プレミアEAST首位、プリンス関東1部も首位――圧倒的な結果を残し続ける流通経済大柏。その裏にあるのは“日本一の競争”と呼ばれる熾烈な内部争いだ。1年生で衝撃デビューを飾りながら壁にぶつかった2年生FW熊木虎太郎。その現在地から、常勝軍団の本質を紐解く。
“日本一の競争”が生む圧倒的な強さ
「流通経済大柏の強さは凄まじいよ」
多くの指導者がこう口にするし、それは筆者も感じている。実際に今年はトップチームがユース年代最高峰のリーグであるプレミアリーグのEASTにおいて現在、6勝1敗で首位を走る。さらにセカンドチームはプレミアリーグの次にレベルが高いとされているプリンスリーグ関東1部でも4勝2分の無敗で首位。サードチームも千葉県リーグ1部で2位につけている。
この成績を見ただけでも、いかに彼らが強いと言われているかが十分に分かるだろう。トップチームだけが強いのではなく、セカンドチームでも全国上位を狙える力を持っており、サードチームも他県であれば全国に出られるだけの力を持っている。
それは今年だけのことではなく、ここ数年ずっとその強さを維持している。裏を返せば、それだけチーム内競争が激しいことは容易に予想がつく。では、実際にどれだけ激しいのか。ここではある1人の2年生ストライカーに焦点を当てて、流通経済大柏のリアルな厳しさを伝えていきたい。
衝撃デビューの裏で直面した現実

2年生FW熊木虎太郎は、神奈川県のエストレーラFCインファンチルからやってきた。
昨年のプレミアEAST第2節の昌平戦で1年生で唯一ベンチ入りし、後半35分に投入されると、その3分後に目の覚めるようなドリブルシュートを叩き込んで、まさにド派手なデビューを飾った。
一気に注目のルーキーとなったが、ここからはレギュラーどころか、トップチームでの出番も失っていった。
「正直、最初は『意外といけるな』と思っていたのですが、だんだんそれが物凄く甘い考えだと気づくようになりました」
だが、この気づきが行動変化に繋がるのには少し時間がかかった。トップのベンチから外されるようになったが、セカンドチームとしてプリンス関東2部の試合には出場できていた。セカンドチームでもかなり高いレベルで試合ができることが大きな武器でもあるが、その一方で1年生にとっては、「プリンスで経験を積んでトップに行けばいい」と言う甘いマインドになってしまいかねない。熊木はまさにそのマインドになっていた。
リーグ後期になると、プリンス関東2部でも途中出場が増え、ベスト4に終わった選手権では登録メンバーの30人も入ることができなかった。そして迎えた今年、開幕前の紅白戦でもサブに回る自分がいた。
“甘え”を捨てた先にある変化
「周りがどんどん成長していて、昨年プレミアには出ていなかった新3年生も、同級生の選手も球際や切り替えの部分だけではなく、技術的な部分でもどんどん上手くなっていた。それに新1年生がいきなりトップの練習に参加をしたり、試合に出たりして、『いよいよヤバイぞ』と思うようになったんです」
2年生でトップのレギュラーを掴む。そう未来予想図を描いていたが、そこからはかなり遠いセカンドチームでも試合に出られるかどうか分からない状態にいることに、大きな危機感を覚えた。
「正直に言うと、1年の時はチームの中でも能力がある方だと思っていました。『これから何とかなる』という気持ちが甘えとなって、『どうして出られないんだ』とベクトルを外に向けてしまった。それがちょっとずつ周りとの差を生んでしまっていたんです。『俺はこれまで何をやっていたんだ』と思いましたし、『ここで変わらないと埋もれていく』と本気で思いました」
目が覚めた熊木は無駄なプライドを捨て、目の前の練習、紅白戦に必死で食らいつくようになった。彼が言うようにボールを扱うテクニックと、収める力、そしてシュートセンスは十分ある。だが、課題はデュエルの部分や攻撃から守備への切り替えの部分。これはチームとして大事にしている根幹であるだけに、武器に逃げずに真摯に取り組んでいかないとトップでレギュラーは掴めない。この自覚が彼のプレーを変えていった。
自主トレではこれまでやっていたシュート練習やドリブルに加え、鋭く寄せる練習やダッシュなど苦手なところを積極的に取り組むようになった。
競争の中で掴んだ現在地とその先

