Jを経ずに世界へ。ンワディケ・ウチェ・ブライアン世雄が選んだ“逆算の海外挑戦”|ユース教授・安藤隆人の「育成ノート」

大学生の進路が多様化する中で、一つの決断があった。
Jリーグを経由せず、直接ヨーロッパへ――。
桐蔭横浜大学のストライカー、ンワディケ・ウチェ・ブライアン世雄が選んだのは、憧れではなく“逆算”による海外挑戦。その背景にある成長と自己理解に迫る。

目次

多様化する進路の中で選んだ“直接海外”

今、大学生の進路は多岐に渡る。大学を卒業してからJリーグ、そこから海外という流れが一般的だった。それから大学の早い段階でJ内定をして特別指定を経てJリーグ出場、大学を卒業して直接海外、大学を退学もしくはサッカー部を退部してJリーグ、あるいは海外へ直接行くなど、その幅は非常に広くなっている。

そんな中、桐蔭横浜大学3年生のFWンワディケ・ウチェ・ブライアン世雄は、大学卒業を待たずして直接海外へチャレンジする選択をした。5月28日にデンマーク2部リーグのオールボーBK加入が発表され、来月に合流し新シーズンをスタートさせることになった。

怪我と向き合い掴んだ現在地

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この経緯を記す前に、彼のプレースタイルと軌跡に触れたい。身長191cm、長い手足とフィジカルの強さ、スピードに秀でたストライカーは、恵まれた身体能力を生かしたポストプレーやシュートのパンチ力、大学に入ってから磨いたという裏への抜け出しと相手DFとの駆け引きのうまさを武器に、昨年から一気に頭角を現してきた。

ただ、大学に入るまでのFC東京U-15深川、修徳高時代は怪我に苦しみ、思うようにプレーできなかった。特に大腿骨すべり症に苦しんだ時は2年間、万全な状況でのプレーができず、持っているポテンシャルを引き出しきれなかった。

もし怪我がなければ高卒プロになっていたかもしれない。だが、「いろんなことが未熟のままプロに行くより、大学進学をしてじっくりと自分を鍛え直した方がいいと思った」と、プロの選択肢もありながら桐蔭横浜大学に進学した。

この言葉通り、彼は大学でフィジカル強化とアジリティー、加速力などに時間をかけて取り組んだ。さらに1年時から出番を掴み、実戦の中でトライ&エラーを繰り返したことで、力強いポストプレーと裏抜けだけでなく、動きながらCBと駆け引きをして一気に背後を突いたり、落ちてボールを受けて鋭くターンしてドリブルで仕掛けたりと、前線でのプレーのバリエーションが増えた。スピードも最高時速35kmを記録するまでにスプリント力が向上した。

「桐蔭横浜大に来て本当に良かった。もしあの時間がなかったら自分の身体とここまで真剣に向き合えなかったし、感覚だけでサッカーをして、もしかしたら早い段階で消えてしまっていたかもしれない。本当に感謝しています」

J1オファーを断った理由

目覚ましいスピードで成長していく彼のもとには多くのJ1クラブからのオファーが届いたが、海外志向は非常に強く、Jリーグのオファーはすべて断り、海外に一本化した。ここには明確な意思と自己理解があった。

「迷いはありませんでした。僕は昔から海外に強い興味を抱いていて、サッカーを始めてからも正直Jリーグには全く興味を持たなくて、今もですがずっとヨーロッパサッカーを見てきたんです。とにかくチャンピオンズリーグとプレミアリーグが大好きで、今も強い憧れがありますし、そこに出るのが明確な目標です。それに性格的にもあまり日本人ぽくないというか、英語も話せますし、感覚的に海外の方が合うんです」

ナイジェリアにルーツを持っていることもあるが、幼稚園から小学生までインターナショナルスクールに通っていたこともあり、英語と国際感覚は自然と身についた。その中でサッカーに興味を抱き、サッカーには大きな世界があると知って、ブライアン少年の心は躍った。

憧れを現実に変えるための逆算

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そこから彼の信念は一切ブレていない。怪我で苦しんだ時も、高卒プロではなく大学進学を選んだ時も、そして大学と年代別日本代表で急成長を遂げてからも。だからこそ、このタイミングで海外挑戦をする覚悟を固め、最終的にオールボーに進むことを決めた。

「オールボーの練習に参加してやれる手応えを掴みました。デンマーク2部リーグなのですが、若手を育成するというチーム方針があって、僕に対してもビジョンをしっかりと考えてくれていた。デンマーク以外にも練習参加の話はあったのですが、早めに決断して、ここで成長してステップアップしていこうと思いました」

一番の目標が明確にあるからこそ、そこから逆算し、いきなり5大リーグではなく、自分を必要とし将来を見据えてくれるクラブでヨーロッパのキャリアをスタートさせるべき――。彼は憧れだけではなく、大学進学時と同じようにしっかりと自分に向き合い、足元を見て歩き続ける決断をした。

「僕の決断にネガティブな意見を言う人もいると思いますが、僕は自分で選んだ道なので、そういった声もエネルギーに変えて正解にしていくだけです。何を言ってもやっぱり結果が一番重要になるので、まずはきちんとデンマークで結果を残したい。さっき『日本人ぽくない』と言いましたが、サッカー面ではヨーロッパの選手から見れば献身的なプレーができることも強みだと思うので、そこを発揮しながら、パワーでもスピードでもヨーロッパのDFを凌駕する選手になりたいです」

大学は退学するのではなく、オンラインで授業を受けてしっかりと卒業する道を選んだのも実に彼らしい。冷静と情熱を持ち合わせて、ンワディケ・ウチェ・ブライアン世雄は自分の信じた道を突き進む。

取材・文=安藤隆人
大学卒業後、地元の第一地方銀行に就職するも、フリーサッカージャーナリストとして週末だけ活動。2005年7月に5年半勤めていた銀行を辞め、単身上京してフリーの道へ。高校、大学、Jリーグ、日本代表、海外サッカーと幅広く取材し、これまで取材で訪問した国は40を超える。本の著作・共同制作は14作。最新作は『ドーハの歓喜 2022 世界への挑戦、その先の景色』と早川史哉の半生を描いた『ともに歩き出す』(徳間書店)。NumberWebで11年連載などの執筆活動以外にも講演・講師活動を小学校、中学校、高校、大学、企業と年10回ほど幅広く行っている。元・名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクター(2022年10月〜2026年4月)、現・國學院大學体育連合会蹴球部コーチも兼務する。W杯も2大会連続取材予定。

ユース教授・安藤隆人の「育成ノート」

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超ワールドサッカー編集部
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