名門校には、受け継ぐべき伝統がある。滝川第二を率いる小森康宏監督は、恩師・黒田和生監督から受け継いだ「人間性」と「情熱」を胸に、かつての強さを取り戻そうとしている。16年ぶりの全国ベスト4。その先に見据える「復活」とは何か。
「ええやん」――小森監督が率いる滝川第二の大躍進
「ええやん」
滝川第二高校を率いる小森康宏監督の口癖だ。
選手たちに温かい眼差しを向けながらも、厳しくするべきところではしっかりと指摘し、気づきを与える。そして最後は、このフレーズで締める。サッカーに対しては、人間性を含めて厳しさを持ちながら指導する一方で、ユーモアセンスは抜群。選手たちの心に語りかける言葉で、自ら考える余地と時間を与える。
そんな小森監督に率いられたチームは、今年のインターハイで大躍進を遂げた。
初戦となる2回戦では、プレミアリーグEASTに所属する前橋育英を相手に、非常に統率の取れたサッカーを披露した。相手の強力なアタッカー陣を縦と横のスライドを駆使した組織的な守備で封じると、奪ってからはテンポの良いショートパスとドリブルを駆使したショートカウンターで3ゴール。3-1の勝利を収めると、一気に勢いに乗った。
3回戦では山梨学院を1-0で下し、準々決勝では桐光学園と1-1からPK戦の末に勝利。実に16年ぶりとなる全国ベスト4進出を果たした。準決勝では近畿大学附属高に0-0からのPK戦の末に涙を飲んだが、全国大会の上位に滝川第二の名前を刻んだことには大きな価値があった。
名門の復活へ――受け継いだ「黒田イズム」

滝川第二といえば、選手権優勝1回、インターハイ準優勝1回、高円宮杯全日本ユース(現・高円宮杯プレミアリーグ)優勝1回など、全国の舞台で輝かしい実績を残してきた関西の名門校だ。加地亮、岡崎慎司という2人のW杯戦士を輩出したほか、小菊昭雄(現・サガン鳥栖監督)、吉田孝行(現・清水エスパルス監督)ら、指導者として活躍するOBも数多い。
だが、近年は全国の舞台で思うような結果を残せていなかった。
同校OBでもある小森監督が滝川第二の監督に就任したのは2024年のこと。それまでは滝川高校で教鞭を執り、サッカー部を率いていた。さらに遡れば、1998年に滝川第二のコーチに就任。恩師でもある名将・黒田和生監督とともに全国上位の成績を収め続け、岡崎、金崎夢生らを指導するなど、滝川第二の黄金期を支えた。
だが、小森監督は2007年に滝川高校へ転任。同じ年に黒田監督も滝川第二を離れ、ヴィッセル神戸の普及育成事業本部長に就任した。
その後、滝川第二は2010年度にインターハイ準優勝、そして選手権初制覇を成し遂げたが、そこから長く全国大会の上位から遠ざかる時期が続いた。
名門復活へ――。
小森監督が就任して、まず取り組んだのは、黒田監督の教えをもう一度チームに根付かせ、『強い滝二を取り戻す』ための下地を作ることだった。
「黒田監督は本当に人間性を大事にする監督。サッカー選手である前に1人の人間としてあれとずっと選手たちに伝えていたし、何より情熱と愛情を持って僕らや選手に接し続けてくれていた。その気持ちは絶対に忘れてはいけないと思いました」
小森監督がそう話したように、黒田監督はまさに情熱と愛情の塊のような人だった。
黒田監督は練習前と練習後、必ず全員と握手をする。話をするときも、相手の目を見てゆっくりと言葉を届ける。筆者も駆け出しの頃から黒田監督にはお世話になっているが、当時、握手をする理由を聞いたとき、こう答えてくれたのが今でも強く印象に残っている。
「ただ挨拶をするのではなく、握手をすれば一人一人の顔をしっかりと見られるし、表情や握手の感触から元気なのか、悩んでいるのか、コンディションが良くないのかが分かるんだよ。いい状態で練習に臨んでほしいし、練習後の握手が練習前と違うことで、いい変化も、良くない変化も感じ取ることができる。前者なら私も嬉しいし、後者なら個別で声をかけて向き合う。握手はね、本当に大事なコミュニケーションなんだよ」
この言葉は、筆者自身も今なお大切にしている。このときから、人と会ったときには積極的に握手をするようになった。それだけではない。私が駆け出しの頃、黒田監督は何度も握手をしながら「君ならできる」と声をかけてくれた。その言葉のおかげで、自信を持って前に進むことができた経験がある。
伝統を受け継ぎ、選手たちに刻み込まれた「怯まず、驕らず、溌剌と」
小森監督は、その「黒田イズム」をしっかりと心に刻み込んでいる。選手たちと握手を交わし、厳しい指導をしながらも、いいプレーやいいアイデアには「ええやん」と微笑みかける。そしてピッチの外では滝川第二の伝統をきちんと選手たちに伝え、グラウンド脇に置かれた石碑に刻まれている『怯まず、驕らず、溌剌と』の精神を心に植え付ける。
