【六川亨の日本サッカー見聞録】ブラジル戦の後半とベルギー戦で指揮官が日本を褒めた理由とは
2017.11.23 14:00 Thu
▽今週は先週に引き続き、日本代表の欧州遠征について気になったことを指摘したい。まずハリルホジッチ監督だ。これまでは、負けた試合や引き分けた試合はもちろんのこと、勝った試合であっても苦言を呈すことが多かった。
▽ところがリールで行われたブラジル戦は、「純粋な気持ち、改善点もあるし、満足できる部分もあった。後半は1-0で、2点目、3点目のチャンスもあった。前半は残念だが、後半は満足できる部分もある試合だった」と、彼にしては珍しく褒めていた。
▽後半のブラジルはマルセロやネイマール、ウィリアン、ジェズスといった主力を下げたため、ベストメンバーとは言い難い。それも当然で、3-0とリードしたら、W杯では次の試合に備えて体力の温存を図る。そうした“格落ち"のブラジルだからこそ、後半は日本も善戦したように見えたという報道にも、ベルギー戦の前日会見で改めて否定した。
▽指揮官いわく、ブラジル戦の後半は「杉本、浅野の決定機もあった。それはブラジルが力を落としたからだという人もいるようだが、私は日本の後半を評価している。ブラジルの試合を何ゲームも見たが、日本のようなチャンスはアルゼンチンも作れなかった。日本を過小評価しているようだが、私には満足できるものがあった」そうだ。
▽ここまで日本を褒めるのは、監督就任以来、初めてのことだ。そしてベルギー戦後も「ブラジルよりいい試合をした。ゲームをコントロールできたし、チャンスがありながら得点できないのは残念。いい結果を求めて戦ったので残念だった。このような結果でも、ロッカールームでは『君たちは大きなライオンを倒しそうになったのだよ』と話した」と選手を称えた。
▽そして、もう1つの理由もあるのではないかと考えてみた。それは、今回は選手のテストだったため、このメンバーなら「この程度が限界だろう」というものだ。今回の遠征では本田、岡崎、香川の3人はコンディションに問題があるとして招集が見送られた。これまで所属チームで出場機会を失っていながら3人を招集することに、メディアから批判の声があがっていた。
▽それなら「彼らを外したらどんなチームになるのか、どんなサッカーができるのか」を、ハリルホジッチ監督は証明したかったのではないだろうか。3人がいれば結果が変わったとまでは言えないものの、もう少し締まった試合になったような気がする。
▽例えば右FWの浅野は決定機を外しても笑っていたし、久保もほとんど見せ場を作れなかった。杉本も惜しいヘディングシュートがあったものの、前線で機能していたとは言い難い。もしもタメを作れる本田がいたら、あるいはガムシャラに飛び込んでいく岡崎がいたら、もう少し攻撃の形ができていたのではと思ってしまう。原口も守備では健闘したし、乾も得意のドリブル突破を披露したが、香川なら違う選択肢で攻撃の幅を広げられたのではないだろうか。
▽キャプテンの長谷部が万全のコンディションではないため、チームリーダーとしても本田の必要性を改めて感じた欧州遠征の2試合だった。
▽これは余談だが、元日本代表で現在はテレビ解説者を務める川勝氏は、日本の不甲斐ない戦いぶりにベルギー戦は途中で見るのを止めたという。「決定機を外しながら浅野は笑っているし、久保もミスをすると照れ笑いをしていた。杉本は試合中、髪の毛が気になるのか何度も触っていた」と憤慨する。
▽自身が読売クラブ時代、試合前のロッカーは殺気だっていたそうだ。白い歯を見せようものなら、「カリオカ(ラモス瑠偉)や哲二さん(柱谷)に殴られた。それだけ試合に集中していた」と振り返る。そんな川勝氏にとって、試合中にヘラヘラ笑っているのは許せないのだろう。
▽杉本はかつての教え子でもあり、「サッカーをやめてしまえ」とまで言って厳しく指導した。そんな教え子には「髪の毛が気になってプレーに集中できないなら、剃るかワックスで固めてプレーに集中しろ」と指摘する。せっかくブラジルやベルギーという列強と対戦できる機会なのに、国内で行うテストマッチと同じモチベーションで臨んでいることが許せなかったようだ。
▽それは、もしかしたらハリルホジッチ監督も同じなのではないだろうか。怒りを通り越して呆れている。「まだまだ日本の選手は子供だな」――それが、試合後に選手を褒めた一番の理由かもしれない。
【六川亨】1957年9月25日生まれ。当時、月刊だった「サッカーダイジェスト」の編集者としてこの世界に入り、隔週、週刊サッカーダイジェストの編集長や、「CALCIO2002」、「プレミアシップマガジン」、「サッカーズ」の編集長を歴任。現在はフリーランスとして、Jリーグや日本代表をはじめ、W杯やユーロ、コパ・アメリカなど精力的に取材活動を行っている。日本サッカー暗黒の時代からJリーグ誕生、日本代表のW杯初出場などを見続けた、博識ジャーナリストである。
