【原ゆみこのマドリッド】バケーションにはまだ入れない…

2018.05.29 17:40 Tue
▽「もう練習するの?」そんな風に私が悲鳴を上げていたのは月曜日、いえ、CL決勝があったレアル・マドリー以外のスペイン代表選手たちが午後6時30分、ラス・ロサス(マドリッド近郊)のサッカー協会施設に集合するのは前からわかっていたんですけどね。時間も夕方ですし、身体検査をやったり、3月の親善試合以来の合宿で積もる話もあるだろうことを考えて、おそらくグラウンドへ出てのトレーニングは火曜からかと勝手に決めていたところ、いえいえ、とんでもない。月曜になって、今は日がのびてまだ明るいのをいいことに、集合直後の午後8時15分からpuerta abierta(プエルタ・アビエルタ/公開)練習と代表のオフィシャルウェブ(http://www.sefutbol.com/)に出ていたから、焦ったの何のって。

▽おかげで3晩続けて外出する破目になった私ですが、とりあえず順番にお話ししていくことにすると、先週土曜はマドリーvsリバプール戦のパブリック・ビューイングのため、サンティアゴ・ベルナベウへ。いやもう、これが先日、ワンダ・メトロポリターノで見たヨーロッパリーグ決勝とは大違いで、スタジアム周辺は通常の試合同様の大混雑。スタンドも満員だったのはもしや、3年連続のCL決勝とあって、ファンもピッチに設置された8台の大型スクリーンが下手なバル(スペインの喫茶店兼バー)のTVよりずっと見やすく、スピーカーの音響効果も伴って、まるで生の試合に立ち会っているような臨場感があるのを知っていた?
▽それでもキエフのオリンピスキー・スタジアムでは序盤からリバプールが押していて、場内も最初は息を飲んで見守っている時間が多かったんですけどね。流れが変わったのは前半30分、セルヒオ・ラモスとボールを争った際に腕を絡めた体勢で倒れ、左肩を痛めたサラーがララナに交代することになったから、さあ大変。これにはクロップ監督も後で「チームにとって、大打撃だった。あれでウチはポジティブな勢いを失った」と認めていましたが、マドリーサイドも36分にはカルバハルがtacoazo(タコナソ/ヒールキック)でボールを蹴った際に負傷。サラー同様、6月に控えるW杯欠場の恐れに涙しながら、ナチョと代わったんですが、ええ、やっぱり唯一無二のエースを失うのとディフェンスを失うのではコトの大きさが違って当然だったかと。

▽とはいえ、0-0のままで始まった後半、7分にGKカリウスが犯したミスは言い訳不可能なもので、だってえ、エリア内から味方にスローしようとしたところ、ボールが近くにいたベンゼマの伸ばした足に当たり、それがゴールに入って先制点になったんですよ。もちろんスタンドのマドリーファンは大喜びしていましたが、このまま1-0で勝ったりしたら、あまりにふざけすぎていると、私など、ちょっと頭が痛くなっていたんですが…。

▽大丈夫、この時はリバプールも意地を見せ、2分後にCKからマネが押し込んで1-1の同点に。そこでジダン監督はゴールポストに当たるシュートなど、チャンスを作っていたイスコをベイルに代えることにしたんですが、まさか、あそこまで大当たりするとは一体、誰が予想できた?ええ、ピッチに入ってたった2分だった18分、マルセロのクロスをアクロバティックなchilena(チレナ/オーバーヘッドシュート)でゴールに叩き込み、世界中を驚かせているのですから、本当に才能のある選手というのは凄まじい。
▽うーん、ベイルは38分にもエリア外からシュートを放ち、今度はGKカリウスが手に当てながらゴールにしてしまうというラッキーもあって、止めとなる3点目も入れたんですが、こんな選手でも先発になれないんですから、マドリーが強いのは当たり前。サラー、フィルミノ、マネ以外、頼りになるアタッカーがいないリバプールは追加点が挙げられず、結局、3-1で快勝して、3年連続、ここ5年間で4度目、そしてtrigesimo(トリヘシモ/13回目のCL優勝のこと)を達成した彼らですが、ただねえ。その人材過多が同時にトラブルも呼ぶんですよ。

▽そう、今回はラモスがトロフィーを掲げて、ピッチでお祝いしている最中からの話で、まずは決勝MVPに選ばれたベイルが「スタメンじゃなくてガッカリした。それだけのことはしてきたと思っていたからね。ボクには毎週末プレーすることが必要で、代理人と話をしないといけない」とマイクの前で不満を表明。続いて、この試合では終盤のシュートチャンスを観客の乱入で潰されてノーゴールのクリスティアーノ・ロナウド。「CLはCR7チャンピオンズリーグと名前を変えた方がいいかも。Quien tiene mas Champions y mas goles?/キエン・ティエネ・マス・チャンピオンズ・イ・マス・ゴーレス(誰がボクより多くCL優勝して、ゴールを挙げている?)」と自画自賛していたものの、どこか当人もモヤモヤしていたんでしょうかね。

