高校サッカーとJクラブアカデミーが交差する、日体大柏高と柏レイソルの独自の関係性。その中で10番を背負う安塚悠真は、「周りを生かす」プレーを武器に成長を続けている。特異な環境が育む才能の現在地に迫る。
日体大柏×柏レイソル、“準アカデミー”という独自の育成環境
近年、高校サッカー部が下部組織を持ったり、高校と大学の一貫強化をしたりと、高校サッカーも様々な形があるが日本体育大学柏高と柏レイソルは非常に面白い関係にある。
両者は相互支援契約を結んでおり、日体大柏高サッカー部は柏レイソルの育成組織に組み込まれたいわば『準アカデミー』的な立場にある。
柏レイソルU-18の選手たちは日体大柏高に進学する一方で、サッカー部も強化部として力のある選手たちが進学してくる。その中でサッカー部の指導者を柏から派遣し、サッカー部から柏U-18の途中からの移籍も可能である。さらに中学生を対象に合同セレクションを行なって、双方の強化につなげている。
つまり日体大柏サッカー部と柏U-18の選手たちはクラスメイトであり、実力によっては相互の行き来も可能で、かつサッカー部は柏レイソルのスタッフの指導を受けることができる。
これまでサッカー部は酒井直樹監督(現・柏レイソルメソッドダイレクター兼U-18デベロップメントコーチ)、根引謙介監督、そして昨年までは菅沼実コーチ(現・柏U-15コーチ)が指導に当たっている。
現在、横浜F・マリノスでプレーする関富貫太は在学中にサッカー部から柏U-18に移り、3年時には10番を背負った経歴の持ち主で、サッカー部からそのまま高卒プロになった土屋巧(柏)、オウイエ・ウィリアム(柏→いわきFC)もいる。さらに今年は東京国際大学に進んだMF古谷柊介は来季からの柏入りが内定している。
非常に密接な関係にある中で、今年の日体大柏の10番を背負うMF安塚悠真も非常に将来性豊かなタレントで、この環境の中でメキメキと頭角を現している。
周りを生かし、自分も生きる——安塚悠真のプレースタイル

181cmのサイズと足元の技術を持ち、キープ力とポストプレー、そして展開力を武器にするセントラルMF兼ストライカーの万能型だ。彼の力は『周りとリンクする力』にある。
FWの場合はトップ下やボランチ、サイドハーフの特徴を捉えて、彼らが生きるようにポストプレー中心で攻撃を組み立て、トップ下になったらポストプレーのボールを受けてからの展開や、ボランチやDFラインからのパスを引き出すポジショニングを取り、キープ力から周りの能力を引き出すパスを出す。シュートも魅力的で、ミドルシュートからワンタッチシュート、ドリブルシュートに至るまでゴールバリエーションは豊富だ。
昨年から攻撃の起点として君臨する彼は、今年に入ると攻撃の最重要人物として相手から複数枚のマークがつくようになった。プリンスリーグ関東2部・第5節の横浜F・マリノスユース戦でもマンマークにつかれ、彼がボールを持つと素早くプレスバックを仕掛けてきた。
「自分に食いついてくる相手が増えれば、その分周りは空く。無理に受けようとするのではなく、自分が囮となってうまく周りの選手を活用することを考えました」
この言葉通り、スピードあるFW村岡孝星とパワーのあるFW望月海亜の特徴を活用しながら、彼らが突破して掴んだチャンスにフィニッシャーとしてペナルティーエリア内に飛び込んでいく。結果は0-1の敗戦となったが、複数のチャンスに絡んだ。
「僕は明確にこれという武器があるわけではない分、バランス型というか、周りも生かせるし、自分も生きるプレーができることが特徴だと思っているので、どの戦術でも、どのポジションでも力が発揮できると思っています」
鹿島アントラーズつくばでの経験と挫折
正確な自己分析もできる10番は、これまでいろいろな環境でサッカーをしてきた。小学3年生までは千葉県松戸市のトリプレッタSCに所属し、4年生で鹿島アントラーズつくばジュニアに加入した。
「ずっと『首を振って周りを見ろ』と言われていました」と、状況を把握しながら判断していくプレーを習慣化させていった彼は、アントラーズつくばジュニアユースに昇格。しかし、中学3年生になって監督が変わると出番が激減し、ユース昇格は果たせなかった。
「中2までは2トップの一角で関東リーグに出させてもらっていたのですが、中3になって【4-1-4-1】になってインサイドハーフ、ウィングをやったのですが、思うように出番を掴めなくなって、『昇格は厳しい』と言われていたので覚悟はしていました」
それでも複数の強豪高校が声をかけてくれた。その中でスタッフ陣も環境も整っている日体大柏に強い興味を抱くようになった。
「上がれないと分かった時点で、高校サッカーで成長すると心に決めました。高校サッカーに行くなら、インターハイ、選手権は絶対に出るという気持ちになりました。その中で日体大柏は根引監督、菅沼コーチなどがいて、サッカーをきちんと教えてくれるし、スタイルもボールを大事にするサッカーでありながら、大胆に縦に行くこともできる。かなり魅力的に感じて、実際に練習参加をしてここに行きたいと思って決めました」
「ここはチャンスがたくさん転がっている場所」——環境を力に変える

ピッチでは根引監督や周りのチームメイトから絶大な信頼を掴み、心身ともにチームの中心となった。そしてクラスでは仲の良い柏U-18の選手が多く、全体練習がオフとなる月曜日には一緒にグラウンドで自主練習を重ねてきた。特に柏U-18のキャプテンを務めるDF上野暉晏とは小学校からずっと同じで、親友であり、同じキャプテンとして何度も語り合い、切磋琢磨をしてきた。
「最初はレイソルユースに入ることができる可能性もあると頭の片隅にはありました。でも、僕はサッカー部で成長して全国に出るという揺るぎない目標があったので、今はユースの選手たちとはサッカーの話をしたり、一緒にボールを蹴ったりして刺激をし合いながら、僕は日体大柏の10番としてチームのために結果を出すことに集中できています。これは日体大柏の最大の強みだと思っています」
最高の環境で成長を続ける安塚の視野にはもちろんプロも入っている。
「高卒プロも大学経由でのプロも輩出しているし、10番の先輩でもある古谷さんを見て、『大学に行ってもレイソルの関係者は見ていてくれているんだな』と思ったので、僕が仮に大学に進学しても努力次第でチャンスは十分あると思っています。本当にここはチャンスがたくさん転がっている場所だと思います」
特殊な関係性が育む才能がある。安塚は偉大な先輩たちの後を追って、今を全力で駆け抜けている。
取材・文=安藤隆人
大学卒業後、地元の第一地方銀行に就職するも、フリーサッカージャーナリストとして週末だけ活動。2005年7月に5年半勤めていた銀行を辞め、単身上京してフリーの道へ。高校、大学、Jリーグ、日本代表、海外サッカーと幅広く取材し、これまで取材で訪問した国は40を超える。本の著作・共同制作は14作。最新作は『ドーハの歓喜 2022 世界への挑戦、その先の景色』と早川史哉の半生を描いた『ともに歩き出す』(徳間書店)。NumberWebで11年連載などの執筆活動以外にも講演・講師活動を小学校、中学校、高校、大学、企業と年10回ほど幅広く行っている。元・名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクター(2022年10月〜2026年4月)、現・國學院大學体育連合会蹴球部コーチも兼務する。W杯も2大会連続取材予定。
ユース教授・安藤隆人の「育成ノート」
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