高校のユニフォームを着たまま、Jリーグ公式戦のピッチに立つ――。今季、そんな光景が相次いで生まれた。高体連に所属する高校生たちが、特別指定選手としてプロの舞台で得た経験を高校に持ち帰る。その背景には、Jリーグのシーズン移行による環境の変化がある。
シーズン移行が生んだ、高体連選手たちのJリーグ公式戦出場

高体連の選手が、高校のユニフォームを脱がないままJリーグ公式戦のピッチに立つ―。
今季のルヴァンカップ1回戦で、そんな光景が相次いだ。9月2日のFC琉球vs横浜FCでは、帝京高3年のMF渡辺莉太が横浜FCのスタメンに名を連ね、前半45分間プレー。同日のツエーゲン金沢vsFC今治では、桐光学園高3年のDF萩原慶(今治内定)が後半開始から出場し、同じく45分間プレーした。そして9日の松本山雅FCvs湘南ベルマーレでは、豊川高3年のMF大下蒼生(湘南内定)が延長後半からピッチに立った。
彼らに共通するのは、高体連チームに所属しながら『JFA・Jリーグ特別指定選手』としてプロの公式戦に出場したことだ。
Jクラブのアカデミーでは、2種登録された選手がトップチームの公式戦に出場するケースは珍しくない。だが、高体連所属選手となると、この光景は近年ほとんど見られなくなっていた。
遡ること2019年、桐光学園高3年だったMF西川潤(現・ファジアーノ岡山)がセレッソ大阪の特別指定選手としてルヴァンカップとJ1リーグに出場。同年には桐生第一高3年の若月大和(現・アルビレックス新潟)も湘南でJ1とルヴァンカップのピッチに立った。
それから7年。高校生の特別指定選手がいなくなったわけではない。2020年には京都橘高のFW西野太陽(現・湘南)、前橋育英高のMF櫻井辰徳(現・サガン鳥栖)、国見高のFW中島大嘉(現・ザスパ群馬)らが認定され、2023年には飯塚高のDF藤井葉大(現・岡山)、大津高のMF碇明日麻(現・ハノーファー96Ⅱ)、2024年には帝京長岡高のFW安野匠(現・ベガルタ仙台)らも続いた。しかし、高校在学中にJリーグの公式戦で実際にプレーするケースは限られていた。
制度が変わったわけではないのに、なぜ今年、複数の高校生が相次いでJリーグ公式戦のピッチに立ったのか。
その背景の一つとして考えられるのが、Jリーグのシーズン移行だ。従来の2月開幕~12月閉幕では、高校3年生の進路が固まる夏から秋はリーグ戦の後半戦に当たった。優勝、昇格、残留争いが激しさを増す時期に、翌年加入する高校生を公式戦で起用することは容易ではなかった。カップ戦もすでに敗退していたり、勝ち残っていても大会がより上の舞台に進んでいたりと、特別指定選手を起用する機会は限られていた。
しかし、2026/27シーズンからJリーグは8月開幕、翌年5~6月閉幕となった。高校生の加入内定が相次ぐ時期と新シーズンの序盤が重なり、ルヴァンカップも9月に開幕した。
さらにインターハイが8月上旬に終了し、暑熱対策によって8月は高校年代の主要リーグ戦が中断期間に入ることも影響していると考えられる。高校生がシーズン真っ只中の内定先に合流するのではなく、新シーズン開幕前のキャンプや練習に、ある程度まとまった期間参加できる土壌が整った。
そこでチームコンセプトへの理解を深め、周囲とのコミュニケーションを図った状態で公式戦に臨めることも、これまで存在していた制度を活用しやすくする要因になったと考えられる。
プロの基準を知り、高校に持ち帰る
そして重要なのは、高校生がプロデビューという肩書きを手にすることだけではない。実際にプロを経験し、そこで得たものを高校に持ち帰る。その価値を萩原の言葉が物語っている。
「悔しいというか苦い経験でした」
ルヴァンカップでのデビューを、萩原はそう振り返った。持ち味のスピードを生かした攻撃参加で存在感を示す場面もあった。しかし、時間の経過とともに相手にプレーを読まれ、スペースを消されるようになった。守備でも1対1の甘さからクロスを許し、試合終了間際にFWパトリックに決められた決勝弾を悔やんだ。
攻勢の時には勢いに乗って攻撃参加できる。だが、押し込まれた時に自分のところでボールを落ち着かせ、攻撃の起点を作ることができない。
「元々感じていた部分が一気に課題として浮き彫りになったという感じです」
高校年代でも薄々感じていた弱点が、プロのプレッシャーや駆け引きの中で、より鮮明になった。だからこそ、萩原は高校に戻ってからの取り組みを明確にしている。
「高校でもっとどんどんボールを要求して、スピードでごまかさない、苦手なことから逃げないで、練習からもっと取り組むべきだと思っています」
この言葉に、特別指定制度の育成面での価値が凝縮されている。高校生のうちにプロの基準を知り、自分に足りないものを明確にする。そして、残された高校生活の中で、その課題と向き合うことができる。
高校とプロの距離を縮める、新たな育成の可能性
萩原は桐光学園で選手権優勝を成し遂げ、年明けにはシーズン真っ只中の今治の力になれる選手になりたいとも口にした。
プロの厳しさを知ったからこそ、覚悟はより明確になった。高校とプロ。その間にある距離を縮めるだけでなく、プロで得た基準を所属チームに還元する。今季相次いだ高体連の高校生たちの公式戦出場は、シーズン移行がもたらした新たな育成の可能性を示しているのかもしれない。
取材・文=安藤隆人
大学卒業後、地元の第一地方銀行に就職するも、フリーサッカージャーナリストとして週末だけ活動。2005年7月に5年半勤めていた銀行を辞め、単身上京してフリーの道へ。高校、大学、Jリーグ、日本代表、海外サッカーと幅広く取材し、これまで取材で訪問した国は40を超える。本の著作・共同制作は14作。最新作は『ドーハの歓喜 2022 世界への挑戦、その先の景色』と早川史哉の半生を描いた『ともに歩き出す』(徳間書店)。NumberWebで11年連載などの執筆活動以外にも講演・講師活動を小学校、中学校、高校、大学、企業と年10回ほど幅広く行っている。元・名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクター(2022年10月〜2026年4月)、現・國學院大學体育連合会蹴球部コーチも兼務する。W杯も2大会連続取材。
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