▽EL優勝のお祝い中もフランス代表に合流してからも一言も発しないグリーズマンじゃあるまいし、誰も残留することを疑っていなかったC・ロナウドまで、「ここ数日中に答えを出すよ。Fue muy bonito estar en el Madrid/フエ・ムイ・ボニート・エスタル・エン・エル・マドリッド(マドリーにいるのは素晴らしかった)」なんて、過去形でお別れの台詞みたいなのを言い出したって、え、もしやこの人たち、CL優勝が当たり前になりすぎて、純粋に喜べなくなっている?

▽いえ、マスコミの解釈によると、C・ロナウドがいきなりこんなことを言い出したのはメッシが年棒4000万ユーロ(約51億円)、ネイマールが3700万ユーロ(約47億円)という現状に加え、アトレティコまでグリーズマンに2400万ユーロ(約31億円)の契約延長をオファーしたという話を聞き、2100万ユーロ(約27億円)しかもらっていない自分の給料を早急に上げてほしいという思惑からだというんですけどね。さすがに時と場をわきまえない、このコメントにはロッカールームに戻った際にキャプン、ラモスが苦言を呈したため、当人もミックスゾーンに出て来た時には「言うべきことではなかった。No crei que lo que dije iba a tener tanta fuerza/ノー・クレイ・ケ・ロ・ケ・ディヘ・イバ・ア・テネール・タンタ・フエルサ(自分の言葉があんな強い反響を起こすとは思わなかった)」と殊勝気にしていましたが、今って情報はすぐ拡散するんですよ。

▽おかげでジダン監督も記者会見では何度もロナウドのことを尋ねられ、「Cristiano se tiene que quedar si o si/クリスティアーノ・セ・ティエネ・ケ・ケダール・シー・オ・シー(ロナウドは何が何でも残留してもらわないと)」と答える破目になっていましたが、ベイルに関しては「Es complicado pero cada uno mira lo suyo. Lo entiendo/エス・コンプリカードー・パラ・カー・ダ・ウノ・ミラ・ロ・スジョ。ロ・エンティエンドー(皆、自分のことを考えるから難しい。理解はできるよ)」とあっさりだった辺りがやっぱり、2人のステータスの違い?

▽それは翌日、午後7時頃から始まった祝勝行事でも明らかで、アトレティコ同様、大聖堂から始まり、プエルタ・デル・ソルにあるマドリッド州庁舎、マドリッド県庁舎、そしてシベレス広場、最後は連日大入りのサンティアゴ・ベルナベウで例年通り、「Hala Madrid y a por la decimocuarta/アラ・マドリッド・イ・ア・ポル・ラ・デシモクアルタ(マドリー万歳、14回目のCLを目指して)」とラモスの華々しい掛け声で終わったイベント(https://www.realmadrid.com/noticias/2018/05/el-bernabeu-disfruto-con-la-fiesta-de-los-campeones-de-europa)でもC・ロナウドがファンだけでなく、チームメートにも「Quedate!/ケダテ(残留して)」と合唱されていたのと比べ、特にベイルに対してのリアクションはなし。

▽その甲斐あってか、C・ロナウド自身も州庁舎のバルコニーから、「Gracias... y hasta el ano proximo en sol/グラシアス…イ・アスタ・エル・アーニョ・プロキシモ・エン・ソル(ありがとう、来年もソルで会おう)」と集まった1万人のファンに呼びかけていたりしたものですが…ネイマール加入の噂は一向に下火になりませんし、果たしてこの先、どうなるんでしょうかね。

▽え、それで私がマドリーの祝賀行事は通り道のソルで人込みに混じってちょっと覗くだけにして、あとはネット中継で見ればいいかと向かったバジェカスの方はどうだったんだって?いやあ、こちらも超満員で、何せ最終節1つ前の試合でラージョが勝てば3年ぶりの1部復帰が決定という大一番でしたからね。ここ2試合、足踏みしていたせいか、序盤はシュートを撃ってもなかなか決まらないのにイライラさせられましたが、39分にはとうとう、スローインからのボールをアレックス・モレノが決めて先制に成功。先週月曜には何の因果か、ウエスカに目の前で昇格決定をされていたルーゴも2回続けてお祝いの立会人になるのを避けたかったか、後半は反撃してきたんですが、何とかそのまま1-0での勝利が決まったところ…。

