【2022年カタールへ期待の選手㉛】柴崎岳依存のボランチ陣に殴り込み。U-22ブラジル撃破の立役者が示す非凡な可能性/田中碧(川崎フロンターレ/MF)
2019.10.16 20:00 Wed
9カ月後に迫った2020年東京オリンピックの重要な試金石と位置付けられた14日のU-22ブラジル戦(レシフェ)。前半早い時間帯にPKで失点したU-22日本代表の逆襲の狼煙となったのが、ボランチ・田中碧(川崎フロンターレ)が前半28分に決めた豪快ミドル弾だった。1-1で迎えた後半、21歳の技巧派ボランチはゴールへの積極性を前面に押し出し、後半7分に再びペナルティエリア外から右足を一閃。待望の逆転弾を挙げる。そのパートナーを援護射撃するかのように、もう1枚のボランチ・中山雄太(ズウォレ)がやはりミドルから3点目をゲット。終盤に町田浩樹(鹿島アントラーズ)の退場というアクシデントに見舞われながらも、若き日本はアウェーの地で3-2の勝利。森保一監督が掲げる「五輪金メダル獲得」へ力強い一歩を踏み出した。
2つのミドルで勝利を引き寄せた田中碧への賞賛は増す一方だ。同い年の堂安律(PSV)や冨安健洋(ボローニャ)とともに2014年AFC・U-16選手権(タイ)に出場した頃から、非凡な才能は高く評価されていた。けれども、2017年のトップ昇格後はしばらくの間、足踏み状態を強いられた。川崎Fには中村憲剛を筆頭に、大島僚太、守田英正といった日本代表経験のあるボランチがひしめいていたからだ。2学年上の板倉滉(フローニンヘン)も同じような苦境にあえぎ、ベガルタ仙台へのレンタル移籍を選択。最終的には海外に赴いている。そんな先輩とは違い、田中は川崎Fに残って地道な努力を重ねてきた。
そしてプロ3年目の今季、中盤に負傷者が相次いだこともあり、彼は一気に頭角を現す。3月10日の横浜F・マリノス戦でスタメン入りしたのをきっかけに、コンスタントに出場機会を得るようになったのだ。J1やAFCチャンピオンズリーグ(ACL)で安定感あるパフォーマンスを披露して評価を高め、6月にはトゥーロン国際トーナメントに参戦。U-22日本代表の軸を担い、大会ベスト11に選出されるなど、チームの準優勝の原動力となった。この活躍で、彼の存在価値は確固たるものになったと言っていい。
「この半年間で自分がこれだけ成長できるとは思っていませんでした。J1で優勝を争うチームで試合に出ている以上、周りからの要求も日本一レベルが高いと思っていますし、それに応えるために努力している。その積み重ねが成長につながっていると感じています。世界トップレベルと互角に戦うためには、日本で圧倒的な力をつけないといけない。チームを今まで以上にうまく動かし、中心でやれるようになりたいと思いながらやっています」
トゥーロンの後、彼自身も目を輝かせていたが、その後も成長速度が低下することはなかった。川崎Fは7月以降、引き分けや負けが多くなり、J1で苦境を強いられたが、若きボランチは継続的にピッチに立ち、攻守両面で幅広い役割を担い続けた。とりわけ、攻撃面でのインパクトは大きかった。彼のタテパスやサイドチェンジが何度決定機を演出したか分からない。先輩・中村憲剛が長い間、披露し続けたひらめきや視野の広さを田中碧は確実に引き継ぎつつあると言っていい。
それだけの勇敢さをピッチ上で押し出せる21歳の逸材なのだから、森保監督もA代表昇格を真剣に考えた方がいい。今回の2022年カタール・ワールドカップ アジア2次予選・モンゴル(埼玉)&タジキスタン(ドゥシャンベ)2連戦に参戦したボランチ陣を見ると、天才的な攻撃センスを備える柴崎岳(デポルティボ・ラ・コルーニャ)が絶対的な軸で、その他の遠藤航(シュツットガルト)、橋本拳人(FC東京)、板倉の3枚はどちらかというと守備偏重型。柴崎の穴を埋めるタイプがいないのは1つの事実だ。その一角に田中碧が食い込んでくれば、柴崎の負担も軽減されるし、組み合わせのバリエーションも増えてくる。大迫勇也(ブレーメン)不在の1トップ問題ばかりがクローズアップされがちだが、実は柴崎依存のボランチの方がより深刻と言ってもいいくらい、ボランチの選手層はやや薄い。田中碧待望論は今後ますます高まるだろう。
いずれにしても、彼が次にフォーカスすべきなのは、10月27日のJリーグルヴァンカップ決勝だ。2年ぶりのファイナル進出を果たした川崎Fは何としても北海道コンサドーレ札幌を撃破して、タイトルを取らなければいけない。田中碧がそのけん引役になることができれば、森保監督も11月シリーズでのA代表抜擢を真剣に考えるかもしれない。そういうシナリオを現実にすべく、伸び盛りの21歳の若武者には野心を強く押し出して、さらなる高みを目指してほしいものである。