ただ、行動が変化したからと言って、すぐに望みが叶うなど甘い世界ではない。周りは熊木のように、今より上のカテゴリーに行きたい、プレミア、プリンス、県リーグそれぞれの試合に出たいと強く思っている選手たちばかり。
彼は「紅白戦は自分をアピールできる大事な場」と実戦さながらの気持ちで臨むが、それは全ての選手に言えること。ギラついた目を持って臨む選手がたくさんいるのが流通経済大柏の強さの秘訣であり、厳しい競争を生み出している最大の要素である。
「全員が気合と気迫を持ってバチバチにやり合うので、圧倒的な結果やプレーを見せないとアピールにならないんです。中途半端なアピールは届かないからこそ、紅白戦でいいプレーを見せようではなく、普段の練習でどれだけ積み重ねすることができるかが重要になる。その気持ちが自分をもっと成長させてくれるのだと思います」
リーグが開幕し、5月になった。熊木は今、プレミアとプリンスを行き来する日々を送っている。プレミアEASTでは3試合に出場し、全て途中出場。プリンス関東1部もベンチスタートで、途中出場する日々を送っている。
だが、それでも彼は「僕は今、恵まれていると思います」と前向きに取り組んでいる。
「スタートで出たい気持ちはずっと持っていますが、プレミア、プリンスを両方経験できることは絶対にプラスになるし、しないといけない。プレミアはレベルの高い中で自分のスキルやアイデアを発揮して磨いていけるし、プリンスはバチバチの球際や一本のキックで抜け出してゴールを狙うプレーでの馬力や集中力が磨ける。どの場所でも全力でプレーして、練習も100%でやる。絶対に成長できる環境に身を置けていると思っています」
5月9日、10日と2日連続で流通経済大柏のグラウンドに取材に行った。9日はプリンス関東1部・第7節の山梨学院戦が行われ、熊木は0-0で迎えた後半頭から投入された。後半7分に右サイドを突破したDF今瀬に対し、「ニアに味方が入っていくのが見えたので、僕は膨らんでファーに回った」と口にしたように、瞬間的な判断でファーサイドのスペースに潜り込むと、今瀬のクロスからニアでスルーしたボールをファーで冷静に押し込んだ。
待望の今季リーグ初ゴール。試合は終盤に追いつかれて1-1のドローに終わったが、ようやく手にした1ゴールは彼にとって大きな意義を持つものであった。
翌10日、プレミアEAST・第7節の東京ヴェルディユース戦には後半31分に投入され、前線からの守備と鋭い抜け出しを見せてチャンスを作った。ゴールには至らなかったが、昨日の初ゴールの勢いをそのままトップでも表現することが出来ていた。
「本当にここからだと思います。競争の激しさ、厳しさは日々感じますし、悔しい思いは常に持っていますが、僕も負けない自信があるし、ここで揉まれたら絶対に成長する確信がある。この『日本一の競争』に打ち勝って、球際、運動量、切り替えを当たり前のようにやれて、その上で自分の武器を発揮できる選手になって、僕も流経柏の一員として日本一に絡んで行きたいと思っています」
彼の内側は野心で満ちている。でも、周りの選手も野心に満ちているからこそ、その野心でも相手を上回らないといけない。日本一の競争がある場所で力強く前に進む2年生ストライカーの真価が問われるのは、まだまだここからだ。
取材・文=安藤隆人
大学卒業後、地元の第一地方銀行に就職するも、フリーサッカージャーナリストとして週末だけ活動。2005年7月に5年半勤めていた銀行を辞め、単身上京してフリーの道へ。高校、大学、Jリーグ、日本代表、海外サッカーと幅広く取材し、これまで取材で訪問した国は40を超える。本の著作・共同制作は14作。最新作は『ドーハの歓喜 2022 世界への挑戦、その先の景色』と早川史哉の半生を描いた『ともに歩き出す』(徳間書店)。NumberWebで11年連載などの執筆活動以外にも講演・講師活動を小学校、中学校、高校、大学、企業と年10回ほど幅広く行っている。元・名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクター(2022年10月〜2026年4月)、現・國學院大學体育連合会蹴球部コーチも兼務する。W杯も2大会連続取材予定。
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