▽実は私、2011年に彼らが6度目の昇格を決めた試合も見ていたんですが、1部じゃないと警備員の数が少ないせいでしょうか。ゲーム終了直後はファンが次から次へとピッチになだれ込み、スピーカーで頼み込んで、ようやくチームがvuelta de honor/ブエルタ・デ・オノール(場内一周)できたかと思えば、またすぐにグラウンドが人の海に。おかげでミチェル監督(元ラージョの選手)も選手たちもどこにいるのかもわからないぐらいでしたが、このクラブのファンはチームが2部や2部Bに落ちても忠実ですからね。こういう日ぐらいは無礼講になっても仕方なかったかと。

▽その後、もう午前零時近かったんですが、スタジアム前に用意されたオープンデッキバスに乗って、選手たちはフエンテ・デ・アサンブレア(ラージョがお祝いをする定番の広場)まで、大勢のファンとbengala(ベンガラ/発煙筒)に囲まれてパレード。あちらでは夜が更けるまでお祝いが続いたようですが、実は2部は今週末にも試合があって、ジムナスティック戦の結果次第でラージョは1位で終わることができるとか。まあ、何よりのご褒美は来季は再びマドリー、アトレティコの兄貴分と肩を並べ、ヘタフェ、レガネスの弟分仲間とマドリッド第3のチームの座を競えることですけどね。1部20チーム中5チームがマドリッド勢ともなると、首都でダービーがない節はほとんどないぐらいのシーズンになるかと思いますが、さて。バジェカスはソルやアトーチャ駅からメトロ1本で行けるため、マドリッドでのサッカー観戦を考えているファンにはお勧めのスタジアムですよ。

▽そして月曜夜には私もスペイン代表の初練習を見学してきたんですが、グッドニュースはこの日、検査を受けたカルバハルのケガが太もも肉離れではあるものの、2、3週間で回復可能と判明したこと。ええ、彼は2016年のアトレティコとのCL決勝でも途中交代、その夏のユーロも出場できなかったという悔しい経験をしていますからね。今回はラモス、イスコ、ナチョ、アセンシオに先行して代表合宿に入り、W杯初戦に間に合うようにリハビリをすることになりました。そうそう、ラス・ロサスのグラウンドにはバジェホの姿もあったんですが、彼はウィリアムス、ジェライ、ウナイ・ニュネス(アスレティック)、オヤルサバル(レアル・ソシエダ)、カルロス・ソレール(バレンシア)、そして数日前にビジャレアルからアトレティコへの移籍が発表されたロドリらと共にCL決勝でプレーしたマドリー選手が合流するまでのヘルプとして呼ばれています。

▽ちなみにその日のセッションはロンド(輪の中に1人入ってボールを奪うゲーム)から始まって、最後は2分の1ピッチでのpartidillo(パルティージョ/ミニゲーム)と軽いもんだったんですが、雨が降ったり止んだりの天候だったせいでグラウンドの上に虹がかかるなんて珍しい光景も。バルサでのシーズンが終わった先週、最初はパリのユーロディズニーに家族で、それから楽天の三木谷浩史会長のプライベートジェットで日本に飛び、ヴィッセル神戸の入団プレゼンイベントと忙しい日々を送っていたイニエスタや、お隣さんがキエフでCL決勝を戦った土曜に7年連れ添った彼女のベアトリスさんと挙式したアトレティコのコケらがいいプレーを見せていましたが、悲しいことにもう、このW杯前のラス・ロサスでの合宿では一般公開セッションはないんですよ。

▽いえ、6月3日にラ・セラミカ(ビジャレアルのホーム)で行われるスイスとの親善試合前日にはスタジアムで公開練習があるんですけどね。それ以外はマスコミに15分だけ公開か、puerta cerrada/プエルタ・セラーダ(非公開)というのはせっかく、マドリッドを訪ねた機会にスペイン代表を応援に行こうと計画していたファンにはショックなんですが、こればっかりはねえ。とりあえず、練習の写真や映像は代表のウェブやマルカ、AS(スペインの大手スポーツ紙)のページに上がるはずですから、W杯スタートまでの3週間、私もできる限り、お伝えしていくつもりですが、気になる選手のいる方はその辺をマメにチェックしてみることをお勧めします。


【マドリッド通信員】
原ゆみこ 南米旅行に行きたくてスペイン語を始めたが、語学留学以来スペインにはまって渡西を繰り返す。遊学4回目ながらサッカーに目覚めたのは2002年のW杯からという新米ファン。ワイン、生ハム、チーズが大好きで近所のタパス・バルの常連。今はスペイン人親父とバルでレアル・マドリーを応援している。
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