【元川悦子】長野県松本市生まれ。千葉大学卒業後、夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターとなる。Jリーグ、日本代表、海外まで幅広くフォローし、日本代表は特に精力的な取材を行い、アウェイでもほぼ毎試合足を運んでいる。積極的な選手とのコミュニケーションを活かして、選手の生の声を伝える。
2つのミドルで勝利を引き寄せた田中碧への賞賛は増す一方だ。同い年の堂安律(PSV)や冨安健洋(ボローニャ)とともに2014年AFC・U-16選手権(タイ)に出場した頃から、非凡な才能は高く評価されていた。けれども、2017年のトップ昇格後はしばらくの間、足踏み状態を強いられた。川崎Fには中村憲剛を筆頭に、大島僚太、守田英正といった日本代表経験のあるボランチがひしめいていたからだ。2学年上の板倉滉(フローニンヘン)も同じような苦境にあえぎ、ベガルタ仙台へのレンタル移籍を選択。最終的には海外に赴いている。そんな先輩とは違い、田中は川崎Fに残って地道な努力を重ねてきた。
「この半年間で自分がこれだけ成長できるとは思っていませんでした。J1で優勝を争うチームで試合に出ている以上、周りからの要求も日本一レベルが高いと思っていますし、それに応えるために努力している。その積み重ねが成長につながっていると感じています。世界トップレベルと互角に戦うためには、日本で圧倒的な力をつけないといけない。チームを今まで以上にうまく動かし、中心でやれるようになりたいと思いながらやっています」
トゥーロンの後、彼自身も目を輝かせていたが、その後も成長速度が低下することはなかった。川崎Fは7月以降、引き分けや負けが多くなり、J1で苦境を強いられたが、若きボランチは継続的にピッチに立ち、攻守両面で幅広い役割を担い続けた。とりわけ、攻撃面でのインパクトは大きかった。彼のタテパスやサイドチェンジが何度決定機を演出したか分からない。先輩・中村憲剛が長い間、披露し続けたひらめきや視野の広さを田中碧は確実に引き継ぎつつあると言っていい。
その自信が今回のU-22ブラジル戦で遺憾なく発揮されたのだろう。前半の1点目は右に開いた川崎Fの先輩・三好康児(アントワープ)からの折り返しを思い切って右足で蹴り込み、2点目も小川航基(水戸ホーリーホック)が前線で粘ったところに飛び込んで右足を振り抜く形だった。2つのゴールに共通するのは、シュートに迷いが微塵もなかったこと。少しでも自分に疑いを持つようならパスという選択肢も脳裏によぎるはずだが、この日の田中碧は「決められる」という自信に満ち溢れていた。約半年間、川崎Fというビッグクラブで中盤の軸を担い続けてきた経験値がなければ、ここまでの大胆さをサッカー王国相手に示せなかったに違いない。
それだけの勇敢さをピッチ上で押し出せる21歳の逸材なのだから、森保監督もA代表昇格を真剣に考えた方がいい。今回の2022年カタール・ワールドカップ アジア2次予選・モンゴル(埼玉)&タジキスタン(ドゥシャンベ)2連戦に参戦したボランチ陣を見ると、天才的な攻撃センスを備える柴崎岳(デポルティボ・ラ・コルーニャ)が絶対的な軸で、その他の遠藤航(シュツットガルト)、橋本拳人(FC東京)、板倉の3枚はどちらかというと守備偏重型。柴崎の穴を埋めるタイプがいないのは1つの事実だ。その一角に田中碧が食い込んでくれば、柴崎の負担も軽減されるし、組み合わせのバリエーションも増えてくる。大迫勇也(ブレーメン)不在の1トップ問題ばかりがクローズアップされがちだが、実は柴崎依存のボランチの方がより深刻と言ってもいいくらい、ボランチの選手層はやや薄い。田中碧待望論は今後ますます高まるだろう。
いずれにしても、彼が次にフォーカスすべきなのは、10月27日のJリーグルヴァンカップ決勝だ。2年ぶりのファイナル進出を果たした川崎Fは何としても北海道コンサドーレ札幌を撃破して、タイトルを取らなければいけない。田中碧がそのけん引役になることができれば、森保監督も11月シリーズでのA代表抜擢を真剣に考えるかもしれない。そういうシナリオを現実にすべく、伸び盛りの21歳の若武者には野心を強く押し出して、さらなる高みを目指してほしいものである。
【元川悦子】長野県松本市生まれ。千葉大学卒業後、夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターとなる。Jリーグ、日本代表、海外まで幅広くフォローし、日本代表は特に精力的な取材を行い、アウェイでもほぼ毎試合足を運んでいる。積極的な選手とのコミュニケーションを活かして、選手の生の声を伝える。
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