GKというポジションは、ピッチ上にただ1つしか存在しない。
名門・前橋育英においてその座を掴みながらも、再び競争の渦中に立たされた3年生GK南京佑。レギュラー奪取、そして再び訪れた試練――。もがきながらも前を向き続ける守護神候補が、いま得ようとしているものとは何か。
1つしかないポジションと揺れる立場
GKというポジションは1つしかないもの。昨年、その場を確保し続けたからといって、今年もその場所が保証されているとは限らない。レベルの高いチームであればあるほど、その競争は毎年、いや毎月、毎週激しくなる。前橋育英の3年生GK南京佑は、まさに今、その境遇の中でもがいている。
南は186cmのサイズを活かしたハイボール処理の精度、足元の技術やキックの精度を武器に、名門・前橋育英において2年生ながら守護神の座を掴んだ。プレミアリーグEASTにおいて19試合にスタメンフル出場を果たし、インターハイも選手権も絶対的な守護神として君臨をした。
しかし、今季のリーグ開幕前に取材に行くと、同じ学年のGK根岸彗也にスタメンの座を奪われていた。「悔しいですがこれからリーグが始まるので、開幕した時にはスタメンを奪い返せるように、根岸のいいところでもあり、僕の課題でもあるシュートストップをしっかりと磨いていきたい」と、自分の現在地をしっかりと受け止めて自分がやるべきことに向き合った。
奪い返した守護神の座と再びの競争
リーグが開幕すると、プレミアEAST開幕から第9節まで根岸が不動の守護神としてゴールマウスを守っていたが、インターハイ予選が始まるとスタメンを奪取。初戦から健大高崎との決勝まで守護神としてゴールを守り抜き、決勝では延長戦にも連れ込む接戦の中で安定したゴールキーピングを見せて2-1の勝利に導き、2大会連続21回目のインターハイ出場に貢献した。
ここまではよくある物語だが、ここからまた新たな展開があった。予選明けのプレミアEAST第10節の横浜FCユース戦で根岸がスタメンに立ち、続く前期最終戦の第11節・帝京長岡戦で今季リーグ初出場をスタメンで飾ったが、結果は0-2の敗戦。
そして、インターハイ本戦の1週間前に茨城県神栖市で3日間行われた『神栖ワールドユースフットボール』。セカンドチームで参加した前橋育英のGKとして南はピッチに立っていた。
「自らチャンスを手放した」現在地

「トップチームは今、育英グラウンドに残って練習をしています。僕は現時点でセカンドGKの立場にあるということは理解していますが、僕の中では(インターハイ)本番前に実戦を通じてどこまでプレーできるのかを見てもらっている時間だと受け止めています。もちろん客観的に見たらみんな根岸の方が上だと思っていると思いますし、もうすでに本番は誰がスタメンか決まっているかもしれませんが、僕はそれで落ち込んでいる暇はなくて、最後の最後までチャンスはあると受け止めています」
覚悟を持ってこの大会に臨んでいた。この言葉通り、南は安定したハイボール処理とビルドアップ、そしてピンチに対する冷静な対応を見せて、決勝戦では桐蔭学園を完封してチームを優勝に導いた。試合後、彼に話を聞くと、その声は少し枯れていた。大会を通じて彼は大きな声でコーチングをし続け、最終ラインをコントロールしていたし、何より絶対にチームを勝利に導かないといけないという気迫を持ってプレーしていたのだった。
「開幕前に(筆者と)話をさせてもらった時は、文字通り『レギュラーを奪われた』という立場でした。でも、今は違って『自らチャンスを手放した』状況なんです。ずっとレギュラーを奪い返すために努力をして、インターハイ予選でチャンスをもらえて、優勝することができたのは良かったのですが、そこから僕のコンディションが上がらなかったんです。もちろん心の緩みとかは自分の中で作らないようにしていたし、慢心は一切なかったのですが……。むしろ予選後にシュートストップの質が下がったように感じて、実際に練習試合などでの失点が増えてしまったんです」
悔しさを力に変えるリスタート
レギュラーを奪い返せた安堵感は一切なかった。むしろ「もっとやらないと」と思えば思うほど、自分の実際のプレー感覚と離れていったことに苦しんだ。原因はまだはっきりしていない。だが、何かを失ってしまったと恐れるより、積極的にチャレンジをしてもう一度積み重ねていくしかない。悩みに悩んだ結果、南はもう一度足元を見つめ直して積み重ねていく決意に至った。
「どの試合でもGKはただ1つのポジション。競争が激しくなるのは当然だし、責任も重い。それはトップだろうが、セカンドだろうが変わりません。僕がやれるのは全力でプレーすること。そうしないと未来は変わらないと思います」
目前に迫ったインターハイ。南には大きな忘れ物がある。選手権王者として臨んだ前回大会初戦で高知中央に1-0から後半アディショナルタイムにひっくり返されての、まさかの初戦敗退。
「あの時は僕も未熟で流れに飲まれてしまった。もっと自分に影響力があれば、最後止め切る力があれば。2失点のシーンはずっと頭に残っているからこそ、リベンジしたいという気持ちが強いんです」
彼の思いは果たせるのか。それとも叶わないのか。どちらにせよ、今こうして全力で取り組んでいる過程が何よりも彼の財産になることは間違いない。それは筆者が言わなくても、彼自身がよく理解している。
取材・文=安藤隆人
大学卒業後、地元の第一地方銀行に就職するも、フリーサッカージャーナリストとして週末だけ活動。2005年7月に5年半勤めていた銀行を辞め、単身上京してフリーの道へ。高校、大学、Jリーグ、日本代表、海外サッカーと幅広く取材し、これまで取材で訪問した国は40を超える。本の著作・共同制作は14作。最新作は『ドーハの歓喜 2022 世界への挑戦、その先の景色』と早川史哉の半生を描いた『ともに歩き出す』(徳間書店)。NumberWebで11年連載などの執筆活動以外にも講演・講師活動を小学校、中学校、高校、大学、企業と年10回ほど幅広く行っている。元・名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクター(2022年10月〜2026年4月)、現・國學院大學体育連合会蹴球部コーチも兼務する。W杯も2大会連続取材。
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