猛暑対策として導入されたハイドレーションブレイクが、W杯で大きな議論を呼んだ。だが、この“試合中の戦術的休止時間”という考え方は、日本の育成年代ではすでに根付いている。インターハイでも導入されてきたクーリングブレイク――。それは単なる暑熱対策にとどまらず、試合のあり方そのものを変えつつあった。
W杯で話題となったハイドレーションブレイク
7月25日から福島県で行われるインターハイ。今年は北中米W杯直後に行われるということで、全国の予選を勝ち抜いた高校生たちが世界最高峰のサッカーに大きな刺激を受けた中で、熱戦の火蓋が切って落とされる。
さて、今回のW杯において大きな話題の一つとなったのが、前後半に3分ずつ組み込まれた『ハイドレーションブレイク』だ。世界的に猛暑化が進む中、45分間を途切れることなく戦うのではなく、各ハーフの中間(22~30分前後)に約3分間の休止時間が設けられ、今大会では全試合で実施された。
ハイドレーションブレイク中は、選手が給水や身体を冷やす時間が設けられ、原則としてプレー再開に向けたコンディション調整の時間とされている。一方で、実際のW杯ではスタッフや控え選手がピッチ付近まで入り、監督が戦術の確認や修正を行うチームも少なくなく、実質的にはタイムアウトのような役割を果たしていた。
導入のきっかけは熱中症や脱水症状を防ぐためだったが、多くの国が戦術の立て直しや試合の流れを整理する時間として活用したことや、アトランタやダラス、ヒューストンなど空調設備が整ったスタジアムでも実施されたことで、「サッカーがクオーター制になってしまう」「CMによる収益拡大が本当の狙いではないか」といった批判も世界中で巻き起こった。
日本で先行していたクーリングブレイク

戦術面でも有効活用する国が多かったことを踏まえると、一概に賛否を決めることは難しい。ただ、この光景を見ながら、私はどこか既視感を覚えていた。実は日本の育成年代では、これに近い考え方が以前から導入されていたからだ。
それが、約1分間の飲水タイムとは別に設けられた『クーリングブレイク』である。飲水タイムは約1分間で、出場選手は給水を行い、原則として監督・スタッフによる戦術的な指示は認められていない。
一方でクーリングブレイクは約3分間設けられ、選手たちはベンチで身体を冷やし、水分補給を行う。その間に監督やスタッフが戦術を整理し、選手へ指示を送ることも認められている。
高校年代では、WBGT(暑さ指数)25以上28未満では飲水タイムの実施が可能となり、28以上31未満では飲水タイムまたはクーリングブレイクが実施される。31以上では原則として試合中止となる。
試合を“4分割”する戦術的思考
このクーリングブレイクは2016年から導入され、真夏の連戦となるインターハイでもいち早く採り入れられてきた。すると、多くの指導者が試合を『4つの区間』で考えるようになった。
実際に監督たちへ話を聞くと、「70分(35分ハーフ)の試合を4分割し、それぞれの時間帯で狙いを明確にしていた」「まずは第1クオーターで相手を見極め、クーリングブレイクで修正した」「選手にも4分割でタスクを整理させていた」といった声を数多く耳にした。
つまり、クーリングブレイクは単なる暑熱対策ではない。約20分ごとに監督が戦術を修正し、選手が役割を整理できる時間でもある。試合を4つの区間に分けて戦う『実質的なクオーター制』という側面を持っているのだ。
インターハイを変える“実質クオーター制”
だからこそ、今回のW杯で導入されたハイドレーションブレイクにも違和感というより既視感があった。ただ、W杯ではWBGTに関係なく全試合で実施されたため、本来の暑熱対策という目的から離れている印象を与え、世界的な議論につながったのも理解できる。
今年の夏も日本は猛暑が予想されている。世界的にも同様の傾向が続いていることを考えれば、ハイドレーションブレイクやクーリングブレイクのような制度は今後さらに定着していく可能性が高い。ただし、暑熱環境とは無関係な試合まで一律に導入することについては、今後も議論が必要だろう。
そして今年のインターハイでも、この『クオーター制』の考え方は大きなテーマになるはずだ。ただ気合と根性だけで乗り切るのではなく、短い時間で戦術を修正し、選手同士がタスクを共有し、相手の変化に応じて攻撃や守備を変えられるチームほど勝ち上がる可能性は高くなる。
実際、過去2年のインターハイでは、尚志、流通経済大柏、昌平、帝京長岡、米子北、神村学園、大津とプレミアリーグ経験チームがベスト4を占めてきた。もちろん、その要因をクーリングブレイクだけに求めることはできない。しかし、試合を4分割して戦術を修正し、タスクを整理できる環境は、経験や分析力、選手層で勝る強豪校の優位性をさらに高めている可能性は十分にある。
果たして今大会も、その『実質的なクオーター制』を最も巧みに使いこなしたチームが頂点に立つのか。それとも勢いと一体感で強豪を打ち破るチームが現れるのか。
真夏の高校サッカーは、もはやシンプルに70分を競う戦いではない。試合を4つに区切り、その都度、頭と戦術を整理する戦いへと変わりつつあるのかもしれない。そんな視点を持って今年のインターハイを眺めると、また違った景色と面白さが見えてくるはずだ。
材・文=安藤隆人
大学卒業後、地元の第一地方銀行に就職するも、フリーサッカージャーナリストとして週末だけ活動。2005年7月に5年半勤めていた銀行を辞め、単身上京してフリーの道へ。高校、大学、Jリーグ、日本代表、海外サッカーと幅広く取材し、これまで取材で訪問した国は40を超える。本の著作・共同制作は14作。最新作は『ドーハの歓喜 2022 世界への挑戦、その先の景色』と早川史哉の半生を描いた『ともに歩き出す』(徳間書店)。NumberWebで11年連載などの執筆活動以外にも講演・講師活動を小学校、中学校、高校、大学、企業と年10回ほど幅広く行っている。元・名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクター(2022年10月〜2026年4月)、現・國學院大學体育連合会蹴球部コーチも兼務する。W杯も2大会連続取材。
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