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▽クラブや選手、代理人、メディアと様々な人々の思惑が交錯する移籍市場では、いわゆる“飛ばし”と呼ばれる偽情報に溢れている。多くのサッカーファンにとっては、一喜一憂を味わわされる悩みの種でもあるだろう。だが、その“飛ばし”の背景を考察してみると、意外な事実や真実にたどり着ける可能性も十分にある。▽“飛ばし”に関しては、大きく分けて2つのタイプがある。1つはメディアが自身の媒体の売り上げや閲覧数を増やすために、ファンが飛びつきやすいビッグディールや有名選手の移籍話を全くの根拠なしにでっち上げる形だ。加えて、移籍ネタが不足している時期に、「あのクラブはストライカーを探しているが、予算とレベル的にあの選手が妥当だろう」と記者が勝手な想像で書く記事もこの例に当てはまる。さらに、狙っているという確証がないにも関わらず、移籍先候補の数合わせで本命と同規模のクラブを勝手に加える場合も多い。ただ、記者のデタラメな妄想が実現してしまうのも、移籍報道の面白いところでもある。
▽もう1つのタイプは、選手やクラブ、代理人が交渉先との駆け引きのために用いる偽情報を元にしたものだ。例えば、移籍交渉が停滞している時期に選手側が、希望する移籍先に自身を獲得させるため、ライバルクラブとの交渉の噂を流して尻を叩いたり、選手の売却を考えているクラブが移籍金を釣り上げるために架空のクラブから好条件のオファーが届いているという偽情報を流したりという類のものだ。
▽とりわけ、近年目立っているのが、代理人の入れ知恵によってサラリーアップを求める選手が移籍希望を示唆する発言をメディアの前で行い、所属クラブから好条件の契約延長のオファーを引き出すというケースだ。
▽そういった選手や代理人、クラブからの偽情報を鵜呑みにしてしまう拙い記者が多くいることが、“飛ばし”増加に繋がっている。また、イタリアやスペインに多い、クラブお抱えのメディアによるキャンペーン的な報道も同様だ。一方で移籍市場を知りぬく海千山千の記者は、リークする側の意図を理解しながらも今後の駆け引きのために敢えて偽情報をそのまま記事にするという場合もある。
▽ただ、第一に正確性を求める日本と異なり、ヨーロッパの多くの国々のメディアは、移籍の可否よりも移籍市場というイベント自体を楽しんでおり、そのイベントを盛り上げるスパイス的な要素として“飛ばし”を頻発している。したがって、真面目に取りあうよりも、本質的には誰も傷つくことがない優しい嘘(当該クラブのファンは気の毒だが)として、受け入れる方がベターだ。
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