東京都町田市を拠点とするFCトリアネーロ町田が、また一つ日本一のタイトルを手にした。
2026年8月11日、JFA バーモントカップ 第36回全日本U-12フットサル選手権大会の決勝で、神奈川県代表のFC PORTAと対戦。開始3分までに両チーム合わせて5点が入る激しい打ち合いとなり、3-3で前半を終えた。後半も一歩も譲らず、5-5で迎えた残り約1分に勝ち越し。6-5で前年の準優勝を乗り越え、クラブ史上初となるフットサル日本一に輝いた。
トリアネーロには、すでにもう一つの「日本一」がある。2020年のJFA 全日本U-12サッカー選手権大会では、決勝でジェフユナイテッド千葉をPK戦の末に破り、クラブ創設からわずか4年半で全国の頂点に立った。2016年6月の設立から10年。サッカーとフットサルの両方で日本一になった。
ただし、トリアネーロ町田が勝つことだけにこだわっているわけではない。クラブを率いる若山聖祐監督は、チームの哲学を端的な言葉で表す。
「かっこよく勝ちたいんです」
3人の選手のために始まったクラブ
トリアネーロ町田が誕生したのは2016年6月。若山監督はそれ以前、少年団で8年間指導した後、神奈川の強豪FCパーシモンで4年間指導に携わった。
「パーシモンで少年サッカーのトップレベルを肌で感じられた。あそこでやっていなかったら経験できなかったことがたくさんありました」
全国でも名の知られた強豪クラブで人脈を広げ、トップレベルの選手を指導しながら、「このレベルの相手にどうすれば勝てるのか」を学んだ。その後クラブを離れることになるが、最初から「自分のクラブを作って全国を目指そう」と考えていたわけではない。
きっかけは、一緒にクラブを離れた3人の子どもたちだった。その中には、後に東京ヴェルディでプロになる白井亮丞もいた。彼らが小学校を卒業するまでサッカーを続けられる場所を作りたい。その思いから始まったのがトリアネーロだった。
「そもそも、その3人のために立ち上げたんです。その代で終わりかなと思っていました」
クラブ名の「TRIANELLO(トリアネーロ)」は、活動拠点となった町田市三輪の「三」と「輪」をモチーフにした造語。3つの輪をつなぎ、人と人との輪を広げていくという思いが込められている。
「選手だけが頑張ってもチームは成り立たないし、コーチだけ、親だけが頑張ってもしょうがない。みんなが力を合わせて、選手のために協力してやっていきましょう、と。自分の子どもだけじゃなくて、みんなを自分の子どもくらい可愛がってほしい」
現在も公式サイトに掲げられる「Players First」「三位一体」というクラブ運営の原点は、創設時から変わっていない。
「強いチーム」より「面白い選手」を
創設から4年半で日本一。そのスピードだけを見れば、FCパーシモンで強豪クラブの作り方を学んだ若山監督が、そのノウハウを町田で再現した――。そんなストーリーにも映るが、本人が語る原点は、もう少しシンプルだ。
「サッカーという競技自体が、そもそも楽しむものだと思っているんです」
若山監督自身、現役時代は攻撃的な選手だった。守備よりもボールを持って何かを仕掛けることが好きだったという。少年時代から憧れてきたのは、ブラジルやアルゼンチンのサッカーだった。
「圧倒的な技術と、圧倒的な発想力。サッカーって、ディフェンスの想定外のことをしないとなかなかゴールは生まれないと思っているんです。そこでヒールパスをするのか、みたいな。そういうプレーが人を感動させたり、興奮させたりする。自分もそうさせられてきたので、そういう選手を育てたい」
目指しているのは、勝つためだけの選手ではない。見ている人が「また見たい」と思うような、予想を超えるプレーで人を魅了できる選手だ。
「圧倒的に面白い選手が揃えば、結果的に勝つと思っているんです。勝つために選手を作るというより、面白い選手を作って、その先に勝てればいい」
トリアネーロの攻撃的なサッカーは、戦術から逆算して作られたというより、若山聖祐という指導者が「こんな選手を見たい」と思い続けてきた先に形づくられてきたものと言える。
「かっこよく勝ちたかった」2020年の日本一