この『怯まず、驕らず、溌剌と』は黒田監督が掲げたものだ。どんな相手に対しても怯むことなく、決して驕ることなく、そして元気よく溌剌と戦い抜く。サッカーだけではなく、人として大切なものが刻まれた言葉でもある。
「滝二のサッカーはうまいだけではなく、見ていて溌剌とした躍動感があるサッカーをしないといけないと思っているんです。ボールを回すだけでは相手にとって怖くない。一番怖いのはどんなに逆境でも下を向くことなく、相手に食らいついていくこと。その中でパスやドリブル、テクニックやアイデアを出していく。そのためには受け身の選手たちではなく、自発的に動くことができる選手たちになっていかないといけない。『驕らず、怯まず、溌剌と』は人としても大切な言葉なんです」
小森監督の改革は徐々に芽を出し、根を張っていった。まずユニフォームを、岡崎慎司も袖を通した、左肩に赤と紺のラインが入った小森監督のコーチ時代のデザインに戻した。歴史の伝え方も、「こうあるべき」と一方的に言い放つのではない。選手と目線を合わせ、会話の中に歴史を盛り込みながら、フラットに伝え続けた。
すると、選手たちの目の色が少しずつ変わっていった。このユニフォームに袖を通す意味。滝川第二が滝川第二たる所以。それらが自然と心に刻まれるようになり、プレーにも責任感が生まれていった。
さらに、「いいものは残していく」と小森監督が口にしたように、前任監督が築いた明確なゲームモデル、プレーモデルをベースに、練習へと落とし込んでいく緻密なプランニングも継承した。
伝統を取り戻すだけではない。残すべきものは残し、新たなものを積み重ねる。それらが相まって、チームのサッカーの質は着実に向上していった。
16年ぶりの全国ベスト4。それでも「まだまだ、これから」

就任1年目の2024年度選手権兵庫県予選決勝。前半11分に退場者を出し、試合の大半を10人で戦うという極めて苦しい状況に追い込まれた。それでも選手たちは最後まで怯むことなく、溌剌とプレーした。
「ピッチの選手たちは1人で2〜3人分走ってくれた」
小森監督がそう振り返ったように、守りながらも鋭いカウンターでチャンスを作り出し、延長戦まで戦い抜いた。そして0-0からのPK戦を制し、3年ぶり22回目の選手権出場を掴み取った。
昨年はインターハイでベスト16に進出。3回戦ではプレミアリーグWESTに所属していた帝京長岡を相手に、2-3の大接戦を演じた。
そして、その1年後。今年のインターハイで、2010年以来となる16年ぶりの全国ベスト4。ファイナリストまであと一歩のところまで迫った。
「入学する前は『かつての名門校』というイメージで、そこまで伝統などに興味を持っていませんでした。でも、今は違います。これまでの偉大な先輩たちの想いを引き継いで、僕らで『強い滝二』を取り戻して、伝統を繋いでいきたいと本気で思っています」
こう語ったのは、インターハイで大活躍を見せた10番のMF北村勇貴。小森監督の想いは着実に選手たちへ浸透し、伝統校の歯車は大きく回り始めた。
だが、小森監督はベスト4という結果だけで「復活」を口にすることはない。
「ベスト4という結果に自信は持つべきですが、絶対に驕ってはいけない。どんなに勝ち続けたり、上位に行って、地位が高くなったとしても決して驕ってはいけない。結果を出しても驕ることなく、溌剌とプレーでき、結果が出ない時も怯まずにプレーすることができる。そんなチームになってこそ、『強い滝二を取り戻す』という目標が達成される時だと思っていますから」
まだまだ、これから。『強い滝二』を取り戻す道のりは、まだ発展途上にある。小森監督はこれからも、恩師から受け継いだ想いと、自らが抱く想いを選手たちに伝え続けていく。
厳しく、温かく。
そして時折、あの言葉を交えながら。
「それ、ええやん」
取材・文=安藤隆人
大学卒業後、地元の第一地方銀行に就職するも、フリーサッカージャーナリストとして週末だけ活動。2005年7月に5年半勤めていた銀行を辞め、単身上京してフリーの道へ。高校、大学、Jリーグ、日本代表、海外サッカーと幅広く取材し、これまで取材で訪問した国は40を超える。本の著作・共同制作は14作。最新作は『ドーハの歓喜 2022 世界への挑戦、その先の景色』と早川史哉の半生を描いた『ともに歩き出す』(徳間書店)。NumberWebで11年連載などの執筆活動以外にも講演・講師活動を小学校、中学校、高校、大学、企業と年10回ほど幅広く行っている。元・名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクター(2022年10月〜2026年4月)、現・國學院大學体育連合会蹴球部コーチも兼務する。W杯も2大会連続取材。
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