★夢のあるスタジアムを
▽Jリーグは5月17日、建設会社、設計会社、ディベロッパー、施設管理会社、自治体などを対象にした「サッカースタジアムの時代」と題するシンポジウムを実施した。北は青森県から南は沖縄県まで、幅広い地域の関係者が参加したシンポジウムの目的は、2011年7月にFIFA(国際サッカー連盟)がスタジアムの基準を大幅に改訂したことを受け、Jリーグでもスタジアムの要件を将来的にグレードアップして対応する必要に迫られたからだ。そこで国内の建築設計に携わる業者を対象に、欧州のサッカー専用スタジアムを例に挙げ、スタジアムの未来像を紹介しつつ情報公開することで、新たなマーケットの創造につなげようというものだった。

▽2011年7月にFIFAが改訂した規約によると、スタジアムは全ての観客席を覆う屋根が必要で、ない場合は将来的に増設可能な造りでなければならないとされている。背もたれから背もたれの間隔は80cm、レッグスペースを確保するには85cm以上を推奨、座席の幅は45cm、背もたれの高さは30cm以上とするなど、細かく観戦者の快適性を求めている。VIPラウンジも300席以上と、経済効果の視点からもハードルはかなり高い。

▽面白かったのはAFC(アジアサッカー連盟)のスタジアム基準だ。収容人数は5000人以上(J1リーグは1万5000人以上)、照明の照度は1200ルクス(Jリーグは1500ルクス)、席は個席で(ベンチシートは不可)、背もたれは30cm以上としている。背もたれの高さ以外はすべてJリーグのスタジアムはクリアしていると思ったら、和式トイレ(個室)はトイレとして認めないと規定しているのだ。Jリーグのスタジアムの洋式トイレは52%。これを厳格に守ろうとしたら、ACLの試合を開催できないスタジアムもかなりの数に上るのではないだろうか。

▽講演を行ったJリーグの傍士理事(一般財団法人日本経済研究所専務理事)は、これまでにも自動車のご当地ナンバーを提唱したり、Jリーグの試合当日に最寄り駅の電車発車サイレンをクラブソングに変更することを推奨したりと、なかなかアイデアマンでもある。そんな彼によると、これまでの日本のスポーツはトーナメント文化であり、大きな大会は一極集中で開催され、そこに立派なスタジアムがあればよかった。高校野球なら「甲子園」、都市対抗野球なら「東京ドーム」といった具合だ。しかしJリーグの誕生によりリーグ文化が日常化して、地方分散の時代に突入した。地方にも立派なスタジアムが必要になり、2002年の日韓W杯を契機に高い収容能力を誇るスタジアムが誕生した。

▽そして未来のスタジアム像として、「少子高齢化の時代を迎えて新しい視点が必要」(傍士理事)と訴えた。観戦者の高齢化によりバリアフリーは当然で、車での移動も増加が予想されるため駐車場も必要になる。少子化に伴い、親が観戦中に安心して子供を預けられて遊べるキッズスペースや託児所の併設と、スタッフの確保も必要になってくるだろう。

▽ビジネス的な観点からは、スタジアムの地下にショッピングセンターのあるスイスのFCバーゼルや、ショッピングセンターをスタジアムの隣に併設するFCザンクトガレン(スイス)、普段はホテルの客室として利用し、試合当日はベッドを収納してスカイボックスとして活用しているコベントリー・シティ(イングランド)などの例を映像で紹介。「日本も駅ビルや空港ビル、アウトレットモール、スカイツリーとソラマチなど、人が集まる場所は“大集客装置”となっている。プロスポーツのスタジアムも同じ発想で考える必要がある。立地は街ナカが一番大事。造ったら40〜50年は使うため簡単に移動できない。今後はスタジアムのあるマチ=スタマチを広めたい。スタジアムを管理する時代から経営する時代。遊ばせるのではなく、複合施設で経済性を高める時代」と抱負を語っていた。

▽さらにスタジアムには日本独自の活用方法もある。万単位で収容でき、トイレ、シャワー、水、電気、通信手段などのライフラインが揃っているため、緊急時の避難所やベースキャンプにも利用できることを、過去の大災害から学んでいる。

▽とはいえ、これらはまだまだ先の話で、現状のJリーグは屋根のカバー率が51%にとどまり、カバー率が10%に満たないスタジアムは37%に上る。サポーターが観戦しやすいスタジアムのベスト3に挙げた磐田、柏、千葉はいずれもサッカー専用だが、座席と座席の間隔は狭く、VIP用はもちろん一般観戦者用のラウンジもなければ、ファンショップなどの併設設備も貧弱と言わざるをえない。

▽今回のシンポジウムの目的は「40年後、50年後になってもいいから多機能複合型のスタジアムをJリーグに造る」ことだと佐々木JFA(日本サッカー協会)専務理事は語っていた。2014年にG大阪が新スタジアムを建設し、北九州も小倉駅西に複合型のスタジアム建設計画があるそうだ。沖縄と長野も建設予定で、川崎と栃木、甲府は改修を検討中とのこと。いつの日か、日本にも「夢のあるスタジアム」が誕生することを期待したいものだ。

【六川亨】
1957年9月25日生まれ。当時、月刊だった「サッカーダイジェスト」の編集者としてこの世界に入り、隔週、週刊サッカーダイジェストの編集長や、「CALCIO2002」、「プレミアシップマガジン」、「サッカーズ」の編集長を歴任。現在はフリーランスとして、Jリーグや日本代表をはじめ、W杯やユーロ、コパ・アメリカなど精力的に取材活動を行っている。日本サッカー暗黒の時代からJリーグ誕生、日本代表のW杯初出場などを見続けた、博識ジャーナリストである。

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