その思想が全国に知れ渡ったのが、2020年だった。東京都大会ではバディ江東、バディ世田谷をそれぞれ6-0、4-0で撃破。小柄な選手たちがボールをつなぎ、技術とコンビネーションで相手を崩していく姿は、強烈な印象を残した。全国大会でも鹿島アントラーズ、ガンバ大阪などを破って決勝へ進み、ジェフユナイテッド千葉をPK戦の末に下した。
若山監督は、勝率だけを高める方法ならほかにもあると考えている。フィジカルの強い選手を前線に置き、リスクを抑えて長いボールを送り続ける。小学生年代では、それも勝つための一つの方法になる。
「決勝戦の映像って一生残るじゃないですか。たくさんの人が観て日本サッカーにいい影響があるといいなって、だからかっこよく勝ちたかった」
勝利を本気で目指しながら、そのために自分たちのサッカーを捨てることはしない。2020年の全国制覇後、そのスタイルは大きな反響を呼び、クラブへの問い合わせが殺到した。試合映像は他クラブの指導現場でも教材として使われたという。結果と同じくらい、「どう勝ったか」がトリアネーロ町田という名前を全国区へ押し上げた。
育てる力と、勝たせる力
若山監督は、「育成年代だから勝敗は関係ない」と考えているわけではない。
「僕は“二面性”が必要だと思っています。育てられる能力と、勝たせられる能力、両方が必要です」
技術のある選手を育てることに加えて、戦術や規律、チームマネジメントを整え、大一番で選手の力を引き出す。若山監督は、そこまでを指導者に必要な力として捉えている。
普段の練習では、子どもたちと冗談を言いながら一緒にボールを蹴る。公式戦になれば、表情も声も変わる。
「ピッチに入ったら戦いですからね」
2026年のバーモントカップ決勝でも、そのスイッチは入っていた。ただ、厳しい言葉をぶつければ選手が動くわけではないことも、若山監督はよく知っている。
「普段から信頼関係を築いておかないと、大事なところで何を言っても響かない。『若コーチが言ってるから、ここはやらなきゃ』となる関係がないと、どんなに鼓舞しても選手は動かないですよ」
サッカーでは自由な発想を求め、勝負になれば厳しく向き合う。日頃の距離の近さと、勝負どころでの厳しさ。その切り替えも、若山監督が選手を引きつける理由なのだろう。
狭いピッチが磨いた「トリアネーロらしさ」
トリアネーロの特徴と言えば、細かくボールを動かしながら、複数の選手が連続して関わる攻撃だ。そのスタイルを生み出した背景には、練習環境も関係している。
チームとしての平日練習は基本的に火曜日と木曜日。希望者は水曜日にフットサルへ取り組んでいた。普段使うグラウンドは決して広くなく、「今まで見たチームの中で一番狭いかもしれない」と取材中に伝えると、若山監督も笑いながら認めた。
限られたスペースの中では、相手を外して受ける工夫や、味方同士が連続して関わることが自然と求められる。3人目の動きも、ボールを前へ運ぶために欠かせない。
「ここだと、それをやらないとボールがつながらないんですよね」
環境上のハンデは、いつしかクラブの武器へと変わった。土日のトレーニングマッチも重要な練習の場で、若山監督は選手を一つのポジションに固定しない。サイドが得意な選手を中央で起用するなど、普段とは違う景色を見せることで、選手の「引き出し」を増やしていく。
「最終的には得意なポジションに行けばいい。でもジュニアの時はいろいろできなきゃダメだと思っています」
トリアネーロには、ボールの「持ち方」にも共通項がある。そのヒントの一つになったのがドルトムントなどで活躍した香川真司だった。アンドレス・イニエスタら世界のトップ選手を研究する中で、日本人である香川のターンやボールの隠し方を見て、「日本人にもできる」と感じたという。インサイドやアウトサイド、チョップなど、基本となるターンを幼い頃から反復する一方で、形だけを覚えさせることはしない。
「いつ、どこで、どのタイミングで使うのかまで教えないと実戦では使えない」
身につけた技術を、どの状況でどう使うのかまで理解させ、最後は選手自身に選ばせる。トリアネーロの選手がボールを持った時、「次に何をするか」が一つに決まっていないのは、そうした積み重ねによるものだ。
