ディフェンディングチャンピオンとして迎えた夏。重圧と期待を背負いながら戦う中で、何を感じ、どう変わろうとしているのか。神村学園のキャプテン竹野楓太。その立ち振る舞いには、敗戦の中でも前を向く覚悟と成長への意志がにじんでいた。
連覇の重圧と敗戦、それでも崩れなかったキャプテンの姿
伸し掛かるディフェンディングチャンピオンの重圧。これを味わえるのはほんの一握りの人間のみ――。
昨年度のインターハイ、選手権と劇的な勝利を重ねて2冠を達成し、実に6名(Jリーガー5人、海外1人)ものプロサッカー選手を輩出した神村学園。2連覇がかかった今年のインターハイだったが、3回戦で桐光学園を相手に1-1からのPK戦の末に涙を飲んだ。
桐光学園5人目のFW西城大翔のキックがネットを揺らした瞬間、神村学園のキャプテンDF竹野楓太は頭を抱えたまま天を見上げた。その後、うずくまる仲間たちに声をかけ、激闘を演じた相手を讃えるなど、リーダーらしく気丈に振る舞った。
“弱さ”を受け入れた先に見えた、自分を変える覚悟
「毎日の積み重ねが出たと思っています。今日の試合、前半の入りが悪くて、その中で先制点を奪えたのですが、その後に少し緩んでしまった。キャプテンとして、そういうところで自分がチームを引っ張らないといけなかったと感じています」
両手には大きなボール袋とゴミ袋を持ち、ユニフォーム姿のままグラウンドを去る彼の目に涙はなかった。敗戦の責任と2連覇を逃した責任、自分自身のプレーに対する情けなさなど、込み上げてくる様々な感情を必死で整理しようとしていた。
「試合後に有村(圭一郎)監督からも『この負けをこれからどう生かすかが重要だ』と言われて、その通りだと思うので、明日から、いや、今すぐ自分の行動を改めて、しっかりとプレミアリーグ後期、選手権へと繋げていきたいと思っています」
ピッチ上と変わらず気丈な態度で思いを口にする竹野にとって、今年の1年間はディフェンディングチャンピオンの新キャプテンという重責をポジティブに受け止め、自らをさらに成長させようとする時間でもあった。
「昨年までの僕は一度気持ちが落ちてしまうと、そのままどんどん落ちていってしまっていました。新チームのキャプテンをやると覚悟を決めた時に、このままではダメだと思いました。でも、じゃあいきなりメンタルを強くしようとしても難しい。自分と向き合った結果、まずは一度自分の弱さを受け入れた上で、やれること、やるべきことをしっかりとやっていこうと思って今年を迎えました」
天国と地獄を経験して掴んだ、“自ら背負う”という選択

昨年、彼はまさに『天国と地獄』を味わった。プレミアリーグWESTでコンスタントに出番を掴むと、インターハイではウイングバック、サイドバックとして全試合にスタメン出場をして初の全国制覇に大きく貢献した。さらに10月にはU-17日本代表に選出され、U-17W杯でも右サイドバックとしてベスト8進出の原動力の1人となった。
当然のようにJクラブのスカウトから注目を浴び、選手権でも主役の1人になるはずだった。しかし、蓋を開けてみると、選手権では彼が不在の間に台頭してきた細山田怜真にレギュラーを奪われる形でベンチに回り、初戦、3回戦は途中出場をしたものの、準々決勝の日大藤沢戦で後半アディショナルタイムに投入されて以降、舞台を国立競技場に移した準決勝、決勝は1分も出場できないまま終わった。
「大会前のプレミアからベンチになって、怜真さんが活躍する度に『自分には力がないんだ』と思ってしまい、そこからズルズルといってしまった。自分は何もできないまま、優勝して喜ぶ先輩たちを見て、『このままではいけない、何かを変えないといけない』と思ったんです」
決勝後のロッカールーム。チームが初優勝と2冠を決めた喜びに湧く中、試合に出られなかった悔しさを新たな覚悟に変えて、有村監督に歩み寄り、「来年、キャプテンをやらせてください」と自ら申し出た。
負けの先へ――立ち振る舞いで示す“次に向かう力”
「シンプルに自分の実力不足が招いた結果ですが、この悔しさはサッカーでしか返せないし、そうしないと自分の成長には繋がらない。キャプテンの重責を自ら背負うことで、自覚と奮起を自分に課したいと思ったし、何より自分たちの代で何かを成し遂げたいと強く思ったんです」
この覚悟は本物だった。左腕にキャプテンマークを巻いた彼に、どこか自信なさげな表情はなかった。ポジションもサイドバックから守備の要であるCBとなり、昨年の中野陽斗(いわきFC)のように心身共にチームの柱となった。インターハイ出場を決めた鹿児島予選決勝でも、彼は辛勝したチームに喝を入れた。
