとなった彼に話を聞くと、本人の反応は意外なものだった。
「今までずっと呼ばれなかったのもあって、正直、『もうないのかな』と思っていたので、個人的にはかなりびっくりでした」
待ち望んでいたというより、半ばその可能性を考えなくなりかけたタイミングで届いた初招集だった。一方で、日本代表という場所に足を踏み入れた瞬間、中野の中には新たな感情が湧き上がった。
「もう毎日がめちゃくちゃ楽しいです。強度、質、スピード、全て。広島にいても高いレベルにあるのは間違いないのですが、やっぱり日本代表はちょっと違う。驚きがあるんです。これは大学からプロに上がりたての感覚に似ているんです。全てがこれまで経験したものより1ランク、2ランク上で、正確性も凄い。ちょっと驚きましたが、今は楽しさが勝っています」
自分より高い基準に触れ、知らなかった景色を見る。そこで萎縮するのではなく、「楽しい」という言葉が何度も出てくるところが印象的だった。さらに、現在の日本代表におけるウイングバックの役割も、中野にとってまったく未知のものではない。
広島で磨いてきた攻撃力が、日本代表でも生きる

大外のレーンを上下動するだけではなく、状況に応じてインサイドへ入り、ビルドアップに関わる。そこから外へ出て縦に仕掛けることもあれば、ゴールにつながるラストパスを供給することも求められる。これはすでに広島で磨いているところだった。
「広島のウイングバックは外だけじゃなく、インナーのところを使うことを意識するサッカーをしています。特に、今年から就任した(バルトシュ・)ガウル監督が、スキッベ前監督のサッカーをベースに、よりビルドアップに加わったり、ショートカウンターでインナーを取ったり、より今の日本代表に近いサッカーをするようになったので、より頭が整理されてきていますし、攻撃も守備もできる僕の存在は『唯一無二』になれるんじゃないかという手応えはあります」
目を輝かせながらこう口にする中野にとって、ウルグアイ戦で大きな刺激を受けた場面があった。
日本の3点目。右サイドの伊東純也がカウンターから最終ラインの背後へ走り込むFW上田綺世に向けて、鋭いグラウンダーのボールを通す。上田がこれを仕留めた。中野が目を奪われたのは、伊東が送り込んだそのボールだった。
「あれはかなり刺激になりました。僕も最近それを意識してやっていたんです。アーリーといえばアーリーなのですが、あそこのスペースに走ってくるFWに対して、スルーパスのように速いテンポでグラウンダーで通すことはチャンスにつながると思っていたので、意識的に取り組んでいた。だからこそ、目の前で見てかなり勉強になりました」
自分が広島で磨こうとしているプレーを、代表のピッチでウイングバックのライバルである伊東が高いクオリティーで表現する。初めて身を置いた日本代表は、彼にとって自分に足りないものを突きつけられる場所であると同時に、自らが進んできた方向が間違っていなかったことを確認できる場所でもあった。
日本代表への扉は、ついに開いた。その先に広がる景色
日本代表への扉は、ついに開いた。だが、その扉の向こうで本人が感じているのは、満足感ではない。自らの可能性を広げ続けてきた『唯一無二』のウイングバックは今、さらにその先に広がっていく景色を見ようとしている。
取材・文=安藤隆人
大学卒業後、地元の第一地方銀行に就職するも、フリーサッカージャーナリストとして週末だけ活動。2005年7月に5年半勤めていた銀行を辞め、単身上京してフリーの道へ。高校、大学、Jリーグ、日本代表、海外サッカーと幅広く取材し、これまで取材で訪問した国は40を超える。本の著作・共同制作は14作。最新作は『ドーハの歓喜 2022 世界への挑戦、その先の景色』と早川史哉の半生を描いた『ともに歩き出す』(徳間書店)。NumberWebで11年連載などの執筆活動以外にも講演・講師活動を小学校、中学校、高校、大学、企業と年10回ほど幅広く行っている。元・名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクター(2022年10月〜2026年4月)、現・國學院大學体育連合会蹴球部コーチも兼務する。W杯も2大会連続取材。
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