なぜ人は「人生のY字路」で成長するのか。プロを断った決断──早稲田大FW大西利都がたどり着いた“覚悟の思考”|ユース教授・安藤隆人の「育成ノート」

高卒プロか、大学経由か――。
サッカー選手にとって避けては通れない「人生のY字路」。

名古屋グランパスU-18のエースとして結果を残しながらも、トップ昇格を断り、早稲田大学への進学を選んだ大西利都。その決断の裏にあった苦悩と、たどり着いた思考の価値とは何か。

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誰もが立てるわけではない「人生のY字路」

高卒プロか大学経由のプロか。Jクラブユース、高体連、街クラブと、どのカテゴリーでプレーをしていても、この2択の壁にぶち当たる高校生はいる。

プロから声が掛からず、トップ昇格が果たせずに大学サッカーで巻き返しを誓う選手がほとんどで、この壁にぶち当たる選手はごく僅かだが、この『人生のY字路』に立たされることは非常に幸せなことである一方で、とてつもなく苦しい選択を高校生に迫ることになる。

どれが正解かというのはなく、自分が選んだ道を正解にしていくことしかないということを前提に、高校生たちは悩みながら周りの意見にも耳を傾け、自分と向き合ってから最終的に自分で決断を下す。

早稲田での挑戦と「自分を見つめ直す時間」

今回は名古屋グランパスU-18からトップ昇格を断り、早稲田大学に進学したFW大西利都について取り上げたい。

4月21日、JFA夢フィールドで行われたU-19日本代表vs関東大学選抜とのトレーニングマッチ。1、2年生で構成された関東大学選抜の一員として、大西はピッチに立った。

前半のみの出場で、本来の最前線ではなくインサイドハーフでプレー。1トップの久保原心優(明治大)、MF加藤海輝(筑波大)とトライアングルを組み、攻撃を牽引した。

「最近はシャドーなどいろいろなポジションをやっていて、まだ慣れない部分はありますが、試行錯誤しながらやっています」

早稲田大では関東大学サッカーリーグ1部開幕からベンチ入りし、第3節の中央大戦で後半29分から投入されてリーグデビューを飾った。

まだ大学生活が始まって1カ月足らずだが、すでに多くの刺激を受けているという。

「ここに来たのも課題だった足元の技術や動きのキレなどにしっかりと時間をかけて向き合い、即戦力としてプロに入ることができる選手になるため。大学サッカーのレベルは本当に高いと感じていて、自分と大学トップレベルの選手とはまだ大きな差があると思っているので、この世界で特出した選手になるためにもう一度積み上げる気持ちになれています」

プロを断った理由と見つめた“自分の現在地”

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スポーツ科学部に所属し、スポーツクラブの経営やメカニズムなどを学ぶことにも大きな興味を示している。

「例えばJクラブが選手の活動以外にどういうことをやっているのか、裏方の人たちがどういうことをして成り立っているのかを知ることができたら、知識だけではなく、より一層プレーする者としての感謝の気持ちを抱けるし、自分がピッチ内外で何をすべきかもより理解することができる。自分の課題をより細分化して明確にすることで、より自分の成長にフォーカスを当てられると思ったことが早稲田に決めた理由です」

この決断は簡単なことではなかった。彼は名古屋U-18のエースストライカーとして、一昨年の高校2年時にプレミアリーグWESTで14ゴールをマークし、得点ランキング3位に輝いた。

昨年は圧巻のゴールラッシュを見せ、プレミアWESTで2位と8ゴール差をつけて26ゴールを記録。得点王に輝いた。これはプレミアリーグにおける歴代最多ゴール数となった。

これだけのストライカーをクラブが評価しないはずもなく、当然のようにトップ昇格の打診もあったが、彼は大学進学を選んだ。

「プロはまだ早いと思った」

トップチームのキャンプに参加した際、ゴールを決める以外の自分の明確な特徴を見出せていない自分に直面した。

「山岸祐也選手のようにボールを収める力とか、永井謙佑選手のように飛び抜けたスピードというのは、自分にはまだないと痛感したんです。そういった武器を見つけて磨き上げる時間が必要だと思ったし、もっと土台をしっかりと作り上げてからじゃないと通用しないと思ったんです」

“正解にする”覚悟が生む成長

元プロ野球選手の父、元プロゴルファーの母、そして大学経由でプロになった名古屋U-18の先輩たちにも相談をした。異口同音だったのは、「最後は自分の決断で、後悔のないようにしてほしい」ということだった。

「本当に悩みました。一番辛かったのはトップ昇格か、大学に進むなら筑波大か早稲田大かの3択で悩んでいた時でした。どれも本当に魅力的な道なのですが、どれが正解なのか分からないので、『本当にこれでいいのか』と自分が下そうとする決断に自信が持てなかったんです」

悩みに悩んだ末にたどり着いたのは、「正解かどうか」ではなく、「自分の決断を正解にしていくしかない」という思考だった。

これは一見すると当たり前のように思えるが、逃げ場のない『本物の人生のY字路』に立った時、この思考に覚悟を持つことは簡単ではない。

自分と現実から逃げず、真剣に、かつ真摯に向き合い続けた者だけがたどり着ける境地だ。

大西は18歳にしてそこに至った。そして、「自分で早稲田大進学を決めて、後悔のない道を選んだつもりです」と胸を張った。

「これからも『なぜトップ昇格をしなかったの?』と聞かれることは多いと思います。でも、その答えは自分の中では明確で、『それは実力が足りなかったから』です。自分でも腑に落ちているし、その上でこれからを真剣に考えられています。今はプロになりたいではなくて、プロで活躍できる実力をつけるためにここに来ている。この気持ちはこれからも絶対に忘れてはいけないと思っています。何事も貪欲に学ぶ姿勢を持って、新たな発見を僕はここで見つけていきたいと思っています」

自分が決めた選択を正解にする。この経験は、これから先に壁にぶつかった時や停滞した時に、「立ち返るべき場所」として人生において重要なポイントとなる。

『本物の人生のY字路』を経験した人間は強い――。
大西はこれからの人生で、それを証明していく。

取材・文=安藤隆人
大学卒業後、地元の第一地方銀行に就職するも、フリーサッカージャーナリストとして週末だけ活動。2005年7月に5年半勤めていた銀行を辞め、単身上京してフリーの道へ。高校、大学、Jリーグ、日本代表、海外サッカーと幅広く取材し、これまで取材で訪問した国は40を超える。本の著作・共同制作は14作。最新作は『ドーハの歓喜 2022 世界への挑戦、その先の景色』と早川史哉の半生を描いた『ともに歩き出す』(徳間書店)。NumberWebで11年連載などの執筆活動以外にも講演・講師活動と、東海大学リーグ1部に所属する名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクターを兼務する。W杯も2大会連続取材予定。

ユース教授・安藤隆人の「育成ノート」

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超ワールドサッカー編集部
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