▽ところがリールで行われたブラジル戦は、「純粋な気持ち、改善点もあるし、満足できる部分もあった。後半は1-0で、2点目、3点目のチャンスもあった。前半は残念だが、後半は満足できる部分もある試合だった」と、彼にしては珍しく褒めていた。
▽指揮官いわく、ブラジル戦の後半は「杉本、浅野の決定機もあった。それはブラジルが力を落としたからだという人もいるようだが、私は日本の後半を評価している。ブラジルの試合を何ゲームも見たが、日本のようなチャンスはアルゼンチンも作れなかった。日本を過小評価しているようだが、私には満足できるものがあった」そうだ。
▽ここまで日本を褒めるのは、監督就任以来、初めてのことだ。そしてベルギー戦後も「ブラジルよりいい試合をした。ゲームをコントロールできたし、チャンスがありながら得点できないのは残念。いい結果を求めて戦ったので残念だった。このような結果でも、ロッカールームでは『君たちは大きなライオンを倒しそうになったのだよ』と話した」と選手を称えた。
▽その真意はどこにあるのか。当初は、監督自身の自宅がある、いわばホームの試合で、ヒステリックな姿ではなく、寛大な姿勢を見せたかったのではないかと推測した。ブリュージュもリールからはクルマで1時間弱と、ほとんどホームと変わらない。アジアの弱小国をここまで善戦(と言えるかどうかは別にして)させたことを、アピールしたかったのかと邪推したものだ。
▽そして、もう1つの理由もあるのではないかと考えてみた。それは、今回は選手のテストだったため、このメンバーなら「この程度が限界だろう」というものだ。今回の遠征では本田、岡崎、香川の3人はコンディションに問題があるとして招集が見送られた。これまで所属チームで出場機会を失っていながら3人を招集することに、メディアから批判の声があがっていた。
▽それなら「彼らを外したらどんなチームになるのか、どんなサッカーができるのか」を、ハリルホジッチ監督は証明したかったのではないだろうか。3人がいれば結果が変わったとまでは言えないものの、もう少し締まった試合になったような気がする。
▽例えば右FWの浅野は決定機を外しても笑っていたし、久保もほとんど見せ場を作れなかった。杉本も惜しいヘディングシュートがあったものの、前線で機能していたとは言い難い。もしもタメを作れる本田がいたら、あるいはガムシャラに飛び込んでいく岡崎がいたら、もう少し攻撃の形ができていたのではと思ってしまう。原口も守備では健闘したし、乾も得意のドリブル突破を披露したが、香川なら違う選択肢で攻撃の幅を広げられたのではないだろうか。
▽キャプテンの長谷部が万全のコンディションではないため、チームリーダーとしても本田の必要性を改めて感じた欧州遠征の2試合だった。
▽これは余談だが、元日本代表で現在はテレビ解説者を務める川勝氏は、日本の不甲斐ない戦いぶりにベルギー戦は途中で見るのを止めたという。「決定機を外しながら浅野は笑っているし、久保もミスをすると照れ笑いをしていた。杉本は試合中、髪の毛が気になるのか何度も触っていた」と憤慨する。
▽自身が読売クラブ時代、試合前のロッカーは殺気だっていたそうだ。白い歯を見せようものなら、「カリオカ(ラモス瑠偉)や哲二さん(柱谷)に殴られた。それだけ試合に集中していた」と振り返る。そんな川勝氏にとって、試合中にヘラヘラ笑っているのは許せないのだろう。
▽杉本はかつての教え子でもあり、「サッカーをやめてしまえ」とまで言って厳しく指導した。そんな教え子には「髪の毛が気になってプレーに集中できないなら、剃るかワックスで固めてプレーに集中しろ」と指摘する。せっかくブラジルやベルギーという列強と対戦できる機会なのに、国内で行うテストマッチと同じモチベーションで臨んでいることが許せなかったようだ。
▽それは、もしかしたらハリルホジッチ監督も同じなのではないだろうか。怒りを通り越して呆れている。「まだまだ日本の選手は子供だな」――それが、試合後に選手を褒めた一番の理由かもしれない。
【六川亨】1957年9月25日生まれ。当時、月刊だった「サッカーダイジェスト」の編集者としてこの世界に入り、隔週、週刊サッカーダイジェストの編集長や、「CALCIO2002」、「プレミアシップマガジン」、「サッカーズ」の編集長を歴任。現在はフリーランスとして、Jリーグや日本代表をはじめ、W杯やユーロ、コパ・アメリカなど精力的に取材活動を行っている。日本サッカー暗黒の時代からJリーグ誕生、日本代表のW杯初出場などを見続けた、博識ジャーナリストである。
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