ライバルと紡ぐ“守護神の絆”。昌平高197cmGK土渕璃久が背負う感謝と責任|ユース教授・安藤隆人の「育成ノート」

GKというポジションは、たった一つしかない。だからこそ激しい競争があり、時に残酷で、時に特別な絆を生む。インターハイ優勝候補・昌平でゴールを守る土渕璃久。そのプレーの裏には、ライバルたちへの感謝と学びがあった。

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たった一つのポジションに生まれる、GKの物語

GKというポジションは、1つしかないもの――。

前々回の前橋育英の3年生GK南京佑のコラムでは、GKのポジション争いでもがく高校生の姿を描いたが、今回のインターハイでも、また新たなGKの物語を目の当たりにした。

舞台は昌平高。197cmという圧倒的なサイズを誇る3年生GK土渕璃久は、優勝候補のゴールマウスを堂々としたプレーで守り、初戦となった2回戦・高知中央高戦をクリーンシートに抑え、ベスト16進出に貢献した。

「チームを勝たせないといけないという責任はGKとして常に持っていますが、いま僕がこのピッチに立てているのも自分1人の力じゃない。だからこそ、自分が目立つためにチームの勝敗が左右されるようなプレーをするのではなく、チームが勝つことにフォーカスを当てて、堅実にプレーをしながら、それでも自分をしっかりと表現できるように意識しています」

この言葉は、自分を謙虚に見せようとする表面上のものではない。彼は心の底からそう思っている。

それには明確な理由がある。

怪我と挫折を越えて掴んだ、守護神への道

中学時代、急激な身長の伸びに苦しみ、思うようにプレーできない時期が続いた。中学3年生の時には両肩を脱臼し、手術を強いられた。高校に入ってからも厳しいポジション争いに打ち勝てず、最高学年になってようやく守護神の座を掴み取った。

しかし、プレミアリーグEASTで開幕から第9節までスタメンフル出場を続けていた中、インターハイ予選直前の練習中に右手の舟状骨を骨折。再び手術と離脱を強いられた。

県予選ではピッチの外から仲間たちを見つめ、ゴールマウスに立った同じ3年生GK服部瑞希をサポートした。服部の活躍もあり、昌平は3年連続となるインターハイ出場を手にした。

ライバルから学んだ“守るための準備”

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「瑞希が本当に素晴らしいプレーを見せてくれて、本当に頼もしかった。予選決勝は僕の誕生日だったのですが、瑞希から優勝という最高のプレゼントをもらったし、何より彼のプレーを外から見て学ぶことが多かったんです。彼は守備範囲が広くて、逆に僕は狭いと指摘されていました。なので、彼がどういう準備や予測をして、どのタイミングで飛び出しているかを見ていました」

ピッチに立てない悔しさだけではなく、ライバルから学べることへの感謝を胸に、土渕はインターハイに間に合わせるべく、リハビリとGKとしてのスキルアップに懸命に取り組んだ。

そして目標通り、本番前に復帰を果たした。

全国へとつないでくれた仲間との競争が再び始まる――。そう思った矢先だった。

今度は服部がインターハイ1週間前に足首を捻挫し、離脱することになった。

ゴールマウスに宿る3人の想い

「自分が復帰をしたタイミングだったので、真っ先に『申し訳ない』という気持ちが込み上げてきました。僕がリハビリを頑張れたのは瑞希のおかげでしたし、復帰したからといって自分が出られるとは思っていなかった。ピッチで切磋琢磨しようと思っていたので、正直、ショックでした」

だが、服部は怪我を受け入れ、土渕とセカンドGKとなった古村桂唯のサポートに徹するようになった。

迎えた初戦の高知中央戦。

服部は土渕や古村の荷物を率先して運び、アップの際には「なんでも言って」と声をかけるなど、2人が気持ちよくプレーできるように動き続けた。

この気持ちに応えなければならない――。土渕はこれまで以上の責任感と使命感を胸に、ゴールマウスへ向かった。

立ち上がりから安定したハイボールの処理とビルドアップを見せると、前半20分過ぎ、服部からの学びを生かしたプレーが飛び出した。

相手DFが昌平の右サイドのスペースへロングボールを蹴り込み、そこに相手選手が走り込んだ。だが、土渕はいち早く反応。ペナルティーエリアを飛び出し、タッチライン付近でボールを縦に蹴り出してピンチを凌いだ。

「外側に巻いたボールで、難しい位置に飛んできましたが、蹴る瞬間に予測ができていて、立ち位置も良かったので、思い切り飛び出せたし、蹴り出す時も冷静にやり切れました。今までだったらもっと状況を慎重に見てから出ていって、結果としてタイミングが合わなくて、最悪大きなミスにつながっていたかもしれなかった。瑞希のプレーを参考にしていたおかげのプレーでした」

会心のプレーをきっかけに、さらに波に乗った。最後まで安定したプレーを続け、1-0のクリーンシートを達成。試合後には2人のGKと喜びを分かち合った。

「瑞希だけでなく、(古村)桂唯はキャッチとクロス対応がうまくて、最高到達点でボールをキャッチする。そのプレーも参考にして真似ていたので、今日のプレーは2人のおかげだと思っています」

GKのポジションは、たった1つしかない。だからこそ、同じポジションを争う選手は最大のライバルになる。だが同時に、誰よりも互いの苦しさを理解し、支え合い、高め合える存在にもなる。土渕がこの日見せたプレーには、服部と古村の存在が確かに息づいていた。

「みんな気が緩む暇がないほど上手いからこそ、(正GKの座は)安泰ではないし、試合が終わった時点で次の競争が始まっているので、次(3回戦)もピッチに立つことができたら、チームの勝利のために全身全霊を尽くすだけです」

GKというポジションは1つしかない。だからこそ、時に残酷であり、時にかけがえのない絆を生み出す。

服部が守ったゴールから全国へとつながり、今、そのゴールを土渕が守っている。そして、土渕のプレーの中には、服部と古村から学んだものが確かにある。

ピッチに立っているのは1人でも、そのゴールマウスには3人の想いがある。それこそが、昌平の守護神たちが持つ強さなのかもしれない。

大学卒業後、地元の第一地方銀行に就職するも、フリーサッカージャーナリストとして週末だけ活動。2005年7月に5年半勤めていた銀行を辞め、単身上京してフリーの道へ。高校、大学、Jリーグ、日本代表、海外サッカーと幅広く取材し、これまで取材で訪問した国は40を超える。本の著作・共同制作は14作。最新作は『ドーハの歓喜 2022 世界への挑戦、その先の景色』と早川史哉の半生を描いた『ともに歩き出す』(徳間書店)。NumberWebで11年連載などの執筆活動以外にも講演・講師活動を小学校、中学校、高校、大学、企業と年10回ほど幅広く行っている。元・名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクター(2022年10月〜2026年4月)、現・國學院大學体育連合会蹴球部コーチも兼務する。W杯も2大会連続取材。

ユース教授・安藤隆人の「育成ノート」

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超ワールドサッカー編集部
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