スタジアム基準の改定に思うこと/六川亨の日本サッカーの歩み
2018.12.13 19:30 Thu
▽12月12日、来月からUAEで開催されるアジアカップの日本代表23名が発表された。これまで招集されたメンバー主体で、ケガで小林悠と三竿健斗、鈴木優磨が外れたくらいで、これといったサプライズはなかった。新天地を模索している香川真司と、海外移籍が濃厚な昌子源は1月の移籍ウインドウと重なるため、森保一監督も招集に配慮したと推測される。
▽小さな驚きは浅野拓磨が復帰したくらいで、恐らく西野朗元日本代表監督が秘蔵っ子の宇佐美貴史をロシアW杯のメンバーに選んだように、森保監督にとっても浅野は自身が育成した選手だけに、可愛いのではないだろうか。
▽当日は午後4時40分から定例のJリーグ理事会の報告と、それに続いてJリーグのスタジアム基準の改定が報告された。これまでJリーグは93年の開幕以来、1万5千人収容のスタジアムが義務づけられていた。その後、J2の誕生により1万人収容でナイター設備を完備、さらにJ3の誕生では5千人収容でナイター設備は義務づけないという基準が設けられた。
▽しかしながら、これらの基準を満たすことができず、14年はJ2で5位の北九州がプレーオフに出場できず、17年はJ3優勝の秋田がJ2に昇格できなかった。さらに今年はJ2で4位の町田がプレーオフに出場できなかったのは記憶に新しいところ。
▽そこでJリーグは来年度から例外規定1として、「スタジアムの改修工事に着工しており3年以内に完成可能であれば、(昇格のための)上位ライセンスの取得を可能とする」という期間の短縮を蹴ってした。
▽こうした改定に基づき、トレーニング施設の整備に関しても3年の猶予期間を設置し、「理想的なスタジアム推進のための補助金」を、1クラブあたり最大1千万円を拠出することも決めた。
▽先月末の当コーナーでも、Jリーグ創設当初に比べて「おらが町のクラブ」が増えている現状では、1万5千人というキャパシティを義務づけるのはそぐわないという原稿を書いた。ようやくJリーグも25年が経ち、ちょっとではあるが現実を認識しているようだ。組織というものは、大組織になればなるほどルールを作った人間がいなくなると、ルールそのものがアンタッチャブルな存在になり、誰も変更しようとしない傾向が強い。
▽Jリーグなら、初代の川淵チェアマンの影響力は絶大だったし、その後の歴代チェアマンも同じ路線を踏襲した。やっと現在の村井チェアマンになって、外国人枠の緩和とホームグロウン制度の導入で、ヨーロッパのリーグに近づけようとしている。そしてスタジアムの規制緩和である。これは歓迎すべき改定と言えるだろう。
▽会見に臨んだクラブライセンスマネジャーの青影氏は、もともとデロイト・トーマツ・コンサルティングで企業再生のコンサルタントを務めていて、地元である大分トリニータの経営危機に際し、手腕を発揮した人物である。
▽その青影氏に、実際にこの制度を利用するクラブがあるのかどうか質問したところ、「クラブ側も手を上げるかどうかで、これまで議論してきた。利用するクラブはいくつもあるだろう。来年の6月末(クラブライセンスの申請)に向けて、クラブと地元ステークホルダー(企業や行政)と協議することになる。何クラブか出るのではと思うので、我々も寄り添っていきたい」と理解を示した。
▽さらに来シーズンは八戸がJ3に昇格するなど、地方クラブの台頭が目立つ。果たしてJ1昇格には1万5千人収容のスタジアムが必要なのかを聞くと、「この議論では1万5千人を下げて欲しいというクラブもあった。まずは基準の緩和に取り組む。それだけでも緩和できる。実際、席について、J2は1万人の個席だったのを、個席は8戦席で2千人は立ち見席でもOKと緩和した」と基準を改定したことを明かした。
▽J1は1万5千人収容というハードルはまだまだ高いが、Jリーグのさらなる検証と検討を期待したい。そして最後に「理想のスタジアム」だ。収益の確保のためにはキャパシティを増やし、ビジネスラウンジやスカイボックスの設置も必要だろう。それと同時に、冷暖房の完備や電気、ガス、上下水道、トイレを始め仮設住宅としての広大な駐車場など「ライフラインとしてのスタジアム」の存在意義も明示して欲しかったというのが正直な感想だ。
【六川亨】1957年9月25日生まれ。当時、月刊だった「サッカーダイジェスト」の編集者としてこの世界に入り、隔週、週刊サッカーダイジェストの編集長や、「CALCIO2002」、「プレミアシップマガジン」、「サッカーズ」の編集長を歴任。現在はフリーランスとして、Jリーグや日本代表をはじめ、W杯やユーロ、コパ・アメリカなど精力的に取材活動を行っている。日本サッカー暗黒の時代からJリーグ誕生、日本代表のW杯初出場などを見続けた、博識ジャーナリストである。