覚悟を心の中で持つのではなく、形にして表現しないと周りは納得しないし、それ以上に自分たちが望む結果は得られない。変化していく集団の先頭に立つことこそが、自分の成長の一番の近道だと捉えているからこそ、悔しい敗戦を迎えても、「次からどうするべきか」に目を向けて立ち振る舞える。
両手に荷物を抱えて歩きながら思いを口にする姿は、彼の心に芽生えた変化の証に見えた。
「試合が始まったら、ピッチに立つ自分たちが問題を解決していかないといけない。そのためには自信を失うことではなく、もっと堂々と自分のプレーをして、その後にしっかりと反省して、次からの練習に反映させる。今日の負けも絶対に無駄にはしたくないです」
ディフェンディングチャンピオンにしか味わえない重圧を、自らキャプテンになることで背負うことを選んだ。だからこそ、この敗戦からも逃げるつもりはない。
おそらく昨年の彼だったら、悔しさの中で自分を見失っていたかもしれない。しかし、今は負けた直後から自分が何をすべきかに目を向け、仲間に声をかけ、両手いっぱいにチームの荷物を抱えて前を向いて歩いていた。
インターハイ連覇という目標はここで途絶えた。だが、自ら重責を背負うことを選んだ竹野楓太の挑戦は、まだ終わってはいない。この夏の悔しさをどう受け止め、どう行動に変えていくのか。その答えを示す舞台は、まだ残されている。
取材・文=安藤隆人
大学卒業後、地元の第一地方銀行に就職するも、フリーサッカージャーナリストとして週末だけ活動。2005年7月に5年半勤めていた銀行を辞め、単身上京してフリーの道へ。高校、大学、Jリーグ、日本代表、海外サッカーと幅広く取材し、これまで取材で訪問した国は40を超える。本の著作・共同制作は14作。最新作は『ドーハの歓喜 2022 世界への挑戦、その先の景色』と早川史哉の半生を描いた『ともに歩き出す』(徳間書店)。NumberWebで11年連載などの執筆活動以外にも講演・講師活動を小学校、中学校、高校、大学、企業と年10回ほど幅広く行っている。元・名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクター(2022年10月〜2026年4月)、現・國學院大學体育連合会蹴球部コーチも兼務する。W杯も2大会連続取材。
ユース教授・安藤隆人の「育成ノート」
- なぜ若手の成長は止まるのか? ポストユースで見えた“決定的な差”
- なぜ選手は伸び続けられるのか? 濃野公人に見る「成長のフェーズ」
- なぜリーダーはピッチ外で育つのか? “俯瞰する力”の正体
- 内に秘めないリーダー ポジティブさでチームを動かすCBの現在地
- “無名”からエースへ——中体連出身FW・徳能大智が示す、這い上がる力
- 「謙虚」と「利他」を体現する理由 国士舘大・百瀬健が貫く“やり続ける力”
- なぜ吉田湊海は一瞬で決められるのか。勝負を分ける“ボールフォーカス力”の本質
- なぜ鹿島アントラーズユースの大貫琉偉は決められたのか。“アップがピッチに出た”45m弾の真実
- なぜエースストライカーは苦しむのか。キャプテンとの両立が生む葛藤――岡崎慎司も乗り越えた壁と内海心太郎の現在地
- なぜ人は「人生のY字路」で成長するのか。プロを断った決断──早稲田大FW大西利都がたどり着いた“覚悟の思考”
- 日体大柏×柏レイソル、“準アカデミー”が育む才能――10番・安塚悠真の現在地
- 「日本一の競争がある場所」で何が起きているのか――2年生ストライカー・熊木虎太郎が映す流通経済大柏の強さ
- 鈴木彩艶の背中を追って――浦和レッズユースGKマルコムアレックス恵太が抱く尊敬とライバル心
- 「どっちにも置きたい」フロンターレの新たな武器。山原怜音が磨く“左右対称”の価値
- Jを経ずに世界へ。ンワディケ・ウチェ・ブライアン世雄が選んだ“逆算の海外挑戦”
- 悩み、もがき、それでも前へ 前橋育英GK南京佑の現在地とリベンジへの決意
- W杯で話題の新ルールは日本で先行していた インターハイとクーリングブレイクの関係性
- 「兄が届かなかった場所へ」——地元の誇りを背負う米子北FW大原暁、覚悟の3年間と背中で示す証明
- ライバルと紡ぐ“守護神の絆”。昌平高197cmGK土渕璃久が背負う感謝と責任


