プロの世界では、失敗から逃げず、何度でも立ち上がる力が問われる。ガンバ大阪の池谷銀姿郎は、恩師や仲間が見守る前で痛恨のミスを犯し、前半だけでピッチを退いた。苦い45分を経験した22歳が、そこから見つめ直した自分自身とは――。
痛恨のミスで味わったプロの厳しさ
プロの世界では、たった一つのミスが試合の流れを変え、自らの立場さえも変えてしまう。その厳しさを、ガンバ大阪のプロ1年目のDF池谷銀姿郎は身をもって味わった。
2026/2027明治安田J1リーグ第2節・水戸ホーリーホックvsガンバ大阪の一戦。4バックの右CBで開幕から2試合連続のスタメン出場を果たした。しかし、0-0で迎えた18分、最終ラインのボール回しから右サイドのスペースにミドルパスを打ち込んだが、これがミスパスとなり、フリーのMF谷口海斗に前向きに拾われる。
2CBが開いた状態でポゼッションをしていたため、中央にぽっかりと開いたスペースにMF鳥海芳樹に潜り込まれた。そこに谷口から正確なスルーパスが通り、池谷とCB中谷進之介の懸命のプレスも届かず、鳥海に先制ゴールを決められてしまった。
その後は落ち着いたプレーを見せたが、後半が始まる際にはピッチに姿はなく、前半のみでの交代を告げられた。
彼は筑波大に籍を置く現役大学4年生。昨年12月に卒業を待たずしてプロの世界に飛び込み、開幕スタメンでJ1デビューを飾るなど、華々しくスタートを切った中で突きつけられた、プロの厳しい現実だった。
試合後のミックスゾーン、池谷に声をかけると、立ち止まって話をしてくれた。
「今日はチームに迷惑をかけてしまったと思っているので、また練習から信頼を掴んだり、自分のできることをもっと見せていかないといけないと思っています」
言葉を選びながら、自らのプレーと真正面から向き合っていた。
「あそこは本当に簡単なミス。前半はゼロでゲームを動かしていかないといけないと思っていたので、もっと大きく(サイドのスペースに)蹴り出すなど、もっと簡単に対処できたと思います。それ以外のプレーが普通にできていただけに、もったいなかったと思っています」
“お祭り男・銀ちゃん”が見せるチームへの献身
池谷といえば、持ち前の明るいキャラクターで、筑波大蹴球部在籍時代には、周りを盛り上げる『お祭り男・銀ちゃん』と呼ばれていた。
チームのイベントやPVには法被を着て登場し、そのキャラクターを爆発させながら場を盛り上げる。ピッチ内でも苦しい時に声で盛り立て、ベンチにいても最後まで大きな声でチームを鼓舞し続ける。BチームやCチームの試合では、鼓舞する声とコーチングだけではなく、ベンチを整えたり、スクイズを配ったりするなど、出場している選手のサポートを全力でする。
ただ騒がしいだけではなく、チームのためにそれができることこそ、彼が『お祭り男』と親しまれる所以だ。
だが、そんな池谷でも、やはりミスをするとナーバスになってしまうこともある。
「特にガンバに来てからは、そういうことの連続です。ミスが続いて、そうなるとやっぱり自分自身もナーバスになる。プロの世界は本当に小さなミスが失点につながったりするし、実際にそれを着実にゴールに沈めてくるのがプロと大学のレベル感の違い。今日のミスはもちろん、それ以外の小さなミスでも状況が難しくなるのがプロの世界だと感じます」
恩師と仲間の前で味わった苦い45分
しかも、彼にとってこの試合は特別な意味を持っていた。対戦相手の水戸には筑波大で同期のFW内野航太郎がいた。さらにスタンドにはお世話になった小井土正亮監督をはじめ、筑波大蹴球部のスタッフ、同学年の選手たちも2人のユニフォームやタオルマフラーを持って、こぞって応援に駆けつけていた。
絶対に勝ちたい、いいプレーを見せて恩返しをしたい試合での痛恨のミスと、前半45分間のみのプレー。悔しくないはずがない。それでも、池谷はこの現実から目を逸らさなかった。
「失敗はするものだと思っているし、すぐに前向きにはなれないかもしれないですけど、いずれ前向きになると思うんで。そこは昔から変わりません」
この言葉が、実に『銀ちゃん』らしかった。彼にとってこの経験は、ある意味、望んでいたことでもある。大学生だからという甘えを捨てて、プロの世界に飛び込んだからこそ、この感情の浮き沈みは覚悟の上だし、それを経験することで自分はもっと強くなれるという確信が根底にある。
だからこそ、彼はあのパスミスについて言及されても、気丈に、潔く思いを言葉にしてくれた。何か別のところに原因を求めるのではなく、そもそものプレー選択を自らに問い直す。そして、いつまでも下を向くことなく前を向き、持ち前の明るさを忘れない。
「また頑張ります」――苦い45分を成長へ変える
「何事にも全力で取り組む姿勢が自分の特徴だと思っているので、もう一回、練習から全力でやるつもりだし、もし試合のチャンスが来たら目の前の相手に絶対に負けない。とにかく全力でやる。また頑張ります」
答えはシンプル。ひたすら自分らしくやり続けるのみ。あのミスをなかったことにすることはできないからこそ、この45分間を今後どう意味のあるものに変えていくのか。そのことも、そのためにやるべきことも、彼自身がもう分かっている。
もう一度、練習から全力で――。プロとして歩き始めたばかりの22歳にとって、この試合の45分間は間違いなく大きなターニングポイントになる。
取材・文=安藤隆人
大学卒業後、地元の第一地方銀行に就職するも、フリーサッカージャーナリストとして週末だけ活動。2005年7月に5年半勤めていた銀行を辞め、単身上京してフリーの道へ。高校、大学、Jリーグ、日本代表、海外サッカーと幅広く取材し、これまで取材で訪問した国は40を超える。本の著作・共同制作は14作。最新作は『ドーハの歓喜 2022 世界への挑戦、その先の景色』と早川史哉の半生を描いた『ともに歩き出す』(徳間書店)。NumberWebで11年連載などの執筆活動以外にも講演・講師活動を小学校、中学校、高校、大学、企業と年10回ほど幅広く行っている。元・名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクター(2022年10月〜2026年4月)、現・國學院大學体育連合会蹴球部コーチも兼務する。W杯も2大会連続取材。
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