▽小さな驚きは浅野拓磨が復帰したくらいで、恐らく西野朗元日本代表監督が秘蔵っ子の宇佐美貴史をロシアW杯のメンバーに選んだように、森保監督にとっても浅野は自身が育成した選手だけに、可愛いのではないだろうか。
▽しかしながら、これらの基準を満たすことができず、14年はJ2で5位の北九州がプレーオフに出場できず、17年はJ3優勝の秋田がJ2に昇格できなかった。さらに今年はJ2で4位の町田がプレーオフに出場できなかったのは記憶に新しいところ。
▽そこでJリーグは来年度から例外規定1として、「スタジアムの改修工事に着工しており3年以内に完成可能であれば、(昇格のための)上位ライセンスの取得を可能とする」という期間の短縮を蹴ってした。
▽さらに例外規定2として1)ホームタウンの中心市街地よりおおむね20分以内でのアクセスが可能なこと。2)すべての観客席が屋根で覆われていること。3)ビジネスラウンジやスカイボックス、高密度Wi-Fiを備えていること。4)フットボール専用スタジアムであることという、Jリーグが掲げる「理想のスタジアム」への改修もしくは新スタジアム建設が5年以内に可能であれば、当該するライセンスの取得が可能(例外規定1との併用も可能)とする新たな基準を設けた。
▽こうした改定に基づき、トレーニング施設の整備に関しても3年の猶予期間を設置し、「理想的なスタジアム推進のための補助金」を、1クラブあたり最大1千万円を拠出することも決めた。
▽先月末の当コーナーでも、Jリーグ創設当初に比べて「おらが町のクラブ」が増えている現状では、1万5千人というキャパシティを義務づけるのはそぐわないという原稿を書いた。ようやくJリーグも25年が経ち、ちょっとではあるが現実を認識しているようだ。組織というものは、大組織になればなるほどルールを作った人間がいなくなると、ルールそのものがアンタッチャブルな存在になり、誰も変更しようとしない傾向が強い。
▽Jリーグなら、初代の川淵チェアマンの影響力は絶大だったし、その後の歴代チェアマンも同じ路線を踏襲した。やっと現在の村井チェアマンになって、外国人枠の緩和とホームグロウン制度の導入で、ヨーロッパのリーグに近づけようとしている。そしてスタジアムの規制緩和である。これは歓迎すべき改定と言えるだろう。
▽会見に臨んだクラブライセンスマネジャーの青影氏は、もともとデロイト・トーマツ・コンサルティングで企業再生のコンサルタントを務めていて、地元である大分トリニータの経営危機に際し、手腕を発揮した人物である。
▽その青影氏に、実際にこの制度を利用するクラブがあるのかどうか質問したところ、「クラブ側も手を上げるかどうかで、これまで議論してきた。利用するクラブはいくつもあるだろう。来年の6月末(クラブライセンスの申請)に向けて、クラブと地元ステークホルダー(企業や行政)と協議することになる。何クラブか出るのではと思うので、我々も寄り添っていきたい」と理解を示した。
▽さらに来シーズンは八戸がJ3に昇格するなど、地方クラブの台頭が目立つ。果たしてJ1昇格には1万5千人収容のスタジアムが必要なのかを聞くと、「この議論では1万5千人を下げて欲しいというクラブもあった。まずは基準の緩和に取り組む。それだけでも緩和できる。実際、席について、J2は1万人の個席だったのを、個席は8戦席で2千人は立ち見席でもOKと緩和した」と基準を改定したことを明かした。
▽J1は1万5千人収容というハードルはまだまだ高いが、Jリーグのさらなる検証と検討を期待したい。そして最後に「理想のスタジアム」だ。収益の確保のためにはキャパシティを増やし、ビジネスラウンジやスカイボックスの設置も必要だろう。それと同時に、冷暖房の完備や電気、ガス、上下水道、トイレを始め仮設住宅としての広大な駐車場など「ライフラインとしてのスタジアム」の存在意義も明示して欲しかったというのが正直な感想だ。
【六川亨】1957年9月25日生まれ。当時、月刊だった「サッカーダイジェスト」の編集者としてこの世界に入り、隔週、週刊サッカーダイジェストの編集長や、「CALCIO2002」、「プレミアシップマガジン」、「サッカーズ」の編集長を歴任。現在はフリーランスとして、Jリーグや日本代表をはじめ、W杯やユーロ、コパ・アメリカなど精力的に取材活動を行っている。日本サッカー暗黒の時代からJリーグ誕生、日本代表のW杯初出場などを見続けた、博識ジャーナリストである。
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