フットサル日本一でも貫いたもの
その育成の積み重ねが、2026年8月にもう一度、日本一という結果につながった。前年のバーモントカップでも決勝へ進みながら、マルバ千葉fcに敗れて準優勝。2年連続でたどり着いた決勝で、今度はFC PORTAを6-5で下した。
決勝では開始直後から失点を重ねながらも、トリアネーロはボールをつなぐことをやめなかった。若山監督も大会後、怖がって逃げるのではなく、自分たちでボールを動かし、最後までやり切れたことを評価している。
2020年の全日本U-12サッカー選手権と、2026年のバーモントカップ。ピッチの大きさも人数も競技特性も異なるが、ボールを持つことを怖がらず、自分で判断しながら相手の想像を超えていくという考え方は変わらない。その先に、自分たちらしい勝利がある。
サッカーとフットサル、その両方で全国制覇を果たした事実は、トリアネーロが積み上げてきた育成が、一つの大会や一つの世代だけのものではないことを示している。
「東京と言ったらトリアネーロ」に
トリアネーロからは毎年のように、FC東京、東京ヴェルディ、浦和レッズ、川崎フロンターレ、横浜F・マリノス、横浜FC、大宮アルディージャなど、Jクラブのアカデミーへ選手が進んでいる。一方で若山監督は、「最初から完成した選手が集まってくるクラブ」だという見方を否定する。
現時点ではJクラブに届かなくても、何か一つ面白いものを持っている選手を預かり、技術とサッカー理解を高めながら、数年後に大きく伸ばしていく。それこそが街クラブの役割だと考えている。
「そこに届かないけど、ちょっと面白い子たちを僕らが預かって磨いて、違うタイミングでどうぞって。それが僕らの仕事だと思うんですよね」
小学生年代の結果だけで育成を判断せず、卒業した選手が中学、高校、その先で伸びていく姿を見ることが、今では若山監督にとって大きな喜びになっている。クラブは次の10年に向け、町田だけでなく江戸川にも活動拠点を広げているが、若山監督は現在地に満足していない。目標を聞くと、即座に答えが返ってきた。
「東京の絶対王者になりたいですよ」
日本一にはなった。それも、サッカーとフットサルの二つの競技で。それでも、毎年高い水準を維持するための組織力や指導者育成、選手が通いやすい環境など、まだ足りないものがあるという。
「もっとトリアネーロでサッカーをやりたいという選手が増えて、いい選手を輩出して、結果もついてきて。『東京と言ったらトリアネーロだよね』っていうふうになりたいですね」
3人の子どもたちのために始まったクラブは、4年半で日本一になり、10年目にはサッカーとフットサルの両方で全国の頂点に立った。若山聖祐にとって、それはゴールではない。面白い選手を育て、ボールを大事にしながら、どうせ勝つなら、かっこよく勝ちたい。その変わらない美学を携えて、トリアネーロ町田は次の10年へ向かっていく。
【プロフィール】
若山聖祐(わかやま・せいすけ)
1985年5月22日生まれ、東京都大田区出身。菅FC、南菅中学校、日体荏原高校、YASUサッカースクール、FCパーシモンなどで指導。2016年のFCトリアネーロ町田設立時から現場を率いる。2020年にJFA 全日本U-12サッカー選手権大会、2026年にJFA バーモントカップ 全日本U-12フットサル選手権大会で全国制覇。
【クラブプロフィール】
チーム名:FCトリアネーロ町田
活動拠点:東京都町田市
練習場所:三輪緑山スポーツ広場、町田市立鶴川第二中学校、鶴間公園ほか
代表:藤井和義
監督:若山聖祐
創立:2016年6月
所属:東京都サッカー協会/東京都少年サッカー連盟第11ブロック
所属リーグ:三井のリハウス東京都U-12サッカーリーグ1部(T1)
主な大会実績:2020年 JFA 全日本U-12サッカー選手権大会優勝、2026年 JFA バーモントカップ 全日本U-12フットサル選手権大会優勝
主な進路先:FC東京、東京ヴェルディ、川崎フロンターレ、横浜F・マリノス、横浜FC、大宮アルディージャ、鹿島アントラーズ、鹿島アントラーズつくば、サガン鳥栖、三菱重工浦和レッズレディースほか

取材・文=北健一郎

