“中村憲剛の息子”として、常に注目を浴びてきた中村龍剛。日大藤沢のキャプテンとして迎えた高校最後の夏、彼はチームを背負う重圧に苦しんだ。もがき続けた末に見つけたのは、キャプテンである前に一人の選手として、自分を高めるという覚悟だった。
「キャプテンが良くないんじゃないか」と背負った責任

偉大なる父を持ち、ずっと必要以上の注目を浴びてきた男が、高校最終学年を迎えて『自分』と『チーム』にしっかりとフォーカスを当てて高校最後の夏を駆け抜けている。
日大藤沢のキャプテン・中村龍剛は川崎フロンターレのレジェンドで、現在はトップチームのヘッドコーチを担っている中村憲剛を父に持つ。ずっと『中村憲剛の息子』と言われ続けた。その中で昨年度の選手権において父が川崎時代に背負い続けた14番を背負って、ベスト8進出に貢献したことでその注目度はさらに増し、今年はそのまま14番を背負い続け、かつキャプテンに就任した。
「本当にいろいろ悩みました。試合に負けると、『やっぱりキャプテンが良くないんじゃないか』と責めてしまうこともありました」
シーズン開幕前のイギョラカップこそ優勝という成績を収めて幸先の良いスタートを切ったが、今季からリーグ戦の舞台を初のプリンスリーグ関東2部に移したことで、対戦相手のレベルも向上し、開幕から4試合は勝ち星を挙げられずに苦しんだ。
その中で中村はチームが勝てない責任を、自らの肩に乗せていった。キャプテンはチームの精神的支柱であり、ボランチというポジションも攻守の要としてチームの流れを作り出すプレーをしないといけない。試合中、流れや雰囲気が悪ければ仲間を声で鼓舞しないといけないし、プレーでも流れを変える効果的なパスやドリブル、守備をしないといけない。キャプテンとしても、1人の選手としても結果を出さないといけない。
もともと父と同じで思考力で勝負してきたタイプの選手で、かつ責任感が強く、周囲の状況にも敏感な選手。それだけにチームの結果を誰よりも真正面から受け止めてしまい、考える要素が必要以上に増えてしまい、頭の中で整理できないことも増えていった。
気がつけば、あらゆるものを背負おうとしてしまっていた──。
父・憲剛が見守った、龍剛自身と向き合う時間

しかし、もがき苦しむ彼の姿を厳しくも、温かく見守っていた存在がいた。それが父・憲剛だった。
龍剛がサッカーに打ち込むようになってから、家ではサッカー談義やプレーについての議論をすることは日常茶飯事で、それは高校に進学するとさらに熱を帯びていった。しかし、今年に入ってキャプテンの重圧を敏感に感じるようになってからは多くのことを言われなくなったという。
「ちょっとしたアドバイスはもらえましたが、それ以外は僕がキャプテンの重圧に苦しんでいることには一切触れませんでした。それは自分で考える時間を与えてくれたと受け止めたので、とにかく自分で向き合うことを大事にしました」
そんな彼に大きな転機が訪れる。インターハイ予選準決勝の桐光学園戦。勝てばインターハイ出場が決まる重要な試合だったが、開始早々の2失点が重くのしかかり、0-2の敗戦。全国の出場権を逃してしまった。
「敗戦後は本当に落ち込みました」
そう語るが、一つの大きな目標を失ったことで、逆に頭の中が整理された。その過程でずっと父に言われていた、『選手としての価値をどれだけ高められるか』という言葉の真意に気づくことができたという。
「一選手としての自分」と「キャプテンとしての自分」

「一選手としては今までやってきたことにプラスして、ゴールやアシストなどの目に見える結果で、相手を怖がらせることができる選手になること。あとは自分の課題をどれだけ少なくして長所を伸ばせるか。チームの部分では、キャプテンとしてチームのために1試合を全力で戦い切るという2つのことを大事にするようになりました」
キャプテンである前に、1人のサッカー選手である。自分はチームを勝たせなければならない存在だと決めつけて考え続けるのではなく、まず自分自身が『勝たせられる選手』になれるかどうか。
前者は責任を背負うことから始まり、後者は自分を磨くことから始まる。その違いに気づいたことで、中村の視線は再び自らの成長へ向いた。すべてを一つにして背負うのではなく、『一選手としての自分』と『キャプテンとしての自分』を分けて考えて行動をするというところに行き着いた。
決意を新たに迎えた高校最後の夏。8月6日から10日にかけて石川県で行われた和倉ユースでは、一段と引き締まった表情でピッチの中央に立つ彼の姿があった。戦況を見て、積極的に前に出ていくのか、一歩引いて攻撃陣を前に押し出しながら、守備の穴を埋めていくのか。流れの中で自分の力が効果的に発揮できるポイントを探り、そのポイントでフルパワーでプレーする。
献身性と積極性を持ってチームに躍動感をもたらし、精神面でも劣勢に立たされたチームを鬼気迫る表情で檄を入れたり、時には笑顔で仲間の背中を押したりと、紛れもないリーダーとなった。チームは決勝で前橋育英の前に1-2で敗れたが、準優勝という結果を収めた。
「誰よりもうまくなりたい」濃密な高校最後の夏

「頭の硬さが取れて、いろいろなものから抜けた気がしています。今、一番野心を持ってやれていると思います」
そう語る彼に、「その野心とは何か?」と聞くと、答えは即座に返ってきた。
「誰よりもうまくなりたい。シンプルにそこです」
本当の意味でチームを背負える選手になるために、まずは自分自身をもっと高める。
これから先、チームが再び勝てなくなることもあるだろう。自分のプレーがうまくいかない試合もやってくる。キャプテンである以上、また必要以上に責任を背負い込みそうになる瞬間も訪れるかもしれない。
それでも、一度この苦しさを経験したことには大きな意味がある。同じ場所を通ったとしても、次は少し違う景色を見ることができる。そして、その繰り返しこそが彼を強くしていく。
高校最後の夏。中村龍剛はキャプテンという立場に苦しみ、その重圧から逃げるのではなく、自分なりの向き合い方を見つけて、その歩を力強く前に踏み締めている―。
取材・文=安藤隆人
大学卒業後、地元の第一地方銀行に就職するも、フリーサッカージャーナリストとして週末だけ活動。2005年7月に5年半勤めていた銀行を辞め、単身上京してフリーの道へ。高校、大学、Jリーグ、日本代表、海外サッカーと幅広く取材し、これまで取材で訪問した国は40を超える。本の著作・共同制作は14作。最新作は『ドーハの歓喜 2022 世界への挑戦、その先の景色』と早川史哉の半生を描いた『ともに歩き出す』(徳間書店)。NumberWebで11年連載などの執筆活動以外にも講演・講師活動を小学校、中学校、高校、大学、企業と年10回ほど幅広く行っている。元・名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクター(2022年10月〜2026年4月)、現・國學院大學体育連合会蹴球部コーチも兼務する。W杯も2大会連続取材。
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